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【ウェルカム・トゥ・ネオサイタマ】


この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードは加筆修正され、再構成されて、上記リンクから購入できる第2部の物理書籍/電子書籍第1巻「ザイバツ強襲」に収録されています。
ニンジャスレイヤー第2部のコミカライズはチャンピオンREDで現在連載中。コミックスが購入可能です。


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1

「制圧!」「ロウワーフロアは制圧完了です!」武装ビークル「ハニワ」上で陣頭指揮を取るノボセ老のもとへケンドー機動隊長が馳せ参じ、最敬礼オジギした。「アッパーフロアへの突入を開始しました」「よいぞ!」ノボセは激励した。起動隊長が言う「しかし、内乱でもあったのでしょうかね?あの有様」

「……実際、何かが起こったのであろうな」ノボセ老は顎をさすり、独りごちた。正面ロビーにはクローンヤクザの死体が溢れんばかりで、まずマッポの度肝が抜かれた。他エリアにおいても警戒していたニンジャの反撃は無い。居たとしてもデッカーガンやケンドーケンの一斉攻撃で殲滅可能な弱敵だった。

「アイエエエエ、アイエエエエ、こんなの違うよお……」子供じみた泣き声が聞こえ、そちらをノボセが見やると、芋蔓めいた連結式の手錠ロープで護送車両へ今まさに連行されんとするネコソギ・ファンド社員の列である。

「急反発するんだからぁ……成せばなるんだからぁ……」「ブーッ!ブーッ!」先頭を泣きながら失禁して歩くクルーカットの若いサラリマンへ太った中年男性がまとわりつき、ブーイングし続ける。「ブーッ!ブーッ!」「ヤメナサイ!」デッカーが叱責し引き剥がす。「ザマアミロ!ザマアミロ!ブーッ!」

「ナムアミダブツ……なんたるマッポー様相……!」ノボセは嘆かわしげに首を振った。「突入開始!」「ハシゴ展開!」インカムから突入部隊の状況報告が聞こえてくる。やはりハシゴが要ったか。アッパーフロアは一筋縄では行くまい。

 ファンファンファン!電子チョウチンをサイレンとともに回転させ、デッカー・ビークルが包囲網に入ってきた。「ノボセ=サン!」中から転がるように降りてきたデッカーは青ざめてノボセへ走り近づく。「どうした」デッカーは息を切らし、「ひ、非常事態です……連続同時テロ……!」「何だと?」

 ドオン!それを説明するかのように、トコロザワ・ピラー前のノボセに近場で発せられた爆発音が届いた。「どういう事だ」「どうもそれが、ネコソギの息のかかった企業ブランチばかりが標的になっているよう……」ドオン!「暴動か?あのリーク放送で失望でもしたか」「確認中……」ドオン!

「ラオモト・カン、死してなお人心を安らわせず…か……!」ノボセは拳を固め、「外して保持」と書かれたテープで囲まれたミヤモト・マサシ像の残骸と、そこに散らばる肉塊を睨みつけた。


◆◆◆


 ソウカイ・ニンジャ「ソーンヴァイン」はススにまみれた痛々しい有様でよろめき、心身ともに限界のていで、廃テンプル敷地内へ踏み込んだ。彼が待機していたネコソギファンドのカスガ・ブランチが何の予兆もなく爆破され、彼はブザマに投げ出された。メンターとのIRCセッションも途絶えたままだ。

「まず安全を確保……安全を……」ソーンヴァインはトレーニングで叩き込まれたメソッドをウワゴトめいて繰り返し、幾度も背後を振り返りながら廃テンプルを目指す。「どういう事なんだこれは……」ソーンヴァインは呟いた。覆面抜き打ちテストか?だとすればこれは不合格か?ケジメ?「アイエエ……」

 なにしろソーンヴァインは昨日トレーニングを終えたばかりのニュービー・ニンジャなのだ。このような不測の事態に居合わせた事は彼の不幸と言わざるを得ない。爆発で屋外へ転がり出た彼を待ち構えていたのは気味の悪いメンポを装着した見知らぬニンジャで、モスキートと名乗った。

 ヌルヌルとしたモスキートのオジギ動作、嘲るような名乗り声を思い出すだけで、ソーンヴァインは恐怖に失禁しそうになる。有無を言わさず襲いかかってきたモスキートめがけ、ソーンヴァインは自慢のバイオ鞭を繰り出した。わずかな足止めと引き換えに鞭は奪われ、ソーンヴァインは必死で逃走した。

 それから走りに走って、ようやく追跡を撒いたソーンヴァインの前に現れたのは、ヤンク時代に仲間と集まって笑気ガスを吸うのに使っていた地元の廃テンプルだった。なんたる奇遇!「なんでニンジャが……畜生……」恐怖と懐かしさがごっちゃになって、ソーンヴァインは涙を飲んだ。

 ニンジャになれば市民やヤクザなどアゴで使えるバラ色の生活。ソーンヴァインはそう信じていた。ニンジャとは同僚であり上司。ネオサイタマを支配するソウカイ・シンジケートに敵対ニンジャがいるはずなど無い、ただ一人、噂に聞くニンジャスレイヤーとやらを除けば……なんたる想定外……。

「ウオー!こんなはずじゃねえんだ!」ソーンヴァインは衝動に駆られて廃テンプルのエンガワへジャンプして登り、祠の戸口を蹴り開けた。「ウオーッ!畜生!こんなのねえぞ!ウオーッ!お、俺は、ア?……アイエエエエエエ!?」ソーンヴァインは室内で彼を出迎えたニンジャを前に、もはや失禁した!

「フーン!フーンク!」鉄仮面めいて顔全体を覆うメンポを装着したニンジャが足早に躍り出た。コワイ!彼は唸りながらソーンヴァインにオジギした。「フーンク!」「アイエエエエ!」アイサツ返しすら忘れ、ソーンヴァインは失禁しながら後ずさりした。しかも奥にはさらにもう一人ニンジャがいる!

 どうして!どうしてここにニンジャが!こんなところに!「……客人か」奥のニンジャは気だるげに立ち上がり、オジギした。「ドーモ……私はアンバサダー……彼はインペイルメント。インペイルメント=サンは喋れないのだ。名乗れないが許してほしい」「フーンク!フーンク!」「アイエエエエ!」

 ソーンヴァインは二人のニンジャが放つ圧力に打たれて逃げる気力もなく、力なく室内を見渡した。カエル・セラピー状態だ。奥の壁には禍々しいマンダラ・ペンタクルが直描きされている。紫色に脈打つそれは何かのジツなのだろうか?傍らに立つあのアンバサダーとかいうニンジャが何かするのか……。

「フーンク!」インペイルメントが進み出た。彼が背中に負ったロングニンジャソードの異様さにソーンヴァインは初めて思い至った。長すぎる。長すぎるためか、カタナ上下が逆さである。柄頭が下にくるようになっており、異様な長さの鞘は肩の斜め上に真っ直ぐ伸びている。なんだ、これは?

 応戦!応戦しろ!ソーンヴァインは震えながらカラテを構えた。バイオ鞭はもう無い。カラテだ!カラテがニンジャの身を守る!いや待て、アイサツがまだだ!「ド、ドーモ、ソーンヴァインです……」「フーンク!」インペイルメントの鞘がエンドウ豆のサヤめいて展開、抜き身のロングソードが放たれる!

「アイエ……ウ、ウオー!」アイキドー・シャウトを繰り出して威嚇しつつ、ソーンヴァインはインペイルメントが長大なカタナを構える隙を伺った。「……弱敵だ、時間をかけずに片付けてくれ」アンバザダーが気だるげに言った。「フーンク!」「まだ数人来る。邪魔になる」「フーンク!」

「ウオーッ!見ろ!来たら、こうだ!」カラテ素振りでソーンヴァインは威嚇!「イヤーッ!イヤーッ!」「フーンク」インペイルメントは首をかしげた。その奥の壁のマンダラ・ペンタクルがひときわ明るく脈打つ!ソーンヴァインは気を取られた。何だ、あれは?

 00101110。白黒のモザイク模様が蜃気楼めいてマンダラ・ペンタクルの前にわだかまったかと思うと、あっという間にそれが生きたニンジャの形を取った。「アイエエ……」もはやソーンヴァインの現実認識はキャパシティを超えている。彼はインペイルメントを威嚇しながら他人事のように見守った。

「ドーモ。……デスナイト=サン……?」アンバサダーが新手ニンジャにオジギし、驚いたように言った。「貴方がわざわざ来るとは、これはまた。よくぞロードがお許しになられたものだ。このポータルで転送中に死ぬ確率は三割弱はある」「構わんのだ」新手ニンジャは物騒な話を平然と受け入れる。

「それで死ぬのもまた運命だ」ところどころ甲冑めいた特殊なニンジャ装束を着たニンジャは腕に止まり木めいて止まるイーグルを撫でながら言った。そしてソーンヴァインを見た。「あれは?」アンバサダーは肩をすくめる。「……やれ、インペイルメント。構うな」「フーンク!」「ア、アイエエエ!」

 ソーンヴァインは自暴自棄でインペイルメントへ殴りかかる!「イヤーッ!」「フーンクッ!」インペイルメントが恐るべき早さでカタナを突き姿勢に構え、そして稲妻めいた速度で突き出す!「グワーッ!?」ナムアミダブツ!長大なカタナはソーンヴァインの胸を貫通、そのままケバブめいて持ち上げた!

「グワーッ!畜生ーッ!」ソーンヴァインは空中へ持ち上げられて泣き叫んだ。「フーンク!」インペイルメントはそのままダッシュ、ソーンヴァインと共に室外へ飛び出す。「グワーッ!」「フーンク!」インペイルメントの疾走は止まらない。そのまま敷地の隅の松の木の幹へカタナを突き立てる!

「グワーッ!グワーッ!」木の幹にカタナでモズのハヤニエめいて突き立てられたソーンヴァインは血を吐いて苦悶!ナムアミダブツ!「グワーッ!」「フーン……」インペイルメントは力を込める、そして「……フーンクッ!」引き抜く!ドッと噴き出す血飛沫!

「グワーッ!アーッ!」ソーンヴァインは松の木に寄りかかるように尻餅を突き、ひたすらもがいた。インペイルメントはオジギして踵を返し、スタスタと祠へ帰って行く!ソーンヴァインの胸の穴から血とともに命が抜け出ていく。そして何かが体内で暴れ狂う……喉が言葉を絞り出す!「サ……サヨナラ!」

 おお……ナムアミダブツ!わけもわからず爆発四散したソーンヴァインが運悪く見てしまったものこそ、まさにこの争乱の心臓部に他ならぬ!アンバサダーのポータル・ジツは遥か西、キョート城に待機する双子の兄ニンジャ、ディプロマットのポータルと結びついている。

 彼らによる超自然のトンネルをくぐり抜けてネオサイタマへ降り立った者たちこそ、この暴動めいた騒ぎの元凶!ザイバツ・シャドーギルド!無慈悲なるロード・オブ・ザイバツの尖兵だ!


2

 ズンズンズンズズポーウ!ズンズンズンズンズズポポーウ! ノイズ混じりのサイバーテクノが不快な環境音となって機動隊員を迎え入れる。真っ白な無機質空間。壁も床も天井も、潔癖性めいた白い強化プラスチックで覆われている。「突入……」「気味が悪いな」警戒を怠らず、小隊が進み出る。

「ヒッ!なんだこりゃ」隊員は小銃で壁ぎわに並べられたアクリル塊を指し示した。透明のキューブの中に輪切りの人体が浮いているのだ。医学的資料というよりは、単に異常な妄想か性的嗜好の産物であることを強く思わせる、眺めていると精神に変調をきたすようなオブジェである。

「クリア」「クリア」「奥のカーボンフスマ開きますよ」「お願いします」小隊は小銃を構え、規則性の無い配置で視界を遮る柱の間を確かめていく。「こっちはオフィスだ。誰もいない」「クリア」「……クリア」無数のUNIXパソコン、液晶モニタの数々。すべて電源が落ちている。

「パンチシート、フロッピーディスク、カセットテープの類、全部押収せよ」「ハイ……見当たらないですね」銃口のライトで机の下まで照らしながら、彼らはラボの記録を探す。ラオモトが巨額の資金を投じたリー・アラキのラボには犯罪の証拠がゴマンとあるはずなのだ。

「ええ、残念ながらここには何も無いのです」いきなり目の前に現れた研究員に、小隊は一斉に銃を向ける。「ドーモ、ドーモ皆さん、トリダです、ええ」どこから現れたのか?隊長は挙動不審なその研究員をホールドアップさせ、白衣のIDに読み取り機をかざした。「トリダ・チュンイチ=サンか」「ハイ」

 病的な細面のトリダの首筋には水平の傷跡が生々しい。「……何か?」「みりゃわかるだろ君ィ。マッポですよ。捜査令状も出てるから」隊長はマキモノを拡げて見せた。トリダは頷き、「ドーゾ、お好きに。引き払うところだったので、あまりお役に立てるものは無いんですよ。リー先生もビッチもいない」

「ビッチ?」「アバズレだよ、ア、バ、ズ、レ!わかるでしょ。あのクソ女。あいつ、先生に取り入ってやがるから。私が留守番てわけでして」隊長は隊員と顔を見合わせる。「……えーと、奥にもっと研究施設ありますね。あらためるんで、案内しなさい」「わかりました」トリダはニヤニヤ笑っている。

 隊員を先導しながら、トリダは喋り続けている。「センセイとビッチのシリコン女はね、そのう……たまたヨロシサンの別施設に準備をしにね、行ってまして。まあ、こんなことになっちゃあ、ピラー内のこの出張所はおしまいですよね。だから大急ぎでしたよ私。私はなんでも捜査に協力しますよ」「……」

 トリダは防弾ガラスの窓を備えた実験施設のフスマを開いた。「ドーゾ、ここでしょ。先に入りますよ」トリダはスタスタと歩いてゆく。「うお、これは……」隊員が絶句した。1

 ナムアミダブツ!まるでこれではスクラップ処理場だ。広大な施設内にうず高く堆積する機器類!なにもかもが破壊され、捻じ曲げられて、ところ構わず散乱している。高価なIRC遠心分離器までオシャカだ!機器類に混じって、なんとも意味のわからぬ物……バラバラの木馬やフクスケも破壊され横たわる。

「うわあ、なんてヒドイんだぁ」トリダは他人事の様に言った。「データもきっと壊れて読み取れないぞ、センセイに怒られてしまう。どうしよう!」「ウヌ……」機動隊員は呻いた。隊列からデッカーが進み出、惨状を前に溜息を吐いた。「やれやれ。証拠隠滅だあ?テメエあんまりマッポをナメるなよ……」

「そりゃあナメますよ!」トリダは真顔で言った。「あんたら、劣等ですもの!」「え?」「ア、アイエエ!」残骸をあらためにかかった隊員たちが何かを見つけて叫んだ。「あったか……ア、アイエエエ!?」隊長も度を失い絶叫!ナムサン!彼らが発見したのは機材とごっちゃに積み上げられた死体の山だ!

「なんだとーッ!?」デッカーも驚愕し叫ぶ。白衣姿の死体の山!これはこのラボの研究員では無いのか!?一体何人が犠牲に!?証拠の隠滅!?あらためて破壊された機材の山々を見やると、ところどころ腕や死体の頭がはみ出ている!コワイ!ここは狂ったモルグだ!「アハハハハハ!」トリダが笑い出す!

「ここには何にも無いって言ったでしょ?大忙しだったんだ!ぼくは!アハハハハハ!」トリダは仰け反り笑う!「こ……こいつを確保しろーッ!」「イヤーッ!」トリダが長い両腕を伸ばして旋回!「アバッアババババーッ!?」付近に立っていた機動隊員7名は首を刎ねられて瞬時に絶命!ナムアミダブツ!

 BLAM!BLAM!BLAM!!その場にいる全員がトリダめがけて集中砲火!「アハハハハハ!」トリダは全身に銃弾を受け、血を撒き散らしながら飛び上がる!そして天井へコウモリめいて逆さに直立した!コワイ!「ドーモ、ドーモ、ブルーブラッドとでも呼んでください!」

「ア……アイエエエ」「ニンジャ……?」「これはニンジャか?」「緊急事態!ピラー内ヨロシサン・ラボラトリーフロアでニンジャと遭遇……!」機動隊員が浮き足立つ!「アハハハハハ!」トリダは首筋の銃弾をほじくり出し、「有難くブルーブラッドになって、ぼくは吃音を治したんです!」

 BLAM!BLAM!BLAM!さらなる銃撃の集中!逆さまのトリダ=ブルーブラッドは身を震わせる!「オオオオ……痛みも無いんですよ、これ!効かないんですよッ!」BLAM!BLAM!「でも白衣は……新調しなきゃいけない……」「アイエエエ!」機動隊員が一人、士気をくじかれて逃走を図る。

「イヤーッ!」ブルーブラッドが腕を突き出すと爪が瞬時に10フィート伸び、逃走を図る機動隊員の後頭部をケンドーヘルムごと貫通した!「アバーッ!」「逃げるのはダメでしょう!ぼくが犯罪者扱いになっちゃう!」ナムサン!狂気!既にこの騒乱が通信で外の本隊に伝わっているのは当然だというのに!

「イヤーッ!イヤーッ!」機動隊員が一人、ケンドーケン・ブレードを構えて飛び出した。銃が効かぬなら電磁シナイで攻撃というわけだ!ケンドー機動隊はその名の通り、本来ケンドーを最も得意とする戦士である。「オメーン!」最大出力のシナイが火花を散らす。逆さまのブルーブラッドに斬りかかる!

「イヤーッ!」「アバーッ!」ナムサン!やはりダメだ!ケンドーケン・ブレードはブルーブラッドに届かず、伸びた爪がその機動隊員の
脳天を一撃して殺害!逆さまの状態のブルーブラッドを相手にすれば、ケンドー熟練者と言えども間合いが狂ってしまうのだ!

 このトコロザワピラーに投入された部隊はニンジャとの戦闘を想定した熟練者で固めている。道中、各小隊は数人のニンジャと戦闘。実際仕留めてもいるのだ。だがこのブルーブラッドはバカバカしいほどの戦闘能力で機動隊を圧倒している。個人の実力が集団を凌駕する……これがニンジャの恐ろしさだ!

「アイエエエ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」逃走を図った更なる一人にブルーブラッドは後ろから爪を突き刺し、殺害!「だからダメでしょうって逃げたら!まったく劣等だな!」逆さになったまま、ブルーブラッドはほとんど足を動かしてすらいない。機動隊長は覚悟を決めた。「突撃!続け!かかれ!」

「オメーン!」機動隊長がケンドーケン・ブレードで斬りかかる!「イヤーッ!」ブルーブラッドの爪が伸びて隊長の脳天を襲う!「オコテー!」機動隊長は危ういところで爪を弾き、刺突を逸らす!「イヤーッ!」「オコテー!」ゴウランガ!反対の手の爪も見事に防御!

「オメーン!オドー!」機動隊長はブルーブラッドの頭を打ちに行くと見せかけ、胸を突きにいった。見事なフェイント攻撃だ!「イヤーッ!」「グワーッ!?」ナムサン!好調もそこまでであった……ブルーブラッドは広げた両手をクロスさせ、ハサミめいて機動隊長の首を切断したのだ。

 ブルーブラッドは胸に確かに機動隊長の刺突を受けていた。しかしそれすらもブルーブラッドに対してダメージとなったのか判然としない。機動隊員達は知るよしも無い……彼、トリダは単なるニンジャではない。死後24時間以上経過した体にアーチニンジャの力を宿し不浄な命を宿した邪悪存在なのだ!

 ブルーブラッドは生前のトリダの記憶を完全に有する!これはリー先生にとっても全くの想定外であり、彼を狂喜させた。しかし完全な記憶を有するからといって、それは果たしてトリダなのか?記憶とは自我なのか?なかば哲学的領域にすら踏み込むこの問いに、トリダ自身すら答え得ぬのではないだろうか!

「オ、オメーン!」別の機動隊員が決死の突撃!逆さまのブルーブラッドの頭を打ちに行く!「イヤーッ!」ブルーブラッドの爪が閃く!機動隊員は首を刎ねられ絶命!切断面からスプリンクラーめいて鮮血が噴き出す!

「オツキー!」さらなる機動隊員が決死の突撃!逆さまのブルーブラッドの首筋を打ちに行く!「イヤーッ!」ブルーブラッドの爪が閃く!機動隊員は首を刎ねられ絶命!切断面からスプリンクラーめいて鮮血が噴き出す!

「オコテーー!」さらなる機動隊員が決死の突撃!今度はブルーブラッドの腕を打って攻撃封じの狙いだ!「イヤーッ!」ブルーブラッドの爪が閃く!まるで問題にならず、機動隊員は首を刎ねられ絶命!切断面からスプリンクラーめいて鮮血が噴き出す!

「「「オメーン!オメーン!オメーン!」」」残る機動隊員6人が決死の覚悟で列を為し殺到!「イヤーッ!」逆さのブルーブラッドは爪を水平に構え、コマめいて激しく回転しながら一列の機動隊員を迎え撃つ!

「イヤーッ!」「アバーッ!」首を刎ねる!「アバーッ!」刎ねる!「アバーッ!」刎ねる!「アバーッ!」刎ねる!「アバーッ!」刎ねる!「アバーッ!」刎ねる!ナムアミダブツ!シャンパンめいた鮮血の連続噴火!ブルーブラッドは狂笑し、最後の一人、立ち竦むデッカーの首もそのまま刎ね飛ばした!

「アハハハハ!実際時間が無い!」全ての侵入者を殺害したブルーブラッドは天井を蹴って床に着地した。彼が恐れるのは夜明けである。蘇生後に彼が背負った日光アレルギーというペナルティは極めて深刻、ネオサイタマの雨雲を通した太陽の明かりですら、身体への重篤なダメージとなる!

 もはやこのラボに彼が居残る理由は無い。「開けますので」と書かれた壁のスイッチを押すと、壁のシャッターがチャリチャリと音を立てながら開いてゆく。

 夜明けは近い!「イヤーッ!」ブルーブラッドはシャッターが開くと窓ガラスを飛び蹴りで破壊、窓枠を蹴って外へ飛び降りる!その際彼は抜け目なく手にしたIRC起爆装置を押す!

 カブーーム!実験施設はまるごと炎につつまれ、窓から爆風が噴出!全てのデータを完膚なきまでに隠滅!ナムアミダブツ!

 トコロザワピラー周囲に植えられた桜並木を蹴りながら無傷で着地、噴き上がる黒煙を一瞥したのち、邪悪なニンジャは稲妻めいた速度で闇に消えて行く。彼以上に邪悪な主のもとへ!


◆◆◆


「アバーッ!アッバーッ!」店のバウンサーとおぼしきヤクザが火だるまになりながら吹き飛び、立ち飲みテーブルをなぎ倒して転がった。「やめとけやめとけ!おとなしく死ねよ!抵抗すると苦しいもんだぞ!」悠々と店内に入ってきたニンジャが火だるまヤクザに言い放つ。……そう。ニンジャである。

「アイエエエ!?」「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」「コワイ!」「ゴボボーッ!」明け方を迎えようとする飲み屋の酔漢達は恐怖のあまり容易に失禁し、嘔吐した。それらへ侮蔑的な視線を送りながら朱色のニンジャは手近のオチョコを掴むと中のサケをイッキし、壁に投げつけて割った。

「ドーモ、皆さん。サーベラスです」朱色のニンジャはぞんざいにオジギした。ガスマスク型のメンポであるが、口の部分にはなにやら青い火が灯っており、バーナーめいた機構の存在をほのめかした。「今からこの建物は爆破する。これは実際戦争だから、死んでも恨むなよな」

「アイエエエ!?」「戦争!?戦争ナンデ!?」「コワイ!」「ゴボボーッ!」酔漢達は低下した思考力によって単調な言葉を繰り返す。そして失禁し、嘔吐した。それらへ侮蔑的な視線を送りながら朱色のニンジャは別のオチョコを掴み、やはりメンポの飲食機構でイッキ。壁に投げつけて割った。

「ザッケンナコラー!」火だるまヤクザが生命力を振り絞って起き上がった。「ス、スッゾオラー!」「何だそりゃあ」サーベラスは肩を竦めた。「そのまま死んでおけよ」「ど、どこのヨタモノだテメッコラー!看板どこだコラー!」サーベラスは悠々とストレッチをしながら答える。「ザイバツだよ」

「ザイバツ……?」「まあ、俺も詳しくは知らんが、とにかく戦争だから暴れりゃいいんだよ。お前の『看板』とやらはもうお終いなんだよ、ワカル?ザイバツがいただく、ワカル?」「スッゾオラー!」火だるまヤクザがナックルダスターで殴りかかる!

 サーベラスは顔の前で両手をクロスし、そして開く。「Spitttt!」メンポのノズルから可燃性の液体が弧を描いて射出された。ノズルの火が液体に着火、炎の水となってヤクザに降り注ぐ!「グワーッグワアバーッ!」再度燃え上がったヤクザは床をのたうち回り、炭化して死んだ!

「アイエエエ!?」「燃えた!?燃えたナンデ!?」「コワイ!」「ゴボボーッ!」酔漢達は低下した思考力によって単調な言葉を繰り返す。そして失禁し、嘔吐した。それらへ侮蔑的な視線を送りながら朱色のニンジャは別のオチョコを掴み、やはりメンポの飲食機構でイッキ。壁に投げつけて割った。

「ああ!面倒くせえ!」サーベラスはカーボンフロシキから拳大の球体を取り出した。「もうやっちまうぜ!お前らそのまま死んでいいよな!」球体は黒光りしており、表面に冷徹なミンチョ文字で「江戸時代」と書かれている。誰がどう見ても爆弾だ。コワイ!

 サーベラスが球体をねじると、球体は少し上下にスライドし、内部の液晶漢字タイマーがあらわになった。「じゃあこの建物をこれで吹っ飛ばしてノルマ達成、ワカル?汚らしいネオサイタマのアホどもには実際飽き飽きなんだよ!」

「おい」サーベラスに呼びかけた声がある。「あん?」サーベラスはそちらを見やった。先ほど火だるまヤクザが最初に倒れこんだ立ち飲みテーブルだ。聖職者が着るようなカソックを着て、鍔広の帽子で顔を隠している。極めて酒臭い息がその歪んだ口から煙めいて立ち昇る。

 ナムサン!読者の皆さんは覚えておいでであろうか。彼はこの安酒場でラオモト・カンのPR番組を背景に酒を飲んでいたのだ。その時隣にいたトレンチコートの男は既に退出しておりそこにはいない。このカソックの男はその後も一人、ここで飲み続けていたのである。

 見れば、この酒場で前後を保っているのは彼一人だった。他の客はみな泥酔しており、先程から同じ単調な言葉を呟くばかりだ。バーテンはといえば、とうに店外へ駆け去って、カウンターは無人であった。

「お前、さっきから黙って見てりゃあ、フザケやがって……」「あん?」男の声には背筋も凍るような憤怒の響きがあった。「サーベラスだと?ニンジャだと思って調子に乗ってやがる……ナメやがって……」サーベラスは鼻を鳴らした。「どうした、おい。オレとやりたいってのか?構わんぜ?」

 男はどこか様子がおかしい。サーベラスはやや警戒しながら、男の次の行動を伺う。男はブツブツと呟いた。「オレは嫌な思いをしたくないんだ……ただこうしていりゃ、それで十分だ。それだけなんだ。なのに、お前のようなカスが現れる。乱していく。何様だ……ええ……?」

「フン!酔っ払いってのは嫌いだね!」サーベラスは「江戸時代」をカソック男の足元に投げつけた。「おら、逃げてみろよ!爆弾だぜ、それは」「イヤーッ!」カソック男はいきなりその球体を力任せに蹴り飛ばした。

 ギュン!球体はサーベラスの左耳の端をかすめてニンジャ頭巾ごと削りとり、そのまま砲弾めいて店外へ真っ直ぐに飛んでいった。そして夜空で爆発!カブーム!花火めいた閃光が曇り空を一瞬、照らし出す!「何!?」サーベラスは店外の空とカソック男を交互に見返した。

「何……何だ、お前は?」「俺はジェノサイド!」カソック男が進み出た。そして肩を怒らせてオジギした。「ドーモ、サーベラス=サン!ナメやがって!俺はジェノサイドだ!ナメやがって!」「ジェノサイド?ソウカイヤの新手のバウンサーか?ダラダラとうるせえ奴だ。かかってきやがれ!」

 ガチャリ。カソックの中から無骨な鉄の塊が床へと落下した。バズソーだ。鎖がついている。ドルルルル、ドルルルル、バズソーはジツめいた謎の機構によってひとりでに起動し、刃を回転させ始めた。サーベラスは目を見開いた。なにかまずい!両腕をクロスし開く!「spittttt!」放射される火線!

「イヤーッ!」ジェノサイドが腕を振り上げる。鎖が跳ね、くくりつけられたバズソーが宙を飛んだ。バズソーは可燃性液体を撥ね散らかし、そのままサーベラスの首をめがける!「イヤーッ!」サーベラスはブリッジしてバズソーを回避!「イヤーッ!」反対の腕がもう一本のバズソーを飛ばす!

「イヤーッ!」サーベラスは横に転がって追撃を回避!素早く起き上がりカラテを構える。「ニンジャ!?ソウカイヤか?まあいいや、消してやる!」両腕をクロスし、開く!「Spittttt!」可燃性液体が襲いかかる!ジェノサイドのカソックに炎が振りかかった。僧服はたちまち燃え上がる!

「アイエエエエ!」泥酔者たちが先を争って出口へ殺到する。ジェノサイドのカソックは左肩口が焼け崩れ、荒っぽく包帯を巻きつけた体が露出した。漂う強烈な酒の匂い、微かに交じる腐臭!だがジェノサイドは意に介さず、サーベラスへ突き進む!「俺は!」腕を振り上げる!跳ねるバズソー!チュン!

「グワーッ!?」サーベラスは目を疑った。右腕の第一関節から先が無いのだ!ヨーヨーめいて繰り出されたバズソーが彼の右腕を一発で切断したのだ!「グワーッ!?」「イヤーッ!」さらにもう一撃!バズソーが飛ぶ!しかしサーベラスもニンジャである、右腕を失いつつも冷静にそれをスウェー回避!

「何だ、お前その、お前のその体は!」サーベラスは困惑して叫んだ。ジェノサイドの腐敗した異様な体を見とがめたのだ!「俺はジェノサイド……!」ジェノサイドは回避されたバズソーをそのままブンブンと振り回し、頭上で旋回させる!店内を乱舞するチェーンソー!カウンター上の酒瓶が吹き飛ぶ!

「Spittttt!」サーベラスが可燃液体を吐きかける!鍔広の帽子が燃え上がり、包帯を荒っぽく巻きつけたジェノサイドの顔が明らかになる!「アイエエエ!?」サーベラスは悲鳴を上げた。包帯の隙間からのぞくジェノサイドの顔は腐乱死体のそれだったからだ!

「バラバラにしてやる!お前を!俺はジェノサイドだ!」頭上を旋回するバズソーが横から飛来!サーベラスの胴体を切断にかかる!「ウオオーッ!」サーベラスは必死でそれを回避、切断はまぬがれたものの胸板には真一文字に深々と傷がつき、鮮血が飛び散った!「Spitttt!Spitttt!」

 サーベラスは可燃液体を放出しジェノサイドを焼き殺そうとした。だがジェノサイドは可燃液体をカソックで受け、燃え上がったそれを脱ぎ捨てながらワン・インチ距離に殺到した。「イヤーッ!」下から上へバズソーがアッパーカットめいて飛ぶ!チュン!左腕の肩から先が切断!「グワーッ!」

「ザイバツとか言ったなぁ?」サーベラスの目と鼻の先へ、ジェノサイドは己の腐乱した顔を近づける。まぶたのない目が睨み、唇のない歯がむき出しになる!「グワ…グワーッ!」「ソウカイヤ?ザイバツ?知った事じゃねえ!」サーベラスは絶望した。こいつは何なんだ?既に腐敗した顔を焼いて何になる?

「ふ、不測の事態!」サーベラスは奥歯に内蔵されたインカムのスイッチを舌で押し、喚いた。「おかしなニンジャに襲われた。ジェノサイド!ソウカイヤじゃない。死んでいるんだ。死んでいるから殺せない。もうダメだ、俺は死ぬ!」「死ね!」ジェノサイドはサーベラスの首をつかんだ。「アイエエエ!」

「イヤーッ!」ジェノサイドはサーベラスの首を素手で引きちぎりにかかる、ナ、ナムアミダブツ!「アバーッ!グワーッ!アッババババーッ!」なんたる惨たらしい死に様!数分前のサーベラスはこのような己の運命を予測し得ただろうか?ジェノサイドの怒りは一切の容赦なくこのニンジャを滅ぼしたのだ!

 鎖つきバズソーを引きずり、カソックも帽子も失ってそのズンビー身体をあらわにしたジェノサイドは路外へ飛び出した。「アイエエエ!」偶然それを目にした酔漢が失禁しつつ倒れ気絶!ドオン!遠方で別の爆発音!ザイバツ!「アイエエエ!」角を曲がってきた別の酔漢がジェノサイドを見て失禁し気絶!

「……!」ジェノサイドは己の身体を忌々しげに見下ろす。そして人気のない路地裏へその身を滑り込ませる。遠方で断続的な爆発音が響き渡る……。

 そこから数ブロック東、「全卵かしまし」と書かれたネオン看板の上で片膝をつき、街のあちこちで起こる騒乱を見下ろす少女あり。セーラー服姿の彼女は騒ぎの波及する先を見定めようとするかのように、厳しい表情で夜風に吹かれていた。

 あちこちで起こる爆発。少女の瞳が不可思議な桜色に光る。ネオン看板の直下の道路を、爆音と共にドリフトしながら走り抜けていく一台の異様な車両。鏡面加工クロームシルバー車体の武装霊柩車だ。しかし彼女はそれには注意を払わず、立ち上がると、屋根から屋根へ飛び移り、すぐに見えなくなった。


3

 ギュウイーン……ラブ……ラブイズペイン……ラブイズディザスター……ユーアーサッチアペイン……ライク・サンズリバー……。ギュウイーン……ディキディキ、ディキディキディキ……。

 完全防音の車内は、ひんやりしたエレクトロダークポップの支配するゼンめいた小宇宙。真空に放り出されるダストめいて後方へ吹き飛んでゆく周囲の風景は、まるで他人事のように無味乾燥だ。逆モヒカン・ヘアーとサイバーサングラスが特徴的な運転者の表情もまた、無感情の極みである。

 冷たいマシーナリー・ビートを時折ザラザラしたノイズが乱す。「……突入……天守閣……」だがこれは彼自らが進んで違法に傍受しているマッポ無線だ。彼、ミフネ・ヒトリ、通称デッドムーンはクロームシルバー塗装された武装霊柩車を駆る。ネオサイタマをほとんど横断するルート。目的地はマルノウチ。

 ネズミハヤイはマルノウチのジャンクションを通過。列をなすネオン・トリイをくぐり抜けると、車載モニターの表示がマルノウチからトコロザワへ切り替わる。「だいぶもうすぐです」とマイコ音声。トーチのように炎と煙を吹き上げるスゴイタカイビルを横目に、デッドムーンは淡々とアクセルを踏み込む。

 マッポ無線の傍受はデッドムーンの日課だ。タフな仕事なのだ。闇の帝王ラオモトの死、トコロザワピラーを包囲する軍隊めいた規模の機動隊員。情報の断片はダークエレクトロポップをオツに彩るエフェクトとなり車内を漂う。前方の空を横切るヘリコプター……。ギュウイーン……ラブイズテイストレス……。

 やがて前方にトコロザワピラーの威容。ディキディキディキディキ、ラブイズディザスター……ラブイズユー、ユーアーラブ……アイヘイトラブ……「違いない」デッドムーンは感傷的な歌詞に同意した。「右手の反対に進め」古式めかした語り口でマイコ音声がガイドする。デッドムーンはハンドルを切った。


◆◆◆


「ノボルタ」「亀センベイ」「30時間働いた」。セーラー服と黒髪をなびかせ、極彩色のネオン看板を次々に飛び移る制服姿の女子高生あり。

 彼女ヤモト・コキのこの深夜行の目的は、ネオサイタマのあちこちで勃発しているとおぼしきテロ騒ぎの正体を見極めることであった。彼女がかつて通ったハイスクール周辺にまでその災禍が及ぶようであれば、事態はより深刻だ。

 炎上する幾つかの建物へ実際近づき、焼け出された人間を行きがかりで助けもした。市民への無差別な攻撃?どうも違う。内向的な一生徒に過ぎなかったヤモトは、この世界の仕組みについてほとんど知りはしない。だがそんな彼女でも、犠牲となる建物や人々に、ある種共通するトーンを読み取り始めていた。

 破壊されているのはほとんどが会社事務所や店舗だ。それも、どことなく後ろ暗さを持ち、それを過剰な装飾やハイ・テンションで押し隠すような店構えばかり。ドンブリ・ポン・チェーンのCMの、「あの感じ」だ。

 ドオン!前方で爆発。近い!ヤモトは屋根から路地裏へ飛び降り、野次馬に紛れて、その建物へ目立たぬように近づいた。

「アイエエエエ!」背中に火をつけて中から転がり出て来たサラリマンは叫びながらアスファルトの上をのたうちまわる。巨大なマネキネコをモチーフにし、「顔が効いて間違いがない不動産」と看板を掲げた店舗が窓から黒煙を吹き上げている。

 近隣の人々はマネキネコ店舗を遠巻きにするが、近づいてサラリマンを助けるものはいない。「アイエエエ!」眼帯をして顔に「一流」と入れ墨を入れたそのサラリマンは、どう見ても何らかのヤクザクラン関係者だ。「抗争か?」「物騒だね……」「テレビもおかしかったし」編笠をかぶった市民が囁きあう。

「誰がどう見ても不動産」「間違いがない」と擬態的な文言をショドーしたノボリが二階の窓から突き出しているが、これにも火がつき、煙を噴き出しながら燃えている。それぞれのノボリに描かれたエンブレムがヤモトのニューロンをヒットした。交差するカタナの意匠。ヤモトには覚えがある。

(「ドーモ、ヤモト・コキ=サン。俺様はソウカイ・シックスゲイツのニンジャ。ソニックブームです。」)……あれからどれ位経ったのだろう?苦い、ただ苦いあの別れの日、出発の日の痛みが浮かび上がり、ヤモトの胸を刺す。

(「シンジケートは何でも知ってるぜ、運命に身を任せな!エエッ?悪いようにはしねぇよ……」)あの日、すべてをぶち壊し、ヤモト自身の手によって死んだ、あのニンジャ……ソニックブーム……あのニンジャのメンポにも、クロス・カタナの意匠が確かにあった。

 それを皮切りに、彼女の記憶フィードバックは暴れ出す!「ソウカイ・シックスゲイツ」!これまで彼女が倒してきたニンジャ達はどうだった?バイコーン、シルバーカラス、マンティコア……ソウカイヤを名乗るニンジャ達に、あのクロスカタナの意匠は無かったか?あった!確かにあった!

 今日見てきた被害建築物はどうだろうか?ヤモトはこめかみを押さえた。確かに……クロスカタナ……それとなく……まるで自然に……!「アイエエエエ!」死にかけの眼帯サラリマンが店内を指差して絶叫した。黒煙の中からニンジャが現れたのだ!

「ドーモ、カイシャクドーモ」あざ笑いながらサラリマンへ近づく青装束のニンジャ。「アイエエ!ニンジャアイエエエ!」群衆が蜘蛛の子を散らすように逃げ始める!ヤモトもそれに紛れ離れざるを得ない。走りながら振り返ると、その青ニンジャが眼帯サラリマンの首をキックでへし折った瞬間だった。

 ヤモトの心は乱れた。ニンジャだ。となれば、他の爆発もニンジャだ。組織立った破壊活動!一斉に、ソウカイヤにゆかりのある場所を攻撃しているニンジャ達がいるのだ。なぜ?ヤモトにはわかりようがない。電柱から看板へ飛び移り、屋根へ上がる。

 アサリ!ヤモトは親友の事を思う。様子を見に行くべきか?守るべきか?だがそれがかえってニンジャをアサリのもとへ近づけるかもしれない。むしろその恐れが大きい。大丈夫……襲われているのはソウカイヤ……アサリはきっと大丈夫だ。そう祈るしかない。

「フィーヒヒヒ!夜のランデブー!フィーヒヒヒ!」ヤモトの耳元で囁く声!なんと!屋根から屋根へ飛び移るヤモトに、ぴったりと併走してくる存在あり!「え……!」「女子高生フィーヒヒヒ!」下卑た息遣いと笑い声混じりの声がヤモトにまとわりつく!

「イ、イヤーッ!」併走者のドロリとした悪意に対し、ヤモトは反射的に腰のカタナでイアイ攻撃した。シルバーカラスから奪った小振りのカタナ「ウバステ」が今のヤモトの得物だ。「フィーヒヒヒ!」併走者はブレーサーでカタナを受け流す。しかも追跡をやめぬ!タツジン!「ネオサイタマの女子高生!」

「こいつ!」ヤモトは再度イアイ攻撃を繰り出して牽制し、隣の建物の瓦屋根へジャンプした。併走者は当然、ニンジャだ!「フィーヒヒヒ!」ニンジャはクネクネとオジギした。気味の悪いメンポの口部分先端には長い針が生え、背中にシリンダーの束を背負っている。「ドーモ!俺はモスキート!」

「……ドーモ、モスキート=サン。ヤモト・コキです」ヤモトは嫌悪もあらわにオジギした。「女子高生にアイサツされる!なんたる役得!」モスキートは歓喜した。「ソウカイヤには女子高生のニンジャもいるだなんてねぇ!もっと役得するぞ!」ピシと音が鳴り、モスキートの右手首頸部からも針が生えた。

「これで俺の汚染血液と君の女子高生血液を直結相互循環!フィーヒヒヒ直結!」「イヤーッ!」ヤモトは二枚のオリガミを投げた。オリガミは空中でツバメの形を取ると、桜色の軌跡で空を切り、モスキートへ真っ直ぐに襲いかかる!「フィヒッ!」モスキートは高く回転跳躍してオリガミ・スリケンを回避!

「イヤーッ!」さらにヤモトはオリガミを四枚投げる!空中でそれらは飛行機の形をとり、桜色の軌跡を引いてモスキートを追撃!「フィヒッフィヒッ」モスキートはオリガミに追い立てられ、ブザマな動きで屋根を飛び回る!

 モスキートによってかわされたオリガミはしかし空中で軌道を変え、なおも追尾する!「フィヒーッ!?」回避が間に合わず、二発のオリガミがモスキートに着弾、小さく爆発する!ゴウランガ!これぞニンジャソウル「シ・ニンジャ」がヤモトに与えたユニーク・ジツ、サクラ・エンハンス・ジツだ!

「グワーッ!」モスキートは小刻みに痙攣しながら身をよじり悶える!コワイ!「これではあまりに惨い!そのカタナで直接攻撃すればよいではないか……息のかかる距離で!」「お断りだ!」ヤモトは叫び返した。

 彼女のニンジャ第六感が告げている。背中のシリンダー、汚染血液がどうこうという彼の言葉。接近戦を挑めば、きっとよくない事が起こる……熟練のニンジャであれば、それを「なんらかのドク・ジツのマスタリーである事はまず間違いない」と読み取ったであろうサインの数々である。

「アタイはソウカイヤじゃ無い」ビルの隙間を挟んでヤモトとモスキートは睨み合った。「今夜のこの騒ぎ、あンた達は一体どこの誰?」「……」モスキートは不気味な熱狂を不意にクールダウンさせ、腕組みして直立した。「……ソウカイヤの女子高生で無いと?」

 ヤモトは身構える。その周囲をツルやイーグルのオリガミが浮遊し、合図があればすぐにでもモスキートへ飛びかかる体勢を作って行く。「……君がソウカイヤでないのなら、現時点の殺害対象では無い。でも殺してもいいんだ、殺すなという命令も無いからな。……だがこの状況、やや俺に分が悪いか?」

「やってみるか!?」ヤモトはモスキートを指差して挑んだ。その目が桜色に燃え、剣呑なオリガミは威嚇するようにその周囲を乱舞する。「こ、この嫌なアンビバレント状況!」モスキートはクネクネと身悶えする……と、ヤモトめがけて跳ねた!「やっぱり役得だ!イヤーッフィーヒヒヒ!」速い!

 ウカツ!いきなりワン・インチ距離に立たれた事で、ヤモトのオリガミは自爆危険を伴う!「イヤーッ!」モスキートが右手の針で攻撃!「イヤーッ!」ヤモトはカタナで斬りつけ、針を一撃で折る!「フィーヒヒヒ!やるな!イヤーッ!」モスキートはヤモトへ抱きつこうとする!顔の針で刺すつもりだ!

「イヤーッ!」ヤモトはバックフリップを繰り出してグラップリングを回避!ナムサン!背後に着地すべき建物が無い。下の道路へ落下する!「ンアーッ!」持ち前のニンジャ敏捷性に救われ、彼女は片膝をつきながら着地した。「フィーヒヒヒ!初々しさが残っている!」モスキートが屋根から見下ろす!

「こいつ……」ヤモトはモスキートを睨んだ。片側三車線の大通りを矢のように走ってきたトラックが危ういところでヤモトを避け、転倒しそうになりながら走り抜ける。「ザッケンナコラー!」投げかけられる罵声!「フィヒーッ!」モスキートがヤモトを追って下へと回転跳躍!

「来い!」ヤモトが呼びかけると、いまだ空中に留まっていたオリガミ達が、落下中のモスキートめがけてスコールめいて降り注ぐ!「フィヒッ!フィヒッ!フィヒーッ!」モスキートは素早いチョップを空中で嵐のごとく繰り出し、オリガミを弾き飛ばす。起爆前に弾かれたオリガミは空中でむなしく爆発!

「さあ、斬ってきなさい!」モスキートが右腕を振ると、再び針状武器が装填された。「そして私の汚染血液を……女子高生循環……フィーヒヒヒ!イヤーッ!」「イヤーッ!」ヤモトは再度バックフリップして距離を稼いだ。接近戦には付き合わぬ!そしてオリガミ・スリケンを四枚投擲!「イヤーッ!」

「フィーヒヒヒ!」やはり素早いチョップでオリガミを爆発寸前に弾き回避するモスキート!「フィーヒヒヒ!君のジツは実際コワイ!実際コワイが対処しきれぬものでは無いグワーッ!」

 モスキートの背中が爆発!ナムサン!這いつくばるモスキート!「フィヒーッ!?不条理!」背中のシリンダーが爆発で割れ砕け、汚染液が散乱する。「さっき降らせたオリガミが全部だと思ったか」ヤモトは言った。「一個残しておいたんだ!」「背中!俺の大事な汚染血液が!」モスキートはもがいた。

「アタイの勝ちだ!あンた達が何なのか教えるんだ。そうしたら今回は見逃してやる!」ヤモトの周囲にさらなるオリガミ・ミサイルが舞い、ひとりでに折りあがりながら旋回待機する。「じゃなきゃ、これ全部ぶつけてやる!」「フィーヒヒヒ!優しい女子高生!」モスキートは痙攣しながら起き上がった。

 モスキートは自らの汚染液を全身に浴びていたが、彼自身には耐性があると見えた。「俺は……フィヒヒヒ、俺たちは、言わば、ネオサイタマから失われるであろう闇の秩序を補う循環血液だ。なあに隠す事でも無い、教えてやろう。俺たちはザイバツ・シャドーギルド!」「ザイバツ?」「その通り!」

「何が目的なの?」「だからネオサイタマに循環……いや、ツボミめいた君にメタファーは難しかったか」モスキートは言う。「どちらにせよ君はソウカイヤの女子高生じゃないのだろう?ならばさほど気にする事も無い。同じように明日がやってくるだけだとも!変わるのは闇の世界さ!フィーヒヒヒ!」

 モスキートは痙攣しながら笑った。「汚染液が無くなって私は実際アウト・オブ・アモーだ。残念ながら今日はこれでオサラバするしかない!君がそのインペイルメント=サンを切り抜けられたなら、今度こそ君の女子高生血液を循環してもらおう!」モスキートはヤモトの背後を指差した。

 後ろ?ブラフか?「フーンク!」その一瞬の疑いが、あわや命取りになるところであった!モスキートが示す通り、新手のニンジャが長大なカタナを構え背後から突進してきたのだ!「フーンク!」ヤモトは不意をつかれた!アブナイ!

 その時!道路を高速走行してきたトラックが新手のニンジャとヤモトへ突っ込んできた!「ザッケンナコラー!」合成ヤクザスラング音声クラクションが鳴り響く。二者を避けようとするが間に合わない!「フーンク!」新手のニンジャは長大なカタナのターゲットを瞬時に切り替え、トラックを突き刺した!

 モスキートにインペイルメントと呼ばれたそのニンジャの長大なカタナはトラックをケバブめいて真正面から突き刺し、おお、ゴウランガ!異常なニンジャ腕力で持ち上げる!「アバババーッ!」カタナはトラックのフロントパネルを貫通し運転者を貫通、シートを貫通して荷台にまで達する勢いだ!

「フーンク!」インペイルメントは弧を描いてケバブ状態のカタナを打ち振り、その勢いでトラックを払いのけた!トラックは離れた道路上に叩きつけられ爆発炎上!ナムアミダブツ!

「……!」ヤモトはカタナを構える。前後をニンジャに挟まれた形である!「フィーヒヒヒ!思わぬ形でアンブッシュ失敗だなインペイルメント=サン!」モスキートが笑った。「その女子高生はソウカイヤではないようだ。殺害命令対象でないぞ。どうする!俺はもう戦えないからな!加勢できん!」

「フーンク」インペイルメントは小首を傾げた。顔全体を覆うメンポはサイボーグめいている。そして思い出したようにヤモトへオジギした。「フーンク」「……!」「喋れんのだ、そいつは。インペイルメント=サンだ」モスキートが説明した。「インペイルメント=サン、その女子高生はヤモト=サンだ」

「……ドーモ」ヤモトはオジギを返した。「あンたもザイバツ……」彼女を護るようにオリガミが浮遊し、楔形の隊列を組む。「フーンク!」インペイルメントはカタナを構えた。双方、相手が攻撃に出ようものなら全力でかかる腹づもりだ。炎上するトラックの照り返しを受けながら、二人は睨み合う!


4

 ナンシーは不意にめまいを覚えた。天守閣の淵から後ずさりする金髪の女、動き易いよう脚元を短く裂いた黒オイラン衣装を着た……自分だ。その隣にはニンジャスレイヤー。ズバリで気力を保っているとはいえ、明らかに立っているのがやっとだ。それを上から見下ろす視界。(これは?)ナンシーは訝った。

 ナンシーの意識は重力から、肉の重みから宙へ放たれ、激しい戦いで損傷した黄金瓦の天守閣を見下ろす。この幽体離脱めいた特殊な状態には経験がある。この特殊な状態……。

 俯瞰の視点はさらに広がり、天守閣の下方、空中庭園を捉える。この体験の意味を考察する時間などないことがすぐに判明する。天守閣に機動隊が侵入し、陣を展開している。見ているうちに次々に点灯するマッポの漢字サーチライト!

 ナンシーのニューロン信号が加速する。マッポの動きが予想外に早い。ここまで上がってくるのは時間の問題!マッポのニンジャ殺害命令をナンシーは傍受している。身柄を確保されれば、少なくともニンジャスレイヤーの命は……!どうする?突破?隠れる?立てこもるか?飛び降りる?ラオモトのように?

 そして……おお、なんたる絶望的状況!「御用」とペイントされたマッポ仕様マグロツェッペリンが今まさに天守閣へ接近、上から制圧せんとす!ナムアミダブツ!背後に照りつける黄金の輝きに振り返ると、ナンシーの視界は現実のそれに戻っていた。

「……マッポが庭園を制圧した」ナンシーは苦々しく言った。「そうか」曇天をスクリーンめいて「御用」のサーチライトが映し出される。「あれを」ナンシーは上空を指差す。マグロツェッペリンを。「そうか」「正直、アイデアがうかばないわ」「私がどうにかする」ニンジャスレイヤーは淡々と言った。

「どうにか……」ナンシーはニンジャスレイヤーを見た。彼はナンシーを見返すが、その後ろを見ているようでもある。「アー、そこのニンジャとオイラン!そのままそこで、腕を後ろに組んで待機するように!」マグロツェッペリンが重々しい巨体で空を覆いつつ迫る!ナムサン!万事休すか!

 ニンジャスレイヤーはジュー・ジツを構え、待ち構えた。ナンシーはこの状況下でできる事は無いか考えようとした。……ォォォォォ……「何?」ナンシーは耳をそば立てる。マグロツェッペリン飛行音ではない。ォォォォォ……ォォォォォ……ォォォォォ……下からだ。

「おい!抵抗は射殺可能性!従いなさい!」マグロツェッペリン乗降口が開き、武装マッポが天守閣を見下ろす。「今夜はニンジャを見つけ次第殺していいそうよ」ナンシーは厳かに言った。ニンジャスレイヤーは頷く。「大丈夫だ…もう少し降りて来れば……ロープのカギで……」熱病のうわごとめいて呟く。

 オオオオオオオ……オオオオオオオ……オオオオオオオ!下からの音は爆音となり、ますます接近しつつある。ナンシーはニンジャスレイヤーと顔を見合わせた。ゴオオオオオオオ!その時だ!海中から跳ね上がるエイめいて、その影が、圧倒的速度で垂直に飛行しながら現れたのは!

 ゴウランガ!二人が見たのはクロームシルバーの車体の腹……そう、車体である!それは車でありながらセスナめいた翼を張り出し、二門のロケットエンジンから炎を噴き出しながら、このトコロザワピラー外壁に沿うように、垂直に上昇してきたのだ!おお!なんたる馬鹿げた光景!ブッダも照覧あれ!

 シルバークローム車両はさらに数十フィート上空まで上昇したのち、器用にロケット角度を変更しながらフォイル型パラシュートを展開!困惑気味に照らされるマグロツェッペリンの漢字サーチライトをまるでショーアップのライトのように悠々と受けながら降下する!

 セスナめいた翼を格納しながら降下する車両のフォイル型パラシュートには、ミンチョ体のフォントでこう書かれていた……「家族が大事」。

 エレガントに降下した車両は厳かなシュラインを背負い、ベースとなった車両は伝説のクラシック・スポーツカー「ネズミハヤイDIII」、そのドアの防弾ガラスが開き、中の逆モヒカンの男が顔を出す。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ご入用は、座席かい……カンオケの方かい……」

 二人は黄金瓦屋根の上で震えながらアイドリングする武装霊柩車ネズミハヤイへ小走りに近づいてゆく。「お知り合いかしら」ナンシーはニンジャスレイヤーに問う。「そんなところだ」「女連れとは」逆モヒカンの男は手のひらを上に向けて見せた。「ドーモ。デッドムーンと呼んでくれ」「ナンシーよ」

「そこの……エート、そこの……車?車!」拡声器の声が咎める。「そこで待機していなさい!」マグロツェッペリンからロープがスルスルと伸び、それを伝って完全武装のケンドー機動隊が降下する。「話は後だ」デッドムーンは静かに言った。「支払いも後でいい、ちょっと忙しいぜ」

 助手席ドアが開く。「見ての通り二人乗りだ。シート一つだが頑張りなよ」ナンシーとニンジャスレイヤーは顔を見合わせる。「やはり冗談は向いてない」デッドムーンは言い、「お座敷」と書かれたボタンに触れる。「オバンドス」と合成マイコ音声。座席の後ろの仕切りが開き、後部の座敷とつながった。

「私が助手席に座るわ。あなたは奥で休んで」ナンシーがニンジャスレイヤーに言った。「実際限界でしょ」「いや、……そうだな、すまぬ」断りかけたが、頷いた。デッドムーンは二人が乗り込むのを待ち、オートでドアを閉じる。ダッシュボードの液晶モニタが光り「迎春」の漢字が浮かび上がった。

 ギャルギャルギャル!ネズミハヤイの後輪タイヤが高速回転し、黄金瓦を弾き飛ばす。そして飛び出した!躊躇なく天守閣から真っ逆さまだ!「シートベルトしたほうがいいぜ……」「そりゃ、しているわ」「そりゃチョージョー……後ろのあんたはニンジャだから、まあ何とか踏ん張ってくれ」「了解した」

 ネズミハヤイは自由落下めいた浮遊感覚を乗り手に与えつつ、真っ直ぐに大地めがけ下降する。ギュウイーン……ブッダギャラクシー……ロストインスペース……。ダークエレクトロポップがウーハーの効いたスピーカーから流れ出す。

 ナムサン!あっという間に目の前が地面!しかしデッドムーンはアクビでもこらえるかのように平然と「緩衝」と書かれたボタンを押す。すると再度パラシュートが展開、車体下部のロケット噴射でネズミハヤイは水平に着地する。着地ショックは偏執的調整を施されたスタビライザーによりほとんどゼロ!

「で、勿論おいでなする……」デッドムーンは呟く。すぐさま、トコロザワピラーを包囲するマッポが見咎め、数台のビークルが走って来る。「……が、こうだ」デッドムーンはアクビでもこらえるかのように「散布」のボタンを押す。車体下部からノズルが迫り出し、白煙を周囲に撒き散らす!

「アイエエエ!」一番乗りでネズミハヤイに体当たりを試みたビークルは煙にまかれてスピンし立ち木に激突!デッドムーンは淡々とアクセルを踏み込む。走り出すネズミハヤイ。ギュウイーン……ブッダギャラクシー……シヴィライゼーション……。

 武装霊柩車はトコロザワピラー敷地を劇的ハンドル操作によって抜け出し、広路へドリフトしながら進入した。それを追うマッポビークル。「御用!御用!」と合成音声をけたたましく鳴らしながら続々と車列を為す!

「まずは感謝させてもらう、デッドムーン=サン」ニンジャスレイヤーが座敷から身を乗り出した。「だがオヌシはなぜあの場所へ」「決まってるさ……」デッドムーンは口角を少し上げた。「あいつには俺も色々と世話になった。ブザマに死んだと聞いて、どこの誰が殺ったのか見てやろうと思ってな」

 彼がダッシュボードの「粗茶」ボタンを押すと助手席と座敷の専用口が開き、それぞれマッチャとオカキが振舞われた。「ゴユックリ」とマイコ音声がもてなす。「ま、そいつが死んでいたら、せいぜい骨でも拾ってやろうとね」

「御用!御用!」マッポ装甲ビークルが脇道から飛び出し、ネズミハヤイの真横につける。応援要請を受けたのだろう。「ああ、忘れてたな」デッドムーンはツマミをいじり、マッポ通信網のハッキングチャネルを開く。そして「ベンハ」ボタンを押した。即座にタイヤホイールに鋭利なスパイクが展開!

「さすがに揺れるからな」デッドムーンは呟く。そして装甲ビークルへタイヤを寄せる。ガリガリガリガリ!工業ダイヤモンド刃が装甲ビークルの側面下部をズタズタに傷つける!「アイエエエ!」装甲ビークルはグリップを失い、スピンしながら道路脇のコケシ看板にぶつかり白煙を吹き上げる!

「ワーオ」ナンシーは肩を竦めて無感情に呟き、マッチャを飲みながら、炎上する装甲ビークルを見送った。ビークルを避けそこなった追跡マッポビークルが一台、そこへ追突して炎上する。「なんでもアリね」「なんでもアリだぜ、オイラン=サン……」

「マッポの無線は」ニンジャスレイヤーが思い出したように訊いた。「何か言っていないか。ネオサイタマは今どうなっている。何が起きているかわかるか」ナンシーもデッドムーンを見た。デッドムーンは顎で遠方に見えるスゴイタカイビルを示す。トーチめいて燃えている「ああいうやつかい」「そうだ」

「さてね……まだ何も」デッドムーンは違法カキノタネを口に放り込み、噛み砕く。「普通に考えれば、ラオモト=サンに対する暴動ってとこか……考え易いのはそれだが、テレビ放送じゃそこまで行かないだろ。ありゃ笑えたがね……」

 ナンシーは苦笑した。デッドムーンはそれへ意味ありげな一瞥を送る。ニンジャスレイヤーは低く言った。「ラオモト=サンの死がきっかけではないかと考える」「インガオホーと……フフフ」デッドムーンは暗く笑う。「ま、あんたはリアルタイムで見たわけだしな、その流れを……特等席で……」

 ネズミハヤイは滑るように広道を突き進む。前方が夜明けめいて明るい。だが当然それは朝日ではない。炎だ。やがてその正体が、横転して道を塞ぎ炎上するトレーラーとわかる。「……ブッダファック」デッドムーンはダッシュボードの表示を見て毒づく。ロケットエンジン燃料は既にゼロ付近だ。

「ちょいと道を変えるぜ」デッドムーンはネズミハヤイをドリフトさせUターンを試みる。弾丸めいた速度で走行していたネズミハヤイにみるみる前方の横転トレーラーが近づくが、衝突寸前で見事に回避!そしてネズミハヤイは再加速……「ンアーッ!」


◆◆◆


 吹き飛んだヤモトは急ブレーキをかけた車に叩きつけられた。フロントガラスそしてボンネットにしたたか体を打ちつけ、ボン!と音が鳴るが、クロームシルバーの車体には傷ひとつつかない。ヤモトのニンジャ受け身もある程度ダメージを分散させる事に成功していた。彼女は素早く車両を飛び離れた。

「フーンク!」長大なカタナを打ち振り、ツカツカとインペイルメントが接近する。「この……」ヤモトは再び周囲にオリガミ・スリケンを浮遊させる。左の脇腹に受けた傷が痛む。ほんのかすり傷だが、すんでのところで致命傷となるところだった。オリガミのストックも殆ど残っていないのではなかろうか。

「ウウーン?」トレーラー荷台の上でヤモトとインペイルメントの戦闘を伺っていたモスキートが、突入してきた車両に興味を示した。「随分とまあヤバイ車だこと!武装霊柩車!」

「フーンク!」インペイルメントがカタナで攻撃!なんというリーチか!ヤモトは地面すれすれまでしゃがみ込んで斬撃を回避!「行け!」お返しとばかりに六発のオリガミ・スリケンを発射する。桜色の光がインペイルメントへ殺到!

「フーンク!」インペイルメントは恐るべき跳躍力でオリガミをジャンプ回避!急角度回避によりオリガミは追尾しきれず散開!インペイルメントはそのまま空中でカタナを構え縦回転!殺人風車めいた攻撃がヤモトを襲う!「フーンクッ!」「イヤーッ!」ヤモトは危うく側転してそれを回避!

「インペイルメント=サン!もう一度言うが、その娘はソウカイヤではないから、本来殺害対象ではないんだぞ?」モスキートがインペイルメントに言った。「フーンク!」「……だが君がヤモト=サンを殺るなら、せっかくだからその後で俺は女子高生血液を吸うだけ吸う!」なんたる下劣破廉恥な声援!


◆◆◆


「ダメよ」ナンシーは座敷を振り返り先手を打った。「今のあなたじゃ、犬死にがせいぜいよ。関わる義理も無い!」「デッドムーン=サン、後ろのハッチを開けてくれ」「ニンジャスレイヤー=サン!」ナンシーは咎めた。ニンジャスレイヤーは静かに言った。「義理など無いが事態を確かめる機会ではある」

「こんな所でくたばる為にあなたの今までがあったわけじゃ無いでしょう」ナンシーは言った。ニンジャスレイヤーは冷静に、「大丈夫だ。すぐに済ませる」「そりゃ構わんが、俺はそう待たんぜ」デッドムーンが口を挟んだ。「俺の気は済んだ。支払いの話はオイラン=サンとすりゃいいしな」「構わん」


◆◆◆


「フーンク!」インペイルメントは長大なカタナを構え、ヤモトをケバブめいて串刺しにすべく突進攻撃をかける!ウォンウォンウォン、その進行方向の武装霊柩車は攻撃の巻き添えを避けてバックした。ヤモトは刺突をかわしつつ身を翻して接近する。カタナ「ウバステ」による横斬撃!「イヤーッ!」

 インペイルメントのカタナはその長さゆえ、懐に潜られれば戦力が減退する。オリガミ・スリケンによる攻撃をやめ、あえてカタナで勝負をかけた判断は正しい!「フーンク!」インペイルメントはカタナでの防御ができず、カタナ持たぬ手のブレーサーで受けざるを得ない!

「フーンク!」インペイルメントの左腕のブレーサーは桜色の軌跡を描くウバステの刃を受けて割れ砕けた!刃は骨の側まで達する!「フンーッ!」「イヤーッ!」ヤモトは刃を引き抜き、今度は首を刎ねに行く!

「フーンク!」だがインペイルメントもさる者!咄嗟に繰り出す長身のトーキックがヤモトを蹴り上げる!「ンアーッ!」体をくの字に折り吹き飛ぶヤモト!インペイルメントは両手でカタナを握り直す!そして空中のヤモトへ、振りかぶったカタナを打ち下ろす!回避不能!「フーンク!」サツバツ!

「イヤーッ!」「フーンク!?」インペイルメントのカタナが中途で何かに引っかかり、止まった。「フーン!」インペイルメントは力を込めるが、動かない!「ブッダ!何だありゃあ!」モスキートが飛び上がって叫んだ。「あいつ何だ?」

 モスキートはカタナを止めた赤黒の新手ニンジャを凝視する!なんたるワザマエ!両手の平でインペイルメントのザオ・ケンを挟み込み、押さえつけて持ちこたえているではないか!「フーンク!」「イヤーッ!」インペイルメントはさらに力を込める。しかし動かない!

「ドーモ……皆さん……」そのニンジャの赤黒い装束はよくよく見ればボロボロだ。かなりの手負いなのだ!「……ニンジャスレイヤーです……!」「ニンジャスレイヤー!?ニンジャスレイヤーと言ったか!?」モスキートが叫ぶ。インペイルメントはさらに力を込める!「フーンク!」「イヤーッ!」

 ニンジャスレイヤーは勢い良く両手を左へ振り抜いた!折れた!ザオ・ケンが折り取られたのだ!「フーンクッ!?」「バカなーッ!」モスキートは驚愕した。「インペイルメント=サン!ニンジャスレイヤーだ!霊柩車からか?クソッ、奴は手負い……しかし俺達もこれでアウトオブアモー極まったが……!」

「オヌシらは何者だ!」ニンジャスレイヤーは叫んだ。「アイサツせよ!」「フーンク!フーンク!」インペイルメントは飛び退り、地団駄を踏んだ。得物を破壊され激昂しているのだ。「クソッ、そいつはインペイルメント=サンだ。そして俺はモスキート!」モスキートはトレーラー上でオジギした。

「ソウカイヤが殺害対象と言っていたな?」ニンジャスレイヤーは己のニンジャ聴覚の鋭敏さを明らかにした。「この騒ぎはオヌシらの仕業か……!」その足元にじわじわと血の染みがひろがる。傷が開いているのだ。「……オヌシらは何者か!答えい!」「……ザイバツ。ザイバツ・シャドーギルド」

 モスキートは低く言った。「ニンジャスレイヤー=サン、お会いできて光栄至極!このままカラテでやりあえばお互い無事で済むまい。そして君の殺害命令は出ていない」「……」「う……」呻き声が聞こえた。ニンジャスレイヤーが背後に注意を払う。強烈な蹴りを受けたヤモトが立ち上がろうとしている。

「ザイバツ・シャドーギルド」「そうだニンジャスレイヤー=サン。それが我々だ!……いやしかし、どのみち君にとってはさほど関係の無い話か」モスキートは肩をすくめ、「君がラオモト・カンを殺した。君はつまりそれで復讐とやらを終えたのだろう?せいぜい休むといい。君には関係の無い世界の話だ」

 ギャギャギャギャギャギャ!ネズミハヤイがドリフトしながらニンジャスレイヤーのすぐそばをかすめる。ニンジャスレイヤーは咄嗟にヤモトの襟元を掴むと、ニンジャ腕力でネズミハヤイの後部ハッチめがけて投げた。「イヤーッ!」「ンアーッ!?」ヤモトはネズミハヤイの座敷へ転がり込む!

「何を!」モスキートが身を乗り出した。「その女子高生は置いて行きたまえ!」「フーンク!フーンク!」まだ勝負は終っていない、とばかりにインペイルメントがカラテでニンジャスレイヤーを威嚇する。「いや、インペイルメント=サン!奴の負傷の程度もわからぬ!」モスキートが制した。

「ヘタをすればザオ・ケンの無い君が一方的に敗れる可能性すらある!だから、アーッ!」モスキートは頭をかきむしる!「でも女子高生が!でも殺害命令が無い、ケジメはカンベンだ!でもこれはチャンス?いや我々もアウトオブアモー!だから結局チャンスではない?ワカラナイ!アーッ!」

 ギャギャギャギャ!ギャギャギャギャギャ!ネズミハヤイが急かすようにタイヤを唸らせ、ブレーキ痕をアスファルトへ円形に刻み付ける。そして炎上トレーラーへ背を向け、一気に走りだした。

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは短距離走者めいた全力のダッシュでそれへ追いすがり跳躍!ネズミハヤイにかぶさるシュラインに着地、振り落とされぬよう瓦を掴んでしゃがみ込む!ネズミハヤイはザイバツのニンジャ二人を尻目に急加速!

「オ……オ……オタッシャデー!!」狂気じみたモスキートの絶叫を後ろへ置き去りに、ネズミハヤイはトリイが連なるジャンクション入り口へ突入する。ニンジャスレイヤーは走行するネズミハヤイの上を這い、開いたままのハッチから車内へ滑り込んだ。「ヌウウッ!」

「ムチャクチャよ、あなた!」ナンシーは吐き捨てるように言った。「本当に死ぬわよ?」「……だが死ななかった」ぜいぜいと息を吐きながらニンジャスレイヤーは答える。「おおむね上手くいった」「何が……で、その子は?貴方の娘か何かかしら?」ナンシーがヤモトを親指で指差す。

 座敷隅のヤモトはカタナから手を離さず、無言で、ナンシー、ニンジャスレイヤー、そしてデッドムーンに警戒の視線を送っていた。ニンジャスレイヤーはヤモトを見た。「……成り行きだ。会った事がある……この娘には。そうだな」ヤモトはおずおずと頷いた。

「積載オーバーもいいとこだぜ、お客さん……料金も割増しだな」デッドムーンが呟く。ボタンを押すと、マッチャとオカキがもう一皿現れた。「この後どうする……ま、順当に考えりゃ、闇医者だ。それともニンジャってのは一晩寝りゃあ自然に怪我が治るかい……」

「闇医者でいいわ」ナンシーが答えた。ニンジャスレイヤーはほとんど前後不覚の状態であったからだ。「そこの嬢ちゃんはどうするね……」デッドムーンは運転しながらヤモトを顎で示す。ナンシーは無言で肩をすくめて見せた。「ま、降りたい場所があったら言いな。料金はこの大人達が払うとさ」

 言って、デッドムーンは「盤」と書かれたボタンを押した。ギュウイーン……再び車内にダークエレクトロポップが流れだす。ディキディキ、ディキディキブーン……ビュイーン……ブッダギャラクティカ……ユーアーイーヴィル……ユーアーラヴ……アイヘイトラヴ……。


【ウェルカム・トゥ・ネオサイタマ】終


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