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逆噴射小説大賞2022:結果発表!

Coronaを奪い合い冒頭800文字でしのぎを削る「逆噴射小説大賞2022」、その最終結果を発表いたします。今年もたくさんの応募、ありがとうございました! 今回の「募集要項」と「一次選考&二次選考結果」はリンク先をチェックしてください!


それでは発表に移ります。今年の大賞は……!




🌵🍺🌵大賞受賞作品🌵🍺🌵




逆噴射聡一郎先生のコメント:全体をつらぬくノワールな読み味。独特の美意識とビジュアル。そして異様なことが起こっているという緊張感。それらが最後まで息切れせず、むしろ新しい情報が提示されるたびに、一段ずつ不穏なギアが上がってゆく。ただ怪奇味と恐ろしさを提示するだけでなく、同時に、人物が相手を思う気持ちの片鱗が入っている。それによって、哀切というか、叙情、情感のようなものも生まれている。800字の中でこれができたのはたいしたものだ。

文章は全体的に読みやすく、状況を把握しやすいものとなっている。最終段落の不穏な締めかた、異常な状況に対しての冷徹なまでの地の文のまなざしも、ノワールとして過不足ない。視界不良の暴力性とそれを中和する耽美的な美しさ、そして理性的な俯瞰が交互に現れるため、どちらかに傾きすぎることなく、実にバランスの取れた読み味となっている。

安心感と不安感を同時に読者に与えてページを次へ次へとたぐらせるのには、とても高度な技術と筆力を要するが、【罪喰らうけだもの】は、その両方を満たせているといえるだろう。このまま1冊を書き切ることができれば、普通に商業ものとして売れるはずだ。

この作品では、固有名詞を過剰に盛りすぎず、足し算と引き算をうまく使うことができていた。イニシャルを用いた固有名詞数の節約、情報量のコントロールも、時代設定とも相まって効果的に決まっている。逆にこれ以上に用語や情報を詰め込んでしまうと、過剰積載のラインに入っていただろう(もう一本の応募作はそうなっていたので、おそらくこの作者の場合は、本人が「淡白過ぎるかもしれない」と不安になるくらいで情報量を留めるのがちょうどいいバランスになるだろう)。

今年はいつにも増して「面白い」作品が多かった年だったが、【罪喰らうけだもの】に関しては、それに加えて「気迫」が感じ取れるものだった。それは題材がノワールか、コメディか、などとは全く関係ないものだ。この1発で決めるぞという真の男本来の姿勢……その覚悟のようなものが文章の端々から感じ取れるものが「気迫のある作品」だ。気迫というと、ガムシャラな精神性や暴走気味の地の文などを連想するかもしれないが、そういうものではない。800文字の中に込められた妥協のない言葉選びなども、作者の気迫がこもるものだ。

タイトルもミニマルでありながら十二分に迫力があり、全体のバランス感覚を象徴している。今年は文句なくこの作品が大賞だ。


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🌵最終の最終選考に残った3点🌵


逆噴射聡一郎先生のコメント:相当面白い。筆力があり、話運びのセンスもいい。デスメタルバンドが普通にデスメタル能力で殺し合いをしており、誰もその世界観にツッコむことなく、当然のものとして問答無用で話が進んでゆく。デスメタルの殺し合いの結果、修繕費が請求されたりするところなども抜かりないし、こういう「物語の物理演算エンジン」的な細部を手抜きせず丁寧にやる事で、グルーヴが保たれ、単なる一発ネタのウケ狙いではなくなっているのだ。

読者からするとおかしみがあるが、当の本人たちは至極真面目であるというノリがキマっている。ここでいう「当の本人たち」には、地の文(作者)も含めた作品全体の雰囲気も含まれている事が重要だ。よくある失敗例としては、登場人物たちが形の上で真面目にやっていても、どこかで作者の照れ隠しや放り捨てるような姿勢が見え、結果としてその作品自体が単なるダジャレや滑ったギャグに終始してしまい、全然R・E・A・Lではなくなってしまうものだ。しかしこの作者は完全にポーカーフェイスを貫き、真の男を感じさせた。真顔のシチュエーション・コメディなどにも強そうな印象だ。

一方、今回の一発ネタのようなタイトリングは良し悪しだ。デスメタルに加えてわざわざ乳首からビームとかやると、インパクトを超えてゲテモノまで踏み込む事になる。ふざけを安直に消費する空気で殊更この部分ばかり持て囃されると、応募者の今後の為にならない気もしたので、おれはその点は指摘しなければならない。一方で、このインパクトあるタイトルだったから忘れないという事もある・・・・ともあれ作品内容は文句なく面白いので、最終の最終に残った。

他には具体的にどこが良かったか。まずもって設定が力強く、説得力がある。読者が「じゃあこういう能力のデスメタルバンドも出せるな」と想像できれば、その設定はもうかなり勝っている。さらに文章の地力も十分にある。さっきも書いたが、別におれは、乳首がどうとかの字面にウケて選んだのではない。あくまでも作品の面白さ、本質で選んだ。メタルバンド連中の生き生きした様子、破壊行動、突飛なデスメタル能力にポジティブなパワーを感じて、それが良いと思ったのだ。今後もR・E・A・Lな創作に取り組み続ければ、きっとすごいものができるだろう。



逆噴射聡一郎先生のコメント:これは非常にエキサイティングな作品だった。単純な面白さとしては【罪喰らうけだもの】と同レベルでタメを張っており、最終選考を争った。どうやら敗者に死が待つと思しきヤバめのクイズと、能力バトル要素の接続がうまく行われている。情報の出し方がうまく、まるでコンボが決まるように「なるほど、そういう事なのか」と細かい理解が積み重なる気持ちよさがあった。テンポよくエキサイティングに話が盛り上がっていく。800文字でこれは、かなり面白い。

この作品では特異な概念を読者に投げつけて疑問に思わせながら話を進めるスタイルを取っており、緊張感を生み出している。ただ、必要に迫られての事だろうが、形の違う鉤括弧が3種類織り交ぜられていたり、太字が混ざっていたり、レイアウトが変化したり、テレパシーが入ってきたりと、視覚上・文章表現上の印象は煩雑で、イマジナリーの導線は不安だ。このテンションのまま数万文字のペースには対応できないので、文章を洗練させ、小説の技法に寄せて体幹を強めることで、もっと話は強くなり、広くアピールできるだろう。一定のぎこちなさの原因が単純にこの賞フォーマットの字数制限要素にあるならば、おれのこの指摘は、特にこの作者の本質的な弱点にはなるまい。奨励したい。


逆噴射聡一郎先生のコメント:面白い。文体に独特のクリアな空気感がある。このような透き通った文体は、一見、悲惨で泥臭い戦争モノと食い合わせが悪そうでいて、青春モノのような関係性に話の軸を引き寄せることができるため、強みを活かしたテーマ選定となっていると感じた。

戦争ものはリアリティの加減が難しく、読み手はまずそこを気にすると思うが、これは最初からキャラの関係性と主観的な視点で話を進めやすくなっているため、仮に現実と多少の齟齬があっても問題なく、安心して読み進められる。さらに上手くいけば、多少の齟齬があった方が面白いまでになる。そうしたリアリティライン・約束ごとも、冒頭の段階でうまくセットアップできているのが巧みだ。そして戦争の悲惨さ、狂気、個人が押し潰される忌むべき理不尽が荒れ狂っている只中で「投球」しようとする姿は、なにか道理を超えた静謐で神秘的なシーンになっており、哀しく、強い印象を残した。




🌵最終選考に残った作品と特別コメンタリー🌵



ここからは最終選考に残った作品のうち、特にコメントをつけたいと逆噴射聡一郎先生が考えたものについて、そのメモとともに紹介していきます。なおそれぞれの作品の並びは、逆噴射聡一郎先生がコメントを書いていった日の気分です(よって、上にあるほど大賞に近いという事ではありません)。コメント文の長い・短いも、特に作品評価とは関係ありません。

それではさっそく行ってみましょう! なお今回、2作品が最終選考に残っている場合は、その両方にコメンタリーしています。



逆噴射聡一郎先生のコメント:【ジオラマ】は田舎を舞台としたミステリアスな作品だが、因習ホラーや田舎特有の狭苦しさ、あるいは居心地の悪さなどに焦点を当てるのではなく、あくまでもこの怪奇現象を成立させるための自然な「舞台設定のひとつ」として田舎性が活用されており、読み味も今風で良かった。落ち着いた筆致で、不穏な状況が丁寧に語られていき、興味が持続した。ジオラマという題材も唐突さがなく、うまく活かせている。

【魔道】はしっかり怖く、迫力があって、面白い。異様な現象が、おそらくはあえて情報量を制限されて、矢継ぎ早に示される。「これはこうこう、こういう理由によって起こったのである。最終戦争の始まりであった・・・」みたいにしたくなりがちだが、この作者はそのような誘惑に負けず、時代と場所をジャンプして、さらなる事象の発生へと進めた。それによって、おれは展開に引き込まれる。こうした超常現象で読み手を引き込むには、「この作者は、一体何を考えてこんなものを書いているのか?」と思わせ、かつ文章そのものは読みやすく、真の男がエンタテイメントとしてやっていることを解らせる必要がある。この作者は筆力があり、その両方に成功している。



逆噴射聡一郎先生のコメント:昨年の奨励賞受賞者の作品だ。【ジャヤバヤの使徒】は、異国舞台のエキゾチックで魔術的なパルプとして、ほとんど手本のような導入と言える。異様で鮮やかな情景を、迫力をもって描いており、良さを感じた。少しわかりづらい描写もあったが、文字数制限を差し引けば、そもそも問題がないレベルと思える。

異国舞台の小説を書く上では、ほかの舞台よりも増して、「必要最低限のことしか書かない」姿勢が重要になる。「私はこの国のことを知っていますよ!」といった作者のアピールが過剰な説明として滲み出てしまうと、途端にテンポが悪くなってしまうからだ。そのてん【ジャヤバヤの使徒】は、情報の切り詰めかたが上手く、事態をどんどん進行させており、スリリングに読ませる。【貌霊7 《スペクターセブン》】も良かった。後者はややトリッキーな話であった為、【ジャヤバヤの使徒】により高い評価が集まった。

この応募者の昨年の【虚面狩り】は大賞レベルの作品だったし、今回の2作品についても、この作者は完全に「自分の必勝の型」のようなものを掴めている印象がある。この作者はもはや800文字ではなく、早々に小説一本を書き上げてMAKE MONEYすべきであると思うが、それでもこうして毎年最新作や新たなチャレンジとともに参加してくれるのは嬉しいことだ。



逆噴射聡一郎先生のコメント:陰鬱さと古臭さで終わってしまいがちな和風因習ホラーの題材に、ツイストをくわえて肉体的な躍動感や焦燥感を与えており、展開が上手かった。まず和風因習ホラーをちゃんと丁寧にやった後、無力感や絶望などで終わらず、ヒキにしっかりと動きを持ってきて、事態を二転三転させている。それでいて、話の流れのわかりやすさもある。800文字の中でこの情報量は、たいしたものだ。ホラー部分はちゃんと怖さを出しつつ、しかしそれを「というわけでこの恐怖システムはどうにもできないし、人間はコケにされて終わりました」でお行儀よくシメずに、それに対してもう一歩何が起きるか、当事者がどう行動を起こすかまで踏み込んだことで、今風のドライブ感が付与された。これはまさに「先を読みたくなる800字」と言える。タイトルも過不足ない。



逆噴射聡一郎先生のコメント:情報量のコントロールができているし、掛け合いの展開もスムーズだ。どうにも安すぎる金銭感覚で逆に非現実感・異化効果が生まれ、キャラや世界の荒廃と、作者のブラックユーモアの感覚も感じ取らせて、文章量以上に圧縮された内容を成功させている。登場したキャラにさらに強い個性づけか、固有名詞がひとつあれば、おれはさらに物語に引き込まれただろう。


逆噴射聡一郎先生のコメント:【粛裁(しゅくさい)の鐘よ鳴り響け。我が命を以て】は、とにかく作者が好きなものを限界まで詰め込んだようなガンアクションだ。歯切れの良い文章で、緊張感のあるアクションシーンを、効果的で最低限の装飾とともに描いていて、読ませる。しっかりと銃弾が飛び、死体が転がるところまで描き切っているのが良い。

こうしたジャンルは、少しでも気を抜くと文章や設定に酔った感じになり、テンポが悪くなりがちなので、今作の、銃 -GUN- を思わせる鋭いテンションは光った。過度なタイトルは本文のテンションと食い合わせが悪かったので、端的に研ぎ澄ましたほうが迫力が出ただろう。無理にタイトルで人目を引く必要のないレベルにまで、本文の筆力はついている。なお、今後は行頭下げをしろ。

【コールド・ケース】はFPS除霊特殊部隊物といった小説だ。たまに見る「心霊物件vs物理除霊」を一瞬想起させ、局地的な流行ジャンルとニアミスするのは逆噴射小説大賞では不利だが、あくまでニアミスであり、内容自体は面白く、小説そのものの面白さの方が前に出ていたので、最終選考に残った。内容も読みやすく、過不足ない。


逆噴射聡一郎先生のコメント:吹っ切れたようなテンポと、颯爽とした主人公の雰囲気が良い。「お客様は神様」のダジャレの一発ネタを出発点としながらも、あくまでそれは出発点として、着想を前にひろげ、毎回違うタイプのクレーマーと戦えば良いことを考えると、実はかなり連作短編シリーズものとしてのポテンシャルもある気がする。クレーマーは誰もがムカつくので、なんかこういう感じでハチャメチャにやっつけてしまうのは、勢いと爽快感があってよかった。それはパルプ的な解決法であるし、いい塩梅でフィクションらしさでコーティングできているので、「スカッと実話漫画」的な居心地の悪い俗悪表現にもならずにすんでいる。ここで発露を取り違えてクレーマーに対する過剰な憎悪やルサンチマンが滲み出してしまった場合、途端に読み味がクサクサしてしまって失敗する危険があるので注意が必要だ。今作はあくまでエンタテイメントとしてやっている感じが伝わったので良かった。この匙加減を引き続きスマートにやっていけば面白いものになるだろう。



逆噴射聡一郎先生のコメント:グラウンドを殴り続け、それに対する答えも出ない、シュールな展開だ。だが、作者がそれを真顔で貫き通した結果として、異様なまでの迫力を生み出し、真の男になっている小説だ。決してショートショートじみた「こんなアイディア面白いと思いませんか?」にとどまらず、作者が真の男として、それを自信満々で真顔で語ろうという姿勢が垣間見える。また、単なるナンセンスな意味不明ものに陥らないだけの筆力も、ちゃんと備わっている。



逆噴射聡一郎先生のコメント:最近で言えばたとえばSTRAYのような猫主観視点ファンタジーだ。特に欠点はなく、しっかりした文章力でやりたい状況を描写し、展開することができていた。奇を衒った演出にたよらず、これらの基本をそつなくこなすのは、じつは大変な筆力が必要なのだ。動物が飼い主の仇を取ろうとする怪奇シチュエーション自体はやや類型的であるため、受賞には至らなかったが、文章力がしっかりあるので、あとはなにかもうひとひねり独自性を打ち出すことができれば、さらに上の賞が狙えるだろう。


逆噴射聡一郎先生のコメント:サンタクロースで慰問する話であるが、内容全体にすごい迫力がこもっていて、それがワクワクさせるパワーになっていた。最後で突然何か派手なことが起こるのかと思ったが、特に何も起こらず、しかしそれがむしろ、破裂寸前まで膨れ上がってギリギリ耐えている緊張感となっている。目が据わっているのだ。だから、この先を読みたい、何かあるのではないか、という読書モチベーションがむしろ増していた。これは稀有な作品だ。完全に作者のストーリーテリングの姿勢が勝ち筋に入っていることの証明と言えるだろう。


逆噴射聡一郎先生のコメント:キャラ同士の掛け合いに一定の魅力があった。洋ドラや映画にあるような兵士同士の掛け合いを体裁だけ真似したのではなく、ちゃんと中身のあるキャラたちが、相手のことを思って喋っているように感じられるし、会話の内容も散漫と並べられたものではなく、後半の展開にリニアにつながっていく形で、興味を保つことができていた。ヴァルハラ自体はハッとするような展開ではないが、この800字は先が気になる内容となっている。このまま完成させた時になにか心に残る作品になりそうな予感があったので選考した。引き続き、文章力を鍛え、練習しろ、毎日だ。


逆噴射聡一郎先生のコメント:ねずみ。無慈悲さと優しさが絶妙なバランスで配置されており、どちらに転ぶか全く解らない緊張感を生み出している。テンダンの説明など、本文も過不足なく、テンポ良く読ませる。最後一段落での転換がとてもよく決まっており、面白い。おれはこの作者の日記とかを読んだことはないが、たぶんそうとうねずみが好きなのだろうというのが感じ取れる。つまり、小説に出てくるねずみにも、相当なリアリティや愛着や必然性・・・・・・つまりR・E・A・Lが存在するはずなので、半端なことはしないだろうから、おれは当然ながら安心して読み進められるといった寸法だ。作者の好きなものを全面に出し、適切にジャンルを混ぜた書き方の好例と言えるだろう。


逆噴射聡一郎先生のコメント:短い中で、しっかりと目的とモチベーションが提示できている。世界観や設定はそれに付随するので、あえて尺を取らずとも伝わるのだ。登場人物が物語を語り続けるスタイルのジャンルには、可能性がありそうな気がする。全然ジャンルは違うが、映画のドライブマイカーもその点が印象に残っていた。こういうスタイルでこのまま「語ること」をギミックにした小説を一本書き上げると、独特でハイレベルな作品になるかもしれない。


逆噴射聡一郎先生のコメント:イメージ喚起の力が強く、文章のテンポも良い。SFファンタジー世界で、今風のオープンワールドゲームっぽい雰囲気もある。設定の提示は必要十分であり、行動の目的や仕組みなども行動の中でハッキリと伝わるように丁寧に設計されていて、面白く読めた。あとは、この800字のなかで、なんとか自立伐採機械の詳細や戦端の開かれるあたりまで書いてしまえば、さらに良くなった。


逆噴射聡一郎先生のコメント:うろたえて悪戦苦闘するAIという時点で何故か共感がわくし、新鮮で面白かった。「あなたAIではないですか」的にイチャモンつけられるという話がネットで話題なのでTwitter大喜利っぽくなる危険はあったが、ひねりを加えつつ、そこからしっかり話を展開させていた。小説の骨格や、ストーリーテリングの姿勢がしっかりしているならば、こうした最新のミームやネタは、むしろ武器となるので、センス良く配置していけば、強みへと変わる。この作者の場合、とにかく一本長編を書き切ってみるなどして、小説の地力を鍛えると、さらに一皮むけるだろう。


逆噴射聡一郎先生のコメント:舞台設定がビジュアル的なヒキがあって面白い。死んだはずのクラスメートが復活するのは、逆噴射小説大賞でもよくあるパターンなのだが、心象表現のようなビジュアルでわかりやすくしたことによって、一歩抜きん出ている。オリエント急行的な謎解き設定を、出し惜しみせずに最初にまず提示してしまい、興味をドラマに集中させているので、巧みである(これを出したところで、いくらでも謎は後付けできる)。


逆噴射聡一郎先生のコメント:まだ若干ぎこちないところはあるが、話がしっかりと動いている。主人公のエモーションの動きについて、最後に何かもう少し描写があれば、なお良かった。「ここを明言すると小説として底が浅くなってしまうのではないか」というのは、今の段階では特に心配する必要がない。まずは全体の見通しや、面白さのキモを早めに提示するほうが優先であり、仮にキャラの心情などを提示してしまったとしても、まだまだキャラの隠された感情などは、いくらでも込めることができる。そう思わせるだけの設定を持っていると感じる。


逆噴射聡一郎先生のコメント:語りのテンポが良く、小説としてもちゃんと面白い。最貧困の悲哀と華々しいVtuberのノリが効果的に合体できていて、手応えがあった。何よりも、常に正反対の性質を持つ二人の掛け合いで話が進行できる点から、ダレる要素がほぼ皆無なのも強みである。800文字のために駆け足になっている部分があると思うので、そこをしっかりと小説として仕上げれば、さらに面白いものになりそうだ。ここからどんな劇的な終わりかたに着地するか、さまざまな振れ幅の可能性があり、楽しみである。


🌵🌵🌵おつかれさまでした!🌵🌵🌵



以上で大賞&入選作品群の紹介とコメンタリを終了いたします。全作品に1個1個目を通して行った逆噴射聡一郎先生、および審査員の皆さん、お疲れ様でした。そしてこのイベントに参加してくれた皆さんへ、ありがとうございました! 

また、毎年の審査における重要な覚書は、以下の記事に集大成的にまとめられているので、気になる人はぜひ読んでみてください。






🌵未来へ(エンドロール)🌵


逆噴射小説大賞は通常の小説大賞とは根本から異なるかなりピーキーなレギュレーションなので、いわゆる名作の冒頭800文字をそのまま持ってきてもインパクトが出るとは限らないし、逆にこのレギュレーションに特化しすぎても、小説として本当に面白くかつ広い層に楽しまれるものになるかどうかは全くの別物です。審査自体も、逆噴射聡一郎先生のその時の気分で選ばれたものであり、あまり重く捉えすぎないでいただければと思います。

コンテストの形式をとっている以上、やはりどうしても「選ばれた作品」と「選ばれなかった作品」は出てきてしまいます。特に今回はファンイベントではなく、CORONAという黄金を奪い合う「コンテスト」であり、中には小説家を目指す人も多いでしょうから、この結果を重く受け取ってしまう人もいるかもしれませんので、あらためて書いておきたいと思います。

エントリー作品収集マガジンを見ていただければわかる通り、驚くほど幅広いジャンルの、多種多様な作品群が集まりました。パルプには無限の可能性があり、ほぼ全てのジャンルを内包しうるタフさがあることの証明と言えます。しかし正直に言ってしまうと、審査員である我々が、その全てのジャンルを守備範囲としてカバーしているかどうかは、また別の話です。当然ながら、ダイハードテイルズのカラーだけがパルプの全てではありません。パルプの中でも、我々は我々の独自のカラーとカルチャーを持っています。また、コンテストというのは、半分、運もあります。審査員のバイオリズムも毎日同じではありません。たまたま何らかの理由で、選ばれるべきだった作品が電子的なエラーで表示されず、選考に含まれなかったなどということさえ起こりうるかもしれません。

要するに、どんな規模のコンテストもそうですが、それは人生のゴールインでも世界の終わりでもないのです。たとえどこかで新人賞を取ってデビューが確定したとしても、創作はそこから先も一生続いていきます。毎日プラクティスなのです。なので、こういった賞への応募活動に参加するにあたっては、選ばれなかった事を理由に自らのモチベーションを減退させるべきではありませんし、納得がいかないからと運営サイドに掛け合おうとしたり執着してはいけません(そんなことをしている暇があるならとっとと次の作品を書くべきです。どんなステータスのクリエイターであれ、結局最後は自分自身との戦いであり、外部の力に期待しすぎてもいいことはありません)。今回だめだったら単に気持ちを切り替えて次にいけばいいだけの事です。

特に、逆噴射小説大賞は冒頭の書き出しを競うかなり尖ったコンテストです。仮にそれが賞を得られなくても、そのまま書き続けていった結果、一個の作品としてアッと驚く内容に仕上がる可能性も当然あります。今回二次選考に通らなかった作品も、ぜひ、他の発表の場で公開してみてください。どれがそうだ、というのは特に明言しませんが、今回選考突破作に含まれなかった作品のうち「この作品、最後まで仕上げてうち以外のところに出せば、いいところまで行くはずだな」と思われた作品も少なくありません。

また逆噴射小説大賞は、大賞を受賞してもCORONAと栄誉がもらえるだけで、我々ダイハードテイルズ側は一切出版などの権利を主張しないという稀有なコンテストです。受賞しなかった応募作についても同じです。あなたが書いた作品はあなた自身のものです。ですから、書いていてあなたが手応えを感じた作品は、ぜひ仕上げて、その作品が最も向いていると思われる場に投稿してみていただきたいと思います(もちろん #逆噴射プラクティス への投稿も引き続き歓迎です)。

このイベントを「生まれ出なかったかもしれなかった物語を書くきっかけ」にしていただければ、ダイハードテイルズ一同、これに勝る喜びはありません。実際、既に、自身の応募作品の「続く」の先を書いていっている方々を散見できます。是非完成させて、世に送り出してください!


🌵🌵🌵




次回「逆噴射小説大賞2023」は、2023年10月に開催予定です。レギュレーションは変わる可能性があるので、2023年10月の発表をお待ちください!

(ダイハードテイルズ出版局)

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