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S1第6話【ストーム・イナ・ユノミ】

総合目次


「我らは謳歌したいのだ。時経たこの鮮やかな世界をな……」
「マジでやりやがった!オッサン!」
「"火より早く攻めよ"」
「メンポ……ヲ……使ウガイイ」
「方法がある筈だ」「わかりました。命を捨てる真似は、なりませんよ」
「心得ている」
「ンッ……ンンーッ……さて始めるか」
「ニンジャスレイヤー……というのか」
「成る程な」


「八時のニュースです。オマカリ社の敷地で施設破壊行為が確認されました」ジングル音と共に、天井近くに設置された液晶モニタがニュース映像の配信を始めた。旅姿の男は帽子を目深にかぶったまま、原稿を読み上げるオイランキャスターに視線を向けた。「敵対企業による協定違反行為との見方を……」「おや?」男は映像を二度見た。「俺か? 参ったな。ハハハハ」

「お待たせいたしました。ご注文のチャプチーノです」和装メイドを制服とした店員がチャプチーノのカップを置いた。「ご注文は以上で……」「あれ見てくださいよ。俺なんですよ」男はモニタを指差した。「参ったなあ」「え?」

「だからね。オマカリ社の敷地で……ククク……施設破壊行為……ハハハハ」「す、すごいですね」和装メイド店員は困り顔で笑いかけた。男は頷いた。「困ったものですよ。総出で攻撃してくるもんだから。こっちはポータル酔いが酷いってのに」砂糖容器を置いたメイド店員の手首を取った。「アイエッ」

「ンンー……何か緊張しているんですか?」手首を握ったまま、男は尋ねた。店員はもはや恐怖を露わに、震えながら首を振り、店長を目で探した。男は立ち上がった。「こう見えて、ネオサイタマは何度か訪れたくらいなんだ。来るたびに大通りの顔が変わって、とてもエキサイティングだよなあ」

「アイエ……アイエ……」「このフレグランスが今の流行りですか?」男は店員の髪に顔をつけ、香りを嗅いだ。「俺の好みとは少し違うが、試すのもいいかもしれない。ガールフレンド、喜ぶと思いますか?」「助けて……助けて」「店長を呼びたいのか? そこで寝ている」従業員室入り口付近に死体!

「アイエエエエ!」「どうです。ひどい気分かな。誰も助けてくれない。いいよね」ナムサン……彼はただ戯れに驚かせ絶望させる為に、この殺人行為を行ったのだ。「お、お金、持っていってください、助けて」「砂糖をチャプチーノに入れて。量は好きに決めていい」「助け……」「早くしてね」

 店内に他の客はなかった。通りを行き交う人々は中で行われている出来事に気づかない。店員は砂糖を入れた。カタカタとカップが鳴った。「ゆっくりかきまぜて。クリームを崩すなよ」「ハイ……」「で、俺の口元に。飲ませて。笑顔で」彼は携帯端末を取り出し、自撮りの準備をした。「共同作業だ」

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 店のノレンをかきわけてストリートに出ると、男は画像共有サービスに写真をアップロードした。「ネオサイタマ。いつ来てもクレイジーなグッド・シティ! 店員さんのサービス」抑圧された笑顔の店員にチャプチーノを飲ませてもらう写真に、顔文字つきでコメントを添える。 

「アカチャン……オッキクネ」「彼の事、どれだけ知っていますか? ワドルゴウジ探偵社」「電気だ!」「十枚千円! 十枚千円」「良く焼けています」広告音声の奔流と、屋台スピーカーの呼び込み音声。歩きながら彼は思索する。ネオサイタマとは面倒な事だ。雑踏がシャドウトレース・ジツの邪魔になる。

「美味しい……とても!」パステルカラーに塗られたオムラ社の逆関節マシーン、モーターガシラ民生機がスピーカーからPRし、頭上にホロ映像を投影しながら歩いている。浮浪者が踏み殺されそうになる。男はモーターガシラが突如発狂してストリートの人々を皆殺しにするビジョンを思い浮かべる。

「さすがになあ」彼は想像を取りやめた。勘に頼って裏通りをひとつ選び、そこでしゃがみ込んだ。「ニンジャスレイヤー……ニンジャスレイヤー」呟く彼のタタミ2枚先の地点に、奥へ進むニンジャの後ろ姿が浮かび上がった。「ツいてる」目を細めた。彼の名はアモクウェイブ。彼は、ついている。

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【ストーム・イナ・ユノミ】

「ピザは焼けたかよ!」スモトリめいたいかつい巨漢が机をガタガタと揺らした。接客するオイランドロイドの髪は明るいオレンジ色で、Tシャツには「ことぶき」と書かれている。「焼けましたか?」コトブキはカウンターを振り返った。「アー?」タキはポルノ新聞を逆さにして目を近づけていた。

「ネエチャン、こっちのピザも来てないんだけど!」窓際の別の客がガタガタと机を鳴らした。その奥では複数のモヒカン客がダーツ投擲に忙しい。「焼いてますか?」コトブキはカウンターを振り返った。「アー」タキはポルノ新聞の角度を戻し、顔を離して眉間に皺寄せた。

「焼いてないみたいです」コトブキは答えた。「そこの冷蔵庫に冷凍ピザがあるので、オーブンに、こうやって入れて、スイッチを入れると、焼けますよ」「わかったよ」巨漢は面倒そうに冷蔵庫に向かっていく。窓際の客も肩をすくめ、後に並んだ。ストコココピロペペー。ダーツ機が鳴った。

 コトブキはタキのところへ歩いて行った。「もっとお客さんのホスピタリティを考えた真心の接客が大事ですよ。ドゲザ接客です」「いいんだよ。オレだって真心のオミヤゲがもらえなかったんだから」「ニンジャスレイヤー=サンにですか?」「サイバーシーシャを頼んでたのによ」「まあ!」

 コトブキはやや思案し、二階に上がってゆく。「オイ! なにサボってんだよ。どこ行く!」「じゃあ、わたしが買ってきたものをあげますね!」「何だと?」「テルヤケ・ピザあるか?」別の客がタキに声をかけた。タキはオーブン前の列を指差す。「あそこに並べ!」

 タキは椅子に深くもたれ、読み終えた新聞をカウンターに置いた。ニンジャスレイヤーはじきにまた戻って来る。サンズ・オブ・ケオスのネットワークを辿り、ニンジャを殺して戻って来る。厄介な異常者だが、標的を探る手助けができていれば、危害は加えてこない。手懐ければ番犬にもなるだろう。

 入り口の扉が開き、風鈴が鳴った。「ッたく客が多いな今日は!」タキは舌打ちし、そちらを見やった。「なんだよ。ニ……」ニンジャスレイヤーではなかった。新たな客は店内を見渡し、肩をすくめ、カウンター席に歩いて来た。店内の笑い声や怒鳴り声、囁き声が不意に一瞬途切れ、また再開された。

「ハイ、イラッシャイ」「こんなところに立ち寄ったのかあ」帽子を目深にかぶり、表情はうかがい知れない。「ア? 何だテメエ」タキが顔をしかめた。「会話の通じねえ奴はお断りだぞ」「そうだな、じゃあ話をしようか」男は帽子をずらし、タキの目を見た。「いや……まず注文かな。ここって、なんの店?」

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「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが振り向きざまに繰り出した拳が、トラップマスターの顔面を捉えた。「グワーッ!」トラップマスターのアンブッシュは失敗し、背中から床に叩きつけられた。彼は受け身を取って後転、起き上がりながらクナイを投げた。ニンジャスレイヤーはブレーサーで弾き返す。

「サツガイという男を知っているか」ツカツカと歩み寄りながらニンジャスレイヤーは問うた。トラップマスターは後ずさった。「サツガイだと……?」彼は眉根を寄せた。眉間を汗がしたたり落ちる。「サツガイに何の用がある」「殺す」「イヤーッ!」クナイ再投擲!

 ニンジャスレイヤーは床スレスレまで身を沈め、急接近する。トラップマスターは泡を食って連続でバック転し、背後の壁に体当たりした。ドオン! 衝突音と共に、トラップマスターの姿が……消えた。「何……!?」ニンジャスレイヤーは駆け寄り、壁に触れた。反射的に壁を殴りつけた。強固な鉄壁だ。

 ガコン! 左手通路の闇の奥で音が鳴った。ニンジャスレイヤーのニンジャ第六感が危機を報せる。「イヤーッ!」素早くブリッジした彼のすぐ上をマシンガンの火線が走り抜けた。BRATATATATATA!「クソッ……!」彼は腹ばいになり、素早く匍匐前進した。

 BRATATA…TATA…KBAM! 投擲スリケンで突き当りの機関砲を沈黙させたのち、彼は注意深く身を起こす。視線を感じる。奴がいる。ごく近くに。警戒を続けながら廊下を進む。やがて黒塗りのフスマが現れた。脳内地図からするに、他に未踏破の部屋は無い。躊躇わず引き開ける。ターン!

「バカな……行き止まりだと……?」ニンジャスレイヤーが足を踏み入れたのは、タタミ敷きの四角い小部屋であった。それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで、十二枚のタタミから構成されている。四方は壁であり、それぞれには象、ダルマ、タコ、宝船の見事な墨絵が描かれていた。

 もはや先へ進むためのフスマは見当たらない。では、トラップマスターはどこへ消えたのか。「無駄だ、トラップマスター=サン……!」この謎を解くべく、ニンジャスレイヤーは右手にスリケンを握り、物音ひとつ立てぬ精緻な足運びで、部屋の中心部へと進んでいった。額の汗を右手の甲で拭った。

 ニンジャスレイヤーはついに部屋の中央へと達する。そして……やおら、手にしたものを頭上に投げつけた!「イヤーッ!」KRAAASH! 手を離れて飛んだのは、黒く焼けるフックロープだ! 鋼の鉤爪が天井を裂いた。彼は力任せにロープを下へ引いた!「イヤーッ!」KRAAASH!「グワーッ!」

 天井材がメキメキと裂けながら剥がれ、手負いのニンジャが落下してきた。ニンジャスレイヤーは逃れようとするトラップマスターに踵落しを繰り出した。「イヤーッ!」「グワーッ!」そのまま踏みにじった。「イヤーッ!」「グワーッ!」「無駄だと言ったはずだ……おれにはお前の存在がわかる!」

 (((愚かなり……カラテ足らずをジツに頼り、くだらぬ手管を巡らせた事を後悔させてやるがいい! マスラダ!))) ニューロンの奥底でナラクが嘲笑った。「イヤーッ!」「グワーッ!」「サツガイについて……サンズ・オブ・ケオスについて、何を知っている……話せ、トラップマスター=サン!」

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 彼女は改装途中で放棄された雑居ビルの鉄骨に寄りかかり、向かいの廃セントーを観察していた。何の変哲もない廃墟。少なくとも地上部分は。しかし彼女は辛抱強く待った。彼女は何者であろう? ダスターコートを身に着け、帽子をかぶっている。コートの肩はパディングで補強され、何故か傷だらけだ。

 風が強く吹き、コートの裾をはためかせる。彼女は顔をしかめた。歳は二十頃。だが奇妙なアトモスフィアがあった。わかるものにはわかる奇妙さが。やがて灰色の空を横切って黒い影がまっすぐに飛び来たり、肩に爪を立てて止まった。それは三本足のカラスだった。

 ほぼ時を同じくして、セントーのノレンをくぐって現れた者があった。彼女の追跡対象である。ついに、掴んだ。私立探偵シキベ・タカコは、セントー地下迷宮に潜むトラップマスターを仕留めて帰還したニンジャスレイヤーを見下ろした。三本足のカラスが、促すようにゲーゲーと鳴いた。 

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