【ビースト・オブ・マッポーカリプス後編】#6
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無限のコトダマ地平の荒野、投射されたネオサイタマ俯瞰映像を前に佇むセトは、長い指を動かし、形の良い顎に添わせながら、己が目論見のつつがなきを寿ぐ。マガタマの力が触媒となって、アヴァリスは「破裂」した。彼の存在は無限の変遷のなかで混沌の万色の波動にまで分解され、やがて純粋な器が出現するだろう。
荒野に接続したリアルニンジャ達の意識を映し出す石碑はノイズ風によってささくれていた。接近したキンカクの力……そしてエネアドの磁気嵐だ。他の者達がセトに向ける疑念の言葉や注意深い監視は乱され、逸らされる。
セトは空席のヴァインの石碑を見る。あろうことかニンジャ始祖カツ・ワンソーの顕現体を狩人として送り込んで来るなど、大胆かつ僭越の極み。驚いたものだ。なるほどクロヤギ・ニンジャは森の魔術の王にして太古の深淵そのもの。
しかし、ショーギの盤面めいて移り変わる万物の状況を俯瞰し、星を読み、因果を駒めいて配置し、操作する事、その手腕こそが真の魔術。それをこそ極めきったセトは、全てのリアルニンジャの陰謀の上をゆき、必ず勝つのである。
始祖の力を際限なく発揮するアヴァリスに応え、キンカク・テンプルは今や黄金の太陽めいていた。セトのコトダマ空間にまでその激しい輝きは届く。空には金色の雲が流れ、セトの描くオヒガン・コントロールの経路図は、古代遺跡の壁画紋様、あるいは複雑に入り組んだ電子回路基盤図を思わせる。
セトの本体自我の周囲には256体の電子影がおり、その全てが魔術的ホームポジションを維持。ヤバイ級ハッカーを上回る、謂わば神話級ハッカーと言うべきタイピング速度を実現していた。始祖の顕現を用いてダークカラテエンパイアを支配しようとするヴァインの策、そしてティアマトの「サツガイ復活」という望みすら呑み込み、彼の盤面は今、完成を見ようとしている……。
◆◆◆
オジギを繰り出したデスウイングに、フジキドとユカノはおごそかに応じた。「ドーモ。サツバツナイトです」「ドーモ。ドラゴン・ニンジャです」ゆっくりとオジギから頭を上げる音が、静まり返った闇に漂う微細な粒子を揺らした。後方、できる限り安全な距離へ退避したナンシー・リンは畏怖に瞬いた。
微かな彼女の震え……その瞬間、三人のニンジャは同時に動いた。「「「イヤーッ!」」」ユカノは斜めに跳んだ。トライアングル・リープを経て、死角からのトビゲリ・アンブッシュだ。サツバツナイトはユカノと逆方向、円を描くように歩を進める。デスウイングは大鎌を投げた!
斜め後方頭上へ投じられた大鎌は、その場で風車めいて自律高速回転し、その中から闇を噴出させた。ユカノは目を剥いた。トビゲリが吸い込まれる! 彼女は咄嗟に防御姿勢を取るしかなかった。「ンアーッ!」一方、サツバツナイトが拳を動かした時には、デスウイングは既にワン・インチ距離にいた!
「イヤーッ!」ツキを繰り出したフジキドの肘をデスウイングは下から跳ね上げ、顔面に瞬速の掌打。威力よりも速度を優先させた、目眩ましじみた打撃がまともに入った。怯むフジキドの腹に、大剣めいた前蹴りが突き刺さっていた。
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