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【スレイト・アーカイブ】2018~2020

総合目次 初めて購読した方へ 

スレイト(ニンジャの石板)は週に何度も映し出される、ニンジャスレイヤー世界のありふれた日常風景、あるいは謎めいた幻視です(原理は不明です)。さまざまな登場人物の営みは刻々と移り変わります。何が映し出されているか、気が向いたときに見てみましょう。

親愛なる読者の皆さんへ:スレイトの内容は基本的に現在進行形であり、別次元展開でない限り、時を遡ることは滅多にありません。またスレイトの中には、続きもののストーリー展開になっているものも稀にあります。このため、初めてスレイトをまとめ読みする時は、一番上にある古いスレイトから順に読み始めることをおすすめします。

また上記の理由から、スレイトの風景はTwitterでの本編連載と、時系列がある程度同期しています。例えば本編連載でタイクーン侵攻による被害が世界各地に及んだ時は、スレイトの状況もそのようになっているのです。こうした時系列リンクも含めてじっくり楽しみたい時は、PLUSのトップから月ごとのアーカイブを辿り、その月の本編ログとスレイトまとめを一緒に読むと、また違った楽しみを味わえると思います。



2019年前半


【ドイツ、シュヴァルツヴァルト(黒い森)】

 雪にザクザクと足跡を残しながら進むのは、企業戦士5人ユニットだ。構えたライフルから赤いレーザーサイト光が伸び、ひんやりと冷えた明け方の空気を切り裂く。先頭の者が立ち止まり、ハンドサイン。一斉に攻撃準備。

 木々が開け、設置された石のオジゾウと「風林火山」の石碑の周囲には何故か雪がつもっておらず、黒い土が剥き出しだ。オジゾウの前にはつば広の旅人帽をかぶった男が屈み込んでいた……ように思ったが、瞬きひとつの後でその姿は何処にもない。

「アッ!」「アイエッ!?」「……?」先頭の企業戦士は悲鳴を振り返る。部下4人の姿が無い。「……上!」彼は銃を頭上に向ける。「グワーッ!」「グワーッ!」樹上から落下してきた4人の企業戦士が大地に叩きつけられ、高い枝の上で旅人帽の男は不敵に笑っていた。

 BRATATATATA! 隊長は銃を撃つが、再びその姿は消え、風と共に彼の背後に現れた。「俺を侮るな。荒事は好きではないが、そうと決めれば躊躇はせんのが冒険魔術師というもの」「……!」隊長は首筋に突きつけられた魔術ナイフに慄き、ホールドアップした。コルヴェットは彼の首筋のバーコードの意匠を読み取り、溜息をつく。「カタナ社か。困ったものよ」


【南米、アマゾン流域、深夜】

 マグライトの明かりに羽虫がたかってくるが、ニンジャ装束完全装備のフォレスト・サワタリは少しも気にする事がない。彼はK-2、K-3と共に、ずんぐりとした円錐形の植物を囲んで、しゃがみ込んでいる。

 K-2がフォレストに細長いトーチを渡す。フォレストは手甲を擦りつけ、摩擦で着火すると、K-3は羨ましそうに見る。「やりたかったな」「シッ、ダメにきまってんだろ」「……」フォレストは二人を目視で黙らせると、発火したトーチを円錐形の植物の根元に設置した。

 バチバチと爆ぜる炎の明かりで、この円錐物の詳細がわかった。タケノコである。否、タケノコではない!「アバーッ!」炎に耐えかね、恐ろしい咆哮をはなって地中から飛び出したのは、タケノコじみた頭部を持った邪悪なモグラ種の生物、バンブーモドキだ!

「イヤーッ!」「アバーッ!」フォレストが竹槍を素早く掴み、心臓をあやまたず貫いて絶命させる! K-2が麻袋に死体を詰め込み、K-3が地図にチェックをつける。フォレストは額の汗を拭う。「これがあと11匹だ」……夜は長い。


【ネオサイタマ 実際安いビジネスホテル】

 スーツケースもろくに広げられないほど古くて狭苦しいビジネスホテルだが、幸い管理人の温かみがあり、トースターも置いてあった。

「ハイ、ドーゾ」シキベはアンコトーストを皿に乗せ、窓際の小さな机の上に置いた。

「ゲーッ!」三本脚の鴉がバサバサと飛んできて、それを啄ばんだ。そして首を傾げ、ゲーゲーと叫びだした。

「どうしたんスか? あッ!」シキベはインコ類がチョコを食べると死ぬことを思い出し、取り乱した。もしや鴉はアンコに対して何らかの!? だが三本脚の鴉はシキベの肩に飛び乗り、キータイプした。

『ネオサイタマのアンコはあんまり甘くねえな』


【無銘の神殿廃墟】

 ウミノは頭を振って眩暈を振り払った。最初に目に入ったのは錆びた鉄格子だ。錆びてはいるが、果たしてニンジャの力を以てしても破壊できるかどうか……? 上を見ると20メートルほどの高さに開いた穴から光が差し込んでいる。視線を戻すと、鉄格子にしがみつくようにして崩れた骸骨の肋のあたりからコブラが這い出した。

「イヤーッ!」「SHHH!」チョップで突き殺したウミノはステッキが失われたことを嘆き、コブラの死体を掴み取った。「これを食糧にして生き永らえねばならんとは……いやはや」「その必要はありませんぜ先生」格子の外からライトがウミノを照らした。ウィッシュボーンである。

「ゲンジ君! さすがだ! 私はどれくらい寝ていた?」「だから言ったでしょう先生。あの女は信用しちゃいけなかったッて」「面目ない限りだ! だが君も彼女の蠱惑的な眼差しを見返す時、期待に胸高鳴らせていたのではないかね?」「ほら、開きましたよ」ウィッシュボーンはロックピックで蝶番を外し、ウミノを解放した。


【キョート城「濡れ水仙にそそぐ星明りの焦がし銀茶室」】

 パーガトリーは茶器を置き、茶菓子をつまみ取る。虚無的な黒いネリキリを眺める彼の目は悲しげだ。対面のアガートラムはパーガトリーをじっと見ている。かすかに共感の色が差す。

 パーガトリーは意を決したようにネリキリを咀嚼する。虚無の味である。色彩ゆたかな食事を最後にとったのはいつか……。「今日はよい天気となろうか」「晴れ、もしくは曇り、もしくは雨でしょう」アガートラムは奥ゆかしく答えた。パーガトリーは頷き、ネリキリを飲み込んだ。

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