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S4第2話【ケイジ・オブ・モータリティ】分割版 #6

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 ……69階。

 トミ・タクはコインランドリー室に身を潜め、毒づきながら銃をリロードする。「チックショ……ナンダッテンダヨ」タンクトップが白く、肩には「御利用」の漢字が荒々しい。ザンキ・ギャングの古参として、ポンポンの上層階で暮らすことを許されたカチグミといえる。だが、今は。

「マジ、こんなんありえねえから……チャメされてッから!」リボルバーに込める事ができた弾丸は四発のみ。残弾はそれで最後だ。念の為、ランドリー室に武器がないか探したが、当然そんなものはない。「絶対ブッチャメしてやんよ……最後まで諦めねえぞ……!」乾いた唇を舐め、通路に身を乗り出す。

「アー……」左横! 息遣い! トミは素早く銃を向け、見る前に撃った。BLAMN!「アバーッ!」顔面を撃ち抜かれ、痙攣しながら倒れ込んだのは……「ドンジ=サン?」兄弟分! トミは慌てて助け起こした。「す、すまねえ! お前だったなんて」「ひでえ……なんでこんな事するんだよ……!」

「かすり傷だ」介抱しながら、トミはドンジの懐に財布を探り、ハンドガンが無いか確かめた。「クソッ、お前丸腰なのかよ」「い、痛くねえ、たしかに大丈夫だ」「え?」「キラキラしてんだよ。お前もキラキラしてるぜ」「何を……」「アバーッ!」背後! 元スモトリのコドヤマが走ってくる!「アバーッ!」

「アイエエエエ!」BLAM! BLAM! BLAM! トミは撃ちまくった。弾切れだ。コドヤマはくずおれる。だが、「アバーッ!」銃撃で弾け飛んだ部位から羽虫が溢れ、トミとドンジに襲いかかる!「アイエエエエ!」羽虫が食らいつく!「イイーッ!」ドンジは恍惚!「……イイーッ……」トミもやがて恍惚とした。

 ……73階。

 プッピピーブ。ピーブピブブー。ゲーミングUNIXデッキが1677万色発光しながらBEEP音を鳴らす。電子ドラッグのシノギで暮らすカカキは暗い室内、電光にまみれ、ゲーミングに没頭していた。商品には出さない一番の取っておきが首のソケットに挿さり、ゲーミングの色彩を千倍鮮やかに見せる。

「エー。カカキ=サン、もしかして昨日からやりっぱなし?」「ア?」戸口に現れたガールフレンドのミミコをカカキは見る。「昨日? なワケないじゃん。128時間ブッ続けだぜ! ギャハハ!」「もォー。じゃあ、変な噂とか、騒ぎとか、知らないでしょォー」 「ア? 何が?」「上と連絡つかないんだよォ」

「連絡つかねえ? そんなのよォ」カカキはミミコを抱き寄せ、膝に座らせた。「下ともついてねえぜ! ギャハハ!」「笑い事じゃないよォー。ピザとってよォ」「ア? だから言ってんだろ、72階のザンキ・ピザと連絡つかねえッて。ころすぞ?」「ころすゥー」ミミコは白目を剥き、口を開いた。「え?」

「アバー……」「ちょ……積極的すぎンよ」「アバー……」「ヤメ……ロって! ころすぞ!」「アバー」「アイエエエエ!」「アバー」……「……イイ……」ボン、と音を立てて、タコ足配線の電源が火を吹き、部屋が闇に包まれた。数十秒後、外に蝿の群れが飛び出した。

 ……78階。

「オイ! キリキリやれよ! 時間そんなにねえぞ!」電子詐欺チームのキャンダは手下のスモトリ崩れ二人に廃看板を運ばせ、踊り場の封鎖を急がせていた。「「ラッセーラ!」」KRAASH! 看板の柄、バナナが自分を剥く「バナナくん」、ショットガンがリロードする「ショットガンくん」の笑顔。

「キャンダ=サン……だけどさあ」スモトリの一方が頭を掻いた。「必要あんのかなあ、こんな事……」「必要? ア? 死にてェのか?」「だって、ミコー様は僕たちの為を思ってるんでしょう?」「僕もそう思うなァ」もう一方のスモトリが頷いた。「こんな風にしたら、お告げがもらえないよ」

「アホが!」キャンダは苛々と携帯端末を操作する。ボンボリ区の外に高級車を盗みに行っている兄弟分に連絡を試みるが、なかなか折り返して来ない。「だいたいなァ、俺は納得いってねえんだよ。どうもニオうんだよ。ボスが死んだとこ、ボイコット=サンしか見てねえんだぞ?」ボイコットはナンバー2の男だ。

 ボイコットはボスのブラッドサッカー同様、ニンジャであり、ボスとの付き合いも一番長かったが、日頃からボスの気まぐれな暴力に晒されていた。積年の恨みがあったであろう事が察せられる。密室で葬儀が行われ、後継者が決まり……ミコーが現れたのだ。「俺は認めてねえぞ。王なんてのは」

 王。ミコーが神託を授かる上位存在。ミコーは御神体をザンキ・ギャングに分け与える。キャンダはあれこれ理由をつけて御神体授与の順番を先送りにして凌いできた。今となっては正しい判断だ。誰も彼もおかしくなった。この階以外は全て危険だ。籠城し、外の助けを待つ。「よくないよォ、そういうの」

「ア?」キャンダはスモトリを見た。「今、口答えしたか? テメェ」「だって、僕たちモータルは、カカッ、カカ……役ッ、役に立つんだよ? 来たるべき闘争で、僕たちが、バイ、バイ、バ……」痙攣。「培地」もう一方のスモトリが言葉を継いだ。「培地ってなんだろう? キャンダ=サン、わかる?」

「わ……わからねえな……」キャンダは後退りして、壁に立て掛けたショットガンを掴み取った。スモトリ二人がよろめきながらキャンダに近づこうとした。キャンダは躊躇せず撃った!「お前らが終わっちまった事以外はな!」BLAMN!「アバーッ!」BLAMN!「アバーッ!」ダブルヘッドショット! だが!

 わあんわあんわあんわあんわあん! 撃たれて破裂したスモトリの体内から蝿が噴き出し、キャンダに襲いかかったのだ!「アイエエエエ! アイエエエエー!」BLAMN! BLAMN! 数度の抵抗銃撃! だが、彼もやがて光る霧の中で動きを緩め……「……イイ……」ナムアミダブツ!

 ……86階。

 赤色LEDの明滅が、両手をだらりと垂らしたザンキ・ギャング達を照らす。等間隔に並び立ち、声を発する事はない。ガラス壁の向こう、オフィス・スペースであったとおぼしき場所で、ニンジャ頭巾をかぶったギャングが緩慢なUNIX操作を継続している。

「……アー……」彼、ボイコットは、UNIXモニタに表示されたアラート表示に身を震わせ、ゆっくりと椅子から立ち上がった。オフィス・スペースを出た彼はおぼつかない足取りで廊下を進む。直立不動のギャング達が反応する事はない。ボイコットは階段方向に進む。侵入者を出迎えねばならない……。

 ……60階。

「ハァー畜生……クソが!」罵りながら階段を駆け上がるインシネレイトと、その横を黙々と並走するガーランド、二人のこの状況の受用態度は真逆といえた。「おかしいだろうがよ! こンなのはよォ! そう思わねえンスか、ガーランド=サン!」「ああ、面倒だ。だが……」

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