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S4第3話【マスター・オブ・パペッツ】#8

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 自重倒壊する儚い巨大トーフ・モニュメントじみて螺旋塔は破片を撒き散らしながら潰れてゆく。粉塵と瓦礫が渦を巻き、天に跳ね上げられてゆく、その中心には、落下してなお殴り合うニンジャスレイヤーとマークスリーのワン・インチ立ち合い竜巻発生源! ゴウランガ!

「KATANA……これは一体……!」パラシュート降下しながら、コトブキはドレスの裾をバタバタと振って中に仕込まれたチャフを散布し、この英国式巨大庭園の黒々しい隊列をスキャンしようとした。KATANA治安警察装備の者らだけではない。黒い装甲に身を包んだ兵装の者。多脚戦車は「征服王」……!

「まさかカタナ・オブ・リバプール(KOL)が決闘にかこつけて総出でニンジャスレイヤー=サンを攻撃しようというのですか!? なんと野蛮な……!」コトブキはぐっと奥歯を噛み締めた。見損ないました、マークスリー=サン! そう罵りかけるが、彼女は引っかかっていた。先程も見せた彼の騎士道精神。決闘にかける意気込み。あれが全て偽りとは思えないのだった。

「しかし、どちらにせよ……!」コトブキは貫通周波数IRC通信でタキをコールする。「タキ=サン! 大変です。マジェスティック・ディストリクトの巨大庭園内にKOLの大部隊が展開しています!」『ンああ? マジかよ!?』「オペレーティングをお願いします……嗚呼ッ!?」

 KRAAASH! KRAAASH! KRAAASH! 生け垣を粉砕破壊しながら、庭園の外縁部から戦闘地点をめがけ、何かが突入してくるではないか! コトブキはゴーグルを装備し、倍率を上げて確認しようとした。巨大な自走式車輪……装甲……? ダンゴムシ、あるいはアルマジロじみた鉄塊であった。なにかまずい!

 BOOOOM! しかし次の瞬間、感覚器アラートが走る。コトブキを目視確認した対空砲が電磁弾丸を撃ち込んできたのだ。コトブキはドレスのドーム状スカートの中に装着していた小型ジェットパックを短時間噴射し、これを回避。電磁弾丸は不発の花火めいて夜空に消えていった。コトブキは流れ星めいて落下!

 然り、読者諸氏はコトブキに代わって不穏なる巨大回転突進物体が何なのかを見届けねばならない! KRAASH! KRAASH! KRAAASH! 鋼鉄突進体は激しく転がり、バウンドしながら突き進む。KOLの兵士や「征服王」は何の驚きも警戒もなしにそれを看過……否、ハンドサインでミッションを次段階へ移行させた!

「ギュラララララア!」鋼鉄回転体は内部から不気味な金切り声を発した。然り、たしかにそれは声であった。ニンジャ動体視力をお持ちの方はおられようか? ならば確認いただきたい。それは車輪でも巨大鉄球でもなかった。背部を多関節重装甲で鎧い、膝を抱えてゴロゴロと転がる、鋼鉄のビッグニンジャ存在である……!

「指定賞金首通過!」「賞金首通過しました!」「時間通りです」「オーヴァー!」KOL兵が腕部UNIXに報告し、回転突入ビッグニンジャの後に続いて移動を開始する。木々の奥にしまわれていた反重力キャリアー「辻馬車」が木の葉を巻き上げながら浮上する。「任務遂行!」「賞金首を追え!」「治安行動!」

「ギュララララララアーッ!」「アババーッ!?」不用意に回転突進体の前に出てしまったKOL新兵が無残にも轢殺! ナムアミダブツ!「ギュラララララララアーッ!」鉄塊は粉塵竜巻をめがけ速度を増す! そして!「作戦行動!」「賞金首の刺激は無用!」「上で話はまとめてある!」「ムーブムーブ!」

「ギュラララララアーッ! 小虫どもが湧いているようだが、この俺の装甲に傷一つつける事はできんのよォーッ! 特に高速回転の最中にはエメツクラフトの斥力すらも生じ完全無敵状態よ!」回転しながら重装ビッグニンジャは勝ち誇った。その半径は16フィート(約5メートル)にも及ぶ!

 彼の名はパンヤンドラム。先端研究所より闇提供された可変装甲を身に着けたビッグニンジャであり、実際非道強盗殺戮犯罪者であった。短絡的破壊行為を繰り返してきたが賞金額が高騰。賞金稼ぎやウラキモンの戦士にすら狙われる状況となっていた。

 年貢の納め時となった彼に、降って湧いた話あり。ネオサイタマの裏路地に潜伏する彼をいかにして調べたのか、偽装IPアドレスからコンタクトを試みてきたのは、「スカーレット」と名乗る謎めいたエージェントであった。いきなり振り込まれた前金10万ポンド。さらに指定のミッションをこなせば20万ポンドの成功報酬と、市外への逃走経路も用意するという。

 マジェスティック・ディストリクトの巨大庭園、螺旋塔を目指せ。そこにはニンジャスレイヤーという赤黒のニンジャ存在がいる。そこまで到達するだけで報酬が振り込まれ、オキナワ行きの電子チケットも手に入る。庭園にはKOLの兵士が展開しているが、気にせずともよいし、多少殺しても構わない、と。

「つくづく、この装甲を手に入れて以来、ツキっぱなしよなァ。破壊殺戮サイバーツジギリに邁進すれば運命は微笑み、30万ポンドとオキナワをゲットできる……善人よりも悪人こそがブッダになれる……そういう神聖なる法則よ。どこだ、ニンジャスレイヤーとやら……!」パンヤンドラムは送信されてくる位置情報をキャリブレートする。進行方向に、二者!「……いたァ!」

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