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S5第2話【スクールガール・アサシン・サイバー・マッドネス】

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S5第1話【ステップス・オン・ザ・グリッチ】





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「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」「アイエエエエ!」複数のヤクザスラング、そして悲鳴、打擲音。表通りの光が、ヒビの入った壁に、暴力の光景を影法師として映し出す。囲んで棒で叩く影を。

「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」「は……払う、払いますからァ……」「……」暴力が中断した。ヤクザ達は顔を見合わせ、サイバネアイの緑光が闇に浮かぶ。「……払うカネなんざ、ねェーだろうがコラァ!」「アイエエエ! ありません!」「ザッケンナコラー!」「アイエエエ!」暴力再開!

 表通りをゆくほろ酔いサラリマンは激しい暴力の音声に思わず足を止めた。だが、ヤクザが「なにか? ウチは許可取ってるんですけどね?」と睨みつけると、すぐに逃げていった。許可? そんなものは当然ありはしない。だが、だからといって何なのか。サラリマンを追い払うには十分だ。

 ヤクザは哀れな債務者を思う存分に打擲すると、やがて、痙攣する足を掴んで引きずり、ヤクザワンボックスの後部座席に投げ込んだ。そして彼らもしめやかに車内に乗り込んだ。彼らが向かう先は無論、生体マーケットのブローカー。24時間体制で闇医者が詰めている。何たるマッポーのシステムか。

「エート、次の滞納カス野郎は何処ですかね?」運転ヤクザが助手席のヤクザに尋ねる。助手席ヤクザはダッシュボードの液晶に指を当てた。ほど近い区画にマーカーが灯った。「まとめて回収すんぞ」「ハイヨロコンデー」ヤクザワンボックスは青信号と共に再発進した。交通ルールをよく守る。

「実際安い」「金無垢」「おマミ」「大鳳凰」……色とりどりのネオン看板がドアウインドウの外を流れ、ヤクザの横顔を縞模様に彩る。債務者にはまだ意識はあったが、もはやヤバレカバレの逃亡を試みる体力も気力もない。諦めている。残酷な世界であった。これはマッポーのチャメシ・インシデントだ。

『そこの路地にいい感じで入るドスエ』。ナビAIが柔軟なガイド音声を発した。運転ヤクザは光ささぬ路地に車を進める。「腹減りませんか。この後なに食います?」「ホルモンだろ」「ナハハハ!」「ナハハハ!」ヤクザは笑いあった。

 一瞬後、ハイビームのライトが路上に横たわる市民を捉えた!

「ア?」「何よ」ズゴン。車体が上下に揺れた。「轢いちまうだろそりゃ」運転ヤクザが毒づき、助手席ヤクザが笑った。「ワハハハ!」「いや、少しは減速しましたよ? 俺も」「ワハハハハ……いや待て」「何です?」「イギモト=サンじゃねえか? 今の」「え?」「滞納カス野郎だよ」マーカー地点だ。

「え? 待たせてた場所ッスか? なんだよ」「轢かれやがってぶっ殺すぞイギモトの野郎……」彼らは罵った。そして車体を切り返し、倒れた市民の前まで戻った。ドアを開き、あらためにゆく。「やっぱそうだな。イギモト=サンだ」「臓物イッたか?」「とりあえずボディ、回収しましょ……」

「テメェがやれよ」「わかってますけどねえ」運転ヤクザは渋々、路上の市民を担ぎ上げた。ぐったりと重い。「やっぱ死んでるんじゃないスか」「お前の運転のせいだろ」「よしてくださいよ、ハハ……」「いや、お前の運転だろ。どうすんだ?」「え?」「だから、どうすんだって。言えよ」

「だから、」「だからじゃねえよ。オニイサンに何て報告すんだよ。滞納カス野郎を殺しちまってよ」「え……」「おい」助手席ヤクザの濁った目が闇に光る。運転ヤクザが震えだした。目を泳がせた彼は、足元、マンホールの蓋が横にスライドし、誰かが這い上がってくるのを見た。その者が構えた銃を。

「え……」「えじゃねえ……」BLAMN! 運転ヤクザの眉間に銃弾が着弾。後頭部から脳漿とともに飛び出した。運転ヤクザは仰向けに倒れた。彼を詰めていた助手席ヤクザは、弾かれたように後ろを振り向く。闇だ。そこには誰も居ない。足元の穴から、銃撃した者が這い上がりきっていないからだ。

 気づいた時には、遅い。助手席ヤクザの足首が水平に、ばっくりと切り裂かれる。「グワーッ!?」助手席ヤクザは倒れ込んだ。逆に、襲撃者は穴から上体を乗り出し、大声で笑った。「アーッハハハハハ! ヤーッター!」そして梯子を上りきり、苦しむヤクザを見下ろす。Aラインのシルエット。緑のレインコートを着た女だ。

「テメッ……何処の誰……!」「え? 教えたらヤバイッショ」レインコートの女は顔をしかめる。壁の配管が漏電し、バチバチと火花を散らす。照らされた顔。ヤクザは呻いた。若い女。若すぎる女だった。「女子……高生……?」「キモチワリーナ!」BLAMN! 銃弾がヤクザの頭を噴き飛ばした。

 死が路地裏に満ちた。レインコートの女はヤクザを蹴り転がし、財布を抜いた。そしてその場で何度もジャンプし、手を振った。「終わったぞ! 早く! 急げッて!」「わかってるよォ……!」パシャパシャと水溜りを蹴散らし、近づいてきたのは、やはり若い女だった。こちらは金髪で、眼鏡をかけている。

 レインコートの女は意気揚々とヤクザワンボックスカーに乗り込んだ。「早く早く! モニコ=サン!」フードを跳ね上げると、灰色のストライプ状のメッシュを施した、首の長さの黒髪があらわとなる。身を乗り出して手招きする。「待って……リンホ=サン、置いてかないで」「おらッ」掴み上げる。 

「アイエエエ……」車内に残っていた債務者が大声をあげようとする。リンホは容赦なく殴りつけ、黙らせた。彼女の右腕はサイバネティクスに換装されている。凄まじいパンチ力だった。「う、運転できるの? リンホ=サン」モニコが尋ねた。リンホは頷いた。「ゲーセンでやってるし」「かわるから!」

「なんだよォ。お前もできないだろ」だがリンホは大人しく助手席に移った。モニコはハンドルを掴み、意を決して、アクセルをベタ踏みした。ヤクザワンボックスカーが凄まじい速度で裏路地を飛び出す。「アハッ!」リンホはシートに重力で押し付けられながら笑った。「アッハハハハハハ!」

「ちょっと黙ってて!」赤信号!「やるじゃんモニコ=サン!」「黙ってて!」「急に髪染めちゃってさァ! 似合ってる」「うるさいよ!」リンホは液晶パネルを操作し、マップのマーカーを確認!「よし、このまま手筈通りやるかンな! ここに行くぞ! 生体マーケットに、バチコーンだよ、バチコーン!」


ニンジャスレイヤー AoM

【スクールガール・アサシン・サイバー・マッドネス】


 アタバキ・ブシド・ハイスクールの校門前には屈強な体育教師が腕組み姿勢で佇み、始業間際に校門に走り込んでくる生徒たちに睨みを効かせていた。「待って待って! 待って!」声が飛ぶ。そして、パンを咥えたリンホ・クロキが角を曲がって現れた。「クロキィー!」体育教師が唸った。

「早く早く! 早く!」敷地内、リンホに向かって手を振るのは、クラスメイトのモニコ・サイトウ。この日の登校から、髪が金髪である。体育教師は振り返り、ギョッとした。保守的なネオサイタマの高校において、黒髪は、知的・大人しい・奥ゆかしいなどの内面を担保すると一方的に考えられている。

「間に合った!」挑発的に滑り込んだリンホ・クロキは反抗的な生徒として知られており、派手なメッシュにも教諭たちは慣れっこだ。だが、内気なそこそこの優等生として知られていたモニコの変化には体育教師も驚きを禁じえない。そんな様子には構わず、二人は校舎へ向かうのだった。

「お前の髪さあ」アイサツもそこそこに、リンホは指摘した。「染めたのはいいけど、コケシみたいなままじゃん」「いいの! 切ったばっかりだし。お金かかるから」「そんなカネあるだろ」リンホは携帯端末を取り出した。「見ろッて」NSTVのニュース番組のLIVE映像だ。『今日未明。暴走車両が……』

「エッ」モニコは青褪め、無意味に周囲を見回した。「このニュース……」然り。ヤクザワンボックスカーが生体マーケットの建物に突入し、護衛のヤクザと戦闘して、金庫の万札を強奪したという危険なニュースであった。「派手にやったからな! 多少はな!」リンホはやや得意げだ。

「バレたらヤバイよ」モニコは声を潜めた。リンホは顔をしかめた。「バレないって。うるさいな」「でも……」「今バレてねーし」「だけど……」「でもとか、だってとか、イイんだよ。山分けにしたじゃん、昨日のカネも」「……」モニコは言葉に詰まる。他の生徒が通りがかる。二人は口笛を吹いた。

「それでな」生徒が通り過ぎると、リンホはモニコをグイと引き寄せた。「次のターゲットも決まってンだぞ」「アイエエエ……!」「ビビってンなよ。バレたら困るなら、バレないように次頑張りゃいいだろ」「戦うのはリンホ=サン一人だし……」「そうだアタシ一人。だからいいじゃんよ」

「昨日は不意打ちとクルマの奇襲でどうにかなったけど、次は大丈夫なの?」「ノッてきたな!」「ノッてきてないよ」「とにかく、マズい事あったら、試して反省して、次に活かせばいいじゃん。勉強と同じだろ」「勉強できないじゃん、リンホ=サン」「うるッさいなあ!」

 リンホは会話を打ち切った。二人はそのまま授業に出て、武田信玄の活躍や、陰イオンについての計算式、電子戦争に関する歴史の授業をこなした。リンホは居眠りだ。昼は特別メニューにステーキ・ドンブリがあったので、長蛇の列が出来た。二人もそこに並び、首尾よく皿をゲットした。

「やっぱタンパク質が資本じゃんな」リンホはステーキを頬張り、貪る。「身体が出来てないと、これ動かすのも苦労するし」リンホはテーブルに肘をつき、指を動かして見せた。「それはそうだよ」モニコは同意した。「不調とかはない?」「ないない。これ、すっごいパワーだわ。マジで」

「ならいいけど」モニコは息を吐いた。「わたし、プロのサイバネ・メカニックじゃないんだからね」「知ってるよ。女子高生なんだから」「女子高生にもプロのメカニック居るよ。そういう人はネオサイタマ大学に進学するんだよ」「お前も行きゃいいじゃん」「なんか話が違ってきた」

「ゴチソウサマ」リンホは空のドンブリを置いて、手を合わせた。そして、言った。「……進学するのに、どんだけカネかかるか知ってる?」「え……」「アタシの親も、アンタの親も、別にカネモチじゃないし。アンタは奨学金もらえるほどのテンサイじゃない。何をするにもカネが要るよ。絶対」

「え、どういう事?」「だからさ、アタシこれから、でかいカネを稼ぐわけじゃん。敵はヤクザだぜ。カネを持ってる」「シーッ!」「アンタに山分けするから、進路は安泰だぞって話」「安泰って……」「だから! 協力してくれよ、モニコ=サン、もうちょいの間! 居ないと困る、これはマジな話!」

「それは……」モニコは目を伏せた。そしてステーキを齧った。「まあ……助けられるうちは……いいよ」「助かる!」リンホは目を輝かせた。モニコは言った。「リンホ=サンが実際酷い目にあったこと、知っちゃってるし……乗りかかった船っていうか……」「だろ。だよな」リンホは身を乗り出す。

「奴ら、全滅させなきゃ気がすまない」右腕のサイバネアームに力が籠もり、テーブルに亀裂が走った。「アタシの家族をめちゃくちゃにした連中の上に、奴らがいる。ハウリンウルフ・ヤクザクランが。全滅だ。そのために、腕だって何だって、くれてやるよ。だけど、犬死には絶対嫌だかんな……!」

「そ、そうだよ」犬死には嫌、というリンホの言葉に、モニコはすがりついた。「わたし達、ラッキーだったんだよ。あの時、ああして出会えて、協力したから、うまくやれたんだよ。だけど昨日は危なかった。無茶したからだよ。毎回ああいう風にはいかないよ」「……」「準備、ちゃんとしよ」

 ――放課後、7PM。

 リンホとモニコはタマ・リバーをくだる屋形船のザシキに居た。モニコはラップトップUNIXを開き、周辺状況をモニタしている。そしてリンホは質屋で入手したカタナを鞘走らせ、刀身に映る己を見ていた。


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『集合的殲滅全体! 高揚感撃滅満載! 最強高機動! 最強高機動! 最強高機動! 脳にブチ込んでくれようか! 頭蓋!』

 ヒリヒリ割れた叫びのボーカルを引き継いで、高音をいからせたベースラインが迫り出してくる。ベオベベオベオベベオ! ノイズパンクバンド「夏のあなた達」の名曲「最強高機動」だ。

 ピアス型の骨伝導イヤホンを通し、フルボリュームの「最強高機動」を鳴らしながら、リンホの歩みは早歩きに、そして疾走になる。リンホは走りながら笑った。そして跳んだ!

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