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逆噴射小説大賞2023:結果発表!

黄金のCORONAを奪い合い冒頭800文字でしのぎを削る「逆噴射小説大賞2023」、その最終結果を発表いたします。今年もたくさんの応募、ありがとうございました! 今回の「募集要項」と「一次選考&二次選考結果」は、リンク先をチェックしてください。






それでは早速、発表に移ります。今年の大賞は……!








🌵🍺🌵大賞受賞作品🌵🍺🌵




悪魔の風の軌跡:ジョン久作

逆噴射聡一郎先生のコメント:せまりくる山火事の炎、それにいどむ真の男たち、不穏なカルト教団、そして動き出す物語・・・・すごい面白い舞台が揃いも揃っており、おれは興奮する。

順番に見ていこう。まずは主題、火の恐ろしさと大規模なスケールの絶望感が、しっかりとした筆致で過不足なく描けており、読んでいるやつの心をつかむ。おれは地理とかにくわしくないのでディアブロ山がどこにあるかよく知らないが、たぶんMEXICOにあるのだろう。そう思わせるだけの迫力がある。次に登場人物だが、この圧倒的な山火事を前に覚悟を決めて行動しているだけで、既に真の男であることが自動的に証明されるとゆう寸法だ。

視点誘導や場面転換もスムーズに用いられているが、おれが特にすごいと思ったのは、情報開示のカードの切り方だ。異様な存在感を放つカルト教団の存在を、この冒頭すぐに叩き込み、それを終盤で再度回収するとゆう見事な構成を見せつけている。しかも、このカルト教団が「そういう奴らがいるそうな」と設定だけ書いて済ますのではなく、目の前で起こるそいつらの具体的な行動と、その行動の結果までもが明確に描かれている。具体性があり、説得力がある。山火事に立ち向かう主人公の描写だけでも十分臨場感があり、読んでいるこちらが汗ばみノドがカラカラに乾いてくるほど凄まじいのに、そこにこのカルトだ。この畳み掛けるような二段構えの構成に、おまえの脳みそはまず完全に打ちのめされて、MEXICOへと連行されるだろう。

この作品は技巧にも富んでいる。そしてそれを初見時にはあまり感じさせないであろうほど、物語として自然に地ならしされているので、二重によくできている。よくできたハリウッド映画の開始5分とか10分とかのレベルだ。それが800文字に凝縮されており、なんならその先のタイトルコールと、もう5分の本編シーケンスくらいまで入っている(後半の回想シーンがそうだ)。この後半が実によく効いており、物語全体への期待感を膨らませつつ、物語がどこへ向かうかの明確なコンパスにもなっている。しかも、言葉足らずのポエムになりがちな圧縮文体や散文詩などの技法をいっさい使わず、ごく平易な文体で過不足なくこれをおこなっているのは驚きだ。これらはどれも、一朝一夕にできることではない。確かなPRACTICEをかんじる。

ちなみに、日本人作家が海外を舞台にして実写映画系の解像度の物語を描こうとすると、R・E・A・Lさの面でどうしてもウソ臭くなりがちとゆう罠があるものだが、真の男の態度や真の男の行動について熟知した作者にとっては、そのようなハンデなど何でもない。おそらく作者は、書くべき部分とそうでない部分を適切に取捨選択しており、書き過ぎると「粗が出る」ようなところを意図的に省いている・・・。これは実に賢い選択だし、べつに描写を逃げてサボっているわけでもない。なぜなら、主題にまつわる部分の描写はしっかりと過不足なく、具体性があるからだ。真の男は、描くべきところからは逃げない・・・そして描くべきところを描くと、他の些末事にかまっている時間はなく、800字がおとずれているのだ・・・・・。

今年も最終選考に残った作品はどれも素晴らしかったが、おれはこの作品が生み出すシリアスな緊張感と、腹のすわったグーパンチのストーリーテリング、そして確かなPRACTICEによる裏打ちと技巧に、完全に打ちのめされた。この800文字に込められた真の男としての態度が、「気迫」としてテキスト全体から立ちのぼってきている。それはまさに、蜃気楼の荒野をひとり歩く真の男のようなオーラとなって現れるのだ。

今年はこの作品がCORONAを獲得する。おれも満足してCORONAを飲んだ。このまま過酷なMEXICOをあゆみ、作品として完成させてほしい。




🌵🌞最終選考コメンタリー🌞🌵



続いて、最終選考に残った作品についてのコメンタリーです(評価順ではなく受付順に並んでいます)

補足:基本、この賞に連続参加ボーナスとかは存在せず、あくまでその作品の内容自体でジャッジを行うため、作者やこれまでの投稿履歴の文脈を見て評価に加点/減点を行ったりすることはない。一方で、コメンタリーについては大賞作品決定後に改めて振り返る形で記しているため、「この作者は過去作の見覚えがある。この作者にはこの点を伝えておいたほうがいいだろう」と思った箇所について、特に躊躇することなく普通に記載している。


選考コメント:基礎的な文章力の高さがある。破綻がなく、文章のテンポもよく、興味の導線もよく作られていた。自分のイマジナリー存在が見えるやばい敵・・・その登場により、一気に緊張感が高まる。大元の設定自体は若干既視感のようなものを感じたが、それを見える他者まで一気に展開したので、かなり効果的なツイストだ。反面、主人公がやや低血圧な類型で、驚きなどの感情起伏が弱めであり、それは全体からダイナミクスを削ぐ結果になっている気はした。またマンガ的なキャラクター主体で進めるならば、もうひとつ何か強烈なビジュアルインパクトか、読者の意表をつくようなエモーションの発露が欲しい。それが大賞へのブレイクスルーの鍵となるだろう。


選考コメント:次元転送のアイデアがよく、一行目からしっかりと読ませたし、かなりの情報量をそつなく詰め込んでいる。中盤の大胆な展開も文句なしだ。しかし一番最後の転換で俯瞰っぽくなり、ちょっと小さくまとめに入ったような印象を受け、そこまで維持してきた物語への強力な没入感が失われてしまったのは残念だった。この大賞ではレギュレーションの都合上、800文字の制限は意識しなくてはいけないものだが、意識しすぎると小説として歪な形になってしまうこともあるので、ここはより自然な形で続いた方が良かっただろう。これは逆噴射小説大賞だからこその指摘でもあり、このまま通常の小説として完成させるならば特に問題はないだろう。


選考コメント:これはかなり面白い。設定開示の時点で面白く、洒落た感じがする。そして「この学園ではこういう異常な感じなのだ」という設定開示だけで終わるショートショートにならず・・・・そのままテンポよく実際の物語展開に繋げられている。もうひとつの最終選考作品「海と脂」の重厚な語り口も魅力的だが、「トキシドロップ〜」はより現代的で軽妙なテンポのエンタテイメント小説としての挑戦が見られ、かなり大賞に近かった。

選考コメント:同作者のものなので、あわせて掲載しておこう。ゴリッとしたリアリティを荒涼とした情景描写を通して伝えてくる。重苦しくてカッコ良い。欠点自体は特になく、800文字の中で驚くほど濃密な内容となっているのだが、過去の同作者による大賞受賞作品「薄火点」と比べると、ストーリーの展開や凄味の点において、ややパンチ力が不足していた。とはいえ、この作品自体はこれで既に高いレベルで完成しているため、最終候補のラインナップ次第では大賞も十分に狙えた。


選考コメント:税関職員が真面目にチュパカブラの首を締めているのが面白く、作品のシュールな世界観を端的に説明できている。掴みはほぼ完璧だ。後半、矢継ぎ早に複数の怪物とその対処法を示したまでは良かったが、チュパカブラを擦り過ぎたところが、少しネタくさくなり、物語が広がらずに小さく纏まってしまったきらいはある。よりハードボイルド風味のスラップスティックに徹するか、もしくは同僚との無線掛け合いでも入れて、「この世界に生きている」ことや、お仕事ものとしての矜持などを示せれば、血肉が通ったほんもののPULPとなり・・・・大賞受賞レベルになっていたかもしれない。いずれにせよ「続きを読みたい度」はかなり高い。


選考コメント:短編ベースのコンパクトな怪異譚の冒頭であるが、それゆえにコントロール感を持ってきっちりやりきっていた。普通に面白そうな内容となっている。しかしオーソドックスな怪異譚として「しっかりしている」反面、独自性や現代性という面ではインパクトが不足し、最終選考レベルではおくれを取ってしまっている(もしくは、単純に800文字の中では出しきれなかったのかもしれない)。既に作者の筆力はかなり高く、安定したストーリーテリングができる状態にあると思うので、大賞を狙うのであれば、より冒険した何かを800文字の中に込めて現代性を高めたり、あえて少し崩した危なっかしさや外連味を組み込んでみるといいだろう。あとは抜きん出るだけだ。


選考コメント:不気味な雰囲気で面白い。進むに従って徐々にストーリーが進む感じがあり構造自体がダンジョンに潜っていく感じで噛み合っていると思った。描きたいものを800文字の中でしっかりとやり切っており、その先への導線もしっかりある。奇を衒わない落ち着いた文体が幸いして、ブラックユーモアの感じも出ている。あとは全体的な作品のトーンとしての舵の切り方だ・・・・・情け容赦ないダークファンタジーや怪奇幻想にするならばもう少し硬度が欲しいし、ファンタジーものあるある的な、ある程度の親しみやすさを武器にするならば、もう少しだけ単語のバランスに気をつけ、キャラクターや舞台設定に独自のビジュアル要素が欲しいと思った。どうやってよりインパクトを出すか、という段階に入っている。


選考コメント:これは相当面白かった。湾のゴミの描写がビジュアルとして鮮烈にできていたし、それが異形に変化し、それに対処する、狂ったシステムが説得力を持って書けている。よくあるSFショートショートで小さく纏まるのではなく、そのような世界で展開される物語のワンシーンが切り取られており、興味を引く導入となっている。もう少し主人公のキャラクターを強く出すか、感情を強く揺さぶるようなシーンが挟まれていれば、大賞争いとなっただろう。


選考コメント:内省的で特に動きのない冒頭から、甘いものを食べてトリップしたときの「来た来た!」というところからマジでギアが切り替わり、その切り替わりっぷりの風通しの良さ、爽快感がすごい。すごいドライブ感を感じた。トリップ内容に関してはもう少し独自性があってもよかったが、とにかくスイーツを食べた瞬間のカッコ良さが他の応募作にない魅力を持っていた。最後にもう少し、次に何が起こるのかの示唆を放り込めれば、さらに良くなっただろう。


選考コメント:軽妙な語り口が気持ちよく、続きが気になる。シュールさもなかなかのものだが、話自体は極めて普遍的なフォーマットを用いており、心地よい。突飛な内容っぽく始まるが、言葉遊びやおふざけになっておらず、粛々と物語を進めていて良かったし、真面目に語る雰囲気で「続く」ができていた。まさに理想的な「物語の冒頭」といえる。キャラ造形も素晴らしく、キャラものの小説としては、全作品中で最も魅力的な存在となっていた。ぜひ大切に育てていってほしい。

選考コメント:柴コーンの作者である。これも面白い。色彩のキマりかた、ビジュアルの説得力、きれいにできているし、興味が持続する。文章もうまい。実際、面白い物語の導入、という観点から選べる作品をこの作者は2作品送ってきて、2作とも最終選考に残った。結局のところ、全ての基礎となる文章がうまいのだ。


選考コメント:情景が浮かんでくるし、映像的なカメラワークのセンスを感じる。緊張感を保ったまま、しっかりと話も動いているし、ひとつのシーケンスを描き切れている。800文字でここまで描くのは、大したものだ。ここからさらにFPS的な視点誘導なども盛り込み、狙撃の高揚感や焦燥感のようなものを読者にシンクロさせて味わわせるか、あるいは独自設定要素をいくらかストイックに削ぎ落として、ストーリーをより分厚く展開させられれば、さらに上も狙えただろう。


選考コメント:相当緊張感があり、文章のテンポも良い。端的に散らばった独特の世界を表現するタームが、力んでおらず、よく馴染んでいるので、ストレスがなく、カッコいい感じがして良い。大賞を狙うならば、あとは凄みや、エモーションの部分であるとか、さらにもうひと押しの圧倒的なパワーであるとか、言語化しづらい部分の戦いになってくる・・・そこについてはアドバイスの再現性がなく、しかも重要なのだが・・・あるいはギアチェンジのタイミングをやや早い段階に持ってきて、物語をさらに走らせるなどの工夫が効くかもしれない。



選考コメント:本小説大賞ではなかなか珍しい博徒モノだ。わずか800文字の中に、煙たい雰囲気とかなりの内容を圧縮できている。文章にも緊張感がみなぎっており、テンポの良さを生んでいる。最後のひと押しとして、この上でさらに欲しいのは、漠然とした博徒ものの空気感を超えた部分での、具体的な説得力の部分だ。麻雀部分のディテールをあと一行でも、独自の要素を入れて強烈に印象付けたり、戯画的でもいいので、鮮烈なオリジナルのビジュアルイメージをひとつまみ入れられていれば、さらに上に行けるのではないかと感じた。


選考コメント:強い印象を残す作品だった。謎や違和感の投げかけがどれもこれもうまく、短い中で読み手に興味を持たせる事に成功している。先が気になる内容だ。800字のフォーマットに苦心が見られ、文章の圧縮等にはぎこちなさが見えるものの、訥々と語るような文体は、ソリッドで緊張感があり、好感できるものだった・・・ストーリーテリングへの誠実さを感じたのだ。筆力や造語センスなどを見せるために割かれている行というのがほとんど存在せず、かといって設定のト書にもなっておらず良い按配である。必要なこと以外書かないというのは、簡単なようでいて作者にある程度の熟練と達観が必要であり、最初はできていても、慣れていくうちに手癖などで膨らみがちなところがある。現時点でのこの感触はカッコいいので、洗練させつつも、このテンポや空気感は忘れずに書いていってほしい。



選考コメント:ホラー志向の作品の中では、特にこの作品が、実際にぞくりとくる感覚を与えてきた。不条理がドンと出てくるこのヒキはかなり恐ろしく、続きが読みたいと感じた。そして全体のブラックユーモア含みのモノローグを通して立ち上がってくる主人公サナの魅力ある人間性の描き方も見逃せない。ややエキセントリックでありつつ切実で、なんとなく良いやつそうな佇まい・・・そのあり方は類型的な感じではなく、創作された一個のキャラとして地に足がついており、センスを感じる。この主人公が、事件解決を応援したくなるような共感性を備えているからこそ、恐怖も効いてくるのだ。また文章内の文字列の絵画的な扱い(カタカナ、ひらがな、漢字、英数字の配分とバランス)にも現代的で尖ったセンスを感じる。このまま書いていってみて欲しい。


選考コメント:トラウマによって物理的に成長を止めた主人公の佇まいが、詩的・文学的で美しく、まず目を惹いた。きぐるみ・アニマトロニクス的な邪悪存在も、最近キャッチーな感じがして良い題材であり、そこに見事な主人公を持ってきているので単なるジャンル習作に留まっておらず良い。段落の行頭下げをしていない等、文章にぎこちなさを感じるのが残念だが、設定、展開、各要素は必然性を持って噛み合っており、そもそもこの作品をこの勢いのまま書き上げれば、かなり面白い作品になりそうだと感じた。この物語の完成品も読んでみたい。


選考コメント:序盤から中盤までの流れは実に素晴らしく、無法で破壊的なパワーに満ち溢れており、おれは喝采した。だがフットボール(核ボタン)を求める800文字のオチに向かうにつれて、急に筆者の理性が過剰に働いたかのような・・・冷静になってしまったような感じがあり・・・核ボタンという具体性が逆に全体の設計図を小さくまとめてしまった感があった。これはかなり惜しかった。中盤までのテンポとグルーヴを維持したまま、より段階的に話をエスカレートさせて振り回していけば、読者が勝手に想像力を広げてくれるので、そのほうが良かったかもしれない。あと少しで大賞受賞レベルだと感じた。


選考コメント:過酷な戦場の極限の現場を切り取った作品は、「塹壕もの」とジャンルづけしたくなるくらいには毎年一定数応募されてくるのだが、その中ではこれが特に良いと思えた。この作品は「塹壕もの」の定番フォーマットを持ちつつも、そこにファンタジー魔導兵器等のフィーチャーを組み合わせ、しかも地に足の付いた描写ができていると感じた。どこをフィクションで包み、どこをある程度リアルにすると面白くなるのかが、よくわかっている感じだ。最後のヒキ・・・術式に関する部分がもう一歩具体的に書けていればブレイクスルーできたかもしれない。


選考コメント:これはダイナミックだった。超常的パワーによって死者が出るような破壊的野球のアイデア自体はそこまで珍しくもないのだが、それを端折ったりギャグにせず真摯に小説にしている。真摯にやればうまくいく。途中で試合を切って回想形式に切り替える手法もガッチリきまっていた。ここの場面転換は相当カッコよく、凄みがあった。破天荒なテーマで油断させておいて、気が緩んだところに腹の据わった技巧を見せるのは、良い技巧の使い方である。またテンポも良かった。基礎的な筆力もあり、フィクションを読み慣れている書き手であろうという安心感が生まれる。最初に述べたように超絶野球自体はこの大賞でも繰り返し擦られている題材なので、野放図にめちゃくちゃさを広げるのではなく、どこかで超常の法則性というか設定らしさを見せるなどして、現代的なエンタテイメントとしてのチューニングができれば、さらに良いものになったと思う。




🌵二次選考ピックアップ・コメンタリー🌵

続いて、二次先行突破作品の中からも、いくつかピックアップ・コメンタリーを掲載しています(評価順ではなく投稿順に並んでいます)。ここからは逆噴射聡一郎先生、もしくは局員のコメントとなります。

補足:「筆力も高く、よくまとまっていて、ひとつのショートショートとして完結してしまっているもの(他の賞であれば普通に入選していそうなもの)」については、逆噴射小説大賞という賞にチューニングし過ぎない方が持ち味を活かせそうな気がするため、敢えてピックアップしていない場合があります。このような「なぜあの作品が通ってない?」的な疑問がある場合は「1次&2次選考コメンタリー」を一読してみてください。


選考コメント:不条理な夢のように唐突に映画館へ、そこから迷宮めいた場所へと場面が展開していく。強引なようでいて極めてスムーズに導入とルール設定が行われ、興味もひけている。筆力も十分あり、目に見える欠点はない。強烈に記憶に爪痕を残すようなポイントがあればさらに上に行けた筈だ。800文字で勝負する場合は、全体をそつなく書くだけでなく、何かもう1点、強い印象を残す「引っかかり」を差し込めれば、最終選考レベルになると思う。


選考コメント:突飛なギミックで驚かせつつも、そのギミックで作品が破綻する感じにはなっていないことが好印象だ。ただ「突飛なだけなのかもしれない」という感じは完全には拭えなかった。おそらく、このうえで、主人公への共感性をどう出すかが鍵になっていると思われる。そういうところで地に足のついた部分を作れば、突飛な設定もR・E・A・Lなものとして受け止められる。中盤はかなり良い。後半、ここまで積み上げたものを物語としてうまくドライブできていれば、さらに上を狙えるだろう。


選考コメント:一定の文章力はあるが、素材をまだうまく煮溶かせておらず、ピストオルなどの単語群がやや悪目立ちしている感があり、それらが全体的に凸凹としているので、メインとなる話の本筋をより太くして、装飾的な部分はより自然に本筋に馴染ませるよう地ならししたほうがいいだろう。さらに、設定やキャラクター紹介のその先・・・「要するにこの話は、どこが面白いのか? どう面白くなっていくのか?」を800文字の中で端的に明示できるとよい。



選考コメント:ミイラパンク。設定が面白く、この社会についての想像がひろがり、ワクワクする。ただ、後半のヒキの展開はいかにも急で、とってつけたようになっていたので勿体無い。なんにせよ前半に提示された設定は光っているので、このアイディアを大切にし、何パターンか展開を考え、より物語が広がるものを選んで続きを書き上げるといいだろう。設定の作り方と導入はとても良い。


選考コメント:最終選考の作者のもう一作だ。石を飲む独特のギミックはなかなか面白いが、ワクワクする感じよりも先にしんどそうな感じが来てしまい、全体としてはこの呪孵しのプロセスの紹介に留まってしまっていたのが勿体無い。儀式が成功した部分やコツなどを淡々と説明するより、より具体的な顧客とのやり取りに変えたり、物語自体を展開させる余地がある気がする。そうした描写を挟み、中盤までに、読者に一度報酬を与えたほうがいいのではないだろうか。


選考コメント:不思議と先が気になる魅力的な文章になっていた。じわじわと違和感を出して盛り上げてゆくミステリー的な語り口ゆえ仕方がないのだが、展開自体は800文字の中では少々弱い。最後にもうひと展開あって全体の見通しが良くなっていれば、最終選考レベルとなっていただろう。なんにせよ、このような小説は読者を引き込む「雰囲気」こそがまず肝要であるため、そこがクリアできていることは大きい。


選考コメント:冒頭は相当壮大であり、語り口はかっこよく、読ませた。そのうえで後半に始まったのがテンプレ的な「空から降ってきた言葉足らずの少女」ものになっていたのは、いかにも薄味で肩透かし感があった。そうなるとむしろ冒頭の文章のトーンは装飾過多にも思える。文章力自体はしっかりあるので、あとはどう面白い話を提示することができるかだ。


選考コメント:硝煙の匂いがするハードボイルド・ファンタジーパンク的な世界観を、無理なく描写できている。冒頭「駅のホーム」「煤と鉄」「ドワーフ」「公衆電話」といった単語だけで、ピンポイントに映像が思い浮かぶのは、端的に言葉選びのセンスが良い。その後に続く世界観説明についても詰め込み過ぎておらず、作者の中でより広い世界や舞台が見えているのを感じられ、「これは当たり前の光景です」といった感じで自然に物語を展開できているのは強みだ。残念ながら、事件としてはまだこれと言ったことは起こらず、「依頼エンド」の典型となっているので受賞にはならない。ここにワンアクション入っていれば、さらに上に行けただろう。それでも単語選びのセンス、全体の雰囲気づくりのうまさは改めて強調したい。


選考コメント:エッジの立った文体を使いこなせており、テンポが良く、映像も伝わってくる。惜しかったのは、唐突感を出すためかもしれないが、怪異出現までの接続がややぎこちない感じがしたところと、怪異や異形に関しての外見描写が若干ありきたりで、それ以外のパンキッシュで色鮮やかな部分よりも、色褪せて寂しく見えてしまったところ。ここで怪異のサイケデリックさも階段状にスケールアップしていれば、テンションが高まり、最終候補か大賞レベルになっただろう。もしくは緩急を入れて、物語全体を見通せるような息継ぎの段落を入れ、解りやすさを補ってほしかった。


選考コメント:前半はとても良かった。どんどん事態が展開し、興味を惹いた。しかし中盤で「さあこの後どうなる!」となってから急に話が止まってしまい、勿体ない。冒頭のロケットスタートで生み出した推力が、特に必然性のない会話によって失われてしまっている。繰り返すが、アイデア自体はかなり良かった。後半、ケツがどうとか悪い意味でのテンプレ的なスカムな会話に終始せず、物語の展開に注力していれば、最終選考候補でそうとう面白くなった可能性がある。この話の主題は「下半身しかない奴のどこから声が出るのか」そのものではないはずだ。


選考コメント:一定層の読み手や前提知識の共有が見込める時代モノや歴史モノを下敷きにして、古今東西アナログシミュレーションゲームの「あるある」的なネタを、ライト層にも届くような形で差し込んでいけば、非常に面白いエンタテイメントになるような気がして、可能性を感じた。筆力もあり、小説としても成り立っているが、それに加えて物語の仕組み自体でも面白さを感じさせられるのは強い。「このネタがいけるならば、これでも書けるぞ」と誰かが思わず真似したくなるような構造は、それ自体が小説を読む大きな力になる。このようなネタは双方のモチーフに精通して愛情を持っていないと書けないものだが、書けるのではないかと思わせる何かがあった。


選考コメント:これまでにも何度か選考に残っている作者で、毎回独特のイマジネーションが面白く、ストーリー展開もスピーディで、映像も喚起させる。不思議な魅力がある。しかし小説の形態としては読みづらさが勝ってしまい、読者とそれらのイマジネーションを100%共有するのが難しく、相当小説を書き慣れた人でなければ読み解けないであろうという勿体無さが勝る。この先は、小説の文の書き方の地力をがっちり固めて臨むか・・・あるいは、小説としての精度を高めても勢いが消えてしまう恐れはあるので、いっそのこと講談調や落語、あるいは噺や絵本などのフォーマットを一度しっかり勉強して、そのような形でひとつ書いてみるか・・・とにかく、なにか技術面の下支えとなる「カタ」が必要だ。フォーマットが噛み合えば、大化けする可能性はある。


選考コメント:影の中に入り込むくだりは驚きのある展開で、ビジュアル的にも魅力があり、自由なイマジネーションを展開してダイナミックだった。光るものがある。物語を語る上での、主人公の切迫感や動機などのエモーションの真芯の部分がほしい。そこに気をつけ、緩急をつけて物語を展開させればさらに面白くなるだろう。


選考コメント:「グリッチマン」や「叙ン」など、設定や固有名詞に独特のセンスを感じられ、それらは全て有効に機能していると感じた。しかし読み味が若干平坦であり、ダイナミックさに欠けている。800文字の制限は厳しいものだが、もう少し話や心を動かして、物語の進む先を予感させたり、叙ンが「ここから出なくちゃいけない」理由であるとか、掛け合いの中で端的にエモーションを描くことができれば、最終選考に入っていたと思う。


選考コメント:これは、カッコいい。詩としてカッコいい。例年のこの賞の応募作には、しばしば「これはただのポエムみたいになってる」という落選パターンがあるのだが、これは、「ただの」ではなく、実際に詩としてかなりカッコよくキマっているという稀有なケースだ。逆にいうと、この賞ではないようにも思う。それでもこの作品はなんかビュンビュンしててカッコいいのでコメントつけざるを得ないなと思った。


選考コメント:花と呪いを結びつける話のビジュアルは惹きがあり、良さを期待させた。中盤まではかなり良い。後半に唐突にバトル展開になった感があり、そこが惜しかった。小説として各パートをうまく馴染ませ、唐突感なく展開できていれば、もっと手応えが出たと思う。


選考コメント:ディティールに説得力があり、言葉選びにも手抜かりはない。容赦のないトーンや圧縮文体の技法としては、全作品中でも随一だ。ハードSFものとしてかなりちゃんとしているのだが、惜しくもシーンスケッチに留まっており、物語としての全体的な面白さの勘所や独自性までは伝わってこなかった。この作者はもともとバイオレンスものを書かせると絶品であるが、今年は敢えて違ったジャンルをいくつも攻めたのだろうと感じられた。地力はとにかくあり、ワンシーンだけでもこれだけの高揚感を生み出すのは流石だ。実際この文章自体は破綻なく良いので、800字とか言わずにこのまま最後まで書き上げてしまえばガッチリ面白くなる可能性がある。


選考コメント:一定の面白さが間違いなくある。囚人として牢の中で生まれ育った「ぼく」がずっと母親と居ること、「ぼく」の力など、興味をひく要素が沢山あり、端々からポテンシャルを感じさせた。しかし800文字というこの特殊なレギュレーションの中では、やや展開をもったいぶり過ぎになったきらいがあり、最終的には全体の物語の印象が漠然としていたことが惜しい。「ぼく」の素性などについて、もっと速やかに情報を提示して、ストーリーの全容に期待させるほうが良い結果になったかもしれない。


選考コメント:初見で「またサメか」(またチュパカブラか、などに近い感情。サメものも毎年1000本くらいは来ている)という印象を抱いたが、読むと内容はまっとうであり、それがむしろ逆に「無理にサメにしなければ上に行けたのに」という結果になった。サメは元来パルプ四聖獣のひとつであり、出せば最低限の面白さとインパクトが確保されていたものだが、近年はサメものも擦られすぎ、「あえてのサメ」という態度があまりにも共有されてコモディティ化した結果、逆に、悪ノリと判断されたり、インパクトねらいを見透かされてしまうリスクのほうが増している。もちろんサメに必然性や面白さが出ていればいいのだが、この作品は一発ネタにとどまらないちゃんとした内容になっている分、なおさら、サメ要素がどこか余分で不整合を起こしていた。サメ縛りでもあったのだろうかという不自然さだ。


選考コメント:「奇想な設定」を800文字のオチ的に書いて終わりとする作品は例年多いが、この作品は中頃ですでにそれを回収し、それによって実際何が起こるのかまでを具体的に考え、物理的なアクションとして示している。単語まわりのセンスも良い。これらの時点で既に評価は高い。ここから先は具体的なアドバイスの難しい「小説としての完成度」「筆力の練度」といった要素になる。あとは数をこなす過程で設定を適宜見直すなどして、磨いてほしい。この作品をこのまま完成させてもよい。


選考コメント:アイディアは直感的で面白かったため、突き抜けた読み味を期待したが、崩れ過ぎた文体や過剰な改行が入る構成などが八方破れすぎて読みづらく、小説としての評価は難しかった。普通ならば文体の時点で問答無用で落選する文体だが、だとしてもストーリー本体が光っていたので今回コメントしたいと思った。これは勿体ない。アイディアやキャラクターはとても面白いのだから、地に足のついた、素直なストーリーテリングと小説を期待したい。




🌵🌵🌵おつかれさまでした!🌵🌵🌵



以上で大賞&入選作品群の紹介と選考コメンタリーを終了いたします。全作品に1個1個目を通していった逆噴射聡一郎先生、および審査員の皆さん、お疲れ様でした。そしてこのイベントに参加してくれた皆さんへ、ありがとうございました! また、一次&二次選考の重要な覚書は、以下の記事に集大成的にまとめられているので、気になる人はぜひ読んでみてください!




🌵未来へ(エンドロール)🌵

逆噴射小説大賞は、通常の小説大賞とは根本から異なるかなりピーキーなレギュレーションなので、いわゆる名作の冒頭800文字をそのまま持ってきてもインパクトが出るとは限らないし、逆にこのレギュレーションに特化しすぎても、小説として本当に面白くかつ広い層に楽しまれるものになるかどうかは全くの別物です。審査自体も、逆噴射聡一郎先生のその時の気分で選ばれたものであり、あまり重く捉えすぎないでいただければと思います。

コンテストの形式をとっている以上、やはりどうしても「選ばれた作品」と「選ばれなかった作品」は出てきてしまいます。特に今回はファンイベントではなく、CORONAという黄金を奪い合う「コンテスト」であり、中には小説家を目指す人も多いでしょうから、この結果を過剰に重く受け取めてしまう人もいるかもしれないので、あらためて書いておきたいと思います。


どんな規模のコンテストもそうですが、それは人生のゴールインでも世界の終わりでもないのです。たとえどこかで新人賞を取ってデビューが確定したとしても、創作はそこから先も一生続いていきます。毎日プラクティスなのです。なので、こういった賞への応募活動に参加するにあたっては、選ばれなかった事を理由に自らのモチベーションを減退させるべきではありませんし、納得がいかないからと運営サイドに掛け合おうとしたり執着してはいけません(そんなことをしている暇があるならとっとと次の作品を書くべきです。どんなステータスのクリエイターであれ、結局最後は自分自身との戦いであり、外部の力に期待しすぎてもいいことはありません)。今回だめだったら、単に気持ちを切り替えて次にいけばいいだけの事です。

特に、逆噴射小説大賞は冒頭の書き出しだけを競う、かなり尖ったコンテストです。仮にそれで賞を獲れなくても、そのまま書き続けていった結果、一個の作品としてアッと驚く内容に仕上がる可能性も当然あります。今回二次選考に通らなかった作品も、ぜひ、他の発表の場で公開してみてください。どれがそうだ、というのは特に明言しませんが、今回選考突破作に含まれなかった作品のうち「この作品、最後まで仕上げてうち以外のところに出せば、いいところまで行くはずだな」と思われた作品も少なくありません。実際、過去の応募作を書き上げることで、そのまま出版社の新人賞獲得やプロデビューに繋がった事例などもあり、審査員一同とても嬉しく、また誇らしく思っております。

逆噴射小説大賞は、大賞を受賞してもCORONAと栄誉がもらえるだけで、我々ダイハードテイルズ側は一切出版などの権利を主張しないという稀有なコンテストです。受賞しなかった応募作についても同じです。あなたが書いた作品はあなた自身のものです。ですから、書いていてあなたが手応えを感じた作品は、ぜひ仕上げて、その作品が最も向いていると思われる場に投稿してみていただきたいと思います(もちろん #逆噴射プラクティス への投稿も引き続き歓迎です)。

もしあなたが読者としてこのイベントに参加しており、「あの人の作品が選考を突破していないなんて信じられない!」という作品があれば、スキを押して応援したり、応援メッセージを直接作者の方に伝えてあげてください。もしくは「聡一郎もヤキが回ったもんだぜ!」と笑ってバーカウンターから立ち上がり、来年はあなた自身が小説大賞に応募してみてください。

このイベントを「生まれ出なかったかもしれなかった物語を書くきっかけ」にしていただければ、ダイハードテイルズ一同、これに勝る喜びはありません。毎年、自身の応募作品の「続く」の先を書いていっている方々を散見できます。終わりまで小説を一本書き上げること自体に、新たな発見や楽しみがあります。是非、皆さんも冒頭で止まらずにそれを作品として完成させ、世に送り出してください!


🌵🌵🌵


次回「逆噴射小説大賞2024」は、2024年10月に開催予定です。レギュレーションは変わる可能性があるので、2024年10月の発表をお待ちください!

(ダイハードテイルズ出版局)

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