【ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル】
この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードの加筆修正版が、上記リンクから購入できる第2部の物理書籍/電子書籍第2巻「キョート殺伐都市#2:ゲイシャ危機一髪!」に収録されています。また、このエピソードのコミックスも下記リンクから購入可能です。
【ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル】
1
ネオカブキチョにある、薄暗いウェスタン相撲バーにて。
重金属酸性雨に湿ったコンクリートの壁に、アミーゴハットを被ったスモトリの奏でるアコースティック・ギターの乾いた音色が、ゼンめいた調和とともに響き渡る。カウンター上に掲げられたバッファローの頭骨が「本格派」とミンチョ体で書かれたネオンサインの火花によって、ピンク色に照らし出される。
カソックコートを纏い、ウェスタンハットで顔に影を落とした男が、暗い奥の席に独り。ブラウン管テレビに映る相撲映像を眺めながら、バンザイ・テキーラを呷る。スモトリの爪弾く曲が、伝説のヨコヅナ「オオキイウミ」の勇ましい入場テーマに変わった。男は自然と、ブーツの踵と木床でリズムを取る。
見も知らぬ女が、男の向かいの椅子を引いた。その服装から察するに、ゲイシャだ。「合席してもいいかしら?」と問う。男は機嫌が良かった。『酒』、『暗がり』、『音楽』、『ゼン』……ここに『失われた日常』の手札を作るための最後の一枚、『女』が揃ったからだ。男は頷き、帽子を脱がずに会釈した。
「トビッコ・ギムレットを奢らせてくれよ」男は昔のように言った。「悪いわ」ゲイシャは作法どおり断ると、どこか寂しげな笑みを浮かべながら、男の向かいの木椅子に座った。「そう言わず」「じゃあ」。すると行司が、爽やかなターコイズ色の宝石のようなトビッコの沈むギムレットを運んできた。
二人は、しばらく静かに会話を楽しんだ。男はテキーラを浴びるように呑んだが、シツレイな酔い方は決してしなかった。ゲイシャは、男の全身から漂う猛烈なアルコール臭に気付きはしたが、カソックコートの奥から密かに発せられる腐臭や、肋骨を伝って床に垂れるテキーラには気付かなかった。
男の名と静かな日常は失われて久しい。彼の現在の名はジェノサイド。腐り行く肉体を持つ、呪わしきゾンビーニンジャだ。相撲バーの暗いアトモスフィアと、ウェスタンハットの影に隠された彼の顔は、包帯めいた黒ニンジャ頭巾で覆われている。彼の目に瞼は無く、歯列を隠す肉さえも腐り落ちているのだ。
ゲイシャはユリコと名乗った。男は頑なに名乗らなかった。彼女はどうしてか、名も知らぬこの男に惹かれた。気がつくと、話すつもりの無い事まで話していた。前の男に棄てられ、ネオサイタマで仕事を続けることも難しくなったので、キョート・リパブリックで人生の再出発をはかるのだと彼女は語った。
「新幹線か?それとも空路か?」男がテキーラを呷りながら訊いた。「新幹線よ、金もないから」ユリコはトビッコ・ギムレットのようにドライに笑った。「命がけだな」「人生なんて、そんなものでしょ」そう答えつつも、目の前の男が車中で横にいたらどれほど頼もしいものかと、ゲイシャは思うのだった。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」薄暗いステージでは、スモトリがギターを裏返し、ボディを手で叩いてリズムを取る。もう一人のスモトリが、情熱的かつどこかひっ乾いたバンジョーのソロをかき鳴らしながら、店内を歩き回っていた。その時!ウェスタン風のドアを押し空け、4人のニンジャが不意に姿を現す!
「ニンジャ?!ニンジャナンデ?!」女は反射的に絶叫を上げた!テーブルの上をタンブリング技で飛び渡りながら、ニンジャ達は一直線に接近してくる。「アバーッ!」スモトリが死亡!「アイエエエエ!」客が卒倒!「アッ!」行司が死亡!「アイエエエエ?!」客が失禁!「アバーッ!」スモトリが死亡!
ゲイシャは横を向き直った。男が立ち上がって臨戦態勢を取り、ウェスタンハットを投げ捨てていた。ニンジャ達に向かって何か呪いを言葉を吐き捨てているようで、唇のない口が裂けんばかりに大きく広がっていた。じゃらじゃらと鎖の鳴る音が聞こえ、男の袖口から不吉なバズソーの回転音が聞こえた。
恐怖と混乱の余り、一時的にゲイシャは耳が聞こえなくなっていた。(((ゾンビ!?ゾンビナンデ!?)))彼女は叫びながらテーブルの下に身を隠す。テキーラの水溜りと、部位のよく分からない肉片が床にあった。ジェノサイドはそのテーブルを蹴り、四人のニンジャ達に向かって真っ向から飛び掛った。
ゲイシャは腐臭の微かに混じったテキーラの水溜りの中で失禁し、その身を横たえていた。ニューロンが恐怖に対して防衛手段を講じ、哀れな彼女の意識をシャットダウンさせようとしていたのだ。薄れ行く意識の中で、彼女は聞いた。バズソーの回転音を、絶叫を、何かが切断され叩きつけられる音を。
そして、何か得体の知れない音と、あの男のあげる苦悶の声を。最後には、死の静寂に包まれた店内に発せられる、ニンジャ達の声を。「……リー先生、ジェノサイドの捕獲に成功しました……実際すごい効き目ですよ、これは……ハイ、ハイ……ハイヨロコンデー!……キョートへの凱旋の……手土産に……」
鮮血を浴びたのがいけなかったのか、バチバチとひときわ激しい火花を散らして、「本格派」と書かれたネオンサインが焼ききれた。バッファローの頭骨がゆっくりと落下し、地面に仰向けに転がったスモトリのギターを鳴らす。(……キョート……ジェノサイド)ゲイシャは心で必死に呟きながら気を失った。
2
あらすじ:リー先生のラボから逃れたゾンビーニンジャ被検体「ジェノサイド」は、ネオ・カブキチョにある薄暗いウエスタン相撲バーで、行きずりのオイランと穏やかな時を過していた。だがそこへ、リー先生と協調関係にあると思しき四人のザイバツニンジャが現れ、ジェノサイドを捕獲したのである!
「キョート行NS893便は、定刻通り2時間後に発車ドスエ。パスポートとチケットをお忘れなく4番ゲートまで…」無機質な電子マイコ音声が、ネオサイタマ・ステイションの待合ホールに響く。四本の鳥居で支えられた高い丸天井には「おみやげ」「旅行」「免税な」などの虚無的なノボリが揺れていた。
ネオサイタマで生まれネオサイタマで育ったフジキド・ケンジの心に、一抹の不安がよぎる。雑多な種類の人間たちでごった返すコリドーで不意に立ち止まり、背負ったリュックを開け、イチロー・モリタ名義の偽造旅券を再度確認する。「チェラッコラー!?」ぶつかったヤクザが暴言を吐いて去ってゆく。
フジキドにとって、生まれ育った国を離れるのはそう容易い事ではなかった。それだけではない。亡き妻フユコと息子トチノキの墓標であるマルノウチ・スゴイタカイ・ビルを離れることで、自分自身の存在が酷く希薄な何かになってしまうのではないか、という漠然とした恐れが彼の胸中に渦巻いていたのだ。
しかしそれでも、フジキド・ケンジ、いやニンジャスレイヤーは新幹線に乗らねばならぬ。キョート・リパブリックへと向かい、ザイバツ・シンジケートのニンジャどもを皆殺しにし、宿敵ダークニンジャの影を追うために。
◆◆◆
ギゴンギゴンギゴン……。ターンテーブルめいた線路が軋みながら回転を止め、重々しい鋼鉄と無骨な強化カーボネイト装甲板によって包まれた黒い新幹線の車体が、リボルバーに装填される弾丸めいて、ゆっくりとホームへ滑り込んできた。ホームの両端に並んだ細い鉄の柱から、定期的に火柱が吹き上がる。
「オラーイ!オラーイ!」蛍光オレンジのツナギに身を包み、LEDチョウチンを両手に掲げたスモトリ作業員が、NS893便を適切なホームへ誘導する。ゴウン!ゴウン!激しく火柱が上がり、体温を急上昇させる。タフな彼らにしかできない危険な仕事だ。「ハァーッ!ハァーッ!オラーイ!オラーイ!」
二番車両の上部に備わったジェットエンジンが火柱に照らし出される。先頭車両の上部には、列車強盗の攻撃に対抗するための胸壁と、固定式マシンガン8挺。さらには快適なIRCエクスペリエンスを提供するための衛星通信パラボラアンテナが搭載され、ソーメンめいた色とりどりのLANコード束が走る。
「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!アッ!?アババババーッ!」ここで突然、窓をモップで拭いていたスモトリ作業員の1人に火柱の炎が引火!たちまち火達磨になり、ホームを転げまわる!ナムアミダブツ!手作業精神を重点する日本社会においては、新幹線のようなハイテク列車もまた手洗いの対象なのだ!
「NS893便の準備が整いましたので、ダイミョ・クラスのお客様から乗車ドスエ」ホームと出発ロビーに、電子マイコ音声のアナウンスと和太鼓の小気味良いBGMが流れ、キョート・アトモスフィアを高める。ダイミョ・クラスは、一般的な飛行機で言うところのファースト・クラスだ。
スーツケースを引く黒尽くめの男たちが、ぞろぞろと出国ゲートをくぐる。クローンヤクザだ。ケースの中身は大トロ粉末や素子。鉄道会社は買収されており、彼らは出国審査や荷物チェックなど全く受けていない。何たる非道!この便に与えられた獣の数字893には、そのような隠された意味があったのだ!
クローンヤクザたちは、クローンならではの統一感でダイミョ・クラスの車両に乗車する。五十人はいるだろうか。同じ髪形、同じサングラス、同じ歩幅、同じ足を前に出す。その中に、フード付の黒いレザーロングコートを着た者たちが数名。明らかにクローンではないと解る。彼らの正体は……ニンジャだ。
「ハーッ!疲れたぜ!ネオサイタマは便所の臭いがするからな!」ダイミョ・クラス車両に乗り込んだザイバツニンジャたちは、畳に座ってリラックスする。「まったくだ。だが、ジェノサイドの捕獲に成功したし、これで……」「ああ、昇格は間違いないだろうな」「誰の?」「俺たちのさ」「ユウジョウ!」
「前祝いと行くか!」ひときわ長身のニンジャが、壁に埋め込まれたIRC端末を使って、かなりの量のサケと、オイランドロイド4体をオーダーする。「ちょっと高いんじゃないか?」と別なニンジャ。「経費で落ちるだろ」また別のニンジャが、部屋の隅に置かれた高級フートンの上に寝転びながら言った。
「ポータルをくぐった時は死ぬかと思ったが」重いフード付コートを脱ぎながら、ニンジャの一人、ヘッジホッグが言った「ネオサイタマの死神に遭遇しなかったのは幸運だったな」。「まあ……」長身のニンジャ、サイクロプスもコートを脱ぎながら答える「俺たち4人ならば返り討ちにできただろうが…」。
「ああ、まったくだぜ」と3人目のニンジャ、フォビア。彼は隠密行動に長けるシノビニンジャ・クランのニンジャソウル憑依者である。その上、レーダーに映らない特殊ステルス体質の持ち主だ。最後の4人目のニンジャは、未だコートを脱ごうとせず、どこか不機嫌そうに部屋の隅でアグラを組んでいる。
この寡黙でサツバツとした四人目のニンジャの名は、グラディエイター。キョートに生還すればおそらくザイバツ・シャドーギルドのマスター位階へと昇格できるであろう、古参ニンジャである。他の3人はアデプトの位階へ昇ったばかりの若造どもであり、馴れ合う気など彼にはさらさら無いのであった。
「続いてカチグミ・クラスのお客様、ご乗車くださいドスエ」電子マイコ音声が、ダイミョ・クラスに続く、いわばビジネス・クラスの乗客たちをホームへと案内する。カチグミ・クラスの座席は、読者諸氏が知る一般的な特急列車のそれだ。リクライニング、IRC端末、相撲中継等の機能が備わっている。
「続いて中央部車両に荷物の積み込みが行われますので、後部車両となるマケグミ・クラスのお客様はもう少々お待ちくださいドスエ……」マイコ音声のアナウンスが流れる中、フジキドはサラリマンたちの長い列に混じって、チケットの車両番号と席番号を確認していた。ナンシーが手配した偽造チケットだ。
「あの、もしかして……」不意に、フジキドは後ろから声をかけられる。艶のある女の声だった。振り向くとそこには、微かなギムレットの香りを纏った見覚えのないオイランが立っている。パスポートを持っているところを見ると、彼女も乗客か。「どちらさまで……?」フジキドは帽子を目深に被り直した。
「昨夜、ネオ・カブキチョの相撲バーで…」オイランは訊ねた。あの男とどこか似た、不吉な影のある雰囲気を、フジキドが持っていたためだろう。常人もしばしば、そのような形でニンジャソウルを感じ取るものなのだ。「相撲バー?何の話か皆目検討が…」フジキドはそう答え、オイランは人違いを詫びた。
「残りのお客様、ゲートが開きましたので、10分以内の乗車に御協力ドスエ……」無表情な電子マイコ音声が流れる。フジキドは乗車し、72号車B2番席を探した。床の升目を頼りにB2の位置を探し、その升目からはみ出さないように、天井から垂れた吊り革を握る。マケグミ・クラスに座席は無いのだ。
「間もなく出発ドスエ……」車内にマイコ音声が流れた。ジェットエンジンの轟音が聞こえ始める。ナンシーの偽造パスポートとチケットは正しく機能したのだ。胸を撫で下ろすフジキド。そしてふと右隣を見ると……何たる偶然であろうか、彼の右隣のB3番席には、先程のオイランの姿があった。
オイランのユリコは、まだ自分が白昼夢の中にいるようだった。昨晩、ウェスタン相撲バーで起こった殺戮は現実のものだったのか?彼女が気絶から目覚めたとき、相撲バーはゴアまみれのジゴクめいたキリングフィールドと化しており、マッポが来る前に彼女はそこから逃げ出したのだ。
「あの人、あの人の名は…」オイランはぶつぶつと独りごちる。昨夜何があったのか、思い出すことも難しい。カソックコートを着た、ニヒルなあの男…。極度の精神的ショックにより、ニンジャやゾンビといった要素は、彼女のニューロンから欠落していたのだ。唯一つ覚えている単語は……「ジェノサイド」
◆◆◆
「AAAAAARRRRRGH!」暗い鋼鉄の棺桶の中で、ジェノサイドは獣じみた唸り声と共に、その両腕に力をこめた。しかし彼を拘束する特殊合金製の鎖付き手錠が腐った手首に食い込み、腕の肉をいくらか削ぎ落とすだけで、棺桶は開こうとしない。無駄な努力であることが解ると、彼は一層苛立った。
「おい、あっちの鋼鉄棺桶……」荷物車両警備員の一人が、車両の隅に立て置かれた積荷をマグライトで照らした「何か音がしなかったか?」。「気のせいだ」ともう一人の警備員「ジェットエンジンの音だろ。それにありゃあ、ダイミョ・クラスのお客様の荷物だぜ?下手に触ったら、ケジメじゃすまねえよ」
「俺は何処に運ばれるんだ?キョートか?リー先生だな!畜生め!ふざけるなよ!やっと静かな生活を取り戻したと思ったら、これかよ!俺が何をした!?ニンジャになって、ゾンビになって、まだ俺に何か責め苦を与えようってのか!?」……ジェノサイドの叫びは、ジェットエンジンの爆音にかき消された。
3
あらすじ:宿敵ラオモト・カンを倒し、ソウカイ・シンジケートを壊滅させたニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、新幹線でネオサイタマを離れ、ザイバツ・シャドーギルドの本拠地と目されるキョート・リパブリックへと向かっていた。彼の目的は、復讐。すなわち全ニンジャの抹殺である。
フジキドは知らぬが、この車両には彼の他にもニンジャがいた。キョートへ凱旋する4人のザイバツニンジャ、そして彼らの手で捕獲されたゾンビーニンジャのジェノサイド。さらにはジェノサイドへの不確かな追憶に耽る薄幸ゲイシャのユリコもまた、偶然この車両に乗り合わせていたのだ!ナムサン!
ネオサイタマの遥か西。枯れ果てた松林や打ち棄てられたライス・フィールドが延々と続く無人の荒野を、ヨリトモ&ベンケイ・レールウェイ社の新幹線が重々しく疾走する。降りしきる陰鬱な重金属酸性雨が、無慈悲な黒いボディに弾かれて後ろへと流れてゆく。
フジサンのふもとを通過し、早数時間。もはやここは文明圏とは呼べない。犯罪組織や列車強盗団が潜む、無法の地である。先頭車両の胸壁に搭載された4基の漢字サーチライトが、スモトリたちの手で操作され、せわしなく薄暗闇を切り裂く。
ネオサイタマとキョート間をつなぐ鉄道会社は2つ。ヨリトモ&ベンケイ・レールウェイ社とチョッコビン鉄道社である。無垢なる大衆は知らないが、それぞれの背後にはザイバツとソウカイヤが存在し、列車強盗団や反政府ゲリラに偽装した武装チームを使い、互いの路線を攻撃し合ってきたのだ。
ソウカイヤが壊滅した今、ヨリトモ&ベンケイ社は、ライバルであるチョッコビン鉄道社に対して圧倒的優位に立った。彼らが誇る乗客死傷率13%という低い数字に対し、ここ数日のチョッコビン社は乗客死傷率82%。いかにチョッコビン社で提供されるスシが美味くても、これでは勝負にならない。
「どうですか!モモロ=サン!もう一杯!」「オットット!オットットットット!!ドーモ!」リラクゼーション席に座るカチグミ・クラスのサラリマン2人が、サケを飲み交わしながら笑った。「ヨリトモ&ベンケイ社の株券をとてもたくさん持っていて良かった!」「この数日間でたいへん儲かりました!」
「ハァーッ!ハァーッ!モモロ=サン、マイコサービスを頼みませんか!?」「いやいや、キョートで伝説的なマイコにサービスしてもらいましょうよ」2人は株の利益で休暇を楽しむつもりなのだ。「帰る頃にはもっと儲かっているといいですね!」「チョッコビンに乗る連中がもっと死んで欲しい!」
◆◆◆
遥か後方、マケグミ・クラス車両。フジキド・ケンジは吊り革に掴まり、目を閉じてじっとメディテーションを続けていた。車内に流れる電子モクギョ音がリラクゼーションを誘い、睡魔が彼を襲う。ソウカイヤの壊滅と、それに続くザイバツのネオサイタマ侵攻以来、彼はほとんど不眠不休で戦い続けてきた。
……フジキドのニューロン内に再生される、あの第2の悪夢……ネオサイタマ全域で同時多発的に発生した爆発と殺戮、暴動と略奪……メガロシティに響き渡る怒号と痛ましい悲鳴……「圧倒的な」と極太ミンチョ体でショドーされたマグロツェッペリンが、焔にくるまれてスラム街へと落下してゆく……
……ザイバツ・シャドーギルドは、フジキドがラオモトを殺した直後、混乱に乗じてネオサイタマの暗黒社会を支配下に置くべく、狙い済ました破壊工作を行ったのだ。ナンシーがハッキングしたIRCログによって、それは裏付けられた。あの夜、果たしてどれだけの罪無き市民が絶望を味わったか……
フジキドの胸に、沸々と怒りが湧き上がる。彼のソウルは、あの夜の熱を覚えている。燃え盛るビルやマグロツェッペリンから伝わってきた、あの忌々しい熱を。かつて、スゴイタカイ・ビルの惨劇でトチノキとフユコを呑みこんだ、あの熱と同じ類だった。無力な弱者を嘲笑う、理不尽と不条理の呪わしき熱。
……(((だがもしかすると)))フジキドのニューロンに、押し殺していた考えが浮かぶ(((ネオサイタマ炎上は、私とナラクが引き起こしたものなのか?私がソウカイヤを滅ぼしたことで、数多くの罪無き市民が巻き添えを食ったのか?!ショッギョ・ムッジョ!ブッダ!!答えは何処にある!?)))
「ザッケンナコラー!!」目を血走らせたサイバーウェアの若者が、不意にヤクザスラングで叫んだ!コワイ!「アッコラー!?ねえちゃん、俺のバイオLANケーブル引っ張ったか!?引っ張ったな!?ザッケンナコラー!!俺らはバイオLAN端子埋め込んでんだよ!命賭けてんだよ!!スッゾコラー!?」
フジキドはその罵声で悪夢から引き戻される。隣にいたオイラン(訳注:このエピソードでオイランとゲイシャは同義か)のユリコが、前の列でLAN直結ショウギを楽しんでいたパンクス達にからまれたようだ。「すみません、引っ張ってなんかいないはず」ユリコは白昼夢から醒めたような顔で否定する。
「ザッケンナコラー!?俺の親友のトミオ=サンが引っ張られたつってんだよ!」「アッ!アッ!アッ!データ、データ飛ぶ!!焼き切れ!!アッ!バイオLAN端子!アッ!!」「見ろやコラー!!」3人のパンクスが一斉にまくし立てる。「謝罪しろやコラー!!」「LAN直結して謝罪しろやコラー!!」
ナムアミダブツ!他の乗客は見て見ぬ振りだ。このまま彼女の右耳の後ろにインプラントされたバイオLAN端子は、そして彼女のニューロンは、3人のパンクスたちによって公衆の面前で暴力的に陵辱されてしまうというのか?!……だがその時、す、とパンクスとゲイシャの間に手が伸びた。
その手は、親指と中指と薬指をくっつけて前に押し出す、いわゆるキツネ・サインの形を取っていた。敵対と威嚇を意味する攻撃的なサインでありつつも、中指を突き立てるよりも奥ゆかしい表現だ。「チェラッコラー!?」サイバーガスマスクを被ったトミオが激昂する。だがその直後、彼は静かに失禁した。
無理もない、彼は覗き込んでしまったのだ。悪夢から醒めたばかりの、ネオサイタマの死神の眼を。「騒ぎを起こすな」フジキドはごく短く、低く押し殺したジゴクめいた声で言った。その声は、ユリコが駅で聞いたそれとはまるで別人のようであった。LAN直結していた他の2人のパンクスも連鎖失禁した。
「「「ハイヨロコンデー」」」LAN直結によるIRCで感情がリンクし増幅しているのだろう。恐怖に呑まれた3人のパンクスは、声を震わせつつ前を向き直った。フジキドは手を引っ込めて、再び人間を装うように吊り革を握り直しメディテーションに入る。礼を述べるユリコの声はシャットアウトされた。
(((今のは良くない……やや自制心を失ってしまったか……)))フジキドは目を閉じ、冷酷で無慈悲なニンジャの本性を微かにさらけ出してしまったことを猛省した。ナラク・ニンジャが休眠状態にあるとはいえ、自らのソウルが人間のそれから遠くかけ離れていっていることを、彼は痛感したのだ。
この介入でさえも、ゲイシャを助けようと思ってのことなのか、それともメディテーションを妨害されたことに対する怒りの暴発なのか、フジキド本人にすら完全には解らないのだ。乱れた精神を安定させるために、フジキドが息を吸おうとした直後!……カブーン!!鈍い衝撃音!!車両が激しく揺れた!!
ブガー!ブガー!ブガー!ブガー!全車両内の非常用ボンボリが点滅し、レッドアラートを示す!「アイエエエエエ!」「コワイ!」あちこちから混乱の悲鳴が上がる!ナムアミダブツ!一体何が!?乗客たちは前方のLED液晶板に注目し、ゆっくりと右から左へと流れる文字を、固唾を呑んで見守った!
「乗 客 の 皆 さ ん へ 。 物 理 攻 撃 下 な 。」おお、ナムサン!何たる不運か!無表情な電子ミンチョ体で構成されたLED文字は、列車強盗団の攻撃を告げていたのだ!「皆 さ ん を 守 る オ ム ラ 社 の マ シ ン ガ ン 」次いで協賛会社の偽善的コマーシャル!!
「戦闘態勢重点!」「重点!」。新幹線戦闘車両のコマンドルームで、サイバー車掌らが戦闘用コックピットに座る!壁に掛けられた「まず点検」のショドーが緊張感を高める!全員が液晶LEDバイザー付ヘルメットを被り、両耳の後ろに埋め込まれた特殊バイオLAN端子にケーブルをジャックインする!
ブゥゥゥン、という低い機械音。壁に埋め込まれたインジケータ類のLEDが上昇し、全て赤に染まる!部屋の中心部に据え置かれたサイバー3Dボンボリモニタに、緑色のワイヤフレームで新幹線の現状が映し出された!そしてかなり速く回転する!「最後尾車両に着弾」「出火」「最後尾車両切り離し重点」
ガゴン!……ガゴンガゴンガゴンガゴン!!マケグミ・クラスの最後尾車両が無慈悲にも切り離された!「アイエーエエエエエ!」「アイエーエエエエエエエエエ!!」最初のミサイルランチャーの着弾ですでに半数近くが死傷していた74号車の乗客たちは、悲痛な叫びと共に遠ざかっていく!ナムサン!
「敵、列車強盗団、数およそ200」「脅威レベル、武田信玄クラス」「ブロードサイド、並びにマシンガンの制御権委任」「乗客死傷率5%未満維持」LAN直結によってニューロンを同期させたサイバー車掌らは、非人間的な思考速度でコマンドを下す!胸元を強調したオイランドロイドが汗を拭いて回る!
レッドアラートは、カチグミ・クラス車両でも鳴り響いていた。だが脅威レベルが想定内に収まっていたため、すぐにそれは鳴り止み、電子マイコ音声によるアナウンスが開始。「戦闘発生ですが、皆様の号車は強力な装甲で守られておりますので、快適な旅をお楽しみドスエ」そして雅楽的な笛の音が流れた。
「おっと、戦闘ですよ!」「これだから嫌だったんだ!スズキ=サン!だから私は、空路にしようって!」カチグミ・サラリマンのモモロ専務が取り乱す。だがスズキ専務は冷静だ。「ははあ、モモロ=サン!さてはキョート・ニュービーですか?この程度の戦闘、新幹線ではチャメシ・インシデントですよ!」
スズキ=サンはスシを口に運びながら、左手にある窓の外を指差した。侘しくも美しい砂浜と、鉛色の海が見える。半分砂に埋まった古いトリイが傾きまばらに立ち並び、その間を水牛たちが歩んでいる。汚染されてはいるが、美しい日本の原風景だ。海の彼方では、重油まみれのイルカたちが飛び跳ねている。
そして後方から猛スピードで迫ってくる、列車強盗団のバイクやバギーの群れ!まるで鯨をつけ狙うサメのように、巨大な新幹線の側面にぴったりと張り付き、小型ロケット弾、マシンガン、弓、タケヤリなどで執拗な攻撃を繰り出してくる!防弾措置が施されていないマケグミ車両は格好の餌食だ!ナムサン!
新幹線の遠隔操作マシンガンが火を噴く!「グワーッ!」「アイエエエ!」数台のバイクが宙を舞う!最後尾車両が切り離されたのに気付き、数台のバイクが手堅い戦利品を求め、砂を撒き散らしながら鋭いUターンを決める!空中では死の臭いを嗅ぎ付けた大型バイオスズメたちが、早くも旋回を始めていた!
「ニトロ重点!」先頭を走っていた着流しのバイカーが叫ぶ!「「「ニトロ!」」」後続の無法者たちもこれに続く!ニトロエンジンが火を噴き、10数台の武装バイクが音速にも迫るスピードで一気にカチグミ車両の側面にまで接近してきた!マシンガンの銃口やタケヤリの切っ先がモモロ=サンたちを狙う!
「コワイ!」モモロ=サンが両手で顔を覆い隠す!あわや失禁か!?だがその瞬間、カチグミ車両がズゥンと鈍く震動し、白い硝煙が窓の外を覆う!直後、ネギトロへと変わる列車強盗団!カチグミ車両の両側面に備わったキャノン砲列が、全砲門を開いてブロードサイド斉射を行ったのだ!ナムアミダブツ!
「アイエエエ!助けて、だれか助けて!」フジキドの乗る72号車で、若い男の叫び声が上がった。紫色の髪をしたサイバーゴスが、隣に立つピンク色の髪の友達に肩を貸しながら、すし詰めの乗客たちを押しのけて前に移動してくる!「ちょっとやめないか!」「ここは私の指定席だぞ!」浴びせられる罵倒!
「心臓が悪いんです!カチグミに乗せてください!空席でしょ!?」とサイバーゴス。「車両間移動はできません」72号車のドアの前に立つ鉄道警備員が腕を組み、逞しい上腕二頭筋と警棒で彼らを威圧した。「皆我慢してるんだ!」「お前も我慢しろ!」「ずうずうしいぞ!」他の乗客もゴスを痛烈に批判!
(((こんな時、あの人が横にいてくれたら、どんなに頼もしいか…)))ユリコは警棒で叩かれるゴスたちから目を背けた。「あの人の名は……ジェノサイド=サン?リー先生?」ユリコは繰り返し呟く。ニンジャリアリティ・ショックにより断片化したあの夜の記憶を、必死で呼び覚まそうとしているのだ。
かくもマッポーめいた様相を呈する、マケグミ・クラス車両!好対照に、新幹線と列車強盗団の戦闘をサファリクルーズのごとく観戦しながらマグロやイカのスシを食べる、カチグミ・クラス車両!……一方その頃、ザイバツ・シャドーギルドが乗り込むダイミョ・クラス車両では。
「高級オイランドロイドが足りないだと!?」サイクロプスは棍棒を振り上げ怒りを露にした。黒頭巾から覗く目には炎が燃え上がり、Y&B社の営業を恐怖させる「アイエエエエエ!すみません!もう予備が…」。「お前が荒っぽいからさ、サイクロプス=サン!3体も壊したんだからな!」とヘッジホッグ。
虎ビョウブの向こうでは、グラディエイターが独り正座をし、静かにグラディウス短剣を研ぐ。眼帯に覆われていない右眼で、刀身の光り具合を確かめる。愚かな若造どもには構っていられぬ。ニンジャは常に臨戦体勢を取るのだ。一方心配性のフォビアは、戦闘の成り行きを確認すべく車両外へと消えていた。
カブーン!再び後方のマケグミ車両が激しく揺れる!73号車が攻撃を受けたのだ!新幹線は先頭から機関車両、戦闘車両、ダイミョ車両、カチグミ車両、ダイミョ&カチグミ荷物車両、と並んでおり、以降約50両近くがマケグミ車両である。列車強盗団は機関車両の攻撃を諦め、後方車両を襲い始めたのだ!
その時だ!「呼び出しドスエ。お客様の中にリアルゲイシャかリアルオイランの方がいらっしゃいましたら、警備員までお申し出ください。大変お世話になっております」電子マイコ音声が全車両に響いたのである!ユリコはほとんど反射的に手を上げ、鉄道警備員にアッピールした!「実際ゲイシャです!」
警備員はサイバーサングラスに備わったアンテナを伸ばし、快適な通信速度を誇る新幹線IRCネットワークを介して、ユリコの姿を上司に送った。続いて音声通話を行う。「ハイ!ハイ!お世話になっております!ハイ!ゲイシャ!ハイ!胸?胸は豊満です!ハイ?…ハイ!ハイ!ハイ!ハイヨロコンデー!」
「では、ずっと前の車両まで行ってください」警備員はロック解除素子を取り出し、ユリコに手渡した。「エッ、ずっと前の車両って」「行けばわかります」。浜辺では、着流しモヒカンバイカーが死体へと変わり、バイオスズメに内臓を食い荒らされていた。ユリコに迫る、不吉な運命を暗示するかのように。
「リアルゲイシャを手配しましたので!」Y&B社の営業はしどろもどろで状況を説明する。「なかなか頭のまわるやつだな」サイクロプスは人差し指で威圧的に営業の胸板を押す「だが俺の怒りはおさまらない!誰かを叩き殺したい!サイバーゴス野郎も手配しろ!紫色とかピンク色の、ナヨナヨした奴だ!」
「お客様の中にサイバーゴスの方がいらっしゃいましたら、警備員までお申し出ください」と電子音声。72号車のサイバーゴス兄弟が手を上げて、鉄道警備員にアッピールした。再度音声通話。「ハイ!お世話になっております!ハイ!サイバーゴス!ハイ!髪?ピンクと紫です!ハイ!ハイヨロコンデー!」
かくして72号車から3人の乗客が姿を消した。だが、レッドアラートに震える乗客たちは気付かなかったであろう。実は4人の乗客が消えていたことを。おお、ナムサン!72号車B2番席、すなわちゲイシャのユリコの左隣に立っていたはずの男も、忽然と姿を消していたのである!
新幹線の上を、赤黒い装束に身を包んだ一人のニンジャが、死神の如き足取りで歩んでいた。その口元を隠すのは、「忍」「殺」の鋼鉄メンポ。時速666キロメートルの風が、首元に巻かれたマフラー状のぼろ布を、後方へと吹き流す。(((リー先生、そしてジェノサイド……あのゲイシャ、何かある)))
左には鉛色の海と死屍累々の浜。右には死のバイオ密林。遥か前方には峻厳なるキョート山脈と、ガイオンから暗黒の空へ放たれる非人間的なレーザービーム。そしてニンジャが彼を待ち受ける。これぞ古事記に予言された、マッポーの一側面。だがフジキドは歩を進めた。それら全てに挑戦を挑むかのように!
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あらすじ:宿敵ラオモト・カンを倒し、ソウカイ・シンジケートを壊滅させたニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、新幹線でネオサイタマを離れ、ザイバツ・シャドーギルドの本拠地と目されるキョート・リパブリックへと向かっていた。彼の目的は、復讐。すなわち全ニンジャの抹殺である。
だがこの車両には、彼の他にもニンジャが存在した。キョートへ凱旋する4人のザイバツニンジャ、そして彼らに捕獲されたゾンビーニンジャのジェノサイドだ。さらにはジェノサイドへの不確かな追憶に耽るゲイシャのユリコや無関係のサイバーゴス兄弟も、偶然この車両に乗り合わせていた!ナムサン!
タングステン・ボンボリが火花をバチバチと散らす、薄暗い荷物車両。ここにはダイミョ・クラスとカチグミ・クラスの荷物が積まれている。レッドアラートが鳴っても、2人の鉄道警備員に動揺は少ない。この車両から前には、強力な防弾装甲が施されているからだ。小型ロケット弾の着弾もものともしない。
「なあ、やっぱりあの隅に置いてある鋼鉄棺桶から、物音がすると思う」ジェノサイドが閉じ込められている鋼鉄棺桶をマグライトの光で差しながら、神経質そうな警備員が言った。これで何度目だろうか。「しつこい奴だな」と、もう片方の警備員「フェレットが入っててもタヌキが入っててもいいだろ?」。
「いや、何か荷物に不具合があるんじゃないかと思ったんだ。タケヤリが貫通して刺さったのかもしれない」弁明する神経質警備員。「お前は心配性過ぎるんだよ、ウッ!」と、もう片方の警備員「ちょっとしたトイレ休憩が必要だ。サツバツとした世界だからな。カチグミ・クラスを使ってくるから1分頼む」
そう言い残すと、天狗のタトゥーを右腕に入れた警備員は荷物室から出て行った。ドアが締まり、圧縮空気が排出される。神経質警備員は耳を澄ました。(((AAAAAAARRRRRGGGH!)))……やはり聞こえる。人間のものとは思えない不気味な唸り声。鎖の音。刃物が高速回転するような音。
「見るだけさ…」警備員は壁に立てかけられた鋼鉄棺桶の覗き窓蓋部分をマグライトで照らす。中にズンビーニンジャが入っていることを偽装するためか、「売買目的」「お急ぎOK」などの貨物シールが貼られていた。微かな異臭が漏れてくる。警備員はシールを剥がし、蓋を押さえる鋼鉄カンヌキを抜いた!
カランカランと、鋼鉄カンヌキ棒が床に転がる。棺桶から物音が聞こえなくなった。コワイ!(((だがもしこの中に、ペケロッパ・カルトのテロリストが入っていて、新幹線のマザーUNIXを爆発させようとしていたら……)))彼はザゼンドリンクの中毒者ゆえ、ナイーブな考えを抱きがちになっている。
警備員は恐怖を克服するため、懐からシャカリキ・タブレットをひとつ取り出して噛み砕く。(((俺がそいつのLANケーブルを掴んで引きずり出して、警棒で叩き殺して昇給……!)))警備員は意を決して覗き窓の蓋を開き、マグライトで中を照らす!「ア、アイエーエエエエエエエエエエエエ!!!」
火花を散らし、棺桶の中から鎖付き高速回転バズソーがハト時計のハトめいて飛び出す!警備員の両眼と平行にバズソーが食い込み、なおも回転!「アバババーッ!!」ニューロンを破壊され、警備員の体は無自覚なダンスを踊る!狂ったジューススタンドのように血飛沫を撒き散らした後、頭を輪切りに切断!
何たるジェノサイド!頭をスライスされた警備員の体はもんどりうって倒れ、タンスやコンテナが連鎖的に倒れて死体を埋没させる!「カチグミ共、ざまあ見やがれ」そこへ帰ってくる天狗タトゥーの警備員。ブッダ!相方の姿が見当たらない!照らす!棺桶のシールが剥がれている!「あのサイコパス野郎!」
「開けやがったな!」天狗警備員は鋼鉄棺桶に駆け寄る!「ふざけんじゃねえぞ!積荷に傷でもつけようモンなら、俺まで連帯責任でケジメじゃねえか!まず点検だ!」相方の死体を崩れたタンスの下に踏んでいるとも知らぬまま、彼は鋼鉄棺桶の覗き窓を開けた!「ア、アイエーエエエエエアババババーッ!」
◆◆◆
カブーン!56号車の横腹に、コケシロケット弾が命中した!激しく揺れ動く車内!回転する非常ボンボリ!怒号と喧騒の中を、ユリコは黙々と駆ける。その後ろには、手を硬く握り合ったサイバーゴスの2人が続く。彼らはそれからさらに数ダースのマケグミ・クラス車両を走り抜け、貨物室へと到着した。
ガゴンプシュー……ユリコたちの背後で重々しいドアが閉じ、圧縮空気がホースから吐き出される。車両の装甲がぶ厚くなったのが、ユリコにはすぐに感じられた。揺れも少ない。「この先はもう、カチグミ車両ですよね」「無断で入ったら、警棒で叩かれると思います」サイバーゴスたちが不安そうに言う。
「そういえば、警備員が…」ユリコは眉をしかめながら、薄暗い貨物室内を見渡した。これまでの車両には必ず警備員がおり、先へと進むよう彼女たちを促したのだが……まさか、この貨物車両が目的地というわけでもあるまい。ユリコは不安になった。ゲイシャは誰かに依存せねば生きては行けぬ存在なのだ。
「何か聞こえませんか?」サイバーゴスの片割れが、左手の先にインプラントした粗悪なサイバネティック集音マイクをかざして左右に動かす。レッドアラートの音やジェットエンジンの音をノイズとして消去。震える人差し指で、貨物室の最も暗い角を指差した「あっちの……鋼鉄棺桶めいた積荷のほうから」
「もしかして……」ピンク髪のゴスが推理した「新幹線が攻撃を受けた衝撃で、警備員=サンがタンスの下敷きになったんじゃ……」。「この室内に、心臓拍動音は3人分しかトレスできないよ」と集音機ゴス。しばしの沈黙。誰もそれ以上の推理力は持っていなかったので、鋼鉄棺桶に近づくことになった。
(((ARRRRRGH!)))鋼鉄棺桶の中から、再びゾンビーニンジャの呻きが漏れる。「ヒッ!」サイバーゴスの片方が失禁!腰を抜かして転倒したその下には、頭をスライスされた天狗タトゥーの警備員の死体!キュイイイイイイン!キュイイイイン!蓋の閉じられた鋼鉄棺桶の中から、異様な回転音!
「「アイエーエエエエエ!」」ゴスたちは床をぶざまに這いずりながら、隔離ドアまで逃げ帰る!素子をかざすが……ロックは解除されない!「ナンデ!?ロックナンデ!?」「コワイ!」ナムアミダブツ!彼らが受け取ったロック解除素子は一方通行用なのだ!もはやマケグミ車両に引き返すことはできない!
この状況下で、ユリコは冷静であった。ニンジャリアリティ・ショックにより、一時的に死に鈍感になっているのだろうか。ニューロンは気まぐれだ。ともかく彼女は、鋼鉄棺桶の中から響いてくる悲痛な男の呻き声と、彼の慟哭のごときバズソー回転音を聞き、砕け散った記憶の一部を取り戻したのである。
「ジェノサイド=サン……?」ユリコは鋼鉄棺桶に触れ、そう問いかけた。オカメ・パズルのように欠落した昨晩の記憶の数ピース。ジェノサイドがニンジャであり、ゾンビーでもあるという最も危険かつ重要なピースは、未だ失われたままだ。「中に、いるの?」ユリコの白く細い手が覗き窓の蓋へと伸びる!
「ノー!ユリコ=サン!ノー!」ジェノサイドは叫んだ「蓋に手を触れるな!俺を放っておいてくれ!」彼はユリコの声を覚えていた。もし彼女がこの蓋を開ければ何を見るか知っていた。ウエスタンハットにもスカーフ頭巾にも隠されていない、鼻と片耳のパーツが実際欠落した、醜いフクワライめいた顔だ。
ユリコはそれを拒絶と取り、瞳に絶望の色を浮かべる!ショッギョ・ムッジョ!何たる悲劇的再会か!?平安時代の詩聖ミヤモト・マサシならば、どんなハイクを詠んだであろう!?だがマッポーの世では感傷に浸る暇も許されぬ!不意にカチグミ車両側の扉が開いた!「「「ザッケンナコラー!!!」」」
黒いスーツに身を包んだザイバツのクローンヤクザ10体が、チャカやカタナを構えて一斉に貨物室内に雪崩れ込んできた!さらに、彼らにエスコートされるようにして姿を現したのは、2メートルを超える巨体と大きな棍棒が印象的なニンジャ、サイクロプス!その半分ほどの身長しかないヘッジホッグ!
「「「アイエエエエ!?」」」ゲイシャとサイバーゴスが叫ぶ!おお、ブッダ!彼女たちの到着を待ちわびたサイクロプスが、ダイミョ・クラス車両から出向いてきたのだ!「ウォーッ!」怒りと興奮を隠しきれないサイクロプスは棍棒を振り下ろし、手近にいたクローンヤクザ1体を叩き殺す!「アバーッ!」
「さんざん待たせやがって」ビッグニンジャ・クランのニンジャソウル憑依者サイクロプスは、棍棒を右手で高く掲げながら、ユリコのもとへと近づく。ユリコの恐怖する顔を見て、ヘッジホッグは頭巾に隠された口元にニヒルな笑みを作る。クローンヤクザたちはサイバーゴス2人を担ぎ上げて連行し始めた。
「アイエ…」ユリコは叫びを詰まらせた。何故ゲイシャが緊急呼び出しされたのか、その理由を悟ったからだ。「ジェノ…」そう言い掛け、ユリコは言葉を呑みこむ。自分は拒絶されたのだから。「何だ?ザイバツか?」ジェノサイドが困惑する「ユリコ=サン?どうなっているんだ?畜生!何たる責め苦だ!」
ガゴン!!不意に新幹線の天井が大きくへこんだ!新幹線貨物室を守る分厚い天井が、まるで柔らかいラバーか何かのように、拳の形に落ち窪んだのだ!「ジェノサイドのジツか?」サイクロプスは棍棒を構え警戒する。「違う!」とヘッジホッグ「奴の力はアンタイゾンビー・ウィルスで弱まっているはず!」
(((イヤーッ!)))装甲板を隔て、カラテシャウトが聞こえた。ガゴン!再び深く落ち窪む!明らかにその形はカラテの拳!(((イヤーッ!!)))ガゴン!!あまりの衝撃に、震動が車内まで伝わる!(((イイイイヤアアアアーッ!Wasshoi!!)))ガゴン!!!天井がついに打ち破られる!
「イヤーッ!」赤黒い影がサイクロプスとユリコの間へと、落雷の如きスピードで着地した。直立不動の姿勢を取るこの新たなニンジャは、「忍」「殺」の文字が刻まれた鋼鉄メンポの奥から、ジゴクめいた声を吐き出しオジギする!「ドーモ、ニンジャスレイヤーです。ザイバツニンジャ……死すべし!」
「ウォーッ?!ウォーッ?!」困惑しつつもオジギするサイクロプス!「ドーモ、サイクロプスです」「ドーモ、ヘッジホッグです」「ドーモ、ジェノサイドです」。ザイバツ・ニンジャ2人がオジギ動作を終えてからわずか0コンマ6秒!ニンジャスレイヤーは両手でスリケンを投擲していた!「イヤーッ!」
「「「グワーッ!!」」」3体のクローンヤクザが頚動脈から血を撒き散らしながら即死!ナムアミダブツ!「ウォーッ!」棍棒で回避するサイクロプス!「イヤーッ!」3連続側転で回避する身軽なヘッジホッグ!「こいつはヤバイな、サイクロプス=サン!」彼はそのまま自分の両こめかみを指で押す!
「イヤーッ!」ヘッジホッグの両指が自らのこめかみへ第二間接まで押し込まれる!コワイ!その直後、黒いニンジャ装束を内側から突き破るように、ヘッジホッグの頭部と背中に何十本もの針が生えてきた!いや違う!これは違法サイバネ手術によりインプラントされていた、バイオ無線LANアンテナ群だ!
(((フォビア=サン、グラディエーター=サン、緊急事態だ!ネオサイタマの死神が出現し、交戦中!)))ヘッジホッグはニンジャ集中力を高め、2人へと同時にIRCメッセージを高速送信する。タツジン!その隙をカバーするように、サイクロプスがニンジャスレイヤーに殴りかかった!「ウォーッ!」
強化バイオパインから作られた危険な棍棒が、ニンジャスレイヤーの頭上めがけ振り下ろされる!ナムサン!直撃を食らえばニンジャスレイヤーであろうとひとたまりもない!「イヤーッ!」だがニンジャスレイヤーは対空カラテ技であるポムポムパンチで対抗!激突!衝撃波が走り、拳と棍棒が弾き返される!
「「「ザッケンナコラー!!!」」」ニンジャスレイヤーが体勢を崩したところへクローンヤクザが一糸乱れぬ動きで迫る!カタナを振り下ろす前に、ニンジャスレイヤーの回し蹴りがこれを一掃!「「「グワーッ!」」」即死!だがドアを開けさらなるヤクザたちが出現!「「「ザッケンナコラー!!!」」」
「ウォーッ!」大リーガーめいた棍棒攻撃!今回は横薙ぎだ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは紙一重のブリッジで回避!さらに隙を消すためにバク転と天井ジャンプ、そしてタンスを使っての三角飛びを決めた後、ニンジャが入っていると思しき鋼鉄棺桶へ電撃的トビゲリ!「イヤーッ!」「グワーッ!」
ニンジャは神ではないし、物理法則を完全無視するカトゥーンめいた存在でもない。ゆえに分厚い鋼鉄棺桶を一撃破壊することはできないが、中に拘束されていたジェノサイドには、鋼鉄棺桶に入れられたままサッキョー・トレインに激突したほどの衝撃が与えられたはずだ!全身が鋼鉄棺桶に打ち据えられる!
「「「スッゾコラー!!!」」」ニンジャスレイヤーが着地で体勢を崩したところへクローンヤクザが迫る!ドスダガーが突き刺さる直前に、ニンジャスレイヤーはブレイクダンスめいた動きでこれを一掃!「「「グワーッ!」」」即死!だがドアを開けさらなるヤクザが出現!「「「スッゾコラー!!!」」」
「イイイイヤアアアーッ!」ヘッジホッグはニンジャ精神力を集中させ、IRCタイピング速度をブースト!「アバッ!?」遠く離れた戦闘車両で、新幹線のマザーUNIXにLAN直結していたサイバー車掌の一人が、ハンマーで頭を殴られたかのように痙攣!直後、吐血!「アバババーッ!」ハッキングだ!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはチョップの構えのままサイクロプスへと突き進む!だが貨物室内の天井に吊られた火炎放射器群が、まるで意志を持っているかのように一斉にニンジャスレイヤーのほうへと銃口を向け、紅蓮の炎を吐き出した!ヘッジホッグが新幹線の防衛システムを操作しているのだ!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは紙一重で火炎を回避!さらに連続バク転から側転を決め着地すると、鋼鉄棺桶の側面に痛烈なカラテ前蹴りを繰り出した!「イヤーッ!」「グワーッ!」揺さぶられ全身を痛打するジェノサイド!「アババーッ!」運悪くピンクの髪に火炎が引火し燃え上がるサイバーゴス!
続けざま、ニンジャスレイヤーは棍棒攻撃をブリッジで回避すると、回転ジャンプで一瞬にしてヘッジとの距離を詰める。「しまっ…」言い終らないうちにカラテ・ボレーキックがヘッジの頭部をとらえた!ナムサン!「イヤーッ!」「グワーッ!」ヘッジは壁に激しく叩きつけられ、火炎放射器がうなだれる!
「ウォーッ!ウォーッ!ウォーッ!」サイクロプスの3連続スイング!右!左!右!ニンジャスレイヤーは紙一重の3連続バク転でこれを回避!何たるワザマエ!さらに大きくタイドー・バックフリップを決め、鋼鉄棺桶の側面に着地!だがカラテを繰り出そうとするフジキドの前に、ユリコが立ちはだかった!
「クウッ!?」ニンジャスレイヤーのニューロンに迷いが生ずる。トラースキックが、ユリコの顔面の1ミリ手前で制止した!アブナイ!あと一瞬でも遅れれば、ゲイシャの頭はトーフめいて砕け散っていたはずだ。何故このような自己犠牲的な行動を取ってしまったのか?それはユリコ自身にも解らなかった。
「ウォーッ!」「グワーッ?!」サイクロプスの棍棒が、ニンジャスレイヤーの背中を直撃する!砲弾のように飛ぶフジキドの肉体!辛うじて衝撃吸収の動作を取るが、壁に全身を打ちすえられた!バカ!ウカツ!なんたるウカツ!ナラク・ニンジャが健在であれば、この手緩さを痛烈に非難したことであろう!
「「「スッゾコラー!!!」」」クローンヤクザが堰を切ったように雪崩れ込み、ゲイシャと生き残ったサイバーゴスを拉致する!「アーレエエエエエ!」「ヤメロー!ヤメロー!」カチグミクラス側のドアの向こうへと引きずられてゆく哀れな犠牲者たち!フジキドは立ち上がり、ジュー・ジツを構え直す!
おそるべきカラテの応酬が続く、新幹線貨物車輌!スリケンと生首が乱れ飛び、クローンヤクザたちのバイオ血液が室内を染め上げる!だが、彼らはまだ気付いていなかった……。新幹線貨物車輌の分厚い装甲板を隔てた数メートル外側に、新手のニンジャソウル憑依者2人が迫っていることを……。
キュッイイイイイイイイン!!キュッイイイイイイイイン!!耳をつんざくようなニトロエンジンの噴射音とともに、黒いバイクにまたがった2人のニンジャが貨物車輌の両脇へとにじり寄ってくる!サイバー車掌たちは機関車両へと無謀な攻撃を試みる他の列車強盗に気をとられ、この急接近を見逃していた!
ドゥラタタタタ!ドゥラタタタタ!ようやく、貨物車両の上に備わったオムラ社の最新鋭自動サーチマシンガンが2台のバイクを発見し、これにバースト射撃を加える!「「イヤーッ!!」」2人のニンジャはバイクを棄てて素早くジャンプし、ニンジャ筋力で貨物車輌の側面ハッチに取り付いた!タツジン!
「「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」」2人のニンジャはハッチをロックしている大型バルブをニンジャ筋力によって回転させる!キュコキュコキュコキュコ!!「非常識な」と書かれたLEDが明滅!ガゴンブシュー!圧縮空気が排出され、冒涜されるオブツダンのごとく外側から強引にハッチが開かれた!
「「イヤーッ!!」」2人のニンジャ、すなわちホースバックとヌーズマンは、意気揚々と貨物車輌内にダイブした!彼らは列車強盗団を率いるソウカイ・ニンジャ残党であり、ラオモトの死を未だ信じず、Y&B社への攻撃を続けていたのだ!しかし彼らもまた、今その中で起こっている死闘を知らなかった!
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あらすじ:新幹線でキョートへと向かうニンジャスレイヤー。だがこの新幹線には偶然にも、ザイバツ・シャドーギルドの4ニンジャと、ゾンビーニンジャのジェノサイドが乗っていた。さらにはソウカイヤ残党のヌーズマンとホースバックまでもが乗り込んできたのだ。殺せ!ニンジャスレイヤー!殺せ!
非常脱出ドアの破壊音!全員が注目!貨物室内に飛び込んできた2人のニンジャがオジギする!「ドーモ、ヌーズマンとホースバックです」ホースバックが代表でアイサツ。だが終わらぬうちに、彼の目は赤黒いニンジャ装束に引き寄せられた「……そのメンポ!貴様は、もしや、ニンジャスレイヤー=サン!」
「イヤーッ!」ネズミめいたしなやかな動きで、天井の穴から脱出するヘッジホッグ!一旦体勢を立て直し、ザイバツの4ニンジャでニンジャスレイヤーを迎撃する試みだ。カニング!混沌とした戦況につけこんだ、見事な狡知である!「ウオーッ!?」サイクロプスはゲイシャを追って前方車輌へと退避する!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは両腕を鞭のようにしならせ四方向へ同時にスリケンを射出!アブハチトラズ!「「グワーッ!」」側転で回避しようとしたソウカイニンジャ2人の股間にスリケンが命中!だが一瞬の判断の遅れが仇となった。ザイバツニンジャ達は既に殺傷可能半径から離脱していたのだ!
「アーレエエエエ!」「ヤメロー!ヤメロー!」「ウォーッ!?」「ニンジャ!?ニンジャナンデアバーッ!!」遠ざかってゆくゲイシャ、サイバーゴス、カチグミの悲鳴!では貨物車輌内の状況は?鋼鉄棺桶の中には未だ姿を見せぬニンジャが1体。スリケンを喰らわせたニンジャ2人も致命傷にはほど遠い。
(((どのニンジャから先に殺すべきか?)))フジキドはニューロンの中で殺害優先順位をショドーする。脳内化学物質が爆発的に分泌され、ネオサイタマ炎上以降ほとんど休息を取っていない彼の思考速度を強引にブーストした。そして大きく跳躍し、天井の穴から新幹線の上へと飛び出す!「イヤーッ!」
フジキドは、無線LANアンテナを大量に生やしたあのニンジャが、司令塔の役割を担っているに違いないと推測したのだ。この判断は正しいか?それとも致命的な誤りか?答えは知らぬ。ニンジャの世界にそのようなことを思い悩む時間は無い。どちらも過ちかもしれぬのだ。後悔は死んでからすればよい!
(((そう、最終的に全員殺せばよいのだ!)))ニンジャスレイヤーは静かな殺意を秘め、武装新幹線の屋根を駆けた!すでにヘッジホッグの姿は黒い点のようにしか見えない。代わりに、数メートル間隔で列を成したクローンヤクザが車輌間をハードル選手のように飛び越えつつ、前方車輌から迫ってくる!
「「「ザッケンナコラー!!」」」重金属酸性雨にスーツを濡らしながら、クローンヤクザたちは一糸乱れぬ動きで素早くチャカを抜く!コワイ!だがニンジャスレイヤーの目から彼らの動きはスローモーション映像めいて映るのだ。あたかも、ヤクザオリンピックのハードル競技中継を見ているかのように!
「スッゾコラー!」先頭を走ってきたクローンヤクザがチャカの引き金を立て続けに引く!BLAMBLAMBLAM!だが今のニンジャスレイヤーには、チャカの銃口から回転とともに吐き出される弾丸の軌道と、それによって消し飛ばされる重金属酸性雨の雨粒までもが見えている!タツジン!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは正確無比な開脚ジャンプで2発の銃弾を回避!着地!スライディングで残る1発の弾丸を紙一重でかわすと、一気にクローンヤクザの懐へ潜り込んだ。「チェラッ!?」混乱するヤクザ回路!「イヤーッ!」間髪入れず、無慈悲なカラテ・サマーソルトでヤクザの首を狩る!
それは常人の想像力を遥かに超える光景であった。3秒に一度クローンヤクザの首が撥ねられる。ニンジャスレイヤーは一瞬たりとも前進速度を緩めはしない。
この光景を、遠く離れた場所から観戦する者たちがいた。ヘッジホッグの強力な無線LANアンテナ群は、新幹線の各部位に備わった監視カメラを制御し、サイバー車掌のニューロンと新幹線のパラボラアンテナを介して、遠く離れたキョートジョウ・キャッスルの「観戦の間」へと戦況を届けていたのである。
◆◆◆
「フォーフォーフォー……」荘厳なパイプオルガンの音色に混じって、ロード・オブ・ザイバツのミステリアスな笑い声が響く。その顔は紫色の高貴なノレンに隠され、表情を窺い知ることはできない。玉座の背後に掲げられた大きな油絵は、アダムとイブに知恵の実を授けるニンジャのモティーフである。
「あれは伝説のカラテ技、サマーソルト・キックにございます」ロードの玉座の横に侍るパラゴンが、黄金で縁取られた3Dボンボリモニタの映像のひとつを指差しながら言った。彼の右手人差し指には違法サイバネ手術によりレーザーポインターがインプラントされているのだ。「手強い敵にございますな…」
「ムゥーフォーフォーフォー……」ロードは紫ノレンの奥から複雑な笑い声を洩らす「だがパラゴンよ、本当にあの者がラオモト・カンを殺したのか?中々のカラテではあるが……。あの者のニンジャソウルの力量が読めぬ……」。「そこが解せぬところで御座います」とパラゴン「真の力を隠しているのやも」
「フォーフォー……ならば新幹線に乗り込んでいるザイバツニンジャ全員と戦わせればよい」ロードは玉座の前に差し出された上等なワインを啜りながら、ショウギの一手を指すかのように肘掛で指を動かした「ニューワールドオダー…」。「御意にございます、マイロード」パラゴンがワインボトルを傾けた。
「ムゥーフォーフォーフォー……」ロードは紫ノレンの奥から複雑な笑い声を洩らす「だがパラゴンよ、本当にあの者がラオモト・カンを殺したのか?中々のカラテではあるが……。あの者のニンジャソウルの力量が読めぬ……」。「そこが解せぬところで御座います」とパラゴン「真の力を隠しているのやも」
「フォーフォー……ならば新幹線に乗り込んでいるザイバツニンジャ全員と戦わせればよい」ロードは玉座の前に差し出された上等なワインを啜りながら、ショウギの一手を指すかのように肘掛で指を動かした「ニューワールドオダー…」。「御意にございます、マイロード」パラゴンがワインボトルを傾けた。
ニンジャスレイヤーは2秒に1人のヤクザを殺害しながら、新幹線の屋根の上を駆け抜ける!放たれた矢のように!間もなく前方にジェットエンジンが吐き出す赤々とした炎がちらつき始めた。屋根の上にもタタミが敷き詰められ始めた!そこに仁王立ちで待ち構える二人のニンジャの姿を、フジキドは見る!
片方はヘッジホッグ、もう片方は新手のザイバツニンジャか。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、グラディエイターです」隻眼の手練ニンジャはバックラーとグラディウスを構えてオジギする。フジキドもタタミを焦がしながら急ブレーキをかけた。足の裏についたクローンヤクザの血が煙となって消える。
「ドーモ、グラディエイター=サン、ニンジャスレイヤーです」そしてジュー・ジツの構えを取り、間合いをはかる「……オヌシ、ザイバツの古参か。その名を知っているぞ。マルノウチ抗争の夜、ネオサイタマへと遠征したな?」「……ならばどうした?」グラディエーターはタタミに唾を吐きながら答える。
「オヌシはすぐには殺さぬ……聞きたい事があるのだ」ニンジャスレイヤーはその目を殺意に燃え上がらせ、「忍」「殺」のスリットから蒸気めいた息を吐いた。何故ニンジャスレイヤーは、初対面であるはずのグラディエイターの名を知っているのであろうか?……その秘密は、ソウカイヤの電脳室にあった。
ソウカイヤの根城であるトコロザワ・ピラーを襲撃したあの夜、ナンシー・リーは電脳室からパンチドテープを密かに持ち出し、これを解読していた。そこには、フジキドの妻子を殺し、彼自身にもまた瀕死の重傷を負わせたあの「マルノウチ抗争」に関して、ソウカイヤ側の機密データが収められていたのだ。
((マルノウチ抗争の引き金を引いたのは……))看護ベッドに横たわりながら呟くナンシーの声が、フジキドのニューロン内で再生される((ザイバツ・シャドーギルドよ。ネオサイタマを支配下に置くべく、あの夜、彼らはスゴイタカイ・ビルとそこで商談中のラオモトを襲い……全面戦争が始まったの))
このパンチドテープには、ニンジャソウル憑依者データベースであるソウカイ・ネットに登録されていた、十数名のザイバツ・ニンジャの情報も含まれていた。その多くは、マルノウチ抗争の尖兵となって、スゴイタカイ・ビル爆破計画を進めたニンジャである。グラディエイターはまさにその一人であった。
「マルノウチ抗争がどうした?え?」ヘッジホッグにバックアップを任せ、バックラーを前方に突き出しながら、じりじりと間合いを詰めるグラディエイター。「……あの抗争で、どれだけの民間人が巻き込まれたか知っているか?」とフジキド。「知らん。俺に説教を垂れるつもりか、ネオサイタマの死神が」
両者の間合いは、タタミ5枚。互いの力量を推し量りながら、眉間に汗を滲ませる。「イヤーッ!」機先を制するように、ニンジャスレイヤーが立膝からスリケンを投擲!「イヤーッ!」ライオンが描かれたバックラーで巧みにこれを弾き返すグラディエイター!ワザマエ!乾いた金属音が鳴り、緊張感が走る!
さらに摺り足で間合いを詰める両者。ニンジャスレイヤーのカラテとグラディエイターのグラディウス・ドー。いずれも至近距離が必殺の間合いである。「私怨か?」高まる緊張感に昂揚し、グラディエイターは剣闘士の笑いを笑った「まさか、そんな他愛も無い理由で、崇高なるザイバツに戦いを挑むのか?」
「見せてやろう」拳に力が篭る「その他愛も無い者に何ができるか、見せてやろう!」。その直後、両者は激突した!繰り出されるグラディウス!必殺のカラテ!ヘッジホッグの遠隔操作マシンガン6挺が火を吹く!光学迷彩フロシキを脱いで姿を現したフォビアが吹き矢を吹く!危うし、ニンジャスレイヤー!
◆◆◆
一方その頃、貨物車輌では。
「ブッダシット!何の騒ぎだ!」尋常ならざる騒音を聞きつけた鉄道警備員チーフが、マケグミ車両側のドアを開けて飛び込んできた。チーフの証として頭には紅い兜を被り、威圧的なサイバーサングラスで目元を隠している。その両手にはこれまで何百人をも撲殺してきた伝説的な警棒が握られていた。
相手がただの乗客であれば、それは一瞬にしてイカに変わっただろう。だが実際は闇の中から投げ縄が飛び来たり、彼の首を捕らえたのだ!「アバッ!?」直後、彼の逞しい体は勢いよく天井へと引き上げられる!ナムサン!首の骨が一瞬で粉砕され、絶命!彼の体はマグロめいた首吊り死体へと変わったのだ!
「呆気ねえ。肩慣らしにもならねえな」ヌーズマンは自らの武器であるバイオ強化投げ縄を回収しながら吐き捨てた。「ニンジャスレイヤーがいるとは想定外だ」ホースバックは自らのケブラー・グローインガードに突き刺さったスリケンを引き抜きながら相棒に言う「急いでこの車輌を切り離し、ずらかるぞ」
ナムアミダブツ!何たる恐ろしい計画か!彼らは貨物車輌以降を切り離し、列車強盗団の餌食とするつもりなのだ!そうなれば、マケグミ車両の乗客が辿る運命は……おお、ナムサン!「だが待て相棒」ヌーズマンは両耳に手を当て、微かな物音を聞き取ろうとした「そこの鋼鉄棺桶から何か聞こえないか?」
「鋼鉄棺桶だと?」ホースバックは相棒が指差す先を見た「何も聞こえんぞ。ジェットエンジンの音だろう。それより切り離しを急ぐぞ」。「いや、確かに聞こえた。中に何か入っているかも知れん」ヌーズマンは部屋の隅に立てかけられた鋼鉄棺桶へと近づく「重要な何かが」
「見るだけさ」ヌーズマンは鋼鉄棺桶の前に立ち、覗き窓を開いた。インガオホー!火花を散らし、棺桶の中から鎖付き高速回転バズソーがハト時計のハトめいて飛び出す!ヌーズマンの両眼と平行にバズソーが食い込み、なおも回転!「アバババーッ!!」ニューロンを破壊され、体は無自覚なダンスを踊る!
何たるジェノサイド!頭をスライスされたヌーズマンの死体はもんどりうって倒れ、爆発四散を遂げる!「ワッツ!?」ホースバックは眼を剥き、左腰の牛革ホルスターに吊った拳銃を反射的に抜いた!一体何が!?火花を散らしたバズソーは棺桶の中に戻り……その直後、内側で激しいバズソー回転音が鳴る!
チュイイイイイイイイン!2つのバズソーの刃が鋼鉄棺桶の蓋を四角く切り裂いてゆく!「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」恐怖に呑まれたホースバックは、左腰近くで握った拳銃のトリガを右掌で押さえ、連射の構えを取ったまま身動きできぬ!一瞬の静寂の後、切断された蓋が内側から蹴り壊された!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!!ホースバックはニンジャ反射神経と超人的な手首スナップの速度によって、マシンガンめいた速さでピストルの全弾を射出した!カラン、カランと薬莢が転がる。「……殺ったか?」
「アバーッ……」鋼鉄棺桶の中から、それは忌々しい死者の呻き声とともに歩み出た。唇の無い口から、アルコール臭い瘴気が吐き出される。コートに6個の穴が穿たれているが、腐り行く死体に銃弾を撃ちこんでも意味は無い。ホースバックは硝煙の向こうにその化け物を見た。鎖付バズソーが回転を始めた。
「……ふざけやがって」怪物はだらりと垂らした両袖の下でバズソーを回転させながら歩み出る。その脊髄と棺桶内のシリンジ群を繋いでいたチューブがブチブチと切断される。彼を弱体化させていたアンタイゾンビウイルス定期注入装置は、ニンジャスレイヤーのキックによって偶然にも破壊されていたのだ!
「ドーモ、ホースバックです。そのバズソー、貴様はもしや!ソウカイヤを裏切ったリー先生の犬だな!」ホースバックの心にラオモトへの忠誠心が蘇り、恐怖を塗りつぶす。「俺は!」ゾンビーニンジャは右の鎖付バズソーを頭上で一回転させた後、火花を散らしながらこれを投擲した!「ジェノサイドだ!」
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ホースバックはニンジャ反射神経とニンジャデクスタリティを駆使した超人的な高速弾込めを行った後、両手を使った三連射をバズソーめがけて繰り出す!1発!まだバズソーは止まらない!2発!勢いが弱まる!3発!バズソーの動きが止まった!タツジン!
勢いの弱まった右バズソーをヨーヨーめいて戻しながら、ジェノサイドは左バズソーに地を這わせた!「ゼツメツ!」床に食い込んだ丸ノコが、激しい火花を散らしながらホースバックの股間へと迫る!「バンジョー!!」ホースバックは紙一重のバク転でこれを回避!そのままカチグミ車輌のドアを蹴り破る!
6
あらすじ:キョートへと向かうY&B社の新幹線。偶然にもその屋根の上ではニンジャスレイヤーと3人のザイバツニンジャが戦い、車内ではジェノサイドとソウカイニンジャ残党ホースバックが戦う。凶悪なザイバツニンジャのサイクロプスに連れ去られた、ゲイシャとサイバーゴスの運命やいかに!?
フジキドらが乗る新幹線は列車強盗団からの執拗な攻撃を受け、ところどころ黒い装甲板が剥げ落ち、乳白色の柔肌をさらけ出していた。バイオクジラを虐待する殺人マグロの群れのように、列車強盗団は己の死も省みず、新幹線のわき腹にマシンガンやタケヤリを撃ち込んでくるのだ。
だがY&B社の勝利は目前だった。日本とキョート・リパブリックを隔てる、底知れぬ闇をたたえた巨大な谷、すなわちヴァレイ・オブ・センジンが、数百メートル先の地点に横たわっていたからだ。鉄道橋以外に、この谷を超える手段は無い。
「オタッシャデー!」列車強盗たちは口々に叫び、ニトロバイクやニトロバギーを口惜しそうに谷の手前でUターンさせる。「アイ!アイエエエエエエエエエ!」距離感を誤ったバイクが一台、真っ逆さまに谷底へと落下していった。
「オイデヤス!お客様、この新幹線は日本国境を越え、間もなくキョート・リパブリックへと入りマスエ」長大な鉄道橋を渡る新幹線車内で、奥ゆかしい電子マイコ音声が流れる。「安心だ!」カチグミ乗客たちはほっと胸を撫で下ろす。そしてスシを口へ運びながら、窓の外に広がる日本の美に感服した。
「美しい……」カチグミ客らは息を呑む。戦術核によって作られた谷。その岩肌に生える見事な松、温泉の湯気、紅い傘のオブジェ、硫黄じみた黄色い水など、日本人のプリミティブな美意識を強く刺激するアトモスフィアであった。まさか屋根の上でニンジャが死闘を繰り広げていようとは、夢にも思うまい。
「素晴らしいですね、スズキ=サン!ブッダに祈りを捧げたい気分ですよ」カチグミ車両のモモロ専務は、オーガニック・ブリを口に運びながら涙ぐんだ。「でしょう、モモロ=サン。飛行機に乗るのは風情が解らないイディオットですよ」スズキも携帯IRC端末で株価の上昇を確認しながらサケを呷った。
「マケグミ・クラスの連中は、風景を楽しむ余裕なんて無いんでしょうね」とモモロ専務「もっとも、彼らにそんな高尚な趣味は無いでしょうけど」。「ハハッ!マケグミは荷物以下の存在ですからね」スズキ専務はマグロを頬張りながら笑った「キョートまで立ちっぱなしなんて、狂気の沙汰ですよ」
「マケグミ・クラスの連中は、風景を楽しむ余裕なんて無いんでしょうね」とモモロ専務「もっとも、彼らにそんな高尚な趣味は無いでしょうけど」。「ハハッ!マケグミは荷物以下の存在ですからね」スズキ専務はマグロを頬張りながら笑った「キョートまで立ちっぱなしなんて、狂気の沙汰ですよ」
指差す先には、ダイミョクラス車両に向かって移動するクローンヤクザの列。その中には、連行されるゲイシャのユリコとサイバーゴスの姿もあった。「ゲイシャだ」酩酊したスズキはふらふらと近づく「合法行為はいくらですか?」。「助けて!助けてください!ニンジャ!ニンジャが!」「ニンジャ?」
「チェラッコラー!」黒服たちは恐るべきヤクザスラングとともにスズキを睨む!「ザッケンナコラー!ナンオラー!?スッゾコラー!」クローンならではの完璧なユニゾンだ。「アイエエエエエ?!」スズキの顔面が蒼白する。ナムアミダブツ!彼らが鉄道職員などではなくヤクザであることに気付いたのだ!
「助けて!ユウジョウ!」スズキが振り返ると、座席に座ったままのモモロ=サンは神妙な顔をして腕を組み、座席正面液晶ディスプレイのオスモウ中継を見ていた。スズキ専務に何が起こったのか、モモロ=サンは知っている。切り離されるマケグミ車両のように、モモロ=サンはスズキ専務を見捨てたのだ。
「ユウジョウ!ナンデ!?ユウジョウでしょ!?」スズキの叫び声が終わらぬうちに、クローンヤクザたちの頭の上からサイクロプスの長い腕が伸び、哀れなサラリマンの襟首を掴みあげて黒服の列の中へと引きずり込んだ。それから何事も無かったかのように、ヤクザたちはダイミョ車両へと消えていった。
シシオドシが鳴り終わった日本庭園のように、カチグミ車両は安らぎに包まれていた。奥ゆかしく流れるショーガツめいた雅楽BGM。「サムライ探偵サイゴ」のカトゥーン映画を見ていたファミリー客が、コミカルなシーンでクスクスと忍び笑い。モモロはまだ仏頂面を作ったまま、オスモウ中継を見ている。
(((ユウジョウ確認は自分の地位を守るためにあるんですよ、スズキ=サン)))モモロはワンプッシュで湯飲みに注がれるコブチャを啜りながら、心の中で呟いた。カチグミ・サラリマンらしい冷酷な割り切りである(((私をニュービー扱いして、本当に嫌な奴だった。ハイクも下手だし下品で臭い)))
その直後!後方のドアを破壊したホースバックが、12連続バク転を決めながらカチグミ車両へと乱入してきた!続いて血飛沫を飛ばす鎖付バズソーと、それを操るジェノサイド!ホースバックは右へ2回、左へ3回の連続側転でバズソーを巧みに回避した後、座席をバリケード代わりに銃撃で応戦!タツジン!
「バンジョー!」BLAMBLAM!ホースバックのピストル連射!「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」突如乱入してきたニンジャたちに困惑し、座席から立ち上がり射線をさえぎるカチグミ!インガオッホー!!カチグミの頭は完熟ウォーターメロンのように弾け飛び、スプリンクラーめいて血飛沫が飛ぶ!
「アイエエエエエエ!」たちまちカチグミ車両は悲鳴に包まれる!耳を塞いで座席の陰に隠れる者、ダイミョ車両へのドアに殺到するも開けられずこれを叩き続ける者、逆にマケグミ車両側へと逃げ出そうとする者、気付かずにTVプログラムを見続ける者……それら全員が、死のリスクを背負ったのだ!
「動くな、こいつを殺すぞ!」「アイエッ?!」ホースバックは側にいたモモロを立ち上がらせ銃口を当てる。罪無き乗客を盾に使うとは!だがジェノサイドは容赦なくバズソーを投擲!「アバーッ!」モモロがネギトロに!「バンジョー!」ホースバックは紙一重のダッキングで貫通してきたバズソーを回避!
ギュガギュガギュガ!バズソーの鎖が、後ろにあったポールダンス用のポールに絡まる。鎖を直線的に引いてもバズソーは手元に戻らない。「イェーハー!」ホースバックが意気揚々と座席の陰から射撃する「とんだイディオットだな!死体野郎!俺は人質を取るフリをしてお前のバズソー攻撃を誘ったのだ!」
銃弾がゾンビーの腐った体を半径数センチずつ弾き飛ばしていく!「くたばれ!腐臭まみれの死体野郎!裏切り者!リー先生の犬!」流れ弾がしばしば罪無き乗客らを襲う!悲鳴!ジェノサイドも闇雲にバズソーを振り回す!SPLAT!SPLAT!乱れ飛ぶ乗客の手足!一足早くマッポーが到来したのか!?
ヘッドショット!ジェノサイドの脳髄の一部が撃ち抜かれる!やはりまだアンタイゾンビー・ウィルスの効果が抜けきっておらず、彼の力は完全ではないのだ。「アバー……俺、は…」なおも続く雨のようなピストル連射を腕やチェーンで辛くもガードしながら、ジェノサイドは苦しげな呻き声をあげる。
「死ね!ゾンビ野郎!死ね!」ホースバックはその目にラオモトへの狂信的な光を灯しながら、ピストルを連射する。絡まった右手の鎖付バズソーを切り離し、銃弾を避けるため座席ぞいに横走りするジェノサイド。座席や壁に並んだグラス、湯呑み、一升瓶、テキーラ瓶などが割れ、乗客の悲鳴と交じり合う。
(((アバー、俺……俺は……何なんだ?)))ジェノサイドは座席の陰に隠れ、背を預けるように床に座り込んで銃撃をかわす。ここに身を隠すのは数秒が限界だ。その間に体勢を立て直さねば。左耳がキンキンとする。割れ飛んだサケボトルのせいか。いや、違う。彼の顔を見て隣で叫び声を上げる子供だ。
(((昔も聞いたな)))彼がジェノサイドとなる前、プロフェッショナルの殺し屋として身を立てていた頃の、サツバツとした記憶が断片的に蘇る。腐って虫食い状になったニューロンの銀幕の中に、色褪せた白黒無声映画めいて繰り返し映し出される。(((俺が始末した野郎のガキの声だったか?)))
あの夜彼は、最後の汚れ仕事を終えて完全にヒットマンの仕事から足を洗い、情婦とともにオキナワで静かに余生を過すはずだった。問題は、その情婦がヤクザクランのお偉いさんの所有物だったことだ。ヤクザクランはソウカイヤに彼の殺害を依頼し……ソウカイヤは生け捕りにした彼をリー先生に提供した。
ゾンビーニンジャ計画の被験者となって殺され、そして復活した彼の自我と記憶は、腐ったアンコシチューのように混濁している。自分の名前すら忘れた殺し屋時代の記憶、ゼツメツ・ニンジャの記憶、そしてジェノサイドとなってからの記憶が混ざり合い……ニューロンの腐敗とともに欠落し続けているのだ。
(((ニンジャでゾンビーか!二重に呪われてやがる!死んだ体で生きながら、朽ち果てるまでインガオホーの苦しみを味わうのか?ブッダよ!あんたは大層残酷な奴だ!てめえのオブツダンに小便をかけてやりたい気分だぜ!!)))ジェノサイドの胸をゼツメツ衝動が満たし、隣の少年を射竦める目で睨む。
(((俺は何だっていいんだ、誰だって殺す!女子供も関係無しだ!ニンジャも殺す!それが一番手っ取り早いからな!ゼツメツだ!俺の安寧を邪魔する騒々しい奴らは、ゼツメツしてやる!)))ゼツメツ・ニンジャソウルの力が、左のバズソーを回転させる。少年は歯科医のドリル音を想起し押し黙った。
(((まずはこのガキだ。それからこの新幹線の中にいる連中を、全員ゼツメツ…)))ここで不意に、ジェノサイドのニューロン内銀幕にゲイシャの姿が映った。ユリコ。そうだ、彼女もこの列車内にいるのだ。この映像はオスモウバーの記憶か?いや……違う…(((俺は以前にも、ユリコと……?!)))
ジェノサイドは少年の眼前まで近づけていたバズソーを引き、バンザイテキーラで濡れた床を強く蹴って、座席の背もたれ上を飛び渡る。まっしぐらに、ダイミョ車両へと。「てめえの腐った体からは便器の臭いがするぜ!」ホースバックもバリケードから飛び出し、射撃を続けながらジェノサイドを追った。
「イヤーッ!」振り向きざま、ジェノサイドは左のバズソーを投げ放つ。だが高い!かわすまでもなく、相手の頭上を通過。ナムサン!「どこ狙ってやがる腐れ脳味噌!」嘲笑いながら銃弾を高速手篭めするホースバック。だがその直後、頭上でバズソーが何かを切断する音と、バチバチという嫌な音が鳴った。
「ブッダファ…」ホースバックは装填し終えたピストルで頭上のシーリングファンを破壊するか、それとも単純に回避するかで一瞬迷った。その迷いが、ニンジャの戦闘においては致命的であった。素早いサイドステップで回避し、前方に銃口を向けなおした時、すでにジェノサイドが大きく跳躍してきていた。
跳躍してきたジェノサイドはホースバックを正面から押し倒し、すかさずマウントポジションを奪う!「俺は…」ゾンビーニンジャの怪力がホースバックの手首を掴み、ピストルを持った手を720度回転させてねじ切った。ネクロカラテ!さらに喉元へ爪をめり込ませる!「グワーッ!」「ジェノサイドだ!」
ジェノサイドの濁った目は敵の首に巻かれたウエスタンバンダナを発見し、左手でそれを引きちぎる。それから喉に突き刺していた右手に力を篭め、頭部を切断し放り投げた。「サヨナラ!」爆発四散するホースバック!立ち上がったジェノサイドはバンダナを巻いて口元を隠し、前方のダイミョ車両へと急ぐ!
◆◆◆
一方その頃、新幹線の屋根の上では。敷き詰められた黒いナノカーボンタタミの上で、別なニンジャたちによるゴジュッポ・ヒャッポめいた戦いが続行していた。
「イヤーッ!」振り下ろされるニンジャスレイヤーのカラテ!強化ダイヤモンドチタン製のバックラーでこれを受け止めながら、脛部分を横薙ぎに切り払うグラディエイターのグラディウス短剣。ニンジャスレイヤーはこれを紙一重のジャンプで回避し、そのまま腰を捻って蹴りを胸に叩き込む!「グワーッ!」
「あれは伝説のカラテ技、ローリングソバット!」キョート城の観戦の間では、パラゴンがその豊富な知識を駆使し、主君の戦闘観戦をサポートしていた「格闘スタイルの一部に、ドラゴンニンジャ・クランのそれが混じっておりますな、マイロード」。「ムフォーフォーフォー」ロードは無表情な笑いを返す。
「グラディエイターの実力は低くありませぬ。ソウルはさほど強力ではありませぬが」パラゴンは直結LANケーブル経由でザイバツ機密ファイルにアクセス「ニンジャソウル憑依前から、凶暴なメキシコライオンを剣一本で殺し、シャドー・コンで連続優勝を果たしておりました」。「ムフォーフォーフォー」
ソバットを受け後方に後ずさりするグラディエイター。その首をチョップでへし折るべく、ニンジャスレイヤーが突き進んだ。グラディエイターは舌打しながら高くジャンプし緊急回避。だがそれは悪手!ニンジャスレイヤーは敵が無防備になる着地の隙にカラテを合わせるべく、ジュー・ジツを構えなおした。
だが、真のウカツはどちらだ?「イヤーッ!」ヘッジホッグもまた高く跳躍し、ニンジャ集中力を高めてバイオ無線LANの出力を増大させた。「アバーッ!?」サイバー車掌が遠隔ハッキングを受け、吐血!その直後、ブーストされた新幹線のジェットエンジンから、火竜の舌めいた猛烈な炎が吐き出された!
普段はエンジン部から数メートルしか噴射していない炎が、一気に数十メートルに達し、新幹線の屋根上に存在する全てを呑みこんだのである。ナムサン!「フォーフォーフォー、やる」ロードは愉快そうにワインで口を潤した。「フォビアも……見えませんが、IRCで連携し回避しているはず」とパラゴン。
「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは回避を試みるも間に合わず、ジェット噴射に巻き込まれ、火達磨になってカーボンタタミの上を転がる。凄まじいダメージ!だが間一髪ともいえる。ガードが甘ければ、彼は今頃そこかしこにマグロめいて転がっているクローンヤクザと同様の黒焦死体を晒していただろう。
ニンジャスレイヤーは、カーボンタタミを叩きながら左右に高速で転がる。「あれはチャドーの奥義、ウケミ!」パラゴンが舌を巻いた「物理的ダメージや熱エネルギーをタタミへと逃がすというのか!」ミスティック!見る間に炎が消える!ナラクの力を失ったフジキドは、チャドーの鍛錬を重ねていたのだ!
「チャドー!?ムフォーフォーフォーフォー」ロード・オブ・ザイバツも驚きを隠せない。太古の暗殺拳チャドーは神秘的なワザであり、その存在は数百年以上に渡って謎に包まれてきた。「すでに滅びたものと思われましたが……」パラゴンが繋ぐ「しかし、チャドーは体力と精神力を烈しく消費するはず!」
実際その通りであった。体を起こしてジュー・ジツを構え直す前に、フジキドはグラディエイターの接近を許してしまったのだ。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」心臓を狙い、グラディウス短剣が連続でタタミに突き立てられる!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」転がって回避するニンジャスレイヤー!
だが、おお、ブッダ!ここはドージョーではない!このまま転がり続ければ、新幹線から落ちてしまうぞ!しかしニンジャスレイヤーはそのまま転がり続け、新幹線の側面へと落下!ネギトロめいた死体へ変わるかと思ったが、装甲板に突き刺さったタケヤリで大回転を決め、屋根の上に跳び戻った!タツジン!
「なかなかのワザマエだな、敬意を表する」間合いを取ってバックラーと短剣を構え直したグラディエイターが言い放つ。その数メートル後ろにヘッジホッグ。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはグラディエイターを無視し、背後のヘッジホッグめがけてスリケンを投擲!
「だが駆け引きが甘い!」グラディエイターはバックラーでスリケンを弾き、支援役のヘッジホッグを守った。カラテとハッキングの連携攻撃を断たねば勝利は無いと見たフジキド……その狙いは正しかったが、グラディエイターは恐るべきベテランだったのだ。彼を無視しヘッジホッグを倒すのは困難である。
ザリザリザリ、ザリザリザリ。ジェット噴射以降、映像へのノイズが多い。「強引なハッキング攻撃の影響でしょうな。ともあれ、このまま続けば5分以内に89%の確率でグラディエイターが勝利いたします」とパラゴン「チャドーとは驚きましたが、ニンジャソウルの正体は不明のままでございましたな」。
「フォーフォーフォー、良い余興であった。ニンジャスレイヤーとやらの力が、あの程度であったとは。コウボウ・エラーズ。アラクニッドの花札タロット占いも信用ならんものよ」ロードは膝上のネコを撫でつつ言った。「それでは次に移りましょう。屋内カメラにはさらにノイズが多いようで御座いますが」
パラゴンは赤いレーザーポインタで、3Dボンボリモニタ内に浮かぶ無数の映像の中から、カチグミ車両内の固定カメラをピックアップした。ジェノサイドが今まさに、ホースバックを爆発四散させようとする瞬間であった。「ムフゥーン?こやつは?」興味を示すロード「リー先生の作った死体ニンジャか?」
「左様に御座います、聡明なるマイロード」とパラゴン「伝説のゼツメツ・ニンジャのニンジャソウルが死体に憑依し、リー先生のラボを脱走したのです」。「フォーフォーフォー……面白い。だがそのような強敵に、サイクロプスだけで勝てるのか?」「抜かりなく。すでにフォビアを向かわせております故」
7
あらすじ:キョートへと向かう武装新幹線で戦うニンジャたち。屋根の上にはニンジャスレイヤーとザイバツニンジャ達。そして車両内には、生前の記憶を取り戻しかけるジェノサイドの姿が。ホースバックを倒した彼は、ゲイシャのユリコを拉致したサイクロプスを追って、ダイミョクラス車両へと走る!
「アーレエエエエ!」ユリコはダイミョクラスに敷き詰められたオーガニック・タタミへと乱暴に投げ出された。サイバーゴスのダテ=サン、不運にも巻き込まれたカチグミ・サラリマンのスズキ=サンも同様だ。彼らをぐるりと取り囲むのは、30人ものクローンヤクザである。
ユリコは何が起こっているのかまるで理解できなかった。車内アナウンスでゲイシャが呼び出され、貨物室で鋼鉄棺桶に閉じ込められたジェノサイドと再会し……そしてニンジャ、ニンジャ、ニンジャである。
だが、自分たちの目の前に古代ギリシャ神話の巨人のごとく威圧的に立ちはだかり、暴力衝動に満ちた目を血走らせ、メンポのスリットから泡を吹き出すこの巨漢ニンジャを見れば……ユリコは自分達の身に何が起こりつつあるのかだけは容易に理解できた。(((ファック&サヨナラ、というわけね……)))
ユリコは精一杯のニヒルさで、自らの精神を保とうとしていた。だが、死の危険が目前に迫っているこの状況では、ノーレンを押すかのごとし。いまの彼女の心を満たすのは、失意である。淡い白昼夢のごときジェノサイドとの出会い……別れ……再会……そして拒絶。抵抗のための力は湧き上がってこない。
「ハァーッ!ハァーッ!どいつだ!どいつから……!」サイクロプスは興奮を隠し切れないようで、右手で棍棒を振り上げたり下ろしたりしながら3人を見回し品定めする。「やはり女だな!」巨漢ニンジャの逞しい手がユリコの帯を掴んだ!ナムサン!そして力づくで彼女を立ち上がらせ、力任せに帯を引く!
「ウォーッ!」「アーレエエエエエ!」ユリコはタタミの上で哀しい独楽のように回転する。複雑な仕組みにより、ユリコが何重にも着ていたゲイシャドレスが乱れ飛び、純白のPVCビキニ姿となった。ゴウランガ!さらに足がもつれ転倒し、床を転げ、ビョウブに全身を強く叩きつけられる!「ンアーッ!」
「ヨイデワ・ナイカ!」ぞっとするほど下卑た野蛮な笑い声と共に、巨漢ニンジャが歩み寄ってくる。「ゲホッ、ゲホーッ…」ユリコはえずきながら、目の間のビョウブに描かれた威圧的なナスビとフジサンの図柄を見る。ナスビは死の象徴だ。周囲には、首や四肢の千切れたオイランドロイドが転がっている。
(((戻りたい、あの夜に!ブッダ、あなたは残酷なサディストだわ!せめてあの夜に死んでいたら、こんな想いを味わわずに済んだのに!)))おお、ナムサン!ユリコはこのままクローンヤクザによる衆人環視の中、惨たらしく陵辱され、棍棒で殴られマグロめいた死体へと変わってしまうのであろうか!?
その時!耳をつんざくようなバズソーの回転音が、ダイミョクラス車両内に響き渡った!2つの丸ノコが、ダイミョクラス車両のドアを切断すべく外側から押し当てられているのだ!「ウォーッ!?ジェノサイドだと!?」サイクロプスが振り返り困惑する「奴はウィルスの影響で動けんはず!ウォーッ!?」
(((だが、ダイミョクラスの強化フスマはとても硬い。ジェノサイドのバズソーでも切断まであと20秒はかかるだろう!20秒あれば十分!)))サイクロプスはユリコに向き直る!そこへパラゴンからの携帯IRCメッセージが着信!「ウォーッ!?」複雑な状況に混乱したサイクロプスは頭を抱え叫ぶ!
「ウォーッ!?」サイクロプスは血走った目でユリコを見る。胸は豊満だ。白地にシルバーで舞鶴のパターンを印刷された奥ゆかしいPVCビキニが、無残にそれを破壊してやりたいという欲望をそそる。「ウォーッ!?」だが敵も近い!「ウォーッ!?」IRC端末には、ロードの御観戦を告げるメッセージ!
(((レッドゴリラ=サン!マスター・レッドゴリラ=サン!俺に道を示してくれ!)))混乱するサイクロプスは、ニューロンの中でニュービー時代のメンターの名を叫んだ!ニューロンの中に深く刻み付けられたレッドゴリラの残像が、彼にこう告げる……(((何事も暴力で解決するのが一番だ)))
(((最初にジェノサイドをファックすればいいということか!)))サイクロプスの目から迷いが消えた!「ウォーッ!」床を踏み鳴らし、破壊されつつある強化フスマへと頭突き突進を繰り出す!不自然な頭巾の突起を見よ!彼の頭頂部には短いダイヤモンドチタン製一本角がインプラントされているのだ!
そしてインパクト!トラックの激突にも匹敵する衝撃により、強化フスマごとジェノサイドの体が弾き飛ばされる!「グワーッツ!?」あと少しで強化フスマを切断し、ユリコのいる車両に踏み込めると思っていたジェノサイドは、思わぬアンブッシュを受け車両後方の壁に叩きつけられた!ウカツ!
突撃によって破壊されたコード類がバチバチと火花を散らす中、高さ2メートルの強化フスマの戸口がいかにも狭いといわんばかりに、その異常長身を屈めながらサイクロプスが姿を現す。目は単純明快な殺意に燃え、右手の棍棒を激しく振り上げ振り下ろす、おそるべき殺人機械のごとき動作を続けていた。
二者が対峙するのは、タタミが敷かれた予備ダイミョ車両である。「俺は……」痛覚を持たぬゾンビーニンジャは、壁に叩きつけられたダメージをものともせず、左右の鎖付バズソーをヨーヨーめいて足下付近で回転させ、床で火花を散らしながらサイクロプスへと一直線に駆け込む!「……ジェノサイドだ!」
「ジェノサイド=サン!?」破壊されたフスマの彼方からユリコの絶叫が聞こえ、彼のニューロンを引っ張った。「生きていたか…!」ジェノサイドは小さく吐く。彼には瞼も唇もなく、その表情は窺い知れない。だが少なくとも、敵ニンジャを前に腑抜けた安堵の表情を浮かべるほど愚かではなかっただろう。
「ウォーッ!」女神をさらいモータルめいた英雄の前に立ちはだかるギリシャ神話の巨人のごとく、サイクロプスは右手に握った重々しい棍棒を振り上げ、真正面から駆け込んでくるジェノサイド目掛け……振り下ろす!凄まじい打撃!目の前のオーガニックタタミが破裂し飛散した!ジェノサイドはどこに?!
「イヤーッ!」ジェノサイドは紙一重のサイドステップで棍棒を回避していた。タツジン!そして両腕をスナップさせバズソーにカラテの力を伝える。ギュラギュラギュラギュラ!それ自身が敵意に満ちているかのように、ヨーヨーめいて床で回転していたバズソーがバウンドし、サイクロプスに襲い掛かった!
「グワーッ!」2枚のバズソーがサイクロプスの脛、そしてガードのために咄嗟に突き出された両腕を切り裂く。SPLAT!飛び散る血飛沫!だが浅い!人間ならば一撃で腕をケジメされていただろうが、強靭な筋力を持つビッグニンジャの丸太めいた腕にとっては、スリケンが突き刺さった程度の痛みだ。
「ウオーッ!」サイクロプスが棍棒を振る。「イヤーッ!」これを片手で受け止めるジェノサイド。ゴウランガ!これぞネクロカラテの真髄!生きた人間は肉体の自壊を防ぐため無意識に筋力を抑制しており、潜在能力の数%しか力を使えないとされる。だがゾンビーニンジャにそのような枷は存在しないのだ。
ジェノサイドは棍棒に爪を突き立て、これを奪い取ろうとする。二者は、純粋な膂力比べの体勢に入った。「ウォーッ!」「ゼツメツ!」力は互角……いや、徐々にサイクロプスが押し負ける!「ウォーッ!?これがジェノサイド=サンの真の力だというのか!?俺の暴力が!俺の暴力が通用しないだと!?」
「俺をコケにしやがって!解体してやるぜ!お前を!」ゼツメツ・ニンジャソウルの影響か、ジェノサイドの両目が緑色に光る。コワイ!ついに棍棒は奪い取られ、後方へと放り投げられた。体勢を崩すサイクロプス。間髪入れずジェノサイドは敵の肩に後ろから飛び乗り、肩車の姿勢でバズソーを高く構える!
「ゼツメツ!」ジェノサイドが敵の左右の頚動脈目掛けて両腕のバズソーを振り下ろしかけた、まさにその時!部屋の隅に隠れていたフォビアが光学フロシキを脱いで姿を現し、アンタイゾンビー・ウィルスが塗られたクナイ・ダートを投擲した!「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムアミダブツ!両胸に命中!
「ウォーッ!」サイクロプスはジェノサイドの両足を掴み、目の前のタタミへと叩きつけた!ゾンビーニンジャの両胸に刺さったクナイが、腐った肉の中へ杭打ちされる!「グワーッ!」「あのゲイシャとネンゴロか?」フォビアが嘲笑う「あの女はファックして殺すから、リー先生にゾンビにして貰えよ!」
「イヤーッ!」フォビアは倒れたジェノサイドめがけ、容赦なくクナイ・ダートを投擲!「ARRRRGH!」ジェノサイドは横に転がって立ち上がり、辛うじて回避!ゾンビーニンジャは生身のニンジャではないため、ウィルスを全身に行き渡らせるには、さらに数発のクナイを撃ち込む必要があるのだ。
「サイクロプス=サン、こいつを使え!」棍棒を拾い直しに向かったビッグニンジャに、フォビアはウィルス塗布済クナイを数本手渡す。「ウォーッ!」サイクロプスはそれを怪力で棍棒にねじりこみ、オニめいた恐るべき即席武器を作り出した。「ゾンビー狩りと行こうぜ!イヤーッ!」さらにクナイを投擲!
「ARRRRRGH!」ジェノサイドは左右の鎖付バズソーを体の前でUNIXファンのごとく高速回転させ、刃の防御壁を作る。フォビアのクナイ・ダートが弾かれ、床と天井にそれぞれ突き刺さった。昨夜の相撲バーの戦いでは、このウィルスの存在を知らなかったジェノサイドが一方的に敗北したのだ。
「ウォーッ!」駆け込んできたサイクロプスが棍棒を大きくスイング!腕でガードも可能だが、それでは棍棒に打ち込まれたクナイが突き刺さってしまう。やむを得ずダッキング回避して隙が生まれたところへ……フォビアのクナイが右腿に命中!「グワーッ!」ウィルスを注入されるたびに徐々に動きが鈍る!
「ジェノサイド=サン!」あられもない姿のユリコは、ゲイシャドレスを着る間も惜しみ、破壊されたフスマの奥から身を乗り出す。「ナンオラー!」「ダッテメッコッラー!?」3人の捕虜を取り囲むように円陣を組んだクローンヤクザたちがライブ会場のセキュリティめいて仁王立ちし、彼女の前進を阻む!
◆◆◆
一方その頃、彼らの頭上では……分厚い装甲壁とカーボンナノタタミを隔て、新幹線の屋根の上でニンジャスレイヤーとザイバツニンジャ2人の戦いが続行していた。
「ハァーッ!ハァーッ!」ニンジャスレイヤーの息が上がり始める。先程から数々の荒業を繰り出しているが、グラディエイターのカラテとヘッジホッグのハッキングによる連携攻撃は未だ打破できない。チャドー呼吸を整える時間すら得られず、ニンジャスレイヤーの体力は一方的に削られ続けていたのだ。
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは残された体力を振り絞り、チョップ、ケリキック、チョップのコンビネーションを繰り出す。「ヌゥーッ!」バックラーで防ぐも、次第に押され、体勢を崩し始めるグラディエイター。勝機!ニンジャスレイヤーはポンパンチの予備動作に入る!
「イヤーッ!」だがここで再び、グラディエイターは空中へと跳躍して逃れる。「イヤーッ!」ヘッジホッグも跳んだ!ナムサン!またしてもあのジェット噴射攻撃が繰り出されるのか。これまでにニンジャスレイヤーは4回のジェット噴射を回避してきたが、そのたびに掴みかけた勝機を逃してきたのだ。
(((もっと火力を!次で焼き払ってやる!)))ヘッジホッグは両のこめかみに指を突き刺し、バイオ無線LANアンテナの出力を最大にした。「イヤーッ!」「アバッ!?」「アババババーッ!?」遠隔ハッキングを受けたサイバー車掌2人が吐血して絶命し、危険な大出力ジェット噴射が強制承認される!
◆◆◆
「緊急事態ドスエ」ユリコらが捕われたダイミョクラス車両の前方のフスマが開き、Y&B社の車掌補佐オイランドロイドがドゲザとともに姿を現した。「サイバー車掌が75%死傷いたしまして、制御困難な状態ドス。このままでは本車両は時速1千キロメートルでガイオンステーションに激突し爆発ドスエ」
「何ですって!?」クローンヤクザに部屋の中央へと押し戻されたユリコは、オイランドロイドの告げる驚愕の報告聞いた。対象に、自我を持たぬクローンヤクザらは無表情で仁王立ちを続ける。「激突まで10分ドス。ダイミョクラスの皆さんには、前方車両の緊急脱出装置使用をお勧めいたしますドスエ」
「サイオー・ホース!私は逃げますよ!ニンジャからも、この新幹線からもね!モモロ=サン、オタッシャデー!」スズキは喜び勇んで駆け出す。だがやはり、クローンヤクザが立ちはだかって壁を作り、彼を押し戻すのだ。サイクロプスから何らかの命令を下されているのか、危害を加えようとはしてこない。
「アイエエエエ!」スズキはブザマな絶望の叫びを上げる。サイバーゴスのダテも、焼死したお友達との思い出を脳内記憶素子で網膜再生しながら、ぽかんと座り込んでいた。ジェノサイド=サンは自分を助けに来たのでは……そう考え勇気付けられたユリコだけが、この絶望的な状況の中で足掻き続けていた。
「あなた違法サイバネ手術してるわね?車掌の代わりに電脳制御できない?」ユリコはダテの耳元で囁く。「できるかも…知れません。車掌の死体にLAN直結すればマザーUNIXをハッキングで…」。ユリコは頷く。次いでスズキの顔を胸で挟んで沈静化させながら小声で問う「あなた、カラテはできる?」
「ウープス!あ、当たり前ですよ!」スズキはPVCビキニの艶々とした感触とオイランの汗粒を見ながら、興奮気味に答える「ウットコ建設グループに入るために、学生時代にアメフトをやっていましたらね!…でも、ヤクザ30人は無理です」「シッ、静かに。大丈夫、目的は右の壁にかかっているあれよ」
そこにはサスマタやヤリに加え、マシンガンとガンベルトが鈍い金属光を放っていた。「失敗したら…」とスズキ。「殺されるわ」とユリコ。「命がけですね」震えるダテ。「人生なんて、そんなものでしょ?」ユリコはあの夜の様に、タフに言い放った「どのクラスでも命がけなのよ。やるの?やらないの?」
「やります」とダテ。「やります」と少し遅れてスズキ。ユリコは頷いた。何故自分でも、こんなにタフに振舞えるのかわからなかった。惚れた男が、ジェノサイドが近くにいるだろうか。後で考えればいい、と彼女は思った。「やるわよ」とユリコ「命がけになった人間に何ができるか、見せてやりましょう」
「ウオオオオオーッ!?」スズキがスモトリめいた姿勢から一気にタックルを仕掛ける!ヤバレカバレ!立ち塞がっていたクローンヤクザ2人を押し倒す!自らも足をもつれさせて転倒!PVCビキニ姿のユリコはオイラン厚底シューズでその上を走り抜け、壁にかかったストラップ付きマシンガンを…奪った!
「ナンオラー!?」一瞬の困惑の後、クローンヤクザ達が一斉に胸元から武器を抜き放つ!だがサイクロプスから殺害禁止コマンドを下されているため、チャカを使うことはできない。黒光りするブラックジャック警棒を構えながら、ビキニマシンガン・ゲイシャへと一斉に駆け込む!「ザッケンナコラー!!」
ユリコは歯を食いしばり、右から左へ180度を弾丸の雨で薙ぎ払う!懐かしい感触。ニューロンの奥に、昔の男の記憶が蘇る。戯れでマシンガンの撃ち方を教えてくれた、あの殺し屋の男。自分を置いて先に逝ったあの男の、トリガを引く指の感触!「アバババババーッ!」ヤクザの血飛沫がタタミを染める!
さらに左から右への180度掃射!弾け飛ぶヤクザの頭!ユリコの胸元から飛び散る汗粒!排出される薬莢!そこへ電子オコトBGMとプログラムド・マイコ音声が車内に響く!「当新幹線は、間もなくガイオンシティへ到着ドスエ……窓の外重点……美しい桜の回廊が皆様の長旅の疲れを癒しますドスエ……」
「時間が無いわ!急いで!」ユリコが叫ぶ。「アイエエエエエ!ヤマモト=サン!力を!ヤマモト=サン!」タタミに這いつくばって銃弾を回避していたダテが、お友達の名を叫びながら前方車両へとひた走る。その間にユリコは足下へと銃口を向け、スズキを警棒で殴るクローンヤクザ2人の頭を撃ち抜いた!
「援護……あの人を、援護……!」ユリコは腕利きのフリーランス・ヤクザが乗り移ったかのような素早い手つきでガンベルトを両肩からたすきがけにする。それからジェノサイドの車両とを繋ぐフスマ枠に防弾フスマを立てかけてバリケードを作った。「スズキ=サン、ヤリで援護を!……スズキ=サン!?」
「ハァーッ!ハァーッ!何でニンジャなんかと関わらなきゃいけないんですか!とんだイディオットですね!」ヤクザ軍団が全滅したと見るや、スズキは脱出装置があるという前方車両めがけ一目散に駆け出していた。ユリコの声が聞こえるも、無視する。死んだら終わり、のコトワザが脳裏をよぎったからだ。
スズキは駆ける!フスマを越えると、戦闘車両へと続くコリドー。両横に、使途不明の小部屋がいくつも並ぶ。その中に、不安感を煽る極太ミンチョ体の赤文字で「非常識」と書かれた扉。開ける。中にはパラシュートと射出装置。カエルのウキヨエが使用法を図解する。「ボタンを押すと天井が開いて射出!」
カエル水墨画で描かれた解りやすい図解に従い、スズキはパラシュートをてきぱきと装備し、脱出用椅子に腰掛けた。「どのクラスも平等にリスクを負うだと?バカバカしい!そのリスクを回避するために私は金を払ってるんだ!」スズキはこれまでの不当な扱いの数々に逆上し、怒りと共に発射ボタンを叩く!
小さな天井がオブツダンめいて開き、スズキの体が新幹線上空数百メートルめがけ高速射出される!だが、ショッギョ・ムッジョ!まさにその時、ヘッジホッグの遠隔ハッキング能力によって繰り出された最大化ジェット噴射の炎の舌が、数車両分の屋根の上を舐め尽したのだ!「アバーッ!!」一瞬で炭化!
IRC連携によってこのジェット噴射攻撃のタイミングを見計らい、共に空中へと逃れたグラディエイターとヘッジホッグ。彼らの作戦はこうだ……一瞬遅れて高い跳躍回避動作を取るであろうニンジャスレイヤーの着地の隙を狙い、先に着地したグラディエイターが、必殺のグラディウス・ドーで心臓を貫く。
新幹線に備わったマザーUNIXの演算能力により、ヘッジホッグは自分達が安全に着地するために必要な時間、そして最低限の跳躍高度を、コンマゼロ秒単位、センチメートル単位で演算していた。噴出する紅蓮の炎!跳躍最大高度に達するヘッジホッグ!(((さあ跳べ、ニンジャスレイヤー=サン!)))
だがニンジャスレイヤーは上空に姿を現さない。困惑するヘッジホッグ(((ナンデ!?あの妙な回避動作で耐えようとしているのか?ならばインガオホー!この最大火力射出は耐え切れまい!)))だがそこへグラディエイターからのIRCメッセージが届く!(((あれを見ろ、ヘッジホッグ=サン!)))
ヘッジホッグはサーモセンサが備わったサイバーアイで、真下を見る。そこには、ナノカーボンタタミをビヨンボの如く立てて背負い、神秘的な正座の姿勢を取るニンジャスレイヤーの姿があった!何たる機転!ナノカーボンタタミは軌道エレベータ用に開発された夢の新素材であり、高い耐熱性能を持つのだ!
「バカな!」さしものニンジャとて、物理法則を捻じ曲げることはできない。跳躍最大高度に達したザイバツニンジャ2人の体は、放物線的な勢いで新幹線の屋根の上へと再び降下して行く!ジェット噴射が終了!「スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!」チャドー呼吸を整えるニンジャスレイヤー!
(((ヘッジホッグ=サン、防御姿勢を取れ!)))グラディエイターからIRCメッセージが届く。ヘッジホッグは小さな体にカラテをみなぎらせ、両手両足で可能な限りの防御姿勢を取った。ニンジャスレイヤーが動く!「イイイヤアアアアーーーーーッ!」あれは、伝説のカラテ技、サマーソルトキック!
無慈悲な円弧を描くニンジャスレイヤーの爪先が、ヘッジホッグの左脇腹へめり込む。ナムサン!そのまま肋骨と背骨と内臓を破壊し、右脇腹へと貫通!「グワーッ!」ヘッジホッグの胴体は真二つに切断され、血飛沫とLANケーブルの火花を散らし回転しながら新幹線の屋根の上に転がった。インガオホー!
「おのれ、ニンジャスレイヤー=サン!」着地したグラディエイターは、バックラーを前に構え突撃を敢行する!ナラク・ニンジャが健在ならば、ここで肉体の主導権を明け渡すよう囁いたことだろう。(((ナラクよ、オヌシの力などなくとも、私にはドラゴン=センセイから授かったチャドーがある!)))
列車は桜コリドー内を通過。舞い散る雅な桜吹雪!ニンジャスレイヤーは鶴を思わせる一本足で着地すると、油圧ジャッキめいた隙の無い動作で屈伸運動を行う。そして低空で再跳躍し、首狩りヘリコプターめいた動きで両足を高速回転させながらグラディエイターへと迫る!チャドーの大技、タツマキケン!
かのミヤモトマサシは「キョートは時間の流れが遅い」と詠んだ。彼もまた平安時代に、しとやかに舞う桜吹雪の中で高速戦闘を繰り広げるニンジャの姿を見たのであろうか。「イヤーッ!」低空飛行するニンジャスレイヤーの足が、交互にグラディエイターのバックラーに叩きつけられる!「ヌウーッ!?」
「桜」「圧倒的な」「桜」歴史の重みを漂わせるかすれた極細ミンチョ体のカンバンが桜コリドーの中に立ち、二者の死闘と鮮烈なコントラストを描く。CRAAAAASH!タツマキケンの一撃ごとにバックラーにヒビが入り、ついに粉砕。鉄壁のガードを破ったニンジャスレイヤーの足が、敵の首を捉える!
「イヤーッ!」「グワーッ!」頭が270度回転!インガオホー!脊髄に損傷が与えられ、グラディウスを突き出そうとしていた腕はガクンと垂れ下がった。片膝立ちで着地を決めたニンジャスレイヤーは、静かに立ち上がって振り返り、倒壊寸前の五重塔めいて揺れる敵に歩み寄る……ジゴクめいた足取りで!
「ア…アバ…」辛うじて意識を保つグラディエイター。その胸ぐらを掴むフジキド「オヌシには聞きたいことがある。あの夜のことを。マルノウチ抗争の夜のことを」。後方では、タタミに転がったヘッジホッグの上半身が、気が狂ったようにバンザイ動作を続けていた。「……ガンバルゾー!ガンバルゾー!」
「だが、お前の事など知らぬ。俺はあの夜…」本能的恐怖に呑まれたグラディエイターは、白髭の混じった口元を不服そうに歪めながら、語り始めた「ツェッペリン空挺部隊に加わり、屋上から侵入し…ガハッ!」霧のような吐血がフジキドの顔を染める。「……ガ、ンバルゾー…!」ヘッジホッグが痙攣した。
フジキドは視界の端に、死の輝きを見た。直ちに跳躍!刹那、新幹線のジェット噴射がまたしても想定外距離まで伸び、グラディエイターとヘッジホッグを焼き払った。「「サヨナラ!」」断末魔の悲鳴、そして爆発四散。ヘッジホッグの最後の執念も、ニンジャスレイヤーを殺すことはできなかったのである。
◆◆◆
「アバーッ!」同じ頃、サイバー車掌らが座す司令室では、最後の一人が痙攣し、両耳と首の後ろのLAN端子から煙を吐きながら絶命していた。ヘッジホッグの強引なハッキングによる犠牲となったのだ。
「ヒイッ!」目の前でニューロンが焼き切れる現場を目撃し、小さく失禁するサイバーゴスのダテ=サン。マザーUNIXが暴走し、メインフレーム筐体に備わったランプ類やテープ類が異常動作を開始する。電源制御が不安定になり、各車両内で電灯の明滅が起こり、ショートによる火花がバチバチと散った。
(((コワイコワイコワイコワイ!!)))ダテはLANケーブルを持つ指先をガタガタと震わせた。死体の首の後ろを1体ずつ確認し、焼き切れていないLAN端子を確認する。そして直結。PING。状態は悪くない。心停止したばかりだ。幸いにもファイアウォールは直前のハッキングで破壊されている。
ダテのニューロン内に文字列が高速で流れ込む。(((自動操縦モードにするには……手動制御をKILL…?)))キャバァーン!希望的な電子音が鳴り響き、レッドゾーンに達していた複雑な計器類のメータがイエローゾーンまで復帰。「ハァーッ!ハァーッ!」ダテは素早くLANケーブルを引き抜いた。
だがメインモニタに映し出される制御率は、未だ75%。その数字も少しずつ上昇している。このままでは、新幹線の爆発は避け得ないだろう。「どうしろって言うんだよ!」ダテは頭を掻き毟った「直結を維持しろってのか?それも……2人のサイバー車掌に同時に!?絶対に僕のニューロンが焼き切れる!」
ダテの能力は低い。贔屓目に見て、スゴイ級ハッカー程度だ。奇跡が起こらぬ限り、新幹線の停止は不可能。そして0と1が支配する世界において、奇跡などという要素は望むべくも無い。それでも、電子の奇跡を夢見がちなサイバーゴスは、このような状況に置かれると、ロマンスめいた自己陶酔に陥るのだ。
社会の最下層付近に位置する自分が、何万もの市民をハッキングで救い英雄として讃えられる。そしてオイランドロイドを授与される。若いハッカーならば誰もが一度は夢見るシチュエイションだ。ダテは手を震わせながら、2本のLANケーブルを握った。そして直結。PING。自動制御をKILL。維持。
社会の最下層付近に位置する自分が、何万もの市民をハッキングで救い英雄として讃えられる。そしてオイランドロイドを授与される。若いハッカーならば誰もが一度は夢見るシチュエイションだ。ダテは手を震わせながら、2本のLANケーブルを握った。そして直結。PING。手動制御をKILL。維持。
「アッ!」不意に、ダテの視界が飛んだ。次の瞬間、彼は浜辺に敷かれた広大な畳の上に正座していた。コトダマ空間に迷い込んだのだ。潮の香りまでがリアルに伝わってくる。ニューロンが上に引っ張られる感覚。はるか上空には、金色の輝きを放つ得体の知れぬ構造物が浮かんでいた。「何だろう……?」
◆◆◆
その60秒前、ダイミョクラス車両にて。
PVCビキニ姿でマシンガンとガンベルトを構えるユリコは、破壊されたフスマ枠から身を乗り出し、後方車両に銃口を向けた。ウェスタンバンダナで口元を隠したカソックコート姿のジェノサイドが、2人のニンジャと激しい戦闘を続けている。
トリガを引こうとするが……引けない。ニンジャの動きは速すぎるため、ジェノサイドに当たらない形で射撃するのは極めて困難なのだ。その様子を見て取ったジェノサイドは、サイクロプスに対して捨て身の至近カラテを挑みながら叫ぶ。「撃て!ユリコ=サン!俺は死なん!撃て!撃てーッ!」
ユリコは意を決し、闇雲にマシンガンの弾をばら撒いた。ニンジャリアリティ・ショックにより欠落していた昨夜の記憶が、不意に蘇る。ジェノサイドもまたニンジャであること、ゾンビーめいた醜い体を持っていること、そして昨夜……彼女の前に立って盾となり、ニンジャたちから身を守ってくれたこと。
ドゥラタタタタタ!ドゥラタタタタタタタ!眩しいマズルフラッシュ!滝のように排出される薬莢!揺れる胸!リコイルの震動で跳ね飛ぶ谷間の汗粒!「ジェノサイド=サン!殺して!そいつらを!」ユリコは言葉にならぬ言葉を叫んだ。弾丸が車両内を跳弾する。「ウォーッ!?」回避を試みるサイクロプス!
だがぴったりとジェノサイドが着いてくる。「イヤーッ!」「グワーッ!」鋭い爪の生えた手が、サイクロプスの胸板を浅く切り裂いた。銃弾を回避しようとすれば、それによって生ずる隙でジェノサイドのカラテを受けてしまう。しかもジェノサイドは、腐った肉片に銃弾を撃ち込まれても平然と戦うのだ!
いかなニンジャとはいえ、車両内を狂ったように跳弾するマシンガンの弾を回避し続けるのは不可能。「オタッシャデー!」これを不利と見たフォビアは連続バク転を決めて後方車両へと退避!一方、ジェノサイドとカラテを交錯させていたサイクロプスの巨体には銃弾が次々と突き刺さった。「ウォーッ!?」
ジェノサイドの重いケリ・キックがみぞおちにクリーンヒット!「グワーッ!」目を剥いて後ずさるサイクロプス!銃弾が巨漢の脇腹にめり込み、ジェノサイドの腿にも銃弾が突き刺さる。だがジェノサイドはものともせず、両手で鎖付バズソーを投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」切り裂かれる両足の腱!
ニンジャ動体視力を持つサイクロプスには、車両内を乱れ飛ぶ弾丸の軌跡が、忌々しいほど正確に見えていた。そしてジェノサイドの頬と左目に弾丸が突き刺さり、バンダナを持っていくのが見えた。ジェノサイドは首を傾げたまま、ハットの下で片目を緑に輝かせ、歯を剥き出してとびきり邪悪に笑っていた。
「アイエエエエ!」サイクロプスは恐怖した。オーラの如く滲み出すゼツメツ・ニンジャのソウルが彼のニンジャソウルを威圧しているのだ。「ゼツ!」ジェノサイドは鎖付バズソーを投擲!巨漢の両腕が肩口から切断される!血飛沫!続けざま、鋭い爪の手刀が喉を深々とえぐった!「メツ!」「グワーッ!」
ユリコはマシンガンが弾切れを起こしているのに気付いた。涙が頬を伝っていた。今まではリコイルが拭ってくれていたのか。ガンベルトに手を回すが、もうその必要は無かった。喉から手を引き抜かれたサイクロプスは、よろよろと2、3歩歩いてから、床に倒れ付す。そして爆発四散!「サヨナラ!」
血の霧と爆煙は、破れたガラス窓からたちまち排気される。それが晴れる頃、ゾンビー・ニンジャは床に落ちたバンダナを再び口元に巻きなおし、穴だらけのカウボーイハットをいつもより目深に被って、車両の真ん中に立っていた。「ジェノサイド=サン!」ユリコは防弾ビヨンボをどけ、駆け寄ろうとする。
「Wasshoi!」2人の間に割って入るように、割れたガラス窓から満身創痍の新たなニンジャが回転しながら飛び込んできて、タタミの上へとオリンピック体操選手めいた見事な着地を決めた。タツジン!全員がその場で立ち止まり、静止する。一触即発の静寂が車両内を支配した。
赤黒いニンジャ装束を纏ったその男、ニンジャスレイヤーは、ゲイシャには目もくれずジェノサイドに対して静かにジュー・ジツを構えた。ジェノサイドも無言でジュー・ジツを構える。ユリコは困惑した。この赤黒ニンジャも先程、自分達を助けようとしてくれた筈なのに?「何故?何故まだ殺し合うの?!」
ニンジャスレイヤーは、す、と右手で後部車両への戸口を指差した。カチグミ車両から逃げてきたと思しき少年が立ち尽くしていた。少年は口をきっと結び、バズソーによって無残に切断されたと思しき母親の片腕を、手繋ぎするように引きずっていた。少年特有の純粋な憎悪の目が、ジェノサイドを見ていた。
ニンジャに家族を殺された者たちの、声なき憎悪の声を代弁するかのように、ニンジャスレイヤーは低く押し殺した声で言った「ニンジャ……殺すべし……!」と。「ああ、決着をつけてやるぜ、クソッタレめ」ジェノサイドも不気味なほど静かに返し、割れた窓を親指で指す「……表でな」。
ジェノサイドはバズソーを投げ、反対側の窓を破壊した。そして両者は一瞬だけ睨み合った後、互いの窓に向かって同時に3連続の側転を決める。「ジェノサイド=サン!待って!」ユリコが叫ぶ。だが彼はこう言い残し、窓枠を蹴って屋根の上へと消えたのだ!「サヨナラ!ユリコ=サン!オスモウ!」
(((オスモウだと?俺は何を言っている?)))ジェノサイドは屋根に飛び渡りながら自問した。片目に飛び込んだ銃弾が、腐ったニューロンをいくらか破壊したのだろう。(((相撲バーか?あのゲイシャと、キョートで落ち合うというのか?何故だ?何故俺は……あのゲイシャに……そこまで……)))
二者は同時に屋根の上に着地。ユリコがかつて駆け落ちしようとしていた女であるかもしれない、という推論は、もはやジェノサイドの記憶から欠落してしまっていた。着地と共にこぼれ落ちた、その腐った脳味噌の欠片と共に、どこかに消えてしまったのだ。(((駄目だ、思い出せない。俺は……俺は…))
「俺は……」ゾンビーニンジャは両手の鎖付バズソーを回転させる。心地良い回転音が、彼の腐った耳の奥をくすぐった。「……ジェノサイドだ!」空を切り裂いて飛ぶバズソー!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそれを潜り抜け、カラテを打ち込む!桜吹雪が彼らの死闘をフートンのように優しく包んだ!
◆◆◆
キョート城、観戦の間を、重苦しいアトモスフィアが支配していた。新幹線のマザーUNIX暴走の影響を受け、全ての映像が一時激しいノイズに呑まれたからだ。
現在もまだノイズが著しいが、少なくとも解っているのは……サイクロプス、グラディエイター、ヘッジホッグの3ニンジャが爆発四散し、どのような最期を遂げたのかすら不明なこと。加えて、屋根の上で満身創痍のニンジャスレイヤーとジェノサイドが戦い、数十メートル離れた場所にフォビアがいること。
「大失態にございます、マイロード…」パラゴンは恐れおののきドゲザしている「まさかニンジャスレイヤーがあの状況を打破するとは。一体いかなるカラテやジツを使ったのか……」。ロードは恐ろしいほどの無言の後、ワイングラスを置き、平安時代の高貴な言葉で失望を表した。「……ヤンナルネ……」
ロードの静かな怒りのオーラを感じたのか、バイオ三毛猫も膝から離れ、どこかに隠れてしまった。「パラゴンよ、ガイオン・ステーション周辺におるザイバツニンジャを集めよ。迎撃態勢を取れ」「御意に!御意に!マイロード!」「ムフォーフォーフォー……ウェルカム・トゥ・キョート・リパブリック!」
◆◆◆
「死ぬのかな」そう呟いた。実際には、発音するより何万倍も速い速度で、IRC領域にタイプされたのだが。ここが、ハッカーの間で神話的に語り継がれる、電子コトダマ空間なのか。ダテは考えた。一握りのヤバイ級ハッカーだけが存在を認識し、それ以外の者は、見た瞬間にニューロンを焼かれるという。
「よく頑張ったわね、上出来よ」不意に、後ろから穏やかな声が聞こえた。見ると、黒いキャットスーツを着た金髪の女性が立っていた。「あなたがLAN直結していなかったら、NS893便のマザーUNIXにアクセスできなかったわ。もう大丈夫よ。ジェット噴射は停止。減速装置も強制作動させたから」
「あなたは誰ですか?」そう言いかけて、ダテは思い留まった。無意識のうちにサイキックめいてwhoisコマンドが働き、彼女の頭上に「NANCY」とハンドルネームが浮かび上がったからだ。聖人の後光のように輝かしく。「あなたは、伝説のヤバイ級ハッカー……ナンシー・リー=サンでは!?」
「そうよ、ダテ=サン」ナンシーは穏やかに言った。彼女は、ダテのタイピングが発するノイズから、間もなく彼がニューロンを焼き切られ死ぬことを知覚していた。だからこそナンシーは、こう繰り返し、スゴイ級ハッカーですらない底辺サイバーゴスが見せた、その純粋な勇気を称賛したのだ。「上出来よ」
「アッアッアッアッ!」ダテの全身が0と1の集合に変わり、消滅した。ナンシーもまた、自分の指先がチリチリし始めたことに気付く。重度のザゼン中毒状態にある彼女の肉体はネオサイタマの某所にあり、LAN直結したまま昏睡を続けているのだ。そして数日に一度、数分間だけ……意識が戻るのである。
「潮時ね」ナンシーはヒールでタタミを強く踏む。タタミが回転し、底無しの暗黒が現れた。次に意識が戻るのはいつか。ナラク・ニンジャと同じく彼女もまた、ソウカイヤとの最終決戦時に大きすぎる負荷を負ってしまったのだ。ナンシーは上空の物体に一瞥をくれてから、暗黒へと飛び込みログアウトした。
◆◆◆
……新幹線の屋根の上では、ニンジャスレイヤーとジェノサイドが一進一退の攻防を続けていた。減速した新幹線は桜コリドーを抜け、アッパーガイオン市街へと入っている。五重塔群の上に設置されたスピーカーからは奥ゆかしい雅楽の生演奏が流れ、猥雑なネオサイタマとは異なる静謐な空気を感じさせた。
どちらのカラテにも切れがない。ワサビを抜いたスシのようだ。桜吹雪の雅さはとうに消え果て、泥臭い殴り合いが続いていた。ニンジャスレイヤーはこれまでの戦いで満身創痍となり、ジェノサイドもサイクロプスとの戦闘中に受けたアンタイゾンビー・ウィルスにより、未だ肉体の一部が鈍化ていたからだ。
「間もなく、ホームにY&B社のNS893便がご到着ドスエ……長旅オツカレサマドス……」歴史の重みに満ち満ちたキョートの地で聞くと、電子マイコ音声すらもネオサイタマのそれより遥かに瀟洒に聞こえる。生きてガイオンの地を踏めるのだ。安堵に胸を撫で下ろす、大多数の乗客たち。
しかし、このアナウンスは、ザイバツ・シャドーギルドによる迎撃作戦発動の合図でもあった。「「「イヤーッ!!」」」ホームへと滑り込んでくるNS893便の屋根へと、十数名のザイバツニンジャが飛び移り、ニンジャスレイヤーとジェノサイドの周囲を包囲するようにアンブッシュを仕掛けてきたのだ!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「俺は!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「ジェノサイドだ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」複雑に交錯したまま彼らは闇へと消える…。
8
アンダーガイオンの薄暗いウェスタン相撲バーにて。
重金属酸性雨に湿ったコンクリートの壁に、アミーゴハットを被ったスモトリの奏でるアコースティック・ギターの乾いた音色が、ゼンめいた調和とともに響き渡る。カウンター上に掲げられた鹿の生首が、「本格派」とミンチョ体で書かれたネオンサインの火花によって、ピンク色に照らし出される。
どこか陰のあるゲイシャが、暗い奥の席に独り。ブラウン管テレビに映る相撲映像を眺めながら、ギムレットを呷る。スモトリの爪弾く曲が、伝説のヨコヅナ「アンダーハンダー」の入場テーマに変わった。ゲイシャはオイラン厚底シューズの踵と木床でリズムを取る。そうすれば、あの男が現れる気がした。
しかし、どれほど待ってもあの男は……ジェノサイドは現れない。別なTVでは、サイバーゴスがNS893便をハッキングで乗っ取ろうとして死んだ事件がまだ報道されている。ゲイシャとサイバーゴスとカチグミが数千数万の命を救った……そんな馬鹿げたストーリーを信じる者は、狂人くらいのものだ。
「まったく、馬鹿げてるわ。オスモウ、ですって?」ユリコはトビッコ・ギムレットをまた口に運びながら、自嘲気味に笑った。涙も頬を伝った。いったい何件、こうして、相撲バーを渡り歩く日が続くのだろう。
しかし彼女はこれからも、相撲バーを巡るだろう。かつて駆け落ちを考えていた殺し屋がジェノサイドであることなど、気付いていない。当然のことだ。死んだはずの男が、ゾンビーになって……しかもゾンビーニンジャになって、偶然ウェスタン相撲バーでめぐり合うなど、狂人ですらも考え付かない話だ。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」薄暗いステージでは、スモトリがギターを裏返し、ボディを手で叩いてリズムを取る。もう一人のスモトリが、情熱的かつどこかひっ乾いたバンジョーのソロをかき鳴らしながら、店内を歩き回っていた。だが、ウェスタン風のドアを押し開け、ニンジャが姿を現すことはなかった。
ユリコがいる相撲バーの上方、約200メートル。規則的に林立する五重塔のひとつ。その屋根の上で、ドクロめいた満月を背負いながら2つの影が戦い合っていた。両肘から先をカタナに置換したと思しきニンジャが、高く跳ぶ。鎖付バズソーめいた武器が上空目掛けて投げ放たれ、ニンジャは爆発四散した。
(ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル 終)
N-FILES(設定資料、原作者コメンタリー)
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