シャード・オブ・マッポーカリプス(83):傭兵ニンジャ互助組織「デルタ・シノビ」とオメガコマンダー
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奇妙な胸騒ぎから、オメガコマンダーは眠れぬ夜を過ごしていた。そしてそれは、西の空を焦がす4本の巨大な飛翔物によって実現されてしまったのだ。明らかな緊急事態である。いまや大海に浮かぶ小島めいたデルタ・シノビの秘密要塞全域が、オメガコマンダーの心臓であるかのように、赤いスクランブルアラートを明滅させていた。
司令室にはオメガコマンダーと、アルファ級エージェントたるノーウインドの姿。机の上にはパンチアウトされたばかりのいくつもの書類。既に、複数の暗黒メガコーポから破格の依頼が舞い込んでいるのだ。その多くはユーロ圏やアジア圏に本社要塞を置く企業であり、この混乱に乗じてN.Y.に本社を置くメガコーポ社屋や研究施設へのアタック、あるいは磁気嵐の中に囚われたNASA社やペンタゴン社へのアタックを依頼するものすら含まれていた。
当然のごとく、それらは全て拒否される。……これは緊急事態だ。単純な暗黒メガコーポ同士の抗争などではない。磁気嵐を超えて最後に届けられたのは、N.Y.シチズン・カウンシルからの悲痛な救援依頼である。二人の間にはその書類……たった1枚のプリントが置かれていた。
「欧州系暗黒メガコーポの示した報酬額に比べれば、ほとんど慈善事業にも等しかろう」オメガコマンダーは言った。ノーウインドが頷いた。「それでも、やる価値は十二分にある」「……久方ぶりに、亡き祖国のために戦えるからかね?」オメガコマンダーは問うた。ノーウインドは複雑な想いとともに苦笑した。「デルタ・シノビの独立性を示す、この上ない機会だからですよ」と。
オメガコマンダーは頷くと、円卓に備わる司令ボタンを押した。ブガー! ブガー! ブガー! 緊急放送ブザーが鳴り響き、食堂や格納庫の大型ディスプレイにオメガコマンダーの顔が映し出された。固唾を飲んでアラートを聞いているのは、このベースで生活する数名のエージェント・ニンジャたちだけではない。かつてオムラ社やオナタカミ社のハイテック新兵器を職人技と熱意でもって支えた百名近い熟練メカニックやレジェンド級整備工、そして彼らを裏方で支えるイタマエなどの姿もそこにある。
彼らは全員持ち場につき、手にタカハシ・レンチや電子工具を握りしめ、大型ディスプレイを見つめながら、その時を待っていた。「これより指令を下す!」オメガコマンダーは告げた。「テツノカゲをカタパルト・リフトへ! バミューダ・ベースに待機中の全ニンジャは、直ちにN.Y.へと出撃する。これに例外は無い、すなわち……」彼は司令官帽を脱ぎ、ウルシ色のニンジャ頭巾をあらわにした。「私自らも出撃する」
- バミューダ・ベースにて
デルタ・シノビ / Delta Shinobi
デルタ・シノビとは、バミューダ海域に隠された人工島「バミューダ・ベース」を本拠地とする、国際的な傭兵ネットワーク組織である。立場が弱く暗黒メガコーポから搾取されがちなフリーランス・ニンジャ傭兵の互助を目的として創設され、かつ、デルタ・シノビ自身も固有の戦力を有している。
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