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S4第3話【マスター・オブ・パペッツ】#10

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「イヤーッ!」レッドハッグは黒いカタナとともにレイテツに躍りかかった。レイテツは片手をかざし、レッドハッグと自身の間に分厚い氷の壁を作り出す。K.E.S(コリ・エンハンス・システム)が組み込まれたニンジャ専用カタナの助けを得た強大なコリ・ジツである。突っ込めば氷壁衝突死もありうる!

 だが!「イヤーッ!」氷の壁はX字に黒く切り裂かれ、四つに分かれて散った。砕けた氷の破片の中からレッドハッグの黒くしなやかな身体が飛び出す。「イヤーッ!」空中で回転しながらの二連続斬撃。レイテツはカタナで受けようとしたが、ニンジャ第六感の警告によって寸前で取りやめ、側転回避した。

 その判断は正しかった。レッドハッグのカタナは謎めいたヴォイド武器であり、鋼鉄と打ち合えば数秒のうちに侵食し容易く破壊してしまう。先程の切り結びで反重力バイクが一刀のもとに破壊されたように。生死をわかつ判断であった。側転からフリップジャンプするレイテツをレッドハッグの連続斬撃が追う。「イヤーッ!」

「イヤーッ!」道路を転がり出た二者はタマ・リバーの土手にさしかかる。レイテツの回避方向、土手斜面が白く凍結した。彼は斜めに滑り降り、川岸で振り返ってレッドハッグを見上げた。「イヤーッ!」追い来るレッドハッグに手をかざすと、凍った斜面が爆ぜ、空中に氷の礫を飛ばす!

 レッドハッグは両腕を交差し、やむなくこの氷礫に耐えながら着地、土手を転がり降りた。レイテツは両手をひろげた。彼の背後、タマ・リバーに異変が生じる。その表面が白く烟り、膜に覆われる。川が氷に変わってゆくのだ。「フーリンカザンはこちらにある」「だろうね」レッドハッグは不敵に笑った。

「イヤーッ!」レイテツの後ろで、川の氷が鎌首をもたげた。氷の大蛇は放物線を描き、レッドハッグに頭から食らいつこうとする!「イヤーッ!」レッドハッグは飛んだ! 車輪回転しながら黒いカタナを繰り出した彼女は、ナムサン! 氷の蛇の背をえぐり削りながら遡り、レイテツに襲いかかった!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」交錯し、位置が入れ替わると、レイテツの肩には鋭利な傷が生じている! レッドハッグは如何に!? 彼女は利き腕を侵食した氷を砕き、振り払った。凍傷の危機だ。二者は再び互いの隙をうかがう……そして……川の下流……走行する環状線の上空に今、別の極限戦闘がある!


◆◆◆


「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは列車上で身を沈め、そして跳んだ。空中のマークスリーに最後のカラテを決める為に。マークスリーはカタナを握りしめていた。然り。空中において彼はまだ得物を手放していなかった。意識を超えた、生存本能、あるいは勝利への執念が、彼にカタナを握らせていた。

 心臓が強く打ち、ほとんど静止に近い主観時間の中で、マークスリーのニューロンに、アヴァロン・アカデミー、薔薇咲き乱れるマーシレス・ガーデンの苛酷な訓練の記憶が去来した。死線において過去の体験の中から起死回生のヒントを掬い上げようとする生存本能……所謂ソーマト・リコール現象である。

 鞭を腰の後ろで持ち、まっすぐに立ったバトラーの前で、マークスリーは優雅にソーサーからカップを持ち上げ、口元に近づけている。否。茶器などない。椅子もない。空気だ。そして彼はその姿勢のまま静止している。太陽は南中。日の出と共に始めた作法。呼吸はただの一度。日の出から、ゆっくりと吸い続けている。

 バトラーの鞭はいつ繰り出されるのか。そして、右から来るのか。それとも左か。マークスリーの意識は極限のチャドー呼吸の中で拡張し、この庭園の中にいる他の美少年たちの位置、姿勢、憎みあい牽制し合う声すらも全て感じ取る事ができた。マークスリーは引き延ばされた呼吸を絶やさぬ。

 右か。左か。(……嗚呼)記憶映像と重なり合う現在のマークスリーは不思議なショッギョ・ムッジョの感覚をおぼえた。(師の命令を破り、自身を獣と同列の鬼に堕としながら、生死の境にあってなおしがみつくのは、師との記憶、カタナ・オブ・リバプールへの忠誠なのか。感謝します、師よ。そして、さらば)

 師の命令のまま動く人形であっては真の狩人たり得ず、獣を狩る事かなわず。鬼と化し、狩人を捨てたその先に、狩人への道はある。(右か。左か)バトラーの身体が動いた。カラテの巡りをマークスリーは見ていた。来る。答えは、前蹴りだ!「ハアーッ!」半日吸い続けた息をコンマ1秒で吐く!

 チャドー奥義の真髄に至り、バトラーの前蹴りを躱し、その蝶ネクタイを喉仏の薄皮一枚と共に切り裂いたマジェスティックな瞬間は、過酷な訓練の中でもただの一度の達成だった。瞬間解放された爆発的な血中カラテの流れ。血流は音速を超え、その時マークスリーの身体は光の塊と化したのだ!

「イヤーッ!」ナムサン! マークスリーは垂直跳躍で追撃をかけるニンジャスレイヤーの鉤手をカタナで打ち返した。ニンジャスレイヤーは驚愕に目を見開く。マークスリーは全身を駆け巡るカラテに喘ぎ、空中で身を捻り、反撃を薙ぎ払う!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは蹴り返す!

 カラテが衝突し、互いの攻撃は相殺された。何たるコンマ1秒の機を互いに捉えた打撃の拮抗か!? 二者の身体は衝突の瞬間よりもわずかに上方に跳ね上げられていた。二者は睨み合い、キリモミ回転の中から再び攻撃を繰り出す! 「イヤーッ!」「イヤーッ!」再び!「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 回転の中から繰り出されるマークスリーの斬撃! そしてニンジャスレイヤーの回し蹴り! 衝突を繰り返しながら、彼らの身体はさらに高高度へ、徐々に弾き上げられ始めた!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

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