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【2016アーカイブ】あなたがTwitter上で作品を連載するうえで重要と思われること(02):虚無の暗黒がやってきたら


この記事は「ネオサイタマ電脳IRC空間」からサルベージされた2016年2月の記事です。Twitterを取り巻くUNIXシーライフと電子の海は2016年当初と比べて大きく変わっているため、具体的ノウハウのいくつかは現在の状況には当てはまりません。我々自身もすでに考え方を変えている部分もあるのですが、戦略を練るプロセスのテストケースとしては有効だと思うので、そのままアーカイブとして残しています。


ニンジャスレイヤーのTwitterアカウント開設2000日記念で執筆した前回のエントリーが好評だったので、この記事の中で具体性にとぼしいフワっとしていた部分を、何か実例を交えた補足を書いたほうがよいかなと思い、今回の(02)を執筆してみました。ニンジャヘッズの皆さんにとっては、過去のインタビューなどで語られた部分が多いので目新しい情報は少ないかもしれませんが、担当者の頭から過去の記憶が欠落する前に文章でまとめておこうと思います。


虚無の暗黒がやってくる前に

事前に知っておいたほうがいいことがいくつもあります。まず、作品の良し悪しとは全く無関係に、多くの場合、虚無の暗黒に呑まれてしまうということです。鋼の意思を持っていると思われがちなニンジャスレイヤー翻訳チームも、過去にTwitter以外の方法でニンジャスレイヤーを広めようとして、虚無の暗黒に呑まれて二度滅び、二度リスポンしています。それぞれ17〜18年くらい前と、10年くらい前だったと思います。過去の失敗の主な理由は、チームの経験不足もありますが、今思うと一番大きな理由は具体的な数値目標を共有していなかった事です。なので今回(2010年)は反省を生かし、とりあえず2年で1万フォロワーくらいを達成し、物理出版オファーを得るというわかりやすい目標をチーム内で立てました。

実際どうだったか。虚無の暗黒に呑まれていたら、Twitter連載も1年未満で滅んでいでしょうが、幸運にも大勢のニンジャヘッズからRTスシをもらい、滅びませんでした。幸運にも、という言葉を使ったのは、翻訳チームが本当にそう考えているからです。もし幸運が必要ないならば、10〜15年以上前に、すでにニンジャスレイヤーの日本語版物理書籍は刊行されていたはずです。今回は幸運と明確な目標があったから、物理書籍までたどり着けたのだと思います。では、ニンジャスレイヤー翻訳チームが明確な目標をどうやって決めたかをかいつまんで解説します。


本当に暗黒で何も見えないので

翻訳チームがTwitter連載を本格的に始めるうえで目標設置に使ったのは、S.M.A.R.T.フレームワークというものです。これはなんか複数人でプロジェクトを走らせる時に、うっかり見落としがちな要素を見つけてくれる思考ツールです。翻訳チームに限らず、Twitterで作品連載をやろうと考えている人は、たいてい夢見がちだったりムラっ気だったり熱しやすく冷めやすかったりで客観的な視点を失いがちな人が多いと思うので、こういう合理的なツールも知っておくと強いと思います。英語なので難しげですが、内容は単純で、下の5項目の頭文字をとったやつです。それぞれの中に、さらに細かいチェック項目があったりします。ニンジャスレイヤーの場合を実例として書いてみます(SMARTは色々ヴァリアントがあるので細かいとこや厳密性は割愛)。


Specific(そのプロジェクトは具体的か?)
・What(何をやるのか?):Twitter上でニンジャスレイヤーのリアルタイム翻訳連載をやる。
・Why(なぜそれをやるのか?):この作品を大勢の人に知ってもらい、さしあたって物理出版を目指すため。
・Who(誰がやるのか?):翻訳チームがやる(注:実際には親愛なるニンジャヘッズの皆さんのRTスシとかウキヨエとかログまとめにも大いに助けられました)。
・Where(どこでやるのか?):Twitter上でやる。
・Which(制限とか必要な設備とかはあるのか?):Twitterクライアントは色々試していって最高のものを選ぶ。他にも140字制限とかログ集積の問題とかがあるので後で考える。(注:翻訳チームはここで多くを後回しにしたため、色々難儀した)
Measurable(数値で可視化可能か?)
・具体的な目標数は?:1万人のフォロワー。
・どうやって色々計測する?:Twilogの分析ツールを使えば、1日あたりのツイート数とか、フォロワー増加速度とか、いろいろ計測できる。(注:Twilogは絶対に初日から登録したほうがいい)
Achivable(達成可能なのか?)
・そのゴールは達成可能か?:確か当時(2010年7月頃)ダルビッシュ有の公式Twitterアカウントが開設数ヶ月で数十万フォロワーとかニュースになってたので、ニンジャスレイヤーなら強いし2年で1万くらいいけるのではないかと考えた。
・実際に求められる作業ペースは達成可能か?:チームだしリアルタイム翻訳連載なので何とかなる。(注:あなたが実際に作品を連載する場合は、求められる執筆量やスピード、および蓄積量などは十分か、などのチェック項目も入るだろう。例えば2年間毎日体力の限界まで徹夜しないとダメなら、そのプランは持続性がないため達成可能ではないと考えられる)
Realistic(タイミングとか場は現実的か?)
・やる価値はあるのか?:ある。
・今はタイミングとか社会環境的にどうか?:たぶん今Twitterでやるのが最高のチョイス。(注:あなたが実際に作品を連載する場合は、あなたのプライベート環境とか学業とか仕事とかとの兼ね合いについても、ここで考える必要があるだろう)
Time-bound(期限とかは決めたか?)
・いつまでに達成するのか?:2年で1万フォロワーを目指す。
・今から6ヶ月後の状態目標は?:2年で1万フォロワーなので、6ヶ月ならフォロワー2500くらい。
・今から3ヶ月後の状態目標は?:その半分で1250くらい。
・1日あたりの目標は?:たぶん増えれば増えるほどフォロー可能性と速度が増すので曲線にしないといけないが、誰も計算できなかったので、平均だと10000割る370で、1日あたり13人くらい。


こういう感じです。ちなみに、いきなりこれを設定したわけでは無く、とりあえず2週間くらいTwitter連載を試運転してみて、これは可能性があるんじゃないかと感触を掴んでからです。プランを立てる事自体は、特に難しくはないです。とりあえず一番大事なのは最後の期限と目標ですし、そもそもTwitter連載をやろうと決めた時点で、他のチェック項目は埋まっているはずです。チームでこれらの目標を共有して、現状どうなのかとかを振り返りながら、虚無の暗黒に対抗したわけです。


数字はどう役に立つのか

この辺の具体的数字を出さないと、「1日3人増えてめちゃくちゃ喜んだが、喜びすぎてその後1週間くらい色々怠った」とか「昨日は10人増えたがこれがいい結果なのかどうかわからない」という状況に陥ってしまいかねません。数字はこっちの気持ちとかを考えずに無慈悲に現状を教えてくれるので、設定したほうがいいと思います。もちろん、数字は融通が利かないものですし、特に平均の数字なんかは「いけてる感じがあるから今は敢えて気にしない」のように状況に応じて無視しました(注:本当は予想直線ではなく予想曲線を描かなくてはいけないが、それを算出できる強力なハッカーは翻訳チーム内にいなかった)。

上のようなモデルを使って具体的なデッドラインとかを引く方式が上手くいったのは、翻訳チームがチーム体制を組んでいるからかもしれません。実際上のモデルをチラっと見て「なんかこんなビジネスめいたプロジェクトとか組んだら俺の創作性が死ぬのでは」みたいに心配する人もいるでしょうし、実際そういう人もいるかもしれませんので、心配な場合は、同じ作品が好きな人とタッグを組むとかチームを結成するとかしてみてはどうでしょう。そうすれば、なんかそういうあなたの創作性に悪影響を及ぼしそうな部分を、そういうのが好きなメンバーに任せることができます。


それでも虚無の暗黒に呑まれたら

「この作品は最高に面白いはずなのに、どれだけ連載してプロモーションしても期待していたほどの反応を得られない」という場合、いくつか可能性が考えられるわけですが、翻訳チームが二度挫折して数年後にリスポンしてきた経験をもとにいうならば、「発表している媒体やメディアがその作品に向いていない可能性」「時代がその作品に追いついていない可能性」があります。2012年はTwitterがまさに日本で爆発的に広まり出した直後の時期で、ニンジャスレイヤーのように作品を連載することがそもそも物珍しかったため、より広い層から注目を得られたという幸運も重なったと思います。逆に言うと、この辺がかみ合わないと、どれだけ作品の出来が良くても反応を得られない上に、自分たちの力ではどうしようもない場合があるということです。どのくらいで時代が追いつくのか、とか、どのくらいで時流が巡ってくるのか、とかは、わかりませんが、特に尖った作品の場合は、10年〜15年くらいしてようやく大勢の評価を得られる可能性がありますし、もっとかかるのかもしれません。

ともかく、虚無の暗黒に抗いながらそれだけ長期間連載するのは相当危険なことなので、さしあたり1年とか2年くらいの最終目標を設定して、そこから逆算して、半年とか1年半後くらいにどこまで到達していればいいのかというロードマップを引いてやるといいのではないでしょうか。数字的に見ても直感的に見ても、達成が無理だな、と思ったら、次のチャンスのために撤退するという選択肢を取ればいいと思います。数字のデータがあれば客観的に、そのプロジェクトが今どういう状態なのかというのが解りますし、暗黒に呑まれてしまった場合でも、何が原因なのか見つけやすく、意識の切り分けができます。また逆に言うと、あなたが直感的に「なんかこのままでは無理なのでは」と不安になった時でも、数字が客観的に「大丈夫うまくいっている」と勇気付けてくれることもあります。そのまま続けていればあと数ヶ月後に何かを達成できたのに、虚無の暗黒が夜とかにフワっとやってきて「無理なのでは」と不安になったせいで諦めるのが、一番無益なことだと思いますので、なんとか頑張ってみて下さい。


とはいえ

とはいえ、翻訳チームがブログもない時代に最初にhtmlでニンジャスレイヤー紹介サイトを作った時は、ロードマップも目標も知ったことではありませんでした。ただ何の前準備もなく、この作品は絶対面白いから今すぐやるぞ、絶対人気が出るぞ、と考えてコンテンツを作っていきました。ちなみに当時はインターネットがようやく一般に普及し始めた頃で、スマホどころかケータイ用ウェブサイトもない時代で、簡単に記事内容を入れれば綺麗なページができるようなblogもなく、エディタでhtmlを打ってFTPでアップする時代でした。しかも問題は、何の知名度もキャリアもない人間が作ったコンテンツを大勢の人の目に触れさせる方法が、ほぼ皆無だった頃です。

それでも当時は、インターネットは夢のような可能性にあふれていましたし、ホチキス綴じのコピー本を配布したりするよりも遥かに多い、何十何百倍もの人に読んでもらえる可能性があったし、我々はそもそも夢見がちでした。当時のインターネットの弱さというか残念ポイントは、分母の少なさと、情報の拡散スピードの遅さでした。今ではTwitterでpostしたセンテンスが、一瞬で何百、何千、何万人の目に触れるわけですから、ものすごいスピードです。インターネットと偉大なるFTPを手にした1990年代終盤の我々は、たぶん映画とかの見過ぎで、このくらいのスピードを夢見ていたわけですが、実際回るアクセスカウンターは1日に5とかでした。その時の反省から、次はSNSを使おうとなり(我々は新し物好きです)、数年後に色々試してまた虚無の暗黒に呑まれ、その後また数年の時を経て、最終的にTwitterに行き着いたわけです。

10年先のことはわからない

電子の海は、現実の海のように変化が激しく、数年後のことを予測できません。実際の海と同じように、突然サンマの漁獲高が謎の理由により減ったり、なんか突然暖かくなったり冷たくなったりして……そういうことの結果としてカニの収穫量に思いがけない影響が出たりするわけです。同じように、TwitterというSNSが今後どうなるかは、誰にもわかりません。最近の世界的なTwitterユーザ増加ペースとかアクティブ割合はかなり落ちているといいます。10年後くらいには、より小説の連載と実況に適したSNSや仕組みが出現している可能性もあります。我々はよほどTwitterよりも強力なSNSなりツールなりができるまで、ずっとTwitterを続けるでしょう。そもそも小説というのは、テクノロジーの発展とともに進化してきたもので、新聞ができたら新聞小説、ケータイができたらケータイ小説、TwitterができたらTwitter小説、みたいな感じで、今後も新しいテクノロジーや媒体が発生するたびに、色々できてくるはずです。我々も新し物好きなので、その都度色々やるでしょう。


まとめ

要するに、もしあなたの最高に面白い作品がTwitter上で不幸にして虚無の暗黒に呑まれたとしても、それはタイミングと場の問題である可能性があること、つまり自分ではなく現在の電脳社会がアホたれであるせいだ(または電脳サイバネ技術の遅れのせいだ)と考え、必要以上に考え込んだり精神的なダメージを受けないほうがいいと思います。そして、自分の伝えようとしている事は最高に面白いんだ、だから絶対に売れるはずなんだ、その価値があるんだという自信さえ暗黒に呑まれなければ、10年後とか20年後になんか最高のタイミングが巡ってくるかもしれませんので、またリスポンする時のためにログと体力を温存しておくといいと思います(現実世界はゲームではないので、肉体のリスポンは困難だが、電子コンテンツならばリスポンできる)。具体性や数字、そして期限目標は、この辺を客観的に教えてくれる強力な武器です。また、電子の海は予測不可能ですが、暗黒のみによって満たされているわけでもないです。例えば読者の皆さんのRTスシとかウキヨエとか有志まとめなど、思いがけない善意に遭遇し、助けられることもあります。そういうのを獲得すると、ゲージが溜まり、残機数が増えたりボムなどを投げられるようになるのではないでしょうか。翻訳チームはそのようにして2000日を乗り切ってきました。

なお、フォロワーが893人を超えて虚無の暗黒をやり過ごした先には、他にも5〜10種類くらいの致命的な銀河の暗黒が存在しますので、それに対抗するための体力も温存しておいたほうがいいです。完全に虚無の暗黒に呑まれないよう、頑張ってください。この記事に書いたことが、Twitter連載だけでなくそれ以外の新しい何かでも応用できるような知識であれば幸いです。そして、この記事からニンジャスレイヤーの新しい読者が一人でも増えれば嬉しいです。



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