
S1第5話【アセイルド・ドージョー】
「ボロブドゥール」「企業のポータルを使う」
「あれは……何者だ……!」「駄目だ、ナラク!」
「王様です」
「ヨグヤカルタに来ている。ちょっとしたビジネス」
「決済できました」
「血を抜くにはやはりボトルネックカットチョップが最も新鮮です」「Wasshoi!」
「あれはサツバツナイト。太古の暗殺術、チャドーの使い手よ」
「スゥーッ……フゥーッ」
「二度触れた者……!」
(怒りが、おれとナラク・ニンジャを繋いでいる)
「こんな事をしたところで、きりがないんだぞ」
「義を見てせざるは勇無きなりです」
「奴がかつてのニンジャスレイヤーだ」
【アセイルド・ドージョー】
1
タタタタタ……タタタタタ。聞こえてくる銃声は毎夜の事。エンドロが恐れているのは銃声ではない。あの赤い目。だが、それでも心配だった。少年は唾を呑み、深呼吸をした。恐る恐る、あばら家の戸口を覗き込んだ。
「……いない」ザッ。背後で足音。振り返り、目を丸くする。「……いた」
「どうした」フジキドは尋ねた。エンドロは答える。「どこ行ってたんだよ、病人が」「オヌシこそ、何の用だ」「何の用だはねえぞ。心配してンだから」「赤の他人の旅行者に……」「ヘヘッ」エンドロは照れ笑いをした。「カラテカなんだろ、アンタ。だから病気が治ったらさ……」
「ともあれ、丁度良い。エンドロ=サン」フジキドは言い、苦しげに唸った。エンドロが手を差し伸べるが、辞し、肩に手を置いた。「例のウィッチドクターを呼んできてくれ」「わ……わかったよ」「頼んだぞ」「わかった!」少年が走り去るのを見届け、暗い屋内へ倒れ込むように入った。
「スウーッ……ハアーッ……」壁に背をつけて座り、深い呼吸を繰り返す。「スウーッ……ハアーッ」呼吸にあわせ、瞳の赤が明滅する。
(カラテカか)フジキドは少し寂しげに笑った。意識が混濁し、視界が闇に落ちると、彼が見ているのは現在ではなく過去であり、ヨグヤカルタではなく岡山県であった。
◆◆◆
「ウシロアシ!」「イヤーッ!」「ヒノクルマ!」「イヤーッ!」「モウイポン!」「イヤーッ!」
繰り返される屋外のカラテ・シャウトに耳を傾けながら、フジキドは赤いキモノを着たたおやかな美女と向かい合って座っていた。手入れされたタタミが敷き詰められた、ごく狭い茶室である。
「ドーゾ」泡立てたチャで満たされた器を美女が差し出すと、フジキドは頭を二度下げ、器を受け取った。そのしぐさはいかにも素朴で、美女の奥ゆかしい優雅さからは程遠い。彼は茶器をまわし、啜った。「ケッコウナ・オテマエデ」「ドーモ」美女が頭を下げ、微笑んだ。「茶菓子を」「いただきます」
「サンセイ!」「イヤーッ!」「セッカ!」「イヤーッ!」
フジキドは外へ視線を向けた。敷き詰められた白砂よりもなお白いニュービー装束に身を包んだ若者たちが、号令にあわせてカラテをふるっている。彼らニュービーニンジャは常人から修行によってニンジャになろうとする、いわばリアルニンジャのタマゴであり、ソウル憑依者と比較すれば余程弱い。
「フジキド。今は何を?」美女は静かで優しい笑みを浮かべ、問うた。フジキドは首を振った。「かわりはなく」「旅ですか」赤い目を覗き込む。「ともあれ健康そうで何より」彼女の名はユカノ。岡山県の人里離れた険しい山の頂付近に弟子達と暮らす、神秘的な「ドラゴン・ドージョー」のセンセイだ。
「少し、増えたか」フジキドはチャを啜り、ニュービーニンジャ達を眺める。「そうですね、何人か。貴方がここを最後に訪れたのは何年前でした?」「およそ二年」「早いものです」「彼は? タイセン=サンか」号令をかける青年を示す。「ええ。立派になったものでしょう。後で見てやってください」
フジキドは穏やかに固辞する。「俺はセンセイではない。ユカノ」「だがそなたのカラテはなかなかのものであろう、サツバツナイト=サン」ユカノは厳かに言い、それからウインクした。そのバストは豊満である。「タイセンはよくやっていますが、己の力を過信させてはなりません。わからせてやって」
やがてフジキドは白砂の上に降り、ニュービーニンジャが落ち着かなげに視線をかわす中、タイセンと向かい合う。青年は欠けた歯を見せて笑い、フジキドに力強くアイサツした。その頬には十字の傷がある。「あれから一日だってカラテ鍛錬を欠かしてません。オレ、だいぶ貴方に並びました」「そうか」
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
数度の打ち合いを経て、タイセンは白砂に突っ伏していた。ニュービーニンジャが「おお」と声をあげた。フジキドはタイセンを手招きする。「言葉通り、オヌシのカラテの充実が伝わってくるぞ」「ちょっとスリップしただけです」タイセンは口を拭い、スプリング・ジャンプで起き上がった。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「……グワーッ!」
再び突っ伏したタイセンは果敢に起き上がり、フジキドに再び挑んだ。「カカッテキマス!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」木人拳めいたワン・インチ距離の連打の再開である! フジキドは感銘を受けた。実際、タイセンは二年前よりよほど強くなった。ユカノはよいドージョーを作っている……。
「イヤーッ!」「グワーッ!」フジキドのポン・パンチが、いい入り方をした。タイセンは背中から叩きつけられ、バウンドして、仰向けに倒れた。「……!」悔し気に呻き、起き上がろうとして、果たせず、倒れた。フジキドは歩み寄り、手を差し伸べた。タイセンは手を取った。「オレはもっと強いんです、本当は」「うむ」
「ほほう、成る程、峻厳極まる崖を上った果てに、このような!」
フジキドとタイセンは振り返り、ニュービーニンジャ達と共に、声の飛んできた正門方向を見た。ドージョーの人間の声ではなかった。声の主……芝居がかった仕草で両手をひろげて見せたのは、彼らの知らぬニンジャであった。然り。一目でニンジャとわかった。
「イヤーッ!」すぐさま、茶室のエンガワから風めいてユカノが飛び来たり、フジキドの前に立って、その者を見据えた。キモノであったユカノの装いは、今やドラゴンの刺繍を施した赤いニンジャ装束である。フジキドはすぐに察し、ユカノと並び立った。
「あれは……?」タイセンが目をすがめた。ユカノは青年を見た。「タイセン。皆を率い、さがりなさい」「ですが……」「すぐにせよ! お前が守るのだ!」「ハイ!」危急を察し、緊張した面持ちで頷くと、どよめくニュービーを連れて奥へ去ってゆく。
「ンンン、剣呑ではないか」ニンジャが嘲った。「まだ何も目的を告げてはおらぬというのに。仮に我々がチャを所望しに参っただけだとすれば、これは大変なシツレイだぞ、ドラゴン・ニンジャ=サン」グルグルと喉を鳴らして笑う。彼の目には異様な迫力があった。
「ああそう、我々だ」彼は強調した。「気のおけぬ仲間がおって……」周囲に立ち込めていた靄が不意に集まり、赤いプレートメイルニンジャ装束に身を包んだ不穏なニンジャの姿を取った。波打つ黒髪を肩まで伸ばし、その瞳はほとんど白目と見分けがつかぬ明るい灰色。ユカノの緊張が倍化する。フジキドは既に橙の火を宿す黒のニンジャ装束姿となっている。
さらに、メキメキと地面が音を立てて隆起した。その亀裂の中から、不気味な姿が這い出した。「アバー……」怪物……ムカデ……否……一応は人間の姿をしていた。どこの国の衣装ともしれぬ装いであったが、魔術・妖術の類の文化を強く感じさせる服装だった。最初のニンジャは咳払いした。「然り、この三人だ」
晴れていた空はにわかに曇り、呻き声めいた不気味な風が氷の粒を伴って強く吹き付けた。ニンジャ達の視線が交錯した。「ドーモ。ドラゴン・ニンジャです」まずユカノがアイサツした。そしてフジキドが。「ドーモ。サツバツナイトです」
「サツバツナイト?」赤い鎧のニンジャが目を細めた。「ならば、余も左様名乗るとする」赤い鎧のニンジャがアイサツした。「ドーモ。レッドドラゴンです」
「SHHHH……」奇怪なニンジャが続けてアイサツした。「ムカデ・ニンジャです」最初のニンジャはずっと喉を鳴らして笑い続けていたが、最後に漸くアイサツした。「ケイトー・ニンジャです」
「訊いておこう」ユカノは威厳あるドラゴン・ニンジャとして問うた。「この地に参った理由を」「チャでも飲みながら昔話に花を咲かせたかったのよ」ケイトー・ニンジャが嗤い、すぐに自ら首を振って否定した。そして言った。「いや、貴殿がそれを望まぬであろうな、ハトリの騎士よ。我らの目的は、そうさな……謳歌だ。宝探しでもよい」
ドラゴン・ニンジャがギリと歯を食いしばる音をサツバツナイトは聞いた。ケイトー・ニンジャが隣のレッドドラゴンを見る。「というわけで……貴殿の所望を言い給え」「ヌンチャク・オブ・デストラクションを」影から無数のコウモリが羽ばたき、背に繋がり、マントを形成した。「ワラキアの我が民に、よき土産となろう」
「あれも、そうか」サツバツナイトがドラゴン・ニンジャに確認した。彼女は頷いた。「然り。経緯はわかりませんが、彼らは皆、かつてありしリアルニンジャ達……私にはわかります」「当然、友好的な訪問では」「ありませんね……!」二者は三者を睨み、ジュー・ジツを構えた!
「貴殿はどうだ、ムカデ・ニンジャ=サン?」ケイトー・ニンジャは身内に尋ねた。身構えたドラゴン・ニンジャらを前に、依然くつろいだ様子だ。ただならぬニンジャはヴェールの奥から答えを発する。「……SHHH……メンポ・オブ・ドミネイション……あれをいただこう」「ほう! 何に使う」「国よ」
「国か! アッパレ!」ケイトーは喉を鳴らした。「では俺はブレーサー・オブ・リジェクションにしておけば、ちょうど収まりがよいか?……ほう、ブレーサーは無いか。そうか」ナムサン……ドラゴン・ニンジャの微かな瞳孔の動きから、ケイトーは問いの答えを得てしまった。なんたるニンジャ洞察力か。
「皮算用はそこまでです、盗人ども」ドラゴン・ニンジャが言った。ケイトー・ニンジャは目を光らせる。「なに、拝借するだけだ。よいではないか……見たところ、貴殿らからは我らに比するカラテは感じぬ。だから、仕方がないと思わんかね? 我らは謳歌したいのだ。時経たこの鮮やかな世界をな……」
「宝はどこにある」レッドドラゴンが問い、ムカデ・ニンジャが答える。「霊廟だ……ドラゴン・ニンジャはこの山を深くくり抜き、ハトリの宝を納めておる……宝……SHHHH……」「そう、それを我らが役立ててやる。よかろう?」
「霊廟は宝物殿ではない」ドラゴン・ニンジャが否定した。彼女とサツバツナイトは視線をかわした。霊廟はたしかにこのドージョーにある。遥かな昔に作られた禁断のダンジョンだ。そこには過去のドラゴンニンジャ・クランの者たちがミイラ化していまだ防衛の任につき、強大なシークレット・レリックの拡散を防いでいる。
ドラゴン・ニンジャはかつてオヒガンのキョート城へ冒険の旅に向かい、様々な苦難を経て、ヌンチャク・オブ・デストラクションとメンポ・オブ・ドミネイションを持ち帰った。ブレーサーはいまだキョート城主のもとにある筈だ。以来、ヌンチャクとメンポは霊廟深部に収められ、封印保管されている。
「ああ、霊廟の防衛や罠の類に気をつけねばならんぞ?」ケイトーが言うと、レッドドラゴンは前へ踏み出した。「どうという事はあるまい。行くとしよう」「SHHH……未熟なニンジャのどもの肉と血……」ムカデ・ニンジャが言った。「瑞々しい命……まずワシはそれを楽しむとして」
「イヤーッ!」ドラゴン・ニンジャが得物のマストダイ・ブレイドを鞘から抜き、ムカデ・ニンジャに仕掛けた。「イヤーッ!」サツバツナイトが跳び、レッドドラゴンの加勢を阻んだ。
「イィー……ヤヤヤヤッ!」ムカデ・ニンジャはドラゴン・ニンジャの打撃とマストダイ・ブレイドの連続攻撃に晒された。「SHHH!」怪しき法衣が斬り裂かれて宙を散ると、長虫めいた影が地を滑った。これはミガワリ・ジツだ! 地面に潜ったのである!
地面の隆起は稲妻めいた軌道を描いて奥へ逃れてゆく。その先に霊廟が、そしてタイセンたちが避難した洞穴がある……!「おのれ!」追おうとしたドラゴン・ニンジャにケイトー・ニンジャが立ちはだかった。「自由にさせてやらんか! はははは!」
一方サツバツナイトはレッドドラゴンとワン・インチ距離で向かい合い、木人拳めいて打ち合いを続けていた。サツバツナイトは既に三打を受けている。「イヤーッ!」「グワーッ!」四打。レッドドラゴンの脇腹に蹴りを見舞うが、赤い鎧が衝撃を防ぎ、黒いマントが脚に絡んで投げ飛ばした。「グワーッ!」
サツバツナイトは空中で回転し、バランスを取る。「イヤーッ!」レッドドラゴンは黒いスリケンを放った。それらはクナイ状に身を尖らせたコウモリたちだ。「イヤーッ!」サツバツナイトはスリケンを連射してコウモリを迎撃した。更に回転の中からフックロープを放った。狙いはレッドドラゴン……否! ケイトー・ニンジャである!
「ハッハハハ……」ケイトー・ニンジャは既にドラゴン・ニンジャに二度打撃を加え、首を切断すべくチョップを振り上げていた。「実に笑止……!」そこにフックロープが絡みついた。ケイトーは一瞥し、緋色の雷光を腕に纏わせ、焼き切った。「イヤーッ!」ドラゴン・ニンジャは刃を繰り出した。ケイトーは指先で刃を挟み、止めた。
ドラゴン・ニンジャは刃をそのまま手離した。そして奥を目指して走り出した。入れ違いに、サツバツナイトが跳び蹴りでケイトー・ニンジャに挑みかかった。「イヤーッ!」「イヤーッ!」ケイトーは蹴りを腕で弾き、掌打で顔面を破壊しにゆく。「イヤーッ!」サツバツナイトは側転で躱し、チョップを繰り出す。打ち合う二者を無数のコウモリが包む。レッドドラゴンのヘンゲだ。
「サツバツナイトとやら」打撃を防ぎながらケイトー・ニンジャが問う。「我らは目覚めていまだ日が浅い。今の世のありようを早く知りたいのだ」サツバツナイトは打撃の中でこの者の恐るべき圧力を、そのカラテのほどを測ろうとした。確かに相当の使い手。そして「時の力」とでもいうべき迫力。
「イヤーッ!」身を沈めてチョップを躱したサツバツナイトは、狙いすましたポン・パンチをケイトーの腹に叩き込んだ。「ヌウーン!」殴られながらケイトーは両手をサツバツナイトの腕に当てて威力を殺す。キリモミ回転して吹き飛ばされるも、受け身を取って着地、平然と話し始めた。「故にまずドラゴン・ニンジャを訪ねたのだ。そして……」
サツバツナイトは背後から胸を貫かれ、心臓を掴みだされる感覚を覚えた。ニンジャ第六感が伝えてきたコンマ数秒後の予兆だ。「イヤーッ!」振り返りながら肘打ちを繰り出すと、背後で凝集して再び人の形を取ったレッドドラゴンが舌打ちして打撃を防いだ。「ンンン……貴様の名は何だ? サツバツナイト=サン」彼は問うた。
一方、洞穴にニュービーニンジャを潜り込ませたタイセンは、己はイクサに加勢すべく、外から岩戸を閉じようとしていた。ふと振り返ると、今まさに土の隆起が迫って来ていた。「何だ……?」
「イヤーッ!」「グワーッ!?」弧を描いて飛んできたスリケンが肩に突き刺さり、タイセンは倒れ込んだ。スリケンを投げたのはドラゴン・ニンジャである。タイセンは負傷しながら洞穴の中に転げ込んだ。
「岩戸を閉じよ! タイセン=サン!」土の隆起を追って走りくるドラゴン・ニンジャが厳しく命じた。タイセンは……「AAARGH!」土が爆ぜ、無数の関節を持つ禍々しいニンジャが飛び出した! ナムサン!
「瑞々しい! 肉!」「キエーッ!」「グワーッ!」ドラゴン! 間一髪、強烈な跳び蹴りがムカデ・ニンジャを背後から襲い、岩戸の横の岩肌に叩きつけた。タイセンはもはや愚かな考えを抱かなかった。失禁しながら岩戸を内より閉じた。ムカデ・ニンジャは身をよじり、ドラゴン・ニンジャを見た。
「SHHHH……!」「通すものか!」ドラゴン・ニンジャはジュー・ジツを構えた。ムカデ・ニンジャが襲い掛かった。「AAAARGH!」「イヤーッ!」ムカデ・ニンジャは多くの関節を備えた腕を無数に生やしており、これに対処するのは至難であった。ドラゴン・ニンジャは極限状況で太古のイクサの記憶を引き出そうと必死だった。
「AAAARGH!」ムカデの腕がドラゴン・ニンジャを襲う!「ンアーッ!」(なんとぎこちない事か)ドラゴン・ニンジャの主観時間が泥めいて鈍化する。(かつての十全のカラテがあれば……)ソウル・ブロウナウト……ニンジャソウルを直接破壊する極めて強力なカラテ奥義がニューロンをよぎる。だがその記憶は捉えるより早く去った。
かわりに彼女が記憶の奥底からかろうじて引きずり出したのは……「AAARGH!」ムカデ・ニンジャが彼女をとらえんと、全ての腕を拡げて迫った。彼女は掌を口元に盃めいて添え、息を置いた。「フッ」そして身を引いた。ムカデ・ニンジャが息に触れた。息は凝縮されたカラテであり……爆発した。
KABOOM!「グワーッ!」ドラゴンブレス・イブキ! 炎すら掻き消すナイトロめいた衝撃波を抱き込んだムカデ・ニンジャは苦悶し、痙攣しながら土の上に倒れ込んだ。だが、ドラゴン・ニンジャに追撃は許されなかった。彼女はケイトー・ニンジャが向かって来るのを見た。サツバツナイトが留めきれなかったのだ。ケイトーは霊廟へ……。
「イヤーッ!」ドラゴン・ニンジャは数十メートル離れた参道めがけ、スリケンを投擲した。そこをゆくケイトー・ニンジャが、歩きながらスリケンを指先で挟み取り、捻じり切った。「ゴキゲンヨ!」嘲笑う一瞥を残し、彼は霊廟へ通ずる道へ向かった。この一瞬の判断が明暗を分けた。ドラゴン・ニンジャの背後からムカデが再び襲い掛かった。「ガババババ!」
「イヤーッ!」ドラゴン・ニンジャの振り向き蹴りだ! これに対し、ムカデ・ニンジャは腕三本を切り離して投じた。腕は百足と化し、ドラゴン・ニンジャの身体に巻き付いた。その肢体を締め上げ、牙を立てた。「ンアーッ!」ドラゴン・ニンジャの目が燃えた。ムカデ・ニンジャは間合いを保った。彼女の生命力を吟味しながら。
「ヨギスミカテ……ソルナガバレ!」ムカデ・ニンジャの無数の腕が複雑なサインを描き、牙まみれの口から意味不明の文言が迸る。百足が締め上げる。ドラゴン・ニンジャはそれでもなおジュー・ジツを構えた。岩戸の前に立ちはだかり、決して通すまいと。「ロウ・ワン!」ムカデ・ニンジャが叫んだ。
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