ジ・アフターマス
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ニンジャスレイヤー第1部「ネオサイタマ炎上」より
【ジ・アフターマス】
1
見渡す限り、白茶けてヒビ割れた平坦な荒野であった。雷を含んだ重苦しい雲が上空をどこまでも覆い、煤混じりのネバついた雨が降り続けていた。重金属混じりの酸性雨ともまた違う、コールタールのような雨だ。
上空をときおり通過するのは、なんらかの調査目的と思われる政府の飛行艇である。地上へサーチライトを投げかけながら、高速で飛び去ってゆく。不運なものは雷の直撃を受け、煙を噴き出しながら、地平線に音もなくゆっくりと沈んで行く。
かけらほどの命すら見えぬ不毛。これすなわち、小規模核爆弾「バンザイ・ニューク」によって引き起こされたマッポー的な光景である。
かつてヒカリ=サン・シンガク学園都市を形作っていた高層ビルの廃墟や灰色の竹林といったものはバンザイ・ニュークの衝撃波によってあらかた舐め尽くされ、無情なサップーケイと成り果てた。
そのサップーケイ荒野を、機械的な歩調で歩き続ける生命体があった。
その生命体は……人間である。そして、ニンジャだ。赤黒のニンジャ装束を着たニンジャが歩いているのだ。肩に担いでいるのは、大きな袋……違う。ドラゴンの刺繍をほどこされたニンジャ装束である。生死が不明な老ニンジャを担いでいる。
いかにも。読者の皆さんのお考えの通りである。彼こそはニンジャスレイヤー、フジキド・ケンジ。生死不明の老人はドラゴンドージョーのマスターセンセイ、ドラゴン・ゲンドーソーである。
ソウカイ・シックスゲイツのニンジャ、ヘルカイトの指示で引き起こされたあの恐るべき爆発を、いかにして生き延びたのか。確かにあの時、二人は高層ビルから足を滑らせ、爆発の中に飲み込まれて行ったはずだ。
生存の謎への答えはもちろん、ニンジャスレイヤーと瀕死のドラゴン・ゲンドーソーによって咄嗟に行われた驚くべきジツであった。
ドラゴン・ゲンドーソーをかばいながら垂直落下したニンジャスレイヤーは爆発に取り込まれた。しかし彼の非凡なニンジャ耐久力は、数秒間の爆炎を耐えしのいでみせた。落下の勢いでニンジャスレイヤーは垂直に深い竪穴を掘り、その奥底でじっと息を潜めた。ドトン=ジツである。
その縦穴の中、二人は数十時間にわたり、ぴくりとも動かずに耐えしのいだのである。そのとっさの判断、いまだ未熟なフジキドの自然な発想ではありえない。落下中に行われた数秒のドラゴン・インストラクションの賜物であった。
ニンジャスレイヤーがまっすぐ歩く方角の先には、カゲロウのように、色とりどりの光の粒が揺れている。ネオサイタマ、霞ヶ関の高層ビル群が発する明かりが、かろうじてこの地にまで届いてくるのだ。
「……脱したかフジキド」担がれたドラゴン・ゲンドーソーが口を開いた。「センセイ!」僥倖!ニンジャスレイヤーは色を失った。「ご無事で……!」
「ムネン、わしの体内には、あの得体のしれぬ毒がいまだ巣食っておる。手足を揺らすもままならぬわい。まこと、ウカツであった」「センセイ……」
二者はそれきり言葉を交わさず、数時間歩き続けた。やがて再びドラゴン・ゲンドーソーが口を開いた。「よいかフジキド。ドラゴン・フォレストだ」「ドラゴン・フォレスト?」
「さよう。ネオサイタマのメガロ工業地区の懐に、いまだ汚されぬ鎮守の森がある。ネコの額ほどの狭い土地だ。そこには我がドラゴン・ニンジャ・クランと兄弟の契りをかわしておったアワビ・ニンジャ・クランの守護神を祀るシュラインが……ゴホッ!ゴホッ!」「おカラダに障ります!」
「アワビ・ニンジャ・クランの血筋ははるか昔に絶えて久しいが、だからこそ…彼奴らも注意を払う事など……ゴホッ!そこまで……そこまで辿り着けば、残るインストラクションを……オヌシを完全なニンジャに…ゴホッ!ゴホッ!」ドラゴン・ゲンドーソーは再び気を失った。
ニンジャスレイヤーは担いだ老人に気遣わしげな一瞥を送ると、遠い街のネオン陽炎を見やり、目を細めた。「ドラゴン・フォレスト……」
「妙ダゾ。歩イテクル。アレハ?」「グラウンドゼロの方角からか?」「ソウダ。……イヤ待テ……マサカソンナ…アレハ……」「おれ、俺にも見せてくれガントレット=サン。俺のスコープじゃサッパリだ」「アレハ…?アレハ、アレハ、ニンジャスレイヤー!?」「なあ、俺にもスコープを…何だって!?」
ヒカリ=サン・シンガク学園都市の跡地を臨む絶壁上。イラクサの茂みからガバリと身を起こしたのは、ブキミ極まりないシルエットだった。ゴミと枯れ草をこねあわせたような、毛むくじゃらのビッグフットのような怪物的な姿が、二名。
その一人が背中のあたりをいじると、怪物の毛皮めいたものが内側から開き、中から枯れ草色のニンジャ装束を着た男が現れた。「ニンジャスレイヤーと言ったか?スコープを見せろ、早く!」「コラ、オレノ、ギリーニンジャ装束ヲ、カッテニ脱グノジャナイ!」「うるさい!こんなもの、着ていられるか!」
枯れ草色のニンジャはいまだ"ギリーニンジャ装束"を着たままのもう一人からスコープをひったくった。それを覗き込み、絶句した。「ブッダ!ありゃ本当にニンジャスレイヤーだ!」
「トリアエズ、ヘルカイト=サンニIRCデ報告ヲ……」「おお、そうだ…いや待て」枯れ草色のニンジャは、携帯IRCを操作しようとしたギリーニンジャ装束のニンジャを制した。「やめろガントレット=サン。ダメだ」
「ナゼ?」ガントレットと呼ばれた異形ニンジャは小首を傾げた。センチピードはガントレットに向き直り、「こいつは運が回ってきたってもんだろうが!考えろガントレット=サン。あのいけすかない野郎に手柄をくれてやる必要は無い」
「フウム」ガントレットは顎を掻きながらしばし沈思黙考した。その手に装着された無骨な特殊ニンジャ小手が、コードネームの由来であろう。ガスマスクに似た特殊メンポが禍々しい。「一理アル」
「だろおがぁ!」センチピードはのけぞるようにして言った。「ちょっとタコに乗るのがうまいからって、うまうまとシックスゲイツの六人に収まりやがって!若造が!」「……ヤツノ実力ハ実際タイシタモノダゾ、センチピード=サン」「俺は認めねえ!」「嫉妬ハ判断ヲ鈍ラセル」
「とにかく!ニンジャスレイヤーと、ドラゴン・ゲンドーソーがセットだ。アブハチトラズ!しかも奴ら、あのバンザイ・ニュークで死ななかったのが不思議なくらいなんだ。実際死にかけなんじゃねえか?」「一理アル」
「いいか!手柄はヤマワケだ!ヘルカイトの奴にはビタイチモンやらん!これでニンジャスレイヤーとドラゴン・ゲンドーソーを殺して、俺達がアースクエイクとヒュージシュリケンの後釜をゲット!わかるな!」「ワカル、ワカル」ガントレットは無感情に頷いた。「よおおし!」センチピードがのけぞった。
ひととおり感情を吐き出したのち、センチピードは驚くほど平静になった。スイッチのオン・オフがハッキリした性格であるらしい。「じゃ、行ってくるぜ。……わかっちゃいると思うが、IRC端末は使うなよ。ツツヌケだからな。ノロシを使う」「ノロシ。大丈夫カ?」
「ああ大丈夫だ。厄介なヘルカイトはどのみち別の仕事だ。あいつさえ出し抜けば、他に気づく奴はいない。問題無い」「ヨカロウ。行クガイイ」「オタッシャデー!」センチピードが断崖からダイブした。
キヨミズ!センチピードは垂直落下の勢いで、荒地の地表を打ち割り、地中へ突入した。そう、ニンジャスレイヤーがバンザイ・ニュークを、避けたのと同様のムーブメント、すなわちドトン=ジツである。
相棒の落下を見届けるとガントレットは再びイラクサの茂みに身を潜めた。片膝立ちになり、立てた左膝に、異様なニンジャ小手を装着した左腕を乗せる。小手は左右とも無骨だが、それぞれ役割が違うのか、別形状である。そして、スコープを特殊メンポに装着・固定。タクミ!手で支える必要が無いのだ。
ガントレットのスコープ視界が、はるか遠方のニンジャスレイヤーを捉える。ドラゴン・ゲンドーソーを担ぎ、真っ直ぐにネオサイタマを目指して、着実な歩みを進めている。
「オテナミ…ハイケン…」ガントレットは膝に乗せた左腕に、右腕を繰り返しこすりつけるようにした。両腕のニンジャ小手についているホイールが、火打石のような火花を上げて回転を始める。ジャッ、ジャッと音を立て、こすり合わせるほどに、その回転速度は増して行く。
ニンジャスレイヤーからある程度離れた荒野上で、最初のノロシが上がった。センチピードが地中から一度浮上し、接近の合図を出したのだ。弱々しい蒸気の筋は、知らない者には陽炎か何かとしか映るまい。
マウスピース型トリガースイッチを噛み、スコープの倍率を目まぐるしく変更しながら、ノロシと標的とを注視する。「3…2…」ガントレットがもぐもぐと呟く。「1…!」カウントダウンときっちり同時に、ニンジャスレイヤーの足元の大地が割れ、砂利と土埃が吹き上がった。
「何だ!」気絶していたドラゴン・ゲンドーソーがいきなり大声を上げた。「センセイ!?」その瞬間、ニンジャスレイヤーのすぐそばの地面が裂け、砂利と埃を噴出した。何かがそこから飛び出した!「イヤーッ!」
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはとっさに右腕を上げ、首筋への攻撃を小手でガードした。アブナイ!ドラゴン・ゲンドーソーによる一瞬早い警告がなければ、ニンジャスレイヤーの首から上は体とサヨナラしていたかも知れぬ!
地中から飛び上がってのアンブッシュをしかけた敵は、クルクルと後方へ回転しながら着地した。ニンジャスレイヤーはその枯れ草色のニンジャへ向けてカラテの構えを取りかけたが……「ならぬ!まだだ!」担がれたゲンドーソーが叫んだ。「!……イヤーッ!」
チュン、と甲高い金属音、そして火花!アブナイ!ニンジャスレイヤーが咄嗟の水平チョップで弾き飛ばしたもの、それはネオサイタマの方角に聳える断崖から恐るべき速度で飛びきたったスリケンであった!
「なぁにィー!?こいつ、初撃を防ぎ切りやがっただと!」枯れ草色のニンジャが毒づいた。ニンジャが両手を振ると、両拳の先から危険な爪状武器が飛び出した。「ドーモ!はじめましてニンジャスレイヤー=サン。センチピードです」襲撃者は慌ただしくオジギした。
ニンジャスレイヤーはアイサツを返そうとしかかったが、断崖から射出された二発目のスリケンを弾き飛ばすのが先だった。そしてあらためてアイサツした。「ドーモ、はじめましてセンチピード=サン。ニンジャスレイヤーです。こちらはドラゴン・ゲンドーソー=センセイです」
「イヤーッ!」センチピードがジャンプした。両手の爪状武器が襲いくる!ニンジャスレイヤーはドラゴン・ゲンドーソーを片手で担いだ姿勢のまま、それを迎え撃たねばならない。加えて、遠方からの狙撃スリケン!
果たしてニンジャスレイヤーはこのあまりにも部の悪い襲撃を破ることができるのか!?ドラゴン・フォレストへの長く苦しい旅路が今、幕を開けた!
2
「イヤーッ!」ドラゴン・ゲンドーソーを担いだまま、ニンジャスレイヤーは右膝を高く上げ、襲い来るセンチピードの右手の爪状武器を蹴った。空中でバランスを崩したセンチピードは攻撃の機会を逸し、左手の追撃をあきらめた。
「イヤーッ!」狡猾なヒット・アンド・アウェイ戦術で再び飛び離れるセンチピードに、ニンジャスレイヤーはスリケンを投げつける。「イヤーッ!」センチピードの爪状武器が閃き、いともたやすくスリケンを弾き飛ばす。「まただ、ハイ!来るぞ!」ドラゴン・ゲンドーソーが叫んだ。
ギュン!鈍い金属音!ニンジャスレイヤーはかろうじて遠方から飛び来たった狙撃スリケンを三たび弾き飛ばした。「これでは防御し続ける以外にない。やつを排除せねば勝ちは拾えぬぞ!」ゲンドーソーが言った。
「よいか、インストラクションだ!ニンジャは地水火風の精霊と常にコネクトし、操る存在だ。これをフーリンカザンと称す!さきのドトンでお主は既にその教えの入り口に立っておる。ハイ!考えろ!」ゲンドーソーは素早く教示した。
「うるせえジジイだぜーっ!」センチピードが怒声で遮った。ドラゴン・ゲンドーソーのアドバイスさえ無ければ、ニンジャスレイヤーを三度は殺せていたはずである。「黙ってくたばりやがれ!」センチピードが両腕を振ると、爪状武器はさらに伸びた。二倍の長さである。危険!
「イヤーッ!」センチピードが爪状武器を水平に、クルクルと回転しながら襲いかかる!長さは二倍!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは素早い回し蹴りを繰り出した。いや、早すぎる。センチピードに届かない。
しかし、これでよいのだ。四度目の鈍い金属音!そう、ニンジャスレイヤーの回し蹴りは狙撃スリケンを弾くためのものであった。その蹴りの勢いを乗せ、さらにもう一回転、連続の回し蹴りを繰り出す。これが狙いだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」
一度目の蹴りがセンチピードにはフェイクとなっていた。届かなかった事で一瞬油断したセンチピードの顎を、二回転目の回し蹴りが捉えていた。小柄なセンチピードが吹っ飛び、地面に叩きつけられる!
センチピードは追撃を警戒し、スプリングキックで跳ね起きる。だが追撃は無かった。蹴りの勢いを乗せ、ニンジャスレイヤーはその場で回転し続けていた。回転速度はどんどん速くなる。まるでコマのように!
「何をしてやがるンだーっ!」センチピードが吠えた。そして気づいた。軸足が激しい回転で地面を削り、土埃を巻き上げているではないか。センチピードの視界がどんどん土色に霞んで行く。まさかこれは!「煙幕!?」
なんたる工夫!ニンジャスレイヤーは粉塵を巻き上げる事で、遠方の断崖で待機するスリケン・スナイパーの視線を見事に遮った!これで狙撃スリケンの脅威は半減である。「畜生やりやがった!」センチピードは歯噛みした。
「デカシタ!」担がれたドラゴン・ゲンドーソーが賞賛した。「忘れるな、これがフーリンカザンなり。地水火風の精霊を盾とせよ!」「ハイ、センセイ!」「この機を逃すな!すぐに狙撃ニンジャはこの煙幕に適応してくるぞ。一息にセンチピード=サンにトドメを刺せ!」「ハイ、センセイ!」
「ハイじゃねえーっ!」センチピードが逆上した。「その腐れセンセイ・ジジイもろとも、ネギトロにしてやる!」なんたる罵倒!あまりのシツレイに、ニンジャスレイヤーは眉間にシワを寄せた。センチピードが両腕を振ると、爪状武器がさらに伸びた。長さは三倍!危険!
「イヤーッ!」センチピードが飛びかかる。地獄のバーニング・ホイールを思わせる危険な爪状武器の縦回転で、ドラゴン・ゲンドーソーを担いだニンジャスレイヤーに迫る!「センセイ!」ニンジャスレイヤーはゲンドーソーに目配せした。「よい!やれ!」「イヤーッ!」
ナムサン!ニンジャスレイヤーは己のセンセイをボールのように空中へ放り投げた。重荷から自由になったニンジャスレイヤーは回転しながら迫るセンチピード・ホイールを易々とかわし、側面から地獄めいたパンチを浴びせた。「イヤーッ!」「グワーッ!」
「イヤーッ!」地面に仰向けに倒れこんだセンチピードめがけて、ニンジャスレイヤーが跳んだ。両足を揃えて落下、センチピードの心臓を強烈にストンプした。無慈悲!
「グワーッ!」そこへ、ドラゴン・ゲンドーソーがジャストのタイミングで落下してくる。ニンジャスレイヤーはセンチピードを踏みつけたまま、センセイをキャッチ。再び担ぎ上げた。見事な物理計算であった。
「畜生めーっ!」センチピードがもがいた。ニンジャスレイヤーは踏みつけた両足をねじり込んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」無慈悲!まさにそれはムカデ(訳註:センチピードはムカデの事)を踏みつぶすがごとし!
「これで……これで勝ったと思うなよーっ!」センチピードが虫の息で呪った。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはその場でジャンプし、センチピードの頭部を踏み抜いた。
ナムアミダブツ!ガントレットがスコープを赤外線モードに切り替えた時には、既に勝負はついてしまっていた。もはやその場に残されていたのは、横たわるセンチピードの死体のみである。
センチピードの死体のみ?ウカツ!ガントレットはニンジャスレイヤーの姿を追おうとした。いない。見失った!視界が狭い!ガントレットは慌てて、特殊メンポに固定したスコープを装備解除した。「アイエエエエエ!」
ガントレットの口から情けない悲鳴が漏れた。スコープを外したガントレットの眼前にニンジャスレイヤーが立っていたからだ。なんたる速度!確かにガントレットは索敵のセオリーを誤り、いたずらに時間を浪費してしまった。だがドラゴン・ゲンドーソーを担いだまま、絶壁を駆け上がったとでも言うのか!
「ドーモ、はじめまして。ニンジャスレイヤーです。こちらはドラゴン・ゲンドーソー=センセイです」ニンジャスレイヤーが挨拶した。ナムサン!「ドーモ、ハジメマシテ、ガントレットデス」「イヤーッ!」「グワーッ!」
ニンジャスレイヤーの右手がガントレットの首を鷲掴みにし、吊り上げた。ガントレットは両足をむなしくばたつかせた。ニンジャスレイヤーはガントレットを睨みつけた。「幾つか訊いておく事がある」「話スコトハ何モナイ……」「イヤーッ!」「グワーッ!」
ニンジャスレイヤーのマンリキのようなニンジャ握力が、容赦無くガントレットを締めつける!「答えろ。答えるなら、カイシャクしてやる。黙っているなら、痛めつけてから殺す」「グワーッ!」
「答えろ。貴様らはソウカイヤのニンジャか」「コタエルモノカ…グワーッ!」ニンジャスレイヤーのニンジャ握力が強まった。「その質問は不要だ」担がれたドラゴン・ゲンドーソーが口を挟む。「そやつのメンポマスクの額を見よ。クロスカタナの意匠。それはソウカイヤのエンブレムだ」
「なるほど。では次だ。この地に他のニンジャはいるか」「コタエルモノカ…グワーッ!」ニンジャ握力がさらに強まる!メンポマスクのゴーグル部分のガラスが割れた!「他のニンジャはいるか」「イ……イナイ」「イヤーッ!」「グワーッ!」「本当か?」「ホント、ホントウダ!」
「信用できんな」「バンザイ・ニュークデ、オマエタチハ死亡シタモノト判断サレテイル」ガントレットはメンポマスクの空気孔からヒューヒューと息を漏らす。「センチピード=サント俺ハ、ヘルカイト=サンニ知ラレズ、オ前ラノ首ヲトリ、手柄ヲ得ヨウト……」
ニンジャスレイヤーとドラゴン・ゲンドーソーは顔を見合わせた。「……こやつの声音に嘘の響きは無い」ゲンドーソーが厳かに告げた。「ホントウダ。オレタチ2人ハ、ソモソモ別ノ暗殺任務デ、コノ場所ニ……」
「アバーッ!」背後の破砕音、そして絶叫に、ニンジャスレイヤーは素早く振り返った。「アバババババ、アバババーッ!」ナムアミダブツ!それは何たる異形か!
背後の地面を割って飛び出したのは、多足の怪物……いや!どうやらそれはセンチピードである!胸から下が消失し、肋骨の下から、金属製のムカデ状サイバネティック・多足胴体が伸びている。それは素早く地面を這い、両手の爪状武器でニンジャスレイヤーに襲いかかった!「アバーッ!」
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは片手でスリケンを3枚立て続けに投げつけた。「アバーッ!」センチピードは飛来するスリケンをかわし、這い進む!そのメンポはむごく砕け、既に致命傷を負っている事をうかがわせる。「道連れだニンジャスレイヤー!俺と一緒にバラバラのガンモになりやがれーっ!」
「Wasshoi!」ニンジャスレイヤーは再びドラゴン・ゲンドーソーの体を天高く放り投げた!そして、突然のアンブッシュで地面に投げ出され、匍匐で逃れようとしていたガントレットの首筋をつかむ!「アイエエエ!」
「イヤーッ!」迫りくるセンチピードに向けて、ニンジャスレイヤーは力任せにガントレットの体を投げつけた!「アバーッ!」「アイエエエエ!」両手の爪状武器でニンジャスレイヤーを捕らえようと掴みかかったセンチピードは、かわりにガントレットを受け止めていた。「なにーっ!?」
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは垂直に高く跳び上がった。空中で、ドラゴン・ゲンドーソーを抱きかかえる。眼下ではガントレットと組み合ったセンチピードが狂ったように叫んでいた。「畜生!畜生ーっ!ダメだーっ!」次の瞬間、センチピードの時限式自爆爆弾がタイムリミットを向かえ、着火!
「「サヨナラ!」」サイバネティック・ムカデ・ボディとギリーニンジャ装束、二人の異形ニンジャは断末魔の叫びを同時に発し、炎に包まれながら爆発四散した。
爆風が散るのを待ったかのような絶妙のタイミングで、ニンジャスレイヤーはゲンドーソーを抱えたまま、ひらりと着地した。「……ニンジャ殺すべし」ニンジャスレイヤーは低く呟いた。
「センセイ、ご無事で」「フジキド……見事であった、ゴ、ゴホッ!ゴホッゴホッ!」緊張の糸が切れたか、ドラゴン・ゲンドーソーは激しく咳き込んだ。ニンジャスレイヤーはイラクサの生える断崖上を見回した。
「奴等、こんな荒野の真ん中に徒歩で来たなどという事はありますまい。近くに移動手段があるはず……あれだ!」ニンジャスレイヤーは目当てのものに駆け寄った。「センセイ、今しばらくのご辛抱です!」迷彩シートにてカモフラージュされていたのは、小型のセスナである。
「操れるのかフジキド……」ゲンドーソーはニンジャスレイヤーの肩の上でゼエゼエと荒い息を吐いた。「なんとかします」二人乗りの小型飛行機の後部席へぐったりしたゲンドーソーを座らせ、自らは運転席に座る。キーがささったままだ。僥倖である。もっとも、無くてもどうにかするつもりだった。
「今しばらくのご辛抱です」ニンジャスレイヤーは繰り返した。ガタガタと激しく不快な振動を伴い、小型飛行機は滑るように前身をはじめた。そして、浮き上がった。稲妻を走らせる厚い黒雲と無残なクレーターを背後に、カトンボのような飛行機はフラフラと飛んだ。
そのおぼつかない軌跡は、一寸先すらも見えぬ彼らの未来の暗示のようでもあった。
【ジ・アフターマス】終
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