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S3第5話【ドリームキャッチャー・ディジタル・リコン】#4

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 A-1がドリームキャッチャーの呼び声を受信したのは、インターネット接続時の混線だった。そのとき用いたファイアウォールは負荷に耐えかね爆発したが、A-1は謎の声に興味を持った。ある意味ではそれがA-1の苦難と、旅の始まり……リコナーの興りでもあった。

 始まりは子供らしい好奇心に過ぎなかった。A-1は今よりもなお若かった。発掘ジャンクからくすねた機械が、プロキシだった。プロキシを使うと、遺棄されたUNIXが、何かに繋がり、インターネット出来てしまったのだ。無限再生されるヘンタイに恐怖し、発熱し、寝込んだ。

 インターネットそのものが禁じられ、それが何なのかすら知らぬ子供が、突如として暴力的な情報の奔流に晒された……その強烈な体験は、彼を一夜にして大人に変えてしまった。しかも大人への階段はさらなる試練で彩られていたのである。熱に浮かされた彼の譫言は、翌日のうちに村を駆けた。

 ……やって来たのは、ニンジャだった。それも、威張り散らすゲニンの憲兵とは違う連中だった。その夜、彼はファイアウォールの必要性を知った。高い勉強代だ。村は焼かれ、村人は皆殺しにされ、家は破壊された。生き延びたのはA-1ただ一人だった。両親は命を賭して彼を逃した……。

 街道を、道道の廃墟を彷徨いながら、彼は己の行いを後悔し、従順な非ネット市民になったか? 否。悲しい成長を強制された彼の魂を満たしたのは、激しい怒りだ。彼は一箇所に留まらず、プロキシを探し、ネット接続を繰り返した。自らをリコナーと呼び表すようになったのは、仲間が出来てすぐだった。

 繰り返す出会いと別れの中で、怒りは使命感に変わる。伝導の旅。それが自身の為すべき事だと、彼は考えるようになった。この地にモミジが乱れ咲いても、ネットワーク・インフラそのものは、地中深く、過去と変わらず生きている。タイクーンの支配より、ずっと前から。それを蘇らせる旅だ。

 やがて彼はしばしば、正体不明の呼び声を受け取るようになる。あの日、時間感覚が圧縮されるほどの情報体験の中で耳にした声。忘れようはずもなかった。ネット接続を繰り返す中で、徐々に彼は電子的なつながりを感じるようになった。彼の名はドリームキャッチャー。呼び声はSOSだった。

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