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【タワー・オブ・シーヴズ】

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「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは稲妻めいた速度で両手のスリケンを投げた。コンマ2秒の時間差で、二枚の死の星は敵ニンジャのもとへ到達する。ニンジャスレイヤーは既に床を蹴って接近の途上。スリケンを弾き返す敵に真打ちの一撃を繰り出すつもりである。だが彼は己を強いて急停止し、横に跳んだ。

「ハハハハハハ!」敵のニンジャは哄笑した。そのニンジャ法衣は超自然の風に揺らぎ、名状しがたい色彩を放った。二枚のスリケンは背後の壁にかかった「神秘体験」のショドーの額に突き刺さっていた。二枚とも身体をかすめすらしなかったのだ。まさか! ニンジャスレイヤーが投擲ミスなどと?

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転し、油断なく着地。カラテを構え直す。彼は瞬時にスリケン無効を見て取り、追撃を取りやめたのだ。あのまま攻撃に出れば、何らかの致命的反撃をまともに受けていたやもしれぬ。背後の巨大ガラス窓の向こう、スモッグ越しに巨大な月が「インガオホー」と唱えた。

「いかなるワザで楽しませてくれるかと思いきや、スリケンとは」敵ニンジャ、サウザンドマイルの勝ち誇った声が最上階ホールに響き渡る。「今のザマでよく理解できたろう。貴様のカラテが私を傷つける事はない。だが私の攻撃は……ヌウーン!」「グワーッ!?」ニンジャスレイヤーは頭を押さえ苦悶!

「ハッハハハハ! これが神の力だ。我が目は千里を見通す。現代社会における神とは、すなわち情報の速度だよ、ニンジャスレイヤー君。このまま狂死し、その脳髄を……」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは震えながら膝をつく。それでも諦めない。「ニンジャ……ニンジャ殺すべし」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 ニンジャスレイヤーはよろめいた。「なぜ……攻撃が……当たらない……」「私が神の力を代弁しているからだよニンジャスレイヤー君!」「何らかの……打開策が……」「イヤーッ!」「グワーッ!」不可視の衝撃波が再びニンジャスレイヤーを襲った。ニンジャスレイヤーは吹き飛ばされ、ガラスを破砕!

 ニンジャスレイヤーは真っ逆さまに落下する。かろうじて上を見た彼は、割れ窓の縁に立って見下ろすサウザンドマイルの侮蔑的眼差しをニューロンに焼き付ける。敵の声が降ってくる。「ハハハハハ! 楽園放逐だニンジャスレイヤー君! 生きていれば、また会おう! 尤も、二度目は今回の百倍は難しかろうよ!」

 落ちる……落ちる! ネオサイタマの夜を! 無限の光彩を淀ませる巨大な堕落の都に包まれ、落下する……この塔を……ウビナ区の低層建築物群の中、唯一つ屹立する摩天楼を!「スウーッ……ハアーッ!」ニンジャスレイヤーは落ちながら呼吸を深め、やがて手甲を打ち振った。そしてフックロープを投擲!

「イヤーッ!」ガキイン! ガリガリガリガリ……フックロープは金属コーティングされた特殊な壁面に爪跡を刻む。強靭なワイヤーが伸び、落下に抗う……ニンジャスレイヤーは目を見開いた。頭上の壁面の窓のひとつが不意に開き、超震動ダガーを握ったクローンヤクザが身を乗り出し、ワイヤーを切断した!

 一瞬落下をとどまったニンジャスレイヤーは再び落下を始めた。ナムサン! しかし彼は覚悟を決めた。今のブレーキめいた行動は貴重だ。これでおそらくウケミは可能だ!「イイイイヤアアーッ!」ニンジャスレイヤーは全身にカラテを漲らせる。中庭の地面が近づいた! KRAAAASH!


◆◆◆


「ハアーッ……ハアーッ……」闇の中、ニンジャスレイヤーは指先をピクリと動かした。そして腕を。それから全身を。「イヤーッ!」彼は跳ね起きた。小クレーターめいて砕かれた地面の亀裂の中央に、彼は倒れていた。偉大なるウケミのワザが、彼を落下衝撃による爆発四散から守ったのだ。

 彼は中庭の闇を見渡した。高垣に囲まれ、外界から斬り離された邪悪な占星術師の塔の庭を。カドマツやバンブー・ブッシュ、枯山水が築かれ、体長60センチ程度の庭師蟹ドロイドが奥ゆかしく行きかう。だがこの庭に居るのは無害な蟹だけではない。ニンジャスレイヤーはバンブーの陰に走り込んだ。

 塔は強固な防衛システムで守られている。この庭もしかりだ。上空から直接、塔の屋上部に侵入することは不可能である。偏執的な対空砲システムと漢字サーチライトの運用は崩せぬ。ニンジャスレイヤーはこの夜、高垣を乗り越えて敷地に潜入、塔内部をしめやかにステルス移動して最上階に到達した。

 サウザンドマイルは、ネオサイタマの神秘社会において確たる地位を短期間のうちに築き上げた占い師である。この「美しい啓示の塔」は彼の法人の自社ビルだ。彼の占いは驚くほどに正確であり、訪れるカネモチは後を絶たず、彼自身も占いの啓示をもとにした投機行為で経済を荒らし、巨万の富を得たとされる。

 だが、サウザンドマイルは実際ニンジャであり、占いの力には、不可思議かつおぞましいからくりがあった。彼は信者や債務者達を最上階付近の秘密の牢獄に幽閉し、その命を邪悪なる儀式の糧に用いることで、己の占いの力を得ていたのだ! ニンジャスレイヤーは既にそれら証拠を集め、侵入手段も精査していた。だが……!

(すべてがうまくいった……いや……うまく行き過ぎていたか?)ニンジャスレイヤーは省みた。まさにサウザンドマイルの居室に侵入せんとしたその時、警報が鳴り響き、アンブッシュは失敗した。サウザンドマイルのジツは彼のカラテを寄せ付けず……今再び、イクサは振り出しに戻されたのである。

 彼は手段を吟味する。「生きていればまた会おう」だと? 望むところだ。次は必ずカラテを叩き込む。しかしサウザンドマイルの増上慢には根拠がある。もはや塔が侵入者を受け入れる事はない。防衛システムの全てがアクティベートされたからには……。

 その時だ。闇を割り、一人の影が間合いに踏み込んだ。

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