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【ビースト・オブ・マッポーカリプス後編】セクション別 #4

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 プロココココ! プロココココ! UNIX駆動音に律動するピザワゴンのカウンターで、ザックは必死にピザを焼き続けた。「ピザ、焼き上がったよ! 次の人! ……ハイ! ピザ、もうすぐ焼けるよ! ……ハイ、次の人! え? パイナップルピザ? ちょっとまってくれよ、パイナップルは……!」

 サイバネ中毒者達はズンビーめいて大人しく列にならんでいた。彼らの点滅する目の光は薄闇のなかで恐ろしい。「パイナップル……あった……」ザックは隅に見つけた冷凍パックのピザを並べ、石窯にINする。「このピザは神の啓示だ」「いわば、あの少年はピザ祭司」彼らの不穏な会話が聴こえる。

「なんだか増えてる気がする」ザックはワゴンに集まる者達を眺め、震えた。「畜生、タキ=サン大丈夫かよ?」ザックは拳で汗を拭った。眼鏡をかけたサイバネガイが甘えたように言う。「あのね、僕はね、魚粉の味はあまり好きじゃないのね。魚粉フリーかな? あとチーズは焦げる寸前ぐらいまで……」「ヘイオマチアリガトゴザイマシター!」

 ザックは大声で叫び、ノーマル・ピザをそいつに押し付けた。タキ仕込みの横柄な接客の覚醒だ。「ア……エット……」不満そうなガイを他のガイが突き飛ばす。「邪魔くせッゾコラー!」「俺にピザを焼け!」ザックは叫び返す。「今からノーマルのみ!」

 混乱を含みながらも、なんとかピザのオペレーションは回っている。ザックは自信をつけた。そして、ピザを求め集まってくる者達の、切実なアトモスフィアに共感した。驚異の連続のなかで麻痺していたが、ネオサイタマ市民にとって、この緑化は青天の霹靂の筈だ。ネットから遮断され、命の危険に晒され……。

(メシだけが日常なんだ。俺が焼いてるピザは、皆にとって最後の平和なんだ)必死でピザを焼き、トランス状態じみた状態になりながら、ザックは神秘的な気持ちに入り始めていた。「焼けたぜ! ピザが! 次のアンタ!」「アリガト……!」「俺にもくれ。さっき、噂を聞いて来たんだ」「焼いてやるよ!」

「かわいいピザ、谷間に置いてくれる?」ホットなサイバネ・ダンサーがザックを誘惑し、「隣の区画からイチかバチか逃げてきた」打ちひしがれた老人が手を合わせる。「ピザピザ~、ヤケル」サイバネ・ハイの者達が焚き火のまわりでピザの歌を歌い始めた。「タキ=サン。俺、やるよ」ザックは頷いた。

 その時だ。BRATATATATA! アサルトライフル威嚇射撃のマズルフラッシュと悲鳴!「不審な周波数源を発見!」「クソみたいな浮浪者どもが集まってやがる」エネアド章をつけた数名の武装部隊の巡回がやってきた!「アイエエエ!」「アイエエエ!」右往左往する人々! ザックは身構えた。「ヤバいよ!」

 恐れていた事態だ。隣のエネアド・ネオサイタマ支社ビルからの、物理妨害。可能性はゼロではなかったが、祈るようにやり過ごしてきた。だが、ついに……。小モニタを見るが、ナムサン……タキとユンコはまさにそのエネアド相手に極限のネットワーク仕掛けの最中。死守しなければならない……!

「やめてくれ! 非常ピザなんだ! オーブンの周波数がアンタ達の邪魔をしたなら謝るけど……」ザックはホールドアップし呼びかけた。エネアド兵は互いに顔を見合わせ、笑い出した。「クズども! そもそも弊社の周辺地域に居座ることは不許可!」「排除して……」「ザッケンナコラー!」「グワーッ!?」

 ザックは呆気にとられた。付近のサイバネ・ガイが突如瞬間沸騰し、鋼のサイバネハンドでエネアド兵を殴りつけ、打ち倒したのだ。「ア……」「ヤッチマエ!」「知ったこっちゃねえ!」「やめ……グワーッ!」「ムーブムーブ!」BRATATATATA! エネアド兵は銃撃で応戦! サイバネ中毒者は反撃!

 BRATATA! BRATATATA! たちまち阿鼻叫喚の戦闘が発生! 多勢に無勢。エネアド兵は徐々に圧され、一人また一人と倒されてゆく。「ウオオーッ!」勝利の鬨の声。ザックは震撼した。思いがけず助かった。だが暗黒メガコーポは甘くない。これでは、いずれ……。増援部隊のサイレンが鳴り響いた。


◆◆◆


「確かに、お前は少し辛そうだが」アヴァリスはニンジャスレイヤーの肩の傷を指摘した。だがニンジャスレイヤーは動じない。「いいや、違う」ニンジャスレイヤーの目が熱を持つ。ニューロンが発火し、その視界内、アヴァリスの身体に、消えない亀裂が脈打ちはじめた。聖痕じみて。「貴様だ」

「はははは……」アヴァリスは亀裂のひとつ、脇腹に光る小さな裂け目を手でなぞり、笑った。「これは、お前の小細工か? これが? こんなものがお前の切り札か」「どうだろうな」ニンジャスレイヤーは呟いた。「おれはそれを確かめたい。いずれわかる。おれにも、貴様にも。結局やる事は同じだ」「よかろう!」

「イヤーッ!」「イヤーッ!」再び二者は瞬間的に距離を詰め、カラテを打ち合った。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのえぐるような打撃がかすめるたび、アヴァリスの黒衣がちぎれ飛び、ヤギと化し、個別に襲いかかる。「ミイイアアアア!」

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