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【ア・ニュー・デイ・ボーン・ウィズ・ゴールデン・デイズ】

◇総合目次 ◇エピソード一覧
この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードの加筆修正番は、上記リンクから購入できる第3部の物理書籍/電子書籍に収録されています。また、第2部のコミカライズが現在チャンピオンRED誌上で行われています。




【ア・ニュー・デイ・ボーン・ウィズ・ゴールデン・デイズ】


「思うんだがよ」スシドッグをまずそうに頬張りながら、くたびれた中年のデッカーは言った。「年の瀬という概念は、俺たちの外の宇宙で展開する事象であってよ、所詮、俺たちは世間とは別の時空間をだな」「デスネー」「聞いてんのか?」「まあ、よくわかんないですけど、働くって何でしょうね」

 ひょろりとした若いデッカーが、中年デッカーに「天然的要素、甘お酒」と書かれた缶飲料を差し出す。「これアルコール入ってませんか、アマザケもサケですよ」「うるせえな」口を膨らませて汚く咀嚼しながら、中年デッカーのシンゴはアマザケを一気に飲んだ。「うわ」若いデッカーが顔をしかめる。

「で、どこだお客さんは」シンゴは若いデッカー、タバタの反応を無視し、マッポをつかまえた。「ドーモ。シンゴ・アモとタバタ・ヤスキリです。殺人課」「アッハイ、ドーモ。こちらです」マッポは二人を先導し、路地裏の「外して保持」のテープをまたいだ。ゴミ山の隣、うつ伏せに死んだ若い女。

「比較的キレイに死んでるな。ナリもセクシーなこって」シンゴは冬の路上、キャミソールひとつで死んでいる女のそばに屈み込んだ。「先週のは食が進んだな?噴火口めいてたよなァ」「デスネー」タバタがPVC手袋をしながら近づく。「死因は……エート」女を仰向けに裏返し、「心臓ですね」

「心臓」シンゴは白い息を吐いた。女を見る。キャミソール、胸の左寄りに小さな血の染みだ。「ハイちょっと失礼するぜ」シンゴは服をはだけさせ、女の乳房を露わにした。小さな傷だ。ひとつ。シンゴは眉間にシワを寄せた。「……」「シンゴ=サン」タバタが呟いた。「銃じゃない……」「ああ、ああ」

「凶器……鋭利な。銃じゃねェ、カタナじゃねえ。この辺に落ちてると思うかァ、タバタ?」シンゴは顔を上げた。「お前どう思う?」「まさか」タバタは首を振った。「ツイてないですよね僕ら……」目を見合わせる二人には無言の同意があった。この傷はスリケンだ。すなわち、犯人は、ニンジャ。

「どうします」「何がだよ。ニンジャだろうがスモトリだろうが、やるしかねえだろ」「いや、そりゃいいんですけど」タバタは顔をしかめ、「また政治的ナントカでどうこうされちゃうんじゃないですか?」「……」シンゴはタバタを睨んだ。「お前、ちょっと」手招きした。タバタが顔を近づける。

「何ですか?」シンゴはタバタの鼻をマンリキめいて掴んだ。「アイエエエ!」「スッゾコラー!」鼻を掴んだまま腕を振り、タバタを投げ倒す。「グワーッ!」「チェラッコラー!やった後で考えンだよ!くだらねえ事は!」「デスネー、ハイ、ええ」タバタは悶えながら立ち上がる。「鼻はちょっと」

「網膜照会しとけ、あと歯の治療痕、とりあえずそれだ」「デスネー、流れ作業で」「そうだ流れ作業だよ!」こうしている間も、表通りから聴こえてくるのは、ニューイヤー・パレードを待ちきれずに街へ繰り出した市民達の喧騒である。一方彼らデッカーはこうしてドブの臭いの中で死体と戯れる。

「犯罪すンなら日にちをズラせってンだよ」「デスネー」「離婚されちまうよ俺は。もうダメだ実際。今年こそはせっかくの非番、モチを娘とさァ」「デスネー、僕はクリスマスは彼女と過ごしました。あ、シンゴ=サン、これ、ちょっと」「何だァ?」「目です、これは。サイバネだ。こんな娘が……」

 タバタは女の右目の瞼を押し広げ、シンゴに示した。「シリアルナンバーも有りますね」「そりゃそうだろ。だが、目か、そうか。話が早いかも知れねえぞ。タバタ=サン、右耳の後ろを見ろ」「アッハイ……ああ、ビンゴですかね?インプラント有ります」「そりゃビンゴだ!やれやれ!」

 呼応するかのようなタイミングで、赤色ボンボリを回転させるハイ・テック・デッカーワゴンが表通りに到着した。「ああ、よし、とっとと片付けるぜ!死体!車に運べ!写真撮って運べ!」マッポに忙しく指示を出す。「早さが命だ!早さが!」「えっ、モチ諦めてないんですか?」「諦めてるよ!」

 

◆◆◆

 

 黒い靄を通したような不鮮明な視界……視界の端には「メニュー」「検査」「助ける」といった電子表示が明滅する。ドアを開け、薄暗い部屋に入る。四角い小さな窓からの明かりだけだ。机の人影が見返す。人影が立ち上がる。何か話しかけているようだ。こちらも何か話している。人影の手が閃めく。

 ……「え、これだけ?」「ああそうだ!やったな!これだけだ!」ハイ・テック・デッカーワゴンの車内、小型モニタから顔を上げたタバタをシンゴはどやしつけた。「そこを何とかするんだよ!」二人が睨む映像は、被害者の耳の裏にインプラントされた微細フロッピーディスクの記録映像である。

 何らかの事情でサイバネ・インプラントされた被害者の義眼は、この微細フロッピーディスクに死ぬ直前の映像記録を送り込んでいた。願ってもない情報であり、これを残した犯人はウカツと言う他ない。「ニンジャなのにウカツじゃないですか?」「先入観は良くねえぞ」シンゴが首を振った。

「何かのっぴきならねぇ事情があったか、それでも構わねぇと考えたか……無造作に死体を捨ててあるんだからよ。ニンジャじゃねえ、ただの創意工夫にすぐれたヨタモノがやった可能性もある」「じゃあ結局フリダシです?」「よし馬鹿野郎!今から血眼にしてよォく見ろ!映像を!1コマ1コマ!」

 ……タバタが目をしょぼつかせながらモニタを睨みつけていると、シンゴの通信機にIRCノーティスが入った。「……」シンゴは通信機を操作する。「おう」片眉をあげた。奥歯の治療痕データベースから、被害者の身元が判明したのだ。「何かわかったですか?僕これやめていいです?」「ダメだ」

 被害者はキノコ・ザナハラ。トコシマ地区に住民ID登録がある。薬物の逮捕歴が二度。そのときの彼女の仕事は合法マイコサービスであった。「合法マイコサービスが違法薬物ってか」他愛のないおかしみに、シンゴが口を歪めて笑う。記録は無いが、現在もおおかた似た仕事だろう。

 とすると、出張マイコサービス?矛盾は無い。だが何故殺された?部屋へ入るなり?「もう一つあるぜ、もう一つ。もう一つつながってンだ、これは」シンゴは呟いた。「あれ、これは」タバタが呟いた。「これ……」「何かあったか」タバタは映像を止めた。「小窓の外の影なんですけど、これ」

「ああ?影?」「デスネー、この影、曲がってますよね?」「曲がってるもなにも……」「看板じゃないですか?消灯してるネオン看板ですよ」タバタはモニタを人差し指で叩いた。「お相撲っぽくないですか?」「わからねぇ」シンゴは頭を掻いた。「お前のほうが得意だろ、こういうのは」

「そうですね。でもこれ、目立つ看板ですよ、もし合ってるなら」「続けろ」「これ、『お相撲』の『撲』ですよ。山賊ショドー体です。山賊ショドー体は意志が強くてセクシーですが、看板にはあんまり使われない。だから目立つんですよ」「お前みたいなフリークにしか目立たねえよ……続けろ」

「で、この影、もう確信してます、これはお相撲の『撲』の右上の部分だ。看板にする文言なんて、ある程度決まってますし。山賊ショドー体の『お相撲』看板を掲げたビルディングが、この角度で見える窓、部屋!コレです!ビンゴめいてる!」「……じゃあ、調べるか、それ」シンゴはぼんやり答えた。


◆◆◆


「エジャナイザ!エジャナイザ!」「エジャナイザ!エジャナイザ!」トコシマ地区最大の目抜き通り「カミオンナ・ストリート」は今や、新年の0時0分を待ち焦がれる市民達でごった返していた。人々が口にするエジャナイザ踊りのチャントが闇夜に木霊し、時折、先走った花火や火柱が上がる。

「畜生」ダッシュボードに足を載せ、シンゴが群衆を睨んだ。「新年はまだだぞ」彼とタバタを乗せたデッカービークルは、この人混みによって、まるで雪を掻き分けるかのような鈍足である。「しょうがないんじゃないですかねえ。モチは諦めたでしょ……」タバタがハンドルを動かしながら呟いた。

「空の上でもご苦労なこったなぁ」シンゴは窓から顔を出し、夜空を見上げた。「重点……治安を守りたい」という文字を横腹に光らせるマッポのマグロツェッペリンが四機、地上へサーチライトを投げながら飛行している。「ノー・ポリス!ノー・ケンカ!」モヒカンが叫び、歓声を浴びる。

「ゲーッ」それを聴いたシンゴは死にそうな顔で吐きマネをした。「同感だよォ俺らも!」「デスネー」エジャナイザ!エジャナイザ!チャントは強まるばかりだ。ビルというビルには七色のネオン看板が輝く。「三十五人」「フエーン現象」「実際安い」「精力過保護」「勝ち負け」「パワ」。

「あ、そろそろなんで」タバタが片手で小型モニタを操作した。道路地図の目的地が赤く点滅した。山賊フォントの『お相撲』看板を掲げるビルはタバタの見立て通り、ただ一つ。そこから角度を計算して割り出した雑居ビルのアドレスだ。「あのォ、ホント気をつけてくださいよね」「あァ?」

「いや、シンゴ=サンむちゃくちゃやるじゃないですか。ニンジャ即逃げろでしょ、普通は」「うるせえな!当たり前だろ」シンゴは言い返した。「ヤバかったら応援を頼むに決まってンだろ。ニンジャ即逃げろだ、当たり前だ」「でも、むちゃくちゃやるからなあ」

「やらねえよ!何が悲しくて年越しにニンジャとカラテだ。むしろニンジャがいねえ事を祈れ」「あ、ここの路地です、曲がりますんで」デッカービークルが左折し、目的のブロックへ入り込む。背後ではいよいよ熱狂が高まる群衆の「エジャナイザ!エジャナイザ!」「エジャナイザ!エジャナイザ!」

 ……実際彼らはまだまだ、これでもなお、ニンジャというものの何たるかを正確に知らず、どこか侮っていたと言わざるを得ないだろう。あのジゴクめいたアンデッド・ニンジャのウィルオーウィスプにまつわる事件を通し、サンズ・リバーを渡りかけた両者であってさえも。

 『じゃ、宜しくお願いします』通信機からのタバタの音声の入り具合を確かめると、シンゴは「鯖の信仰心ならば」と看板の出る雑居ビルの外階段を昇りだした。デッカーガンのロックは既に解除し、対衝撃ベストをコートの下に着込んでいる。タバタはビルの前のビークル内に待機。不測の事態に備える。

 エジャナイザ!エジャナイザ!通りから漏れ聴こえるチャントは幻惑的な退廃アトモスフィアを作り出す。シンゴは背後を振り返った。なるほど、向かいのビルの向こうから顔を出すのは「お相撲」のネオン看板だ。今は点灯している。誰かが宙に打ち上げたロケット花火が回転しながら空を踊る。

「年越し……ニンジャとカラテ……勘弁だぜブッダ=サン」独り言を呟きながら、シンゴは四階の廊下に進み出る。よりによって四だ。嫌な数字だ。(タバタめ。ビビらせやがって)目当ての403号。人の気配は感じられない。シンゴはドアノブを無造作にデッカーツールで破壊した。違法行為だ。

(……邪魔するぜ)シンゴは室内にエントリーした。繰り返し観た死者の網膜記録の体験によって、デジャヴめいた感覚を味わう。タバタの見立ては正解だったのだ。人の気配は無い。留守だ。だがデッカーガンは構えたままである。「ビンゴだ、タバタ=サン。ここだぜ」ワンルーム、実際狭い。

 部屋の中央にテーブル。そう、このテーブルの向こうに犯人がいて、スリケンを投げ、殺した。シンゴの仮説では、あのアワレな女は出張マイコの類。部屋を間違え、その後のやり取り、態度がまずかったのだろう。そして殺された。調べる時間がもっとあれば、より詳細な事情もわかっただろうが……。

 ちょっとしたマイコの間違いでも、繕わず無慈悲に殺す、無関係でも殺す……そんな手合いの奴らが、ここで……何を……していた?テーブルの上には何も無い。だがその下、床に……ブッダ!カーボンマキモノが落ちている!マキモノは開かれており、カミオンナ・ストリートの見取り図、そしてX印!

「だが話がうますぎるだろ!」シンゴは思わず声に出して叫んでいた。そして第六感が告げた。シンゴは床にうずくまった!頭のすぐ上に風圧!「ウオオオッ!?」シンゴは咄嗟にマキモノを掴み、床を転がる!転がりながら、その視界が捉えたのは……ニンジャ!白装束!

「ドーモ!デッカーだな?私はダイヤモンドダスト……おや」白いニンジャがオジギを終える前に、シンゴはベランダのガラスを突き破って飛び降りていた!「ウオオオッ!」四階の高さだ!真下に自家用車!ルーフに叩きつけられる!「グワーッ!」「キィエーッ!」それを追い、叫び声が降ってくる!

 BLAM!BLAMBLAM!咳を堪え、シンゴはデッカーガンを連射した。「キィエーッ!」降下しながらダイヤモンドダストはそれを弾き飛ばす!手にはなにやらダガーめいた武器!シンゴが転がり落ちた車両ルーフへ続けて着地!BLAMBLAM!シンゴは走りながらデッカーガンを撃ち込む!

 カブーン!「グワーッ!?」自家用車がたちまちダイヤモンドダストを巻き込み爆発!そう、シンゴはデッカーガンの高火力で咄嗟に自家用車のガソリンタンクを撃ち抜いたのだ!そこへドリフトしながら走り込んで来るデッカービークル!助手席ドアが弾け開く!「シンゴ=サン!」「ウオオオッ!」

 シンゴはデッカービークルに転がり込んだ。「走れ!とにかくもう走れ!走れッ!」「むちゃくちゃじゃないですか!やっぱり!」タバタが叫んだ。「馬鹿野郎畜生!ニンジャ即逃げるべし、実践したからゲホッ、今こうして実際命拾いしたんじゃねえか!」「あああ!」タバタが悲鳴をあげる!

 ミラーに映るのは、早くも爆発衝撃から立ち直ったか、煤まみれの白装束で陸上選手めいて追って来るダイヤモンドダストだ!ビークルは路地から路地へ!「走れ!走れッ!」「やってますよ!それより何ですかそれ!」「え?これか」シンゴは小脇に抱えたマキモノを思い出した。「見取り図だ!」

「ビンゴじゃないですか?これは?」とタバタ「X印は何です?」「そりゃデッカーのカンやら今まで観たアクション映画やら、普通に考えりゃお前……」シンゴは額の汗を拭った。「フェスティバル……新年!テロ!爆弾!爆弾に決まってる!」「デスネー!アイエエエ!」タバタがハンドルを切る!

 ナムサン!タバタの急ハンドルには理由がある!そこにも白装束のニンジャがいたのだ!待ち伏せだ!そのニンジャは宙に浮いており……いや違う!ニンジャを中心に、透明クリスタルの巨体で立ちはだかっているのだ!まるでそれは中にニンジャを閉じ込めた恐ろしい氷像アート!11フィートの巨人!

「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?二人ナンデ!?」別の路地へビークルを飛び込ませながらタバタが叫ぶ!「ア?そりゃお前、一人でこんなふざけた事を実行するわけねぇだろ。当たり前だ」シンゴが言った。「……デスネー」タバタは溜息を吐き、「ア、アイエエエ!」ナムサン!前方にさらに一人!

 やはり白装束のニンジャが氷の巨大盾を構え、さらに、天に掲げた後ろ手の先には、宙に浮く氷の槍……!「ヤバイ!轢き殺せ!」「エッ?」シンゴはしかしそのニンジャの動作を見てそれを諦める、「クソッタレ、ダメだ!車!捨てろ!」「イヤーッ!」ニンジャが氷の槍を投げつける!カブーム!!

 二人のデッカーが路地に転がり落ちた直後、氷の槍にボンネットを刺し貫かれたデッカービークルはあえなく爆発炎上した!「グワーッ!」「ゴホ、ゴホーッ!」炎上するビークルの傍で苦しむ二人に、そのニンジャがゆっくりと向かって来る。「ドーモ、アイスジャベリンです」

 さらに後ろから、煤けたニンジャ、ダイヤモンドダストが追いつく!「色々とやってくれたな。高くつくぞ」「畜生……」シンゴが呻いた。そしてデッカーガンを構える。「イヤーッ!」ナムサン!次の瞬間、ダイヤモンドダストは空中から氷のスリケンを一瞬で作り出し投擲!デッカーガンを破壊した!

「我々ハ」ズシン、ズシン、と足音を轟かせ、最後に追いついたのは氷像のニンジャだ!「氷ヲ名ニ負イシニンジャクラン、『コリ・ニンジャクラン』ナリ。恐レヨ!」氷像がぎこちなくオジギし、「ソシテ私ガ、クリスタライズド、ダ!ドーモ!」

 ヤンナルネ!シンゴとタバタは死を覚悟した。そしてそれはすなわち、フェスティバルを待ち構えた大通りの市民達の阿鼻叫喚をも意味するのではないか?あのジゴクめいたマキモノの見取り図!恐ろしい事が起こらないはずはないのだ!エジャナイザ!エジャナイザ!何も知らぬ者らのチャントが届く!

「……そして私が」頭上からさらなる怜悧な声が夜風を切り裂き、降ってきた!コリ・ニンジャクランのニンジャ達は弾かれたように頭上のビルを見上げた。シンゴは訝しんだ。彼らの驚愕めいたアトモスフィアを読み取ったのだ。ビル屋上の人影は言葉を継いだ。「ニンジャスレイヤーです。ドーモ」

「アイツ、あいつは!」「誰です」デッカービークルを迂回するように匍匐してきたタバタがシンゴに囁いた。「ニンジャに知り合いですか」「この非常時に呑気してんじゃねえ」シンゴが唸った。「アイツは例のあれだ!あの時の……あの時のニンジャ!」「イヤーッ!」

 ニンジャスレイヤーが回転しながらビルから飛び降りる!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ダイヤモンドダストが虚空から次々にスリケンを作り出し、手とサイキックとで連続投擲!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回転落下しながらスリケンを投げ返す!相殺消滅!

「い、一度ならず二度までも!ニンジャスレイヤー=サン!」ダイヤモンドダストが呻いた「邪魔をしに!」「殺すまで追う。当然だ」降下しながらニンジャスレイヤーが即答した。「俺に任せろ!」アイスジャベリンがダイヤモンドダストの前に割り込み、サイキック浮遊する氷の大盾を掲げる!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回転踵落としで氷の大盾を蹴り、反動で跳躍!ビル壁を蹴りさらに跳躍!「バカな!なぜ凍りつかぬ」アイスジャベリンが叫んだ。そう、大盾の表面は異常低温、本来なら触れた物を張り付けてしまう筈!だがニンジャスレイヤーは跳びながら答える!「カラテだ!」

 ニンジャスレイヤーは再度壁を蹴り、一直線に跳ぶ!その先にあるのはクリスタライズドの氷像ボディ!「イヤーッ!」「グワーッ!」跳び蹴りが氷像の胸に突き刺さる!深い蹴りは氷を貫き、中のニンジャの身体まで到達していた!「アバッ……!」氷の中でクリスタライズド本体が血を吐いた!

「アバーッ!」クリスタライズドがすかさずニンジャスレイヤーの身体を掴み、投げ飛ばす!「グワーッ!」ナムサン、稲妻めいた蹴りであっても氷像ボディに阻まれれば致命傷にはならぬのか!吹き飛んだニンジャスレイヤーめがけ、アイスジャベリンが氷の槍を投げつける!「イヤーッ!」

 ニンジャスレイヤーは両腕を交差し、ブレーサーで氷の槍をガードする!ギャリン!澄んだ音が轟き、槍が弾かれる!夜の闇に、ブレーサー表面を走った赤黒い炎が一瞬閃く……そしてセンコ花火めいたニンジャスレイヤーの瞳の輝きが!「イヤーッ!」追い打ちの氷スリケンを放つダイヤモンドダスト!

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」炎の軌道を残すチョップを打ち振り、ニンジャスレイヤーは氷スリケンを弾き壊してゆく。だがダイヤモンドダストは次々にスリケンを虚空から作り出してゆくのだ!「油断しすぎだ、クリスタライズド=サン」とアイスジャベリン。「侮ッテハオラヌ!」

 不満げなクリスタライズドの傷口が見る見るうちに白い氷の煙を噴き出し塞がってゆく。コワイ!一体これはいかなるジツか?「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ダイヤモンドダストは氷スリケンを連続投擲しながらニンジャスレイヤーを追撃する!

 そして二人のデッカーは?いない!隙を突いて逃げ出した彼らは今、二手に分かれ、路地を駆けていた。エジャナイザ!エジャナイザ!新年を待ち望むチャントはいよいよ高まる。そしてそれこそがおそらくはタイムリミットなのだ。「畜生!」シンゴは腕時計を睨んだ。あとおおよそ10分!

 人々は大通りを埋め尽くし、そのさまはあの恐るべき早朝フル・トレインのジゴクめいている!エジャナイザ!エジャナイザ!エジャナイザ!チャント轟く大通りを横目に、シンゴは路地へ、そしてさらにその奥へ!「こっちはありました!シンゴ=サン!」通信機からタバタの声!「ビンゴですよ!」

「そのようだぜ」シンゴは目の前の壁、こじ開けられた配電盤パネルと、そこから電気を引かれた無骨な装置を見下ろした。「奴らやりやがったな」「どうします?どうしますか?」タバタの張りつめた声が通信機から漏れる。彼とてもこの非常時、いつものとぼけたアトモスフィアは皆無!

「五分も無いです!」「いいか、いいか、ラッキーだ、俺はこのタイプを知ってる。お前のと、俺の前にあるやつと。連動している。わかるか。連動だ。1,2の3だ。わかるか、それで、同時にスイッチを切る!いくぞ!1,2の!」

 シンゴは配線を、「3!」カットした!ナムアミダブツ!

 『アケマシテオメデトゴザイマス!!!!』

 合成マイコ音声が新年の到来を告げた!そして爆発音!ドオン!ドオン!ドオン!ドオン!ドオン!おお、おお、おお、ゴウランガ!ゴウランガ!これは恐るべき爆弾の爆発ではない!人々が待ち望んだ爆発!空を照らす無数のアケマシテオメデト花火である!

 シンゴは腰を抜かし、へたり込んだ。この恐るべき時限爆発テロは、まさにギリギリのところで防がれたのだ!爆弾は作動せず!大通りでは二人のデッカーの死力を尽くした行動を知らぬ人々が、空を照らす花火に狂い踊り、口々に叫ぶ!エジャナイザ!エジャナイザ!エジャナイザ!エジャナイザ!

 時限装置から伸びるコードは、角を曲がった先の金属製シリンダー群に接続されていた。どう考えてもシリンダーの中は危険極まりないガス類!シンゴは素早く携帯IRC端末を操作、化学処理班の出動を要請した。「畜生!ニンジャどもは?」シンゴは壁に寄りかかり「お相撲」のネオン方角を見やった。

 ちょうどその時、シンゴが見上げるその時、そのネオンの光の前、ビル屋上を飛び石めいて渡りながら格闘するニンジャスレイヤーと三人のコリ・ニンジャクラン・ニンジャは横切ったのである!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 ……「なぜだ?」ダイヤモンドダストは氷スリケンを連射するかたわら、阿鼻叫喚のジゴクとはほど遠い祝賀ムードのカミオンナ・ストリートを見下ろした。計画が失敗?ナンデ?……だが一瞬のこの逡巡がイクサをわけた。そんな疑問は後に回すべきだったのだ。「イヤーッ!」「グワーッ!?」

 氷スリケンをすり抜け、氷の槍を躱し、クリスタルパンチの腕を蹴ったニンジャスレイヤーの、キリモミ回転しながらのチョップ突きが、ダイヤモンドダストの心臓を正確無比に貫いていた!「ア、アバッ……!?」ワン・インチ距離!ニンジャスレイヤーの両目が燃焼する!「ニンジャ……殺すべし!」

「な……そんな……!」ダイヤモンドダストは震えた。彼の背中を突き破って飛び出したニンジャスレイヤーの手は、鼓動するダイヤモンドダストの心臓を掴み出していた。「ホ、ホ、ホワイトドラゴン=サン!ち、力及ばず!申し訳ありませ……」腕が引き抜かれる!「サヨナラ!」爆発四散!

 ドオン!ドオン!ダイヤモンドダストの爆発四散をかき消すかのように、花火が次々に夜空に放たれる。ニンジャスレイヤーは激しく照らされ、禍々しい逆光のシルエットとなった。アイスジャベリンとクリスタライズドの姿は既にそこには無い。計画の失敗と仲間の死、戦闘継続は無意味と判断したのだ。

「あっちも終わったんじゃないですか?」シンゴの隣にタバタが立った。双眼鏡でビル屋上のニンジャのイクサを観察していたようだ。シンゴは双眼鏡を奪い、覗き込んだ。彼が見る中、ニンジャスレイヤーはひと飛びに跳躍、見えなくなった。

「タバタ=サンお前、場所を離れるんじゃねえよ」シンゴは思い出したように咎めた。「もう僕の方には来ましたから。ダイジョブです」耳をそばだてる仕草、「こっちにも。来ました。ほら」「御用!御用!」エジャナイザ踊りのオハヤシを掻き分け、化学処理班の車両のアラート音が聴こえて来る。

「やれやれ、そうかよ」シンゴは溜息を吐いた。「これだから……年の変わり目ってのはよ、馬鹿みたいに忙しくて嫌ンなるぜ。むちゃくちゃだ」「デスネー」タバタは頷いた。「でも、おかげでモチぐらいなら食べられるんじゃないですか?この後。お子さんと」「ああ?」シンゴは瞬きした。

「僕ら、この事件、無理矢理おおむね解決しちゃったわけですよね、これ?犯人逮捕はまあ、アレですけど。体裁は整うんじゃないですか?」とタバタ。シンゴはタバタを指差した。「おう!お前!その通りじゃねえか!」「ですよね?良かったじゃないですか。離婚も無いでしょ、これで」

「何でお前が『なあに、そこまで僕に感謝する必要はありません』ってツラしてやがる!?」シンゴはタバタを睨んだ。「まあいい。じゃあお言葉に甘えてよぉ、かあちゃんと二人の子供、一家団欒、宜しくやらせてもらうぜ。報告書を書くのは全部お前に任せる」「デスネー、え?全部?全部ナンデ?」


【ア・ニュー・デイ・ボーン・ウィズ・ゴールデン・デイズ】 終



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