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隻腕剣士と隻眼詩人

 固く粉じみた赤の大地。苦痛もたらすゼゴル樹まばらに、水は無く。

 黒馬の鞍に跨り、小高いキャニオンの頂に陣取った二人の野盗は、眼下の道無き道を睨め下ろしていた。不毛の地、「永遠の黄昏」を行く、ひとつの幌馬車があった。

「速やかに殺し、速やかに奪え」

 そう云い、黒衣の男はアゼロ鋼の短剣を夕日に掲げ、黒紫の照り返しを確かめた。刀身の根本には三頭蛇の印、そして嘲笑う月の象徴が刻まれていた。月は毒であり、蛇は絆であった。

「速やかに殺し、速やかに奪う」

 いま一人の黒衣の男もまた、双子剣かと見まごうばかりのそれを、先のそれと交叉させる如くに掲げ、誓った。いずれの男もその顔を露わにせず、ただぎらつく瞳を漆黒の覆い布の奥に覗かせていた。

「略奪と隠匿の神、脚持たぬワロギス、これより執り行われる全ての行為を隠匿したまえ」

 一人目の男、兄なるゼズはひとたび下げた剣を再び夕陽に掲げ、祈りを捧げた。かの幌馬車を、此度の獲物と定めた。

「つむじ風伴って我らの後に続き、蹄跡を一刻のうちに消し去りたまえ。流されたる血の全てを一刻のうちに大地へと隠匿したまえ」

 二人目の男、弟なるトーウも再びその得物を夕日に掲げた。鼻孔より吸引したるゾーグ・ゾーの秘粉が血をさらに速め、膂力たぎらせ、夕陽の中にはおぼろワロギスの幻影を刻みせしめた。

 短剣は再び交叉され、ぎゃりんと鋭く鳴り響き、二者の心の臓にさらなる拍動と躍動をもたらした。 

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