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S4第8話【ビースト・オブ・マッポーカリプス 前編】分割版 #6

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 一般道に滑り降りた反重力バイク群は、到底曲がりきれない急カーブでも速度を減じることはなかった。かわりに先頭のレイテツはカタナを逆手に掴み、かざした。刀身のカタナ・オブ・リバプール社紋が奇妙な光を発すると、たちまち前方に氷の壁が出現し、バンクを作り出した。バイク群は見事に走行!

 レイテツの得物は単なるカタナではない。カタナ・オブ・リバプール社が彼の為に作り出した試作兵器、K.E.Sコリ・エンハンス・システムの端末である。強力なコリ・ジツを操るニンジャとして社に認められるレイテツは、先端技術の提供を受けている。KOL社はニンジャ専用武装の開発に積極的だ。

 K.E.Sはレイテツのジツの効率を向上せしめる。ネオサイタマはテクノロジーの坩堝であり、企業間の公式・非公式の抗争も絶えない。レイテツはこの地で特殊な役職を与えられ、高い戦闘頻度と成果を期待されてきた。彼は治安部隊を出身とする叩き上げのプロパーとして、その期待に応え続けてきた。

 ネオサイタマは現在、正体不明の植物侵食を受け、リバプール本社との通信手段は断たれた。レイテツがこうしてKATANA治安部隊の陣頭指揮を取って動くのは独断に基づく行動であり、ある意味で、古巣に戻ったセンパイじみてもいる。奇妙な感覚であったが、KATANA隊員には彼を英雄視する者が多い。

 狂ったネオサイタマで、ただ黙って自我喪失を待つ気など、さらさらなかった。上からの指示がないならば、やりたいようにやらせてもらう。すなわち、本分に立ち返る時である。『隊長』『前方に高度カラテ反応、複数です』『……行くぞ』レイテツはフルメンポのスリットの奥で、眼光を光らせた。

『のぞむところ!』『ヤル』『暴れ足りないッス!』血気盛んな隊員達。彼らは非ニンジャだが身体を重サイバネ化し戦闘能力が高い。怠慢と汚職もそれなりにはびこるKATANAだが、反重力バイク部隊は精鋭じみて士気と責任感、心の熱さを持ち合わせる。今回彼が率いる部隊は十人。別働隊にもう十人いる。

 路地にバイクで進入するや、「「AAAAAARGH!」」人間離れした咆哮が、傾いた雑居ビル群に反響する。前方には今まさに、市民が即席で拵えたとおぼしきバリケード群が、顔のない黒い影の群れによって破壊される瞬間があった。「アイエエエエ!」悲鳴を上げる警戒市民たち!「アバーッ!」惨劇!

 BRATATA……BRATATA! 市民が倒され、彼らのなけなしのアサルトライフルがむなしく空に銃弾を散らす。フェイスレスに角が生え、牙が生え、押し倒した市民を食い殺す。「イヤーッ!」レイテツは躊躇なく怪物の群れに突っ込んでいった。構えたカタナが白く光り、冷気を放射する。横に薙ぐ!「グワーッ!」

 レイテツの斬撃は物理的な氷の刃を生じ、数体のフェイスレスをまとめて切り裂いた。後続のKATANA隊員が地面にカタナブレードをガリガリと擦り、赤熱させて、崩れたった彼らにトドメを加えていく。レイテツは反重力ドリフト! 倒し残したフェイスレスに向き直り、再度のコリ・ジツを準備した。

「AAAAARGH!」一回り大きいフェイスレスが頭を打ち振り、両手に黒いスリケンを生成した。レイテツのニンジャ動体視力はそのスリケンの形状の奇妙さを捉えた。八方向に刃が飛び出したハッポースリケン。説明の付かない驚異の感情を彼は押し殺し、氷の斬撃で迎え撃った。「イヤーッ!」

 パパンパン! 破裂音を生じ、斬撃を受けたハッポースリケンは瞬時に冷凍されて弾け飛ぶ。「グワーッ!」「アバーッ!」後方で悲鳴が聞こえた。相殺しきれぬスリケン。レイテツはフルメンポHMDに表示された隊員一名の心停止を噛み締めながら、クロヤギと化したフェイスレスに馬上騎士じみて突進する。

 ナムサン! カタナ表面にツララじみて氷が覆い、たちまちのうちに彼の得物は恐るべきコリ・ランスと化した。クロヤギ・ニンジャの横向きの瞳孔がレイテツに焦点を定め、喜悦に歪んだ。「イイイイヤアアーッ!」バイクさらに加速! 振り下ろされるクロヤギのチョップよりも速く、彼はランスで貫いた!

「ゴアアアアッ!」痙攣し、身悶えしながら、クロヤギ・ニンジャはレイテツの頭を掴んだ。『その……ジツ……!』クロヤギが言葉を発した。ヒイイイン。反重力バイクのスラスターが悲鳴を上げる。レイテツはコリ・ジツを重ね、オーバーヒート許容量を稼ぐ。そして押し込んだ。「イイイイヤアアーッ!」

『隊長!』『グワーッ!』隊員達が切り込むが、次々に湧き出すフェイスレスが彼らの相手となる! 頭部に加えられる圧力が高まり、HMDに「危険域」「どうにかしてください」のミンチョ文字が点滅し始めた。レイテツは胴体を貫いた氷塊からカタナの実体部分を引き抜き、再度、脇腹に刺す!「イヤーッ!」

「アバーッ!」怯むクロヤギ! だが頭を掴む握力は減じない! ノイズ走るHMDが、高カラテ反応体の接近を示した。バイクに乗った女がクローズアップされ……。「イヤーッ!」その者はクロヤギの斜め死角から飛び込んだ!「アバーッ!」クロヤギ首切断!「サヨナラ!」爆発四散!

「チィ」解放されたレイテツは自分のフルメンポを殴りつけ、ノイズを払った。黒髪の女はカタナを払い、別のフェイスレスにかかってゆく。レイテツは反重力バイクを乗り捨て、不服ながら彼女に続いた。既に知っている相手だった。レッドハッグ。ネオサイタマで一度競り合ったアウトローだ。

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