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【ビースト・オブ・マッポーカリプス 前編】分割版 #3


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 炎ネオンの巨大な鳥が爆発し、煌めく火の粉が明滅しながら飛び散った。ネザークイーンは炎の中から飛び出し、着地した。無事である。彫金サイバネティクスの両腕を交差させ、敵を見据える。山羊角の怪物的なニンジャだ。

「ママ! そいつ、顔なしの影が急に育ったんだよ!」ブライカンが警告する。「アタシ、そういう急な天変地異とかに弱いじゃない? そんなワケで仕留めそこなっちまって。そ……それより、それより!」ブライカンは白いネオンの虎の顎にカタナを差し込み、押し留めながら叫んだ。「サマナのジツじゃんか! どうしてだよ!?」

「黙って対処しな……!」ネザークイーンは答えた。クロヤギのニンジャは、左肩にも別の頭のなりそこないを隆起させている。ネザークイーンがこの怪物と遭遇したのは初めてだったが、混沌とした外見は、他に様々な「タイプ」のクロヤギが存在する事を想像させた。

 それが何を意味するのか。彼女らの生業から遠く離れた、預かり知らぬ不条理な世界の片鱗が不気味に響いた。それはまさに、名状しがたい古代ニンジャ神話のアトモスフィアを、内なるニンジャソウルの本能が畏れているのだった。

 クロヤギはぎこちなく起き上がってカラテを構え直した。その黒い肢体に、青いネオンのドラゴンが虚空より生じ、絡みつく。「サマナ……!」ネザークイーンは呟いた。交差させた両腕に、爆発的なエネルギーが流れ込む! それを放つ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」クロヤギはネオン・ドラゴンを撃ち返す!

 ネザークイーンのジツは、全身を硬化させて敵の攻撃を防ぐムテキ・アティチュード。そのさい身体に受けた衝撃は全身を駆け巡り、変換されて、敵を破壊する強力なエネルギー・スリケンとなるのだ。たった今の爆発エネルギーは力の矢と化し、ネオン・ドラゴンと正面衝突した! KA-DOOOOM!

 やったかどうかを視認するを待たず、ネザークイーンは爆発の中へ自ら飛び込んでいった。そして拳を振りかぶった。クロヤギ・ニンジャの顔面に、怒りに満ちたサイバネアームの拳を叩きつけた!「イヤーッ!」「グワーッ!」もう一撃!「イヤーッ!」「グワーッ!」そして……蹴りだ!「イヤーッ!」

 ……ネザークイーンはこのオールドカブキチョに「獄麗」というキャバレーを構えている。表向きには、それは娯楽と背徳の殿堂。過酷なネオサイタマの日常に疲れた人々が、酩酊の夢に心身を癒す、後ろめたい聖地だ。そして獄麗には裏の顔があった。闇のヨージンボ集団としての戦闘的側面である。

 獄麗のものが、自らの秘密を敢えて触れて回る事はない。しかし彼らの助けを必要とする虐げられた市民たちは、どこからか噂を聞きつけ訪れる。仇討ち、保護、外道への「懲らしめ」。そこに「義」があれば、獄麗のニンジャ達は喜んで自らの手を血に染める。ブライカンやワカもその身内であった。

 そしてサマナは獄麗のニンジャの中でも相当な手練れであった。占星術を修めた両性具有の神秘的存在であり、穏やかな愛に満ちたサマナ。身体に刻んだネオン・タトゥーを触媒に、占星術の幻獣を呼び出し、使役する、異形の力の持ち主。そのサマナが襲われたのは、ネオサイタマがこのような事になるより少し前の事だ。

 オールドカブキチョを少し外れた、どうという事のない屋台路地で事件は起こった。街頭カメラに記録されていたのは、サマナが黒髪の男に不意に挑まれた事……サマナが自身の召喚のジツを使い切るほどに全力を傾けて戦わねばならぬ程に、男がタツジンであった事。そしてサマナが敗北した事だ。

 肝心の部分でカメラはイクサの余波に破壊され、記録データは途絶えていた。とにかくサマナは獄麗のオモテまでは戻ってくることができた。そして倒れ、動かなくなり、以来、目覚めることはない。生命維持装置に繋がれ、かりそめに命を延ばしながら、回復の可能性の有無、それすらもわからない状態だ。

「そうだ。そのサマナだ。名前……」ネザークイーンの蹴りを受け、だが倒れず、クロヤギ・ニンジャは不明瞭な声を発した。ラジオの混線じみていた。「覚えて01001いるぞ。当たりのジツだからな」ネザークイーンは愕然とした。「イヤーッ!」「グワーッ!」白く輝くネオン・キメラが横から襲った!

「グワーッ!」ネザークイーンはネオン帯電し、震え叫んだ。「ママッ!」ブライカンは慌て、力任せにネオン虎を引き裂いた。だがブラック・ネオンの象が続けざまに彼女の背後に出現し、実物そのものの前足質量を叩きつけた!「グワーッ!」クロヤギ・ニンジャはネザークイーンに近づく!

「01001ジツの力01001お前の00101」混線めいた声が掠れ、消えた。クロヤギ・ニンジャはネザークイーンに手を延ばし、顔を掴もうとした。ネザークイーンは光る目を見開いた。「イイイイヤアアーッ!」強引にネオン帯電を振り払い、拳を叩きつける!「グワーッ!」クロヤギ・ニンジャが後ずさる!

 ネザークイーンは間髪入れずラッシュをかけようとした。だがクロヤギは右手の中指と人差し指を合わせ立て、ネザークイーンを指さした。たちまち死角から不気味なネオン・ウミガメが出現し、ネザークイーンにのしかかった!「グワーッ!」クロヤギ・ニンジャは笑うように目を細め、襲いかかった!

「Wasshoi!」

 叫びが降ってきた。クロヤギ・ニンジャは突進とは逆方向、跳ね返されたように戻った。クロヤギ・ニンジャの腰には赤黒く燃える縄がいつの間にか喰らいついていた。叫びと共に着地した赤黒のニンジャが、放ったフックロープを力任せに引き戻したのだ!「イヤーッ!」「グワーッ!?」

 引き寄せたクロヤギ・ニンジャに、赤黒のニンジャはヤリめいた鋭いサイドキックを叩きつけた! クロヤギ・ニンジャは斜めに射出され、「そでん」の看板に背中から衝突し、火花を散らした。既に赤黒のニンジャはそれを追って跳躍していた。ネオン虎、ネオン朱雀、ネオン・ドラゴンが次々に翔んだ。

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