【スクールガール・アサシン・サイバー・マッドネス】#1
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「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」「アイエエエエ!」複数のヤクザスラング、そして悲鳴、打擲音。表通りの光が、ヒビの入った壁に、暴力の光景を影法師として映し出す。囲んで棒で叩く影を。
「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」「は……払う、払いますからァ……」「……」暴力が中断した。ヤクザ達は顔を見合わせ、サイバネアイの緑光が闇に浮かぶ。「……払うカネなんざ、ねェーだろうがコラァ!」「アイエエエ! ありません!」「ザッケンナコラー!」「アイエエエ!」暴力再開!
表通りをゆくほろ酔いサラリマンは激しい暴力の音声に思わず足を止めた。だが、ヤクザが「なにか? ウチは許可取ってるんですけどね?」と睨みつけると、すぐに逃げていった。許可? そんなものは当然ありはしない。だが、だからといって何なのか。サラリマンを追い払うには十分だ。
ヤクザは哀れな債務者を思う存分に打擲すると、やがて、痙攣する足を掴んで引きずり、ヤクザワンボックスの後部座席に投げ込んだ。そして彼らもしめやかに車内に乗り込んだ。彼らが向かう先は無論、生体マーケットのブローカー。24時間体制で闇医者が詰めている。何たるマッポーのシステムか。
「エート、次の滞納カス野郎は何処ですかね?」運転ヤクザが助手席のヤクザに尋ねる。助手席ヤクザはダッシュボードの液晶に指を当てた。ほど近い区画にマーカーが灯った。「まとめて回収すんぞ」「ハイヨロコンデー」ヤクザワンボックスは青信号と共に再発進した。交通ルールをよく守る。
「実際安い」「金無垢」「おマミ」「大鳳凰」……色とりどりのネオン看板がドアウインドウの外を流れ、ヤクザの横顔を縞模様に彩る。債務者にはまだ意識はあったが、もはやヤバレカバレの逃亡を試みる体力も気力もない。諦めている。残酷な世界であった。これはマッポーのチャメシ・インシデントだ。
『そこの路地にいい感じで入るドスエ』。ナビAIが柔軟なガイド音声を発した。運転ヤクザは光ささぬ路地に車を進める。「腹減りませんか。この後なに食います?」「ホルモンだろ」「ナハハハ!」「ナハハハ!」ヤクザは笑いあった。
一瞬後、ハイビームのライトが路上に横たわる市民を捉えた!
「ア?」「何よ」ズゴン。車体が上下に揺れた。「轢いちまうだろそりゃ」運転ヤクザが毒づき、助手席ヤクザが笑った。「ワハハハ!」「いや、少しは減速しましたよ? 俺も」「ワハハハハ……いや待て」「何です?」「イギモト=サンじゃねえか? 今の」「え?」「滞納カス野郎だよ」マーカー地点だ。
「え? 待たせてた場所ッスか? なんだよ」「轢かれやがってぶっ殺すぞイギモトの野郎……」彼らは罵った。そして車体を切り返し、倒れた市民の前まで戻った。ドアを開き、あらためにゆく。「やっぱそうだな。イギモト=サンだ」「臓物イッたか?」「とりあえずボディ、回収しましょ……」
「テメェがやれよ」「わかってますけどねえ」運転ヤクザは渋々、路上の市民を担ぎ上げた。ぐったりと重い。「やっぱ死んでるんじゃないスか」「お前の運転のせいだろ」「よしてくださいよ、ハハ……」「いや、お前の運転だろ。どうすんだ?」「え?」「だから、どうすんだって。言えよ」
「だから、」「だからじゃねえよ。オニイサンに何て報告すんだよ。滞納カス野郎を殺しちまってよ」「え……」「おい」助手席ヤクザの濁った目が闇に光る。運転ヤクザが震えだした。目を泳がせた彼は、足元、マンホールの蓋が横にスライドし、誰かが這い上がってくるのを見た。その者が構えた銃を。
「え……」「えじゃねえ……」BLAMN! 運転ヤクザの眉間に銃弾が着弾。後頭部から脳漿とともに飛び出した。運転ヤクザは仰向けに倒れた。彼を詰めていた助手席ヤクザは、弾かれたように後ろを振り向く。闇だ。そこには誰も居ない。足元の穴から、銃撃した者が這い上がりきっていないからだ。
気づいた時には、遅い。助手席ヤクザの足首が水平に、ばっくりと切り裂かれる。「グワーッ!?」助手席ヤクザは倒れ込んだ。逆に、襲撃者は穴から上体を乗り出し、大声で笑った。「アーッハハハハハ! ヤーッター!」そして梯子を上りきり、苦しむヤクザを見下ろす。Aラインのシルエット。緑のレインコートを着た女だ。
「テメッ……何処の誰……!」「え? 教えたらヤバイッショ」レインコートの女は顔をしかめる。壁の配管が漏電し、バチバチと火花を散らす。照らされた顔。ヤクザは呻いた。若い女。若すぎる女だった。「女子……高生……?」「キモチワリーナ!」BLAMN! 銃弾がヤクザの頭を噴き飛ばした。
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