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S3第10話【タイラント・オブ・マッポーカリプス:後編】分割版 #2

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「大丈夫かな?」うつ伏せ状態でスコープゴーグルを構えたグラニテは、インヴェインとアイサツするモモジを眺め、不安な気持ちになった。盗掘の合間にも、モモジは「ヒャッポ・ニンジャ」への執着をグラニテに語っていた。すなわち「インヴェイン」と名乗るニンジャは、その実、いにしえのヒャッポ・ニンジャなのだという。

 ヒャッポ・ニンジャはとにかく美しい剣士であり、モモジに無いもの全てが揃った、理想的な男なのだという。そしてそれが許せないのだと。グラニテにはその帰結が測りかねた。超然とした態度のモモジだが、ヒャッポの事を語るときだけはその目は爛々と輝き、怒りと悲哀と欲情がないまぜになって、恐ろしかった。

 出遭って以来の時間はまだそう長くはなかったが、グラニテはこの力あるニンジャに興味を持つようになっていた。彼女が預かり知らぬ情動によって、彼が破滅に至ってしまうならば、とても悲しい。だが、実際グラニテには手の打ちようは無いのだ。これはモモジの当初からの目的であるし……対峙する二人のニンジャは、明らかにどちらも、グラニテとは次元の違う存在なのである。

「我が名はインヴェイン」インヴェインは刃を水平に構え、左手を添えた。「タイクーンの偉大なる御カラテにて身の程を知り、以て、アケチ・シテンノの末席に立ちし者也」「なァにがインヴェインか。なァにがアケチか。なァにが、シテンノか!」モモジが叫んだ。そして全身は二倍近く膨れ上がった!

「ヒャッポ!」SPLAAASH! 膨張したモモジの耳や目、呼吸孔等、穴という穴から黄色い糜爛ガスが噴き出した。一瞬にしてモモジの身体は覆い隠される!「イヤーッ!」インヴェインはこの毒煙を嫌い、咄嗟に間合いをとった。「イヤーッ!」煙の中からモモジが飛び出す!

「何……」「イィーヤヤヤヤヤヤ!」凄まじい速度のカラテを繰り出すのは、ソクシンブツめいて痩せた老人である。モモジだ。インヴェインはこの速度に対応すべく、防戦一方となった。イアイに出られない。「ヒャッポ……貴様はヒャッポよ! ニオイで! 味でわかる!」モモジの背後、煙が……凝集する!

「これは!」「イイイヤアーッ!」濃度を増し、液状化、ゲル化した黄色い毒液は、渦を巻いてモモジの頭上を越え、触手となって乱れ突きを見舞う!「ヒャッポォ!」「イヤーッ!」インヴェインはカタナを逆手に構え、切り裂く! なんたるイアイの冴えか! 澄んだ鋼の音を残し、気体・液体すらも斬る!

 切り裂かれた毒は気化し、帯となってモモジの体内に吸い込まれてゆく。毒を吸収するとモモジの身体はみるみるうちに肥満し、チョップの重みが増した!「イヤーッ!」「グワーッ!」インヴェインの身体を守る鎖が弾け飛んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」セイケン・ツキが命中! よろめく!

「イヤーッ!」「グワーッ!」モモジの左手がインヴェインのフルメンポを鷲掴みにした!「……イヤーッ!」「グワーッ!」左腕に異様な力がこもり、膨れ上がった。フルメンポは粉々に砕け散り……幽玄なる長髪と、白磁めいた美形がこの世にあらわれた。グラニテはスコープ越しに思わず顔を赤らめた。

「グ……ヌ……!」「ヒャッポ……! まごうことなき、ヒャッポ」モモジは泣いていた。男泣きであった。「悲願成就の日、来たれり。これを以て、ワシはボンノより解き放たれ、殻をつるりと剥き果てた茹で玉子が如く晴れやかに生きてゆく事ができる。絶頂歓喜の極み。……そう、思うか?」憤怒!

「イヤーッ!」「グワーッ!」モモジはインヴェインを……否、ヒャッポを持ち上げ、叩きつけた。「このような体たらくのオヌシは、ワシを熱き刃でズタズタに切り裂いたあのヒャッポとは認められん! ア……アケチと何があったかは知らぬが……この程度ではあらじ! イヤーッ!」「グワーッ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」持ち上げては、叩きつける! ナムサン……! グラニテは思わず悲鳴を上げる。「おじさん、そいつホントに死んじゃうよ!? かっこいいのに……でも、いいのか」彼女は混乱していた。「どうしよう? 嗚呼……ウーン……」

 その時である!「イヤーッ!」凛としたカラテシャウトが、乱戦の毒混じりの粉塵の中から響いた。斬撃がグラニテの頭上を越え、背後の岩山を斜めに裂いて、心胆寒からしめた。「……イヤーッ!」さらにシャウト。「……イイイイイイヤアアアーッ!」「アバーッ!?」

「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバババーッ!」毒煙が賽の目状に切り裂かれ、頭を抱えて伏せるグラニテの背後で、岩山も細切れに裂けた。グラニテは目を上げた。そして……「お……おじさん……!」賽の目状の肉片が散らばるのを、グラニテは見た。

「醜い」先程とは異なる呟きを、彼女は聞いた。長い髪をなびかせ、ヒャッポ・ニンジャは刃の血を一振りで散らした。「なんと生き汚い男よ。モモジ・ニンジャ=サン」彼は顔をしかめ、頭を押さえた。「だが……私は……これは」その目が不意に、グラニテを捉えた。「……!」

「……」ヒャッポのカタナに手がかかる。グラニテのニューロンがたちまちソーマト・リコール現象を引き起こした。理由は判らぬが、ヒャッポはグラニテをこれからイアイで殺す。理由は判らぬが、リアルニンジャとはそういうものだ。理解できる。悲鳴をあげるしかない。悲鳴すら、上げられるか……「イヤーッ!」ヒャッポのイアイは、僅かに逸れた!

「ムグ……ブヒ……ブハハハハ……!」笑う賽の目状の肉片が、ヒャッポの足元に絡みついていた。絡みつきながら、その一部があざ笑う老爺の顔を形成した。「漸く己を思い出したか、ヒャッポよ! そしてその冷たく美しき刃こそ……ヒャッポ! だが……あの小動物はならぬ! ワシの弟子ゆえにな!」

「弟子!?」グラニテは抗議の気持ちと安堵と恐怖で金縛り状態となった。イクサが始まろうとしている。今度こそ、モモジとヒャッポの。そして……南の方角、凄まじく進軍するネザーの軍の頭上から、光の帯が降り注いだ。それでもジゴクの勢力は勢いを止めなかった。今再び、蹂躙が始まるのだ……!


◆◆◆


「カカレ!」クワドリガは大槍を振り上げた。チャリオットをドリフトさせ、オルトロス級突撃車両の群れに突っ込ませた。そして斧を振り下ろし、装甲板を叩き割り、ヤリを斜めに突き入れて跳ね上げた。鉄の塊がいとも容易く宙を舞い、ヌーティクスフレーム歩兵中隊の頭上に落下する!「グワーッ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」右へ、左へ、大槍を薙ぎ払うたび、歩兵が抉れた土と共に吹き飛ばされ、跳ね散らされる。オルトロス級突撃車両は無限軌道の足音をキュラキュラと鳴らして、この完全戦士の前に立ちふさがる。クワドリガの目が光った。DOOOM! DOOOM! DOOOM! DOOOM! 主砲砲撃! 砲撃の嵐!

「ヌウオオオーッ!」着弾地点の黒煙を割って飛び出したのは、ナムサン! ネザーメアに騎乗したクワドリガ! その背後では輝かしきナガシノのチャリオットが砕け、トドメとばかりオルトロス級突撃車両から浴びせられる火炎放射によって燃え捻じくれてゆく! ナムアミダブツ!

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