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【ビースト・オブ・マッポーカリプス 前編】分割版 #4

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 急カーブだ。タキはハンドルを切った。装甲ピザワゴンは吸い付くようなグリップ走行で、ガードレールすれすれに曲がっていく。「これで満足だろ」タキは横目でユンコを見た。助手席のユンコは物理キーボードをタイプし、遠くを見ながら、かすかに頷く。タキは感心した。

(実際、大したもんだ)ユンコ・スズキ。ナンシー・リンの弟子、あるいは義理の娘。その肉体はオイランドロイドそのものだが、コトブキのように自我を得たオイランドロイドとは別物で、あくまで元・人間だ。要は極端な話、身体やニューロンを全てサイバネ化した人間という事。タイピング速度も機械化の恩恵が大きい。

 ピザタキが難儀していた最中に、いきなりこの女が現れた当初は仰天したが、実際ユンコはナイスだった。余裕があり、感じがよく、フェイスレスを一気に片付けてくれた。

 なにしろ、ユンコはいかついマシンガンを抱えて現れた上に、その身体の中にも武器を仕込んであったのだ。ニンジャスレイヤーもコトブキも居ない今、タキやザックの身を直接に守れる存在として、ナンシーが機転を利かせてくれた(タキはダッシュボードのモーターツクモを見た。所詮、ツクモは口が達者なだけのインテリア・ドロイド野郎なのだ)。

『タキ=サン、私に何かご不満が』「いや、何でもねえ」

 ニンジャスレイヤーがメイヘムを打ち破り、ユンコがピザタキにやってきて以来、タキはこの装甲ピザワゴンでネオサイタマを走り回っている。これから行う「仕掛け」に際して、一箇所に留まれば留まるほど、加速度的にリスクが増大する。セトは神話時代のリアルニンジャであると同時に、極めて強大なハッカーだ。

 インターネットは古事記の時代から存在していた。高慢な文明人が後から再発見しただけ……そういう話だ。神話時代からそれに慣れ親しむセトは、はしゃいだ猿を嗜めるように、ハッカーのIPを即座に辿り、容易く息の根を止めてしまう。セトとその隠れ蓑たるエネアド社の過去の動きを探るだけで、背筋が凍る。

(なんでこういう事になっちまったかな)タキは自問する。ハンドルを握る己の手。その指先は黒い。バイオイセエビの殻を剥いて育ち、ハッカーをやってドン詰まり、死ぬような目に遭った挙げ句、ニンジャスレイヤーに助けられた。そうこうするうち、今度の相手は都市を緑に沈めた半神めいた存在だ。

 ニンジャスレイヤーは古代ニンジャと抗争を始めた。タキがそれをピザタキのカウンターでエッチ・ピンナップ片手に応援しているだけで済めばよかったが、そうは問屋が卸さないらしい。割り当てられた仕事がある。端的に言えば、セトが所有するれっきとした現代企業、エネアド社にケンカを売れというワケだ。『タキ=サン、不安がありますか?』「そうだよ」

 現在のネオサイタマを覆うネットワーク障害は、その実、エネアド社の策謀なのだという。ネオサイタマは無数の暗黒メガコーポやヤクザ組織の、相互に喰らい合うパワーバランスの上に成り立っている。それを横紙破りするような乱暴な真似を、エネアドはしている。セトは文明人の都合など考えない。

 ニンジャスレイヤーはネオサイタマ中をフィルギアと共に走り回り、アヴァリスの分身とやらを狩っている。待っていればいずれアヴァリスとの決闘の火蓋は切られるが、困ったことに、ニンジャスレイヤーは、お呼びがかかるのを黙ってぼんやり待っているようなタマではない。

 コトブキは……スゴイタカイビルに潜り込み、消息を断った。非常にまずい。ナンシーの話では、「楽観視は出来ないが、絶望するには早い」……要は、このクソッタレ通信妨害をどうにかしなければ、何の安心も出来ないわけだ。

 ニンジャスレイヤーとの通信が確立するタイミングも、こうも限られては、連携に支障が出る。ユンコで対処できない状況に陥った時に、彼にSOSする事もできない。

「平気か? ユンコ=センセイ」タキはユンコに語りかけた。ユンコは既にタイピングを加速し、半ばトランス状態の領域に落ちている。ツクモが『平気よ』のホロを照射した。ツクモを通して、ネットワークに没入しているユンコが答えたのだ。『だけど、そろそろ攻勢に転じなくちゃ。あとどのくらいで到着する?』

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