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　ゴーン、ゴン、ガゴーン、ゴン……ゴン……ゴン。ネザーキョウの東域の境に存在するくろがねの街ナガシノを満たすのは、休まず稼働し続けるシリンダーや歯車の轟音であり、激しい金属音に埋もれながら、市街で職人が奮うハンマーの槌音が聴こえてくる。男たちはみな屈強で半裸、筋骨隆々であった。

　打ちひしがれた物乞いがブリキ缶を置いて座り込み、通行人を見上げる。商店には物資が乏しく、皆、煤で薄汚れており、表情は暗かった。時折カゴや馬で通り過ぎるゲニントルーパー達はふんぞり返って上機嫌だ。「ネザーキョウはどこも同じだ。新しい街に入るたび、うんざりするぜ」アナイアレイターが言った。

「においは違う」と、アズール。「それから、ハンマーの音」「商売のタネは違うわな」アナイアレイターは頷いた。２人はフードを目深に被り、人目につかぬよう、道の端を進んでいた。ゲニン達の目は光っており、カラテが充実していた。異常な空と「天下布武」の宣言が関係している事は明白だった。

「それらしい奴らはいるか？　お前が探しているような……LAN端子持ちはよ」「ここにはいない」彼らは表通りを進む。通りの先には黒くわだかまる影がある。ケオサキや99マイルズベイの廃墟で見るような重苦しい建造物。「順当に考えりゃ、あれが例のインターネット最終処分場って奴だろうな」

　チューニンに率いられたゲニンの一団が、銅鑼を鳴らしながら通り過ぎる。２人は遭遇を嫌い、路地に入り込んだ。ムッとする熱気が彼らを迎える。ただごとでない熱源の正体はすぐにわかった。このナガシノに張り巡らされた水道……否、溶鉄の管だ。バンブーを割ったような管である。

　それらは黒煙を煙突から吐き出すバラック建築物に枝分かれしてゆく。建築物の中からはハンマーの音が聴こえてくる。「号外！　号外！　惰弱４都市がカラテの炎に沈んだぞ！　ネザーキョウはますます豊かに！」道端ではカワラバンを配る者。「アンタ、どうドス」道オイラン。アナイアレイターの金色の目に怯む。

　熱気は気温だけではない。アナイアレイターはカワラバンを斜め読みした。タイクーンがNYを始めとする４都市に矢を撃ち込んで以来、開いたポータルをくぐって自ら出陣しては、文明諸国の兵器を直接仕留め、ゲニンが送り込まれるという。街は巨大建築物を中心に上り坂を形成しており、溶鉄管の源はそこだ。二人は坂を上がっていく。

　カーン！　カーン！　カーン！　カーン！　路地に接したバラックの中が垣間見える。鍛冶師がハンマーを振るい、流れ込んできた溶鉄を鍛え、カタナに変えて積み上げていた。別の建物では、鍛冶師は鋳型に流し込まれた星型の鉄……スリケンを、ランナーから切り離す作業に没頭していた。

「大増産」「ノルマ達成」「すごい力に生まれ変わる」などの勇ましい文言がショドーされ、壁に張られている。ベントー売りが軒先から声をかける。「オジサン！そろそろ昼飯にしないか。ベントー買わないかね」「やれやれ、そりゃイイな。もらおうか」「マイドアリ！　儲かってるみたいだな」「そりゃあもう」

　鍛冶屋は笑顔になり、ネザーマイのオニギリを齧った。「戦線がどんどん広がって、作れば作っただけカネになる。タイクーンさまさまよ。濡れ手に粟だ」「そいつは良かったな」「精強な皆さんだからな。南方戦線も順調らしいや」「インヴェイン＝サンが楽勝でトオヤマから敵を追い出したってな」

「ヘヘエ！　南方戦線にゃ、武器の大量の買いつけがあるぜ。誇らしいやな……」「クワドリガ＝サンの筋肉、俺は直接見たことがあるんだ。カラテの化身、カラテの山脈だぜ」「そいつは結構だねェ！　インヴェイン＝サンの噂はどうだろうね？」「あれか。仮面の下……」「水もしたたる美剣士らしいや」

「たまらねえなあ」「とにかく、華々しくイクサしてくれりゃ鼻が高えし、ワシらのハンマーにもキアイが入らあな……ン？」鍛冶屋はアナイアレイター達に目を留めた。「なにか御用で？　どちらさんで？」眩しそうに見る。「トルーパーの皆さんと違うナリだが……」

「傭兵だ。仕事を探して、最近な」「ホホオ？」アナイアレイターは表情を変えずに嘘をついた。「ナガシノっていやあ、強い武具。そういう話を聞いてきたんだよ」「そりゃ、当たり前だ！　見ていきな？」鍛冶屋は店の壁に飾られた陳列刀を示した。「自由に見てくれや」「ああ」壁からひとつ取り、刃を確かめる。「どうだね」

　鍛冶屋は誇らしげだった。「凄い刃だろ、持っただけでわかるだろ。なにしろ、ナガシノの鉄は他と違うんだ」「というと？」「街中を巡る導管が見えたろ。アレはよ、ありがてえインターネット最終処分場から流れてる。インターネットを潰してジャンクを溶かし、最高の鉄が出来るッて寸法よ」「インターネットを？」