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【ビースト・オブ・マッポーカリプス後編】セクション別 #10

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 ニンジャスレイヤーとアヴァリスの拳が正面から衝突した。衝撃波が拡散し、天蓋が悲鳴を上げた。オクダスカヤーノフの花々が無限に芽吹き、似ても似つかぬ異次元の花弁を広げ、萎びては散る。そのサイクルが繰り返されるなかで、二人のニンジャは互いを弾き飛ばし、地面を踏みしめた。

「こののち俺はキンカクそのものとなる」アヴァリスは言った。「セトが俺の為にカーペットを敷き詰め、お膳立てをした。愚かなニンジャだ。キンカクを私する資格など、奴ごときにあるものか。あれは俺のものだ。あれは、俺だ」二者の視界に黄金の立方体のヴィジョンが重なる。「そしてお前は何者でもない」

「何者でもない? 上等だ」ニンジャスレイヤーはアヴァリスを見据え、言った。「貴様にはおれが眼中にない。おれの力の源を知る事もない。貴様にはおれがわかるまい」「お前は獣。儀式の添え物、贄に過ぎん」「おれには貴様がわかるぞ。何も見ず、知らず、ただ喰らう、調子に乗ったニンジャだ」

「喰らってやるとも!」アヴァリスは笑った。「全てのニンジャは俺の糧だ。ニンジャ始祖が与えたニンジャの力は、俺のほしいまま全て収奪する。それが…」「ニンジャがどうした」「何?」「ネオサイタマ」ニンジャスレイヤーは呟いた。「ネオサイタマ。おれの帰る場所だ。貴様の目に焼き付けてやる」

「帰る? 地上にか? はははは!」アヴァリスは嘲笑った。「それがお前の望みか、獣! 何を言い出すと思えば。大樹はキンカクへ通ずる! 儀式の盤面など遥か下、もはや用済みの奈落だ。顧みる事もない!」「違う」ニンジャスレイヤーは言った。「離れてはいない。切り離させはしない」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 アヴァリスはニンジャスレイヤーを殴りつけた。拳圧ひとつで首を刎ね飛ばす威力だった。ニンジャスレイヤーは拳が頭を捉えるより一瞬早く、アヴァリスの腕の内側、懐へ踏み込んでいた。縦の拳がアヴァリスの胸を捉えた。黒緑の肉体は剛性と弾力の化身。衝撃を呑み込み、アヴァリスのカラテに変える。

「ははッ……!」アヴァリスの顔に喜色が満ちる。打撃の波紋がアヴァリスの全身を揺らすと、それはカラテとなってアヴァリスをより精強にする。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは構わず、縦の拳を続けた。クランク回転する拳が立て続けに打ち込まれる。「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

 アヴァリスはニンジャスレイヤーより体格に遥かに秀でているが、それ故、ひとたびワン・インチ距離への接近を許せば防戦がちともなる。しかし小技の応酬など必要なかった。打たれながら、アヴァリスは振り上げた両手を上で組み、ニンジャスレイヤーを見下ろした。そして振り下ろした。「イヤーッ!」

「……!」ニンジャスレイヤーは双眸を燃やした。拳が降り来る。踵が沈み、蔦を深く抉った。彼は踏みしめた。蔦を、大樹を伝い、その果て、奈落と蔑む大地の底、ギンカク・テンプルを。彼はギンカクとアヴァリスの狭間に在った。力がり上がった。ニンジャスレイヤーの拳が燃えながら加速した!

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