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S3第8話【カレイドスコープ・オブ・ケオス】分割版 #4

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「エット……要するに私は、お金を稼ぐにしても、ロマンが欲しいタイプなのね」「フム」「少し危険でも、頑張り次第で、メチャクチャ稼げるなら、やってみたいかなッて思ったわけなのさ」「フーム」モモジ・ニンジャはアルカイックな表情で目の前のグラニテを見ている。グラニテは緊張する。

「だからね、私は、はるばるネザーキョウまで……」グワラグワラ……。大地が鳴動し、二人が背にする崖からパラパラと小石が落ちてきた。二人は地面の亀裂に塹壕めいて身を潜め、小休止しているのだった。亀裂はモモジ・ニンジャがチョップで大地を割ったものだ。そのカラテを目の当たりに、もはやグラニテは逃走を諦めていた。

「溢れる若さ……それゆえに切っ先の危ういブレを感じさせるの」モモジはコメントした。「しかもオヌシの求めるものは……レリックと言うたが……」「そう、大昔の」「どうせワシが生きておった神代の時代よりは新しいヒヨッコ時代よ」「張り合ってるの?」「つまらぬものに、あたら若い命を散らす」

「つまらなくないよ! 電子戦争以前のテック遺跡が、このあたりの地中にある。それを探し出せば大金持ち!」「カネ。それがくだらん。コモディティに命を張るとは愚か。よいか、娘。大いなるニンジャクエストというものは……」モモジは遠い目をした。その目が熱を帯びた。「宿敵……瞼に浮かぶ程の」

「宿敵?」「然りよ。髪は天の川じみて流れ、怜悧なる瞳、無駄なき筋肉を包みし天鵞絨の皮膚。ワシは雷に打たれたように思った。否、打たれた。ワシは嫉妬に狂った。ワシはあれになりたい。なれぬのならば、せめてワシの手で……おお、ヒャッポ!」「ヒャッポか。ネザーキョウにいるの?」

「必ず、おる」モモジはグラニテに顔を近づけた。「感じる。しかしその名はイクサ場になし。だが、必ず見つけ出す。アレほどのカラテと美の体現者がワシから隠れおおせると思うなよ。見つけ出し……我が手で……グヌ……」「名前がない? 偽名とか?」グラニテが指摘した。「オジサンが嫌だとか」

「言うに事欠いてワシに左様な口をきくとはアッパレ」モモジはグラニテの手首を掴み、怒りを通り越した凄絶な笑顔になった。「だが……偽名……偽名! 繋がるぞ! 然りよな! 許せん……ヒャッポめ……ならば……可能性は……奴だ!」「心当たりあるの?」「シテンノ、インヴェイン! 仮面の美剣士也!」

「よかったね……」グラニテはモモジに掴まれた手首を擦った。ミミズ腫れになっている。「今の発想は、私のおかげだよね?」「そう言えなくもなし」「じゃあお礼に、手伝ってよ。一期一会っていうじゃないか」「手伝う? 愚か……ワシの求めるものは明白」「そっちも手伝うよ、私が」

「何じゃと」「オジサン、話を聞いてると、大昔の人なんでしょ。カナダの地理とかわかるの? このへんは戦場だよ、危ないよ」「ニンジャ第六感あらば問題なし。戦場? ワシは強大なるニンジャ也」「私の探してる地下レリックをチャチャッと探したら、その後、一緒に探してあげるから」

「……フム……」沈思黙考するモモジ・ニンジャの前で、グラニテは首筋に流れる汗を拭った。非常に危ない橋を渡っている。会話の運びを間違えれば、この化け物は簡単に自分を縊り殺すだろう。交渉は気軽だが命がけだった。しかし同時に、彼女は言いしれぬ高揚をも感じていた。冒険、スリル……この化け物もその一つ。

「ヒャッポ……」モモジ・ニンジャは目を上げた。長い1秒の後、化け物は頷いた。「よかろう。娘御。オヌシを用いれば時間の節約にはなろうな」「そ……そう、間違いないよ! 交渉成立!」グラニテはモモジの手を握った。「良かった! 実際、私もこの後どうすればいいか困ってて……」

 KRAAACK! 

 轟音と震動! グラニテは息を呑み、身を固くした。二人は亀裂の上を見上げた。巨大な影が横切り、それから溢れる鬨の声が続いた。震動……震動……震動……! それは……ナムサン……ネザーキョウの恐るべきシテンノ、クワドリガ率いる遊撃部隊の再進軍だったのである。


◆◆◆


「天上天下!」アケチ・シテンノが一人、クワドリガは、亀裂を飛び越えた四頭だてチャリオットの上から地平の影を指差し、叫び声をあげた。彼は筋肉の塊であり、鋼鉄のハーネスと腰布だけを身に着けた身体は汗を帯び、青銅めいて輝く。格子状のメンポの奥からは恐るべき白い光が漏れ出ていた。

「ヤアッ!」「ヤアーッ!」「ヤアアーッ!」彼に続き次々に亀裂を飛び越えてくるのは、精強なるゲニン騎兵達! 南方戦線はキキョウ・ポータルからある程度離れているとはいえ、彼らゲニンの目はコクダカのブースト力をなお受けて輝いていた。「惰弱なる文明軍何するものぞ! 全て首を刎ねるのだ!」

 クワドリガは胸の前でヤリ持つ左手とツルギ持つ右手を交差させ、全身にカラテを込めた。キリングオーラがオニめいた形をとり、その背の上に浮かび上がると、後続の騎兵からは感嘆の叫びが、目指すUCA陣営の歩兵たちからは恐怖の叫びがあがった。馬が急加速!「ブルルルッ!」「ブルルーッ!」

 DOOOM! DOOOM! DOOOM! 燃える弾丸がクワドリガのチャリオットをかすめた。エメツ電磁砲を撃ち込んでくるのはUCAヌーテックのダイモーン級二脚戦車である。「惰弱! 鉄屑也!」交差させた腕を開くと、カラテが空気を破裂させ、バリバリと音が鳴った。後続の騎兵が叫んだ。「そうだ惰弱!」「鉄屑だ!」

「イヤーッ!」クワドリガはまずヤリを投げた。KRAAASH! ダイモーンの胴体をヤリが貫通、火花を噴きながら転倒爆発! さらに駆け抜け、もう一機の逆関節脚をカタナで横に切り裂く!「イヤーッ!」KRAAAAASH!「ピガガガーッ!」倒れゆくダイモーン級二脚戦車達!「駆け抜けよ! 道は我の作るもの!」

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