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【ガントレット・ウィズ・フューリー】

◇総合目次 ◇エピソード一覧
この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードの加筆修正版が、上記リンクから購入できる第2部の物理書籍/電子書籍に収録されています。また、第2部のコミカライズがチャンピオンREDで行われています。


1

 午前三時。黒い空は一般的なガイオン地表市民にとっては夜の闇だが、ここボンジャン・テンプルのバトルボンズ達にとっては違う。朝の兆しだ。ウォッチタワーに備え付けられた青銅の鐘が108度打ち鳴らされると、彼らは白砂が敷かれたバトルフィールドに、大声を上げて、全力疾走でエントリーする。

「ワーアアアアー!」「ワーアアアアー!」「キーエエエエー!」「アーアアアアーアー!」中庭バトルフィールドの四方を囲む朱塗りのテンプルから一斉に飛び出してきた彼らは皆スキンヘッドで、テンプルカラーである朱色のバトルサムエに身を包んでいる。皆、若い。住み込みの修行僧たちなのだ。

「キエーッ!ハイ!ボンジャン!ハイ!」叫び声はやがて、川の水が大海へ注ぎ込むがごとく、自ずからひとつにまとまり、バトルチャントとなった。「ボンジャン!ハイ!ボンジャン!キエーッハイ!」彼らはチャントを繰り返しながら、チェス駒めいて等間隔に整列してゆく。

「イヤッサーボンジャン!セイヤッサーボンジャン!」やはり全力疾走で現れたのはバトルカフタンに身を包んだ高僧らしき壮年のボンズ。整列の前に立った彼の勇壮なリーディングチャントがバトルフィールドに響き渡ると、修行僧達も負けじと声を張り上げる。「ボンジャン!ハイ!」

「小さいぞ!」壮年のバトルボンズが怒声をあげた。「俺一人よりも声が小さい!」「ボンジャン!ハイ!」「まだ小さい!」「ボンジャン!ハイ!」「……組み打ち!初め!カツ!」「ボンジャン!ハイ!」たちまち修行僧は二人ひと組となり、激しいワン・インチ組手を開始した。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」百人近い修行僧によって行われる激しい組手!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」その緊張感溢れるカラテは、歴史あるボンジャン・テンプルが、キョートに無数に存在するバトルボンズの頂点に立っている事の証左だ。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」組手する修行僧の中に一人、黒人のボンズが混じっている。彼と組手する若いボンズよりも間違いなく十歳は年上、眼光も鋭い。だが両者のカラテ、上回っているのは若い方だ。実際この黒人は迫力こそあれ、ニュービーボンズなのだ。 

「イヤーッ!イヤーッ!……イヤーッ!」正拳!掌打!……回し蹴り!若いボンズは黒人ボンズの蹴り足を両掌で挟み、捻じるようにして投げた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」黒人ボンズはキリモミ回転し、バランスを取って着地。両者、神妙にオジギし、組手を終了させた。

「スミス=サン、私が言うのはおこがましいですが」若いボンズが荒い息を吐きながら、にっこり笑った。「スゴイ上達されています」「ドーモ」スミスは笑い返した。「オカゲサマデ!なにしろ俺の人生、こんなにひとつの物事に集中して取り組んだことはない!」「筋がいいですよ」「それ程でも!」

 彼の言葉は真実であった。ネオサイタマの弱小ヤクザクランを率いていた彼は、ジゴクめいた赤黒のニンジャに恫喝されて心折れ、その日のうちにクランを解散。キョートへ発った。世を儚んで出家しようと考えたのだ。だがヤクザ的な欲望を捨てる事が馬鹿馬鹿しくなり、結局彼はバウンサーとなった。

 バウンサーとなった彼はやがて、キョートを影で支配するザイバツ・シャドーギルドに接近、末端の武装リムジン運転手となった。しかしその暮らしも長くは続かなかった。またも赤黒のニンジャ!ネオサイタマの悲劇の記憶は脳の防衛本能めいて忘れ去られていたが、彼はその時、全てを思い出した。

 攻撃をことごとく無力化された彼はザイバツ・ニンジャのソーサラーをその場に残して逃走、そのままこのボンジャン・テンプルへ直行し、五体投地して入門を懇願したのであった。以来彼は以前の退廃的生活を捨て去り、修行僧として清廉な鍛錬の日々を過ごしていた。

(俺の人生、紆余曲折しながら、だんだんステージを上げて行ってるぜ)整列してボンズのありがたい説法を聞きながら、スミスは目を閉じ、微笑んだ。(昔は色々とくだらないバカやったケド、つまらないボンノに駆り立てられていた。今の俺は昔の俺じゃないんだ。俺はゼンとともにある)

「……から、自らを鍛え、甘えを捨て去ったものが、ローズトゥブッダのグラントリイの前に立つ!」「ボンジャン!ハイ!」修行僧が一斉に叫んだ。スミスもだ。壮年バトルボンズがさらに叫んだ。「その心は!」……禅問答だ!バトルボンズは列の中を歩き進む。やがてスミスの隣までやってきた。

「ハイ!」スミスの隣、彼と先ほど組手した若いボンズ、カンツァイが背をぴんと張って返事した。「甘えると褒美が少なくなるからです!」「バカ!」バトルボンズはカンツァイの頬を平手で打った。「グワーッ!」なお、これは禅問答であるため、答えの内容に関係なく、罵りと張り手は飛んでくる。

 これは元々そういうものであり、このシーケンスに異論を挟む者は未熟である。正答を得たいという考えはすなわち小賢しさであり、褒められたいという考えは欲望、すなわちボンノなのだ。修行僧達は常に己のボンノを打ち倒す為に闘っているのだ。

 スミスはこの概念を当初理解できず、平手を受けた初日は思わずバトルボンズを殴り返した(スミスの拳は届かず、かわりにその身体は空中で三回転させられたのち、白砂に叩きつけられていた)。しかし日々の激しい鍛錬を通して、彼にもぼんやりと、その概念の手掛かりが見えてきたように思う。

(なんとなく、掴めてきたかも知れねえ……つまり、欲望者達は、日頃、ブッダの事をまるで便利な……)「ん?」スミスは目を凝らした。前方、テンプルの北門から、もう一人のバトルボンズが歩いて来る。ただならぬアトモスフィアだ。何か大きな袋を引きずっている。袋ではない!「大僧正!?」

 問答を行っていたバトルボンズ、ジャンタイが列から飛び出し、そちらへ駆け寄ろうとする。そして立ち止まり、身構えた。「グノーケ=サン、大僧正は……」「ああ」動かない大僧正を引きずって現れたバトルボンズは口を歪めて笑った。「これか」と大僧正の体を吊り上げ「殺したぜ、見ての通り!」

 バトルフィールドが凍りついた。グノーケの太い指で首根を掴まれた大僧正の死顔は恐怖と困惑に歪み、ただただ凄まじかった。「ア……アイエエエ……」修行僧の一人がしめやかに失禁した。「威張り腐ったジジイもこの通りよ」グノーケがせせら笑った。「くだらねえよ、ジャンタイ=サン!」

「乱心したか!グノーケ=サン!」ボンジャン・カラテを構えたジャンタイが叫んだ。「乱心?」グノーケは大僧正の無残な死体をいきなり後方高くへ投げ捨てた。死体は空を飛び、ウォッチタワーの鐘を直撃、くぐもった音を響かせた。なんたる腕力か?まるで、(……ニンジャ)スミスは震えだした。

「乱心?俺は前から正気だよ、ジャンタイ=サン。いよいよくだらなくなっちまったよ。修行?ゼン?奥ゆかしさ?」鼻をならし、「負け犬の繰り言じゃねえか!俺はハッキリわかるぜ!ニンジャになったからな!」「ニンジャだと……」「そうだ。ニンジャだ!ニンジャは真実だ。悟る必要なんて無えよ」

「愚か者ーッ!」ジャンタイがグノーケへ突き進む!そして浮足立つ修行僧達に指示する「グノーケ=サンは破戒した!第一バトル隊列で包囲せよ!」「ボンジャン!ハイ!」「イヤッサーボンジャン!セイヤッサーボンジャン!」「ボンジャン!ハイ!」

 修行僧は素早く展開、彼らにとって兄弟子であった男をわけもわからず取り囲んだ。「ワ……ワッザ……、ニンジャ、ワッザ」スミスはガタガタと震えながらバトル隊列に加わる。「グノーケ=サン。どうして」スミスと組み手したカンツァイも激しい衝撃下にあった。「ニンジャ?悟りが無意味……?」

「てめぇは俺と試合して一度も負けなしだったなぁ、ジャンタイ=サンよ!」「……」バトルボンズ両者はじりじりと間合いを調節する。取り囲む修行僧達も、隙あらばグノーケを取り押さえる構えだ。「22戦22敗……そのたび、偉そうにしやがって。ちょっと強えぇーぐらいでよ」

「なんなのだ、ニンジャとは」ジャンタイは呆然と呟いた。「お前を修行の道から引き摺り下ろして破戒せしめるほどのものか?お前の醜い物言いはボンノの極み。全てを無駄にしたか」「ああ無駄よ!」グノーケは獰猛に言った。「ニンジャになっちまえば、全部わかる!修行?くだらねえ!無駄だ!」

「全くのバカ!イヤーッ!」ジャンタイは素早く突きを繰り出す。ボンジャン・ポン・パンチだ!ジャンタイは中肉中背。一方グノーケは太く長い手脚を持つオニめいた長身だ。だがジャンタイは彼に負けたことが無い。ジャンタイはボンジャン・テンプルで最も鍛錬された男なのだ!

「イヤーッ!」「グワーッ!?」稲妻めいた踏み込みから繰り出されたグノーケの掌打が、ジャンタイの側頭部を一撃した。ジャンタイの首は その衝撃でほとんど真後ろを向かされていた。「アバッ……」「俺の勝ちだ。アバヨ!イヤーッ!」さらに、回し蹴り!首を刎ね飛ばした!ナムアミダブツ!

 グノーケは立ったままのジャンタイの死体に近づき、彼のバトルカフタンの懐に手を挿し入れると、鍵束を盗み取った。「これよ、これ。悪いなァ、お当番さん。ずっと嫌いだったぜ」「アイエエ……」包囲修行僧の誰かが失禁!「さぁ小僧ども!暴れるぜ俺は!イヤーッ!」「アバーッ!?」


◆◆◆


 30分も経っておるまい。スミスは目を開いた。重いフートンをどかし、起き上がった。フートン?否! フートンと思えたそれは、ボンズの死体だ!「アイエエエ!?ワッザッ!?」彼は今バトルフィールドを見渡す。記憶が戻る。殺戮!ナムサン……折り重なる死体の山!「ア、アイエエエ!」

 スミスを取り囲む死体!また死体!おお、なんたることか。彼自身は吹き飛ばされたボンズの死体の下敷きとなって気絶、どうやら難を逃れたようなのだ!全滅?ボンズが皆殺しというのか?そうだ、グノーケはテンプルの中から現れた。では、中で礼拝していた他のバトルボンズ達もあの時既に……。

「う……」「ワッザ?」スミスは声の方を振り返った。カンツァイだ。彼は駆け寄った。傷は浅い。「大丈夫です」カンツァイは自力で起き上がった。「グノーケ=サンが……」「や、奴は?」スミスは周囲を見渡す。カンツァイは言った「彼は鍵を奪っていました……きっと宝物殿を荒らして逃走……」

「ワッザ……宝物殿」カンツァイは答えず、ウォッチタワーの対角にある似た形の塔めがけ、全力で駆け出した。スミスはわけもわからぬままに追おうとしたが、心が砕け、膝から力が抜けて、血に染まった白砂に座り込んだ。「アイエエ……ニンジャ……」


◆◆◆


「ウオオーッ!」カンツァイは開け放たれた宝物殿に飛び込む!無残なエントロピーが彼を出迎えた。蹴り散らされ、散乱した壺や飾り皿。コケシ、フクスケ、ハニワ。カンツァイは息を呑んだ。そして震えた。(ああ。やはり)彼の視線は宝物殿の奥のブッダデーモン像に注がれていた。

 ブッダデーモン像の手の中にあるべきマジックアイテムが、無い。6フィートの打擲棒が。失われている。テンプルの建設者であるボンジャン・シンイチが、鉄より硬い古木を削るボンズクエストの成果としてもたらした、ありがたい宝具が……!

「なんて事だ」カンツァイはうろたえ、震えた。キョートの人々の幸せと健康を祈り、ボンズに修練を促す、テンプルの象徴が失われた。なんと申し開きをすれば良いのか?彼は己の過失であるかのように畏れた。大僧正に、ジャンタイ=サンに、ケマ師に何と言えば。……そこまで考えて彼は思い至った。

 彼らはいない。もう、いない。死んだ。殺された。ニンジャに殺された。ニンジャはグノーケ=サンだ。グノーケ=サンが皆を殺した。「あああ」彼は床に崩れ落ちた。「ああああ」

『立ち止まるな』そのとき彼のニューロンをざわめかせた叱咤の正体は何であったろう?その声は?「え……」『求めるな』「グワーッ!?」カンツァイは突然の偏頭痛に悶え、床を転がった。「グワーッ!?ゲボーッ!?」『求めるな』そして、おお、ナムサン……にわかに大地が鳴動す!

「ああ……」頭痛は訪れた時と同様、急速に引いていった。「聖ボンジャン大師……?」カンツァイは口を拭い、震えながら立ち上がった。ブッダデーモン像が真っ二つに割れて床に倒れている。彼は駆け寄った。そして、彫像それぞれの断面に片方ずつ埋め込まれた物体を見出した。「これは……これは」

 彼は彫像の断面に埋め込まれたそれを……謎めいた意匠の鋼鉄のガントレット(篭手)を、取り出した。ガチャリ。ガチャリ。彼はそれを両手に装着した。痺れるような感触が全身を伝った。彼は両手で拳を作り、また開いた。「これを……これを使えと言うのですか」

 答える声は無い。だがカンツァイの心は決まった。「イヤーッ!」空中めがけ、正拳を繰り出す!「イヤーッ!」逆の手で再度、正拳を繰り出す!宝物殿の外から朝の光!彼は両足で床を踏みしめ、叫んだ!「イヤッサーボンジャン!セイヤッサーボンジャン!」


◆◆◆


「イヤーッ!」「グワーッ!」アコライトの熾烈なガントレット左正拳がドレッドヤクザの顔面を一撃!鼻骨を粉砕!「イヤーッ!」「グワーッ!」アコライトの熾烈なガントレット右正拳がチョンマゲヤクザの顔面を一撃!鼻骨を粉砕!「まとめてかかって来なさい!」「ザ、ザッケンナコラー!」

 のたうち回る二人の部下ヤクザを前に、ヒゲヤクザはうろたえた。そして、アコライトと名乗った若いスキンヘッド男を見た。このボンズめいた若者は、まるでこうなる事を見越していたかのようだ。あえて因縁を吹っかけさせ、事務所へ連行されるがままにして、機が熟するや、たちまち返り討ちに……。

「ダッテメッコラー!?どこのヤクザクランッコラー?」「命は獲りません。ブーンズ洞という男のもとへ案内しなさい!」「アッコラー!?こちとらニンジャがバックにッコラー!」「ニンジャ?」アコライトの眉がぴくりと動いた。「ニンジャと言いましたか?」

「ア?そうだテメエ」ヒゲヤクザは恫喝が効いたと考え、己の額から流れ落ちた汗を舐めると、不敵な笑みを浮かべてチャカを構え直した。「ニンジャだテメエ。ニンジャがもうすぐこっち来るぞ。ザイバツのニンジャがよ!」「ニンジャ?ザイバツ?」「へへへ!そうだ!ニンジャは怖えぞ?」

「……そのニンジャとはまさか、ストームビートルとか言うサンシタか?」厳しい声が戸口の方向から発せられた。「エッ」ヒゲヤクザは間の抜けた声を出した。アコライトもそちらを見た。ドォン!鉄製ドアが蹴破られ、小肥りのニンジャの死体が投げ込まれた。そう、既に死んでいるのだ!

「アイエエエエエ!?ストームビートル=サン!?ナンデ!?」ヒゲヤクザはあまりのことに絶叫するしかなかった。そして失禁した。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」ツカツカと戸口から現れたのは、やはりニンジャ!赤黒の装束を着、「忍」「殺」とレリーフされたメンポを着けている。

「取り込み中か」ニンジャスレイヤーと名乗った男は、無感動に、シュラバ・インシデントめいた事務所内を見渡した。泡を吹いて気絶する二人のヤクザと、悲鳴を上げ続けるヒゲヤクザ、窓ガラスに頭から突っ込んで気絶するヤクザ、そしてアコライトを。「悪いがニンジャの出番は無い。殺したぞ」

「どういう事です?あなたはザイバツ・ニンジャでは無いのですか?」アコライトはボンジャン・カラテの構えを解かず、問うた。ニンジャスレイヤーは腕組みして言った。「そこで死んでいる小豚がザイバツ・ニンジャだ。……オヌシの問いをそのまま返そう。オヌシは何者だ」

「ドーモ。アコライトです」アコライトはアイサツした。「ボンジャン・テンプルのバトルボンズです。仇を探しています。ニンジャを」「……ニンジャを」二者の決断的な視線がかち合った。ヒゲヤクザは震えながら再失禁した。


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「単純な興味で訊くが、ボンズがヤクザ事務所に何をしに来た?」ニンジャスレイヤーは言った。アコライトはまっすぐに彼を見据え、凛として答える。「先日、我がテンプルが、破戒したボンズの手で滅ぼされました。名はグノーケ。それが仇です。私は彼の行方を追っています……そして情報を掴んだ」

 アコライトは目の前の赤黒のニンジャに対し、あけすけに言った。彼は若く、しかもこれまでの人生の殆どをテンプルでの修行に費やして来た。ゆえに彼は「まず疑う事からかかるべし」という、マッポー社会におけるザ・モースト・ベーシック・メソッドを持たぬ。

 しかしそれは彼の愚鈍をけっして意味しない。彼は相手の意志を、ニューロンの奥底にある善悪を、相手の目から読み取ろうとする。アコライトは死体を投げ込みながら現れたこの赤黒の殺戮者の目を見据え、ジゴクめいたアトモスフィアの中に、魂の切実な緊張感とでも言うべきものを感じ取っていた。

 彼のまっすぐな凝視を前にすれば、人は、必要以上に物を話してしまったり、狼狽したりするものである。今回ニンジャスレイヤーが自らアコライトの事情へ踏み込んだのは、彼のその濁りの無さに、なにがしかを感じ取ったからに他ならない。「仇はニンジャだと言ったな」「そうです」

 アコライトは言った。「グノーケはニンジャになったと言い、教えを侮辱すると、テンプルの人間をほぼ皆殺しに……突然の出来事でした」「ニンジャとはそういうものだ」ニンジャスレイヤーは言った。「ゆえに、生かしておかぬ」ストームビートルの無惨な死体を示す。「特にザイバツのニンジャはな」

「アイエエ……」傍観を強いられているヒゲヤクザが再々失禁した。ニンジャスレイヤーは無視し、「ヤクザ事務所に、そのグノーケとやらの情報が?破戒してヤクザ・バウンサーにでもなったか」「その可能性もあります」アコライトは頷く「ブーンズ洞という闇ブローカーを当たれと、私の仲間が」

「その情報収集にヤクザ事務所か」「ハイ」アコライトは頷いた。「闇ブローカーならばこういった方々がご存じかと」「事務所はランダムに選んだのか」「ハイ」アコライトは頷いた。そしてヒゲヤクザを見た。「質問を続けます。ブーンズ洞をご存じですか?」「ハイ」ヒゲヤクザは震えながら頷いた。


◆◆◆


 ドジャーン!スモトリが直径4メートル弱の銅鑼を杖で打ち鳴らすと、ステージの両脇から、太腿も露わなチャイナ風キモノを着た十数人のオイラン達が現れ、下品なラッパのファズ・トーンをBGMに、淫靡な踊りを踊り始めた。「アカチャン!」「ワーオー!」録音マイコ合いの手音声の的確な再生だ。

 円形テーブルの一つには、ハンチング帽にトレンチコート姿の男と、スキンヘッドのボンズが同席している。ボンズはステージ上のボンノじみた光景に顔を向ける。あなたがニンジャ洞察力の持ち主であれば、彼がその光景を視界に収めながら、焦点を合わせずに済ませている事に気づくだろう。 13

「お飲み物ドスエ」カクテルサービスマイコが二人のテーブルへ近づく。マイコは「飲み放題」とショドーされたタスキをかけている。ハンチング帽の男は……ニンジャスレイヤーは、一礼してミドリナムとウォッカのカクテルを受け取った。マイコは笑い、「キャー!おボンズ様もどうぞ」「結構です」

「ノン・アルコールのドリンクは」ニンジャスレイヤーがマイコに聞いた。「エー?この人ボンズだからですか?キャーキャー!ヤンバーイ!おボンズ様はカワイイー!」マイコは嬌声をあげ、ボンズの頭に触ろうとした。ニンジャスレイヤーは遮り、「それぐらいにしておけ。チャを」「ハーイウフフ!」

 マイコが踵を返すと、アコライトは小さくため息を吐いた。「こんな場所にいては、オヌシの功徳にダメージがありそうだな」ニンジャスレイヤーは言った。「いえ」アコライトは首を振った。「そういったシステムがあるわけでは。……単に私が至らぬのです。慣れなくて」「慣れんでもよかろう」

 周囲の席の酔客が、あきらかに場違いなアコライトへチラチラと視線を送る。ステージの下ではバンブー花火が一斉に焚かれ、黄緑色の炎の噴水がオイラン踊りを妖しく照らし出した。「感謝します」とアコライト。「いや」ニンジャスレイヤーは首を振る。「礼ならガンドー=サンに。彼の情報収集だ」

 無論、この二人がヤクザ事務所での邂逅の後に意気投合してオイラン遊びをしにやって来たなど、ありえない。彼らはニンジャスレイヤーの協力者である私立探偵タカギ・ガンドーの調べを通し、ブーンズ洞とのコンタクト手段を見出した。それがこの店、アンダーガイオン繁華街区の「大きく慕情」だ。

「ボンズというのは私のいたネオサイタマではあまり見かけぬものだ」ニンジャスレイヤーは言った。「バトルボンズとなれば、そういったテンプル自体が皆無……映画やテレビの世界だ」「そうでしょうね」アコライトは頷いた。「テンプルの修行僧が外の世界と直接関わる事は殆ど無いのです」

「私は神は信じぬ。申し訳無いが」ニンジャスレイヤーは言った。「……だが、それゆえ信仰者の心理に一定の興味はある」「ええ」アコライトは気分を害する様子もなく、「バトルボンズはキョートでも神話的な存在であると思われています」チャが運ばれて来た。マイコはクスクス笑っていた。

「この世はマッポー」ニンジャスレイヤーは言った。「世間において、ブッダへの恨み節は殆どアイサツに近いほどだが」「そうですね」アコライトは言った。「ブッダはオーディンやゼウスのような神性と混同されており、人々に利益を与え、運命を管理する存在であると誤解されてしまっています」

「……」「ブッダをあえて偶像めかせる事で、話をわかりやすくし、それによって人々の信仰を広く得ていった……そのツケであると、私のセンセイは仰っていました。それによって人々は、運命の苦難を受け止められず、安易にブッダを憎む事を始めてしまったと……憎しみはその人自身をも苦しめると」

「憎しみはその者自身をも苦しめる」ニンジャスレイヤーは繰り返す。アコライトは彼の目を見返した。そして続けた。「ブッダはイモータルめいた運命操作を行う存在ではありません。善意の介入も悪意の介入も無い。権利も力も無いのです。物事はただ様々な営みが折り重なって、導き出される物」

「神では無いと」ニンジャスレイヤーは言った。「では信仰とは?救いとは?」「禅問答めいていますね」アコライトは静かに言った。「正直わかりません。私も未熟者だからです。私は、自ら戦うことだと考えています。それこそ、ブッダやオーディンに運命を預けるのではなく、自ら戦うことだと」

「ゆえに、バトルボンズか」「わかりません」アコライトは恥ずかしそうに笑った。「私ごとき未熟者が、他者に説法などと。こんなおこがましい事をしてはいけないのです」アコライトは言った。「オイランを見ましょう」「無理をするな」 

 ……やがて、彼らの卓を訪れた者あり。ダークスーツを着、サイバーサングラスをかけて、厳めしい顔は無表情だ。ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。クローンヤクザである。「ドーモ。モリタ=サンご一行様」 「ドーモ」二者は立ち上がった。「VIP席へ」クローンヤクザが促し、歩き出した。

 彼らは目立たないエレベーターに案内された。「ドーゾ」クローンヤクザが機械めいて冷たく言う。二人はエレベーターに乗り込み、下降した。地下だ。「VIPフロアドスエ」合成マイコ音声が響き、エレベーターが開け放たれた。金箔が塗られた廊下が出迎えた。壁には「不如帰」のショドー。

「ドーゾ」クローンヤクザはエレベーターの前で後ろ手を組み、動かない。ニンジャスレイヤーとアコライトは廊下を進んだ。突き当たりにはハンニャ・オメーンと「大御所」のショドーが掲げられたカーボンフスマ。二人が近づくと、ひとりでに開いた。

 部屋の中には四角い巨大チャブがあった。反対側に、ヒキガエルめいて肥った、ガウン姿の巨大な男が座っている。「ドーモ、はじめましてモリタ=サン。エート、あと、アコライト=サン?風変わりですな」巨大な男は串にさしたバイオトカゲの黒焼きを齧り、せせった。「失礼失礼、食事中でして」

「ドーモ、アコライトです」アコライトが切り出した。「貴方がブーンズ洞=サンですか?」「そうとも言えるし、そうでないとも言えますな。ボンズ=サン」男はフゴフゴと咳き込んだ。「眉目秀麗でいらっしゃいますなぁ」「話を始めよう、ブーンズ洞=サン」ニンジャスレイヤーが言った。

「エートご用件ききましょうか」ブーンズ洞らしき男はチュウチュウと音を立てて焼き串を吸った。「なんかご紹介があったとかで。ねえ。名前が思い出せないですが。IRCで」「その通りだ」とニンジャスレイヤー。「私と彼はそれぞれ、別の情報を買いに来た」「別!二倍料金?」男は驚いてみせた。

「二倍出そう」ニンジャスレイヤーは即答した。「おほッ!」ブーンズ洞は目を見開いた。「太っ腹でございますなあ!重大情報を?お求めとかで?」「ボンズ崩れのニンジャがアンダーガイオンに逃げ込みました」アコライトは言った。「名はグノーケです。ご存知ですか?」「ええ知ってますよ」

「で、そちらのコワイお方は?何がほしいんで?」「ザイバツ・シャドーギルドのニンジャの居場所だ。どこでビジネスしているか。売ってもらおう。名はパーガトリーとスローハンドだ」「んザイバツ!」ブーンズ洞は叫んだ。「シーッ!あなた、シーッ!」「知っているか」「それはですなあ」

 ブーンズ洞はパンパンと手を叩いた。すると、おお、見よ!左右の壁が音を立ててシャッターめいて上へ開いて行く。左右の壁向こうはそれぞれタタミ敷きの玄室であり、それぞれ、ニンジャがこちらを向いてアグラしているではないか!左は紫、右がダークアイアン色だ!

「いけませんなあ。その名前は。あなたご存知無いでしょう。畏れ多いですなあ。そこらのザイバツ・ニンジャじゃありませんよ、その名前は」ブーンズ洞が言った。「つい最近、ザイバツのニンジャが色々あったとか。聞いておりますよ。ニンジャのリストのビラがばら撒かれて」

「ドーモ、ヴァーミリオンです」紫のニンジャがアイサツした。「ドーモ、キャタピラーです」ダークアイアン色のニンジャがアイサツした。「ドーモ、アコライトです」アコライトはアイサツを返し、身構えた。「ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーは腕組みした。「これは面白い冗談だ」

「そうでしょう」とブーンズ洞。「どうも紹介時のIRCが怪しくてね、警戒しておりまして」「クライアントを売らんのが矜恃と聞いたが?」「そりゃその通り」彼は言った「正規のご紹介ならばまた違ったでしょうがねえ。最近亡くなっているヤクザ・オヤブンの名前ですよ、あの紹介者は。ははは」

(ガンドー=サン)ニンジャスレイヤーは眉間を押さえた。ブーンズ洞は手を叩いた。「さ、身柄はザイバツに引き渡しましょう。抵抗すれば殺します。なにしろニンジャですよ。驚きましたか?この仕事は危険が一杯でして」ねっとりした目でアコライトを見、「あのボンズ=サンはとにかく生け捕りに」

「これは……上手くいかなかったという事でしょうか」アコライトは手近のニンジャ、キャタピラーの方向へ向き直った。「ガンドー=サンの詰めが甘かったようだ。すまぬ」ニンジャスレイヤーは低く言った。「だが、まだインタビューは失敗と決まったわけでもない」

「何をバカな」ヴァーミリオンが威嚇的に両掌を上向ける。彼のブレーサーがにわかに朱色に赤熱し、何らかの機構の働きで、朱色の炎を松明めいて纏った。「苦しめながら焼き殺してやるぞ。俺のカトン・パンチでな……」「そうか」ニンジャスレイヤーはトレンチコートを脱ぎ捨てた。

 ゴウランガ!トレンチコートを脱ぎ捨てる動作中に何らかの超自然力が働き、その身は赤黒のニンジャ装束で包まれていた!さらにその手には、懐から取り出した「忍」「殺」のメンポがある!素早く装着!「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」叫ぶブーンズ洞!「繰り返すが私はニンジャスレイヤーだ」

 一方、キャタピラーはアコライトに向かって両腕を威圧的に掲げた。「お前のガントレットにはこんな芸当はできまい!」おお、見よ!彼のガントレットはキャタピラーを備えており、無慈悲なモーター音を鳴り響かせて駆動開始!まるで戦車だ!「降伏しろ!さもなきゃ腕で轢殺だーッ!」

「黙りなさい!」アコライトはボンジャン・カラテ攻撃姿勢を取った。「私は殺人者には手加減しません!」「ニンジャにモンキーパンチが当たるかよォーッ!」飛びかかるキャタピラー!「俺のサイバネ・キャタピラーは防御したお前のガントレットごと腕をグラインドしてミンチ重点なんだよォー!」

「ボンジャン!イヤーッ!」「グワーッ!?」踏み込みながらのポン・パンチがキャタピラーにクリーンヒット!茶室の奥の壁まで弾き飛ばした!「グワーッ!?」ハヤイ!なんたるハヤイ拳か!その驚愕はアコライト自身も同様だ!「ハヤイ!?」

「イヤーッ!イヤーッ!」「グワーッ!グワーッ!」そして見よ!ニンジャスレイヤーも今まさに、カトン・パンチをかいくぐってのジゴクめいたショートフックを鳩尾に、続けざまのゼロ距離ポムポムパンチを顎に叩き込んだところだ!天井近くまで弾かれるヴァーミリオン! 「バカなーッ!?」

「イイイヤアーッ!」空中のヴァーミリオンめがけ、ニンジャスレイヤーは跳躍!恐るべき空中回転サイドキックがヴァーミリオンの胸板に叩き込まれる!「グワーッ!?」茶室の壁に釘付けとなるヴァーミリオン!「イヤーッ!」間髪入れず投擲されたスリケンが頭部を貫通!「サヨナラ!」爆発四散!

「アバッ、き、きいてないぞ、卑怯」キャタピラーは壁の裂け目から這い出しながら呻いた。「ニンジャだとォ……?」「ニンジャ?」アコライトは眉根を寄せた。彼は己の腕のガントレットを見下ろした。「……ニンジャ?」「戦闘中に隙だらけだっつってンだよォー!」キャタピラーが飛びかかる!

「サイバネティクスと俺様のニンジャ腕力が合わさったキャタピラー・ジツは戦車で轢かれる経験を凌駕する恐ろしさだ!グラインドだァーッ!」「イヤーッ!」アコライトは振り下ろされた腕を咄嗟にガード!ナムサン、だがキャタピラ機構が彼のガントレットを削り壊しにかかる!「ハハァーッ!」

「ヌウーッ……」アコライトは力を込めて抵抗する!ガントレットは摩擦熱でぼんやりと熱を帯び始める!敵を片付けたニンジャスレイヤーは加勢に入ろうと振り返った。だが目を見開き、そのさまを見守った。アコライトがキャタピラーのニンジャ膂力に押し勝ち、逆に押し戻している!

「なんたるニンジャ膂力」キャタピラーが呻いた。「こんなの卑怯だぞ!ボンズのくせにニンジャとか……」「ボンジャン!」アコライトが踏み込む!体重移動のエネルギーが注ぎ込まれ、キャタピラーの身体は吹き飛ばされて宙を飛んだ!「グワーッ!?」「イヤーッ!」アコライトがジャンプパンチ!

 その時だ!インパクトの瞬間わずかコンマ5秒の出来事である。壁に釘付けとなったキャタピラーめがけ追い打ちで繰り出された拳を包むガントレットが変形し、ブッダデーモンめいた獰猛な鉤拳を形作ったのだ。そしてそれがキャタピラーの頭部を叩き潰した!「サヨナラ!」爆発四散!

「……!」アコライトはなかば呆然と、己の腕を包むガントレットを見た。形状はすぐに元へ戻り、厳かな面影を取り戻している。それを見守るニンジャスレイヤーもまた、無言であった。「ニンジャ、ニンジャ、そんな」ブーンズ洞が震えた。ニンジャスレイヤーはそちらを見た。「ではインタビューだ」


3

「助けてくれ」ブーンズ洞はチャブの奥で身をよじった。脂肪が邪魔をしてうまく動けない。ニンジャスレイヤーはアコライトを一瞥した。ボンズは己の手を見つめ、呆然としている。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛び上がり、チャブの上、ブーンズ洞の目と鼻の先に着地した。「アイエエエ!」

「ではまずアコライト=サンに情報を売ってもらおう。破戒僧の話だ」ニンジャスレイヤーがブーンズ洞に顔を近づけた。「アイエエ……」「知っていると確かに言ったな。私は確かに聴いた」「え、ええ、それは本当です。知っています」ブーンズ洞が呻いた。「奴は暴れまくっていたんで」

「情報が入って来たと?」「そうです。ニンジャ破戒僧だ。名はイヴォーカー、名前がコードネームめいていますが、状況から言ってそのグノーケというバトルボンズで間違い無いでしょう?」「アコライト=サン!」ニンジャスレイヤーはいまだ立ち尽くすアコライトに声を発した。「それぐらいにせよ」

「……ハイ」アコライトは深呼吸を繰り返し、向き直った。「取り乱しました。すみません」「……」彼を見据えるニンジャスレイヤーは、いかなる心境であろうか?アコライトがニンジャの力を見せた事は、もはや疑いの無い事実。そしてその事にアコライト自身が衝撃を受けている事も。

「グノーケ……イヴォーカーは今どこに?」アコライトが問うた。「エ、エート、今、入ってきてます……情報が入ってきてますから、待ってください」ブーンズ洞は震えながら白目を剥いた。コワイ!「アー……来ました……おお、既に第九層のヤクザクランを完全に手中に収めています」彼は告げた。

「なんと」アコライトは眉をひそめた。ブーンズ洞は白目を剥いたまま説明した。「アー……第九層は中層最後の層、そこから下は下層です。ゆえに九層の階層移動リフト周辺の闇マーケット関係の利権争いは激しい。それを統一……実際スゴイしハヤイ。各クランにニンジャバウンサーも少なくなかった筈」

「なんと」アコライトが呻いた。「利権……欲望……もはやタガを外してしまったというのか。彼とて高潔なハイ・ボンズであった筈」「……」ニンジャスレイヤーは一呼吸の沈黙ののち、言った。「ニンジャとは。そういうものだ」 「ニンジャ……ニンジャ……」

「オヌシに自覚は無いようだ」尋問を不意に中断し、ニンジャスレイヤーはアコライトに言った。「だが言っておかねばならん。オヌシはニンジャだ」「な…」アコライトは目を見開く。ニンジャスレイヤーは続けた。「オヌシはニンジャだ……そして私は、ニンジャを殺す者だ」

 アコライトがよろめいた。「私がニンジャ?なぜそんな事……そんな事に」「オヌシのあの膂力はニンジャそのもの。オヌシ自身驚いておったろう」「なぜ私がニンジャに」「理由など考える意味は無い」ニンジャスレイヤーは無感情に言った。「ニンジャとなれば、人は変わる」「……!」

 ニンジャスレイヤーの言葉は容赦が無かった。しかし彼自身、目の前のアコライトにいきなり襲いかかり殺すつもりは無い。彼は過去に数度……僅かな回数ではあるが……そうした選択を採った事があった。インターラプター。イッキ・ウチコワシのニンジャ。ソウカイヤに襲われていたヤモト・コキ。

 ニンジャを殺す意志。それは彼に宿ったナラク・ニンジャと、家族をニンジャに殺された彼自身の決意の産物だ。だが同時に彼の心には、倫理、理性の光がある。故があれば踏み止まる。彼は機械では無い。尤も、ニンジャが彼の倫理に訴えかける善性を持っていた事など、結果的に殆ど無かった。

「アコライト=サン」「……ハイ」まっすぐにニンジャスレイヤーを見返す。憔悴していたが、そのアトモスフィアに濁りは無い。ニンジャスレイヤーは尋ねた。「イヴォーカーをどうする。殺しに行くつもりか」「……そうなると思います」彼は苦渋めいて答えた。「ボンジャン・バトルボンズとして」

「ならば私も行こう」ニンジャスレイヤーは言った。「そのニンジャを野放しにはできぬ。そして、ニンジャとなったオヌシを見極める」「わかりました」アコライトは頷いた。「……宜しくお願いします」

 ニンジャスレイヤーは脂肪と格闘するブーンズ洞に向き直った。「話は終わっておらん」「アイエッ!」「イヴォーカーの潜伏情報の詳細はIRCで送れ。そして私の質問がまだだ」「アッハイ」ブーンズ洞は顔を歪めた。「ザイバツ・シャドーギルドの二人でございますよね」「そうだ。居場所だ」

 スローハンド、パーガトリー。彼らはマルノウチ抗争の参加者だ。ニンジャスレイヤーは抗争に参加した14人のザイバツ・ニンジャをリストにまとめ、うち10人を殺し終えた。残る4人のうち、インペイルメントとモスキートはネオサイタマにおり、後回しだ。しかし残る二名は特に情報が堅い。

「奴らはどこにいる」「言えないのです」ブーンズ洞はガタガタと震え出した。「言い直します。知らないですし、捜す事も許されていない。彼らの詳細情報はザイバツの情報の中でも特にタブー……ギルドの物理的所在と同様に……捜すそぶりを見せただけでニューロンを焼かれ、ニンジャが……」

「……」ニンジャスレイヤーはブーンズ洞を睨んだ。その恐怖には飾りや繕いが無い。ゆえに彼はこの怪物めいたブローカーの言葉を信用した。「よかろう」「アイエエエ」ブーンズ洞の巨体から力が抜け、失禁した。「オヌシは今日、我々に会わず、何も聞かなかった。そうだな」「絶対にそうです」

「イヴォーカーの情報は送ったか」「送りました」「もう一度言うが、この接触は秘密にせよ」「絶対に秘密にします」「私がどんな行いをする者か、十分わかったな」爆発四散跡。「絶対にわかりました」「……」ニンジャスレイヤーは十秒間、ブーンズ洞の怯えた目を凝視した。「……ではサラバだ」


◆◆◆


 ボンボンドゥドゥーン。ボドゥンブンドゥーン。ドゥドゥーンブムン、ブンムムーン。複数基の巨大ウーファーを備えた鬼瓦サウンドシステムから放たれる邪悪なボディミュージックは、フロアに立つ者の肌を波打たせる程の大音量だ。男は凶悪サウンドシステムのすぐ前に玉座を設え、くつろいでいた。

 男はスキンヘッドであり、鋲打ちの黒いバトルカフタンの胸をはだけて、その鍛え上げられた巨体の胸板を露わにしている。胸板と首には夜桜を飛行するウイングド・ハニワ戦士のタトゥー。首からは巨大なバイオ真珠のボンズネックレスをさげ、その目は隈が浮いて酷薄げであった。 

「フゥーム……」男の傍らにオイランが屈み込んだ。男は豊満な胸に挟まれた長い鉄箸を掴み取った。その箸で、用意された鉄板の上で焼かれるバッファローのステーキを取った。分厚くカットされたステーキが脂をしたたらせ、鉄板から煙が立ち上る。男は大口を開け、噛みちぎり、二口で全て食べた。

「サケを注げ!」別のオイランに、横柄にオチョコを差し出す。オイランは三倍サイズのオチョコへ、なみなみとサケを注いだ。七輪でしっかりと温められたホットサケである。男は一息にそれを飲むと、再度言った。「オカワリだ!」

「助けてください」横一列に正座させられたヤクザの一人が言った。「ア?」男は素早く立ち上がった。そして玉座の脇の6フィートのボー(打擲棒)を手にとった。男は無言でそれをヤクザの脳天に振り下ろした。「アバーッ!」頭を砕かれ即死!「ナメんじゃねえ。俺がオヤブンだ。命令するな」

「……!」残る四人は悲鳴を噛み殺した。彼らは第九層でしのぎを削ってきたヤクザクランのオヤブン達である。普段は市民の債務者やヘマをしたレッサーヤクザ相手を正座させて楽しむ彼らであったが、今は逆の立場を味わわされている。しかも死と隣り合わせだ。

「ま、知っての通り、お前ら全員、用済みなんだよな」男は……イヴォーカーは、正座させた彼らの前を行ったり来たりしながら、あっさり言った。「兵隊もカネもクスリも俺のモノだ。わかるな……だがまあ、生かしてやらんでもない。俺は聖職者なんでな、これでも」ボーで床を突いた。「禅問答だ」

「……!」四人は歯を食い縛った。「音、止めんかい」イヴォーカーが叫んだ。DJは素早くボディミュージックを消音した。「じゃ、右の奴から行くか。キツネはアンチョビを与えられたが、食べられなかった。ナンデ?」「……瓶に詰められていたからです」「ダメ!」「アバーッ!」打擲!死亡!

「ったく未熟者めが。ジゴク行きだ!正解は、ブッダがゲイのサディストだからだ!」「……!」ナムサン!なんたる理不尽!これではパンクスのスカム禅問答ではないか!とてもかつてボンズであった男の発言とは思えぬ!「次。男は象を街で働かせた。象の仲間が駆けつけ、男を踏み殺した。ナンデ?」

「ブ、ブッダが……ゲイのサディストだからです」「正解!ブッダはゲイのサディストだ!わかったか!」「わ、わかりました」「イヤーッ!」「アバーッ!?」打擲!即死!

「次。俺は今の奴が正解したのに殺した。ナンデ?」「う……う……」「時間切れだ!イヤーッ!」「アバーッ!」打擲!即死!「答え!……『生かしてやらんでもない』とは言ったが、『正解すれば助ける』とは約束していないからです」ナムアミダブツ!なんたる非道!なんたる冒涜!「次」

「ウ……ウウ……」最後に残ったモヒカン老ヤクザはガタガタと震え出した。そして、ナムサン!「オエーッ!」いきなり嘔吐!体内から掌サイズの銃を吐き出し、掴み取ると、イヴォーカーを狙った!「ザッケンナコラー!」

「イヤーッ!」全く予想外の方向から飛来したクナイ・ダートが老ヤクザのこめかみに突き刺さり殺害!発砲ならず!オミクジが貼られた柱の陰から、青と黄のマダラ模様の装束を着たニンジャが姿を現す。彼のクナイ投擲だ!「反則だ」イヴォーカーは歯をむきだして笑った。オヤブンは全て死んだ。

「てめェら!ありがたく説法してやるから、話聞かんかい」イヴォーカーは叫んだ。今まで一言も声を発さず遠巻きにドゲザしていたレッサーヤクザ達が、おずおずと顔を上げた。全員スキンヘッドである。イヴォーカーが剃らせたのだ。ボンズの悪しきカリカチュアと言えよう。

「ま、いまの問答でわかったと思うが」イヴォーカーは言った。「ブッダはクソだ。俺らをクソみたいな環境に落とし込んで、嗤っていやがる。救いなんてものはねぇんだよ。ブルシットだ。言え。ブルシット!」「「ブルシット!」」

「俺はなぁ、ボンジャン・テンプルのバトルボンズだった。くだらねえぜ!威張り腐った大僧正!ストイック気取りだ。カラテを鍛えても何にもならねえ!粥を食って?苦行して?それで救われるか?カネになるか?何にも救われねえ。あのジジイ、ドゲザしろっつったのに、しやがらねえ!」

「「ブルシット!」」「だが、お前らには真実をやろう。俺はニンジャだ。ニンジャこそ真実だ。ブッダは何もしてくれねえぞ?俺について来い。そうすりゃお前らもそのうちニンジャになれる。カネ!女!クスリ!何でもアリだ。クソな事は全部ブッダのせいにしろ!俺が!ニンジャが救いだ!」

「「ニンジャが救い!」」レッサーヤクザが繰り返した。イヴォーカーが叫んだ。「ブッダが悪い!」レッサーヤクザが和する。「「ブッダが悪い!」」ナ、ナムアミダブツ……なんたる……なんたるマッポー光景か!

 その時である!ブガー!ブガー!電子ナリコ反応のアラートが玉座の間に鳴り響いた!どよめくレッサーヤクザ達!マダラ模様のニンジャがイヴォーカーに耳打ちする「侵入者です。門番が殺されたと」「ア?どこの命知らずだ?」イヴォーカーは睨み返した。「チンタラやってんなよ?」「万全です」 

「ヘハッ!」イヴォーカーは獰猛に笑った。この玉座の間に到達するには、途中のバトルルームに居並ぶ番人達を倒してゆかねばならない。これはブッダ城伝説に因んだ悪しきカリカチュア構造であり、イヴォーカーにとって精神的に重要な防衛システムであった。「ぬからせんな!狩れ!」「ハーッ!」


4

「イヤーッ!」アコライトのジャンプキックが巨大なオブツダン扉を叩き開いた。二人は立ち止まることなく突入する。背後には気絶あるいは負傷して戦闘不能、あるいは死んだボンズヤクザ兵達が横たわる。「悪いが容赦はせん。ボンズの眼前であってもだ」ニンジャスレイヤーはアコライトに言った。

「わかっています。私に貴方を責める資格は無い」アコライトは答えた。そして前方の敵を睨んだ。ここは四角く広いバトルルーム、奥にはやはり今くぐり抜けた扉と同じオブツダン扉があり、堅く閉じられている。扉の上には「反省点」と書かれたショドー額縁。その下には番人たる敵がいる。

「命知らずってのはテメェらか!」身長3メートルの巨大スモトリヤクザが威圧的に四股を踏んだ。袴の腰にはシメナワを巻き、上半身は裸、顔はニンジャ頭巾で覆われている。ナムサン……スモトリヤクザであり尚且つニンジャなのだ!「ドーモ、マストドンです。お前ら、壁のシミになる。張り手でな」

「ドーモ、アコライトです」「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」二人はオジギを返した。「壁のシミになるのが実際誰なのか、30秒で明らかになる」ニンジャスレイヤーが言った。「私がやります」アコライトは彼を留めた。「このバトル形式でニ対一は卑怯と感じます。私が倒します」

「卑怯?」ニンジャスレイヤーは腕を組んだ。「人数がか」「ハイ。どのみち、ここで私が敗れるようでは到底イヴォーカーには歯が立たない。彼はかつて私の師範であったわけなのですから」「なるほど、そう言う事ならば、見ていよう」「ハイ!」「ブフーッ!」マストドンが唸った。「ナメんなよ!」

 実際、ニンジャのイクサにおける人数の多い少ないは礼儀作法とは関係の無い話だ。マストドンも彼ら二人をそのまま相手にするつもりであったはず。単なる無慈悲な殺し合いにおいて武術試合めいたアコライトの戦闘価値観はやや異質であったが、ニンジャスレイヤーはそれを尊重した。

「ドッソイ!ドッソイドッソイドッソイ!」マストドンが左右の張り手を繰り出しながら突進する!まさにそれはバッファロー殺戮辺境武装鉄道めいた恐るべき攻撃!「ドッソイドッソイドッソイドッソイドッソイ!」「ボンジャン!イヤーッ!」

「グワーッ!」ナムサン!アコライトの踏み込みながらのボンジャン・ポン・パンチは、その出がかりを稲妻めいたマストドンの張り手にインターラプトされてしまった。よろめいた彼にそのまま逆の手の張り手が叩き込まれる!「グワーッ!」吹き飛び、壁に大の字で叩きつけられるアコライト!

「ブフーッ弱敵!」マストドンが勝ち誇った。背中から蒸気機関車めいて水蒸気化した汗が噴き上がる。「次はテメェだニンジャスレイヤー=サン!」「否、まだだ」ニンジャスレイヤーは腕を組んだまま否定した。「うるせェーッ!ビビり上がってんじゃねえぞォ!」「まだだ。これは忠告だ」

「ウゴゴーッ!」マストドンは無視してニンジャスレイヤーへ張り手突撃開始!「イヤーッ!」その真横から弩めいた勢いで飛び蹴りが繰り出され、マストドンの横面を直撃!「グワーッ!?」キリモミ回転しながら倒れるマストドン!「貴方の相手は私です!」アコライトは中腰に構え、口の血を拭う!

「私のカラテに至らぬところがありました。次は必ず貴方を倒します」アコライトは曇り無き眼で巨大な敵を見据える。「ブフーッ!」マストドンが怒りに顔を上気させる。「ナメんじゃねえーッ!俺はニンジャだ!」そして再び張り手突撃だ!「ドッソイ!ドッソイドッソイドッソイドッソイ!」

 やはり恐るべきバッファロー殺戮武装鉄道めいた突進攻撃!3メートル巨体から繰り出される張り手と前進は速く重い!「ドッソイドッソイドッソイドッソイドッソイドッソイ!」「ボンジャン!」アコライトは軸足を踏みしめる!そして……繰り出す!「イヤーッ!イヤーッ!」「ドッソイグワーッ!?」

 ゴ……ゴウランガ!同じ事を繰り返すばかりのマストドンに対し、アコライトのそれはまさに反省から生み出された適応のカラテ!踏み込みながらの最初の一撃は拳の裏でマストドンの張り手を弾き逸らし、逆の手は抉りこむようにマストドンの腹部に突き刺さった!張り手突進攻撃敗れたり!

「オゴーッ!?」マストドンが両目を飛び出さんばかりに見開く!アコライトは既に張り手を弾いた手を次なる攻撃準備に入らせていた。「ボンジャン!イヤーッ!」さらにボンジャン・ポン・パンチだ!「グワーッ!」3メートルの巨体がくの字に折れ曲がり、吹き飛んでオブツダン扉を開き壊す!

「勝負あった!」アコライトはザンシンし、息を吐いた。「まだだ」ニンジャスレイヤーが言い放った。「オゴーッ!」マストドンが嘔吐吐血しながら地面をのたうち回る。ガントレットを嵌めたニンジャのカラテが二度もジャストタイミングで直撃したのだ。内臓破裂、助からぬ!「カイシャクせよ!」

「……」アコライトは己の拳を見た。ニンジャのイクサ……!「わかりました」彼は息を吸い込む。「オゴーッ!オゴーッ!」マストドンがのたうち回る。「わかりました……」ニンジャスレイヤーはアコライトを凝視した。二秒後、彼はマストドンへ向き直りざま、スリケン二枚同時投擲!「イヤーッ!」

「アバーッ!」マストドンの両目にニンジャスレイヤーのスリケンが突き刺さる!「サヨナラ!」爆発四散!ニンジャスレイヤーは既に歩き出していた。「気にせずともよい」彼は振り返らず言った。「異常は私だ」「……!」アコライトは言葉を見出せぬまま、その後を続く。

 ……次なる部屋もやはり同様のバトルルーム!奥のオブツダン扉に掲げられた「注意点」のショドー。その下で待ち構えるは、モヒカン飾りのついた鉄兜メンポ、裸の上半身に鋲打ちクロスベルトを装着したニンジャ!「ドーモ。マニプルです」古代ローマカラテの構えを取る!

「ドーモ。アコライトです」「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」二者はアイサツに応えた。マニプルは構えを取りながら、摺り足で間合いを近づける。「先に言っておくが俺はバウンサー時代無敗。ニンジャ相手にもな」マニプルは顔全体を覆うカブトメンポの奥からくぐもった声を放った。

「古代ローマカラテは魔技。全身の骨を折り殺してやる。死に際、貴様らは俺に哀願する。いっそ殺してくれとな」ニンジャスレイヤーはジュー・ジツを構える。眼光がぶつかり合う。油断ならぬ相手だ。「私にもウォームアップの時間を貰おう」アコライトに言った「先に行け。次の敵を倒しておけ」

「ハイ」アコライトは素早く頷いた。「わかりました!」そして奥の扉めがけて駆け出す!ニンジャスレイヤーはマニプルが追撃できぬよう、回り込むように足を運んだ。「オヌシの相手は私がしよう、マニプル=サン」ニンジャスレイヤーは言った。マニプルは嗤った「自信満々の態度が哀願に変わる」

「イヤーッ!」アコライトは飛び蹴りでオブツダン扉を粉砕破壊!廊下を疾走する!背後に二者の戦闘を残し、彼は駆ける!「見るがいい、これが古代ローマカラテ……」マニプルの声が遠ざかる。前方に昇り斜面!さらに、ナムサン、見上げれば、その坂を転がり落ちてくるものあり!炎に包まれた樽だ!

「イヤーッ!」アコライトは跳躍し、炎に包まれた巨大な樽を飛び越す!さらに転がりくる炎の樽!今度は二連続だ!「イヤーッ!イヤーッ!」だがアコライトはまず跳躍して最初の樽を回避、そのまま落下せず壁を蹴って滞空時間を稼ぐと、見事に樽二つを飛び越えた!タツジン!

 坂を昇り終えた彼は緊張した目で前方を睨み据えた。バトルルームの奥に次なるオブツダン扉あり。「効果点」のショドーの下で、次なるニンジャが待ち構える!「ドーモ、ファイアブレスです」黒革ニンジャ装束で包まれた痩せた長身、だがその腹だけが膨らんでいる。メンポの口元でバーナーが燃える。

「ドーモ。アコライトです」「俺様のアンブッシュを躱してここまで来るとは……なるほどニンジャ脚力の持ち主であるか」ファイアブレスが尊大に言った。彼の側には先程の樽と同じものが積み上げられている。これに火を放っては投げ転がしていたのだ!だが、どのようにして?

「悪いがボスはボンズがお嫌いでなァ……ブッダの象徴めかせて火炙りにし、惨たらしく殺してやる」彼は足元の樽を抱え上げた。アコライトはボンジャン・カラテを構える。「かかって来なさい。貴方を打ち破り、先に進みます!」「ぬかせ!イヤーッ!」ファイアブレスは樽を投擲!そして火を吹いた!

 ナムサン!大道芸人の炎と違い、これはジゴクめいたニンジャのカトン・ジツの炎!アブナイ!「イヤーッ!」アコライトは側転からバックフリップを繰り出し、炎を回避!その瞬間、樽が引火して爆発!カブーム!「グワーッ!?」吹き飛ばされて床を転がるアコライト!「誰が同じ樽と言ったァ?」

 ファイアブレスは嘲笑い、再び樽を抱え上げる。おそらく樽の中には火薬が入っており、引火で爆発する仕組み!これでは火吹きだけでなく、時間差の爆発をも回避する必要がある!「どうしたァ!もう一度焼いて欲しいな?イヤーッ!」アコライトを追い詰め、さらに樽を投擲!火を吹いた!

「イヤーッ!」カブーム!「グワーッ!?」爆風を受け打ち倒されるアコライト!直撃ではないが、回避は至難!これでは時間が経つほどにジリー・プアー(註:徐々に不利)だ!「イヤーッ!」さらに倒れたアコライトへファイアブレスが追い打ちのケリ・キック!「グワーッ!」

 アコライトは転がりながら腕のガントレットでなんとか追い打ちをガード!衝撃を受け吹き飛ばされる。ニンジャ脚力が強い!そこへさらにファイアブレスが火吹き攻撃!「焼け死ね!」「グワーッ!」アコライトはまたも炎に包まれる!

「ほう!まだ立つか!」ファイアブレスは樽を抱え上げ、嘲った。床を転がって身体の炎を打ち消したアコライトが立ち上がった。その眼差しは真っ直ぐに不屈!火吹き攻撃そのものは、吹き飛ばされながらもガントレットを眼前でクロスさせ、なんとかガードしたのだ!「私には目的があります!」

「知った事か小僧!」ファイアブレスが罵った。「目的は我々のほうが崇高だ。このガイオンにイヴォーカー神聖皇帝の神聖アンタイブッダ帝国を築き上げるという崇高な目的!ブッダを囲んで警棒で叩く!そしてカネ!女!ドラッグだ!」「それがイヴォーカーの教えですか」アコライトは静かに言った。

「……なんだその目は」ファイアブレスの眉間に血管が浮かび上がった。「なんだその目はァ!」「哀れな」アコライトの目は悲痛の色を湛え、なおかつ決断的な闘志で、ファイアブレスを睨み据えていた。おお、ナムサン……本当にそれは、カンツァイの……いまだ若い修行僧の眼差しなのであろうか?

「ボンズ!ボンズ死ねェー!」ファイアブレスは激昂し、手にした樽を投げつける!そして身をのけぞらせる。火吹きだ。必殺のコンビネーション!「イヤッサーボンジャン!」アコライトが叫んだ。「セイヤッサーボンジャン!」ハヤイ!一瞬の踏み込みであった。自ら飛び込み、拳を繰り出す!ハヤイ!

 それはファイアブレスにとって予想外の反応速度!樽はアコライトの拳に打ち返され、ファイアブレスが火を吹いた時にはその目と鼻の先に飛来していた!ニューロンがついてゆかぬ!火吹きが途中で止められぬ!カブーム!「グワーッ!?」至近距離で自爆!炎に包まれたのはファイアブレスだ!

「アバババーッ、アバババーッ!」「イヤッサーボンジャン!」アコライトが両腕を掲げた。ゴウランガ!見よ!ガントレットが変形している!禍々しきまでの鉤拳!「セイヤッサーボンジャン!」決断的に突き進む!「イヤーッ!」「グワーッ!」可燃油で膨らんだ腹を拳で直撃!「オボボーッ!?」

 噴水めいて油を嘔吐!たちまちそれはバーナーで炙られ、炎と化して降り注ぐ!だがアコライトの第二撃はそれが降って来るよりも早かった。彼は身を一瞬屈めた。そして高く伸び上がりながら斜め上に拳を振り上げる!「イヤーッ!」ファイアブレスの顎を!「グワーッ!」直撃!「サヨナラ!」破砕!

 ナムサン……このワザマエは暗黒カラテ技、ヘブンスルーキャノン!到底一介のレッサーバトルボンズに扱える奥義では無い!即ちアコライトのニンジャソウル、否、それだけにあらず!身につけた謎のガントレットがニンジャソウルの力とアコライトのカラテを化学反応させたとでも言うのか?そんな!

「イヤーッ!」アコライトは異形の篭手でオブツダン扉を突き崩し、次なるバトルルームにエントリーした。……無人である。だがアコライトは歩みを進める。そして「分岐点」と書かれたショドーに見下ろされる次の扉をも、ためらう事なく打ち砕く!「イヤーッ!」

 ……なぜそのバトルルームが無人であったのか?答えは、あまりにも意外!マニプルを打ち破ったニンジャスレイヤーを注目せねばならぬ!彼はマニプルをカイシャクし爆発四散させた直後、青黄マダラ模様のニンジャにアンブッシュを受けたのである!

「ファファファ……ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。貴様は名乗らずともよい。無理であろうからな。私はシースラッグです」「ヌウーッ!?」「あのボンズにイヴォーカー神聖皇帝が敗れる事など万にひとつもあるまいて。そして実際貴様はもはや逃れられぬ。逃れられまい?ファファファ……」

 ニンジャスレイヤーはいかなる状態であったか?それは、奇怪!青黄マダラのスライムめいたニンジャ怪物にその身体をすっぽりと包まれて、呼吸すらできぬ有様!「私は実際ザイバツ・シャドーギルドのニンジャだ。監視カメラでようく見せてもらったが、マニプル=サンを倒すとは確かに警戒対象よな」

 ニンジャスレイヤーはまるで青黄マダラ半透明の潜水服をまとっているかのようであった。それが恐るべき事にシースラッグというニンジャの身体の変化なのである!よろめく!もがく!腕を振り回す!効果は無い!「無駄よ無駄。まあマニプル=サンの努力あってこそのアンブッシュ成立としておこうか」

 ニンジャスレイヤーは膝をついた。首を掴むが、意味は無い。震える。なんと恐るべき攻撃であろう?天井のエアダクトからステルス状態で落下して来たこのニンジャは、ニンジャスレイヤーに頭から覆いかぶさり、包み込んだのである!「排気口は私のファストパスよ。ファファファ……」

 ニンジャスレイヤーは四つん這いになり、苦悶して床を進む。「……!」「いかなニンジャ肺活量の持ち主と言えど、そのエネルギーは無限では無い。息ができねば死ぬ定め。ロクに動く事もできまい。このまま終わりだ。そして神聖皇帝はボンズを排除し、神聖アンタイブッダ帝国を万全のものとする」

「……!」「ブッダを呪え……貴様にもそれが許されている。死にゆくものにも等しく与えられた権利だ。そして我々には、カネ!女!クスリ!全てが与えられる。イヴォーカー神聖皇帝の尊き教えは私が責任を持ってギルドに持ち帰る……貴様の首級とともに……ニンジャは救いなのだと」

「……!」ニンジャスレイヤーはついにうつ伏せに倒れた。ナムサン!これはかなり危険な状態だ!無呼吸そして全身を押し潰す圧力!「ギルドは第九層の闇勢力統一を歓迎している。だが足りぬ。神聖皇帝の尊き教えを浸透させねば。当初、監視者として遣わされた事はまさに運命……まさに使命」

 痙攣の一歩手前だ!ニンジャスレイヤーは手を伸ばす。右手……左手。這い進む。「弱っているなニンジャスレイヤー=サン。なに、死ぬまでにしっかりと神聖な教えを浸透させ、ジゴクでブッダと闘争する神聖戦士に仕立て上げてやるから安心せよ。よいかな、ニンジャは救い……ニン、アバーッ!?」

 ニンジャスレイヤーの右腕が露わになった。その部分だけシースラッグのゲル体が離れたのだ。ナムサン!その腕が押しつけるは、よく油を吸った木片……オブツダン門の側で砕けて散らばり、いまだチロチロと燃え続ける樽の破片だ!マニプルとの戦闘中に騒がしく転がり込んで来た炎纏う樽の残骸!

 高熱によりゲル体は収縮!「アバーッ何を!?狂ったか?貴様も無傷では済むまいぞ!」ニンジャスレイヤーの身体を締め付けていた圧力が緩む!シースラッグが動揺しているのだ!さらにニンジャスレイヤーは手近の別の燃焼片に左腕を押しつける!「アバーッ!?」熱!焼ける!左腕部のゲル体も収縮!

「イヤーッ!」この弛みを見過ごすニンジャスレイヤーではない!力を込め立ち上がる!一歩!二歩!三歩!おお、彼はオブツダン扉のすぐ横にしつらえられた四角い金属のカバーへ近づく。「何をするつもりだ?やめろ!」ふたたび拘束力を増すシースラッグ!「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは呻く!

 だが微かな弛みはニンジャスレイヤーに再び苦闘する余地を与えてしまっていたのだ。苦悶しながら金属カバーをこじ開ける。そこは配電盤!「多大電気」「ヤメテ」「達者のみ」の警告文字も目にまぶしい。「やめろ!やめろ何を……」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはチョップ突きを繰り出す!

 ZZZZZZZZZZZT!「グワーッ!」「アバッバッ、アバババババーッ!?アババババーッ!」チョップ突きは配電盤のパネルを突き破り、配線を破壊した!閃光と火花、煙が溢れる!バトルルームの照明がせわしなく明滅する中、ニンジャスレイヤーの身体からゲル体が剥がれ、後方へ跳ね飛んだ!

 明滅……停電……暗黒、数秒後、電力復旧。ニンジャスレイヤーは背中から薄い煙を立ち上らせながら、床の上で痙攣するシースラッグを見下ろしていた。半透明のゲル体が見る見るうちに個体化し、青黄マダラ模様の装束を着たニンジャとなった。「アバ、アバッ……」

 背中の装束は焼け焦げて失われていた。だがその背中に血が滲み出すと、あっという間に赤黒の装束が織り上げられ、復元された。これは傷の回復を意味しない。しかしニンジャスレイヤーは平静を保った。身体は乾いている。いかなる面妖なジツか、覆っていた液体は一滴残らずシースラッグだったのだ。

「オヌシがいかなる神を信じようと私は構わぬ」ニンジャスレイヤーはシースラッグをジゴクめいて見下ろした。「その神にでも祈れ。あるいはハイクを詠め。カイシャクする」「た、助け」「イヤーッ!」「アバーッ!」ニンジャスレイヤーの踵がシースラッグの頭を踏み抜く!「サヨナラ!」爆発四散!

「……」ニンジャスレイヤーは扉をくぐった。上り坂を見上げる。一歩踏み出す。彼は膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。


◆◆◆


「イヤーッ!」巨大な鉤拳が、一際剛健なオブツダン扉を破壊し、叩き開いた。玉座に座り、チャブの上に寝そべったオイランの裸体に並べたトロとバッファローのスシを手づかみで食べていたイヴォーカーであったが、そのエントリーと同時に立ち上がり、かたわらの6フィートボーを掴んだ。「アァ?」

「チェラッコラー!?」ボンズヤクザ達が一斉に侵入者へ向き直った。彼らもまた5、6人ずつで裸のオイランを囲み、何らかの破廉恥な儀式を行わんとしていたところと思われた。没薬の煙が立ちこめる恐るべき堕落の広間の視線はただ一点、アコライトに集中した。

 アコライトは絶句した。原型をとどめぬまでに恐ろしげに堕落させたバトルカフタンを着、タトゥーで覆われた身体を晒すかつてのボンジャン・ハイボンズの姿が、決断的に突入した彼をして、そのように驚愕せしめたのだ。同門の者達をこの男が虐殺した日から何日経ったろう?「……グノーケ=サン」

「誰だお前?」イヴォーカーは目を細めた。「ボンジャン・ボンズのガキ。さては復讐だな、エッ?生き残りがいたかよ」「私と闘いなさい」アコライトの目に戦闘意志が再び戻った。彼はヤクザボンズ達が目に入らぬかのように、玉座へ向かってツカツカと前進する。両腕には恐るべきガントレット!

「めんどくせェからできるだけ殺せ、そいつのこと」イヴォーカーは冷酷に命じた。神聖皇帝の命令は絶対!ヤクザボンズ達は身構える。手近のものはドス・ダガーを、離れた者らはチャカを抜き、アコライトめがけ殺到する。「ザッケンナコラー!」

「ボンジャン!」アコライトは両脚をまっすぐ踏みしめた。地鳴り!そしてガントレットを嵌めた右腕を地面めがけ突き下ろす!「イヤーッ!」「グワーッ!」殴りつけた地面を中心点に、放射状に不可視の衝撃波が飛んだ。押し寄せてきたボンズヤクザ達は同時に跳ね飛ばされ、得物は虚しく宙を舞う!

 ドス・ダガーヤクザは吹き飛んでチャカヤクザを巻き添えに倒れ伏した。何一つ攻撃機会無し!ゴウランガ!古文書に記されしボンジャン・カラテ、「拒否のハンマー」である。「私の相手は貴方だ!イヴォーカー=サン!」アコライトは中腰の攻撃姿勢を取り、凛として言い放つ!

「ゴミカスがァー」イヴォーカーは6フィートボーを両手で構えた。するとボーの側面にくまなく刻まれたルーンカタカナが脈動し、にわかにその長さが12フィートまで伸びた!コワイ!「てめぇのその腐れ腕だ、特に気に入らねえのは!身分に過ぎたオモチャはぶっ壊す!骨と肉ごとなァ!」

 アコライトのガントレットもまた、その表面に不吉なルーンを一瞬、走らせる。脈打っている。二つのマジックアイテムが互いに呼応しているのか?だが取るべき行動は何も変わらない。アコライトは突き進んだ。「貴方を倒します!」


5

「イヤーッ!」イヴォーカーはボーで殴りかかる。巨体にそぐわぬ身のこなし!培われたバトルボンズの修行とニンジャ瞬発力の賜物である。アコライトは身構え、ガントレットでこれを受ける。衝突部位に不吉な超自然の電光が這う!アコライトは顔をしかめ、よろめいた。「ヌウッ……」

「ハハーッ!」イヴォーカーは嘲った。「百年早い!しみったれの小僧が俺のカラテと闘えると思うか?イヤーッ!」打擲!アコライトは再度ガントレットで受ける!電光が走る。12フィートのボーの打撃力と長大なリーチが、アコライトをその場に釘付けにするのだ!

「ボ……ボンジャン……」アコライトはイヴォーカーを睨んだ。そして渾身のバトルチャントを叫ぶ!「ボンジャン!ハイ!」突き繰り出されるボーを瞬間的な回転フットワークで回避すると、間合いを詰めにかかる!「セイヤッサーボンジャン!ボンジャン!ハイ!」「イヤーッ!」

 おお、ナムサン!無慈悲なイヴォーカーの攻撃はしかし、アコライトの鮮やかな突撃すらも手の内で弄ぶのだ!「グワーッ!」アコライトは悲鳴を上げた。右足の甲をボーがしたたかに突いたのだ。骨にヒビが入ったやもしれぬ。そのコンマ五秒後、ボーはアコライトの顎を直撃していた。「グワーッ!」

 お……おそるべし!おそるべしボンジャン・カラテのマスタリーとニンジャの戦闘能力の相乗効果!最初の打突ははなからアコライトの回避を誘うための囮であり、電撃的な二段攻撃の布石であった。アコライトは吹き飛ばされ、あえなく壁に背中を打ち付け、釘付けとなる!「グワーッ!」

 イヴォーカーは驚くべき速さで壁のアコライトめがけダッシュをかけた。そしてアフリカ戦士の投槍姿勢めいてボーを構え、上体を伸ばしながら突く!12フィートのボーがイヴォーカーの伸ばした手の中で前へ滑る。まるでボーが伸びたかのような錯覚!恐るべき打突攻撃は容赦なくアコライトの胸を打つ!

「グワーッ!」「何だってェ?何つッた?ボンジャンがどうした?エ?」イヴォーカーは頭上でボーを竜巻めいて振り回しながら言った。「俺をどうするって?倒す?倒すのか?俺をか?お前がか?」「ウ……ウ……」「イヤーッ!」「グワーッ!」打突!「イヤーッ!」「グワーッ!」打突!

「……お前らァ」イヴォーカーは不意に手を止めると、打ち倒されたヤクザボンズ達を睥睨した。「これがブッダにへつらう連中が等しく辿る末路だァ」巻き舌で怒鳴る。「よく見ておけェ!」アコライトは半ば壁にめり込み、朦朧としている。実力差は明白なのか!

「「ニンジャが救い!」」ヤクザボンズが唱和した。「そうだ!」「「ブッダが悪い!」」「そうだァ!お利口だな!」イヴォーカーはボーを構える。「ボンジャン大師?クズだ!ブッダは何もしない。人の営みを嘲っていやがる。その事実を受け止めきれず、絶望からカラテに逃げただけだ。現実逃避だ」

「「ニンジャが救い!」」「そうだ!ニンジャが救い!真実を知る! ゆえに俺はニンジャの中のニンジャだ。俺が救いだ。ゆえに俺を貴び、崇めたたえるべし!」「「神聖皇帝万歳!神聖アンタイブッダ帝国万歳!」」

「違う……全然違う」咳き込みながら抗う声あり。アコライトである。若者は壁から身をもぎ離そうともがいた。「未熟者の私にもわかります、違います、答えは……そんな手前勝手な理由付けの中には無いんだ……ブッダはイモータルでは無い……我々と同じです!」「それがクソだッてんだよ!」打突!

「グワーッ!」アコライトが苦悶する。イヴォーカーは責めた。「カラテを鍛えて、粥を食って?それで誰か救われんのか?救われんのか?俺は答えを出した。カネ!ドラッグ!セックス!俺が与える!ニンジャの、ブッダ破壊者の俺が!俺が神聖皇帝だ!俺が神だ!お前は答えが無い!だから黙れ!」

「りゃ……略奪、暴力、他人を踏みつけにして調達した富で救うのですか?誰を救うのですか?」アコライトは黙らぬ!「私にもわかる!弱い人々をブッダで救いたい、そうした人々の大義はわかります。でも貴方はそうした人々とは違う。貴方の理屈は何かがおかしいです!どこかおかしい!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」打突!ボーの先端がアコライトの胸を打ち、ねじりあげる。アコライトは苦しみながら、ガントレットをはめた両手でそのボーを掴んだ。「貴方をこのまま見過ごせはしない!」「黙れッてんだよォ!」

 イヴォーカーは再度の打突のため、ボーを戻そうとした。だが戻らぬ。アコライトが押さえつけているのだ。「小癪なガキ……」イヴォーカーの背中の筋肉が膨れ上がる!「イヤーッ!」イヴォーカーはアコライトが掴んだままのボーを壁から高く振り上げ、アコライトごと床に叩きつける!

「グワーッ!」アコライトは背中から床にぶつかった。床板に亀裂が拡がり、アコライトは血を吐いた。「死ね!」イヴォーカーは素早くボーを振り上げ、打ち下ろした!「イヤーッ!」アコライトは腕を交差させて受ける!電光が閃く!「死ね!」再び振り上げ、打ち下ろす!「イヤーッ!」再度受ける!

「俺が救いだ!俺はニンジャの中のニンジャだ!俺は神だ!お前は死ね!黙れ!」「死にません!黙りません!」繰り返し振り下ろされるボーをガントレットで弾き返しながら、アコライトは徐々に身を起こし、立ち上がった。「黙れ!黙れ!イヤーッ!」「イヤーッ!」

 振り下ろされるボー!アコライトはこれを正面から殴り返す!電光が一際強く周囲に飛び散った。「グワーッ!?」「グワーッ!」遠巻きに取り囲むヤクザボンズの何人かが電光を受けて悲鳴をあげる!そして、ナ……ナムサン?ガントレットが破砕?否、これは?ゴウランガ!?

 アコライトのガントレットはこの打撃により、稲妻の中で鉤拳を蒸発させていた。残るは手首と手の甲、腕先の装甲だけだ。悪魔めいた外殻が溶け失せると、そこに現れたのは……名状しがたい色彩を脈打たせる……ブレーサー……!

「ウヌーッ!」イヴォーカーは飛び下がり、間合いを取った。その手のボーは煙を噴き出しながら収縮し、6フィートの長さに戻っている。ボーはイヴォーカーの手の中で小刻みに震動していた。アコライトのブレーサーも同様だ……!

「何だァ……そいつはァ……!」イヴォーカーは歯をむきだした。「邪魔くせえぞ……」(((封じよ)))イヴォーカーのニューロンに、正体不明の何者かの声が反響した。(((神器を封ぜよ。聖なるボーをもて神器を封ぜしめよ)))「あァ……?」

「神器?知った事かよ。だが……」イヴォーカーは舌なめずりした。そして6フィートに収縮したボーを振った。「そんなら、キアイ入れんかい。チカラ見してみィや」応えるように、ボーの側面のルーンカタカナが青白い光を帯びる。稲妻がボーを包み込んだ!「これだ!これよ!」

 一方、アコライトは足早にイヴォーカーめがけ接近してゆく!両腕のブレーサーはボーと同じ周期で光を脈打たせている。アコライトは近づく……カラテを構える!イヴォーカーが仕掛ける!「イヤーッ!」

「イヤーッ!」アコライトがボーを右腕のブレーサーで弾く!驚くほどの瞬発力で、彼はイヴォーカーのワン・インチ距離にいた!そして逆の手で拳を叩き込む!「イヤーッ!」「グワーッ!?」横面を殴られ、のけぞるイヴォーカー!「イヤーッ!」さらに踏み込む!右拳……ポン・パンチ!

「グワーッ!?」「イヤーッ!」「グワーッ!」ゴウランガ!右拳がイヴォーカーの腹部を捉えるや、アコライトはさらに踏み込み、再度右拳を突き出していた。二段打撃のポン・パンチだ!イヴォーカーは吹き飛び、壁に叩きつけられる!アコライトは吠えた。その目は燃えていた。ニンジャの衝動に!

「は、話が違うじゃねえか……」イヴォーカーは思わず己のボーを見た。既にアコライトが踏み込んできている!「イヤーッ!」右拳!「グワーッ!」「イヤーッ!」左拳!「グワーッ!」

「イヤーッ!」右拳!「グワーッ!」「イヤーッ!」左拳!「グワーッ!」「イヤーッ!」右拳!「グワーッ!」「イヤーッ!」左拳!「グワーッ!」「イヤーッ!」右拳!「グワーッ!」「イヤーッ!」左拳!「グワーッ!」

「やめろ!」アコライトは拳を叩き込む!「グワーッ!」イヴォーカーは虫の息だ!「やめろ!」アコライトは拳を叩き込む!「グワーッ!」「やめろ……!」アコライトの拳が逸れた。壁を殴った。「やめろ……」アコライトは絞り出すように言った。「ゴボッ……オゴッ」イヴォーカーが血を吐いた。 

 アコライトは手を押さえ、後ずさった。イヴォーカーはさらに咳き込んだ。「ゴボッ……ゴホ、ウ……ウハハハハハ!」その目が凶悪な輝きを帯びる!アコライトめがけ踏み出す!稲妻をまとったボーの打突が、アコライトの腹部を直撃した!ウカツ!「グワーッ!」腹を押さえ、苦悶!

「お優しい小僧だなァおい!」イヴォーカーがアコライトに唾を吐きかけた。「ああ……力が湧いてくるぜ、いい気分だ」その巨体はボーを伝う稲妻で包まれ、放電を繰り返している。「ちゃんとトドメをさせよ!こうやってなァ……イヤーッ!」「グワーッ!」

 アコライトは地面に叩き伏せられた。イヴォーカーはさらにそれを打擲!「イヤーッ!」無慈悲!「グワーッ!」「ブザマ!ははは!ブザマだぜ!やれ!」イヴォーカーが指示を出すと、忠実なヤクザボンズの数名がアコライトの四肢を押さえつけた!「へはははは!」

 イヴォーカーはしゃがみ込むと、押さえつけられたアコライトの両腕からブレーサーを剥がしとった。「あちッ!ははは……物騒なもん身につけやがって」イヴォーカーはボーをヤクザボンズに持たせると、ブレーサーを自らの腕に当てた。不思議な事に、装具は彼の太い腕にぴったりのサイズとなった。

「こいつはいいぜ……はははは」両手を握ったり開いたりし、新たな装備を満悦の目で見た。そして、新たな入室者の方角を見やった。「おう、おう、どう思う?これをよ。お前で試してやろうか、え?試してやるよ」彼は威圧的に言った。その赤黒のニンジャに向かって!

「イヤーッ!」答えるかわりに、ニンジャスレイヤーは竜巻めいて回転した。複数枚のスリケンが放射状に射出される!「「グワーッ!?」」アコライトを押さえつけていたヤクザボンズが全員死亡!回転終了と同時にイヴォーカーへオジギする!「ドーモ。イヴォーカー=サン。ニンジャスレイヤーです」

「ドーモ。イヴォーカーです。お前がこの小僧を……」とアコライトの頭を蹴り、「……そそのかして、俺の神聖アンタイブッダ帝国を脅かしに来たってわけか?エエッ?シースラッグも、大口叩いた割には使えねェ奴よのォ」「アコライト=サン」ニンジャスレイヤーは無視し、アコライトに言った。

「……ニンジャスレイヤー=サン……力至らず……」アコライトは顔をあげ、声を絞り出した。「オヌシはよくやった」ニンジャスレイヤーは言った。「後は私に任せておけ」そしてイヴォーカーにジュー・ジツを構えた。「……ニンジャ殺すべし」

「死ぬのはてめェーだろがァ!」イヴォーカーは下卑た笑い声を上げた。彼の身体には今、超自然のエネルギーが満ちており、精神はバリキめいて異常に高揚しているのだ。「ボーをよこさんかい!」ヤクザボンズを殴り倒し、ボーを掴み取る!「俺は無敵!神……グワーッ!?」

 ALAS!こ、これはいかなる事か?イヴォーカーは熱された鍋を素手で掴んだかのように、苦しんでボーを取り落とした!床の上を転がるボーは、まるで怒っているかのように激しく放電している!「何だとォ?役立たずがァ!」イヴォーカーはボーを蹴り飛ばす!「来い!来やがれ!ハハハハ!」

 イヴォーカーはブレーサーをはめた両拳を激しく打ち合わせた。見る間に凶悪な装甲が結晶めいてブレーサーの表面、そして拳に育ち、恐るべき鉤拳を作り出した。「イヤーッ!」イヴォーカーが殴りかかる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転!同時にスリケンを投擲!

「ハハハハハ!」イヴォーカーはスリケンを腕ではたき落とした。腕先の結晶は育ち続け、その肩口までを凶悪な装甲で覆い尽くしている。「これよこれ、この力よ」イヴォーカーは笑い続ける。「ケチなボーよりイイじゃねェか、これが真の宝ってわけかよ!ガキじゃ持ち腐れってわけだなァ!」

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは踏み込み、サイドチョップで襲撃した。脇腹に痛打!「グワーッ!」イヴォーカーは苦悶!だがすぐに笑い出す!「なんつッてな!イヤーッ!」「グワーッ!」振り下ろす鉄槌めいたパンチがニンジャスレイヤーを吹き飛ばす!ナムサン、彼は手負いだ……!

「あーイイ、あーイイ……」イヴォーカーは笑い続ける。ヤクザボンズ達は不安げにお互いを見交わす。彼らの従う神聖皇帝は今後、あの歪んだ教義をすら、口にのぼせる事はあるのだろうか……?「あーイイ……ハハハハ」既に肩と胸が奇怪な装甲に覆われている。装甲は育ち続ける……!

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは立て続けにスリケンを投げ続けた。「ハハハハ、ハハハハ」イヴォーカーはもはや身を守りすらしなかった。イヴォーカーの姿は既に人のそれではない。全身を奇怪な甲冑で覆ったブッダデーモン……!

「イヤーッ!」イヴォーカーがニンジャスレイヤーの目の前に飛び込んだ。ハヤイ!丸太めいた蹴り!「グワーッ!」ガードするが、耐えきれぬ!彼は手負いなのだ!床を転がり、ヤクザボンズが巻き添えに転倒!「グワーッ!」

「ボー、を!ニンジャスレイヤー=サン!ボーを」アコライトが力を振り絞って叫んだ。「イヤーッ!」イヴォーカーがニンジャスレイヤーを蹴り上げに行く!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転回避!彼は躊躇わなかった。三連続側転し、さらにバックフリップ!着地と同時にボーを拾い上げた!

 放電を繰り返すボーを手にするや、ニンジャスレイヤーの手負いの身体にその超自然のエネルギーが流れ込んだ。手負いの身体をバリキめいた活力が満たしてゆく。彼は不快な爽快感に眉をしかめた。ボーを振り回し、構える。「オオオオーン」イヴォーカーが機械めいて抑揚のない叫びをあげ、迫る!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは稲妻めいた速度でボーの打突を繰り出す!「グワーッ」胸を突かれ、イヴォーカーがよろめく。「イヤーッ!」「グワーッ」さらに打突!ニンジャスレイヤーはヒュンヒュンと音を立ててボーを振り、しならせる。機械めいて向かってくるイヴォーカー!

「イヤーッ」イヴォーカーが踏み込み、ボンジャン・ボンズの名残りめいた蹴りを繰り出す。ニンジャスレイヤーはボーを垂直に立て、壁めいてこれをガード!さらに跳躍、ボーを支点にして回転しながら両脚で蹴る!「イヤーッ!」「グワーッ」そのまま飛び上がり、空中で縦回転!ボーを振り下ろす!

「イヤーッ!」「グワーッ」頭頂部を打たれ、ブッダデーモンが身を屈めて苦悶!着地したニンジャスレイヤーはさらにボーで打突攻撃を繰り出す!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「グワーッ、グワーッ、グワーッ」激しい打突で背後の壁まで追い詰められるイヴォーカー!

「イヤーッ!」「グワーッ」打突!「イヤーッ!」「グワーッ」打突!「イヤーッ!」「グワーッ」打突!「イヤーッ!」「グワーッ」打突!「イヤーッ!」「グワーッ」打突!「イヤーッ!」「グワーッ」打突!ナ、ナムサン!打突は一打ごとにイヴォーカーの装甲を剥がしとってゆくではないか!

「イヤーッ!」「グワーッ」打突!イヴォーカーの顔面を包んでいた装甲が破砕!破戒ボンズの顔が露わとなった!「こんなバカな……こんなバカな」ニンジャスレイヤーのカイシャクめいた攻撃の予備動作へ反射的に手をかざす。「俺は神。神聖皇帝」「否。オヌシはただのニンジャ。一人の堕落者だ」

「やめ……」「イヤーッ!」打突!ボーがイヴォーカーの胸を貫く!KRA-TOOOOM!閃光が爆発!ニンジャスレイヤーは吹き飛ばされた!「グワーッ!」イヴォーカーは?おお、なんたる事……胸に突き刺さったボーから電撃を受け続け、ジゴクめいて叫び続ける!「グワーッ!グワ、グワーッ!」

イヴォーカーは狂ったようにたたらを踏み、吐瀉物を撒き散らす。装甲は腕先だけとなり、それすらも電撃によって溶け、滴り落ちると、もとのブレーサーが残された。ボーもまた溶け崩れていた。そこには憔悴しきったイヴォーカーが再びあった。獣じみて唸り、口の端から吐瀉物とヨダレを零し続ける。

「ハーッ……俺の世界……ブッダ」荒い息を吐きながら、イヴォーカーはアコライトを、ニンジャスレイヤーを、己の玉座を見た。ニンジャスレイヤーは歩みを進める「ハイクを詠め」「バハァーッ!」跳んだ!イヴォーカーが!なんたるニンジャ跳躍力!「!」天井の空調パイプに猿めいてしがみつく!

 往生際が悪い!ニンジャスレイヤーはスリケンを構えた。「お、俺の世界!」イヴォーカーはパイプを伝い、コケシシャンデリアに登ると、その根元、天井のパネルを恐るべき腕力で叩き壊した。「焼け落ちろ! 全部だ!ブッダ!死ね!」パネルの中には怪しげなレバー!それを引き倒す!

 ブガー!ブガー!響き渡る警報音!地鳴り!自動マイコ音声!「システムシャットダウン、この施設は自爆重点。カラダニ…ザザッ」「ハハハハハ!皆でオタッシャだ!救いだ!」イヴォーカーがコケシシャンデリアの上で狂い笑う。それを吊る鎖が揺れと共に切断され、諸共に落下した。「アバーッ!」

「ヌウッ……!」ニンジャスレイヤーは後ずさった。「アイエエエエ!」ヤクザボンズ達が喚きながら出口へ殺到する。天井に亀裂が走り、落下したシャンデリアの上に次々にコンクリート塊が降り注いだ。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは倒れ伏すアコライトのもとへ跳び、抱え上げた。

「ザザッ……カラダニキヲ……ザザッ……ツケテネ、ザザッ」崩落……地鳴り……爆発!崩落!「イヤーッ!」崩落……崩壊……!


◆◆◆


 アコライトは目を開いた。難儀して起き上がった。傍にはニンジャスレイヤーが立ち、腕組みして、崩れ落ちた神聖アンタイブッダ帝国の宮殿跡を眺めていた。「イヴォーカー……グノーケ=サンは」ニンジャスレイヤーは無言で首を振った。彼はヤクザボンズの列を見ていた。

 それは、なんとも言えない光景であった。崩落を逃げ延びたヤクザボンズ達……彼らは列になり、廃墟と化した宮殿の傍らの焚き火の前まで順に歩いてゆくと、信仰の証であるバトルサムエをしめやかに脱ぎ、火の中に投げ込んでいるのだ。

 バトルサムエを脱いだヤクザボンズ達はみな下着姿だ。アンダーガイオン九層の閉鎖空間とはいえ、人の住まぬ僻地。寒い外気にさらされて、くしゃみを繰り返す者もいた。彼らはやはり列を為し、なかば呆然とした様子で、居住区の方角を目指して歩いてゆくのだった。

 ルーザーの列にオイランがつきまとい、手を引いては、邪険に跳ね除けられていた。「ねえ、あっちの陰であったかく前後するドスエ、実際安いドスエ」「カネなんかねぇよ!あっち行けよ!」なんたるマッポー的光景か……!「アコライト=サン」ニンジャスレイヤーが言った。「ハイ」

「オヌシはこれから先、どうする」彼はアコライトを見た。「テンプルへ帰ります。……生き残った仲間がいます」アコライトは言った。「復興……何をどうすればよいか、正直わかりませんが……私は以前の千倍、自己を強く律して行かねばならぬと感じています」「奴と同じ轍を踏まぬようにか」

「……ハイ」アコライトは頷いた。「私は恥を晒しました。己の中のニンジャに負けた……」「……」ニンジャスレイヤーは腕組みして、ただアコライトを見る。彼はイヴォーカーとアコライトのイクサを、どの時点から目撃したのだろう。やがて言った。「……オヌシは、よくやった」

「……」二者はしばし黙った。やがてアコライトが訊いた。「貴方は今後、何を?」「知らぬがよかろう」ニンジャスレイヤーは言った。「オヌシの気に入る生き方では決してない」「……」アコライトはニンジャスレイヤーを見た。そして立ち上がり、オジギした。「ありがとうございました」

 彼が顔をあげた時、既にその男の姿は無かった。アコライトは手を合わせ、虚空に向ってもう一度オジギした。


エピローグ

 ……その数週間後!

「ハァーッ、ハァーッ、ヘェーハハーッ……」獣は残像まみれの濁った視界に獲物を捜しながら、路地の角を曲がり、壁を蹴って、さらに胡乱な地域へ駆け進んだ。いた。獲物。路上マイコの安物香水の匂いに獣は欲情した。「へへヘェー」「ア、アイエエエエ!」「イヤーッ!」「アーッ!」

 ……女の白い腕を咥え、獣はさらに胡乱な地域へ駆け進んだ。人!人だ。殺す!殺して救われたい!ブッダに救われたい。後姿!あれだ!やった!ニンジャ?ニンジャが振り向く。オブシディアン色の装束を着たニンジャだ。ニンジャ!ニンジャ!殺す!「へへへェーへへ!」獣は笑った。

 獣は両腕を威圧的に振り上げた。全身を覆うのはブッダに贈られた聖なる装甲だ。獣は数週間かけて傷を癒し、鎧を育てた。何人も殺し、血を啜った。この前はニンジャも殺した。そして喰った。ニンジャだからといって、特に怖くはない。獣にはカラテがあり、神器の力がある。神器。ジンギ!

「ハッ……ハッ」獣は涎を垂らした。視界の端で「秩序者」のネオン看板が火花を吹いた。ニンジャは獣に向かってオジギした。「ドーモ。ダークニンジャです」ニンジャはオジギするものだ。獣は嘲笑った。ニンジャをカラテで殺す。ブッダ!救ってください。口をついて出るのは唸りだ。「オゴゴ……」

「探したぞ」ニンジャは言った。「まるで獣だな。悪いが命は奪う」「オゴ……ハハハ」ニンジャはニンジャソードを水平に構えた。獣は思案した。さあ、どこから喰ってやろう。この前のニンジャ……ザイバツ……泣きながら救いを求めていたな。救いだ。皆、救いが欲しい。獣は襲いかかった。

「イヤーッ!」「グワーッ!?」獣は悲鳴を上げた。いない。ニンジャがいない。胸に横一直線の切り傷が開く。だが獣の装甲は厚い。神器は素晴らしい。獣だけが神器を我がものにできる。一つになれる。獣は振り返った。「イヤーッ!」「グワーッ!」

 振り向いた瞬間、視界の端にニンジャが映った。だがまた消えた。また胸に横一直線の切り傷が開いた。同じ箇所だ。獣は痛みを感じた。おかしいな。ニンジャはどこだ。獣は振り返った。「イヤーッ!」「グワーッ!」

 振り向いた瞬間、視界の端にニンジャが映った。だがまた消えた。またも、胸に横一直線の切り傷が開いた。今度は血が噴き出した。痛い!苦しい。深い!ニンジャはどこだ!獣は振り返った。「イヤーッ!」「グワーッ!」

 胸の傷をこじあけるように、ニンジャソードが深々と突き刺さっていた。獣は震えた。その身を覆う装甲に無数のヒビが入り、バラバラと崩れ落ちた。「アバッ……」「……」ニンジャは目を細めた。「……心は残っているのか?名前は?」「アバッ……」獣は震えた。血と共に、口から声を絞り出す。

「……アア……ウウウ」血泡を吹いた。獣は口を動かした。「……忘れ……忘れた」「そうか」ニンジャは低く言った。そして切っ先を捻じり、心臓を破壊した。「サヨナラ」獣のニューロンに白いノイズが拡大した。無が訪れた。

 ……ダークニンジャはブッダデーモンめいた怪物の爆発四散跡にかがみ、目的の神器を……無傷で残るブレーサーを手に取った。そして身を翻し、消えた。


【ガントレット・ウィズ・フューリー】終


N-FILES(設定資料、原作者コメンタリー)

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