【フェイト・オブ・ザ・ブラック・ロータス】
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【フェイト・オブ・ザ・ブラック・ロータス】

◇総合目次 ◇初めて購読した方へ

この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードの加筆修正版は上の物理書籍に収録されています。また第2部のコミカライズが、現在チャンピオンRED誌上で行われています。


【ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ】

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【フェイト・オブ・ザ・ブラック・ロータス】





 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……重々しい音とともに、ジャイガンティック・ブッダ座像の両目が開き、アルカイック・スマイルを浮かべる。ロータス(蓮)を象った足場からピンク色の荘厳なライトアップ光が焚かれ、巨大黄金ブッダ像の顔、肋骨、神秘的なニュアンスの手などを照らした。 

 それは、これまでに人類が建造したいかなる偶像モニュメントよりも巨大だ。その後頭部と脊椎から背後の制御モノリスへ伸びる無数のケーブル類は、さながら冒涜的LAN直結の如し。『あなたがた苦しむ必要は無い……なぜなら全て幻……気の持ちよう……』深夜のネオサイタマに電子合成の説教が響く。

 ガガガガガゴンプシュー。ブッダ像の巨大な右腕が圧縮空気排出音ともに垂直に掲げられ、背後では素晴らしいネオン装飾が明滅した。それを仰ぎ見る巡礼者たちは、壮大さにただ息を呑む。『……全ては脳内に生じた電子的ノイズ……。心配いらない。マントラを唱えなさい。続きは有料のIRCで……』 

 わずか三分間の説教の後、黄金ブッダ座像の目は再び閉じられ、背後の制御モノリスには赤色LEDでIRCアドレスなどが表示された。降りしきる重金属酸性雨の中、もはや巨大ブッダ像は黙して語らず。……おお、ナムアミダブツ……!これもまた、古事記に予言されしマッポーの一側面か! 

 その巨大ブッダ座像の胸部は、特殊クローム加工になっている。その内側から、あたかも自らの所有物のごとくネオサイタマの夜景を見下ろす、でっぷりと肥えた男がひとり……!「フォホホホホホ……フォホホホホホホホホホホ……!」彼こそは、カスミガセキ教区のアークボンズ、タダオ大僧正である! 

 ここはタダオのメインオフィスだ。彼は金縁サイバーサングラスで目元を隠し、紫色の法衣を纏い、耳と後頭部を隠す僧帽子を被っている。「フォホホホホ……今夜の新規登録はどうか……?」彼は笑みを浮かべ、ロータスを象った大型のハイテク浮遊玉座でゆったりとザゼンしたまま、デスクへ向かった。 

「うなぎ上りです」「関係企業の株価も上がっています」ガラス張り床の下に錦鯉が泳ぐ快適なデスクエリアでは、サイバーサングラスで目元を隠した見目麗しいスーツ姿のサイバーボンズらが働き、タダオに報告する。「フォホホホホホ……」タダオはデスク列の間を浮遊移動し、満面の笑みを浮かべる。 

 タダオ大僧正はオフィス内に作られた蓮池をゆっくりと浮遊して渡り、風流な滝のほとりにデスクを持つ、アコヤのもとへ向かう。「ドーモ、タダオ=サン。サキハシ知事の緊急入院が、確実に良い方向へと働いているようです」彼の秘書役を務めるアコヤが、今夜の新規登録数増加について所見を述べた。 

「これこれ、アコヤ=サン」タダオはブッダが使徒に教え諭すように言った。「ハイ」「良い方向へとは何事か。戦争、経済不安、リーダーの不在、先行き見えぬ暗い社会に、多くの市民が救いを求めている。有料マントラIRCの新規登録増加は、それを反映したもの……こうした過程を省いてはならぬ」 

「ハイ、精進致します」アコヤは深くオジギした。オフィスを満たす高級インセンスの煙が、神秘的に揺れた。タダオは微笑んだ。「……して、今後の登録数増加方策は?」「プレゼントを企画しております。聖職者用拳銃ソード・オブ・ブッダが当たります。銃弾は付属せず、美術品扱いで合法です」 

「それはやり過ぎだ、アコヤ=サン」タダオがたしなめた。「スミマセン」アコヤが深々と頭を下げる。「最初からそんなにいいものを出してはいけない。徐々に、エスカレートさせなさい」「チームに再検討させます」そして二人は本日のスケジュール確認に入った。ナムサン!何たる拝金主義か……! 

 タダオ大僧正は、ロータスの装飾をこよなく愛する。汚濁の中から咲く美しきロータスは、ブディズムにおいて最も神聖な花だ。それは救済や純潔を意味する。また古代エジプトでも、ロータスは再生と太陽の象徴、また原初の混沌たるヌン神が生み出したものとされ、ヒエログラフも多数残されている。 

 故に、このオフィスには白やピンク色の蓮、そして神々しいロータス意匠の装飾物が溢れている。猥雑たる暗黒都市ネオサイタマにおいて救済を示す宗教家とは本来、拝金主義とは無縁の者であるべきだろう。だがタダオ大僧正こそは、黒いマネーを吸い上げ咲いた……邪悪なるブラックロータスなのだ! 

 二人は電子墳墓計画のタイムラインを確認し終えた。話題は次に、電脳系暗黒メガコーポの一社に打診していた、サイバー・ネンブツ・ソフトウェア計画へと移った。成功すれば半永久的に莫大なカネが入る。「人体実験の経過は悪くないです」とアコヤ。「最大の問題は区分が電脳麻薬になることですね」

「フォホホホ……先方がどれだけカネを積むか次第で、政財界に働きかければよい。戦争も始まった事だ、救済はこれまで以上に求められる。これは善意のビジネス。フォホホホホ……!」その言葉にアコヤは勇気づけられた。アコヤの中にも無論、微細だが、ブッダの神罰を恐れる心は残っているのだ。 

「フォホホホホホ!フォホホホホホ!」だがタダオ大僧正には、そのような脆弱な人間性など微塵も残ってはいない!何故彼は、神をも恐れぬ悪徳ビジネスを平然と続けられるのか?かつ、暗殺を恐れずSPも付けずに、生身をさらしたまま行動できるのか?……その答えは、ニンジャである。  

 BEEP!BEEP!ロータス型浮遊玉座に備わったIRC端末が着信を告げた。「おやおや」タダオはアコヤから離れ、静かな蓮池へ浮遊移動する。そして恭しくオジギした。「ドーモ、ラオモト=サン」『ドーモ、ブラックロータス=サン』IRCの向こうにはアマクダリ総帥、ラオモト・チバの姿! 

『定時連絡の時間だ』「何事も変わりなく」『ニンジャスレイヤーの気配などは』「微塵も」…おお、彼の正体は、ブラックロータスなるニンジャネームを名乗る、ニンジャソウル憑依者だったのだ!さらに彼は、ネオサイタマを牛耳る邪悪なニンジャ組織、アマクダリ・セクトの幹部「十二人」の一人! 

 キョート共和国との開戦支持、新型脳サイバネ兵器開発に関する倫理問題承認、ネオサイタマ市民生活やIRC電脳空間への監視正当化と世論誘導、さらにはリー先生の非人道的研究に対する多額の支援まで……。アマクダリが進める暗黒支配体制構築には、常にブラックロータスの影がちらつくのだ。 

 そして今夜、アマクダリは非常時体勢を敷いている。ネオサイタマの政治中枢たるカスミガセキ・ジグラットから権力を簒奪すべく、参謀アガメムノンはサキハシ知事とともに各種移行手続きに忙殺されているからだ。そのような中、不測の事態に対応すべく、十二人はラオモト・チバと定時連絡を行う。 

『……くれぐれも警戒を怠るな。特別な動きは慎め。お前は十二人の中で、誰よりもよく知っているだろう。あの夜、トコロザワ・ピラーにニンジャスレイヤーが単身突撃を仕掛けてきた事を。……そして奴がソウカイヤを崩壊させた事を』チバが言う。日付は10月10日に切り替わろうとしていた。 

「フォホホホホ……無論です。ですがラオモト=サン、私に関してはご安心ください。この大ブッダ要塞は無敵です。この私はマネーとハイ・テックとブッダによる三位一体の力で、完璧に守られておりますがゆえ」ブラックロータスは浮遊玉座に敷かれた高級クッションに深々と身を沈めながら言った。 

「イディオットめが!それが慢心だと言っているのだ!この金満ボンズが!」チバが一喝し、端正な顔を歪ませた。それを見たタダオ大僧正は、サイバーサングラスの下で密かに表情をほころばせた。「フォホホホホ、大変失礼いたしました……」そしてにやつく口元を隠すように、深々と頭を垂れた。 

 これは不忠儀か?……否、タダオはチバを軽視などしておらず、裏切りの心などは微塵も有していない。むしろ好意を持っている。強く特殊な好意を。「そのカタナめいた眼光と油断無さ、ますますお父様に似てきておりますな。このブラックロータス、嬉しい限りにございます。フォホホホホホ……!」 

 これはもしや……!改めてオフィス内を見渡せば、ここにいるのは皆、不自然なまでに容姿端麗なボンズばかりだ。さらに、やはり妖精の如く愛くるしいサイバーサングラス小坊主たちが数名で列をなして歩き、蓮池の手入れや雑用を行っている。彼らは皆、教団の孤児院から選抜された子供たちなのだ。 

『まあいい。警戒を続けると同時に、予定通りマジェスティ=サンとも連携を行い、世論誘導を行え』チバは苛立たしげにIRCを切断し、次なる十二人と接続しにかかった。「フォホホホホ……!」タダオは満面の笑みを浮かべながら、再びオフィス内を浮遊し、カラテトレーニングルームへと向かう。 

 最高級タタミが敷き詰められたその広大な部屋は、四方を白い壁に囲まれている。『タダオ=サン、どうされましたか』アコヤからのIRC通信。「万全の警戒をせよとの事なので、ひと汗かいて戻るとする。……イヤーッ!」タダオは驚くべき機敏さで回転跳躍!ロータス浮遊玉座からタタミへと着地! 

 タダオ大僧正の身を纏っていたアークボンズ法衣は、一瞬で紫色のニンジャ装束へと変わっていた。……フシギ!これは、彼に憑依したニンジャソウルが強大なものであることを暗示しているのだ。『トレーニング開始ドスエ』電子合成マイコ音声が室内に響き、ブラックロータスはゆったりと身構えた。 

 スターン!スターン!スターン!継ぎ目が無いと思われていた三方向の壁が、突如フスマめいて開いた。そして出現するのは、サスマタとマシンガンで武装した二足歩行戦闘兵器、改善型モーターヤブ2機!クローンヤクザY-14A6体!「「「ザッケンナコラー!」」」BRATATATATATA! 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ブラックロータスは敵を翻弄する紫のオーラ残像を残しながら、銃弾の雨を連続側転回避!ワザマエ!そのまま勢いと体重を乗せ、モーターヤブ側面へ飛び込み肘打!「イヤーッ!」SMAAASH!「ピガガーッ!」マシンガン腕を破壊され仰け反るモーターヤブ! 

「「「ダッテメッコラー!」」」BLAMBLAMBLAM!クローンヤクザは敵が側転移動した後に残されるホログラフめいた残像に惑わされ、火力を集中できぬ。「フォホホホホ……イヤーッ!」その隙を狙い、彼はロータス型スリケンを連続投擲した!「「「グワーッ!」」」クローンヤクザ殲滅! 

「トレーニング、トレーニング、トレーニング行為」無傷の重モーターヤブが無機質な電子音声とともに、ガトリングガン腕で室内全体を薙ぎ払った!BRATATATA!「イヤーッ!」ブラックロータスは跳躍回避!「ピガガガガガーッ!」後方でバランスを崩していたモーターヤブに銃弾が命中! 

 おお、何たる攻防一体のカラテか……!残るはもはや重モーターヤブ1機のみである。「イヤーッ!」ブラックロータスは低姿勢で駆け込み、体重を乗せた装甲板へのカラテパンチを叩き込んだ!「ピガーッ!」だが重モーターヤブはまだよろめかない。反撃とばかりにサスマタ腕で周囲を薙ぎ払う! 

「イヤーッ!」ブラックロータスは地上にオーラ残像を残し跳躍!空中で握った両腕を腰に引いてカラテを高めると同時に、モーターヤブの頭部を真上に蹴り上げた!「ピガーッ!」仰け反る!間髪入れず、着地から左右のカラテパンチ!「イヤッ!イヤッ!イヤーッ!」「ピガッ!ピガガガガガーッ!」 

 そしてブザマな軋み音を立てながら、重モーターヤブは転倒したのだ。『トレーニング終了ドスエ……』電子マイコ音声が響く。このわずか100秒間の戦闘で、どれほどのカネが消費されただろう。「フゥーッ……フォホホホホホ……」ブラックロータスは歯を剥き出しにして笑い、ザンシンを決めた。 

『戦闘解析結果を表示しますドスエ……』モニタに戦闘評価グラフが映し出される。このプログラムも当然特注で、極めて高価だ。潤沢なマネーがあるからこそ、タダオは最高品質のトレーニングを行えるのだ。フォウーン……静かな駆動音を立てながら、特注ロータス型浮遊玉座が彼の横にやってきた。 

「全てはマネーあればこそよ……」タダオは心地よく冷却された快適な浮遊玉座に乗り込み、くつろいだ。両腕が自動的にメディカル拘束され、バイタル情報が計測される。さらに……リー先生から提供されている特殊配合エキスが、彼の首筋へと自動注入された!「……アウッ!アッ……ウーッ……」 

 タダオは思わず唸った。このエキス注入だけは、未だに慣れぬ。だがリー先生の言葉通り、その摂取必要量は徐々に減っている。「そして、これもまた……マネーの力……!」彼はカラテ漲る己の両手を見た。この神秘的なニンジャソウルの力。……それすらもが、マネーの力で買い取ったものなのだ! 

 ブッダをも恐れぬタダオ大僧正、いや、ブラックロータス……何たる恐るべき敵か!果たしてニンジャスレイヤーは、この難攻不落の大ブッダ要塞と邪悪なるアマクダリ・ニンジャ幹部に、如何にして挑むのであろうか……!?






 闇の中、UNIXメインフレーム群のLED光がホタルめいて明滅する。そこは大ブッダ座像の背後に聳え立つ、制御モノリスの内部。そこに宗教色は一切存在しない。窓の無い壁ぞいに整然と積み上げられた無数のUNIXは、タワー型駐車場めいて格納された車か、あるいは旧式の電子墳墓を思わせる。 

 地階より上に床は無い。代わりに、中央部には太い銀色の柱が一本立ち、回転昇降リフトが備わっている。本来、これらのUNIXで作業しようとする者は、地階からリフトに乗り、目的のUNIX端末まで上昇せねばならぬ。しかし彼女は、屋上からロープに吊られた状態でハッキングを行っているのだ。 

 彼女はどこからこの制御室へと侵入したのか?……屋上である。地上階は、荘厳な黄金マンダラやオブツダンで装飾された二足歩行兵器ホーリー・ヤブや、聖職者用拳銃で武装したクローンヤクザボンズによって守られているからだ。……では、彼女はいかにしてこの制御モノリスの屋上に到達したのか? 

 ……答えは無論、ニンジャの力である。だが彼女自身がニンジャというわけではない。彼女の名はナンシー・リー。アマクダリ・セクトの非道行為を暴くフリージャーナリストにして、試算懲役数千年のヤバイ級ハッカーだ。そしてナンシーは、対ソウカイヤ時代からのニンジャスレイヤーの盟友でもある。 

『何もかもが、ブディズムの皮を被った紛い物ね。ブッダもさぞ怒ってるでしょう』ナンシーは深呼吸しながら端子を引き抜き、静かに壁を蹴って姿勢制御を行った。額の汗を拭う。『褒められるのは、インセンスくらいなもの』かすかに漂うオーガニック・センコの香りが、彼女のニューロンを慰めた。 

 ナンシーはサイバーサングラスに表示された猶予時間を見る。『少し遅いんじゃないかしら、ニンジャスレイヤー=サン』……2時間前、彼女はネオサイタマの死神と共に、この制御室へ密かに侵入した。むろん、彼がいなければ脱出は不可能である。そして今、彼女の横にニンジャスレイヤーの姿はない。 

 作戦失敗は死を意味する。だが彼女はまだ取り乱さない。手元の自動ウィンチを操作し、巧みに五段上の端末へ到達する。今日のために、彼女はクライミングロープの入念なトレーニングを行ってきた。『でも、なるべく早くして頂戴ね……』彼女はスゴイテック社製のケーブルで直結接続し、ダイヴした。 

 01110111011……ナンシーの論理肉体は72個のファイアウォールを欺き、制御モノリス内を飛翔する。彼女の目的はふたつ。ひとつは無論、この施設の制御システムを手中に収める事。もうひとつは、タダオ大僧正がソウカイヤ時代から行ってきた非道行為や違法行為のデータを回収する事だ。 

 ナンシーは多次元マンダラめいて視覚化されたシステムの奥深くへと辿り着き、顔をしかめた。『どうも、胸が苦しくなるわね』……集められた少年ボンズたち。その背に刻まれた管理用ブディズム・タトゥー。成長とともに濁る彼らの目。記録抹消。システムの奥深くに格納された、隠蔽の痕跡。 

 ナンシーの青くロジカルな瞳にも、しばしば炎が燃える。タダオ大僧正は己の地位とマネーのために、数々の社会不正を行ってきた。そうした邪悪光景も無論、彼女のジャーナリスト信念を突き動かす。だがそれよりも強く彼女の魂を揺り動かすのは、よりシンプルな、弱者を虐げる権力への怒りである。 

 そこから通信制御系へ接近したナンシーは、論理視界に不穏な電子ノイズを感じた。外部からのアクセスだ。強大なハッカーの気配!『**素早い茶色の狐が怠惰な犬を飛び越す**……!』それゆえ彼女は、光の如きタイプ速度でハッカー・チャントを唱え、瞬時にサーバ間を移動して身を隠したのだ。 

 ナンシーは追跡された草食動物めいて警戒した。『……逃げ切れたかしら?』物理肉体にまで震えが生じている。WHOISを叩くまでもなく、彼女はその宿敵の名を知っている。……アルゴスだ。アマクダリ・セクトが擁する、恐るべきハッカー。そしておそらくは十二人のひとりだ。 

 アルゴスの気配が消える。『……どうやら、目的は私じゃなかったみたいね。定時通信かしら。それとも、緊急通信?』ナンシーは再び飛翔を開始した。この正体不明の敵、アルゴスによるネオサイタマIRC 監視は極めて強力で、隙がない。ゆえに今回の作戦では、潜入ハッキングが必須だったのだ。 

 ナンシーは再びビズに取りかかった。ハッキングは順調だ。だが作戦はどちらかが失敗すれば終わる。猶予時間が刻一刻と過ぎてゆく。『ねえ、どうしてるの?』流石の彼女も、じりじりと不安感に苛まれ始めた頃、ニンジャスレイヤーからの通信が届けられた。『ナンシー=サン、1個目の旗を掲げた』 

 ……一方その頃タダオ大僧正は、サキハシ知事の緊急入院を受けて開催された、ネオサイタマ・ブディズム界のIRCサイバー円卓会議に参加していた。これに参加するのは、ネオサイタマの各教区にカテドラルを持つ有力アークボンズたちだ。 

「フォホホホホ……そのようなわけで、ブッダの慈悲により、サキハシ知事は一命を取り留めました。現在の政治体制には、いささかの揺らぎもありません。すなわち、戦争継続です。そのケアを何よりも優先し考えねば。市民の心のケアを」「なるほど」「一理ある」他のアークボンズたちが同意した。 

「よって、電子ハカバ計画とサイバー・ネンブツ計画の倫理問題解決を全力で押し進めたい」「なるほど」「一理ある」タダオ大僧正は参加者の反応を見て、満足げに頷いた。彼の目には、ホログラフ投影される他のアークボンズたちの顔が、数字にしか見えない。数字、すなわちマネーパワーである。 

「…しかしサイバー・ネンブツ計画は、危険な電脳麻薬の類では?」勇気ある声があがった。トコシマ教区のスナオカ大僧正だ。バックにどこかの暗黒メガコーポがついたか、あるいは聖職者の矜持か?タダオにとってはどちらでも同じだ。このような弱小マネーパワーが己を邪魔立てすることが許せぬ。 

「ではブッダの聖句を引用しよう。我々は、我々が考えた存在になれる」タダオ大僧正はスナオカの声を無視した。「されば、常に頭の片隅にブッダの教えをハードコードすれば、ブッダの事を常に考え、ブッダ状態に近くなる。ネオサイタマを安寧が満たす。それこそがサイバー・ネンブツ計画……」 

「それは許されぬ」スナオカは食い下がった。「重要なのは、個々人が己の頭で考える事だ。いかなる者になりたいかを」「そのような時代は過ぎ去った!今は暗黒と戦争の時代!誰もが追いつめられ疲弊しておる!マントラ唱える時間も無し!市民はもう十分に苦しんでおる!」タダオは声を荒立てた。 

 そして咳払いし、柔らかな笑顔に戻った。「我々は新たな選択肢を提供するだけだ。さもなくば、このような時代に悟りを開けるのはカチグミだけ。それではいけない。門戸を狭めてはならない。より多くの市民から、広く浅く、恒久的に、カネを……いや、信仰を集めなくてはいけない。そうでしょう」 

「その通りだ!」「流石はタダオ=サンだ!」中堅マネーパワーの大僧正らが賛同した。カネもまた真理なのだ。タダオは手元のIRC端末に目を落とし、緊急通信を知る。「フォホホホ……では始まったばかりですが、私はこれで。後はよしなに……」「お待ちください」スナオカ大僧正が呼び止めた。 

「何故、福祉円卓会議を延期されたのですか?」とスナオカ。「フォホホホホ……来週もやはり少々忙しく」「またぞろ、株券ゴルフですかな。マスコミが嗅ぎ付けて騒ぎ立てる前に、そろそろ御控えいただきたい」「フォホホホ、カネも無しにどう福祉をやると?」タダオは強引に円卓会議を終了した。 

 フォオオーン……。大型ジャイロモーターが駆動し、タダオのロータス型浮遊玉座をオフィスの高みへと登らせる。「さて、マネー、快楽、地位……スナオカ大僧正を、いかなる手段で堕落させるか……」タダオは次なる愉しみにほくそ笑んだ。暗殺は最後の手だ。宗教界は政財界よりデリケートなのだ。 

 だがタダオ大僧正の笑みは、大型モニタに映るアマクダリ緊急IRC通信によって中断した。「カラカミ社ビルを……ニンジャスレイヤー=サンが襲撃……!?まさか……生放送中のはず……!」タダオは己の耳を疑った。「現在、アクシスが急行し確認中だ。待機せよ」チバは固い表情で通信を切った。 

 アマクダリ幹部十二人のひとり、マジェスティ。青年実業家カラカミ・ノシトの顔を持つその男とタダオ大僧正は、知らぬ仲ではない。ニンジャとなる前から、株券ゴルフで何度も顔を合わせた。「フゥームムムム……」タダオ大僧正はジューズー・タリスマンを握り、神妙な顔で両手をこすり合わせる。 

 マジェスティは強大なニンジャだ。さらにアクシスが緊急出撃したとあれば、ニンジャスレイヤーも年貢の収め時であろう。あるいは不運にも、マジェスティは殺されるやもしれぬ。いずれにせよ、彼の会社にはダメージだ。「アコヤ=サン。カラカミ社の株券を今のうちに全て売り払いなさい」「ハイ」 

 その時である、アコヤがネットワークの異常に気づいたのは!「……これは……スミマセン。売却できません。磁気嵐でしょうか、接続が乱れております」「……何だと?」直後、大ブッダ要塞と制御モノリス内部に緊急警報音が鳴った!ブガー!ブガー!ブガー!ブガー!電子ボンボリが回転明滅する! 

『カラダニキヲツケテネ……カラダニキヲツケテネ……キョート共和国からのニューク弾道弾接近を検知……本施設は直ちにシェルターモードに入りますドスエ……』無表情な電子マイコ音声とともに、テンプルの敷地を支えていた地盤が四方ロック解除された。施設全体が地下へと下降を開始したのだ! 

 敷地の境界で大ブッダ座像を仰ぎ見ていた市民らは、突如道路から屹立した高さ10メートルの対暴徒用防壁によって、容赦なく敷地外に弾き出された。「アイエエエエエ!」「ナムアミダブツ!」カスミガセキ・ジグラットを霊的に守護するスフィンクスの如き大ブッダ座像が、地下へと沈んでゆく。 

 プシューガゴンガゴンガゴンプシュー……完全防音のオフィス内にまで、凄まじい揺れと圧縮空気排気音が響き渡る。「アコヤ=サン、情報は確かか?ニューク弾道弾など、ありえん話だぞ!」タダオが額に脂汗を滲ませながら問う。「い、一時的に物理回線が切断されます、復帰まで確認できません!」 

「誤作動やハッキングの可能性は無いのか?!」ブラックロータスのニンジャ第六感が冴え渡る!「ひ、否定できません!」アコヤがスゴイ級ハッカーの腕前で高速タイプし、汗を拭う。「ムゥームムムム…!」大僧正には選択肢があった。このままシェルターに籠るか、あるいは自分だけ脱出するかだ。 

 (((この大ブッダ要塞は無敵。地下に潜りシェルター化すれば、ニュークはおろか、ニンジャ軍団の包囲攻撃にも耐える……!)))タダオはザゼンを組み、沈思黙考した。(((ましてや、今死神がカラカミ社を襲撃している。危険きわまりない!何故この無敵要塞を捨て出てゆかねばならぬ?))) 

 (((そうだ、何のために要塞にカネを費やしたのだ!万一、ニューク攻撃が真実ならば、身を晒すのは救い難いバカ!さらに、この中にいればネオサイタマの死神も手出しできぬ!)))タダオはニューロンを限界酷使する。猶予時間は少ない。(((どちらに転ぼうと、籠るのが最善の選択肢!))) 

 タダオ大僧正は動かず。それが答えだった。彼はロータス型浮遊玉座の上でザゼンを続けた。……10月10日午前01時08分。大ブッダ要塞と制御モノリスは地下へと沈み、地上では、分厚い隔壁が閉ざされて強化コンクリートの天蓋を為した。ブラックロータスの要塞は陸の孤島と化したのだ……!


 

「おい、何が起こってる?!」「最終戦争の時が訪れたか?」黒い反ブッダTシャツを着た二人組の長髪男が、テンプル敷地内で狼狽していた。片方は刃渡り2メートルの大剣フランベルジュ、もう片方はブーメランナイフを装備。聖職者襲撃を企むアンタイブディズム・ブラックメタリストの戦士たちだ。 

 ブラックメタルバンド「カナガワ」の初期音源と薬物で完全に仕上がったこの暗黒の尖兵たちは、今夜偶然にも装甲バンでタダオのカテドラルに突撃。聖職者を襲って所持物を奪い、サークル内での発言力を高めようとしていた。聖職者拳銃か歩行兵器ホーリーヤブの装飾品を奪えれば、かなりハクがつく。 

 バイオ松虫の鳴く音。二人の反ブッダ戦士は、ほのかな電子光を放つデジ灯籠やマニローラーの間を慎重に進んだ。「地割れが起こり大ブッダ座像と俺たちは奈落へ沈んだ」「空は閉ざされ遂にブッダセイタンの惨たらしい暗黒の統治時代が訪れるのか?」彼らの言葉には禍々しい装飾がちりばめられている。

 ガションガションガション!境内の庭を進む二足歩行機械の駆動音。「境内内の敵を排除します、これは全て合法な自衛活動であり、我々に一切落ち度が無い!」情け容赦ない電子合成音が聞こえる。「出たぞ!」反ブッダ戦士が震えながら指差した。灯籠の間に、巨大な黒漆塗りの機体がぬうっと現れた。 

「「慈悲深いホーリーヤブは10秒間だけ投降を受けつけます」」2機の歩行兵器が警告した。機体にはブディズム的な黄金装飾がなされ、その荘厳な姿は、さながら歩くオブツダンだ。極めて高価なカスタムであり、タダオ大僧正のメディア露出時の身辺警護、および教区のPR活動に役立っている。 

「ウオーッ!カナガワ!」フランベルジュを構えた反ブッダ戦士が突撃。棒立ち状態のホーリーヤブの背後を取り、弱点とされる背面や脚部に対し力任せに攻撃を繰り出す。「ウワーッ!固い!」彼はヤブの背中にある黄金後光装飾を微かに傷つけたが、歯が立たず、逆に手首への衝撃で剣を取り落とした。 

「「攻撃を受けたので受付を終了します」」ホーリーヤブはサスマタを装備し、反ブッダ戦士に襲いかかった。「アイエエエエ!」オナタカミ社によるAI改善を思わせる、高度なルーチンだ。「逃げろ!」ブーメランナイフを構えたもう一人のブラックメタリストは、仲間を見捨てて庭園の石畳を逃走! 

「ハァーッ……ハァーッ…!」反ブッダ戦士は息を切らしながら庭園を逃げた。背後からは仲間の悲鳴。左右には延々と続くデジ灯籠。そして……前方に立ち塞がる偉丈夫の姿!さてはボンズか!「アンホーリー・カナガワ!」反ブッダ戦士は一か八かで、前方の人影に対しブーメランナイフを投げつけた! 

「イヤーッ!」突如、空気を震動させるようなカラテシャウト!それと同時に、ボンズは右手に握った重々しいブッダメイスを振り下ろした。SMAAASH!彼は殺人武器ブーメランナイフを一撃で破壊した。およそ人間業とは思えぬ。ボンズの両目が白く発光する。「……久々に仏敵が現れたかァ〜?」 

「アイエエエエエ!」反ブッダ戦士はそれを見て烈しい恐怖に打たれ、失禁した。ナムサン!彼の前に現れたのは、ただの巨漢ボンズではない。ボンズのニンジャであった。さらに異様な事に、その男の鼻から首元は金属製ゴルゲットで覆われ、頸動脈のみならず後頭部の増設記憶装置を固く守っていた。 

「ドーモ、テンプラーです」ニンジャは再び、瞳の無い白目を内側から威圧的に発光させた。「アイエエエエエ!投降します!」反ブッダ戦士は膝をつき、両手を後頭部に回した。テンプラーは応えず、メイスを構えながら、歩み寄った。「ブッダ曰く!この世界には、決して長く隠し通せぬ物が三つ!」 

「アイエエエエ!と、投降!投降を!」何かがおかしい。不穏なアトモスフィアを感じ取り、反ブッダ戦士はうろたえた。いくらニンジャでもボンズなら、投降を受け付けるはずだ。だが……「それは太陽なり!イヤーッ!」「グワーッ!」テンプラーの重いメイスの一撃が顔面に叩き込まれた! 

 それは手加減された一撃だ。反ブッダ戦士は即死せず、ティーショットめいて弾き飛ばされ、石畳を転がった。「何か言ったかァ〜ッ?仏敵めがァ〜ッ!?」テンプラーは大股で歩み寄り、敵を立ち上がらせると、次は腹にメイスを叩き込んだ。「投降を…」「それは月なり!イヤーッ!」「アバーッ!」 

「物足りんなア〜ッ!?」テンプラーはメイスの血を振り払う。それは先端部に金属製の環が何個も備わり、振ると神秘的な音が出る。また中空状の内側にはマントラを刻んだ小型マニがあり、振るたびに回転し、聖典を唱えたのと同じ効果をもたらすのだ。「ア……ア……」暗黒の尖兵は既に虫の息だ。 

「そして三つ目はア〜ッ……」テンプラーは血みどろの襤褸布と化した若者の襟首を掴み上げ、参道の横で自動洗車機めいてオートマチック回転を続けるマニ・ローラーとマニ・ローラーの隙間に彼の頭を…!「……ヤ、ヤメロー!ヤメロー!」「真実である!」「アバババババーッ!」ナムアミダブツ! 

 ガゴガゴガゴ……頭を失った反ブッダ戦士は、ゆっくりと倒れ、びくびくと痙攣した。地面には圧搾されたトマトめいてゴアが撒き散らされていた。「フオーッ……仏敵を滅ぼしたり!」テンプラーが満足げに哄笑する。増設記憶装置から、また別の聖句がダウンロードされる。おお……何たる邪悪さか! 

 マニ・ローラー、ブッダメイス、オブツダン、そして大ブッダ座像そのもの……これら全ては本来、ブディズムの厳粛なる祈りと救いと悟りのために用いられるべきものである。だがここを支配する邪悪なニンジャたちの手に掛かれば、いとも容易く、それは集金と殺戮を正当化する道具へと変わるのだ! 

 そこへ、タダオ大僧正からのIRCが無線LANを介して届く。『フォホホ……テンプラー=サン、今日も仏敵の排除に精が出ておるな』「ドーモ、ブラックロータス=サン。テンプラーは仏敵の存在を許しません」『ホーリーヤブとクローンヤクザボンズ部隊を引き連れて、制御モノリスへ向かうのだ』 

「制御モノリスへ…このシェルター化と何か関係が」テンプラーは思案した。彼にも作戦遂行のための思考力はある。彼はただ宗教的権力の下に殺人を犯す高揚感の虜となっているのだ。『左様、下劣なハッカーが忍び込んだ。この私の蔵に蓄えられた潤沢なマネーと黄金を盗み出すためにな。始末せよ』 

「下劣なハッカー……!仏敵……!フオーッ!このテンプラーめに御任せください!ブラックロータス=サン!」テンプラーは大ブッダ座像に対して深々とオジギし、手勢を引き連れて制御モノリスへと向かった。あとには、無惨なブラックメタリストの死体が2つ残されているだけだった。 

「フォホホホホ……念には念を入れ、シェルター内に籠っておいて正解であった事よ!」大ブッダ要塞内のオフィスでは、ブラックロータスが己の采配を自画自賛していた。「アコヤ=サン、ログ解析結果のほうはどうか?」 

「ハッカーの物理侵入可能性は俄然高まり続けています……!」アコヤは汗を拭いタイプした。「ずさんで粗い仕事です……ログにハッキング痕跡が見えます。タダオ=サンの電子マネー素子の認証情報を攻撃しようとし、失敗……誤って緊急アラートのトリガを、踏み抜いた……!そのように読めます!」

「フォホホホ……つまり、ニューク攻撃は起こっていないと」「そうでしょうな」アコヤもやや平常心を取り戻して言う。「そして、私のマネー認証情報も未だ無傷であると」「ハイ、制御モノリスからだけでは完全には破壊できません。大ブッダ座像内のメインフレームとの間で二重保護されています」 

「ゆえに連絡路を封鎖し、閉じ込められたネズミを掴まえるのみ。愚かなハッカーよ。ゆっくりいたぶってくれよう。まさか自らの強欲さが招いたウカツで、檻に閉じ込められようとは、夢にも思っていなかったであろう!これもまたインガオホー……」ブラックロータスの背から黄金のオーラが漂う。 

「果たして何者がこのような真似を」アコヤが疑問を口にする。「内通者の手引であろうな。人は弱い。膨大なマネーは人の心を狂わせる。フォホホ……この私のような聖人でなければ、その力を正しくは振るえぬのだ」タダオは浮遊玉座を操作し、黄金とメインフレームを守る己の礼拝堂へと向かった。 

「ハァーッ、ハァーッ……!」制御モノリス内でも非常警報が鳴り響く中、ナンシー・リーは床から20メートルの高さで、天井から宙吊り状態のまま待機し続けていた。いかなロープトレーニングを積んできたとはいえ、過酷な姿勢だ。施設下降時の揺れを、彼女の肉体はまだ余韻めいて錯覚している。 

 暗闇の中に浮かぶナンシーの姿はあたかも、ブッダがジゴクへと垂らす頼りない糸にぶら下がった罪人めいている。だがいま彼女を支え、子供の寝床のモビールめいて静かに回転させているのは、何の変哲も無いカーボン製クライミングロープであり、ブッダの慈悲の目はここには届かないのだ。 

 ニンジャスレイヤーとの合流は未だ果たせていない。「もう少しよね……」IRCの情報が正しければ、彼はカラカミビルからここへ向かい、地上の隔壁が封鎖される前に、ブッダ座像とモノリスを含む広大なシェルター空間へダイヴしたはずである。そして、制御室へ一直線に向かっているはずなのだ。 

 タイムプランを引いたのは、ナンシーである。当初の作戦では、彼らは五分前に実際合流を果たしているはずであった。ナンシーは見切り発車で、このハッキング攻撃を発動させたのだ。「これでタダオ大僧正……いえ、ブラックロータスを地下に閉じ込め、一時的にアマクダリとの通信も断った……」 

 ナンシーが意図的に残した痕跡により、敵はどこかの敵性ハッカーがタダオ大僧正のマネーを奪おうとしていると誤認するだろう。それでさらに敵をミスリードし、時間を稼ぐ手はずだ。……だがそれは彼女にとって危険な賭けでもある。ニンジャスレイヤーは本当にシェルターの内側に潜り込めたのか? 

 檻に閉じ込められたのはブラックロータスか?逆に、自分が檻の中に残されてしまったのでは?平安時代の兵法家ミヤモト・マサシのコトワザ「6フィート下に掘ったら自分が出られない」が脳裏をよぎる。「タイピングの乱れ…良くない兆候」ナンシーはザゼンじみた呼吸で不安感を打ち払う。その時! 

「「「ザッケンナコラーッ!」」」突然のヤクザスラング!ナンシーは心臓を掴まれたような感覚を味わう!ナムアミダブツ!ナンシーのハッキングにより電子ロックされていた制御室のドアが、何らかのギアを使って外側から強引に押し開かれ、屈強なクローンヤクザボンズたちが踏み込んできたのだ! 

「「「……アッコラー……?」」」だが、直ちにはナンシーを見つけられない。20メートル上でコーカソイド美女がロープで宙吊りになっていようとは、瞬時には判断できないのだ。彼らは聖職者拳銃を構え、各々のサイバーサングラスのライトで暗闇を照らしながらゆっくりと歩き、室内を調査した。 

 だが発見は時間の問題だ。彼女はあたかも、サバンナで猛獣に囲まれ、木の上に逃れた小動物か。(((こんなところでオシマイ?まさか、そんな筈ないわよね……?)))ぎりぎりとロープが食い込む。ナンシーの首筋に、豊満なバストに、汗が滲む。そして汗は、雫となって……無慈悲に落下した。 

 (((アブナイ!)))ナンシーはうなじに手を伸ばす!だが遅かった。水滴は自由落下を続け、床を打つ。……静寂。サイバーサングラスが何かを感知する。クローンヤクザボンズたちは暗視モードのまま顔を見合わせ、静かに集結する。そして全員で水滴を囲み、無言で頷き、銃を構え、上を見た。 

 だが彼らを祝福したのは、サイバーボディスーツを着て宙吊りになるコーカソイド美女の姿ではなかった!「イヤーッ!」不意に天井ハッチが開き、スリケンが高速投擲されたのだ!それは無慈悲なる復讐の鋼鉄!「「「グワーッ!」」」スリケンはクローンヤクザボンズたちの額に突き刺さる!即死! 

 だがナンシーが安堵の息をつく間もなく「「「スッゾコラー!」」」室外から連鎖的に突撃してくる増援ヤクザ軍団!「Wasshoi!」禍々しくも躍動感のあるカラテシャウト!ネオサイタマの死神は天井ハッチから着地を決めると、間髪入れず、砲弾めいた勢いで飛び掛かってカラテを繰り出した! 

「イヤーッ!」「グワーッ!」拳がヤクザボンズの顔面を叩き、サイバーサングラスごと骨を砕き殺す!「イヤーッ!」「グワーッ!」銃弾をかいくぐりながら懐に潜り、ジュー・ジツで二人巻き添えにしながら投げ飛ばし殺す!「イヤーッ!」「グワーッ!」回し蹴りが聖職者拳銃もろとも首を撥ねる! 

 だがナンシーが安堵の息をつく間もなく「「「ダッテメッコラー!」」」連鎖的に突撃してくる増援ヤクザ軍団だ!「「ドーモ、ホーリー・ヤブはブッダの使い」」さらにホーリーヤブ2機が突進してくる!「スゥーッ……ハァーッ……!」ニンジャスレイヤーは短いザンシンを決め、再び静から動へ! 

「イヤーッ!」「アバーッ!」拳がヤクザボンズの顔面を叩き、サイバーサングラスごと骨を砕き殺す!「イヤーッ!」「アバーッ!」銃弾をかいくぐりながら懐に潜り、ジュー・ジツで3人巻き添えにしながら投げ飛ばし殺す!「イヤーッ!」「アバーッ!」回し蹴りが聖職者拳銃もろとも首を撥ねる! 

「ホーリーヤブは仏敵を許さないです」敵は規則的な動きでサスマタを突き出し突撃してくる!「イヤーッ!」死神は連続バック転を打つ!さらに体を捻って背後を向き、壁を上に走りサスマタ回避!壁を蹴って離れ、ホーリーヤブの後ろに着地しながら渾身のチョップ!「イヤーッ!」「ピガガーッ!」 

 ホーリーヤブの背中を飾る金色のブッダ装飾物が粉々に砕け散る!「ホーリーヤブは強く神々しい!」「イヤーッ!」2機目の電磁サスマタ攻撃をジャンプ回避しつつスリケン投擲!「グワーッ!」ニンジャスレイヤー出現を報告すべく退却開始していた隊長級クローンヤクザボンズ後頭部に刺さり即死! 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは鮮やかなジュー・ジツで電磁サスマタを奪い取り、敵の得物でホーリーヤブの脚部を攻撃する!脚部が弱点だ!「ピガーッ!」「イヤーッ!」「ピガーッ!」「イヤーッ!」「ピガガガガーッ!」脚部を損傷し身動き不能と化したホーリーヤブへ情け容赦ない追撃! 

 波状攻撃に一瞬の凪ぎ。ナンシーはロープを使って降下し、ヤブ残骸の背後に隠れた。その上に立つのは、サスマタを放り捨てザンシンを決める死神。装束は既に襤褸布めいて、血の臭い。「少し遅れたわね」「男を中継地点で預けたが故」死神は背を向けたまま言った。ナンシーは笑む。「反撃開始よ」 

「どうした!何を手間取っているか!この一瞬一瞬にも、仏敵はブラックロータス=サンの神聖施設を汚染しておるのだぞ!イヤーッ!」「「アバーッ!」」後方で待機していたテンプラーは怒りを露にし、ブッダメイスを振り回しながら、渋滞したクローンヤクザボンズの隊列を左右に押しのけ前進! 

 前方から出現したのは火花散らす歩行兵器!「ホホホーリー、ホーリーヤブ、リーヤブは強く神々しホホホーリーヤブ!」直結ハッキング攻撃を受け錯乱したホーリーヤブだ!「フオーッ!薄汚いハッカーめが!ブッダ曰く!」テンプラーはブッダメイスで打ち据える!SMAASH!「ピガガガーッ!」 

「……汝を真に愛すべし!イヤーッ!」SMAAASH!「ピガガガーッ!」次は機体側面を左から右へ殴りつける!痛烈!ホーリーヤブは仰け反り後退!「……さすれば汝、他者を傷つける事無し!イヤーッ!」CLAAAAASH!「ピガガガガガーッ!」右から左!何たる膂力!ホーリーヤブ転倒! 

 ブッダの聖句を唱えながら殴るたびにブッダメイスのマニ機構が働き、テンプラーの宗教的陶酔は高まる一方だ!「フオーッ!仏敵めが〜ッ!この程度で我らの神聖性に挑むとは片腹痛いわ〜ッ!」テンプラーは堕落したホーリーヤブを踏みしだいて前進!ナムサン!あたかもジャガーノートの如き勢い! 

「ブッダ曰く!……あらゆる防御を越え汝を責めさいなむ力あり!それは汝自身の思考なり!」ついに制御室の戸口へ到達!「仏敵めが、汝の邪悪な思考を悔い改めるがよいわ!イヤーッ!」「アバーッ!」飛んできたヤクザボンズ死体を叩き落とし、テンプラーは制御室の中を見る!「こ、これは……!」

 ナムアミダブツ!既にそこは、うずたかく積み上げられた死体と残骸の山!床も見えぬ!クローン聖職者の躯の丘の上に立ち、暗黒カラテを構えるのは、ネオサイタマの死神!「ドーモ、テンプラー=サン、ニンジャスレイヤーです」赤黒のニンジャ装束を纏ったその男は、まさにジゴクの悪鬼の化身か! 

 その男の両目には、血の矢の如く鋭い輝きが宿る!周囲の血煙によってか、あるいは輪郭を超自然の風に揺らす襤褸布によってか、一瞬、彼の禍々しいシルエットは何倍も巨大に見えた!だが敵も臆せずアイサツを返す!「ドーモ、テンプラーです。…破廉恥にも神聖施設へ現れおったか!真の仏敵めが!」

「掛かってくるがよい、コワッパ」ニンジャスレイヤーは両の拳に力を籠めた。そして「忍」「殺」メンポから、不吉な蒸気を吐き出す。室内に凄まじいカラテが張りつめ、ナンシーは遮蔽の影で頭を下げる。両者は睨み合い、そして「「イイイイヤアアアーッ!」」同時にカラテ突撃を繰り出した! 

「仏敵めが!憎悪の獣めが!仏罰を受けよ!イヤーッ!」テンプラーが渾身の力でメイスを振る!狙うは敵の胸部!メイスが内側から発光!これは何らかのエンハンスメント・ジツだ!直撃すれば骨ごと心臓が砕け散るであろう!「イヤーッ!」だが赤黒い風と化した死神はワン・インチ下をかいくぐる! 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの重い右フックが、テンプラーの腹部にめり込んだ!「グワーッ!」死神は間髪入れず踏み込み、左!あまりに強烈な踏み込みにより、足元ではヤクザボンズの生首が砕ける!「イヤーッ!」「グワーッ!」何たる無慈悲なカラテ!テンプラーは目を剥き一歩後退する! 

「ブッダ曰く!憎悪を憎悪で滅すること能わじ!イヤーッ!」体勢を立て直したテンプラーがメイスを振る!捉えた!「イヤーッ!」だが死神は咄嗟に右腕を黒い憎悪の炎で包み、カラテで弾く!鋼鉄メンポが熱を帯びフジキドの頬を灼く!「ただ愛のみがそれを為す!イヤーッ!」「イヤーッ!」弾く! 

「ホーリーブッダ!力を!イヤーッ!」テンプラーが両手でメイスを握り、大上段に振り上げ叩き落とす!だが死神は一歩も退かず!ニンジャスレイヤーは内なるカラテを一点集中させ、真上にパンチを叩き込んだ!「イイイイヤアアアアーッ!」SMAAASH!死神の拳が神聖ブッダメイスを、砕く! 

「バカナー!」テンプラーが絶叫!すかさず憎悪の炎を収め、連続カラテを叩き込むニンジャスレイヤー!「イヤーッ!」顔面へのカラテストレート!「グワーッ!」「イヤーッ!」鋭いメイアルーア・ジ・コンパッソ!「グワーッ!」テンプラーはオブツダンめいたホーリーヤブ残骸に叩き付けられる! 

「説教はもう終わりか?イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーはテンプラーの後頭部を掴み、再びホーリーヤブ残骸に叩き付ける!「イヤーッ!」「グワーッ!」再度叩き付ける!「イヤーッ!」「グワーッ!」叩き付ける!!「イヤーッ!」「グワーッ!」叩き付ける!!残骸が砕け散る! 

「ブッダ……曰……ピガガガガーッ!」ゴルゲットと後頭部の増設記憶を損傷し、テンプラーは混乱状態に陥る!「獣めが……!神聖なる怒りをピガガガーッ……!」酩酊した熊めいて蹌踉めき、大振りのカラテを繰り出すテンプラー!だがニンジャスレイヤーはその下で屈み、必殺のタメを作っていた。 

「イイイヤアアアーッ!」「グワーーッ!!」おお、見よ!それは伝説のカラテ技、サマーソルトキック!ニンジャスレイヤーの蹴り足が、ブッダ聖堂戦士の首を狩る!デジ・マニで満たされた頭部が高速回転!スゴイ!首を失ったテンプラーの巨体は、よろめき、頭部もろとも爆発四散!「サヨナラ!」 

「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ…!スゥーッ、ハァーッ、スゥーッ、ハァーッ!」しめやかに着地を決めたニンジャスレイヤーは、致命的な角度に傾きかけた己の魂を、深く苦しげなチャドー呼吸で引き戻す。ナンシーに背を向けたまま。彼は合流からまだ一度も、ナンシーと向きあってはいないのだ。 

「急ごう、ナンシー=サン」フジキドは己を取り戻し、振り向いた。「ええ」精神の半分をネット没入させたナンシーは、彼の未だ輝く瞳を、ざわめくメンポを、恐れはしなかった。「目標ポイントまで背負う」「お言葉に甘えるわ」それはこの夜のフジキド・ケンジの魂にとって、幸いなことであった。 

 かくして二人の軍団は、死屍累々たる制御室を出でて、黄金ブッダ座像へと向かった。だが猶予時間は刻一刻と失われてゆく。アルゴスやアマクダリ本体がこの事態に気づくのは時間の問題であろう。果たしてブラックロータス暗殺作戦は間に合うのか!?走れ!ニンジャスレイヤー!走れ! 




「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはナンシー・リーを背負いながら回廊を駆ける!「ザッケンナ仏敵コラーッ!」前方右側のフスマが開き、クローンヤクザボンズが出現!発砲!BLAM!「イヤーッ!」疾走を止めず弾丸回避!さらにハードル競技めいたトビゲリで殺す!「イヤーッ!」「グワーッ!」 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはナンシー・リーを背負いながら回廊を駆ける!「ワメッコラ仏敵コラーッ!」前方左側のフスマが開き、クローンヤクザボンズが出現!発砲!BLAM!「イヤーッ!」疾走を止めず弾丸回避!さらにハードル競技めいたトビゲリで殺す!「イヤーッ!」「グワーッ!」 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」フスマから続々出現する紫ヤクザスーツのクローン聖職者を蹴り殺し、死神は突き進む!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ヤクザサングラスをかけたスキンヘッド生首が、休む間もなく刈られてゆく!ナムサン! 

 ガゴンプシュー!緊急システムが作動し、前方の隔壁が閉ざされる。壁に埋め込まれたUNIXターミナルをクローンヤクザボンズが操作しているのだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーはこれを蹴り殺し、ナンシーを素早くターミナルに横付けした!「私の出番ね」LANケーブル直結! 

 0111011110111011……ナンシー・リーの意識は即座にIRCコトダマ空間へとダイヴ。彼女はファイアウォールの守りを放棄してさらにスピードを増し、電子空間を飛翔。山水画めいた山岳部を抜け、巨大なテンプルの堅牢な門の前へと到達した!「ずいぶん固い。ちょっと急がないとね」 

 ナンシーの論理肉体は目を閉じザゼンする。そして一瞬、その論理肉体を無数の蛍光グリーン01集合体へ分解し、凄まじいタイプ速度でシステムの門をすり抜けた!テンサイ!「何事も試してみるものね」無数の蝋燭が揺れる制御システム内側で、ナンシーは元の姿に戻り、目当ての蝋燭の火を吹き消す! 

 0111010011……ガゴンプシュー!隔壁のロックが解除され、ニンジャスレイヤーたちを要塞の内奥へと迎え入れる。ナンシーはLAN直結を解除し、鼻血を拭った。「もう少しでシステム制御室を制圧できるわ」彼女が再び背中に固くしがみつくと、ネオサイタマの死神はスプリントを開始した。 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」フスマから出現するクローン聖職者を蹴り殺し、ニンジャスレイヤーは大回廊を進む!「「ホーリーヤブは神々しく強い!」」二足歩行兵器が前方を塞いだ。アブナイ!制御モノリス襲撃時とは異なり、その腕には黄金マニ装飾ガトリングガン! 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは右のフスマを蹴破り、ザゼンルームに飛び込んで緊急回避!BRATATATATATA!聖なる銃弾の雨が大回廊を薙ぎ払う!間一髪!キューン……ガトリングが空回りし、弾丸ベルトを最装填。「「投降を受け付けています今」」「イヤーッ!」再び飛び出す死神! 

 BRATATATATA!弾幕!だがニンジャスレイヤーの動きは速い!ナンシーを背負っていないからだ。代わりに、彼の右手にはLANケーブルが!おお……ザゼンルームから伸びるのは、スゴイテック社製のハッカー仕様LANケーブル!「イヤーッ!」死神は壁をジグザグに蹴り渡り敵の背後へ! 

「「ピガッ!?」」ホーリーヤブが背後を振り向かんとする。だが遅い!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは左の機体のオブツダン背面装飾を、神をも恐れぬカラテパンチで粉砕!「ピガガガーッ!」装甲を破られ出現した制御端子へ素早くLANケーブル接続!ナンシーとホーリーヤブが直結された! 

 動きを止めず、ニンジャスレイヤーは右の機体の脚部弱点へと、全体重を乗せた連続ケリ・キック!「イヤーッ!」「ピガーッ!」「イヤーッ!」「ピガガーッ!」ほぼ同時に、直結攻撃を受けていたもう一方のホーリーヤブは頭から火花を散らしうなだれた!「ピガガガガーッ!」何たる高度な連携か! 

「タ……タダオ=サン、奴らは化け物です!無敵の大ブッダ要塞が……そんな……そんなバカな!」アコヤが事務所からIRC報告する。『おのれ……ニンジャスレイヤー=サンめ……!まだ接続は復帰せぬのか!』タダオ大僧正は事務所を放棄して久しい。彼は最も堅牢な自らの黄金ルームにいるのだ! 

『並列クローンヤクザボンズも駆使し、全力を尽くしております!これはかなりのタイプ速度です!しかし……!核シェルター化による物理回線切り替えのため、あと十数分は……如何ともしがたく……!』「……ヌウウウウーッ……」タダオ大僧正は浮遊玉座のモニタを睨み、苛立たしげに拳を握った。 

「ならばアマクダリとの接続が復帰するか、核シェルターの大隔壁を解除できるまで、時間を稼ぎなさい!私は戦いたくないのだ!ヘヴィホーリーヤブを放て!」『し……しかし、この先の広間には、平安時代からの文化遺産ブッダファイター木像が多数……!』「安いものだ!この私の命に比べれば!」 

『ヨ……ヨロコンデー!』アコヤは制御端末を操作した。「惜しまずに投入しなさい!大ブッダ要塞の真の恐ろしさはこれからだ……!」タダオには確かに、強大なニンジャソウルが宿っている。だが彼は抜け目無い。危険はカネで回避する。だからこそ彼はアークボンズの地位まで上り詰められたのだ! 

「イイイヤアアアアアーッ!」「ピガガガガーッ!」ニンジャスレイヤーの渾身のカラテが、ついにホーリーヤブを破壊!ザンシンを決める死神。彼の隣に立ち、ともに前方の大ザゼンホールを睨むのは……もう一機のホーリーヤブ!ナンシーが直結ハッキングでその機体制御システムを乗っ取ったのだ! 

『HIYA』鹵獲ホーリーヤブから電子音声!それはナンシーのIRC発言だ。彼女の本体は安全なザゼンルームにある。「音も聞こえるか」『ええ、でもだいぶノイズ』「では何が来るか解るな」……ガション!ガション!ガション!ホーリーヤブよりも遥かに重く不吉な駆動音が前方大ホールに響く! 

『識別信号パルスも確認。ヘヴィホーリーヤブ。主武装はヘヴィ・マニ・ガトリングガン』入念な下調べが功を奏す!「奪うか?」『ノープ。難しいわ。それに大きすぎて制御室への回廊をくぐれない』「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回答が終わらぬうちに疾駆し、砲弾の如く大ホールに躍り出た! 

 それは奇襲を行うためであり、ナンシーのホーリーヤブを銃弾の雨から守るためでもあった!数秒遅ければ、敵はヘヴィ・マニ・ガトリングガンの銃口を回廊に突き刺し、死の掃射を行っていただろう!「ドーモ、ヘヴィホーリーヤブ、デス」闇の中に浮かび上がるは、ヤブ3機分に匹敵する巨大な機影! 

 GRATATATATATA!GRATATATATATA!「ヘヴィホーリーヤブ、ハ、ソー、ホーリー……!」両腕の重ガトリングが火を吹く!凄まじい射出速度で空中に炎の軌跡!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは大型木像と壁を跳び渡り、これを巧みに回避!タツジン! 

「イヤーッ!」「ピガーッ!」頭部へのトビゲリ!だが揺るがぬ!「イヤーッ!」「ピガーッ!」さらに一撃!未だ揺るがぬ!戦闘プログラムは粗い。加えて装飾過多。あくまでも本来は大僧正のパレード用に試作された、旧オムラの遺産だ。だがこの機体サイズは、それ自体が恐るべき暴力であり脅威! 

「ピガガガガーッ!」ヘヴィホーリーヤブは突然暴れ出し、燃え上がる木像を次々と体当たりで薙ぎ払う!機体密着者を強引に振り払い、擂り潰さんとする危機回避ムーブだ!「イヤーッ!」機体にしがみつきカラテを叩き込んでいたニンジャスレイヤーは、間一髪で跳躍回避!五連続バック転を決める! 

「イヤーッ!」ヘヴィホーリーヤブとタタミ20枚の距離を取り、壁際で着地を決めたニンジャスレイヤーは、手招きするように挑発カラテ姿勢を取った。「暴力機構にオブツダンとブッダ像を括り付ければ、神聖さで平伏するとでも思ったか?ブラックロータス=サン、これから殺しに行く。祈っておれ」

「ソー……」電子合成音が、機体8カ所のスピーカーグリルから放たれた!続けざま、敵は機体重心を下げて斉射モードに入り、ニンジャスレイヤーを睨んだ!アブナイ!両腕の功徳あるヘヴィ・マニ・ガトリングガンが火を噴く!「ホーリー……!」GRATATATATA!GRATATATATA! 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは銃弾を回避し続ける。しばしば赤熱軌跡が装束を、そして表皮をかすめ取る。何たる危険な回避ムーブか!だが彼は敵の前方射界から外れようとはしない。果たして何故?……その答えは、今しがた回廊から大ホールへ顔を出した!『HIYA』 

 それはナンシーの遠隔操作する鹵獲ホーリーヤブ!LANケーブルの長さは、既に信号減衰限界に達しようとしている!危険な賭けだ!『撃つ!』BRATATATATA!マニ・ガトリングガンが甲高い銃声を放ち、銃弾の雨をヘヴィモーターヤブの脚部に真横から叩き込んだ!「ピガガガガーッ!?」 

『撃つ!』BRATATATATA!「ピガガガガガーッ!」一点集中射撃を受け、ヘヴィホーリーヤブの脚部が軋む!なおも容赦ない射撃!『撃つ!』BRATATATATA!「ピガガガガガーッ!」ニンジャスレイヤーを狙っていた銃弾が、乱れ、壁に斜めの線を描き始める。巨体が……蹌踉めく! 

「ピガガガガガーッ!」敵はついに片脚を破壊され、仰向けに倒れ無力化した!ZGRAAAAAMN!耳を聾する転倒音!「イヤーッ!」フジキドは回廊へ戻り、ナンシーのもとへ走る。既にナラクの影は彼の奥深くへ沈んでいる。長く過酷な戦いだ。彼はペース配分を強いられる。魂のペース配分を。 

「イヤーッ!」「ザッケンナ仏敵アバーッ!」回廊後方から追い上げてきていた敵の額へと、ニンジャスレイヤーはスリケン投擲!殺害!張り詰めたLANケーブルを辿り、ザゼンルームに飛び込む。「HIYA」彼女は既に立ち上がり、ややふらつきながら、ホーリーヤブのもとへ歩こうとしていた。 

「負担はどれほどだ」ニンジャスレイヤーがナンシーを背負い問う。「大丈夫よ、意識の半分を直結先に向けているだけ」ナンシーは目を閉じ、有線鹵獲したホーリーヤブを再び駆動させた。彼女の腰に吊るされたスゴイテック社製の自動巻取型LANケーブル、その全長は最大50メートルにも及ぶ。 

 二人と一機は高速並走し、重要文化財が燃え上がる大ホールを抜けた。「イヤーッ!」「ザッケンナコラアバーッ!」クローン聖職者殺害!「イヤーッ!」「仏敵アバーッ!」クローン聖職者連続殺害!『そこの回廊を抜ければ、制御室よ』ナンシーが電子合成音でナビを行う。『猶予時間は+ーゼロ!』 

「……あのヘヴィホーリーヤブが……1分も持たずに破壊されただと……!?」タダオ大僧正はその報告を聴き、己の耳を疑った。『敵は一直線に最上階へと向かっております!』アコヤの声がうわずる。最上階、すなわちそれは、大ブッダ座像の頭部に位置するタダオ大僧正の黄金ルームを意味する。 

 ハヤイ!彼らは信じ難い速度で要塞内を侵攻してくる!『……ま、間もなく、敵は大ブッダ座像の喉元に達します!』「喉元。ここまであと僅かか。フォホホホホ……!だがその先には、私の持つ最強のニンジャを配してある!ニンジャスレイヤー=サン、そう簡単に突破できると思うでないぞ!」 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは階段を上り、回廊を駆ける!「チェラッ仏敵コラーッ!」前方右側のフスマが開き、クローンヤクザボンズが出現!発砲!BLAM!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは疾走を止めず弾丸回避!さらにスリケン投擲で殺す!「イヤーッ!」「グワーッ!」 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは縄梯子を上り、回廊を駆ける!「ダッテメッ仏敵コラーッ!」前方左側のフスマが開き、クローンヤクザボンズが出現!発砲!BLAM!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは疾走を止めず弾丸回避!さらにスリケン投擲で殺す!「イヤーッ!」「グワーッ!」 

 ニンジャスレイヤーの前方を塞ぐのは、竹林とタイガーの墨絵が描かれた見事な隔壁。カラテで破壊突破するのは困難だ。「イヤーッ!」だが彼はスピードを緩めぬ!アブナイ!このままでは激突死だ!だがその時……ガゴンプシュー!ナンシーの遠隔ハッキングにより隔壁開く!「イヤーッ!」内側へ! 

 死神は隔壁の先に展開された電磁ワイヤーと電磁ワイヤーの間を飛び込み前転で回避!「イヤーッ!」タタミに着地しカラテを構えた。メイジン!その背にナンシーは居ない。ナンシーを背負いながらでは不可能な芸当だ。……彼女はどこに?下の制御室である。鹵獲ホーリーヤブが彼女を守っているのだ。

「「「ブッダ……ナムアミダブッダ……」」」百畳ほどの暗く広大な部屋には、どこか不自然なネンブツ音声が響く。左右の壁には恐るべき形相の戦闘的ブッダ像が並び、無数の蝋燭で照らされている。それらの前には法衣を纏った人影が一列に並び、侵入者に動ずる事無く、モクギョを叩き続けていた。 

 ニンジャスレイヤーは、この一糸乱れぬ読経ボンズたちの正体を察していた。「「「ブッダ……ナムアミダブッタ……」」」それは、何十人ものクローンヤクザボンズであった。各々のモクギョの横には聖職者拳銃が置かれており、号令がかかれば全員が一斉に彼を狙うだろう。 

 ボンズたちは背を向け、読経を続ける。ニンジャスレイヤーの視線とカラテは、部屋の中央で獣じみた奇妙な柔軟運動を行うニンジャに注がれていた。その男は上半身裸。背中にはびっしりと、呪文めいたブディズム神聖タトゥーが刻まれていた。「ドーモ」室内に一触即発のアトモスフィアが満ちた。 

 そのボンズニンジャは、蛇が鎌首をもたげるかのように、不自然な身体制御でゆらりと立ち上がり、アイサツを続けた。「私の名前はアナンタです。タダオ大僧正の聖領域を侵す敵を罰し、ジゴクに落とす」「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」死神がカラテを構えた。「オヌシらの説教は聞き飽きた」 

「イヤーッ!」アイサツ終了から0コンマ2秒!アナンタは両腕をムチのようにしならせ、神秘的なドッコ・クナイを四連続投擲!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは両腕のブレーサーで弾き疾走!死の間合いへ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」カラテ激突!火花が散る! 

 正面突破あるのみ!ニンジャスレイヤーは、至近距離でカラテを繰り出し合った!「「イヤーッ!」」「「イヤーッ!」」「「イヤーッ!」」体躯は互角!だがアナンタは柔軟性と速さで上回る!まるで敵の腕を這い上るような奇怪なクロスカウンターを、死神の顔面へ!「イヤーッ!」「グワーッ!」 

「シューッ!」アナンタは両目を白く発光させ、両腕の連続打撃で畳み掛ける!そのカラテ軌跡は視認不可能!鞭を振り回しているかのような残像のみ!「ヌウーッ!」ガードを固めるニンジャスレイヤー!(((フジキドよ、こやつはコブラ・カラテの使い手…!)))ナラクの声がニューロンに響く! 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは敵の連撃に一瞬の切れ間を見いだし、薙ぎ払うようなカラテ回し蹴りを繰り出す!「シューッ!」だがアナンタはこれを紙一重のブリッジで回避!おお……何たるヨガ行者めいた柔軟性か!そのままアナンタは大きく仰け反り、自らの両足の下を前方に這い進んだ! 

「シューッ!」アナンタは鋭いドッコ・クナイを敵の脚に突き立てんとす!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはこれを小跳躍回避!タツジン!逆に高度の優位を活かし、イナズマめいた回転カラテチョップを叩き落とした!「シューッ!」アナンタは側転回避!SMAAASH!横でタタミが砕け散る! 

「シューッ!」アナンタは全身の骨を外し、とぐろを巻く蛇の如き姿勢を取ると、突如バネ仕掛けめいた勢いで飛び掛かった!(((これはコブラ・カラテの奥義、コイリング・ヘビ・カミツキ!)))「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは連続バック転回避!受け止めればマウントを奪われていただろう!

「仏敵め!手も足も出ぬようだな!インガオホーを知れ!」アナンタは再び一瞬で関節を戻し、両脚で立ち上がると、懲罰鞭めいた左右の連続カラテパンチでニンジャスレイヤーに食らい付いた!「シュッ!シュッ!シューッ!」「ヌウーッ!」赤黒の装束が切り裂かれ、霧めいた血飛沫が噴出し始める! 

「フォホホホ……アナンタ=サン、見事……!惚れ惚れとする……!」タダオ大僧正は浮遊ロータス玉座の上で、満面の笑みを浮かべていた。アナンタのカラテは、完成美の極みにある。その大理石めいた美しい肌と神秘的タトゥー。敵をじわじわといたぶる残虐性。まさに神罰の執行者に相応しき存在! 

「アナンタ=サンの改造には、惜しみなくカネを注ぎ込んだ……!それがようやく報われる……!インガオホー、インガオホー……!」タダオ大僧正はボディサットヴァめいた穏やかな表情で頷いた。「フォホホホホ……さてアコヤ=サン、ハッカー対処はどうなったか?」『波状攻撃を続けています!』 

「「「スッゾコラーッ!」」」制御室前の回廊に、クローンヤクザボンズ軍団が押し寄せる!室内からLANケーブルを伸ばすナンシーは、回廊で門番のごとく立つ鹵獲ホーリーヤブに再び射撃命令を下す!BRATATATATA!「「「アバババーッ!」」」ネギトロめいた死体が生み出される! 

 4回目の波状攻撃をしのいだナンシーは、精神をホーリーヤブから引き戻す。「ニンジャスレイヤー=サン、速く……!敵の回線が復帰するわ……アルゴスが来る……!」彼女は祈るようにメインフレームUNIXを操作した。ホーリーヤブの残弾数も無限ではない。あと何度アタックを凌げるのか!? 

「シュッ!シュッ!シューッ!」アナンタは懲罰鞭めいたカラテを繰り出し突き進む!おお……あたかもその両腕は神々しき一千匹のコブラのようだ!「イヤッ!イヤッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは連続バック転でこれを回避!一瞬の勝機をうかがいながら、縦横無尽に室内を移動する! 

「シューッ!」「イヤーッ!」「シューッ!」「イヤーッ!」SMAAAASH!目まぐるしく動くニンジャ二人の攻防により、壁に立ち並ぶ戦闘的ブッダ像が破壊され始める!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの反撃!だがアナンタの巻き付くようなカウンターが一閃!「シューッ!」「グワーッ!」 

「シューッ!」「グワーッ!」「シューッ!」「グワーッ!」「シューッ!」「グワーッ!」凄まじい連続打撃!ニンジャスレイヤーは弾き飛ばされ、戦闘的ブッダ木像に激突!「グワーッ!」SMAAASH!無惨にも破壊!アナンタは敵を仕留めるべく、コイリング・ヘビ・カミツキの姿勢を取った! 

 おお、ナムサン!木像の残骸に背を預けて屈むニンジャスレイヤーめがけ、アナンタが死の大跳躍!だが、見よ……ニンジャスレイヤーの手元には、戦闘的ブッダ像が握っていた大型錫杖が!「イイイヤアアアーーーーーッ!」ニンジャスレイヤーはそれをオリンピック棒高跳び選手めいて構え、走った! 

「シューッ!?」ゴウランガ!アナンタは突き出された錫杖ボー先端に反射的に絡み付いた!これこそがコイリング・ヘビ・カミツキの弱点!だがアナンタは絡み付くように持ち手へ迫る!どうする、ニンジャスレイヤー!「イイイヤアアアアーーーッ!」先端をタタミに突き刺し、棒高跳びめいた跳躍! 

 だがこれは棒高跳び競技ではない!ニンジャスレイヤーは頂点で錫杖ボーを離さず、そのまま握り手を持ち替えて、鮮やかな円弧を描くように着地!そして絡み付いたアナンタごと、大型錫杖ボーを痛烈に床に叩き付けた!錫杖ボーが激しくしなり180度の円弧を描く!「イヤーッ!」「グワーッ!」 

 タタミに叩き付けられたアナンタが大きくバウンド!「イイイヤアアアーッ!」ニンジャスレイヤーの背中に縄めいた筋肉が浮かぶ!彼は渾身の力で大型錫杖を振り上げ、振り下ろした!「イヤーッ!」「グワーッ!」再びバウンド!振り上げ、振り下ろす!「イヤーッ!」「グワーッ!」再びバウンド! 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」何と無慈悲な打擲か!いかに柔軟なコブラニンジャ・クランの猛者とて、ボーで搦め捕られ、繰り返し叩かれて骨そのものを砕かれれば、手も足も出ぬ!「どうした……何が起こっている!」監視カメラ映像が途切れタダオ大僧正が狼狽する! 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」……「ま、まさか、信じられぬ……!アナンタ=サンまでもが……!」タダオ大僧正が顔を上げた時、黄金ルームのフスマが破られ、全身の骨を砕かれたアナンタが蹴り込まれた!「イヤーッ!」「グワーッ!」 

 SMAAAASH!猛スピンしながら激突!黄金ルームに積み上げられたコーベインの山が崩れ、血塗れのアナンタの上に降り積もった。「ア……ア…」痙攣し手を伸ばすアナンタ。浮遊玉座に乗るタダオは、冷たい目でそれを見下ろした。「期待はずれよのう」「……サヨナラ!」アナンタは爆発四散! 

「ドーモ、タダオ大僧正=サン……いや、ブラックロータス=サン。祈りは済ませたか」ニンジャスレイヤーは両の拳からアナンタの返り血を滴らせ、敵を睨みつけた。「忍」「殺」の鋼鉄メンポから、激しい蒸気が吐き出された。「オヌシを殺しにきた。あらゆる望みを絶ち、惨たらしく殺す」 

「フォホホホホホ……結局、最後はこの身ひとつとカネだけか。イヤーッ!」タダオ大僧正は全身を一瞬でニンジャ装束に包み、浮遊玉座から回転跳躍した。「……ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、ブラックロータスです。我がディバイン・カラテを見るがよい」背から黄金のオーラがほとばしった。



 ニンジャスレイヤーとブラックロータスはカラテを構え、タタミ4枚の必殺間合で睨み合い、隙を窺いながらじりじりと時計回りに歩く。ニンジャスレイヤーが纏う襤褸布めいた装束からは、濁った血がぽたぽたと滴る。返り血と己の血だ。彼が歩むたび、神聖なる黄金部屋に薄汚い血の軌跡が引かれる。 

 カラテとジュー・ジツを巧みに切り替えながら、ニンジャスレイヤーの双眼は殺意に燃える。サイバーサングラスをかけたブラックロータスの目から表情を読むことはできぬが、肥えた口元には笑みが浮かぶ。そして背中からは黄金色のオーラ!タダオ大僧正に憑依したニンジャソウルは油断ならぬ大物だ! 

「フォホホホ……愚かな事をしでかしたものだ。前途ある青年投資家、カラカミ=サンを殺害するとはな。ニンジャスレイヤー=サン、いや、フジキド・ケンジ=サン」睨み合いのまま、ブラックロータスが言い放つ。ニンジャスレイヤーの眉根が微かに動く。 

「我らの情報収集能力を侮るな、ニンジャスレイヤー=サン。マルノウチ・スゴイタカイビルの爆発事故。その哀れな犠牲者の中に、生存者がいた。表向きは死亡扱いとなっていた男が。彼は世界を憎み……残忍なテロリストと化した」「生憎だが、私が憎むのはオヌシらニンジャのみ」死神の目が燃える。 

「だがお前は、現にカラカミ社CEOを殺めた。そしてネオサイタマに経済的損失と社会不安を招いた!これぞ、憎悪に狂った悪鬼の所行!」タダオは説教を垂れた。「……だが我々は、このような事態が起こった場合に備えていた。間もなく凶悪テロリスト、フジキド・ケンジは指名手配されるであろう」 

「おお、フジキド=サン……私は哀れなお前を目の前にすると、胸の奥から憐憫の感情が沸き上がってきた……!今なら間に合う。今ここでドゲザし、その罪をあがなうか?これが最後のブッダ・チャンスだ。さもなくば、フジキド家の名誉とカルマは永遠に穢れるぞ!……どうだ?」「説教は終わりか?」 

「何たる悪鬼!」ブラックロータスは舌を巻いた。ブッダの威光も説法も通用せぬとは!だが彼の真の武器は他にある。ニンジャソウルと組織の力だ!「フォホホホ……ならば、我がディバイン・カラテでジョウブツさせてくれよう。間もなくアクシスも到着する。哀れな亡霊よ、ジョウブツするがいい!」 

「見た所、この黄金部屋にブッダ像はひとつもないようだな。オヌシが何の力を信じているかは一目瞭然だ。オヌシもクローン聖職者と何ら変わらぬ、くだらぬ子供騙しの紛い物よ」死神は「忍」「殺」メンポから蒸気めいた息を吐いた。「私が怖いならば、カネで買ったその僧衣で首でも括り死ぬがいい」 

 二者は歩みを止めた。一瞬の静寂の後、殺戮者のブレーサーから一滴の血がしたたり落ちた。「「イヤーッ!」」両者はほぼ同時にカラテ姿勢で突き進んだ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」凄まじいカラテ応酬!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが速度で機先を制する! 

「イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤーッ!」猛烈な速度で前進しながらの鋭いカラテパンチ!ケリ・キック!バックナックル!ローリングソバット!「イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤーッ!」ブラックロータスは後方へと下がりながら、これを左右のカラテで捌く!床に積まれたコーベインが撒き散らされる! 

 両者はワイヤーアクションじみた速度で直線移動し続ける!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」突き刺さるダガーめいた小刻みな前進跳躍キックが防御を抜け、ブラックロータスの顎、胸へ!「イヤーッ!」「グワーッ!」後退を続け黄金柱に追いつめられるブラックロータス! 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは重い踏み込みから、必殺のポン・パンチを叩き込む!SMAAASH!ニンジャスレイヤーの拳が胸部貫通!…だが感触が無い!それはオーラ残像だ!「イヤーッ!」ブラックロータスは紙一重で連続側転を打ち、致命打を回避していたのだ!何たるカラテ瞬発力か! 

「イヤッ!イヤッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは両腕をムチの如くしならせ、目にも留まらぬ速度でスリケン投擲!「イヤッ!イヤッ!イヤーッ!」ブラックロータスは残像を生み出す連続側転で回避!彼自身のニンジャソウルが放つオーラと室内の黄金が、そのイリュージョンをさらに強化する! 

「イヤーッ!」次はブラックロータスが攻め掛かる!「イヤッ!イヤッ!イヤーッ!」猛烈な速度で前進しながらの鋭いカラテパンチ!ケリ・キック!バックナックル!ローリングソバット!「イヤッ!イヤッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは後方へと下がりながら、これを左右のカラテで捌く! 

「フォホホホ!神聖なるカラテが漲ってきたわ!」攻撃を続けるブラックロータス!「イヤーッ!」「グワーッ!?」衝撃と熱と光がニンジャスレイヤーの防御を弾く!ナムサン!果たして何が!?……おお、見よ!カラテのインパクト時に、タダオの腕を黄金色のまばゆい光級が包んでいるではないか! 

「これぞ悪鬼を灼き滅ぼすディバイン・カラテよ!イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」猛烈な速度で繰り出されるパンチ軌跡が神聖な黄金円弧を描く!ナラクが警告を発する!(((フジキド……此奴侮り難……グワーッ!)))危険だ!死神は防御を固め、逆転の機をうかがう! 

 ブラックロータスは質量で勝り、残像を生むほどの優れた瞬発力、そして厄介なエンハンスメント・ジツを持つ。それは防御の上からでも爆発的な衝撃と熱を与えてくるのだ!長引けば長引くほど不利!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは、攻防一体のメイアルーアジコンパッソで連続打撃に割り込む! 

「この程度!イヤーッ!」ブラックロータスはカラテで弾く!その重々しい身体は身じろぎひとつしない!だがニンジャスレイヤーの本命は、直後に控えた連続カラテストレートであった。鋼鉄メンポがざわめき、右腕の傷から滴る血が、一瞬で禍々しい不浄の炎に包まれる!「イイイイヤアアアーッ!」 

「ディバイン・カラテ!イヤーッ!」ブラックロータスは回避せぬ!腰だめ姿勢から両腕を前に突き出し、己の神聖光球とニンジャスレイヤーの黒い炎を激突させた!SMAAAAAASH!ナムアミダブツ!目も眩むほどの凄まじい光爆が、室内を包み込む! 

 室内を満たしていた光が消え去る。凄まじいカラテ斥力により、両者の足の裏からはぶすぶすと煙が上がっている。勝敗やいかに!?おお……そこには、ニンジャスレイヤーの放った渾身のカラテパンチを真正面から受け止め、さらに両手で相手の拳を掴むブラックロータスの姿が!ナムアミダブツ! 

「哀れよの、ソウルの格が違うわ!次は我がディバイン・カラテを注入してくれる!イヤーッ!」ブラックロータスは両手に力をこめる!「グワーッ!」苦悶の表情とともに膝をつく死神!ナムサン!聖徳太子はかつて、触れただけでアンデッドを破壊したという!古事記の一節を想起させる超常光景だ! 

 ブラックロータスは腕を捻りカラテを注ぐ!「イヤーッ!」「グワーッ!」フジキドの視界が光に覆われ、全身を焼き焦がされるような激痛と、ニルヴァーナめいた浮遊感が同時発生!光の中に浮かぶ安らかな幻影は……フユコ……トチノキ……!アブナイ!少しでも気を抜けば、アノヨへ旅立ちそうだ! 

「ジョウブツせよ!イヤーッ!」「グワーッ!」激痛!だが死神は歯を食いしばり、燃える憎悪の目で慈悲深き光を振り払う!(((私にはまだ仕事がある。また後で会おう。またすぐ後で…!)))そして居丈高に立つ僧正帽ニンジャを睨みながら、不屈のジャッキめいて膝を伸ばす!「ヌウウウーッ!」

「無駄な足掻きよ、ニンジャスレイヤー=サン!このアーチ級ソウルにどれ程のマネーを費やしたと思う!私は最上級のソウルを買ったのだ!イヤーッ!」タダオ大僧正は再び腕を捻り光を注ぐ!「グワーッ!」「無作為憑依を待つのみの無力な大衆とは違う!私は自らの力で、運命を選び取ったのだ!」 

「グワーッ!」「哀れよの!何たる哀れ!苦しみから解放してくれる!」「グワーッ!」慈悲深きディバイン・カラテを注ぎ込まれ、苦悶の表情を浮かべるニンジャスレイヤー!だが屈さぬ!敵に掴まれた己の拳を固く握り込み、腕に、肩に、腰に、全身に筋力を漲らせる!抗う!「ヌウウウウウーッ!」 

「ニンジャ……殺すべし……!」憎悪!ブラックロータスの神々しき光によって打ち消され、ブスブスと煙を上げていたはずのニンジャスレイヤーの右腕に……再び黒い炎が燃え上がる!「まだ苦しもうというのか!」タダオは敵の腕と目を交互に睨み、己の両腕に力を籠め、内なるカラテを振り絞った! 

 光球と炎が拮抗する!「「ヌウウウウウーッ!」」両者は膂力比べに!体勢は上から腕を捻り上げるブラックロータスが圧倒的有利!だがニンジャスレイヤーの腕は、復讐の機械めいた断固たる力で逆に捻られ……徐々に元の姿勢へと!両の瞳がセンコめいて輝き、死神がその身をもたげ……「イヤーッ!」

「グワーッ!」痛烈!真正面へのケリ・キックが、ブラックロータスの腹部をとらえた!敵は蹌踉めいて後ずさり、ニンジャスレイヤーの拳を拘束していた両手を放す!続けざま、死神は黒い軌跡の右カラテストレート!「イヤーッ!」「グワーッ!」踏み込み左ストレート!「イヤーッ!」「グワーッ!」

 だが何たる耐久力!ブラックロータスは体勢を立て直しディバイン・カラテで右腕ブロック!「「イヤーッ!」」左腕ブロック!「「イヤーッ!」」両者のカラテが激突するたび、凄まじい光爆が発生する!揺らぐ防御!「イイイヤアアーッ!」「イヤーッ!」重い三発目はオーラ残像側転で紙一重回避! 

「イヤーッ!」ブラックロータスは連続残像側転で距離を取り、軽傷を負った己の腕と顎に手をかざす。すると……ゴウランガ!神々しき光を纏う掌の下で、傷が塞がってゆく!「フォホホホ!」敵は持久戦の構えだ!時間が無い!死神は残像をカラテで切り裂きながら、獣じみた跳躍で飛び掛かった! 

「ニンジャスレイヤー=サン、速く…!」凄まじいタイプ速度でコトダマ空間の無限地平を飛翔するナンシーは、水平方向にぶれていたふたつの空が、再びひとつに重なるような感覚を味わった。要塞の回線が復帰したのだ。「アマクダリが接続してくるわね」彼女は覚悟を決める。「アルゴスが……!」 

 今、要塞の制御システムはナンシーの支配下にある。だがそれは、一時的なネットワーク密室状態を生み出していたからに過ぎない。アマクダリの擁するハッカーニンジャ、アルゴスのタイプ速度は、彼女のそれを凌駕する。さらにアルゴスは、古の強大なTELNETプロトコルで接続してくるだろう。 

 ナンシーの論理肉体はサーバ境界を越え、山水画めいた曇天の山岳地帯を飛翔する。これは3D仮想現実ではない。ヤバイ級ハッカーだけが認識する、コトダマ・イメージだ。「……それじゃあ、どこまで騙し通せるか、やってみましょうかしら」彼方に一本の光柱が降り注ぐのを見た。ログイン前兆だ。 

『**素早い茶色の狐が怠惰な犬を飛び越す**!』彼女はニューロンの速度でハッカー・チャントを唱え、亜光速飛翔した!遥か彼方の大テンプルへ!その境内に発生した光柱が消え、そこから光輝くニンジャが歩み出た時……ナンシーは既に、外からショウジ戸一枚隔てたタタミ部屋に正座していた。 

 荒涼たる曇天の下に立つ、荘厳なる大テンプル。白石の海と見事な松の木が立ち並ぶその白砂の中庭を、光輝くハッカーニンジャが歩む。アルゴスだ。「01110110111……」彼はナンシーですら知らぬ古のコマンドを駆使し、周囲をスキャン睥睨しながら、本堂に続く中央階段を上った。 

 ナンシー論理肉体は正座姿勢で目を閉じ、眉間に皺を寄せ精神統一を行った。アルゴスは未だこちらを認識してない。ショウジ戸1枚向こうにいる。階段を上って近づいてくる。(((相手は無防備。でもその分速い。ケタ違いに速い!)))奇襲攻撃か偽装か。一瞬の躊躇の後、ナンシーは偽装を選ぶ。 

「「ドーモ、アルゴス=サン」」ショウジ戸の前にタダオとアコヤが出現し、階段を上り切ったアルゴスに対しOJIGIした。2体はナンシーの生み出した偽装多重IRCログイン、すなわち幻影である。「ドーモ」アルゴスは昆虫じみた無表情な空間観察を続けながら、OJIGIコマンドを返した。 

「何故シェルター化?」アルゴスが問うた。その間にも彼は数々のデーモンを使役し、古のコマンドを放っているのだろう。ナンシーは偽装体に精神を集中した。「フォホホホホ……お恥ずかしい。ニンジャスレイヤー出現の報に、少々取り乱し、反射的にシェルター化を。ここは安全。無敵の要塞……」 

「010111011…」アルゴスは曇天を仰いだ。短い沈黙の後、突然両手を偽装体にかざし01分解した。「「グワーッ!」」(((ハヤイ!)))ナンシーが偽装看破を知覚した時には既に、彼女の背後にアルゴスがいた。それは無慈悲なタイプ速度で、正座するナンシーの首にKICKを放った。 

 1101101111……!ナンシーは首をKICKで狩られる直前、全身を一瞬だけ蛍光緑色の01と化し、天井を突き抜け飛翔逃亡した。敵は遠隔接続。直結接続の速度有利が辛うじて彼女を救ったのだ!「ハッカー侵入検知、YCNANと認識」アルゴスは即座にシステム制御権を奪いに掛かった。 

「ハァーッ!ハァーッ!」ナンシーは直結を解除し、バネ仕掛けめいた勢いで身を起こす。そして息を整え、ブレた視界を修正し、うなじを押さえて頭を振った。「どれほど時間をかせげたかしら。10秒?それとも5秒?」制御室内のモニタ文字列を見れば、野火の如き勢いで広がるアルゴスの支配権。 

 アルゴスは冷徹だ。追ってくる素振りも無かった。追ってくれば、あと数十秒は時間を稼げただろう。「チクショウ、また敗北」ナンシーは廊下のホーリーヤブと直結したLANケーブルを命綱めいて掴み、立ち上がった。クローンヤクザボンズ強襲部隊の次なる波状攻撃が近づいている。 

「「イヤーッ!」」「「イヤーッ!」」「「イヤーッ!」」黄金部屋ではニンジャスレイヤーとブラックロータスのカラテ戦闘がなおも続く!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのトビゲリ!だがそれはまたしても黄金オーラ残像!ゴゴゴゴゴゴ……!やがて室内が……いや、要塞が激しく震動し始める! 

 それが何を意味するのか、両者は即座に理解した。大ブッダ要塞のシェルター化が解除され、地上へと上昇する……アマクダリが要塞の制御権を奪取したのだ!「フォホホホホ……お前たちの企みもここまで!」ブラックロータスは僅かに息を切らし、歯を剥き出しにして笑った。「アクシスが来るぞ!」 

「そしてこの私は神聖なる力により傷すら…」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは微塵も殺意を鈍らせず、砲弾の如き速度で飛び掛かり、タダオ大僧正にカラテストレートを叩き込んだ!「グワーッ!」ワイヤーアクションめいて弾き飛ばされるブラックロータス!「イヤーッ!」死神は追撃トビゲリ! 

「無駄だと言った!イヤーッ!」紙一重で残像側転回避するブラックロータス!SMAAASH!真横で黄金柱を砕くニンジャスレイヤーのトビゲリ!「イヤーッ!」側面からのディバイン・カラテアッパー!「グワーッ!」光爆とともに直撃!浮き上がる死神!「聖人に刃向かい罪を重ねるとは愚か!」 

 空中に浮いたニンジャスレイヤーに対し、ブラックロータスは斜め45度のディバイン・カラテパンチを左右連続で叩き込む!アブナイ!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!!」「グワーッ!!」空中で仰け反るニンジャスレイヤー! 

「我がカラテの高まり!ニンジャスレイヤー=サン、哀れなり!憐憫の念!絶大なる力が今私をブッダフッドの境地に至らせた!お前の抵抗!憤怒!悲劇!ソウル!全てが哀れ!ジョウブツせよ!」連続光爆パンチを叩き込みながらタダオは哄笑する!「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの視界が揺らぐ! 

 ブラックロータスが拳を握りしめ、ひときわ大きく深いタメを作った。彼方ではウシミツアワーを告げる鐘の音!「イイイヤアアアアーッ!」首狩りカラテアッパーを繰り出すブラックロータス!ナムサン!だが命中の直前、ニンジャスレイヤーの装束が再び超自然の風に揺れ、死神は空中で身を翻した! 

 それは常軌を逸した身体制御速度!センコめいた両眼の赤い光が空中に回転軌跡を描く!「サツバツ!」黒い炎を纏ったカラテチョップが、虚しく空中に突き出されたブラックロータスの右腕を切断する!「グワーッ!?」次の瞬間、死神はブラックロータスの背後に立ち、その後頭部を掴んでいた! 

「コワッパ、その傷も塞げるか?無理であろう。奇蹟の真似事が関の山」鋼鉄メンポがバキバキと音を立てて歪み、邪悪な表情を作り出す。ブラックロータスが反応する前に、頭を力任せに黄金柱へ叩きつける!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」 

「イヤーッ!」ブラックロータスは闇雲な左腕のディバイン・カラテ裏拳!ニンジャスレイヤーは手を離して裏拳を回避した後、ヤリめいたランスキックで蹴り飛ばす!「イヤーッ!」「グワーッ!」タダオ大僧正はワイヤーアクションめいて壁に激突!「ブッダフッドの境地とやらは、もう醒めたか?」 

「イヤーッ!」だがブラックロータスは未だ戦意を衰えさせぬ!片腕の連続オーラ残像側転で、ニンジャスレイヤーの追撃を回避する!黄金の力だ!そして浮遊ロータス玉座に回転着地!「フォホホホホ……ならば……ディバイン・カラテの奥の手を見よ!」ブラックロータスはそこで突如ザゼンした! 

 ブラックロータスの背後に、ひときわ荘厳な黄金オーラが出現!「イイイイヤアアアアーッ!」その背から握りこぶし大の光球が次々出現し、放物線を描いて飛びニンジャスレイヤーを襲った!SMASH!SMASH!SMASH!「ヌウーッ!ディバイン・カラテミサイル!」辛うじて防御する死神! 

 おお……何たる神々しさか!黄金の輝きを集め、目を眩ませるほどの猛烈な光量に!さらには後光に混じり、ザゼンする小さなブラックロータスの幻までもが複数出現し、さながらマンダラ絵図の如し!「イイイヤアアアーッ!」SMASH!SMASH!「ヌウーッ!」防御の上からでも凄まじい衝撃! 

 これは明らかなフーリンカザンの不利!だが退く事は不可能!今ブラックロータスを殺さねば、この作戦が水泡に帰するのだ!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは吹雪の中を進むように、カラテミサイルの連続弾を左右のカラテフックで叩き落とし、じわじわと距離を詰めてゆく! 

 かつてラオモトが放った豪雨の如きカラテミサイルに比べれば、一撃一撃の威力は弱いが、全ての光球を撃墜できるわけではない。撃墜し損ねた光球が命中するたび、視界の一部が光に削り取られ、亡き妻子の穏やかな幻影が浮かぶ。だがフジキドはそれを憎悪の炎で灼き払い、殺戮者の目で進むのだ! 

「何故諦めぬニンジャスレイヤー=サン!」ブラックロータスは浮遊玉座を移動させながら攻撃を続ける。剃り上げられた頭に血管が浮かぶ。サイバーグラスの内側に『バイタル危険な』の文字が明滅。だがあと少しなのだ!タダオは警告を振り切る!「ジョウブツせよ!ここで戦う限り私に敵うはずが」 

 KRAAAACK!黄金部屋が揺れた!突如床に大穴が開き、蓄えられた黄金が落下してゆく!「何だ!?」ブラックロータスは咄嗟に浮遊玉座を動かす。カラテミサイルに一瞬の乱れ。ニンジャスレイヤーが突き進む!「ヌウーッ!」ブラックロータスはカラテミサイル集中を再開し、穴の下を一瞥! 

「……SOOOOOOO」遥か階下から、電子音声が聞こえる。それはナンシー・リーが決死のハッキングで鹵獲した、ヘヴィホーリーヤブの電子音声だ!仰向けに倒れていたヘヴィホーリーヤブは、甲高い音を立てながら、再び重マニガトリングを回転させた!「HOLY!」BRATATATATA!

 KRAAASH!集弾性が悪い!あちこちで床が崩壊し、巨大な弾がニンジャスレイヤーとタダオの間を上に向かって飛び、黄金部屋の天井に突き刺さる!インストラクション・ワンの如く、上階に対してありったけの弾を連射し続けていたヘヴィホーリーヤブの弾は、ついに黄金部屋にまで達したのだ!

 予定された連携ではない。だが「イヤーッ!イヤーッ!」フジキドはこの天変地異めいた状況にも動ずる事無く、血の涙を流しながら粛々と家族の幻影を焼き払い、カラテミサイルを撃墜し進んだ!そしてドラゴン・トビゲリ!「イイイヤアアーッ!」「グワーッ!」玉座から蹴落とされるタダオ大僧正! 

「おのれニンジャスレイヤー=サン!悪鬼め!」回転着地したブラックロータスは、タタミ10枚の距離で床に転がったINW謹製の注射装置を見た!時間が無い!彼はそこに向かって走ろうとした。だが死神が機先を制し、注射装置を無慈悲に踏み潰したのだ!「イヤーッ!」「アイエエエエエエ!」 

「ソウルを買ったと言ったか。奪い去ったのであろう。リー先生のラボで。儂には先刻お見通しよ」死神は血を流し言った。そして殴り掛かった。「イヤーッ!」「グワーッ!」彼は奪ったのだ。元の憑依者から。タオタニ・スラムの聖人。ワダマキ・ヨシ。光の手。ある日忽然と消えた。信奉者らと共に。

「な、何故そこまで……!」「カムロ・シロキという男にでも聞くがいい。オヌシは覚えてもおらぬだろうがな。イヤーッ!」暗黒非合法探偵は殴りつけた!「グワーッ!」KRAAAAAASH!再び床が崩壊!「イヤーッ!」「グワーッ!」落下しながら血みどろで戦う2人はオフィス階へと到達! 

「「アイエエエエ!」」ボンズたちが逃げ惑う!室内のTVには凶悪犯フジキド・ケンジの手配映像、改竄された生い立ち、そして亡き妻子の写真が。家族の全ての名誉は踏みにじられた。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」死に物狂いでカラテ防御を固めるブラックロータス! 

『フジキド・ケンジ。殺人鬼テロリスト。イチロー・モリタの偽名で非合法私立探偵としても活動。爆弾テロ等でのべ数千人の殺害と数十万人の失業に関与』無機質な電子音声。凄惨な事件の数々がコラージュで映し出される。無関係の事件が。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

「ま…待て!ニンジャスレイヤー=サン!これは自動的に行われている事なのだ!アマクダリという名のシステムが」タダオは命乞いした!「イヤーッ!」だが死神は聞く耳を持たぬ!「グワーッ!思い留まれ!大僧正である私を殺せばお前のカルマは決定的に穢れるぞ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」 

 ニンジャスレイヤーはタダオ大僧正の首を掴み、ジゴクめいた腕力で吊り上げた!「ゴボーッ!ま……待て!安らぎだ!安らぎだけがお前とお前の家族の魂を救える!これが最後のチャンスだ!私の力があればお前をジョウブツさせ妻子の待つアノヨへ」「イヤーッ!」床に叩き付ける!「グワーッ!」 

「オヌシらに指図される覚えはない。儂の祭壇はこの胸のうちにある。この血と肉と骨の祭壇のうちに宿っているのだ……!この禍々しきニンジャソウルと共にな……!イヤーッ!」「グワーッ!」ブラックロータスのサイバーサングラスが砕かれる!弾き飛ばされ、背後のTVモニタも砕け散る! 

「ARRRRGH!狂人めがーッ!」ブラックロータスもまた死に物狂いでカラテ抵抗を始める!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの連打にも耐える!何たる耐久力!いや……何かがおかしい! 

「ARRRRRRRGH!アバーッ!」ナムアミダブツ!ブラックロータスの肉体はどす黒く変色し、両の目玉が垂れ下がっている!INWによる人工的ニンジャソウル憑依の副作用だ!それはもはや僧衣を纏ったゾンビーと呼ぶに相応しい!「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」 

「アバーッ!」壁に叩き付けられたブラックロータスは、腹心のアコヤを見、藁にもすがる思いで命じた。「あやつを……撃て……!」「アイエエエエエ仏敵!」だがアコヤは咄嗟に聖職者拳銃ソード・オブ・ブッダで、この穢らわしいゾンビーを撃った!BLAMBLAMBLAM!「アバーッ!」 

「さらばだ、ブラックロータス=サン」死神は辛うじて片目に人間性の光を取り戻し、ゾンビーニンジャの首を掴んだ。死神は懐から狙撃銃弾を取り出し、敵の額に押し当てた。「アバーッ……待て……何を」カムロという男の死体から拾い上げた銃弾だ。これは暗黒非合法探偵の最後の仕事となろう。 

 かつて殺し屋カムロは、裏路地の聖人ヨシとともに、アマクダリの襲撃ニンジャ部隊に捕われた。聖人はリー先生のラボへ。カムロは違法施設でデジネンブツ計画の被験者となったが、辛うじて脱走した。そして感情と記憶の一部を切除した。「ハイクを詠むがいい、ブラックロータス=サン」「アバーッ」

「アバーッ……アクシス!アクシス!何をしているか!アクシス!私の黄金が……アバーッ……!」「イイイヤアアアアアアーッ!」ニンジャスレイヤーの拳が、ブラックロータスの額に埋め込まれた狙撃銃弾を叩く!タダオ大僧正の生首が飛び、爆発四散!「……サヨナラ!」インガオホー! 

 ……ブラックロータスが爆発四散を遂げて間もなく。バラバラバラバラバラ……威圧体なローター回転音を轟かせながら、アクシスの黒塗り武装ヘリが要塞上空へと到達する。彼らはそれを見、どよめいた。そこには「忍」「殺」と書かれた威圧的な軍旗がはためき、すでに殺戮者の姿は無かったからだ。 

 ニンジャスレイヤーはナンシーを背負いながら、次なる目標地点へ高層ビル屋上を駆けていた。己の身を焦がす憎悪の力を夜風で冷まし、御するように、速く、速く。「不思議な気分ね」凶悪テロリストと重犯罪ハッカー、二人の顔が繰り返し報道される大型TVモニタ群を見ながら、ナンシーが言った。 

「……もはやイチロー・モリタの名も使えぬな。暗黒非合法探偵も店仕舞いか」それは未だ、フジキド・ケンジの声であった。「私なんて、ずっと昔からよ」ナンシーが言った。彼女の目はサイバーサングラスに覆われ、既に次なるハッキングの下準備を開始していた。 

 遥か後方では、アークボンズを失った大ブッダ要塞が上昇を完了し、虚空へとアルカイック・スマイルを投げかける。クローン聖職者たちの血で塗れた中庭では、最早誰のために存在するのかも解らぬ自動マニローラー群が、ただ黙々と回転を続けていた。



【ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ:10100108 
フェイト・オブ・ザ・ブラック・ロータス】 終



N-FILES(設定資料、原作者コメンタリー)

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あらすじ:カスミガセキ教区のアークボンズ「タダオ大僧正」の正体は、邪悪なニンジャソウル憑依者にしてアマクダリ・セクト幹部の一人「ブラックロータス」であった! ナンシー・リーとニンジャスレイヤーは、タダオの居城たる大ブッダ要塞のハッキングに成功! 要塞は核シェルター化し沈降した! ニンジャスレイヤーたちの作戦は、要塞沈降によってアマクダリ本体から孤立させたブラックロータスを、制限時間内に暗殺することである! メイン執筆者はフィリップ・N・モーゼズ。


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N-FILESは原作者コメンタリーや設定資料等を含んでいます。
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