【アイアン・アトラス・スペンディング!】
◇総合目次
「 ♪ 伝説のラブ、今度だけは明日~」「ズル、ズルーッ」
虚ろな表情でカップ・ソバを啜り込む大学生の顔は、テレビモニタの照り返しを受け、七色に遷移している。
「 ♪ 今日も間違いなく会い、そして愛を重ねすぎてしまう~」「ズルズルーッ」
ソバを啜る。携帯端末を見る。親からのIRC着信。
「ハァ」
内容は読まなくてもわかる。帰ってこい、勉学はちゃんとやっているか、云々、云々。
「そりゃ、頑張りたい気持ちはあるんだよ……」
親の期待は重く、それが尚更空回りに繋がる。何かしなければいけないという焦燥感が強まり、コンパやノミカイで刹那的に暮らしてしまう。
「つらい……」コミタは呟く。
コミタはネオサイタマの無軌道大学生だ。暗黒メガコーポとヤクザがシノギを削り、ニンジャが暗躍する月破砕後のメガロシティにおいては、大学生も命がけだ。生き馬の目を抜く勉学は戦争であり、スポーツ活動やコンパ、アルバイトも忙しい。中には入学翌日からビジネスインターンする点取り屋もいる。
(いやあ、マジ毎日カイシャからの呼び出しIRC鬼ハンパなくてさァ)
イタリア靴と立て襟スーツで通学してくるガマモトはインターン風(かぜ)をチャラつかせるクソ野郎であり、焦燥するコミタのニューロンにそのインターン風の光景がフラッシュバックする。
「クソッ、ファック野郎。学生の本分は勉学なんだ」
コミタはソバ・カップを洗い、ゴミに捨てた。「 ♪ タノシイ! タノシイキモチ~、キモチ、キモチの美しい景色……春が満開な……」
歌番組プログラムを見ながら、彼はこの一年を噛みしめる。学生の本分は勉学? そういう自分はどうなんだ? 理想化されたコミタが現実のコミタに問いかけた。
「うるさいなあ!」
コミタはUNIXをタイプし、エッチ・プログラムを探しかけた。だが、止めた。そうした虚しい行為で年をまたぐのは自粛したい……。では、どうするべきなんだ? テンプルに行って、鐘をつく光景を目に焼き付け、祈るべきだろうか?
……ピボッ。IRC着信。また親か?
「うるさ……ア?」
コミタは蒼ざめた。ナムサン。それはコミタが恐れる相手からのIRCコールであり……ガチャッ! ガチャガチャッ! ドアノブが激しく動く!
「オイッ! あれ? 開かねえぞ? オイッ! どうしたんだ? 平気かオイッ!?」
ナムサン! 外から聞こえてくる大声にはあまりにも聞き覚えあり!
「ま、待って!」
「UNIXマン! 今開けるぜ!」
KRAAAASH! ドアノブが破砕し、チェーンを壊しながら、ドアが勢いよく開いた。身を屈めないと部屋に入れないほどの大男が現れた!
「オウ、ドーモUNIXマン! お前、再三IRC送ってんのに返さねえからよォ、くたばってるかと思っちまったぞ!」
「アアア……」
男の名はアイアンアトラス!ニンジャである!
ここから先は
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?