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S3第5話【ドリームキャッチャー・ディジタル・リコン】#5

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 ナインは朝日に目を細め、背伸びをして、深呼吸した。熱い湯のシャワーを浴びた後の皮膚に、清冽な空気がチリチリと心地よかった。汗や汚れとともに、病の最後の残滓も流すことができたようだった。まだ多少フラつくが、感覚を取り戻していかねばならない。秘書は力仕事なのだから。

 ナインは歩幅を規則正しく保ち、腕を振ってウォーキングする。身体の細胞をチューンするように。このドリームキャッチャーの谷の村を散歩しながら、病床で得た情報をニューロンに染み込ませ、最適な行動を導き出せるようにしたい。「ウォルー。ワンワワー」棚田のコメをかきわけ、獣が顔を出した。

「ア……」「こんにちは、カラテウッドチャックの貴方!」ナインの隣にコトブキが進み出て、率先して手を振った。「ワンワー」カラテウッドチャックは手を振り返した。コトブキは説明した。「彼らは個体名を持たないそうです」白線入りのジャージを着ている。ナインの服もコトブキが貸してくれたものだ。

 ジャージ姿の二人は共にウォーキングを継続しながら言葉を交わす。「本当に、貴方がたには、なんとお礼を申し上げたものか」「旅は出会いですよ。緊急事態でしたし。回復して良かったです」「ありがとう」ナインの表情は曇りがちだ。パラボラアンテナ廃墟での惨劇が彼女の記憶に影を落としている。

「ネザーキョウの……Wi-Fi狩り……でしたね」「そうです。インターネットが禁止される……。とても恐ろしいですね!ネザーキョウではゲニンがすごく威張っているんです。支配者が乱暴なので、その尖兵も増長しています。わたし達は旅の途中で幾度も彼らの横暴を目の当たりにしてきました」

「ウォンウォワー」「ワウー」カラテナキウサギやカラテクズリが農作業の手を止め、彼女らを注視する。物見櫓には恰幅のよい女性のリコナーがいた。「元気になったのか、秘書のお嬢さん!」「おかげさまで!」ナインは手を振り返し、コトブキを見る。「既に状況は把握していますが、やはり驚きます」

「わたし、経験が浅いので、どこに行っても驚きでいっぱいですが、知性カラテビーストは実際ショックでした」コトブキは言った。「でも、わたしも身体は機械です。この世は驚異でいっぱいですね。人は……知性は……魂は、どこから来て、どこへ向かうのでしょう。わたしは探求の日々です」

 ナインは瞬きしてコトブキを見た。「貴方はとても奥ゆかしく、思慮深い方に思えます。コトブキ=サン」「そんな。嬉しいです」コトブキは頬に手を当てた。「ナイン=サンがいかに凄い人かは、あのヨロシサンCEOから聞かされていますよ」「CEOはそういう人です。自分に属するものに自信を持っている」

「自信は大事ですからね」コトブキは微笑み、頷いた。二人はウォーキングを継続した。棚田は大きな湖を囲んで、段状にひろがっている。湖から頭を出したデータ廃墟を二人は見下ろす。あの建物の底に、ドリームキャッチャーがいるのだ。ナインがいまだ伝聞でしか知らぬ偉大な獣が。

 この谷を、そして、どこか緊迫したアトモスフィアが覆っているように思えた。ドリームキャッチャーの意志が空気にまで影響を及ぼしているのだろうか。即ち、Wi-Fi狩りの尖兵が今まさにこの谷に迫りつつあるという、確信めいた予感だ。「最善を尽くさねば」と、コトブキは言った。

「ヨロシサンのタスクフォースというのは、実際に……?」「向かってはいます」ナインは認めた。「ただ、ネザーキョウの制空権は強固です。空挺部隊が警戒し、対空弩砲網も分厚い。UCAは実際、古代ニンジャの国家運営を時代錯誤と侮っていたように思います。ですが……時代は違えど、錯誤ではない」

「そうですね」コトブキは前線都市ヤマザキの様相を思い浮かべた。ナインは続けた。「……それゆえ、我が社の特別ニンジャ戦力は、空路最短距離での合流は難しいのが現状です。さらに、そうですね、例のWi-Fi狩りの探知の件もあります。救援要請をたびたび送ることは出来ませんから……」

「探知。そう」コトブキは頷いた。「探知が、最初のイクサのカギになる事でしょう! この前の作戦会議は白熱しました。あのCEOは、きっとショーギが強いのでしょうね!」「それはもう」「部隊を率いるニンジャには以前にも会った事があります。違うところ、似ているところがあり、十人十色ですね」

「貴方は御自身で経験が浅いと言いますが、私にはそうは思えませんよ、コトブキ=サン」「恐縮です。今日はナイン=サンも一緒に作戦会議ですね!」行く手に風車小屋が見えてきた。「それでは、わたしはマスラダ=サンを起こして……」小屋の横で、マスラダは片足立ちでメディテーションしていた。

 その隣ではザックがしかめ面でその姿勢を真似、よろよろと不安定に揺れていた。さらにその隣では……「CEO?」ナインはメガネを直した。ヨロシ・サトルは片足立ち状態のまま、ナインを見た。「オハヨ。トオヤマ=サン」「CEO、いったい何を?」「戯れですよ。カラテは頭脳にいい」「アッ!」ザックが倒れた。


◆◆◆


 ダカダッ、ダカダッ、ダカダッ。南中する太陽の下、複雑に枝分かれする峡谷を、テツバの一団は風めいて駆ける。先頭をゆくのはファーネイス。片手で手綱を持ち、右手の平を上向けて、その上には奇妙な炎の粒がセンコ花火めいて爆ぜ続けていた。「どう!」前のめりに馬を停止させると、他の者も倣う。

「どう! どう! どう! いやに奥まってきたじゃあないか、ファーネイス=サン」クロスファイアが横に並んだ。「うむ、困ったのう」ファーネイスはにっこり笑った。「しかしまあ、これは実際、意外といったところか。パラボラアンテナ地帯は囮に過ぎず……否、単にワシらの強固な先入観か? ままならんのう」

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