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【ディフュージョン・アキュミュレイション・リボーン・ディストラクション】

◇総合目次 ◇エピソード一覧
この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードの加筆修正版が、上記リンクから購入できる第2部の物理書籍/電子書籍に収録されています。また、第2部のコミカライズがチャンピオンREDで行われています。


【ディフュージョン・アキュミュレイション・リボーン・ディストラクション】


1

「あれは、ええと、いつだったかな。よく覚えてないんだ。その時俺は、なんてこたない、買い物に行くんだか、遊びに行くんだか、駅に向かって歩いていたのさ。で、その前を、初老のサラリマンが歩いてたんだよね。まあ、それで、普通に歩くじゃないですか。駅まで。その途中だよね。」 

「いきなりだった。そのサラリマンが、ウーッ!て。苦しみだして、ぶっ倒れたんだ。それで俺は……何だろうね、ああいう時のアトモスフィアっていうか、一瞬の機運に乗り遅れた気まずさっていうか……俺はさ、助けなかったんだ。そう、俺は助けなかった。駆け寄って介抱したり……しなかったんだ」

「いや、ほったらかして通り過ぎたってわけじゃない。俺は助けなかった……まず、そのサラリマンを見下ろした。ガタガタ震えていて、転倒のせいだろうな、膝は擦りむけ、額から血を出して、心臓を押さえてた。次の瞬間、後ろから一人、おれを追い越して駆けて来て、サラリマンのもとに屈み込んだ」

「『大丈夫ですか!何か、持病ですか?クスリは有りますか?』って、その、若い女の子はさ、サラリマンに呼びかけて……それで……いや、誰も、だからってさ、俺のことを咎めたり……そういう目で見たって事じゃない。実際、そのまま歩き去って行く奴らもいたんだ。でも俺も、同じことさ、結局」

「俺は何ていうか……タイミングを失して、突っ立って見下ろしていた。女の子が『救急車呼ばないと』って言った、俺は懐の通信機を探ろうとした、でも見物人の一人が……その時は結構いたんだ……うん、見物人の一人が進み出て、救急車にコールを始めた。俺は『大丈夫ですか』って、やっと訊いた」

「サラリマンが青い顔で……大丈夫です、大丈夫です、って答えた。俺は、うん、俺はそれでさ……まあ、それだけだよ、待ち合わせに……遅れないように……誰も咎めなかったし、何も滞っちゃいなかった、だから……だけどさ……」


 ……カタオキは……シルバーキーは目を開いた。コンクリート天井。身を起こした。首に包帯が巻かれている。痛みは無い。壁には「安らぎ」と書かれたショドーが掛かり、棚にはフクスケとコケシが置かれていた。「フクスケ。……やれやれ」バシダのクリニック。処置が済んだと考えていいのだろうか。

 窓が無いので時間の経過もわからぬ。「動いていいの?」独り言のように呟いた。個室の外に聞こえただろうか。ニンジャスレイヤーは近くにいるはずだ。あの男にとってのギブはこれで終わり。後はテイクだ。ハイ、サヨナラ、とはまさか行くまい。そもそもシルバーキー自身そんなマネをする気はない。

「起きていいのかなァ?」シルバーキーは呼びかけた。返事は無い。彼は肩をすくめ、ベッドから降りた。個室出入り口の「新撰組」とミンチョ書きされたノレンをくぐり、廊下へ出た。真っ暗だ。「あ……ヤバイ?」シルバーキーは呟いた。振り返る。ノレンは……部屋はもう無い。彼は闇の中にいた。 

「ハイハイ、夢ね」彼は頭上の闇を見上げた。四角い金色の立方体がゆっくりと回転している。見慣れた光景だ。「夢ではない」女の声。シルバーキーは驚いて声の方向へ向き直った。カラスめいた黒い髪、白い肌の、美しい女が彼を見ていた。鎖骨のあたりから下は炎めいて揺らぎ、霞んで見えない。

「ド、ドーモ。シルバーキーです」彼はうろたえて反射的にオジギした。女は答えた。「ドーモ。シルバーキー=サン。バーバヤガです」途端に、女の背後に、朽ちた石の階段がせり上がる。全部でそれは2248段あり、一番上のトリイ・ゲートを始めとして、数百段ごとに踊り場とトリイが存在する。

「ナニコレ!?」シルバーキーは後ずさった。バーバヤガと名乗った美しい女は腕を組み、小首を傾げて、値踏みするようにシルバーキーを見た。「それで貴方は今回、何段上るつもり?」「え?」シルバーキーは途方の無い階段を見た。「いや……ちょっと話が」

「貴方は大それた事をしようとしている」女はじっとシルバーキーを見た。「だが、挑戦者の出現は実際喜ばしい」「挑戦……ああ……ええと……」「あまり解ってはいないのだろうね」女は瞬きひとつせずにシルバーキーを見ている。「だが達成するだけの力を貴方は持っている。多分ね」

「多分……」「そう、"多分"」バーバヤガは言った。「貴方が心の準備も無しにいきなりあそこに飛び込むハメになるのは、私もさすがにね……見てられないと思ったからね」女は無感情である。「そりゃどうも」シルバーキーは肩を竦めた。「俺はそのう……ニンジャスレイヤー=サンのさ」

「そう、ニンジャスレイヤー=サンの」女は引き継いだ。「ニンジャソウルを解き放とうってわけよね」「そう、それ」シルバーキーは答えた。「物知りだね。あンた神様か何か?やっぱ、俺の夢かな?」「夢では無い」

「ナラク・ニンジャは、貴方の想像よりもずっと」「ずっと?」「この試みは、心せねば、0100101101010001」「001010111110010」 「000101011」……。

「ウオオオッ!」シルバーキーは飛びすさり、背後の壁に激突した。「大丈夫か」ニンジャスレイヤーがシルバーキーを見た。「お、オーケイ、オーケイ。ノープロブレム。ノープロブレム。たまにあるんだ、その、フィードバックつうか」シルバーキーは鼻血を拭い、ナンシーの寝顔を見下ろした。

「大丈夫なのか」ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。「大丈夫だ!ナンシー=サンには傷ひとつつけちゃいねえから」「それもあるが、オヌシがだ」ニンジャスレイヤーは言う、「何故オヌシは私に力を貸す?」「いきなり何だよ!」シルバーキーは両手をひろげた。「ビジネス!」

「……」ニンジャスレイヤーは無言だ。納得していないのだ。「何だよ何だよ、今更」シルバーキーは言った。「信用してくれねぇかな……」「信用はしている」「じゃあ、いいじゃないかよ。ホラ、今はナンシー=サンの話だろッて」「……」

 ここはノビドメ・シェードの裏通りにある偽装コフィンホテル施設の一画……運び屋デッドムーンが用意したシェルターであり、ナンシーはこの地下玄室に、フートンに包まれ、永い眠りから醒めずにいる。覚醒は24時間に数度、十数分に過ぎず、ほとんど夢遊病めいて流動食を取り、また眠りにつく。

 それは彼女が慢性的に服用したザゼン・ドリンクの痛ましい副作用であった。ソウカイヤとの長い戦いが彼女に強いた極度のハッキング・ストレス、拉致監禁による消耗……様々な要因が、無理を重ねた彼女の精神を、この昏睡状態へと追い込んだのである。

 彼女の状態は、ニンジャスレイヤーがネオサイタマを発つ直前よりも……そして彼が悲観的に想像していたよりもなお悪化していた。キョートにおいても時折ネットワークに姿を現し、ガンドーやニンジャスレイヤーを助けてきた彼女の帰るべき肉体は、今や檻めいて彼女の自由を奪う重荷と化していた。

 マルノウチ・スゴイタカイビル。ニンジャスレイヤーをニンジャスレイヤーたらしめたあの悲劇の舞台こそが、今回の旅の終着点であった。コフーン遺跡でフジキドが見、そして遥か遠くで同時にシルバーキーが感知した幻……ナラク・ニンジャが指差す先にあるランドマーク。 

 あの日、聖なるヌンチャクは、フジキドのニューロンの中で不本意な眠りに沈んだままのナラク・ニンジャを一時的に覚醒させた。まるでそれはセキバハラのストーンヘンジでの、あのイグゾーションとの戦いで起こった出来事めいて。そしてヌンチャクは、フジキドに力を与えたのだ……敵を倒す力を。

 ナラク・ニンジャは再び眠りについたが、その際、マルノウチ・スゴイタカイビルを指差した。スゴイタカイビルはフジキドが最愛の妻と子を失った呪われた場所だ。しかし同時に、ナラク・ニンジャがその身に入り込んだ場所でもある。ナラクがその地を指し示すのであれば、そこには必ず何かがある。

 フジキドはナラク・ニンジャの力を取り戻す必要を痛感していた。ザイバツとの戦いは激しさを増す。イグゾーションのような強敵は今後も現れる。そしてそこにセキバハラのストーンヘンジは無い!ヌンチャクの力を引き出すために、ナラクが必要だ。ラオモトとの戦いで見せたあの共振が必要なのだ。

 そしてシルバーキー。彼は、己が見続けたビジョンをニンジャスレイヤーに語って聞かせた。(「きっと俺の役目なんだ、あンたの見た物を俺も見たっていうのは」)そしてマルノウチへの道すがら、ナンシーを立ち寄る事を提案したのもシルバーキーだ(「俺の力で、物は試しだぜ」)。

 かくして今、二者は昏睡状態のナンシーを前にしている。「なぜ助ける?」というニンジャスレイヤーの問いは、ある意味もっともな疑問である。シルバーキーとて、ナラクの恐ろしさ、それを覚醒させる事のリスクを知らぬはずが無い。だが……シルバーキーは自身のモチベーションの源を語らぬのだ。

 ……「こいつはしかし参ったな」数時間後、シルバーキーは再びマインド潜行を中断し、血の涙を拭いながら告げた。「ちょっとおかしいんだ。まるで彼女のカギがどこかに置き去りにされてるような感覚だ。うまく言えねえんだけど」「カギ?」「ああ、カギだ。……ザゼン中毒なのかな?本当に?」


◆◆◆


 ネオサイタマ・ステイションを降り立ったそのニンジャは、精鋭部隊めいたクローンヤクザ達に周囲を護られながら、時間ぴったりにロータリーに走り込んできたリムジンに滑らかに乗り込んだ。リムジンのルーフには仰々しいシュライン飾りがデコレートされており、瀟洒である。

 シュラインには小さな旗が数本立てられ、風になびく。意匠は垂直に二分された正ダイヤ文様と、その中に文様めいて書かれた「罪」「罰」の二文字。闇社会に身を置くものであれば瞬時にそれがザイバツ・シャドーギルドのエンブレムである事を見て取り、場合によっては恐怖のあまり失禁するだろう。

 運転ヤクザは自らこの主に向かって無駄口を叩くようなまねはしない。車内で聞こえるのは、フロントガラスを撫でるワイパーの音だけだ。しめやかに運転されるリムジンはそのまま道なりにしばらく進み、人気の無い鉄橋にさしかかった。

 鉄橋のたもとには、風景にとけこむようなたたずまいで、ニンジャが二人直立していた。これも、時間通りである。リムジンは道路脇に寄せて停止し、まずクローンヤクザが降りて傘を広げると、車内のニンジャがゆっくりと降車した。路上の二人のニンジャは素早く跪いた。

「ドーモ……」「フーンク」二人のニンジャは片膝の姿勢で両手を額の前で組み、厳かにアイサツした。「長旅おつかれさまでございます、ダークドメイン=サン。私はワイルドハントです。此奴はインペイルメント」「フーンク」「此奴は喋れんのでして……」「知っておる」ダークドメインは言った。

 二人のニンジャは素早く立ち上がった。「こちらでございます。温泉とスシを用意させております。ご入用でしたら、オイランも」ワイルドハントはうやうやしく説明した。「なるほど」彼らはダークドメインを先導して歩き出した。ダークドメインは配下ヤクザに傘をささせたまま、その後に続く。

「エドマエやツキジがありますから、スシは実際良いです」ワイルドハントは言った。「オーガニックの大トロやバイオウニをご賞味いただいて。オイランはガイオンのようにはなかなかいかぬのですが……」「なるほど」旅館のオモテナシめいた会話であるが、張りつめた空気は尋常ではない。

 それもそのはず、ダークドメインは並のザイバツ・ニンジャではない。ザイバツ・シャドーギルドにおいてわずか数人。恐るべき戦闘能力と知力、チャの作法、ハイクの才を兼ね備えたグランドマスター位階のニンジャなのである。くわえて今、その虫の居所は……当然ながら……最悪であった。

 土手の階段を下りると、そこにはかなり巨大な屋形船が停泊していた。「こちらです」「船の中に温泉か」「はい。湧き出た温泉を朝一番に汲み上げまして……非常に価値の高い木炭を用い、スモトリが風呂釜を最適温度に湧かしております」「……」ダークドメインは屋形船を無感情に見やった。

「ところで、俺がこうしてネオサイタマくんだりまでやってきたのは、くだらん接待にうつつを抜かす為ではない事はわかっておるな」「もちろんでございます!」ワイルドハントが勢い込んで片膝をついた。隣で直立しているインペイルメントを見、その装束の裾を掴んで、同じように膝をつかせた。

「憎きニンジャスレイヤー……このネオサイタマへのうのうと戻って参ったは、まこと遺憾の極みでございます」ワイルドハントは雨に打たれながら言った。「レッドゴリラ=サンも不幸な事と相成り……このように……貴方のようなお方にまでご足労いただくほどに」「その通りだ。無能者」

「ハハーッ!」ワイルドハントは泥の中にドゲザした。ブザマ!しかし彼とて低級のニンジャではない。つまりダークドメインが、彼をしてそのようなブザマな真似をさせるほどの権威と実力の持ち主なのだ!「……」インペイルメントは片膝姿勢のまま、ワイルドハントのブザマを見下ろした。

「先導せよ」「フーンク!」インペイルメントは立ち上がり、屋形船に向かって歩き出す。ワイルドハントも状況を察してドゲザを解き、仲間に続いて小走りになった。客の到着にあわせ、巨大屋形船の出迎えボンボリが灯り、チョウチンを掲げたスタッフが降りてきた。「イラッシャイマシ」

 ダークドメインはチョウチンスタッフに右手をかざした。するとスタッフの足元の地面に円い暗黒が口を開いた。「アイエッ!?」彼は穴の中にスポンと吸い込まれ、一瞬にして見えなくなった。ダークドメインが右手を握り込むと、超自然の円穴は何事も無かったかのように閉じられた。

「え」ワイルドハントはダークドメインを振り返った。殺したのだ。ダークドメインは何の感情も見せず、屋形船に乗り込む。殺したのだ……何の理由も無く。いや、彼なりの理由はあったやも知れぬ。少なくとも哀れなスタッフとは何一つ関係の無い理由が。「まず温泉を」ダークドメインは言った。


2

 この日もマルノウチの空は灰色で狭く、スゴイタカイビルの威容は雲を貫き、その上層はブッダガーデンめいて、市民の手の届かぬ視界外にある。飛行するマグロツェッペリンの横腹には広告ビジョンが点灯、「ヤンバーイ」とポップ体で書かれた文字が、赤から黄色へグラデーション変色を繰り返す。

 スゴイタカイビル前の広場に沿ってしめやかに進むそのタクシーの後部座席に、三人の男あり。二人はニンジャスレイヤーとシルバーキー。当然彼らは外套と帽子で己のニンジャ性をカムフラージュしており、風変わりなサラリマンが何らかの会食へ訪れた体である。もう一人の非ニンジャも同様だ。

 彼は何者であろうか?二人のニンジャに挟まれて座り、額の前で己の指先を風変わりな動作でクネクネとウォームアップするコーンロウ・ヘアーの男は。ストライプのスーツ姿であるが、似合っておらず、これもやはりニンジャ達同様のカムフラージュ服装なのだ。

 タクシーはそのまま滑るようにスゴイタカイビルの地下駐車場へ降りてゆく。ゲートをくぐる際、ネオン表示の「高さ可能」の文字が点滅し、オコト音が鳴ると共に「イラッシャイマシネ。お客様はブッダ様」とマイコ音声が告げた。風雅な演出、細やかな気配りは、こんな所にまで施されているのだ。

 タクシーが停止すると、後部座席と運転席を完全遮断する隔壁に設けられた素子スロットのカバーが開き、「明朗会計な」の文字盤が光った。走行距離と料金単位、精算内容が書かれたパンチシートが迫り出す。ニンジャスレイヤーが素子を投入すると、両側のドアがオートで開き、音楽が鳴った。

「チャチャッとやっちまいますかね」タクシーを見送ると、コーンロウの男が指を鳴らして二者を振り返った。ニンジャスレイヤーは無言で頷いた。シルバーキーは男のアウトローめいた身なりを目で追っている。男の名はシバカリ。こめかみには六つのLAN端子が並ぶ。テンサイ級のハッカーである。

「聞かずにいられないんだけど、ネオサイタマでは、こういうのアレなの?」シルバーキーはシバカリの過剰なLAN端子増設を見ながら言った。「ノープ」シバカリはややバカにしたように肩を竦めた。「……」三人は地下駐車場の通路をエレベーターに向かって進む。時折、買い物客が車から乗降する。

 三人はエレベーター脇の警備員詰所のカーボンフスマの前に立った。ニンジャスレイヤーが目で合図した。シルバーキーは額に指を当て、目を閉じた。(アバババーッ!?)室内からくぐもった悲鳴が聴こえた。ニンジャスレイヤーはニンジャ握力でカーボンフスマのロックを音もなく破壊、引き開けた。

 警備員詰所の中には三人の警備員が口から泡とスシを吐き、机に突っ伏してのびている。アワレ、シルバーキーの精神攻撃を受け、なす術なく気絶。食事中だったようだ。「見回り中の奴はいない」シバカリが呟いた。ニンジャスレイヤーは手早く三人に猿轡を噛ませ、後ろ手に縛って部屋の隅へ追いやる。

「イェップ」シバカリは椅子を奪い、重箱に残っていたスシをひとつ、掴んで口に放り込んだ。UNIXデッキはオンラインだ。「じゃあ、チャネルは俺が用意したmarunouchisugoitakai111144111、使い捨てな。入っておいて」「うむ」「そこのエスパーのアンタもだぜ」

「どうだ。オヌシの方は」「ああ。見えてる、ぜ」シルバーキーは瞬きした。「バッチリだ、おっかないナラク=サンが指し示す目標は相変わらず動いてない。そりゃそうか……ここからだと、ほぼ真下」「……」ニンジャスレイヤーの言葉をシルバーキーは遮る。「ビジネス。今更おかしな事言うなよ」

「じゃ、グッドラックして」シバカリは欠伸して言った。卓上にカタカナで「マイコン」と書かれた小型のルーター装置を置き、そこに頭の六つの端子全てケーブル直結している。ルーターは極太のケーブルで侵入デッキに接続されている。「軍用施設じゃなくても違法は違法だし。タイムイズマネー」

「うむ」「……ウープス、何もナシでアンタらがスゴスゴ帰ってくるのが俺にとっても一番ラクだけど、それ無いみたい」背中に投げかけられるシバカリの言葉。「気をつけてね」「オヌシもな」二者は周囲に目を配りながら、エレベーターの前に立ち、ショウジ戸が開くや中に滑り込んだ。

 階数パネルには地下3階まで表示されている。上はこのエレベーターで22階まで上がれるが、今回は特に意味は無い。二人がパネルに触れずに待つと、自動的にエレベーターは急降下を開始。地下2階。地下3階。地下3階の点滅は続くが、下降は止まらない。シバカリが動かしているのだ。

 シルバーキーの網膜、ナラクが指し示し続けるランドマーク。それすなわち、マルノウチ・スゴイタカイビルの地下であった。天を突く巨塔の……地下!あの惨劇の舞台の真下に、一体なにが待つのか?この禁忌めいて遠ざけられ隠匿された地下3階よりも下、エレベーターの行く先は?

 彼らの手には言わば、×印のついた地図だけがある。その×が意味するものは正確にはわからぬ。だがナラク・ニンジャは明確な意志を持って、これを指し示している。……ニンジャスレイヤーは横目でシルバーキーを見る。地獄への旅に、知り合って間もない第三者を巻き込む事になりはしないか。

 あのテンサイ級のハッカー、シバカリは、ナンシーのもとで考えあぐねる二者のもとへ、彼自身のほうからコンタクトを取ってきた。彼はナンシーに雇われ、遣わされた者だと自己紹介した。ナンシー自身で無ければ知り得ない情報を持っていた彼を、ニンジャスレイヤーは信じる事にした。

『到着な』……IRC通信機にシバカリのノーティス有り。エレベーターが停止し「到着ドスエ」のマイコ音声。開かれた扉をくぐり、壁面をアルミシートで覆われた短い通路を抜けると、そこは……「ナムアミダブツ」シルバーキーが呟く。彼らは大仏殿めいた巨大な地下の空洞に立ったのである。

 その巨大な空洞は、恐ろしき事に自然の穴では無い。壁には鉱山めいた補強が為されており、床もまたしかり、テンプルの庭のごとく、石が道のように敷かれ、前方の闇へ伸びる。彼らが前へ踏み出すと、ゴウランガ……道沿いに立つストーン・ランタンの火がひとりでに灯った。誘うように!

 そして見るがいい。道の先にひときわ明るく照らし出されるのは、朽ちたトリイ・ゲート!そしてその先に鎮座する、シメナワが巻きつけられた御影石のオベリスクだ!「年代物ってもんじゃねえぞこれは!」シルバーキーがトリイ・ゲートを指差した。「見ろよ」

 はるか頭上のトリイ・ゲートには腐りかかった木の板がオフダめいて掲げられ、そこには毛筆カタカナで「ナラク」と確かに書かれている。見上げたフジキドの全身を、ぞっとする感覚が駆ける。ナラク!ここが、この封じられた空間が、かの邪悪な魂の神殿だというのか?

『フジキド!』「グワーッ!」フジキドは頭を抱えよろめく!『フジキド!よくぞやった!』「グワーッ!」フジキドは耐える。そして腰に吊ったヌンチャクの重みに慄く!神器が何らかの働きをして、ナラクの意識とチャネルを繋いでいるのか?『だが足らぬ!これ……で001010は11101』

「今の声、クソッ」シルバーキーが呻いた。彼にも聴こえているのだ。「おいアレだろ、あのオベリスク!」シルバーキーは目を細めた。「あれ……なンか、まるで、黄金太陽みたいな」ストーンランタンやトリイ・ゲートが陽炎めいてぼやける一方、シメナワの巻かれたオベリスクは銀色に光り始める!

「ナラクよ!」フジキドは叫んだ。「この後どうする!道を示せ!」よろめきながら彼はオベリスクに到達した。地面に斜めに突き刺さった四角い立方体……銀色に輝いて……『0100とにか010く、100どうに010か0100せよ010!』「ヌウーッ!」彼はオベリスクのシメナワを掴んだ!

「……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの背中に縄のような筋肉が浮かび上がり、その恐るべきニンジャ膂力が、オベリスクに拘束具めいて巻きついたエンシェント・シメナワを引きちぎった!「道を!示せ!」『010010101101』シルバーキーは息を呑んだ。「……ここだ!ここで俺だッ!」

 シルバーキーは駆け寄り、左手でニンジャスレイヤーの肩を掴んだ。そして右手はオベリスクに……銀色に輝く四角い立方体に触れた!「イイイイイヤーッ!」ナムサン!途端にシルバーキーの全身に白い稲妻がまとわりつく!オベリスクの輝きは巨大な空洞を目が眩むほどの光で満たす!真っ白に!

010101010001001010001000101001001001000010010001000100010001010010100010010000010010100010010010010001001001001010010010000100100100100

「……はい、おかえり」無限の暗黒の中に椅子一脚。そこには黒髪の美女が透き通るような裸で座っており、シルバーキーが近づくと首を傾げるようにアイサツした。「ドーモ……エート、バーバヤガ=サン?」「さすが、よく覚えているじゃない」女は無感情に褒めた。

 途端に、女の背後に、前回同様、朽ちた石の階段がせり上がる。全部でそれは2248段あり、一番上のトリイ・ゲートを始めとして、数百段ごとに踊り場とトリイが存在する。「で、どこまで上がるか、決めたってわけね」「エート……」シルバーキーはやや困惑した。頭上には金色の立方体。

「アレって、何なんだい?」シルバーキーは指差した。「……」バーバヤガは答えない。「俺はさ、アレが銀色になったようなオベリスクを見つけた。……で、それとニンジャスレイヤー=サンとを繋ぎに来たわけなンだよ。あンた、神様めいてるから、ご存知なんだろうけど」「繋ぐのは何故?」

「エート……『そうしろ』って、あのおっかないナラク・ニンジャが俺の夢枕に立つわけだよ。そりゃもう、絶え間ない悪夢ってヤツさ」シルバーキーは頭を掻いた。「……」バーバヤガはシルバーキーをじっと見た。「そりゃ、わかってるよ。わたしが知りたいのは、貴方の覚悟。動機」「またそれか」

 シルバーキーはあたりを見回した。周囲は驚くほどの暗闇、虚無だ。ただ女と、椅子と、階段だけがある。「なんか理由が要るのか?」「そりゃそうでしょ」女は肩を竦めた。「理由も無く死んだら貴方、犬死にってやつよ」

「物騒だな!」シルバーキーは笑いかけた、だが、女は真顔でシルバーキーを見ている。「流石に危険の程をわからんバカが、こんな大それた力を手に出来るわけも無い」女は言った。「危険をわからんバカが、このミッションを成功出来るわけもない」「……まあ、そりゃそうだよ」シルバーキーは頷く。

「オベリスクのエネルギーをニンジャスレイヤー=サンの中のナラク・ニンジャに再び送り込む。実際ヤバイ」シルバーキーは言った。「ニンジャを殺しまくって来た奴のソウル。正体のわからない」「まあまあ、正解」女は頷いた。「何故、やる」「エート」彼は瞬きした。「人の為、つうのかな……」

「人の為?」「まて、笑うなよ」シルバーキーは制した。「どうせ共感されない話さ。特に、あンたみたいな、超自然の神様なんかにはさ。俺のこの……何だ、エート、平凡な俺!」「うん」バーバヤガは頷いた。「続けて」

「この、呪いだか何だか知らねえ、俺の中に入ってきた力。この時の為の物だったンだ。俺にはわかる。俺の力だ。名前も言わなかったせっかちなニンジャソウルのさ。使命。晴れ舞台って言えばいいのかな、そういうアレだよ。俺はさ、今まで波風立てないように暮らして来た。そういう器だから」

「うん」「まあ、わかっちゃいるんだ、このまま何もせず生きた方が、そりゃあ……」シルバーキーは言葉を探した。「でも、何だ。俺の中にも、欲、っていうか」「うん」「あのな!昔話なんだ。あれは、ええと、いつだったかな。よく覚えてないんだ。その時俺は、なんてこたない、買い物だか……」


◆◆◆


 実際それは大名行列めいていた。数台の装甲車、巨大な「罪罰」の旗を掲げた儀仗バイクヤクザ、武装リキシャー、コンテナにでかでかとウキヨエが描かれたトレーラー(中にはクローンヤクザ戦闘員が満載だ)……。そしてそれら威圧的な車列の中央には長大な家紋リムジン。

 家紋リムジン車内には宇宙めいた黒装束のニンジャ、グランドマスター位階の恐るべきダークドメイン!オイランをはべらせる事も無く、むっつりと腕組みをして座る彼に向かい合うように、同じくザイバツのマスターニンジャ、ワイルドハント!車外にはサイボーグ馬にまたがったインペイルメント!

 あまりにも戦闘的なその車列はネオサイタマのマルノウチビル街に極めて強い緊張アトモスフィアを呼び込む。道ゆくサラリマンの中には、巨大な旗を見ただけで白目を剥き失禁して倒れる者もいた。さもありなん!一体彼らはどこへ向かおうというのか?ここはマルノウチ……その通り!

「マルノウチ・スゴイタカイビル……」ワイルドハントがうっそりと言った。ダークドメインはじっと彼を見る。ワイルドハントは震えた。昨晩の宴の、あの恐怖が身をもたげるのだ。アワレなオイランたち。「あのインペイルメント=サンにも所縁ある地ではございますが」

「……あのビルにこだわりがあるようだ。ニンジャスレイヤーは」ダークドメインは言った。例のニンジャ処刑事件の事を言っているのだ。マルノウチ・スゴイタカイビル抗争に参加した者らが恐るべき勢いで殺された痛ましい事件。あの事件をもって、ニンジャスレイヤーはギルドに宣戦布告した。

「あの抗争で戦闘に巻き込まれた市民の成れの果て……と言ったところであろうな。あの犬」ダークドメインはさほど興味無さげに呟いた。「くだらん復讐者だ。センコでもあげにきたか」「は」ワイルドハントは緊張に乾いた唇を舐めた。チャが飲みたいが、あるじが手を付けぬ限りは当然許されない。

 そう、この威圧的車列の目的地はマルノウチ・スゴイタカイビル。ではダークドメインはニンジャスレイヤーを始末する為にこれほどの大部隊を?否!彼が求めるのはそれ以上の成果だ。マルノウチは現在アマクダリ・セクトの支配領域だ。そこへこうして大部隊を率いて侵入する。何が起こるか?

 この車列が抱えるニンジャは実際この三人だけではない。さらに装甲車に一人。トレーラーに二人。ニンジャスレイヤー討伐、そしてアマクダリ・セクトが挑発に応えればこれを撃破する。反応が無くば、この地はそのままザイバツの支配下だ。不可侵協定を堂々と破る腹づもりである!

 ワイルドハントは体の震えを抑えている。恐ろしいのはアマクダリ・セクトの襲撃ではない。今こうして向かいに深々と腰掛け、腕組みして、瞬きもせず、不機嫌そうに彼を凝視するダークドメインだ!(早く来ないものか!アマクダリの奴ら!そうすれば車外に出られる……)そんな事すらも考える!

 ワイルドハントの捨て鉢な願いむなしく、襲撃の起こらぬままに車列は目的地へ到達。マルノウチ・スゴイタカイビル前の広場を包囲するように展開する。異様なアトモスフィアを感じ取った買い物客、サラリマン達が、足早にその場を離れてゆく。ダークドメインとワイルドハントは車を降りた。

 そして同様に、トレーラー、装甲車からしめやかに展開するクローンヤクザ達。たちまち凶悪なアトモスフィアが満ち満ちた。「フーンク!」叫んだのは馬上のインペイルメントである。彼は恐るべき長さの大業物、ザオ・ケンを掲げ、ネオン看板「コロンボン」を輝かせる近隣のビルを指し示した。

 直後!「アバーッ!?」儀仗ヤクザの脳天が爆発した!爆弾?違う!スリケンである!スナイパースリケンだ!ではまさか、インペイルメントが指し示したビルのどこかから!?ナムアミダブツ!なんたる長距離攻撃!だがしかし「……来たか」ダークドメインは眉一つ動かさず平然と呟くのだった!


3

 即座にクローンヤクザ軍団が車両から展開!トレーラーの横腹が開き、そこからもクローンヤクザ達が次々に降り立って武装を構える。想定済みのシナリオなのだ。『敵ニンジャ反応』ダークドメイン以下、この場のザイバツ構成員の網膜ディスプレイに、ミンチョ体のIRCノーティスが表示される。

 発信者はザイバツ・ニンジャのクレアオーディエンスである。彼は当初から装甲車内で索敵スタンバイに入っていた。しかしスナイパースリケンは索敵範囲外からの射撃であり、事前に情報を得る事は不可能。彼にケジメ責務は無い事をお断りしておこう。『出現ニンジャ反応数4』「フン」

 ダークドメインは鼻を鳴らした。「スナイパーを勘定して少なくとも5匹。さて」答えるように、マルノウチ・スゴイタカイビルの正門前に何かが降ってくる。ニンジャ二人!雲をつくビルの上階から垂直に落下してきたのだ。

 同時に片膝着地した二者の右は赤紫の装束で、錆びついたガントレットを両腕に装着している。左のニンジャは白金色で、豹めいて顔全体を覆うカブトメンポ……そしてその手に抱える得物は……おお、見よ!こんなものを身長6フィートのニンジャが扱おうというのか?なんたる超大型槍!

 槍頭は巨大な四角錐の金属塊であり、既にこれだけで使い手の身長の半分はあろう。無骨な鎖が絡まる槍の柄を合わせると、信じ難い長さとなる。槍頭には「ツラナイテタオス」というルーンカタカナの刻印。なんとも曰くありげな古武器である。それをこのニンジャは……おお……片手で支えているのだ!

「三匹」ダークドメインは面白くもなさそうに呟いた。ギュン!空気を切り裂く音、そしてダークドメインの傍に一瞬で立ちはだかったニンジャ存在!体をまるごと覆い隠すほどの大型の盾を両腕にそれぞれ装備したザイバツ・ニンジャ、ガーディアンだ!主を狙ったスナイパースリケンを盾で防御!

 ダークドメインはそちらを見もせず言った。「必要無し」「ハーッ!」ガーディアンは素早く跳躍し、持ち場へ戻ってゆく。「下郎!雁首揃えて姿を現すがよい!」トレーラーの上で吠えるは、ザイバツ・ニンジャのプリンセプス。古代ローマカラテの使い手だ!

「フォフォフォハハハ!」挑発的な哄笑で答えたのは、広場のオスモウ彫像の肩の上!黒いマントを翻したニンジャは頭巾を被らず、かわりにバラクラバを思わせるドクロ・ペイントが顔全体に施されている。シルクハットを指で直しながら、まず彼が芝居がかってオジギした。「ドーモ!ドーモ!」

 ドクロのニンジャは軍団を侮蔑的に見渡した。「ザイバツの皆さん、ゴキゲンヨ!我々はアマクダリ・セクトである!」「もう一匹いるな」ダークドメインは呟いた。「これはしたり!」ドクロはピシャリと己の顔を叩いた。「ブラックウィドーは人見知りでな!エート、私はフューネラルです!」

「ドーモ」もっとも危険な存在感を放つ豹頭の大槍ニンジャが次にアイサツした。「ドラゴンベインです」そして隣の大柄な赤紫のニンジャ。「……コロッシヴです」「さ、次はあんたがたの番ですぞ!」フューネラルが言った。「なンでまた、こんな豪華なカーニバルで遊びにいらっしゃった?」

「下郎!わきまえよ!」プリンセプスが答えた。「ザイバツ・シャドーギルドの前に道なし!道とは我らが通りし後にできるものだ!ゆえに……」「全く意味がわからん。黙ってくれんかね」フューネラルが睨む。プリンセプスは出鼻をくじかれ、悔しげに言葉を呑んだ。

「マルノウチ・スゴイタカイビルにネズミが逃げ込んでな。それを捕らえに参った」ダークドメインは尊大に答えた。「貴様らのくだらん鳥撃ち屋が我らの儀仗兵に加えた、さきの卑劣な不意打ちを代価に、手打ちとしてやる。通すがいい」「はて!何の事か?ハハッ!」フューネラルが首を傾げた。

 直後、再びギュンと音を立て、スリケンがダークドメインめがけ飛来!だが……これはいかに?ダークドメインの身体の輪郭がぼやけ、蜃気楼めいたシルエットとなると、スリケンはむなしくそこを通過して地面に突き刺さったのだ!「通すがいい」ダークドメインの輪郭が戻る。そして繰り返した。

「いやはや、なんと横暴な」フューネラルは天を仰いだ。「不可侵協定は生きておるんじゃなかったのかね?だいたいラオモト=サンが没したあの夜の狼藉、なーんにも申し開き無し。涙にくれておりますよ」「……」協定、の単語を聞いた時、ダークドメインのメンポの奥の表情がやや動いた。

「貴様らはソウカイヤではあるまい」ダークドメインは無感情に言った。そしておもむろにアイサツした。「ドーモ、ダークドメインです」残るニンジャがそれを合図に一斉にオジギした。「ワイルドハントです。こいつはインペイルメント」「フーンク!」「プリンセプスです」「ガーディアンです」

「ハイ、そいつがブラックウィドー!ハハーッ!」フューネラルが広場のスゴイタカイビルと反対側方向をステッキで指し示した。地面が爆ぜ割れる!「アバーッ!?アバババーッ!?」無造作に立っていた十人弱のクローンヤクザがいきなりその地割れに巻き込まれ、断末魔の悲鳴を上げる!

 ナムサン!見よ!巨大!地中から姿を現したそれは、実際装甲車よりも巨大なタカアシグモめいた怪物だ!だがそれはバイオ生物ではない。機械の八本脚だ。蠢く脚の根元、脚と比較すれば驚くほど小さな中心部から、ニンジャが上半身を生やしている。それがブラックウィドーなのだ!奇怪!コワイ!

「ドーモ……ブラックウィドーです」周囲のクローンヤクザをむごたらしく踏み殺しながらブラックウィドーがアイサツする。メンポは鼻から上を仮面めいて覆うタイプで、唇はなまめかしい赤。絶対数の少ない女のニンジャである。「フーンク!」そこへサイバー馬で駆けつけるはインペイルメント!

「ザッケンナコラー!」巨大なクモめいたサイバネニンジャめがけ、クローンヤクザも一斉に射撃を開始!ロケットランチャーも発射!だが銃弾はその鋼鉄の脚部にさほど傷をつけられず、巨体に似合わぬ迅速な脚運びでロケットは回避されてしまう!「フーンク!」インペイルメントが斬りつける!

「……」ブラックウィドーは表情ひとつ動かさず、足元のインペイルメントをサイバークモ脚の爪で突き殺そうとする。「フーンク!」インペイルメントは大業物ザオ・ケンでこれを弾きそらし、返す刀で関節部に刺突攻撃を喰らわせた。なんたる長大な刀身!黒いオイルが噴き出す!「……!」

「イヤーッ!」読者諸氏、次に、振り返ってマルノウチ・スゴイタカイビル方角を見られよ!放物線を描いて信じ難い跳躍を見せたのはドラゴンベインである。彼の古代大槍ツラナイテタオスが装甲車を真上から貫通!一撃で装甲車は鉄屑と化し、中にいたクレアオーディエンスもろともに爆発破壊!

「ザッケンナコラー!」手近のクローンヤクザ達がたちまちアサルトライフルを集中!ドラゴンベインは爆発する装甲車を尻目に跳躍!機敏!信じ難い!「イヤーッ!」そして見よ、そのやや離れた場所ではコロッシヴとガーディアンが真っ向からぶつかり合う!

 コロッシヴはそのガントレット腕でガーディアンの大盾に激しく殴りつける!「盾の二刀流?笑いすぎて手元が狂いかねんぜ!イヤーッ!イヤーッ!」「笑ってみよ!」ガーディアンは大盾で悠々とこれをガード!「笑うとも!言い忘れたが俺のジツはなあ」さらにコロッシヴが大盾に正拳パンチ!

 すると、ナムサン!ガーディアンが掲げていた左手大盾に、裏側からもわかるほどの茶錆が拡がってゆくではないか。「俺のジツは金属もボロカスにしちまうのよーッ!実際俺とお前の組み合わせ!俺が岩でお前がハサミだぜーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!?」

 これはコロッシヴのウカツだ!ガーディアンは右手の大盾で、攻撃に夢中なコロッシヴを横から殴りつけたのである。「グワーッ!」転がりながらダウンして苦悶するコロッシヴ!「弱敵めが!」ガーディアンは唸った。だが左手大盾は確かにむごたらしく腐食して、もはや防御効果は望めまい。

 さて、ブラックウィドーに視点を戻すべし!「ザッケンナコラー!」インペイルメントの効果的攻撃によりブラックウィドーの動きは一時的に鈍化した。そこへロケットランチャーヤクザが照準を合わせる!今度は躱せまい……と、そのロケットヤクザの脳天が爆発破砕!スナイパースリケンである!

「……」その隙に体勢を復帰し、体の下のインペイルメントから逃れるブラックウィドー。「アバーッ!?」この移動の巻き添えとなり5、6人のクローンヤクザが踏み潰されて死亡!実際動くだけで人を殺す!「フーンク!」インペイルメントは馬首を返す。その瞬間、馬の頭部が破砕!ナムサン!

「フーンクッ!?」インペイルメントは回転ジャンプしてサイバー馬を飛び降りた。またしてもスナイパースリケンである!なんたる嫌らしい攻撃!頭を失ったサイバー馬は手近のクローンヤクザ一人を踏み殺しながら転倒して機能停止!着地したインペイルメントにクモ足が襲いかかる!

「イヤーッ!」すると、その死角から飛び出したのは複数の逆円錐形の金属塊!巨大なクモ足にそれらが体当たりすると爆弾めいて爆発!「……!」「フーンク!」ブラックウィドーがひるんだ隙にインペイルメントは側転して間合いを逃れる。この攻撃の主はワイルドハントだ!

「バカバカしい化け物ニンジャめ」ワイルドハントは高速回転しながら吐き捨てた。そう、高速回転だ。彼は鋼鉄のコマの上に直立しているのだ。インペイルメントをフォローした攻撃もコマだ。乗り物コマよりも小さなコマ爆弾の体当たりである。「こいつを片付けねばラチがあかん」「フーンク」

「イヤーッ!」コロッシヴに追撃すべく迫るガーディアンの遠方から叫び声が聴こえ、目の前の地面に、斜め上から飛来したツラナイテタオスがインターラプトめいて突き刺さった。ナムアミダブツ……その四角錐の槍先には、ニンジャの残骸がこびりついている。プリンセプスの成れの果てだ!

 ツラナイテタオスの大質量に身体を貫通されたプリンセプスは、あわれ一撃でクズ肉めいた死骸となり、もはや残忍な大槍にまとわりつく筋繊維でしかなかった。槍の柄の先端部からは空中へ向かって真っ直ぐに鎖が伸びているが、上空でこれを握るのは、当然、ドラゴンベインである。

「ヌゥーッ!」ガーディアンが睨み上げる空で、ドラゴンベインが鎖持つ手を力強く引いた。「イヤーッ!」巨大槍は彼のニンジャ膂力によって地面から引き抜かれ、宙を飛んでドラゴンベインの手に戻る!豹頭カブトメンポの恐るべきニンジャはそのまま急降下、別の装甲車を上から刺突破砕!

 ではこの乱戦下、両巨頭たるダークドメインとフューネラルは何をしているのであろうか?周囲に展開する阿鼻叫喚の地獄めいた光景がまるで透明のシェルターの外の出来事であるかのように、両者は睨み合い、一触即発の緊張状態を維持していたのだ。両者ともに全くその手の内を見せていない。

 オスモウ彫像の上で直立するフューネラル、それを下から見上げるダークドメイン。強大なニンジャ同士のイクサにおいて、こうした睨み合いはしばしば起こりうる。致命的なジツの持ち主に隙を見せれば即ち死。先走れば即ち死。出遅れれば即ち死。仕掛けるタイミングは天文学的希少瞬間なのだ。

 互いに一目で双方の実力を見てとった両者である。フューネラルに先程の軽口は無い。ダークドメインも無言だ。彼が市民を虫ケラのように殺すあの恐るべき異次元転送穴であるが、あのジツは手練れのニンジャにそのまま通じるものではない。穴が開いてから吸い込むまでの時間差が問題となるからだ。

 何より、このダークドメインの真の恐るべき力はカラテにあり、イクサにおける次元転送穴の用途もカラテのためにある。すなわちそれは……。「アバーッ!」その時、遠方でブラックウィドーのクモ脚に切断されたクローンヤクザの頭部が飛来し、二者の間に割って入るように転がり落ちた。直後!

「イヤーッ!」オスモウ彫像上のフューネラルが両手をひろげ、マントがはためいた!フューネラルは内側から爆発!身体があった場所から、蝶々めいて羽ばたく蛍光色彩の塊が無限に溢れ出す!「イヤーッ!」同時に、ダークドメインが両掌を前に突き出し構えると、そこに例の暗黒空間の穴が開く!

 狂おしく舞い飛ぶ蛍光色彩の蝶の群れは宙に浮かぶマントの中から無限に出現し続け、ダークドメインをグルグルとつつみこむ。さらにダークドメインの足元からは螺旋を描いて極彩色の巨大なムカデが出現、締め上げて押し潰しにかかる!ゴウランガ!なんたる悪夢めいた光景か!

 気味の悪いムカデ螺旋柱は7フィートの高さにまで屹立し、光の蝶は渦を巻いて飛び上がり、蛍光黄緑の不気味な雲を上空に作り出した。やがてムカデをこじ開け中から現れたのはダークドメインではなくフューネラルである。彼はオスモウ彫像の足元を睨んだ。ダークドメインはそこにいた。

「フーム」フューネラルは一歩踏み出す。ダークドメインの手には不可思議な物体がある。黒く放電しながら不安定にその輪郭を変え続ける棒状のものこそ、ダークドメインが恐るべきジツによって「どこかから呼び寄せた」危険な物質……この世界に永く存在してはならないアンタイ・ウェポンである!

 フューネラルはカラテを構え、さらに一歩踏み出す。シトシトと黄緑色の雨が降り始める。「アバーッ!?」「ア、アバーッ!?」方々で悲鳴!クローンヤクザ達だ。彼らの体のあちこちから大きな唇のついたキノコが生え、狂笑しているのだ!コワイ!キノコは黄緑色の雨が触れた所から続々と生える!

「これがどうかしたか」ダークドメインが初めて口を開いた。すでに広場の中、彼らを中心とした円形の一定範囲は、狂笑するキノコ群、そして発狂して転がり回るアワレなクローンヤクザで満たされていた。彼の体からも不気味なキノコがいくつか生えているが、平然としている。彼もまた接近した。

「なんと、マボロシとお考えだ」フューネラルはジゴクめいて笑った。「だがそうではない」やがてキノコはドロドロに溶け、硫酸めいてダークドメインを焼きながら煙を噴き上げた。「……」ダークドメインは意に介さず近づく。その手には不穏極まりないアンタイ・ウェポン!フューネラルも接近!

「イヤーッ!」フューネラルが地面をステッキで殴りつける!黄緑色の雨はクナイ・ダートとなって降り注ぐ!「アバーッ!アッバババーッ!?」周囲でのたうちまわっていたクローンヤクザに追い打ち!ダークドメインはダート雨を縫うように前進……ギュン!その時、側頭部にスナイパースリケンが!

「……」ダークドメインの体の輪郭がノイズめいて揺らぐ。やはりスリケンは当たらず通過、やや離れた地面で悶絶するクローンヤクザに命中!「アババーッ!?」そこへフューネラル!ダークドメインの不可思議な回避の戻り際を狙い、ステッキの先端で刺突攻撃だ!「イヤーッ!」

「イヤーッ!」ダークドメインが応戦、手にしたアンタイ・ウェポンでフューネラルのステッキを受ける!黒い電光が走る!するとステッキはアンタイ・ウェポンもろともに跡形もなく消失!「グ、グワーッ!?」フューネラルがよろめく。ナムサン、手首から先が削り取られているではないか!

 途端に、いかなる原理であろうか、空を覆っていた黄緑色の雲は跡形もなく消失!ムカデの屹立物もまた無し!散らばるクナイと死んだクローンヤクザが残されたのである!「イヤーッ!」ダークドメインがフューネラルの肩口に重いチョップを叩き込む!「グワーッ!」膝をつくフューネラル!

 左手で重いチョップを打ち込んだダークドメイン、その右手は天に掲げてられている。その付近の空間が円く切り取られる。空間の裂け目の奥は緑の格子模様が銀河めいて輝く暗黒空間だ!その中からダークドメインの手の中に、再び黒く放電する物質が飛び込む!今度は首狩りナイフめいた形状だ!

「さあ。ここから。何でもやって見るがいい」ダークドメインはアンタイ・ウェポンを振り上げ、無感情に言った。「カイシャクしてやる」「……フフ、フッ、フフフ」フューネラルはダークドメインを見上げ、肩を震わせて笑った。

「ファハハハハ!ファハーッ!」フューネラルの目玉が転がり落ち、眼窩から二匹の蛇が飛び出した。そして哄笑する口から、ナムサン!成人男性ほどもある巨大な白い芋虫が這い出す!「MYAHHHHHHHHH!」さらに、スナイパースリケンがまたしても飛来!

 ダークドメインの輪郭がノイズめいて揺らぎ、このスリケンをやはり回避。一瞬の隙をつき、二匹の蛇がダークドメインの左手を絡まり上る。白長虫は見た目にそぐわぬ速度で地面を這い、逃走を図る!「MYAHHHHH」「イヤーッ!」ダークドメインは振り返りもせずアンタイ・ウェポンを投げた。

 ZAP!アンタイ・ウェポンは長虫に真っ直ぐに命中、黒い稲妻が閃くと、そこにあったのは、肩から上を丸く削り取られたうつ伏せのフューネラルの死体であった。「……フン」ダークドメインはそれを爪先で裏返し、敵の完全な死を確認すると、腕に巻きついていた死んだ蛇を無雑作に払い捨てた。

 ナムアミダブツ!まさにそれは無慈悲なニンジャのイクサ。決着は一瞬の呼吸、わずかなボタンのかけ違えでついてしまうものなのだ。そう、それはたとえ、いにしえのバロン・ニンジャを憑依させたフューネラルのような強力なニンジャであろうとも……恐るべきはダークドメインのワザマエ!

「後は適当にやれ」ダークドメインはスゴイタカイビル目指して歩きながら自陣営に言い放った。広場ではいまだ一進一退の闘争が続いている。特に激しく暴れているのは巨大なブラックウィドー、圧倒的カラテで殺しまくるドラゴンベイン。非ニンジャを含めれば数で勝るザイバツであるが、果たして?

 ダークドメインの今回の最終目的は、当然スゴイタカイビルのニンジャスレイヤーにある。負け犬トランスペアレントクィリンの飼い犬たるブラックドラゴンやレッドゴリラ、あるいは貴族気取りのイグゾーション……ニンジャスレイヤーが殺した高位ニンジャにダークドメインは何の思い入れも持たぬ。

 だが彼らの実力のほどはダークドメインも認めるところであった。ザイバツの実力者を立て続けに殺めてゆく不穏存在を、これ以上のうのうと生かしめておくわけにもゆかぬ。自らの手で、やる。たった今、アマクダリ襲撃者の頭を潰すためにダークドメイン自身のカラテが必要だった事と同じだ。


◆◆◆


「サラリマンが青い顔で……大丈夫です、大丈夫です、って答えた。俺は、うん、俺はそれでさ……まあ、それだけだよ、待ち合わせに……遅れないように……誰も咎めなかったし、何も滞っちゃいなかった、だから……だけどさ……」言葉は徐々に覚束なくなり、やがてシルバーキーは黙った。

 女はじっと見ている。シルバーキーは目を逸らした。「まあ、うまく言えねんだよ。でも俺はそのう、今度こそ……今。今やらねえとさ、もう」「なるほどね。だいたいわかった」女は頷き、椅子から立ち上がった。「え?……本当に?」「頑張ってみることだね。さ、お友達が遅れてご到着だ」

 シルバーキーが背後を見下ろした。気がつくと彼は階段の最初の踊り場に立っており、バーバヤガや椅子の存在は無かった。階段のふもとに、赤黒い靄のような存在が浮かび上がりつつある。ニンジャスレイヤーとナラク・ニンジャの意識だ。シルバーキーは階段の遥か上を見やる。

「どこまで上がる?ったって……そりゃ一番上の扉なんだろ?」シルバーキーは肩を竦めた。あの扉を開けて、その奥にある銀色のオベリスクのエネルギーを、下のナラク・ニンジャへ流し込んでやれば、ミッションは完了というわけだ。シルバーキーは右手を開いた。掌に銀色の鍵が乗っている。

「010ドーモ0101シバカリで0100す、ヤバイ感じ0010011」どこからともなくノイズ混じりの音声が届いた。シバカリのIRCノーティスだ。「00外で001騒ぎ1010」音声はマッチの灯りめいて一瞬で失われた。「オーケイ、オーケイ」シルバーキーは呟き、階段を駆け上がる。


4

 上へ!上へ!シルバーキーはくねくねと歪む細い階段を駆け上がる。シバカリの発する警告が再び耳の奥で鳴り響く。「0101ヤバイこのフロア降りて来てる、ニンジャだ、かなりヤバイ010100なぜバレてる0000101どう考えてもお前ら目当て0001101」「……!」

「あンたは大丈夫なのかよ」走りながらシルバーキーは問う。「001いや実際ヤバイ010」シバカリの声が返る。なぜネットワークの向こうの相手と「会話」が出来ているのか……この緊急時でなければ考えを巡らせる事もできただろうが、遥か上のゲートが今は最優先である。

 シルバーキーの視界にシバカリが投げた定点監視カメラ映像が映り込む。駐車場通路を歩き進むニンジャが映った。エレベータでは無く自動車進入口から来るのは用心のためか。「00110時間稼ぎはしたが011俺もここまでだ00010トンズラさせてもらう001101」

「よくわかんねえけど、わかったよ!ありがとうな!」シルバーキーは叫び返した。ゲートはいつのまにか目と鼻の先だ。「……シルバーキー=サン!」背後のはるか下、階段のふもとから発せられた声あり。シルバーキーは立ち止まり、振り返る。

 闇の中に小さな星のように浮かび上がる赤い輝き。ニンジャスレイヤーだ。シルバーキーは片手でアイサツした。「へへッ、それじゃ、ちょいといじって来るぜ」それだけ言うと、彼は向き直り、頂上の踊り場へ到達した。

 巨大なトリイ・ゲートをくぐった途端、シルバーキーの身体は消滅した。彼は人型の光となっている己を発見した。手の中の銀の鍵だけが……精神世界でそう言うのも妙ではあるが……実体である。彼はトリイ・ゲートの奥にある扉を見た。無骨な鎖が巻きついている。鎖には南京錠。鍵を差し込む。

(一世一代、男の見せ所ッてな)シルバーキーは心の中で呟いた。誰かのため?否、この冒険は己のため。鍵を回すと扉を封じる鎖はバラバラに崩壊した。両開きの扉がイナズマめいた勢いで開け放たれる。扉の奥からイメージが激流めき、光と化したシルバーキーは逆にその流れの源へ……吸い込まれる!

0001010010010010100010100101001010101011110101011001010001000101010010100001010010100010100100100101001010101111010110101011101010101001

 ドォン!ドォン!身長70フィートのスモトリが巨大なイクサ太鼓を打ち鳴らす!「「「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」」」その爆音をすらかき消す鬨の声!見渡す限りのススキ、それを染める血!東西から殺到しぶつかり合うニンジャレギオンの血!

 太鼓を乱打する両陣営のスモトリめがけてツブテのごとく投げかけられるスリケン!「ブモオオオオ!」スモトリ達は咆哮し、いっそう狂ったように巨大なイクサ太鼓を乱打する。そして林めいて無数に掲げられた双方の旗印よ!西は黒!東は白!

 西の旗に極太ルーンカタカナ書きされるは「カツ・ワン・ソー」、東には「ハトリ」!東西各ニンジャ将軍達の旗印!「敵を倒す」「私は残虐です」「ムカデ」「脚が速い」「朝の光」「バラバラにして殺します」「うちの兵隊はお前たち百人分強い」「スゴイ」「子供も命は無い」……サツバツ!

「ブモーッ!」西軍のスモトリ兵が巨石を投げつけると、「アバーッ!」東軍兵の一角が惨たらしく圧殺!直後、東の空から飛び来たるは、虐げられた無眼の飛竜の背に乗ったニンジャ!イナズマめいてスモトリ兵に接近、眉間をカタナで刺し貫く!「ブモオオ!」巨人は即死、西軍兵を巻き添えに転倒!

「「「「イヤーッ!」」」」西軍兵が大空へスリケンを一斉投擲!だが飛竜に乗ったニンジャは悠々と旋回し飛び去る。そして投げられたスリケンは雨となって東軍へ!しかしその落下地点周辺に突如、超自然のタタミが屋根めいて出現、スリケンを全て受け止めてしまう!「ハッハッハハハ!」

 さらに見よ、あれを!今まさに相まみえた両軍の二人のニンジャ将軍が互いにオジギした!「ドーモ、ケイトー・ニンジャです」「ドーモ、フマー・ニンジャです」遠目からもありありとわかるその圧倒的ニンジャ・アトモスフィア!オジギが終わるや、二者の間に赤い稲妻が激しく閃く!

「実際貴様らの行いは神に楯突く行為」ケイトー・ニンジャが嘲笑う「サンズ・リバーの橋を永劫にわたって支えるニンジャ人柱となり苦しみ抜く定め」「フォハハハ!愚かな」フマー・ニンジャが嘲り返す「カツ・ワン・ソー?腐肉めいて臭い時代遅れのソクシンブツに過ぎぬわ。機を見るに敏!」

 ゴウランガ!これはまさに、古事記に断片的に記されたニンジャ大戦……!西に浮かんだ黒い太陽も禍々しき、いにしえのいさおしの場だ!だが視界はその輝かしいイクサ場を滑るように離れ、そのイクサ場の末端へ……まばらなカラス麦の畑と、藁葺き屋根のもとへと飛んでゆく。

 ボロ家の隣にある囲いの中では無残に殺められたニワトリが数羽。そして不穏に家の前で待つ数頭の馬。家の中からは悲痛な叫びが漏れる……「アイエエエエ!」「どうか!どうか娘だけは……娘だけは」

「ダマラッシェー!」「アイエエエ!」下品なニンジャスラングと打擲音!なにか言うをはばかる行いが、今まさに行われつつあるのだ。だがイメージは容赦無くその視線をボロ家の中へと滑り込ませる……。

 男はニンジャに頭を踏みつけられ、歯を食い縛って泣きながら、壁際に追い詰められた年頃の娘を見ていた。数人のニンジャはキセルを吸いながら娘を取り囲む。彼らは西軍?東軍?たまたま戦場の近くで暮らしていただけの奴隷の男に、そんな高度な事情がわかるはずもない。

「どうか娘はお助け……どうか」「ナンデ?」ニンジャの一人が振り返った。「奴隷ナンデ?」「お助けを……」「ゴミ虫ナンデ?」「ヒヒーッ!」「アイエエエエ!」「嫌だ!嫌だ!」「おい、殺すなよ、まだ」「……!」男は口から血を流し、泣いた。(ニンジャ……ニンジャ……!)

 ……男と同調していた視界が唐突に暗転。また明るくなると、先程とまるで違う光景である。断崖であった。崖下に荒波が打ち寄せ、海は渦を巻いている。断崖のきわには粗末ななりの男たちが縛られ、一列に正座させられている。即席で用意されたヤグラ台座の上でアグラし、それを見下ろすニンジャ。

「誤解です」震え声で、正座させられた中の最高齢の老人が言った。「ワシらは何も」「イヤーッ!」「アバーッ!」ヤグラ台座のニンジャが無雑作にスリケンを投げると、老人はアワレ、無惨に頭部を破壊されて即死した。他の者たちは悲鳴を噛み殺した。ニンジャは欠伸をして言った。「うん」

「お、お助けを……」正座させられた一人が哀願した。ニンジャは首を傾げた。「ナンデ?」「え……」「誤解……」「うん。でも、ナンデ?」「え……」「貴方達を殺すと私はタノシイですよね。では、助けると?私に何か、いい事ありますか?」「え……」「イヤーッ!」「アバーッ!」

「米俵ありました」別のニンジャが村の方角から歩いて来た。首輪をつけられたスモトリ達が両肩に米俵を抱えている。「アイエエエ!」正座男の一人が泣き叫んだ。「それだけは!どうか」「うん」台座のニンジャは頷いた。そしてスモトリを引いて来たニンジャに扇子を向け合図した。「捨てて」

「それだけは!それだけは!」「だって、中に隠してるの貴方達のお子さんでしょ。タノシイですよね」「お許しを……それだけは、どうか」「ナンデ?」スモトリ達が崖下の荒海に向かって米俵を一斉に振り上げる。ニンジャは無感情に言う。「ほら。笑いながら見てね。そしたら皆さん助けるかも」

「ウ……ウ……ウフッ……」男たちが嗚咽し出す。「泣いてるの?笑ってるの?」「ウ……ウフッ……」「泣いてますか?笑ってますか?」(ニンジャ……ニンジャ……ニンジャ)

 ……「こんな事……戦争は終わったはずでは!」ここはどこであろう?ヨーロッパの、ずっと近代的な服装……20世紀の前半であろうか?市民達をホールドアップさせている兵士達、そして、体の後ろで手を組み、悠々と歩く軍服姿の男。メンポをしている。「そう、戦争は終わった。だから?」

「こ、こんな無法許されなアバッ」勇気を出して詰め寄ろうとした若い男の首筋に将校らしきメンポ男の手が伸び、一息で容易く捻じり折った。「それは違う。私はニンジャだ。だから許されるよ。これまでも、これからも」将校は笑い出す「この谷では戦争は続くんだよ」(……ニンジャ……ニンジャ)

 さらに流れゆくサツバツの光景……アメリカ南部のどこか……あるいは凍土……あるいはジャングルの奥深く……あるいはニューヨーク……あるいは砂漠……怨嗟の声は後から後から、沼の泡めいて浮かび続け、木霊めいて重なる、そしてどの声も二度と消えはしない!(ニンジャ!ニンジャ!ニンジャ!)

 ……「揚げた美味しさが」「テンプラ」「DIY」などと極太オスモウ・フォントで縦書きされたノボリが、広い店内でイナセに躍っている。クリスマス装飾の電子ボンボリが、年の瀬感を演出する。 クリスマス・イブ、満席の店内。仲睦まじき両親そして子の三人。

「今年も、ここに来れて良かったわ」と、油の入ったカーボン土鍋を前に静かに笑う妻。「ニンジャだぞー! ニンジャだぞー!」と、椅子の上で狂ったようにジャンプする幼い子供。 「やれやれ、トチノキはニンジャが大好きだな」と父親。「一体何処で、ニンジャなんて覚えた?」

「あなたが買ってきたヌンチャクじゃない」と、妻は子を座らす。 「去年のクリスマスに買ったやつか」「ずっとお気に入りなのよ。それで先日、初めて、箱の絵に気付いたの」 「ニンジャー!」「静かになさいトチノキ、危ないわよ。…それに」その先は小声で言った「ニンジャなんて、いないのに」

「スリケン! スリケン!」子供は大人しくなったと思った矢先、ピッチングマシーンのように両手をぐるぐると回した。 「グワーッ! ヤラレター!」父親は息子の無邪気さに応じ、心臓と喉にスリケンが刺さった真似をして、大げさに苦しんで見せた。 「あなた、やめてくださいよ、恥ずかしい」

「ザッケンナコラー!」不意に、遠くから剣呑な怒声が聞こえた。 「……あら、ヤクザかしら」と子供の肩を無意識に抱く母親。「店外だろう、大丈夫さ」と父。 店内を見渡すと、同じような境遇の家族連れや若いカップルや同僚サラリマンが、何事もなくテンプラに興じている。何も問題ない。

「ドーモ!活きの良いのが入ってますよ」と、フェイク・イタマエが声をかけて去ってゆく。「ネタはあっちにあります、セルフでどうぞ!」「ドーモ」と2人は座ったままオジギする。 「ねえ、ショーガツは?」「今日休みを取るだけでも精一杯だったんだ」「顔色、あまり良くないわよ。気をつけて」

「バクハツ・ジツ! カブーン!」両親の会話をよそに、トチノキは史実を無視した劇画的で記号的なニンジャポーズを取って叫んでいた。 夫婦は笑い、知らぬうちに固くなっていた表情を緩める。 「いいかい、トチノキ、本物のニンジャってのはな……」

 KA-DOOOOOOOM……!マッシヴ・ハナビの如き爆発音。猛烈な爆風。父親は床に這いつくばり、背中をテーブルに潰されて身動きが取れない。「何が、ウブッ……何が」父親は血を吐いた。硝煙の中、妻子の呻き声。徐々にそれが弱まる。父親はテーブルを押し退けようともがくが、かなわぬ。

 甲冑めいたニンジャ装束を着たニンジャと、ファイアーパターンニンジャ装束の巨体ニンジャが、苦しむ人々にトドメを刺してまわる。「ニンジャに生まれなかった罰だ」と巨体ニンジャ。「フフフ違いない……む、あれは」甲冑ニンジャが手で制し「あれはダークニンジャだ。……分が悪い。潮時だ」

(ニンジャ……?ニンジャ……?)母は、己の力が失せてゆく事を感じながら、震える手を息子に伸ばそうとした。(どうして……?これは一体……?私たちが何を?……あなた。どこ?トチノキ……トチノキ、トチノキ?) 

「クリア」硝煙の奥から黒曜石めいた黒のニンジャが現れる。「民間人の生き残りです、いかがしますか?」「目撃者は全て殺せ」別の声が命じる「このフロアにいるのはどうせ、カチグミフロアに行けない貧民どもだ。ネオサイタマ経済に影響はない」「御意」 (……あなた。トチノキ)

 無慈悲な刺突。意識が途絶え、記憶は消し飛ぶ。すぐそばの別の意識と溶け合う。そしてフロアで爆発に巻き込まれた他の者たち、さらに多くの死にゆくものたちと溶け合う。硝煙。炎。そこで引力が生じた。ビルのずっと下にある何かが強く引き寄せるままに、失われゆく自我の塊は、地の底へ……。

 ……(鎮まりたまえ)(安らいたまえ)(どうか)(どうかこの地で)(どうか)畏れる人々、石碑に巻かれたシメナワ、深い闇。地の底、眠り。だがこれはいかなる事か。まさに今、頭のすぐ上で、無数の声が再びざわめいているではないか。(ニンジャ)(ニンジャ)(ニンジャ……ニンジャ……)

 そして彼は、いや、「それ」の目は再び開かれる。(ニンジャ……ニンジャ)銀色の立方体の中に沈澱した、幾千の、幾万の、数えきれぬ人々の声がひとつに重なり、それは叫んだ。「ニンジャ殺すべし!」叫びは地下空洞を揺るがし、石碑の枷を抜け、ライジング・ドラゴンめいて垂直に跳ね上がった。

「……それがオヌシか」暗黒の中に坐すフジキドは、目の前に突如出現した赤黒い影を見た。「ナラクよ」「……」「ではオヌシの中にフユコが?トチノキが?」影の表面に、険しく睨む老人の顔が浮かぶ。「……だからどうした。かわって話をしてやれるとでも思うたか。手前勝手な夢など見るでない」

「……」フジキドは答えない。ナラクはフジキドの顔を見、呆れたようにかぶりを振った。「……なんと情けない」ナラクがなじった。「戻ってみれば、早速なんたる軟弱。先が思いやられるわ」「……」フジキドは瞬きもせずナラクを見ている。その両目からは涙が溢れ、流れ落ちるがままだった。

「バカめ!おぞましいぞフジキド!」ナラクが、心底ヘドが出る、といったていで身を震わせた。「こうしておる間にもニンジャが近づいておる!先のマズダ・ニンジャに匹敵するキンボシだ。ワシが殺す。情に流される子供はフートンで寝ておれ!」「その必要は無い」フジキドは涙を拭い立ち上がる。

「オヌシはもはや私の身体を操り人形にはできぬ」「試してみねばわからぬ!ワシによこせ」「ダメだ」フジキドの目にもはや涙は無く、死海めいて怜悧であった。ナラクは舌打ちした。そして姿が消えた。フジキドは己のニューロンの中に油断ならぬ憎悪の塊、赤黒い邪悪存在が再び宿った事を感じた。

 フジキドは前方の果てしない階段を見上げた。彼が見守る中、その朽ちかかった石段のイメージは無数の0と1とに還元され、音も無く消滅した。上から降ってきた光の粒がある。フジキドは歩いてゆき、受け止めた。銀の鍵。

 フジキドは頭上の黄金立方体を見ようとした。あの立方体には今回の銀の立方体と関係する何かがあると、ふと推測したのだ。だが彼の目に入ったのは、ストーンランタンの明かりに微かに照らされる大空洞の天井部であった。彼は辺りを見渡した。トリイ・ゲートと御影石の石碑。ちぎれたシメナワ。

 戻ったのだ。ニンジャスレイヤーは右手の中に握られたものを確認した。銀の鍵。実在している。「……」彼は懐にそれをしまい、もう一度石碑を見た。「シルバーキー=サン?どこだ」答える声は無い。かわりに、彼のニンジャ知覚力は、はるか後方、シルバーキーとは別のニンジャ存在を感じ取った。 

『来たわ、来おったわ』嗄れた笑い声がニューロンをさざ波めいて騒がせる。『これは……ググググ!このソウル……マイニュ・ニンジャだ。ワシの凱旋にはなかなかに似合いの首級よ。ジュー・ジツを構えい、フジキド!』(シルバーキー=サンはどこだ、感じぬか)ニンジャスレイヤーは問う。

『無い』ナラクは淡々と答えた。『ワシにはわからぬ。気を散らすでない。戦えい』「……」ニンジャスレイヤーは振り返った。遠方、エレベーターとつながる壁の裂け目から、着実な足取りで一人のニンジャが姿を現す。宇宙めいた暗黒の装束。歩みを止めず、拳と手のひらを合わせてアイサツした。

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ザイバツ・シャドーギルドのグランドマスター、ダークドメインです」「ドーモ、はじめましてダークドメイン=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはアイサツを返し、トリイをくぐって進み出た。

「フン、たいそうな洞穴であることよ。キョートの仲間を放り出して穴ぐら遊びとは呑気なものだ」ダークドメインは歩きながら言った。「イクサの前に貴様にひとつ教えてやろう。手土産としてな」

 ニンジャスレイヤーはジュー・ジツを構えた。「……」「ちょうど先程、報せを受け取ってな」ダークドメインは言った。「貴様のケチな見張り屋はさっきキョートで死んだぞ。あの……タカギ・ガンドーとかいうクズ虫はな」ダークドメインは足を止め、掌を前に掲げた。「そして今、俺が貴様を殺す」


5

「イヤーッ!」マサイ族めいたモーションで、ドラゴンベインは異常な巨大槍ツラナイテタオスを投擲!周到にも槍からのびる鎖を片手に巻きつけており、対象殺害後は引いて戻せる仕組みだ。大質量が一直線に飛び、「「アバーッ!」」クローンヤクザ二人を貫通破壊!その先にガーディアン!

「ヌウーン!」大盾ニンジャのガーディアンは中腰姿勢でこれをガード!片方の盾がひしゃげ完全破砕!既にコロッシヴの腐食カラテによって崩壊しかかっていたのだ。この盾を犠牲にガーディアンは見事殺人槍の直撃を防ぐ事に成功!「イヤーッ!」ドラゴンベインは鎖を力任せに引く!

 巨大槍は宙を飛んで、ドラゴンベインの手の中へ戻る。3フィート強の四角錐の槍頭と7フィート強の柄、そして長い鎖。これを片手で操るこの豹頭カブトメンポのニンジャは巨人でも何でも無い。この身体の一体どこに、これほどのニンジャ膂力が秘められているのか?彼は既に跳躍していた!

「イヤーッ!」ドラゴンベインの落下地点にはやはりガーディアン!投擲攻撃に続き、今度は直接の落下刺突で殺そうというのだ。この攻撃を防げねばガーディアンはプリンセプス同様にクズ肉となってしまう事は必定!アブナイ!「イヤーッ!」ガーディアンは絶対の自信を見せて、残る大盾を構えた!

「俺の事忘れちゃいけねえなーッ!」ナムサン!そこへ駆け込むはコロッシヴだ!腐食カラテで大盾を殴り始める!「ヌウーッ!?」煙を噴き、徐々に変色する大盾!「アニキの下準備しといてやらなきゃなァ!」そして上空にはドラゴンベイン!盾は大丈夫か?アブナイ!「イヤーッ!」「グワーッ!?」

 その背後から何かが飛来し、コロッシヴとガーディアンをもろともに弾き飛ばす!ドラゴンベインは一瞬後そこへ落下、無人の地面に深々とツラナイテタオスを叩き込んだ!実際危なかった!「カラテが雑だガーディアン=サン!」飛来物の主が叫ぶ。コマの上で回転するニンジャ、ワイルドハントだ!

 二者を吹き飛ばしたのは、彼の乗るコマが射出した二発の「子ゴマ」だ。「子ゴマ」はそのままドラゴンベインの周囲を高速旋回!「ヌウーッ、俺の大盾は平気なのだ!」ガーディアンは素早く起き上がり叫び返した。「だが礼は言っておく!」「チィーッ」ゴロゴロと後転し間合いを取るコロッシヴ!

「おい!ブラックウィドー=サン!こっちに一匹漏れて来てやがる……」コロッシヴはバック転して毒づいた。そして驚愕に目を見開く。「何ィー!?」おお、ナムサン!巨大なクモ脚に支えられているはずのブラックウィドーは今、身体を傾け、動きを停めている!脚四本が折れ曲がり、煙を噴いている!

 インガオホー!それは爆弾として用いられるワイルドハントの「孫ゴマ」とインペイルメントの実際長いカタナ「ザオ・ケン」による地道な破壊の成果!どれほど巨大で恐るべき敵であろうと、必ず崩すべき弱点は存在するものなのだ!「フーンク!」インペイルメントが五本目の脚の関節部に斬りつける!

「……!」ブラックウィドーは声なき悲鳴で悶え、五本目の脚を折り曲げる……「フーンク!」インペイルメントは容赦無く六本目に斬りつける!「……!」苦しむブラックウィドーはとっさにそのサイバネ胴体で、身体の下を走り回るインペイルメントを押しつぶそうと試みた!だがそれは最悪手だ!

「フーンク!」インペイルメントは真下でザオ・ケンを高く突き上げた。そこへ落ちてくるブラックウィドーの胴体!「!!!」ナムアミダブツ!ザオ・ケンは下からブラックウィドーのサイバネ胴体とニンジャの上半身を一撃でケバブめいて貫通!脳天から血濡れの切っ先が飛び出す!死亡!爆発四散!

 通常ならばドラゴンベインがインペイルメントめがけツラナイテタオスを投擲したはずだ。だが彼を封じていたのは周囲を激しく旋回する2つの子ゴマである。回るだけではない。子ゴマはドラゴンベインに小型のスリケンを射出し続けているのだ。これではインターラプトもジャンプ回避も不能!

 ツラナイテタオスの巨大さはこういったワン・インチ攻防には不向きである。ドラゴンベインは槍持たぬもう一方の手で小型スリケンをガードし続けるという難儀を強いられていた。「アニキ!」コロッシヴが子ゴマに襲いかかるが「イヤーッ!」ワイルドハントがコマ体当たりをしかける!「グワーッ!」

「そんな余裕を与えるとでも思うたか!」ワイルドハントは回転しながら叫ぶ!実際彼の的確な判断によって戦局はがらりと様相を変えつつあった。彼の乗るコマは子ゴマと孫ゴマを複数射出する事ができる。それを彼自身がIRCで同時に遠隔操作するのだ。なんたるアドバンスド・ショーギめいた戦術!

 ギュン!その時である!スナイパースリケンが飛来し、ドラゴンベインを邪魔する子ゴマが一つ爆発!「イヤーッ!」一瞬の隙をつき、ドラゴンベイン自身がジゴクめいたケリ・キックを残る子ゴマに直撃、粉砕破壊!これで自由!「アニキ!」

 だが自由になったドラゴンベインがまずその注意を向けたのは空中……ちょうどブラックウィドーの残骸の直上のあたりだった。「フーンク」残骸から這い出したインペイルメントも同様にその方向を見上げた。ザイバツ、アマクダリ、双方にこれまでと別種の緊張のアトモスフィアが生まれた。

「なんだ。あれは」声を発したのはガーディアンである。空中のそのポイントが唐突に歪み出した。まるで水面に細かく石が投げ込まれたような無数の波紋が生じ、コンマ2秒後、そこから人の形をした閃光が落下して来た。

 人型の閃光はブラックウィドーの残骸を蹴って飛び上がり、回転しながら着地した。片膝をついた着地姿勢、閃光は失せ、その実際の姿が……異様なニンジャの姿が明らかになった。

 流水めいた光沢を持つ、ピンク色のニンジャ装束。正体不明の金属でできたメンポは官能的な流線型を描いて顔全体を覆い、目元には細い横一直線の覗き穴が空いている。「……」彼……おそらく男と思われるそのニンジャは……ゆっくりと立ち上がった。

 異様なニンジャはアイサツした。「0100001000101010001010010101」そして首を傾げた。「01001000101」その場にいた全ての戦闘者の警戒がそのニンジャに引きつけられた。装甲車が機銃を、クローンヤクザがアサルトライフルを向けた。

「!」アマクダリ・セクトのドラゴンベインとコロッシヴは反射的に同一方向へ高速跳躍、やや離れて警戒した。ギュン!スナイパースリケンが異様なニンジャめがけ飛来する。「010001010」異様なニンジャは片手をそちらへ向けた。スナイパースリケンが空中で静止した。

 異様なニンジャがその手を握り込むと、スナイパースリケンは空中で米粒ほどの大きさに圧縮され、地面に落下した。ニンジャは再度アイサツを試みた。「……01000100101」首を傾げ、またアイサツを試みた。「00010010101」そして肩をすくめた。 

「フーンク!」インペイルメントがザオ・ケンで突進する。「010」異様なニンジャはくるくると回転ジャンプしてこれを回避、着地点にいたクローンヤクザの首を掴み、捩じ切った。「アバッ!」そしてバイオ血液の滴る生首を地面のアスファルトに擦り付け始める。

 生首が毛筆めいて、そこに血のショドーが書かれた。「ドーモ」「ザ・ヴァーティゴです」

 ザ・ヴァーティゴは言った。「あれ?声が出たぞ。取り越し苦労かよ」「ザッケンナコラー!」反射的に周囲のクローンヤクザが一斉にアサルトライフルを射撃!「イヤーッ!」ザ・ヴァーティゴはブリッジでこれを回避!「ちょっと待ってくれ!そこのお前らも!あれだ、ザイバツにアマクダリ?」

「何奴だ」ワイルドハントは回転を停止した。「あんたは、えーと」ザ・ヴァーティゴはブリッジしたまま首を捻った。「あんたは……すまんな、多分俺の主観的時間で2万年ぐらいはかかったんだ、戻ってくるまで……いや、初めて?いや……すまねえ……記憶が……2万年……」

 ザ・ヴァーティゴは起き上がり、「アンタら、俺が誰だか、知らないかい」包囲網を見渡した。「教えてほしいん01000クソッ1001」異様なニンジャは地団駄を踏み始めた。「名乗るまでも無し」ワイルドハントが断じた。「狂人だ。アマクダリ同様、始末せよ」

「ザッケンナコラー!」アサルトライフルの集中砲火!「010」ザ・ヴァーティゴは側転してこれを回避!「イヤーッ!」側転地点に突進するのはガーディアン!大盾の縁をギロチンめいて横薙ぎにする!「010」ザ・ヴァーティゴは両手で大盾を挟み込み、止めた!

「ヌウーッ!」ガーディアンの両腕にビッグカラテ筋肉が盛り上がり、さらに大盾をギロチンめいて押し込みにかかる。「 010,010」ザ・ヴァーティゴは押し返そうとする。「フーンク!」その背後から突き刺しにかかるはインペイルメントのザオ・ケン!ナムサン!

「010」ザ・ヴァーティゴは後ろ脚でヤリめいたキックを繰り出し、ザオ・ケンの切っ先を逸らす!同時に、両手で挟んだ大盾を力任せに引き、ガーディアンの腕から剥がしとった!「バカなーッ!?」ガーディアンは驚愕し叫ぶ!「010」盾を抱えたまま、後方へ回転跳躍するザ・ヴァーティゴ!

「……!」ワイルドハントはザ・ヴァーティゴを横目で睨む。彼はコロッシヴとドラゴンベインを一手に引き受け、コマ・ジツで牽制している最中だ。ドラゴンベインはやおら片耳に手を当て、一歩後退した。そしてこのイクサで初めて言葉を発した。「コロッシヴ=サン。潮時だ。撤退命令が出た」

「アニキ!?」「フューネラル=サンが死んだ。これ以上は蛇足」そして「イヤーッ!」ワイルドハントを牽制するようにツラナイテタオスを大きく打ち振ると、敵に背を向けツカツカと歩き出す。「アニキ」コロッシヴがワイルドハントを振り返りながら後に続く。「……」ワイルドハントは追わぬ。

 実際彼自身、ドラゴンベインとさらに二人のサポートを相手にやり合えば無事では済まぬ。このミッションにおいてアマクダリの撤退すなわち勝利だ。さらなる功を焦って自身が死ねば、それはザイバツ・シャドーギルドの体制にとってもマイナスとなる。二者が跳び去ると、彼は振り返った。残る狂者を。

「00101」ザ・ヴァーティゴは抱えた大盾を相手に何やら力を込め、身を震わせる。ミシミシと音を立て、その大盾が歪み始める。なんたるニンジャ腕力であろうか!?このニンジャは一体何者であろう?「00100」ところどころ圧縮され、引き延ばされた大盾は巨大な斧めいたフォルムをとる!

 ザイバツ・ニンジャ達が固唾をのんで警戒する中、ザ・ヴァーティゴは頷き、人差し指の先で斧の側面に「テツノオノ」とルーンカタカナを刻印した。「010」そしてそれを、投げる!

「!」ガーディアンとインペイルメントはとっさに跳躍しこれを回避!回転する無骨な斧状物体はそのままクローンヤクザ十数人の胴体を切断!バイクを切断!回転しながらブーメランめいて戻ってくるのをザ・ヴァーティゴは両手で受け止める!「何だ!コイツは!」ガーディアンが叫ぶ「俺の盾が!」

 その時既にザ・ヴァーティゴはガーディアンのワン・インチ距離!「010」振りかぶるテツノオノ!「イヤーッ!」横からインターラプトに入るはワイルドハントの孫コマ!ザ・ヴァーティゴは横跳びに転がってこれを回避!「アバーッ!?」宙を飛ぶのはガーディアンの胸から上だ!横一文字切断!

「010」ザ・ヴァーティゴは横跳びしながらテツノオノを振り抜き、一撃でガーディアンの身体を切断していたのである!「サヨナラ!」吹き飛ぶガーディアンが叫び、爆発四散!ナムアミダブツ!「フーンク!」ひるまず突進してザオ・ケンの刺突攻撃を繰り出すインペイルメント!

 回転直後で膝立ち姿勢のザ・ヴァーティゴは片手をかざし、その切っ先を弾こうとした。その手が突如、無数の白い0と1の数字の集積物に還元された。「0100010」ザ・ヴァーティゴはギョッとしたようだった。だがその鉄仮面めいたメンポにつつまれた頭部も次の瞬間には0と1の塊となった。

 さらに肩が。上半身が。腰から下が0と1に。残る腕がバタバタともがき、テツノオノを掴む。その腕も0と1に還元される。さらにはテツノオノまでもが。インペイルメントの刺突が、何も無い空間をむなしく突き抜けた。異形のニンジャは破壊の痕跡だけを残し、来た時と同様、唐突に去ったのだ。

「フーンク!フーンク!」インペイルメントは叫びながらザオ・ケンを振り回し、空気に斬りつける。「フーンク!……フーンク!」肩で息する彼の背中を、ワイルドハントが荒っぽくどやした。「やめろ!」そして広場の酸鼻な光景を……イクサの後を振り返る。「広場は制圧した。それだけの事だ」


6

「ちょうど先程、報せを受け取ってな」ダークドメインは言った。「貴様のケチな見張り屋はさっきキョートで死んだぞ。あの……タカギ・ガンドーとかいうクズ虫はな」ダークドメインは足を止め、掌を前に掲げた。「そして今、俺が貴様を殺す」

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはすかさずスリケンを投擲!ダークドメインは片手を掲げて指先でこれを挟み取った。「話は終わっておらん。当然これは貴様の脆弱な精神を苛む為に教えるのだ。わざわざこんな転送データのプリントアウトまで用意してな」彼は懐から一枚の写真を取り出す。

 ニンジャスレイヤーのニンジャ視力は遠く敵の手の中にあるそれをはっきりと見た。被写体は紛れもなし。刈り込んだ白髪とインディアンめいた厳めしい顔立ち。私立探偵ガンドーその人だ。デスマスクめいて目を閉じ、血の気の無い唇は半開きだ。決定的なのは額に穿たれた惨たらしい銃創であった。

「……」「さあ教えろ。言え。こいつで間違いないか?こいつがタカギ・ガンドーで間違いないないか?お前が頼りにしてきた、脆弱で身の程知らずの非ニンジャはこいつか?」ダークドメインは抑揚の無い言葉で畳み掛ける。「この遺影、くれてやろうか?墓は無いぞ、死体は琵琶湖に沈めたそうだ」

「……」ニンジャスレイヤーは無言である。ただ前進した。「フン」ダークドメインが鼻を鳴らし、掌をかざすと、宙空に円い裂け目が生じた。その奥は緑の格子模様輝く暗黒空間だ。彼は写真をその中に無雑作に投げ捨てた。かわりに彼の手の中に飛び込んできたものがある。黒く放電する棒状の物体だ!

「答えてみろ。ガンドーか?間違いないか?んん?」恐るべきアンタイ・ウェポンを構え、ダークドメインは嘲った。当然、彼は何もかも知ったうえで訊いている。ニンジャスレイヤーも認めざるを得ない。あれはガンドー。間違いない。なぜ?なぜこんな事になった?こんな事が起こるはずは無いのだ……。

『かわせフジキド!』ナラクの叱咤がニューロンを走る。『奴の武器を決して受けるな。回避せよ!』「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは我に返った。そして、振り下ろされる謎の武器を高く跳躍し回避!ダークドメインを飛び越しながら、スリケンを投げつける!「イヤーッ!」

 ダークドメインは振り返り、平然と上のニンジャスレイヤーを見上げる。かわしすらしない!その身体の輪郭がぼやけ、スリケンは彼の身体を通過、地面に虚しく突き刺さった。「イヤーッ!」着地際のニンジャスレイヤーめがけ、その手のアンタイ・ウェポンを投擲!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは着地からコンマ2秒でブリッジ姿勢に移行し、これを回避!直後その身体のすぐ上をアンタイ・ウェポンが通過、空洞の岩壁に接触すると、球状にえぐれた傷痕を残して消滅した!ギリギリの回避!アブナイ!「貴様は俺がここで必ず殺す」ダークドメインが言い放つ!

 両者、互いに構え、円を描くように動く。ダークドメインの両手それぞれには黒く放電するアンタイ・クナイが握られている。『奴の武器を決して受けるな、触れるな』ナラクが繰り返した。『あれがマイニュ・ニンジャのムシアナ・ジツ。奴のみが禁忌の地への入場を許され、そこから武器を取り出す』

(スリケンを通り抜けたジツは何だ)『あれも要はムシアナ・ジツの応用よ。だが奴とて長々と禁忌の次元に留まり続ける力は無し。実際かつてのマイニュ・ニンジャはイクサに破れ死んだ』(……)『とにかく早速ワシに感謝せよフジキド。ワシ無くば最初の切り結びでオヌシの腕は失わ』「イヤーッ!」

 ダークドメインがアンタイ・クナイ突きを繰り出す!ニンジャスレイヤーは半身でこれを回避!残る手のアンタイ・クナイ突きが襲いかかる!だがニンジャスレイヤーが速い!「イヤーッ!」「グワーッ!」チョップ突きが鎖骨に命中!ダークドメインは飛びすさり、バックフリップ!「イヤーッ!」

 バックフリップからのアンタイ・クナイ二連続投擲!ニンジャスレイヤーは流麗なブリッジでこれを回避!背後で危険なクナイがそれぞれ球状の痕跡を残し消失!「イヤーッ!」まだだ!着地したダークドメインはニンジャスレイヤーに掌を向け、キアイ!ブリッジする地面に黒い円が生じる!

「!」ニンジャスレイヤーは咄嗟にバック転、さらに跳躍!黒い円の範囲を抜け出す!反応が遅れていれば彼は円の中へ吸い込まれていたであろう!だがダークドメインはそれを本気でアテにしたのではない!一直線に穴まで走ると、そこから長いアンタイ・ジャベリンが飛び出し彼の手の中に収まる!

「イヤーッ!」ダークドメインは即座にアンタイ・ジャベリンを投げつける!黒い稲妻めいて飛ぶ危険武器!ニンジャスレイヤーの落下軌道を精密に計算した投擲!「イヤーッ!」いまだ空中のニンジャスレイヤーはスリケンをアンタイ・ジャベリンめがけ投げ返す!

 スリケンはジャベリンに触れると黒い放電を伴い消滅!ジャベリンは消えない!「イヤーッ!」しかしニンジャスレイヤーはさらに多くのスリケンを連続投擲!二枚!三枚!四枚!最終的にジャベリンは相殺消滅、ニンジャスレイヤーは無事に着地した!「貴様」ダークドメインが近づく「慣れておるか」

「手の内の割れた小僧手品になど価値は無し」ニンジャスレイヤーは言い捨て、ジュー・ジツを構えた。「死ね。ニンジャ殺すべし」ダークドメインは真っ直ぐ突き進む。「口の減らぬクズめ。俺のジツを生き延びた敵は一人もおらぬ。ブザマに死んだ犬の中には、貴様のごとき増上慢が何人でもいるぞ」

 二者の間合いが今、攻撃距離内に!「「イヤーッ!」」チョップとチョップが噛み合う!さらにダークドメインがショートフック!ニンジャスレイヤーはこれをガード!その時にはダークドメインの次なる攻撃、上段蹴りが逆側から迫っている!

「イヤーッ!」これに対しニンジャスレイヤーは回りながら上体を屈め、頭を地面すれすれまで下げて躱す。同時に回し蹴りを合わせる!中世に海を越えて南米に伝搬した暗黒カラテ蹴り、メイアルーアジコンパッソである!だがダークドメインは同様に上体を屈めながら回り、これを回避!

「イヤーッ!」そして繰り出す回し蹴り!ゴ……ゴウランガ!同じメイアルーアジコンパッソだ!ニンジャスレイヤーは上体を屈めこれを回避、再度メイアルーアジコンパッソを繰り出す!「イヤーッ!」ダークドメインは上体を屈めこれを回避、再度メイアルーアジコンパッソを繰り出す!「イヤーッ!」

 ニンジャスレイヤーは上体を屈めこれを回避!再度メイアルーアジコンパッソを繰り出す!「イヤーッ!」ダークドメインは上体を屈めこれを回避!再度メイアルーアジコンパッソを繰り出す!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤー!「イヤーッ!」ダークドメイン!「イヤーッ!」

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」おお、おお!ナムサン!そこに生ずるは、高速回転し交互に牙を剥く二つの致命的回し蹴り竜巻!速度は更に上がってゆく!もしこの攻撃範囲内にバイオスズメが紛れこめば、途端に挽肉となってしまうだろう!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!?」ナムサン!

 双方の加速はついに臨界点を……回避可能速度を超えたのだ!両者吹き飛び、一人は膝立ちに着地!一人は肩から落ちて地を舐める!制したのはどちらだ!?

 ……ニンジャスレイヤーである!

 彼はすぐに立ち上がり、倒れたダークドメインを追撃すべく接近する!「ヌウウーッ!?」よろめきながら起き上がるダークドメイン、蹴りが側頭部を直撃したのだ。いかなグランドマスター位階のニンジャ耐久力を持とうと、数秒は身体の自由が効くまい!

「……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛び込み、ヤリめいたサイドキックをダークドメインに突き刺した!……筈である。筈なのだ!だが攻撃は虚しく空を切った!ダークドメインの輪郭が霞み、ニンジャスレイヤーの身体を歩いて通り抜ける!ナムサン、ムシアナ・ジツによる亜空間転移防御だ!

 背中合わせに具現化したダークドメインは、直後!両肘を真後ろのニンジャスレイヤーに叩き込んだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」弾丸めいて弾かれ吹き飛び、地面を転がるニンジャスレイヤー!叩き込んだ肘打ちの反動を噛み締め、ブルブルと身体を震わせるダークドメイン!「フゥゥゥーッ……!」

「……!」肺の空気が全て吐き出され、ニンジャスレイヤーは喘いだ。ダークドメインはゆっくり振り返り、再びその手にアンタイ・ウェポンを召喚した。両手使いの無骨な剣!ニンジャスレイヤーは咳き込んだ。グランドマスター位階のカラテ、一筋縄では行かぬか。だが、必ず勝つ。ニンジャを殺す!

 今、彼のニューロンの中に彼を叱咤するナラク・ニンジャの嗄れ声は無い。かわりに、その迷い無き目には今、センコ花火めいた赤熱の光が薄っすらと灯っている。ナラク・ニンジャの魂とフジキドの意志が重なり、共鳴を開始したのである。

 フユコ、トチノキ……あの日、この頭上のビルでニンジャに理不尽に殺された最愛の家族。二人の砕かれた魂の微かな名残りは、ナラクの中へ入り、もってフジキドと共にあった。たとえそれが意志無き残滓に過ぎぬとも、それは長く苦しいイクサの中で、常にフジキドと共にあった。共にあったのだ。

 フジキドはジュー・ジツを構え直す。そして深く深くチャドー呼吸を刻んだ。ザイバツ?ガンドーの死?ダークドメイン?ムシアナ・ジツ?……何を迷う事があろう!ただ、この敵を倒す!彼の両目が赤く赤く輝き、腰に吊るした黒檀のヌンチャクの先端が「忍」「殺」の炎文字を浮かび上がらせる!

「もはや貴様に勝ちは無い。これはカイシャクだ」ダークドメインがアンタイ大剣を背中に担ぐように構えた。「俺のカイシャクは貴様の細胞一つ残しはせんぞ」「スゥーッ……!」「イヤーッ!」ダークドメインがアンタイ大剣で斬りかかる!速い!

 だがニンジャスレイヤーは中腰姿勢のまま攻撃を待ち構える!ナムサン!これでは……既に回避不能タイミング!アンタイ・ウェポンをガードしてはならないのだ!無残にえぐられた死体に成り果ててしまうぞ!何故だニンジャスレイヤー!「イヤーッ!」

 黒い稲妻が跳ねる!「ヌウッ!」ダークドメインは目を見開いた。ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた!ただのスリケン投擲ではない!チャドー奥義ツヨイ・スリケン!しかも一枚ではない!二枚でもない!一度に八枚!全ての指の間に挟んだスリケンをツヨイ・スリケンで散弾めいて投擲したのだ!

「これ!は!?」一枚はダークドメインのブレーサー(手首装甲)に当たり、火花と共にその腕先を跳ね上げる!そして残る七枚がアンタイ大剣に立て続けに衝突!アンタイ大剣と対消滅!さらにニンジャスレイヤーは投擲動作と共に後転して間合いを取っていた。身体は無傷である!

 そしてニンジャスレイヤーは額の前に両手でヌンチャクを構える!ヌンチャク鎖が伸び、本来の姿を取り戻した!『モータルの怒りを!知るがいい!』ニンジャスレイヤーの叫びが、まるで彼一人の声では無いように響いたのは大空洞の音響故だろうか?……否!……否!否!否!

 一方ダークドメインにも一切の油断や狼狽は無い!彼は己のカラテを構え、ヌンチャクを振り回すニンジャスレイヤーへ一瞬にして接近した。そしてチョップ突きを繰り出す!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがヌンチャクで応じる!だが、ナムサン!

 ダークドメインのこのチョップ突きは、ニンジャスレイヤーのヌンチャクを誘うフェイントであったのだ!中途で引かれたダークドメインの突き手、そして振り抜かれるニンジャスレイヤーのヌンチャク!ダークドメインの輪郭がぼやけ、ヌンチャクが虚しく通過!

 これでは先の失敗の再現か?いや違う!ニンジャスレイヤーもまた初撃はフェイント!亜空間転移防御を誘うためのフェイントである!ヌンチャクを振った勢いで彼はサイドキックを繰り出す!これも引き続き透過!だが更に彼はヌンチャクをその蹴り足に絡め、それを支柱にプロペラめいて回転させた!

 亜空間転移防御はもって1~2秒だ。炎めいた軌跡を描き激しく回転するヌンチャクの暴風域にダークドメインは実体化するしかない!「ヌ……グワーッ!」一瞬にして身体中に猛烈なヌンチャクの殴打を受けるダークドメイン!ニンジャスレイヤーはヌンチャクを稲妻めいた速度で手に持ち直す!

「イヤーッ!」「ヌウーッ」ダークドメインは咄嗟にガード!だがガードした腕を支柱に鎖の先の柄が回転!側頭部を直撃!「グワーッ!」さらにニンジャスレイヤーは腕を押し込み、顔面に肘打ち!「グワーッ!」さらにその場でくるりと回転し、勢いを載せて再度ヌンチャク打撃!「グワーッ!」

 ヌンチャクはガラガラヘビめいて跳ね回り、ダークドメインを打ちまくる!打擲!打擲!打擲!打擲!打擲!「グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!」ダークドメインは激烈に打たれ、よろめきながら後方へ弾かれてゆく。だが攻撃は終わらない!間合いが切れない!鎖が!伸びている!

 赤熱し、炎を纏うヌンチャク鎖はさながらサンズデーモンの炎鞭か、あるいはドラゴンの舌か!ダークドメインが吹き飛ばされるほどにヌンチャクの鎖は伸び、無慈悲な攻撃の嵐の中から決して逃す事は無い!「グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!」「イイイイイヤァァァーーーッ!」

 燃え盛るヌンチャクが鎌首をもたげる!二者の視界から大空洞が消し飛び、暗黒の精神的空間が無限に広がった。ズタズタに傷ついたダークドメインはたたらを踏み、この処刑的最終攻撃に備えようとした。それはあたかも死神のひと撫でを迎え入れるかのようでもあった。ヌンチャクが!襲いかかる!

 ダークドメインの脳天にヌンチャクが叩き込まれる!黒檀のヌンチャクは、その頭蓋を、メンポを、鎖骨までも粉砕!これがザイバツ・グランドマスターの最も凶暴な武闘派を自認する男、誰をも信じず、頼る事無き亜空ニンジャ、ダークドメインの最期だ!「サヨナラ!」彼は一声叫び、爆発四散した!

 ヌンチャクは敵を殺めるやニンジャスレイヤーの手の中に戻り、鎖は縮み切って、再び硬いUの字に固定された。「……フユコ。……トチノキ」ニンジャスレイヤーは俯き、呟いた。

 彼は背後のトリイ・ゲートを……オベリスクめいた御影石の立方体を振り返った。ビシ、と音を立て、御影石に大きく亀裂が入った。「……」ニンジャスレイヤーはエレベーターへ通ずる岩壁の裂け目へ足早に向かう。

 ニンジャスレイヤーは己のニューロンにナラクの実在を感じた。共鳴を終えたナラクは再び一時的な眠りについている。それはラオモト・カン以来の切り離された眠りとは質を異にする、次なるイクサに備える眠りだ。ここに今回の旅の目的は成就し、フジキドはナラクの力を取り戻したのである。

「上がるドスエ」エレベーターのマイコ音声が告げ、長い上昇が始まる。目的は達成した。しかし多くの謎が残されたままだ。銀と金の立方体。古代のビジョン。……それらの謎を辿る道は、彼自身の目的と重なってゆくのだろうか。ニンジャスレイヤーはシルバーキーを案じた。そしてガンドー。

 四角い密室はただ彼一人を載せ、上昇し続ける。どこまでも。


【ディフュージョン・アキュミュレイション・リボーン・ディストラクション】終


N-FILES(設定資料、原作者コメンタリー)

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