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【スクールガール・アサシン・サイバー・マッドネス】#3

🔰ニンジャスレイヤーとは?  ◇これまでのニンジャスレイヤー

S5第1話【ステップス・オン・ザ・グリッチ】

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「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」ヤクザがロング・ドスやバール状の武器を構えると、リンホは躊躇なく左手の銃をブッぱなした。BLAMN!「グワーッ!」ラッキーショットがヤクザの肩を掠めた。「オトト!」リンホは反動を制御できず銃を取り落とし、勢いのまま回転し……カタナで斬り払う!

「ワメッコラー!」「ヤッテメンゾ!」危うく腹を裂かれそうになった先頭ヤクザが踏みとどまる。だがリンホは転ばなかった。右腕のサイバネアームの筋繊維の切れ込みがUNIXライトと黒いエメツの輝きを走らせると、リンホの生身の首に、こめかみに、血管が浮き上がった。跳ぶ! 力のままに!

「アバーッ!」竜巻めいてカタナを振り回すリンホの跳躍に巻き込まれた先頭ヤクザは今度こそ腹を裂かれ、生身の腸と血を撒き散らしてうつ伏せに倒れた。「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」BLAMBLAMBLAM! 後衛ヤクザが慌てて銃撃する! リンホは空中で身をひねり、叩き斬った。

「アバーッ!」着地点付近にいたヤクザの左肩が刎ね飛ばされ、旧式テッコ・サイバネの腕が血とオイルを噴出させながら斜めに飛んだ。リンホはカタナを噛んで咥え、一度自由にした右手でヤクザを掴み、盾めいて持ち上げた。そのまま走った。「ヤメッ! 撃つなド畜生……」BLAMBLAMBLAM!「アババーッ!」肉盾!

「ヤッテンダヨォ!」リンホは銃撃を受けて死体となったヤクザを力任せに投げつけた。リンホの右腕の力任せとは、凄まじいものである。一瞬後、後衛ヤクザは死体ヤクザに巻き込まれ、コンテナに挟まれて圧死した。「ア、アアアア!」BLAMBLAM! 最後の一人が闇雲に銃を撃つ! リンホは身を翻し逃走!

「チャ、チャルワレッケ…チャレケ」ヤクザは呂律の回らぬ罵りを発しながら、カチカチと引き金を引いたのち、慌ててマガジン交換を行う。「に……逃げたンか。クソが」サイバーサングラスに【上に報告する】の文字が灯った。「追い殺したる……今はできねえけど……アバッ!」喉から刃が飛び出す。

「ずっとデキネーヨ」後ろから食らわせた刺突。カタナの切っ先をリンホが引き抜くと、ヤクザは口をパクパクさせて崩れ、死んだ。リンホはヤクザを踏みつけ、ヤクザスーツでカタナの血を拭う。「逃げるわけねえだろ。危ねえし」然り。逃走したと見せかけ、コンテナの後ろを駆け戻っての奇襲だ。

 工場建屋から進み出たリンホの前に、スクーターが走ってきた。フルフェイスのヘルメットを被ったモニコがせわしなく手を振る。「は、早く! 早く! 終わったよね?」「終わったさ! ヨシッ!」リンホはカタナを鞘に戻し、モニコの後ろに座った。スクーターは再発進。雨が振り始めた。

「ハーハハハ!」リンホは仰け反り笑った。強烈なアドレナリン分泌で、ハイなのだ。モニコはバランスを崩して転びそうになる。「やめてよ! アブナイ!」「いいって、いいって」「よくないんだよ!」ジグザグ走行するスクーター。車輌が急ブレーキする。「あ痛ッた」「え? わたし何かした?」

「違う」「え? じゃあ何? 怖いのやめて」「いや……」リンホは左目を擦った。「あれ……食らってるわ」「え!?」ヤクザの銃弾が掠めたのだ。擦っても擦っても新しい血がつく。「あれ……ヤバ。雑魚どものクセに、数撃ちゃ当たるッてか」「ちょっと! 後で見せてよね。い……今は……止まれないけど……!」


◆◆◆


「ハーイ!」斜めに落下してきたバレーボールを、リンホは床にダイブしながら見事にレシーブした。「エ、エ……返した? マ?」前衛ネット際のクラスメートが困惑した。味方すら期待していなかったようなウルトラプレーだ。彼女は浮かび上がったボールを慌ててスパイクし、決定打をキメた。

「ウォーヤッター!」「スゴイヤッター!」「カワイイヤッター!」女子高生たちは飛び跳ねてハイタッチした。リンホも彼女らに混ざってはしゃいだ。「やっぱスゲー!」「マジでスゲー!」「なに? 修行?」リンホは左目を指差し、ウインクして見せる。瞳が藍色だ。「動体視力だよ動体視力」

「え? それカラコンじゃないの?」「違うんだよな」「虹彩インプラントでもなく?」「違うんだよな。眼球、マルッとイッた」「眼球マルッ!? サイバネアイ?」「スゲエッショ?」リンホは得意げだ。終業ベルが鳴る中、感銘を受けた生徒たちに囲まれる。「腕もなんか、高そう!」「まあ色々な……」

 やってきたモニコが駆け寄り、人だかりの中から強引に引きずり出した。「ちょっと! やめなよ……リンホ=サン……!」「ア? なんだよモニコ」二人は図書館に向かって歩く。「そんな喋ったら絶対よくない」「何が?」「足がつくッていうか」「何で。あいつらヤクザと関係ねえし」「ウーン……」

 二人は図書館の窓際の席を取った。モニコの開いたラップトップUNIXを、リンホが覗き込む。画面にはゆっくりと回転する三面図。MT-4900G/L。ミハル・オプティ社製の第四世代レーザーサイト・サイバネアイの解説書であり……いま、リンホの左の眼窩に入っているシロモノだ。「グリッチ、無い?」

「無い無い」リンホは頷いた。「もとの左目より全然イケてる。文字がいっぱい出てくるよ。ウハハ、モニコお前、賞金かかってないッてよ! 良かったな」「あ、当たり前だよ! 見ないでよ」「アタシもまだ平気みたいだな」「……気をつけて……これからも」モニコは溜息をついた。「良いお医者でよかった」

「そりゃ高かったンだ、そうじゃなきゃ困るし」リンホは舌打ちした。「パーツ代、手術代、秘密保持契約。ヤクザマネー結構使っちッたな」「目は大事だし……」「モニコが交換手術出来りゃあな」「無理……!」「だけどさァ」リンホは写真データを呼び出した。

 それは命知らず風に装った二人の自撮り写真だ。ナメられないよう完全にキメた。それが実際クールだったから、記念写真を撮ったのだ。リンホは黒い口紅を塗り、装甲板つきの軍用ブルゾンに、エナメル風のホルタービスチェ。モニコはタイトで露出のないオイランドレスの上に透明のPVCコートを着ている。コートには蛍光ピンクで「命乞い2秒限定」とショドーされている。二人は揃って中指を立て、舌を出している。舌に揃いのピアス。 

「ヒッ」モニコは慌てて周囲に目撃者のいない事を確かめる。「やめてよ!」「何がだよ、カッタリーナ!」リンホはモニコの背中を叩いた。「この写真見て、お前が雑魚のニボシ女子高生だってバカにする奴いねえし」「そんな事……わたしの顔、ひきつってるよ」否定しながらも、モニコは少しにやけていた。 

「マジでプロ感あったろ、アタシら。だから医者もプロの仕事したんだ」「そうだといいけど」「……お前さあ」リンホは睨んだ。「何でアタシのピアス、パクってンだよ」舌を出す。モニコは首を振った。「たまたま。金髪と同じ。キアイ入れたらリンホ=サンと同じで……」言葉を濁し、情報データを開く。

 画面上の01ノイズの滝の中から文字列が生じる。それは即ち、次のヤクザ・ターゲットに関する諸データだ。情報屋のネットワークにアクセスし、油断なく、プロらしく振る舞い、ヤクザマネーと引き換えに手に入れた情報だ。「作戦立てよ。結局、わたしは手伝うだけなんだから」「感謝感謝だな」


◆◆◆


「アバーッ!」ヤクザの首が吹き飛んだ。リンホのカタナは結構な業物だ。あるいは右腕のサイバネアームがアタリだったか。「アッコラー!」KRAASH! 鉄製ドアを蹴り開け、ヤクザ事務所の隣室から増援ヤクザが雪崩込んできた。リンホの視界、彼らの頭上に「A」「C」「C」と表示される。武装度Tierだ。

 リンホは既に動き出している。耳から入り込む破壊衝動。集合的殲滅全体! 高揚感撃滅満載! 最強高機動! 最強高機動! 最強高機動!「「グワーッ!?」」武装度Cの弱いヤクザの足首をまとめて切り払い、戦闘不能に。そのまま横に転がる。怒り狂った武装度Aのヤクザは振り上げた拳を赤熱させた。

 リンホは床に唾を吐き、ヤクザに向き直った。カタナはケンドー下段の構え。すくい上げるように斬るための予備動作だ。「クソオヤジ」が「お父様」だった頃の教え。脳にブチ込んでくれようか! 頭蓋!「ザッケンナコラー!」赤熱する拳が振り下ろされる! リンホはカタナで迎え撃つ!

 KRAASH! ヤクザの赤熱拳はカタナを手のひらで受け止め、熱しながら押し返す。「女子高生がコラー! センジャネッゾ!」「ウルッセーゾ!」リンホは叫び返した。そして笑った。「アタシとサイバネ比べンのかよ? ヤッテヤンヨ!」キュイイイイ……右腕の駆動音が頭蓋骨に、ニューロンに響く!

「テメッ……」ヤクザは目を見開いた。リンホの脳に強烈な快楽物質が爆発する。旧式テッコ如きに、この腕は負けない。ジャンク屋でも扱いきれなかった、なにかワケありの、ヤバいブツだ。この腕には、リンホを全力で走らせてくれる力がある。そして左目は熱を帯びる。カタナが力に応える。

「オラッ!」赤熱アームがカタナの合金を熱損傷するより早く・強く、リンホはカタナを押し込み、そのまま腕ごと裂き切って、肩から鎖骨をえぐった。「グワーッ!?」「オラァッ!」リンホは肩から体当りし、そのまま押し込んだ。背後の装甲フスマを……薙ぎ倒す! KRAAASH! 部屋突破!

「テメッ……テメッコラ! コラーッ!」ヤクザはリンホに押されながら、罵り、威圧し、背中を繰り返し殴りつけた。だがリンホは怯まなかった。このヤクザはたいが死んで腰が入っていない。だから耐えられる。リンホは最初の「殺し」の時に、真っ先に学んだ。ヤクザは脅すのが仕事で、生きるか死ぬかのやり合いは、また別の慣れの話なのだと。

 下っ端の連中は、ヤクザクランのパワーを傘に来て、キアイにしているだけだ。本心から殺したいとも思っていない。殺すことは普通、恐怖だ。覚悟が要る。だから銃弾もそうそう当たらない。ドスにも本気の殺意がない。その点、リンホは最初から殺る気だ。復讐のショドー。花火のように生きる。この腕が、リンホの気持ちを、物理の力で支えてくれる。

「このッ……このクソが!」「ンンンンン……!」リンホはヤクザを壁に押しつける。そしてカタナの背に手を添え、さらに、押し込む。「グ……グワーッ! ワカッテンダロナコラー!」「ワッカンネーヨ!」「アバーッ!」血飛沫! 集合的殲滅全体! 高揚感撃滅満載! 最強高機動! 最強高機動!

「死ねよ! いい加減に!」「ナマッコラー!」ヤクザはリンホと取っ組み合い、ガラスを破ってベランダにもつれた。「オニ……オニイサーン!」背後、さっき足を斬ったヤクザが根性で立て直し、壁に手を付き追ってきて、チャカ・ガンを向けていた。リンホは呻いた。撃たれる前に、彼女は突き進んだ。

 重力の感覚が消失。視界が真っ暗になり、気がつけばリンホは仰向けだった。背中に濡れたアスファルトを感じて、夜空の割れた月を見上げている。隣で、さっきのヤクザが死んでいた。赤熱した腕に雨が当たり、蒸気を吹いていた。立てなかった。両足首がありえぬ方向に曲がっていた。

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