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S4第8話【ビースト・オブ・マッポーカリプス 前編】分割版 #8

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 ガーランドは低層建築の屋根を全速力で飛び渡り、20メートル超のクロヤギの巨人を目指す。クロヤギの掲げた手の中、握り締められたインシネレイトは苦痛と怒りに叫んだ。死はコンマ2秒先にある。だがその時、電波塔を駆け上がった赤黒の影が、クロヤギに向かって跳んだのだ……!

「Wasshoi!」

 赤黒の影は空中で螺旋を描き、燃えるフックロープを放った。ロープは掲げたクロヤギ・ニンジャの左手の指にかかった。「な……ガ……?」インシネレイトは血を吐き、状況を把握しようとする。赤黒の影は瞬時にクロヤギの左手に到達……黒炎を叩きつけた!「イヤーッ!」

「グワーッ!?」インシネレイトは己とは異質のカトンの衝撃に悲鳴をあげた。だが握力は緩んだ。「クソがーッ!」自ら爆発し、クロヤギの指を内側からこじ開いた! KA-DOOOM!『グワーッ……!』右手首の消失に続き、左手も数本の指をケジメ状態となったクロヤギがたたらを踏む!

 ニンジャスレイヤーは止まらず、クロヤギが振り回す腕の上を、付け根めがけ駆け上がる!「野郎……ありゃニンジャスレイヤーじゃねえか!」落下しながらインシネレイトは歯噛みした。その足首に何かが巻き付く。クナイ・ウィップ。その先にあるのは、今まさにクロヤギに向かって跳んだガーランドだ。

 一瞬のアイコンタクト。インシネレイトは備えた。ガーランドは跳びながらキリモミ回転し、ハンマー投げじみて、落下しかかったインシネレイトを再び投げ上げた。「イヤーッ!」ジェット加速するインシネレイト!「イヤーッ!」ガーランドはクロヤギの腿にクナイを突き刺し、とりつく!

『オオオオ……!』クロヤギは肩を駆け上がるニンジャスレイヤーを視認しようと頭を巡らす。その時には既に、赤黒のニンジャは腕を振り上げ、無慈悲な攻撃予備動作に入っていた!「イイイイヤアアーッ!」『グワーッ!』貫く! クロヤギの左眼! たちまち黒炎が溢れ出す!『アバ……アバババーッ!』

 燃える球体、すなわち邪悪なる眼球を引きずり出し、焼き焦がすと、苦悶しながら後ずさるクロヤギ・ニンジャの目の前には、カトンの火を翼めいて上へと推進したインシネレイトがあった!「ソマシャッテ……ワドルナッケングラー!」広げた翼を叩きつけると、無数のカトンの矢が顔面に!『グワーッ!』

 一方ガーランドは目にも留まらぬクナイ捌きでクロヤギの心臓付近によじ登っていた。振り上げた逆の手に今、クナイ・ウィップが巻き付き、鋭利なドリルめいて……「イイイイヤアアーッ!」胸部を貫通! 心臓を抉る! 噴き出すのは邪悪な血、あるいはエメツじみた黒い液体の迸り! 巨体がかしぐ!

「イヤーッ!」『アバーッ!』その時ニンジャスレイヤーはクロヤギの頭の逆側へ! 右眼にも左眼同様の容赦なき鉤爪の貫きを喰らわせていた。腕先から流し込む黒炎……クロヤギの頭部から炎が溢れ……『アバーッ!』KBAM! 爆発を伴い、巨大な頭がちぎれ、ロケットじみて上に吹き飛んだ! サツバツ!

『サヨ……ナラ!』邪悪な頭部は爆発四散し、その粉塵が赤黒のアブストラクト・オリガミの形を取った。三人のニンジャが飛び離れ、首なしの巨大な身体が地面に叩きつけられる頃には、その影めいた肉体はボロボロと崩れ、燃え滓じみて風にまかれていった。「……」「……」「……」三者は睨み合った。

「テメ……」食ってかかるインシネレイトを制し、ガーランドがアイサツした。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ガーランドです」「チッ……。ドーモ。インシネレイトです」二人のソウカイニンジャのオジギに、ニンジャスレイヤーは応じた。「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」

「加勢には礼を言っておくぞ」「要らない。たまたまだ」ニンジャスレイヤーは首を振った。「貴様らの事は嫌いだ」「テメッ……ソウカイヤに上等……」「貴様がこの状況下、方方に出現しているという噂は聞いている」ガーランドが遮り、切り出した。「目的は何だ。この異変に関わりがあるか」

 ニンジャスレイヤーは息を吐き、一呼吸置いた。そして答えた。「ある」上空には赤黒のオリガミが固定され、彼らを見下ろしていた。「この状況を引き起こしたのは、おれの敵だ。潰して、街を元に戻す」「どうやって」「クロヤギを狩るのはその準備だ。これ以上貴様にあれこれ説明する時間は実際無い」

「テメ……上等テメッ……」インシネレイトは過剰な怒りに言葉を失う。ガーランドは眉根を寄せた。「時間だと?」「そうだ。じきに鐘が鳴る。そうなれば……」ニンジャスレイヤーは懐から携帯スシを取り出し、咀嚼する。「鐘か」ガーランドはすぐに理解した。ポンポン・ビルディングの件もある。

 既存科学で説明のつかぬ神秘的な事象とヤクザビジネスの只中に、ガーランドは投げ込まれている。そしてニンジャスレイヤーがこの問題の鍵だ。「なにか共有する情報はないか。ネオサイタマがこのままでは、俺達のシノギに少なからん支障がある。妙な動きを取っている企業も居る。貴様単独の問題ではないぞ」

 ニンジャスレイヤーはスシの咀嚼を終えた。そして答えた。「スゴイタカイビルに座っている奴。ゲーム気取りで盤面を見下ろす奴……。奴らはこの時代の外から来た連中だ。貴様らの出る幕はない。おれがケリをつける」「勝算は」「知るか」ニンジャスレイヤーは身を翻し、跳んで去った。「イヤーッ!」

「野郎……野……」インシネレイトは言葉に詰まり、深呼吸した。沈思黙考するガーランド。そこへ近づいてきたのは一匹のコヨーテだ。「多分もう知ってるだろうけど、ああいう奴だ」コヨーテは人の姿を取り、言った。「そして実際、あいつは今、必死だ。まあ、雑談ぐらいは俺が引き受けてやるから」

「な!? ンだこら!? ジツか?」インシネレイトは仰天し、ガーランドとコヨーテの男とを交互に見た。ガーランドは身構えた。「ドーモ。ソウカイ・シックスゲイツのお二人さん。フィルギアです。アンタら、この街で意外とよくやってるよ……そこそこ評価してるぜ、俺は。ヒヒヒ」

 警戒心の中、彼らはアイサツをかわした。フィルギアが共有したのは、真偽定かでない、途方もない話だった。神話時代のリアルニンジャがネオサイタマを利用し、抜きん出た存在が都市そのものの力を奪い去ろうとしている。熱に浮かされて見る悪夢じみた話だが、目に見える状況はその裏付けに他ならない。

 実際その大部分はソウカイヤには関与しようのない事象だ。ニンジャスレイヤーのすげない言葉は、ある意味では必要十分なものであった。

 やがて、チョウチン・タワーの巨大モニタに、緑に呑まれたネオサイタマの俯瞰映像が映し出された。この地区の通信障害が改善した結果だ。彼らは仰ぎ見た。『信じられません! これは凄い!』カメラ主のヘリコプターはマルノウチ上空、スゴイタカイビルに接近。どうやらTVカメラで中継を行おうとしている。

『御覧ください! 変わり果てたスゴイタカイビル! メガコーポ軍が周囲を固めています! それは実際、一社なのです! エネアド社の戦力です!』映像がスゴイタカイビルに焦点を合わせた。

 中継映像のなか、緑の塔と化したビルの屋上を覆っていた植物のドームが、内なる光に弾け飛んだ。『アーッ爆発これは! 何か起きています! いったい我々は何を見ているのか? NSTVではこのような凄いスクープを届けます! すぐチャンネルしてください!』

「光……」フィルギアが呻いた。然り。スゴイタカイビルの光の柱は今、さながら衛星レーザーじみた眩い光となって、スゴイタカイビルに突き刺さった。『スゴイすぎる! もっとヘリ近づけろ! 近づくんだよ! クソが! あ、音声シツレイしました! 皆さん、御覧ください! アーッ? 屋上に、人が! 人が居ますよ!?』

 ブレる中継カメラ映像。四つのシャチホコ・ガーゴイルに囲まれた、ビル屋上。黒く変色した植物の根の集積物はまるで玉座だ。そこに肘をついて座る存在。シャチホコ・ガーゴイルのところに黒いポータルが出現し、中からクロヤギが這い出す。玉座に近づく。玉座の男はそれらを受け入れる。

『こッこれは完全に動かぬ証拠! 今まさに不正が行われる瞬間では!? 都市を徘徊する危険な無差別殺戮犯罪者達のアジトという事でしょうか? み、見てください! 玉座に座る重大容疑者が……! た、食べている!? アイエエエエ!? 同化!? ひとつに? ニンジャ!? ニンジャナンデ!? アイエエエ!』

「こうなりゃスゴイタカイビルだろ! ガーランド=サンよォ!」インシネレイトがカッと両目を見開き、ガーランドを見た。「やる事ァ決まったぜ! チンタラ眺めててもしょうがねえ!」「……然りだな」ガーランドは頷いた。フィルギアは映像を懸念した。「TVの奴ら……それ以上は……」

『アイエエエエ!』カメラ視点が激しくブレ、360度回転を始めた。玉座の存在がゆらりと立ち上がった。『アイエーエエエエ! アイエーエエエエ! ニンジャ! ニンジャナンデ!』ニンジャリアリティショックの叫び。カメラが壊れたか、高速回転する視点が、止まった。ささくれたノイズ画面が焼きついた。

 ……そして、鐘が鳴った。

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