【タイラント・オブ・マッポーカリプス:後編】分割版 #8
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ホンノウジ・テンプル城の上空も例外ではなかった。ネザーの異彩の闇は消え去り、暮れゆく空が出現した。「アガガッ……!」ヴェイパーは胸ぐらを押さえ、血走った目を見開く。身体に刻まれたコクダカが明滅する。ニンジャのイクサに一瞬の隙は命取り。タイタンズフィストが仕掛ける!「イヤーッ!」
DOOOM! 拳がヴェイパーの胴体を貫いた。さらに、シリンダー機構が作動! DOOOM!「アバーッ!」ヴェイパーは壁を割り、吹き飛び、さらに奥の壁を割って爆発四散した。「サヨナラ!」「年収年収年収年収!」タイタンズフィストはイクサの高揚と愛社に酔う!「年収年収壮大大大!」
彼女の周囲では叩き潰されたゲニンの死体が壁の染みと化している。『引き続き、天守閣破壊を継続しなさい』ショーグネイターのIRC通信が入ってきた。『増援部隊としてモーターワコク6機が着弾しています。徹底破壊しなさい』「オムラオムラ!」タイタンズフィストが叫んだ。オムラドレナリン過剰分泌!
ショーグネイターは現在も中庭にて敵の主力部隊とのイクサを継続している。ネザーキョウの「天下布武」によってオムラが被った被害は既に年収換算で天文学的数字である。決断的報復作戦の成否は今後の暗黒メガコーポのパワーバランス維持の如何にも関わるのだ。
「オムラ! オムラッ!」タイタンズフィストは柱を殴りつける。今や彼女は異常興奮状態にあり、コトブキがその付近をしめやかに通過しても気づくことはなかった。だが新たな殺気には反応した。彼女の背後に水が滴り、ニンジャの姿をとったのだ。「ドーモ。リキッドです」「ドーモ。タイタンズフィストです」「この城は明智常醐のもの。それ以上の狼藉は許さぬ」
「イヤーッ!」タイタンズフィストがシリンダーパンチを繰り出した。SPLAAASH! リキッドは恐るべき速度のパンチを受けて飛び散った。タイタンズフィストはリキッドの残骸の更に奥、ツカツカと近づいてくる敵を見た。黒い口髭と顎髭を伸ばし、切れ長の目を紫の敵意に輝かせるニンジャだった。
タイタンズフィストの網膜に「負傷存在」のインジケータが灯る。ニンジャの傷口が紫色に輝き、彼女の網膜にノイズの焼け付きを生んだ。「オムラ! イチバン!」彼女は屋内で躊躇なくミサイルを撃った。「……アケチ・ジョウゴ、参る」ジョウゴは身を沈め、ミサイルをすり抜けるように躱して接近した。
「イヤーッ!」タイタンズフィストのシリンダーパンチが放たれるより、ジョウゴのワン・インチ距離への接近は早かった。ジョウゴはタイタンズフィストの鋼鉄装甲に刃を押し付けた。「イイイ……イイイヤアアーッ……!」「グワ……アバーッ!?」タイタンズフィストの身体にゆっくりと刃がめり込んでいった。ヘシキリブレード。ジョウゴはそのまま、この不遜なオムラのニンジャを真っ二つに断ち割った。「サヨナラ!」爆発四散!
「御見事にござります……」リキッドが身体を形成。ザンシンするジョウゴに声をかけた。「クルシュナイ……」ジョウゴはザンシンすると見せながら、やがてそのカタナを杖のようにして、身体を支えた。傷口がドクドクと脈打っている。その輝きの周波数はヘシキリブレードの刀身の輝きと同期していた。
魔剣ヘシキリブレードの刃には、かつてのオダ・ニンジャの……そして、タイクーンのカラテが残存している。キキョウのネザー領域が失われた今、彼は深海で酸素ボンベを呼吸するように、この魔剣から力を得ていた。ネザーキョウの理(ことわり)に異状ある事は間違いなし。これが、どれほど保つのか。
「おのれ……」ジョウゴは低く呟いた。「殿……!」リキッドが躊躇いがちに近づいた。彼もまた、当初の潜入時に、致命傷を疑う傷を受けている。水と生身を行き来する奇怪なスイトン・ジツの使い手であるが、負傷を無効化することはできぬのだ。その時!「デアエ!」「デアエ!」近衛ゲニン達!
ジョウゴはカタナを構えた。彼にはわかっていた。彼はネザーの空気無しでは生きられぬ。そして今、いかなる理由によってか、ネザーの空気が失われた。当面の頼りはこのヘシキリだ。このうえでタイクーンに勝利するならば、まず為さねばならない事がある。天守の奪取……明智常醐のノボリを掲げ、勝利宣言すべし!
彼は城内で合流した手勢と共に攻めのぼった。オムラのモーターワコク、近衛のゲニン、全てが敵だった。途中の茶室ではオムラの機銃に惨殺された寵姫、懐刀で喉を突いてセプクした寵姫の死体をまたぎ越えた。一人、また一人と手勢は減っていった。だが、死よりも速く進め。城を獲り……そして……!
◆◆◆
KA-DOOOOM! 睨み合うヘヴンリイとショーグネイターの後ろで、天守閣に爆発が生じた。ヘヴンリイはそれを振り返りもしなかった。ショーグネイターは埃を払う仕草をした。頭頂の「邑」の紋が光った。「オムラは徹底制圧します。敵を許さないです」「うるせえ。そろそろ終わらせンぞ、惰弱野郎」
『電力サージを確認』『磁気嵐バランスの完全正常化』ショーグネイターのニューロンに、目視で確認できる空の異変……否……これが正常なのだ……を裏付けるモニタ報告が入ってくる。ともあれ、追い風である。原因は後の調査で判明するだろう。「その点については弊社も同意致します。終わらせるとしましょう……」
「イヤーッ!」ヘヴンリイは左の角を掴み、自ら砕いた。ショーグネイターは訝しんだのはコンマ数秒。砕けた角から溢れ出た稲妻がヘヴンリイの身体の表面を激しく走り……彼女は、加速した。「イヤーッ!」「グワーッ!?」「イヤーッ!」「グワーッ!?」「イヤーッ!」「グワーッ!」
帯電する風めいて加速したヘヴンリイは、ショーグネイターの右側面、後ろ、左側面、死角から死角へ瞬間移動じみて移動しながら、凄まじきソニック・カラテを繰り出した!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ビビガガガガ! ショーグネイターは痙攣! 電圧保護機能アクティブ!
「イヤーッ!」ワン・インチ・ソニックカラテがショーグネイターの首を刎ねにゆく! だがここへ至りショーグネイターは速度に対応! かろうじて腕をかざし、へし折られながらチョップを受ける! そして……「イヤーッ!」「グワーッ!」ボディチェック! ヘヴンリイを吹き飛ばす! ナムサン……!
「認めましょう……0101……小職の年収に挑む貴殿の気概……しかし……」ショーグネイターは腕から煙を噴き、よろめき、カラテを構え直した。ヘヴンリイは受け身をとった。折れた角がバチバチと放電していた。……彼女は目を見開いた。ショーグネイターの背後で、ニンジャがステルスを解いた。
「イヤーッ!」反射的にショーグネイターは裏拳を繰り出したが、パルスは高く跳んで躱し、背後からショーグネイターの腰を両脚で挟み込み、この偉丈夫の首元を、極めて危険なるワザ、ジュドー・ネイキッド・チョークで締め込んだ! パルスの両腕がパンプアップし、表面に01の表示が無数に踊る!
「グワーッ!?」「イサライトアーマー制御。データ強制解放命令。データ強制解放命令遂行。データ強制解放完了」パルスは淡々と宣言した。ナムサン。通常時のショーグネイターであればこのアンブッシュを許しはしなかっただろう。だが今の彼は極限状態であり……パルスもその瞬間をこそ狙っていた。
この瞬間、ニューロン速度でショーグネイターは悟った。オムラ・エンパイアのシャナイ級機密、それもタイロー・クラス領域へのアクセス権が奪われる。この者はカタナ・オブ・リバプール社。奪取したデータは即座にIRC送信されるだろう。もはやカラテの多寡の問題ではない。許すまじ。「オムラ!」ショーグネイターは瞬時にセプクした。
ショーグネイターが瞬時に体幹のエメツ反転心臓を自ら破壊し、オムラ・エンパイアの機密を守ったのと、「ち……」パルスが任務失敗に舌打ちしながら、爆発四散するショーグネイターから飛び離れるのと、稲妻を身にまとったヘヴンリイが突進してくるのは全て同時だった。「イヤーッ!」
パルスはヘヴンリイの右拳をガードした。「グワーッ!」ヘヴンリイの左拳がパルスの顔面を砕いた。「イヤーッ!」「グワーッ!」ヘヴンリイの蹴りがパルスの脇腹に叩き込まれた。「イヤーッ!」ヘヴンリイが両手を組み、打ち下ろした。「グワーッ!」パルスは地面をバウンドし、黒砂を爆発させた。
ギシギシと音が鳴る。パルスの肉体をイサライトアーマーが圧縮し、損傷部位を仮想的ノーダメージ状態にしているのだ。三点着地で地面を滑りながら、パルスはプラズマ機雷をばら撒いた。KBAM! KBAM! KBAM! KBAM!「アバーッ!」ゲニンが巻き添えで死んだ!「イヤーッ!」ヘヴンリイが飛びかかる!
クロスガードするパルスに、ヤリめいたサイドキックが叩き込まれる!「グワーッ!」KRAAASH! 吹き飛ばされ、城の塀にクレーターを生じるパルス! ヘヴンリイは……顔を上げて、天守閣方向を見る。ドオン……ドオン……。城の空で花火が鳴り、天守望楼から「第六天魔王明智常醐」のショドーが垂れた。
◆◆◆
「イヤーッ!」KRAAASH! クワドリガはオルトロス級突撃車両の突進に突進で応じた。装甲板を断ち割り、腕を差し入れ、そして……ナムサン……! 巨木を引き抜くかのように、高く持ち上げた! なんたるニンジャ膂力か!「イヤーッ!」ヌーティクスフレーム™️歩兵中隊に投げつけ、まとめて叩き潰す!
「惰弱! 惰弱! 惰弱の極み!」クワドリガが叫んだ。空はネザーの加護を失い、コクダカの力の消失を……彼のカラテならば何の不足もないものの……感じ、後方にてはオオカゲが不時着し、尋常ならぬインシデントの発生は間違いがない。しかし心乱すわけにはゆかなかった。敵の殺到を押し返すのだ!
「殿……! 御覧めされい!」クワドリガはグラディウスを抜き、敵に躍りかかって、斬って、貫き、打ち砕いた。「オ……オ……」「オオオオーッ……!」ゲニントルーパーが彼の獅子奮迅のイクサに応え、陣形を組んで続く。そしてその後ろ……ナムサン……ヘグイやオニ達は01のノイズを散らし苦悶する。
DOOOM……「アバーッ!」DOOOM……「アバーッ!?」彼の後ろで、精鋭のゲニンが一人、また一人と倒れてゆく。「ヌウーッ……!」クワドリガは瞬時に攻撃者の方向を見定める。丘に陣取るスナイパー部隊。これは実際、UCAの一角、ゼン・ミライ社の展開戦力であった。
DOOOOM……「アバーッ!」DOOOOM……「アバーッ!」何たる正確無比な射撃!「盾、構えィ!」クワドリガが吼えた。そしてカマキリめいたチェーンソー腕部アタッチメントを振り上げるオルトロス級にグラディウスを突き込んだ。KRAAAASH!「惰弱! 我は止まらぬ! 止まらぬぞ!」
DOOOOM!「アバーッ!」DOOOOM!「アバーッ!」盾が間に合わぬゲニンが一人、また一人と倒される。クワドリガは最前線で破壊を押し拡げ、殺し、壊し、殺し、壊した。徐々に敵が後退してゆく。そして……「イヤーッ!」回転跳躍しながら斬撃を放ったのはアケチ・シテンノ、インヴェインであった。
SLAAASH! 丘が斜めに裂けた。インヴェインは流麗に着地し、クワドリガを一瞥した。「勝利は我らにあり」「フン……」クワドリガは唸った。「偉大なるタイクーンの為に!」「「「オオオオーッ!」」」ゲニン達が士気をさらに増した! UCA戦力が後退を開始する! クワドリガはグラディウスを振り上げる!
「進め!」そう、叫ぼうとした。その瞬間……クワドリガは……泥めいて鈍化した時間感覚を訝しんだ。ソーマト・リコール現象。己のニンジャ第六感が引き起こしたニンジャアドレナリン過剰分泌、ニューロンの異常加速現象。彼が感じた危機は前方、UCA戦力のその先にあった。レールライン。
然り、ついにネザーキョウの軍はUCAを南に押し返し、ヨロシンカンセンのレールラインにまで戦線を後退せしめたのである。喜ぶべき事の筈だったが、彼のニンジャ第六感は「否」と言った。裏付けるように、レールラインを……長い長いヨロシンカンセンが走りきて……停止したのである。
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