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プレシーズン4【ライオット・オブ・シンティレイション】分割版 #6

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「進捗の限界が訪れた」サペウチCEOは温厚な笑顔のこめかみに青い血管を浮かび上がらせ、ドゲザする本部長の頭の前を左右に行ったり来たりした。「もはや待ったなし……そういう話をしている」「ですが今、まさにパースウェイダー=サンが……あ、いや、私が雇ったエージェントが、結果を出し……!」

「結果とは、これだよ」サペウチCEOはUNIXモニタをゴルフクラブで指し示した。タブチャ・スクランブル交差点。「世界を胸に」。堂々と光り輝くような、自信に満ち溢れたサペウチCEOの顔の横に、「ファック」そして桃。当初の黒い落書きは、さらなる不審者の不完全ペイントと混じって悲惨な様相だ。「フンッ!」ドゲザ本部長の頭頂部をスイングがかすめた。「もはや企業闘争だ」

 右肩下がりの株価チャートがリアルタイム監視カメラ映像に重なった。「対立企業やヘッジファンドはここぞとばかり、落書き問題を口実に我が社の株にショートをしかけている。何故、交差点高所作業の許可が降りない? それはね、そういう事だよ。ハゲタカどもは我が社を羽交い締めにし、カネをむしり取る算段だ……」

「ア、ア……!」ドゲザ本部長は震えた。サペウチ・モリドーコムは近日中に新株発行が控えていた。そのタイミングでこの暴落。期待していたキャッシュの確保ができなくなれば、カイシャが……沈む……! ライバル企業の高笑いが聞こえてくるようだった。

 その時、端末に通信あり。『モシモシ。本部長殿』「パ、パースウェイダー=サン!?」バチバチ。モニタに割り込むように別のライブ中継窓が表示された。そこには偏光クロームコートのニンジャ装束を着た油断ならぬニンジャがカメラ目線で立っていた。中央には裸に剥かれたニボシじみたチョンマゲ青年が縛られ、正座させられている。『下手人だ』

「ア、アイエエエ」『生意気にも、このガキはニンジャでな……ククク……愉しませてもらったぞ。プロセスをな』パースウェイダーはカメラに石の延べ棒を見せつけ、ゆっくり舐めた後、青年の腿の上に乗せた。「アイエエエエー!」イシダキ拷問だ!『ンンーいい声だ! カラテが……引き締まる……!』

『許してくださァい!』『動機を言え。言うんだよ。まずは名前』イシダキに肘を乗せ、体重をかけた。『グワーッ! ガ、ガゼルジャンプです!』『そうだガゼルジャンプ君。キミはニンジャになり、調子に乗って、高所で狼藉を働いたと。……そういう事かね?』『アイエエエ! そうです!』『だ、そうだ』

「……」ドゲザ本部長は目を上げてサペウチCEOを見た。紅潮した彼の顔は無表情であり、次の反応は読めなかった。『お、俺はァ、マジ無敵だからァ、なんでもやってやンよッて……』『それで落書きかね。言うをはばかる……言葉など』『交差点で、偉そうでムカつく社長っぽかったからァ……』

『キミ一人でここまで効果的にサペウチ・モリドーコムに打撃を与えられる悪行を思いつくとは思えないなあ?』パースウェイダーは笑顔になった。そして体重をかけた。『グワーッ!』『落書きの提案をしてくれた優しい大人がいたんじゃないのかな?』『グワーッ!』『どんな社章をつけていたかなァ?』

『やめ……やめーッ! アイエエエエ!』『ASAP! ASAPだよガゼルジャンプ君!』『グワーッ! アイエエエエ!』ブツン。ノイズが走り、「しばらくお待ちください」の静止画になった。「なんだこれは!」サペウチCEOは呻いた。本部長は顔をあげた。「こ、殺さぬよう言ってあります。今後尋問し、解決を」

「……フーッ……」CEOは椅子に尻餅じみて座り、ハンケチで頬を伝う汗を拭いた。「い……いかがでしょうか」本部長が恐る恐る訊いた。CEOは虚空を見据えたまま言った。「好きにしなさい。どのみち、犯人を捕まえるレヴェルの話ではなくなっているのだ。問題は私の方で解決しました」「え?」 11

 彼は手元のキーを操作した。別の箇所ライブ映像が交差点の映像に並んだ。ガゴンプシュー。ビル屋上の鬼瓦が展開し、何らかの砲台が迫り出す。「ネオサイタマ郊外、バクラ区。短距離弾道砲をリースしました」「え……?」「交差点で我が社をコケにする他企業には痛い目を見てもらいます」「まさか」

「発射シーケンスに入ります。故意にASAPの改修許可を与えないならば……我が社にも、それなりの"姿勢"がある。そういう話をしています」「アイエエエ……」ドゲザ本部長は失禁し、歯をカチカチと鳴らした。そしてその時……交差点の定点ライブ映像の映す光景にも、異変が生じたのであった。


◆◆◆


「全くクソみたいにくだらねえ仕事だよ」「そう言うな。別の支社じゃ森で悪霊と戦わされた奴らだって居る」「悪霊? ドープだな」KATANA隊員はタブチャ交差点のビル屋上で座り込み、装甲の関節部にZBRを注射しながら語り合っていた。「想像もつかねえ。イッてるよ」「治安部隊はカチグミ。平穏万歳」

「だけどよ……警備がこんな厳重化して、俺らまで駆り出されたのは、実際KATANA第2治安部隊のブロンズブライト=サンが殺されたからだろ?」キュイイ。彼らの後ろで<鉄蜘蛛>が走査光を投げた。「まあな。犯人は現場に戻るってヤツ……」「だから平穏な現場なんて無いんだよ」

「クソ野郎は戻ってくるかな?」「知らねえよ。しばらく警備しないと上司の上司に報告出来ねえんだろ」「治安部隊を殺ッたニンジャの前に、看板に落書きする奴が出たッて話は?」「さあな、駄法螺のヨタモノだろ」その時である。上空にマグロツェッペリンが接近。雷神サーチライトが彼らを照らした。

『警告。貴殿らはカタナ社の戦闘部隊と見受けます。この地域は中立重点地帯であり、通常の治安装備を超えた武装は協定違反。なお、我々は平和的な口頭注意をしにあらわれたのであるが、貴社の態度如何ではやむなく自衛的攻撃を行わねばならない可能性も含んでおります』「オムラだと?」「平気か?」

「馬鹿野郎、ここで武者鎧のバカどもにナメられてどうするんだよ」「そりゃそうだな」KATANA部隊は立ち上がり、ライフルを構えた。ガショキュイイーン。鋼鉄の蜘蛛、鉄蜘蛛が音を立てて立ち上がり、マグロツェッペリンを威嚇的にロックオンした。「ほらな。蜘蛛クンもそう言ってる」「よっしゃ」

 一人が強制IRC通信機に向かって叫んだ。『我々はァ、この場所で社員に危害を加えたサイコパス殺人鬼に対処すべく、然るべき武装で臨んでるンスよねェ! 協定の事とかは、エット、上の人間にしかわからないんで、現場の我々にはわからないんでェ!』『年収矮小な!』マグロツェッペリンの眼が光った。

 たちまちジップラインが下に吐き出され、それを伝って、ツェッペリンに格納されていたパワード武者鎧のアシガル社員が降下してきた。さらに、マグロの頭部が展開して中の鬼瓦がせり出した! しかし銃撃は始まらない! 手を出したほうが負けだ。両者、睨み合いである! そして……その時!「イヤーッ!」

 交差点に面したビルの側面、トライアングル・リープを繰り返し、色付きの風が登ってきたのだ!「社章コード無し」「何事!?」その場の武装サラリマン達は反射的に銃火器をそちらに向け、網膜HUD表示の乏しい情報を訝しんだ。だがその動き! まちがいなく、ニンジャである!「イヤーッ!」

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