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S3第9話【タイラント・オブ・マッポーカリプス:前編】分割版 #4

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「そんなものに、何の価値があるものか」「オジサンが興味なくても、マーケットにはあるんだよ」崖の横穴から這い出したニンジャの男女、モモジ・ニンジャとグラニテは、身体の埃を払いながら、なお言い争いを続けていた。「ま、ワシの知った事ではないの。愚かな文明人どもよ」「ネザーキョウみたいな事言ってさ」

「ネザーキョウ? 笑止! ワシは太古の知識を蓄えし強大なニンジャであるとともに、真の知識・文化・雅には敬意を払うもの也。奴らの野蛮さは好かんのう」「知らないけどさ」「ワシの文化力を以て鑑定するに、その額縁入り円盤は……」「電子戦争以前のプラチナディスクだよ。オジサンは知らないよ」

「恐れを知らぬ娘よ。実際知らぬが……」「メチャクチャヒットした音楽が、この額縁円盤をトロフィーとして貰うんだ。それが遺失してレリックになったワケ。オジサンは知らないと思うけど」「何という楽隊ぞ?」「ええと……詳しくは知らないけど、貴重なんだよ」「もうよいわ」モモジは尻を掻いた。

「とにかく重要なのは、これでワシはオヌシに貸してやったという事実よ。ヒャッポを見出すクエストを果たすまで、オヌシはワシの奴隷も同然。水先案内人、従者として全力で尽くすべし。よいな」「奴隷は嫌だけど、約束は破るつもり無いよ。アタシはアタシの価値観に対して卑怯なことをせずに、真っ直ぐに生きたいッてワケ……」「ならば……ム?」地響き。

 モモジは南を見た。「文明国側が反攻に出るか。想像よりも早い。否、くだらん宝探しに時間を浪費したか……」「浪費じゃないよ! アタシが味方になったんだから、手伝う価値あったでしょ」グラニテは請け合った。「ヒャッポ探しに行こ!」「バカ。再び衝突が起こる。巻き込まれれば面倒也」「アタシのジツに任せて」「何?」

「今更こんな谷間でジッとしてらンない。上に行こう」「小娘。オヌシの安請け合いは心配也」「早く!」「イヤーッ!」モモジはジツを使った。黄色い粘液が岩肌にへばりつき、ブジュと音を立ててモモジと繋がった。モモジはグラニテの首根を掴んだ。黄色い粘液はゴムめいて二人を崖上へ跳ね上げた。

「イヤーッ!」グラニテは着地と同時にジツを使った。ドロンと音が鳴り、大きく肥えたサボテンと人間サイズのサボテンが並んで立った。「ホ? カワリミ・ジツとは……」大きなサボテンが呟いた。「ね。絶対見つからない。石や植物や壺に変身するジツ」「まあよい」サボテン達はスライド移動を始めた。

「いい? 見た目だけ。中身は変わってないから安心してね。外からは、滑って動くサボテンに見えるけど」「知っとる」注意深く滑るサボテンの後方で砂塵。「イクサが始まる」モモジが呟いた。「文明軍はここまでナメられ通しじゃろう。ひとつ、お手並み拝見じゃ。ヒャッポ引きずり出すべし」


◆◆◆


 閉じた瞼の闇に、まず青白いハニカムの紋様が映った。「緑」「満」「平穏」「実効正義」。冷たい漢字表示のインジケータは、彼、ライトニングの網膜に直接映し出された情報だ。『ザリザリ……ドーモ。ライトニング=サン。こちらはヌーテックのオーバーガードである』指揮官の音声が骨に響く。

「ドーモ。オーバーガード=サン。ライトニングです」『貴公と作戦行動を共に出来ることは実際光栄だ。アルカナムの誅滅天使殿』「せめて社外の貴方にはその大袈裟な呼称を使わず呼んでもらえる期待をかけていたが」『それは済まんな。では、名で呼ぼう、ライトニング=サン。だが実際その活躍……』「充分です」『うむ』

 視界の右上にザラついた映像窓が表示された。陣営の上空を浮遊する数機のカメラ・ドローン・ユニットが送ってくる映像だ。アレス級原子力機動要塞の垂直アンテナの頂点に直立で立ち、腕組みして戦況を見守るニンジャの姿が、このオーバーガードである。「高いところがお好きなのですか」

『風がな』オーバーガードは答えた。『やはり我が目と、風が一番よ。いかなる哨戒機を用いようとも、最後は私自身のニンジャ第六感とイクサの勘が最高のレーダーなのだ』「その域に至れば……」私もこうまで窮屈な状態にはなるまいな……ライトニングは心の中で呟いた。網膜表示に「カラテ充分です」と映った。

「ライトニング出撃します」彼は言った。体内を循環する血中カラテに、身を覆うアルカナムカーボンが反応する。対磁気嵐処理が施され、ニンジャのカラテを増幅する試作型のボディスーツと白い金属フレームが、彼のカンオケだ。オペレータが答えた。『幸運を祈る』『栄光を』『ガンバロ』

 ライトニングは瞼を開いた。やはり闇だ。そこへ、ボンと音が鳴って、真っ直ぐな左右のガイディング・ライトが灯る。一瞬後、強烈な加速Gがかかる。ライトニングは空中に放り出されていた。彼は身体を捻り、背中から斜め下に生えるジェット機じみた平たい翼にカラテを注ぐ。翼のエメツが揚力を生む。

 視界の端に、空母滑走路を鈍重な脚部で支えるアレス級原子力機動要塞が映る。アンテナの先端に立つオーバーガードがライトニングを目で追い、親指を立てた。『頼むぞ、ライトニング=サン』「フ…」ライトニングは飛翔した。再北上するUCA部隊と南進するネザーキョウ軍がぶつかり合う地点をめがけ。

 DOOOM、DOOOM、DOOOM……ヘラクレス級、アルテミス級自走砲が楕円に燃える弾丸を放物線を描いて放ち、それらは群れを為すオニ達を飛び越え、その後ろ、大地を蹂躙する巨大な触手の塊、ヘグイ型に着弾、爆砕する。さらにその後方では、うつ伏せになって這いずる巨大な厭わしい者ら。ディダラ型。

 UCA最前に配置されてオニ達とぶつかり合うのは、タイタン級重装甲突撃車両、アトラス級重戦闘車両、オルトロス級突撃車両。強靭かつ大胆なヌーテックの鋼鉄の戦力。銃弾の嵐がオニの硬い肌を刳り、貫き、打ち倒してゆく。それでも異形の戦士たちは仲間の死骸を乗り越え、進むのをやめない。

「イヤーッ!」ライトニングは急加速し、斜めに滑空した。そして殺到するオニらの目と鼻の先を真横に駆け抜けた。彼が左から右へ横切ると、ボトルネックカットチョップじみて、オニ達の首が左から右へ順にキリモミ回転しながら垂直に吹き飛んだ。やがて彼は着地し、姿勢制御しながら地を滑った。

「イヤーッ!」振り向きざまに彼がバラ撒くのは、非人道兵器マキビシ。殺到するオニ達がそれを踏み、逆棘が足裏から足の甲まで突き抜けて苦悶するところを、戦闘車両の機銃掃射が襲った。BRATATATATATATATAT!「AAAARGH……!」その成果を確かめるまでもなく、ライトニングは走り出す。手にはカタナ。

 マイを舞う動きで、彼はオニの群れへジグザグに切り込んでいった。左へ裂き、右へ突き刺し、肩を蹴って跳び上がり、宙返りから振り下ろして頭を断ち割り、死骸を蹴って跳び、飛び蹴りを連続で繰り出して、殺しながら、深く、深く。「AAAARGH!」身長6メートルはあるスモトリオニが金棒を振り上げる。

「イヤーッ!」ライトニングはエメツの翼をカラテ制御し飛翔、金棒の軌道から逃れた。ライトニングの飛んだ後にはキラキラと輝くカラテ粒子が舞った。姿勢制御し、空中に留まりながら、脇腹に格納された小型電磁砲の砲身を引き出す彼の背に後光めいてカラテ粒子が散る。アルカナムの誅滅天使。

「ア……ア!」オニ達は畏怖した。彼の構えた電磁砲はオニの英雄が携えたとされる血塗られたトンファーを思い起こさせたからだ。一瞬後、電磁砲は火を吹き、スモトリオニの顔面を破砕貫通、その後ろのヘグイ型を爆発させた。ライトニングはオニの中へ着地し、殺戮を再開した。

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」ライトニングは殺し、殺し、殺し、殺し、切り込んでゆく。崩れたつオニを待ち受けるのは戦闘車両による轢殺、銃殺の運命だ。『ハッハア! 流石という他無し。ザリザリ……敵の睾丸が縮み上がっておるぞ、ライトニング=サン……ザリザリ』オーバーガードの跡切れ跡切れの喝采音声。

 この磁気嵐下、苦労してまで送る言葉でもあるまい。ライトニングは苦笑する。だが、さらに強い言葉が続いた。『待て! 力だ。来るぞ!』その一瞬後にライトニングも気づく。彼は咄嗟に電磁砲で防御姿勢を取った。「イヤーッ!」KRAAASH! 電磁砲が真っ二つに裂け、ライトニングの肩装甲が割れた。

 視認困難なまでの斬撃。どの敵だ? ライトニングは周囲に力あるニンジャを探した。『違う! 奴だ。例のイアイドー野郎だ』オーバーガードの声に呼応するように……ライトニングの眼前のオニ達の首が、肩が、綺麗に切断されて、滑落していった。遠く、滲む陽炎の先に、斬撃の主が……いる……!

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