【ナクソス・アンダー・ファイア】
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KA-BOOOOM! KA-BOOOOOM! 爆発音が爆発音を上塗りし、凄まじい震動と衝撃波が四方八方から襲い来る。黒々とした煙が噴き上がり、上空でドクロめいた形状にわだかまる中、更なる爆弾が投下され続けている。ガキン……ガキン……ガキン……ガキン……。爆弾の列を生み出しているのは巨大なマグロツェッペリン。超弩級の全長は、恐怖と共に見上げる者たちから距離感を奪う……。
「助けアバーッ!」
逃げ遅れ、屋内に走り込もうとした市民が爆風に跳ね飛ばされ、無惨なありさまで宙を舞った。恐怖と緊張の極限に表情を凍り付かせた子供たちがその惨劇を目で追うと、母親は悲痛に顔をしかめ、目を逸らさせる。ナムアミダブツ……なんたる白昼の惨劇か。だがこうした爆撃行為は昨今のエーゲ海においてはチャメシ・インシデントである。電子貴族ボーファー・ウルベイン卿が、エーゲ海沿岸諸地域の完全統一という時代錯誤な野望に向けて動き出したのだ。
当初、ウルベイン卿の行動は冷笑と共に受け止められた。彼の目論見は欧州地域の暗黒メガコーポ勢力によって数時間のうちに叩き潰されるものと見られていた。彼は太古のリアルニンジャでもない、単なる小地域の領主に過ぎなかったからだ。しかし数時間、数日……ついには一週間が経過し、今、そのような楽観的な見通しを持っている識者はいない。ウルベイン卿は、謎めいた闇の武器商人、ドクタードーモの後ろ盾を得ていたのである!
ナクソス島はエーゲ海キクラデス諸島のひとつであり、オーガニック・ジャガイモや様々なオーガニック果実などの農作物を周辺の暗黒メガコーポ領へ供給する事で穏やかに潤っていた。今回の爆撃の原因は、それだ。ナクソス島が特定の暗黒メガコーポに恭順する事を良しとせず、複雑なパワーバランスの中で自主独立の精神を維持していた事も、こうした有事において筋が悪かった。暗黒メガコーポ勢力の救援派遣の初動が相互牽制の中で遅れに遅れるうちに、ウルベイン卿の「電子エーゲ海帝国」は確固たる国体を築き上げてしまったのだ……!
ウルベイン卿が食料インフラの要を掌握すれば、電子エーゲ海帝国の存在を世界のメガコーポが承認せざるを得なくなるだろう。幾つかの経済ニュースは、既に秘密裏に電子エーゲ海帝国に擦り寄る為の使者を派遣しているという真偽不明のリーク情報を掲載していた。遅すぎた。何もかも遅きに失したのである。
ジゴクめいた爆撃が終わると、降下第二波が開始された。今度降って来たのは爆弾ではなく、征服完遂の為の地上戦力であった。それは人間ではなく完全なる無機物。機械の兵士である。6フィート弱の円柱型のボディ、細長い腕、ずんぐりした短い脚という特徴的なフォルムを持ち、ボディ上部の水平のスリットの奥でLEDアイを光らせている。頭頂部からはホロ映像が投射され、「ドーモ」という蛍光色の征服的カタカナが旗印めいて宙に滲み出した。悪名高きドーモトルーパーである!
「守れ! 守るんだ!」「戦え!」
路上のバリケードの陰から口々に叫び、いかにも頼りない払い下げ品のアサルトライフルを構えるのは、この町の勇敢な抵抗市民……の……僅かな生き残りであった。攻撃第一波で、ナクソス島の防備は脆くも崩れた。もはや戦局は決したと言ってよい。守る? 何を守るのか? 彼ら自身にすらわからぬ事だ。
BRATATATA! BRATATATATA!「ピガーッ!」決死のアサルトライフル攻撃を受けて、ドーモトルーパーの一体が損傷し、火花を上げて倒れ、屋根から転がり落ちた。しかしその三倍の数が新たに屋根に着地し、ドーモガンで撃ち返した。BRAKKA! BRAKKA!「グワーッ!」「アバーッ!」ナムアミダブツ!
「残存人体、1」「ゼロ化開始」ドーモトルーパーはLEDアイを明滅させ、屋根から路地へ、ヒョイヒョイと器用に降りてくる。生き残った一人は仲間たちの死体を絶望的に見下ろし、悲鳴を上げて払い下げショットガンをリロードした。「アアアアーッ!」BRAKKA! BRAKKA!「アバーッ!」
「残存人体、ゼロ」「ゼロ化完了」「隣接街区、確認」「努力」ドーモトルーパーは無機質音声を発し、頭上に「ドーモ」のカタカナを投射しながら、更なる獲物を求めて整然と進行してゆく。上空には四枚ジャイロ式のドローン、ドローンドーモが浮遊し、住人に対して警告を行う。
「市民の皆さん、お世話になっております。本日付けで、このナクソス島は電子エーゲ海帝国の領地となりました。屋外に出ないでください。路上に不当に残っている者は反乱の意志ありと見做され、即時射殺されます。このあとポルタラにおいて、我々の栄光ある指導者、ボーファー・ウルベイン卿の演説を行います。皆さんがポルタラに集まる事は許されません。しかしIRC中継が行われますので、各ご家庭で必ず視聴し、国民意識を高めてください」
BRATATATATATA……BRATATATATA。散発的な銃撃音。黒煙。いまや石畳と白壁の美しき街並みは破壊と沈黙に覆われ、住民は突如自分たちを襲った理不尽な暴力に対する困惑と怒りと悲しみを押し殺し、息を潜め、降ってわいた過酷な運命を無力感と屈辱の中で見守る以外の選択肢を与えられてはいなかった。ナムアミダブツ!
警告音声が示す「ポルタラ」とはなにか? それはナクソス島の北西部、出島じみて張り出した陸地に築かれた古代遺跡であり、アポロンの寺院の名残である。ナクソス本島の街並みを見守る巨大な石の門はトリイ・ゲートじみており、平時であればそれは神々のありがたい恩恵と見守りを想起させるランドマークであったが、今この時は話が違った。
ポルタラの上空には超弩級マグロツェッペリン「マグロドーモ」の巨影があった。マグロドーモは通常のマグロツェッペリンの十倍近い全長を持ち、その側面には貪欲なカタカナで「ドーモ」とペイントされている。この機体そのものが凄まじい対地上火力を備えているだけでなく、内部にドーモジャイロ、ドーモアタッカー、ドーモリフレクターなどの艦載機を格納している他、謎めいたテクノロジーによって一定距離の瞬間移動すらも可能であった。
邪悪なる武器商人ドクタードーモは、以前よりその存在自体が安全保障上の脅威となりうることが、暗黒メガコーポ会議の中でしばしば議題に上ってはいた。しかしその時点においても、このマグロドーモの圧倒的軍事力は勘定に入れられていなかった。神出鬼没の空中戦艦……そんなものが、度外れた野心を隠しもしない電子貴族の手に託されれば、いかなる結果を招くか!?
「ガオオオオオオン!」
マグロドーモが咆哮し、不穏な高波が放射状に散った。この超弩級ツェッペリンには神話獣じみた顔面、そして顎が備わっており、実際吼える! それはこの世の終わりの海を支配するリヴァイアサンのごとし! そして……おお、見よ! ポルタラの下、黒金のマントを翻した軍帽軍装、長身の男の居丈高な佇まいを! マグマじみた狂的な熱に双眸を光らせるその男こそ、地中海を脅かす魔人、電子貴族ボーファー・ウルベインその人である!
「世界よ、聞くがいい!」
ウルベイン卿は腰に佩いた軍刀を鞘から抜き、斜めに掲げて叫んだ!
「我こそは自由騎士、希望の使途、マッポーカリプスの平定者! ボーファー・ウルベインである! 今ここに、我はキクラデス諸島全域の領有化を宣言し、暗黒メガコーポ各社に対しては国家成立の承認を要求するものである!」
彼の周囲には数機のドローンドーモが浮遊し、ぬかりなくその演説を複数カメラアングルで中継! ポルタラ周辺は建物や遮蔽物のさほどない広場めいたロケーションであり、そこに整列するのは黒塗りのドーモトルーパーたちであった。ドーモトルーパー12体ごとに1体、全長10フィートのマイナードーモが配置され、12体のマイナードーモに対し1体、全長20フィートのメジャードーモが配置されている。整然とした軍隊アリじみた戦力!
「見よ、この圧倒的軍事力を! 無限の士気と忠誠をもつドーモトルーパー我にあり!」
彼は軍刀を鞘に納め、最前列のドーモトルーパーのもとにツカツカと歩み寄った。
「歯を食いしばれ!」そして掌で……打った!「イヤーッ!」「ピガーッ!」
殴られたドーモトルーパーはウルベイン卿に対して一切の不平を述べず、後ろに向き直ると、一つ後ろのドーモトルーパーを殴りつけた!「イヤーッ!」「ピガーッ!」殴られたドーモトルーパーはさらに後ろのドーモトルーパーを殴る!「イヤーッ!」「ピガーッ!」ドミノ倒しじみて、どれだけ後ろにあるかすらさだかでない最後尾まで続いてゆく殴打連鎖! 何たる不平不満ひとつ言わないロボAI軍事力に支えられたファシズム体制か!
「これが我が力! わが友ドクタードーモの科学力である! 世界よ震撼するがいい!」
(なんてこった……)
大岩の陰に身を潜めた影が、そのさまを密かに眺め、驚愕の呻きを漏らした。その呻き声は電子音声であった。薄汚いポンチョを身にまとい、フルフェイスのヘルメットを被ったその者……否! それはヘルメットではないのだ。それは金属装甲に覆われたメカニカル頭部に他ならない。ポンチョの下の身体も全て無機物。人型機械である。その者はサイバネLEDアイを明滅させ、極秘IRC通信チャネルを開いた。
「オイ爺さん聞こえるか? こちらノブザメE」
『正しくアイサツせんか!』
「ああもう、うるせえな……。モシモシ、ドクターマトモ。こちら俺、ノブザメEだ」
『状況はどうじゃ!? 奴め、IRC中継を……!』
「ああ、中継が始まったようだな。あのな爺さん。その中継で見えるか? 大変だ。あの野郎、ここまでものすごい軍勢を持ってくるとは……」
『何とかするのじゃ、ノブザメE! この機を逃せば、もはやドーモ・リアクター奪取は物理的に絶対不可能となる……!』
耳元に格納されたIRC通信機が励ました。しかし「ノブザメE」は冷徹に状況判断した。
「敵の数が多すぎて、近づけやしねえ。はっきし言って無理だぜ」
『オヌシにはワシの技術力の粋を集めたのじゃぞ! オヌシのパンチは並のニンジャをしのぐ。つまり、そこでガン首並べとるドーモトルーパーなぞ相手にもならん。カラテとテクノロジー、即ち、カラテックを見せてやれ!』
「だから無理だ! 俺の冷静な演算装置が完全に告げてるッつうの。襲撃成功確率0%だ。作戦を立て直さねえと、どうしようもねえ。……カラテックって何だ? テクノカラテの事か?」
『イチイチまぜっかえすでない。オヌシもテンションを上げねばならんぞ。いいか、オヌシはドーモトルーパーどもをブチのめし、電撃的に接近し、あのウルベイン卿とかいう小僧を掌握し……』
「アイツ、ニンジャだな。ソウル反応がある」キュイキュイ。ノブザメEの眼が駆動音をたて、レンズ倍率が細かく変化する。「今わかるのはアイツだけだが、他にニンジャが隠れていねえ保証はねえぞ」
『ウルベイン卿を脅し、奴自身を人質として、上空のマグロドーモに入り込め。そうすれば後は……なんとかなる。ドクタードーモめ……。なにがドーモ・リアクターじゃ。あれはワシの研究じゃぞ。それを……許せん!』
「なんとかなるワケあるか! クソッ」ノブザメEは唸った。「アンタには恩があるが、恩返しの範囲は超えてンぞ。アンタとドクタードーモの事も、俺にゃどうでもいいよ。とにかく作戦は一時変更! わかったな!」
『ンンー……! しかし……これは……!』
「何だ!?」
ノブザメEは岩陰から思わず身を乗り出した。騒ぎが起ころうとしていた。整然と整列するドーモトルーパーの端、何者かが……。
「イヤーッ!」「ピガーッ!?」「イヤーッ!」「ピガーッ!」
SMAASH! CRAAASH! 切り裂かれた金属パーツが飛散し、破裂し、宙を舞い、色付きの影が地を蹴って、踊るように宙で身体をひねった。
「何……何だと?」
ノブザメEはLEDアイを点滅させ、尋常ならざる身のこなしの乱入者を目で追おうとした。たちまちドーモトルーパー達は乱入者に反応、隊列を再編成して応戦を開始した。BRAKKA! BRAKKA! BRAKKA! 飛び交う銃弾!
「イヤーッ!」「ピガーッ!」
手榴弾爆発めいた衝撃波が巻き起こり、再び複数体のドーモトルーパーが宙を舞う。その残骸を空中で飛び石めいて蹴り、影は陽光にカタナを振りかざした。
ニンジャだった。長い黒髪の女が、軍隊そのもののドーモトルーパーに切り込み、戦闘を開始した。キュイキュイ……。ノブザメEの分析プログラムがエラーを吐いた。ニンジャのカタナは奇妙だった。闇色の炎を物質に鋳固めたようで、それが振るわれるたび、空気は黒く滲み、不穏な唸りが聞こえ、ノブザメEの視界にブロックノイズが生じた。女は黒一色。身体に黒いポリマーを塗りたくったような装束を着、その上からジャケットを羽織っていた。強いニンジャソウル反応が感じられた。恐らくはニンジャソウル生成装束である。
「何だアイツ……おっと!」
ノブザメEは身構えた。大岩付近のドーモトルーパーが、彼女の襲撃によって戦闘モードに切り替わり、ノブザメEの存在も感知してしまったのだ。
「非ドーモ無機物1」「ゼロ化開始」
ドーモガンを構え、複数のドーモトルーパーが向かってくる。ノブザメEは衣を翻して立ち上がり、カラテを構えた。
「仕方ねえ、ぶん殴らせてもらうぜ!」
『どうした! ステルス失敗か!』
「ああそうだ。邪魔が入った。ありゃ何だ? ニンジャみてえだが……とにかくちょっと非常事態だぜ!」
『なんじゃと?』
「ゼロ化開始」「ゼロ化開始」
「うるせえぞ! イヤーッ!」「ピガーッ!」「イヤーッ!」「ピガーッ!」
ノブザメEは爆発的な推進力で瞬時にドーモトルーパーのワン・インチ距離に接近し、連続カラテフックで二体を沈黙させた。BRAKKA! BRAKKA! ドーモガンが襲い来る! ノブザメEは身を屈め、滑るように走り出した。
BRATATATATATA! BRATATATATATA! 銃弾が飛び交い、マズル光が閃き、ドーモトルーパーの残骸が宙を舞う。ウルベイン卿は眉根を寄せて、その騒乱の元……忠実なるドーモトルーパーとは異質なものが二つ、徐々に彼のもとへ近づきつつある事を見て取った。
「対処する。中継放送はプロパガンダ録画映像に切り替えておけ」
彼はIRC指示をくだした。黒い影がジグザグに戦いながら、彼のもとへ向かってきた。ドーモトルーパーを打ち砕き、マイナードーモを弾き飛ばし、メジャードーモの足元を潜り抜け、翻弄し、彼のもとへ。まるで小型の嵐が迷い込んだようだ。「フン」ウルベイン卿は侮蔑的に鼻を鳴らした。一秒後!
「イヤーッ!」
影は高速回転しながら放物線を描いて跳び、空中からウルベイン卿に切りかかった! ZAAAAAAP!
ハニカム構造の電磁カラテバリアが黒いカタナと接触し、強烈に反応した。ウルベイン卿は興味深げに片眉をあげた。悲鳴をあげるように、ハニカム構造の電磁カラテバリアが非尋常な色彩にかわった。ウルベイン卿は軍刀を抜き放ち、身構えた。バリアを挟んで二者は睨み合った。その時間、コンマ5秒。
襲撃者である黒髪の女には、両目の下に特徴的な涙ホクロがある。ウルベイン卿が伝え聞いていた「引退したニンジャ傭兵」の外見特徴どおりだ。このナクソス島における潜在脅威として、このレッドハッグという女の存在はリストアップされてはいた。実際それが牙を剥いて襲ってきたのだ。となれば、念のために差し向けた刺客は返り討ちにされたか。彼は理解した。そして……鼻を鳴らし、侮蔑的に小さく笑った。「フン」
ZZZZZZZZZZZZKT!
電磁カラテバリアが強烈な光を発した! 女はバリアを破壊できず、後ろへ弾き飛ばされた。メジャードーモ達が、破滅的な「ドーモフォトン」の照準を彼女に合わせた。
BOOOOM! BOOOOOM! BOOOOOOOM!
雷を球状に固めたような破滅的弾丸が彼女を襲った。
「イヤーッ!」
空中で彼女は黒いカタナを振り抜いた。イチ! ニイ! サン! イアイで試し切りされるスイカじみて切り裂かれたドーモフォトン弾は分解しながら彼女の後ろに降り注ぎ、多数のドーモトルーパーを巻き添えにする!「ピガーッ!」「ピガガガーッ!」
「なんだ? あのカタナは?」
ウルベイン卿は呟いた。だが次の瞬間、狙撃用に遠距離配置していたキルドーモが、絶妙なタイミングで彼女を狙撃した。BOOOOM!
「……なんだ?」
ウルベイン卿はもう一度訝しんだ。彼のニンジャ動体視力は、1キロ先に配置されていたキルドーモの狙撃銃の電磁弾丸が、回避不能タイミングでレッドハッグの胸元に飛来するのを捉えていた。しかしそれは到達寸前で、阻まれた。もう一人……否……もう一体の乱入者が、横から割って入り、女を抱え、着地したのである。
BRAKKA! BRAKKA! BRAKKA! BRATATATATATA! たちまち浴びせられるドーモトルーパーの銃撃!
「アブねえ!」
ノブザメEは喚きながら逃走する!
「オイッ!」
抱えられたままの女がノブザメEの側頭部を殴りつけた。
「離しな!」
「助けたんだろうが!」
ノブザメEは1秒で言い返し、望み通り、前方に女を投げ捨てた。女は地面に手を突き、一回転して受け身を取り、ノブザメEと並走した。BRAKKA! BRAKKA! BRAKKA! 追い来る銃弾! 二者はもはや振り返らず、出島を脱し、市街区に向けて走り続けた。
「殺りそこねた!」女は叫んだ。
「だろうな!」ノブザメEは叫び返した。「どのみち死んだぜ! お前がな!」
二者は市街区に到達、狭い路地に潜り込み、追ってくるドーモトルーパーから身を潜めた。影の中、息を殺し、数分。……やがて、ノブザメEは女に尋ねた。
「お前、島の住人か? 無謀過ぎる奴だぜ」
「お前こそ、いきなり何だ?」
女は顔をしかめてノブザメEを間近で見た。
「……妙だね、お前?」
「人間にゃ妙に見えるだろうな。フン」ノブザメEはLEDアイを明滅させた。「俺はロボットだ。有機物ゼロ%、ピュアもピュアよ」
そしてあらためて、アイサツした。
「ドーモ。俺はな、ノブザメEです」
「……調子狂うね。何なんだい」女は頭を掻いた。だが、アイサツに応じた。「ドーモ。シジマ……いや」言いかけた名前を打ち消し、名乗りなおした。「レッドハッグです」
その名乗りには様々な感情が籠っている事を、ノブザメEは感知した。
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