S3第6話【エスケープ・フロム・ホンノウジ】分割版 #5
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マレボルは目を剥いた。フォース・スリケンは超自然タタミの壁が完全に阻んだ。間合いを取ろうとするが、クレイグは彼の背後に壁を出現させ、それも遮った。「き、貴様……!」マレボルは驚愕をもはや隠せなかった。クレイグは踏み込み、脚を、腹を、胸を打撃した。「イヤーッ!」「グワーッ!」
「終わりだ」クレイグは断頭チョップを構えた。マレボルは呻いた。「私は高貴なる種……貴様ごとき野蛮人に……」「この地獄を受け入れるくらいなら、俺は野蛮を選ぶ。イヤーッ!」「アバーッ!」首切断!マレボルは爆発四散!「サヨナラ!」クレイグはポータルを振り返った。そして飛び込んだ。
◆◆◆
ネザーオヒガンの門をくぐり、戻ったとき、一人減り、一人加わった事になる。もはやこの恐るべき都に留まる理由は何一つ無い。クレイグはその場から川辺の岩陰へ部隊を素早く移動させると、ブリーフィングを行い、動き出した。
帰り道は「ボンズを先導するチューニンの護衛」というスタイルだ。法衣を捨ててしまったクレイグはカネトの隣で腕を後ろにやり、チューニンに引っ張られる囚人を装っていた。市民からの投石の危険はあるが、妥当なカムフラージュだ。
部隊の混乱は深かったが、ポータルの先でクレイグが経験した出来事を、あえて詮索したいと考える隊員はいなかった。ヒロ博士の死は沈痛に受け容れられた。そもそも隊員たちは黒いポータルから生還してきたクレイグに驚いたのだ。アシュリーは博士の手首を密閉し、懐に収めた。弔いと、証拠の為だ。
彼らは黙々と進んだ。あの恐ろしい訓練の山を通り抜け、戦闘階級が暮らす「屈強区」に入り込む。
「ハンニャー……ハンニャー……ウフフ……」ブレインの偽装ボンズ・チャントには引きつった笑いが混じり、ホルヘを苛立たせた。「しっかり唱えろよクソが! お前がイカレたって事はわかってっから! ……ああクソッ、ボンズのフリしてちゃ全力疾走できねえし。一刻も早くトンズラしてえのによ」
屈強区の建築物は強さがあり、柱や壁のつくりも市民区の荒れ果てようとはまるで違った。まさに弱肉強食、アケチの思想を体現した都市がホンノウジであり、このネザーキョウという国土の縮図でもあるのだろう。彼らは警戒を重ねた。屈強区の住人自体が少なくともゲニン以上の者たちであるはずだ。
「一度あんた達のアジトに戻らなきゃならんのか?」カネトは確認した。クレイグは頷いた。「仲間が待っている。それに、お前同様にこの国を脱出したがっている協力者の親子がな」「……俺は……」カネトが何か言おうとした、その時だった。曇り空に、破裂音がたて続き、しだれ柳じみた花火が光った。
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