【アイアン・アトラス・バトルロイヤル!】分割版 #1
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多重隔壁がスチームと共に解き放たれ、ごく狭い独房の中に光が差し込んだ。タタミが敷き詰められた空間を前に、看守達は互いに緊張した視線をかわした。
様々な理由から、国家崩壊後も刑務所という施設は残り、暗黒メガコーポ群の出資によって運営され続けている。中でも、このオニガモン刑務所は特に凶悪な犯罪者達が収容される場所として知られていた。
「囚人番号111番!」
看守長が進み出た。その後ろには四人の看守が続く。
「刑期満了である!」
「ムグ……モム……ちょっと待てや」
囚人は口いっぱいに頬張った食事をゆっくりと咀嚼していた。彼はタタミの上で尊大にアグラし、銀皿に乗った分厚いステーキをナイフとフォークで切り分け、食べているのだ。武装看守達の視線を受けても、彼は食事の速度を上げるそぶりもない。しかもステーキだけではない。皿の横にはスシ桶が積まれている。
「見ての通り、俺は……モムモム……ランチを楽しんでいるところだぜ」
看守たちが靴音を立てて整列し、一斉に直立不動姿勢をとった。そのさまを見て、囚人の厚い胸板をまさぐっていたオイランが、バカにするようにクスクス笑った。然り、オイランである。独房においてこの囚人は、堂々とオイラン・セッタイを受けている……しかも三人だ!
「ドスエアリンス」
左のオイランがシャンパンで満たされたグラスを差し出した。囚人は肉を切りながら、顔だけ動かしてシャンパンを飲み干し、肉を流し込んだ。
「ドーゾドスエ」
右のオイランがスシを差し出した。囚人はスシを貪った。厚い胸板にこぼれた米粒とシャンパンを、中央のオイランがぴちゃぴちゃと音たてて舌を這わせ、丁寧に舐めて綺麗にする。やがてそれは口づけと愛撫にかわった。
看守はその貪婪たる様相を、石めいた無表情で眺めている。手出しができないのである。看守の誰かが唾を飲み込む音が思いのほか大きく聞こえた。囚人はせせら笑い、ようやく彼らに応じた。
「ンで……何だって? 何か言ってたな?」
「刑期満了だ、アスタロス=サン」
「ほォーう……!」アスタロスは暴力の気配に光る眼を見開いた。「出ていけッてか! 俺様に! ここから!」
「……」
看守長は他の看守を一瞥する。看守は目を逸らした。アスタロスは股間をまさぐろうとした中央オイランの頬を張り倒し、立ち上がった。天井をつくほどの巨躯であった。光に照らされる彼の顔の左半分には奇怪な魔法陣めいたタトゥーが禍々しく、その異様な紋様は左半身全体に彫られた般若心経に繋がっていた。
「……いいぜ。出てッてやるよ。ここのメシにも、オイランにも、飽きてきた頃だ……」
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