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【ヴェルヴェット・ソニック】#5

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「グ……」泥めいて鈍化した時間のなか、サロウの頬にゆっくりとコトブキの拳がめりこみ、顔を歪ませてゆく。サロウはコトブキの腕を掴もうとするが、拳の速度が速い。彼は血走った目を動かした。コトブキは怒りに目を見開き、歯をキッと食い縛って、まるで輝くような怒りの形相だ……「グワーッ!」

 KRAAASH!「安普請な」とスプレー書きされたバラックの壁を貫くように破壊し、サロウは室内に転がって受け身をとった。既にコトブキは彼を追って壁の穴をエントリーして来ていた。(戦闘用オイランドロイド……? カラテを使う? ネオサイタマの技術、進んでるな。いや、オイランドロイドなんてベルリンにも居るだろ、でも)

「ハイヤーッ!」コトブキは床が砕けるほどに深く踏みしめ、サロウの眼前に突き進んだ。ハヤイ!(何なんだよ! 俺はニンジャだぞ? カラテはカラキシだけど、動体視力とか凄いんだ! 今だって世界はスローモーで、俺は判断できてる。全部見える。でも身体がついていくワケない。俺は弱)「グワーッ!」 

 屈伸から高く蹴り上げる蹴りがサロウの顎を捉えた。サロウは安普請バラック天井を突き破り、上階に蹴り込まれた。(痛……イテェ! 鋼で殴られたみたいに痛いぞ。俺、生身なんだぞ。なんて事しやがる。オイランドロイド……だけど自我があって……ウキヨってやつだよな……畜生、こんな事)

「逃がしません!」コトブキが階段を駆け上がってきた。「ハイハイハイハイッ!」たちまち畳み掛けられる拳! サロウは困惑しながら防御に徹する。彼の不運は幾つかあった。まず彼自身がニンジャとしてのカラテ接近戦を未経験である事。次に、このコトブキはニンジャスレイヤーと日々鍛錬してきたウキヨであるという事。

 ニンジャとは平安時代をカラテで支配した闇の存在であり、そのソウルを宿せば短期間のうちにニンジャ筋力、ニンジャ動体視力、ニンジャ器用さを始めとする超人的な身体能力を得る。その鋳型にカラテを流し込むのだ。而してコトブキはオイランドロイドの強靭な身体にカラテ学習を染み込ませている。

 身体コントロール、カラテ制御、当然彼女はニンジャのタツジンに及びはしない。しかしサロウにカラテの心得はなかった。彼のジツは強力無比で、チョップも瓦割りも必要としなかった。ニューロンをハックし掻き乱す。ニンジャ相手であろうと、今までそれで充分やれた。(……こいつ、ジツが通らない!)

 コトブキはウキヨだ。人間の生体脳と勝手が違う。人間同様の自我がある以上、そのクセを捉えれば外科医のようにヤッてやる事はできるだろう。だが、ここまで緊迫した状況下で初の相手。しかも何か正体不明の免疫めいたものがあって、非実在の威圧感でもって、彼の繊細な心を乱してくる……!

「ハイッ!」右腕!「ハイッ!」左腕! サロウは拳を逸らし、コトブキの額に手を当てる!「イヤーッ!」……まただ! その瞬間、コトブキのニューロンの背後に異様な存在感がよぎり、サロウの集中が乱されてしまう。(しっかりしろよ、俺! 見りゃわかるだろ、残滓だ! 繋がっちゃいない……!)

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