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【ウェイティング・フォー・マイ・ニンジャ】

◇総合目次 ◇エピソード一覧
この小説はTwitter連載時のログをほぼそのままアーカイブしたものです(※ただし、このエピソードのTwitter版では、シルバーキーのセリフ回しが実際のキャラにそぐわない口調で翻訳されていたので、今回、最小限の修正を行いました)。このエピソードの加筆修正版は、上記リンクから購入できる第2部の物理書籍/電子書籍に収録されています。また、第2部のコミカライズがチャンピオンREDで行われています。


1

「アータはね、そこがダメ!アータは。そこがダ!メ!」「でもあの人とってもカッコイイし優しいこともあるの」「だーから!そこがダ!メ!優しいこともある、って何よ?こともある、って」「そうだよね……そうなんだけど……」「アーン!モー!」ドスン!彼はバイオバンブー製のカウンターを殴った。

 男……そう、男である、7フィートを超すたくましいボンズ・ヘアの男はエキサイトして、カウンター隣に座るアフターワーク・マイコにまくしたてた。「アータ、死神背負ってるわ!アータの我慢、不幸に真っ逆さまのアレよ!ええと、ミヤモト・マサシが……とにかくアレよ!」

「でも、優しい事もあるの。実際その後も、モチヤッコのヌイグルミを持って、ごめんね、って……」マイコはやや上の空で、オモチ・サケ・カクテルのグラスを指先でなぞった。「オエーッ」ボンズ・ヘアー男は芝居がかって嘔吐の仕草をした。「そのヌイグルミちゃんを誰の金で買ったのよ、その男は」

「え……それは」「アータでしょ!アータが額に汗して稼いでるお給金でしょッ!週六日仕事に入って、こんな時間まで!ウチにボトルも入れないで(冗談よ)、それをアータ……生活費からバリキからお相撲カジノからアータが全部……もう!信じられないッ!」

「だって、あの人、私が助けてあげないと、きっと死んじゃうし……生き様がロックンロールっぽいっていうか……」「バカおっしゃい!」男は遮った。「なにがロックンロールよッ!ただのヒモって言うのよ、そういうのは!のたれ死にすりゃあいいのよッ!しかもどうせ殺しても死にゃしないわ!悔しい!」

 絶叫の後、ボンズヘアー男は唐突にクールダウンした。座り直し、タバコをくわえて火をつけ、配管をむき出しにした天井に煙を吐き出すと、マイコに顔を近づけた。「……オシロイで隠しきれてないわよ、ここ」マイコの頬に指先を近づける。「顏まで殴られてるのに」「う……」マイコの目に涙が溜まる。

「ザクロ=サーン!」マイコはボンズヘアー男の名を叫ぶと、号泣して抱きついた。ボンズヘアー男、ザクロはため息を吐き、嗚咽するマイコの頭を撫でた。「全くもう、アタシに抱きついたって何にも問題は解決しないんだからね!」「ザクロ=サーン!」「いい!?アタシの言った通りにするのよ!」

 ひとしきり泣くと、マイコはトイレに立ち、涙で崩れたオシロイを直して店から出て行った。ザクロは笑顔で見送った。マイコが去ると、ザクロはもう一度ため息を吐き、サケとオツマミを洗い場へ片付けた。あの娘とヒモ男の関係性はきっと変わりはしないだろう。そういうものなのだ。

 ザクロは軒先に立ち、陰鬱な雨を感じた。ネオカブキチョの一角、ニチョーム・ストリート。時刻はウシミツアワーだ。頭上のネオン看板「絵馴染」、「馴」の字が雨を受けてバチバチと音を立てる。

 道向かいはゲイマイコポルノショップ「真剣味」、モニタには扇情的なビデオ映像がエンドレスで流れ、通行人にアピールする。道をゆくのはサイバーボーイ、ステロイドで強化した筋肉フェティシスト、レズビアンオイランパンクス……一癖あるファッションの人々。あるいは、観光じみたノーマルの男女。

 この区画にはセクシャル・マイノリティ達による飲み屋やポルノショップが軒を連ね、暖かく湿った空気で通りを包み込む。ここでなら誰も他人の性嗜好を咎めはしない。自由を求め、日々の暮らしの癒しを求め、抑圧された人々が集まる……言わばこの街はアウトサイダーのヘイブン(避難所)であった。

 ザクロの店は、入れ替わりの激しいこの界隈の店舗としては、それなりに長い。客は様々で、先ほどのマイコのような、ストレートのナイト・ビズ従事者も多い。人々の欲望を叶える立場の人間にも、それをさらに吐き出す場が必要だ。ニチョームはボディサットヴァめいた受け皿なのだ。

「あら」戸口に寄りかかったザクロは、「真剣味」の方角からこちらへ近づいてくる人影に目を留めた。雨除けのPVCコートのフードを目深に被った小男だ。ザクロのごく近くまで来ると、彼は略式にオジギした。「……ドーモ。ネザークイーン=サン」

「ドーモ、キリシマ=サン」ザクロの表情はやや険しくなった。「急ぎ?」「頼む」キリシマは頷いた。「店は『バナナ・ボンサイ』だ。客が暴れてる。ストーカーめいてやがる。立て篭もりで……」「んもう、それなら走って教えに来なさいよ」ザクロは叱り、後ろ手に店のドアをロックすると、駆け出した。

 ヘルプ要請はIRCを使えない。ネットワークは監視されている可能性があるからだ。ザクロの「女王」の仕事はあくまでヒミツ仕事である……。ザクロは店と店の隙間に身を滑り込ませ、レザージャケットの内ポケットのスイッチを操作した。

 瞬時にジャケットは形態を変化させ、フェティッシュに彼の全身を包み込んだ。特殊な機構である。わずか三秒で、ザクロは黒光りするレザーニンジャ装束に頭からつま先まで身を包んでいた。そう、ニンジャだ。ザクロはニンジャ「ネザークイーン」である!


◆◆◆


「ザッケンナコラー!スッゾスッゾスッゾオラー!」「アイエエエエ!」「ナンオラッコラー!」「た、たのみます、その娘に怪我だけはさせないで」「チェラッコラー!犯罪者扱いか!?俺がそれじゃサイコ野郎じゃねえかコラー!」

 個室の外からチョンマゲ従業員が説得を試みるも、男は聞く耳を持たぬ。「ヤメテ……」人質にされ、喉元にカタナを突きつけられているSMマイコはか細い声で哀願した。

 無論これはプレイの一環では無い!この男は客として案内されるや否や、指名した奴隷役マイコを人質に、個室に立て篭もったのだ!彼の要求は、入れあげていたマイコ「エダマメ」を今すぐ連れてくることだという。エダマメはこの男の異常な執着を恐れ、勤務日程を調整していた。その矢先である。

「おいエダマメはまだかよ!早くしろオラー!」「い、今連絡をとってまして。向かってまして」「クソッ…そうかクソッ……」籠城男はイライラと爪を噛んだ。震えるカタナを突きつけられたままのSMマイコは顔面蒼白でこの極限状況に耐えた。彼女の腕は不幸にもプレイの一環として最初に縛られていた。

 と、その時。「お待たせ!オマタセー!」野太い声が聞こえ、ドカドカと足音が近づいて来た。「来たわよ!エダマメ=サンご到着よッ!」男は素早くSMマイコの後ろへ回り込み、盾に取った。「ザッケンナコラー!早くエダマメ一人で部屋によこせ!」だが、部屋の入り口に顔を出したのは全く別人!

「ザッケ……アイエエエエ!?」男は絶叫した。現れたのがニンジャだったからだ!フェティッシュなレザーニンジャ装束のニンジャはオジギした。「ドーモはじめまして。ネザークイーンです」「アイエエエエ!ニニ、ニンジャ?ニンジャナンデ!?」「ねえ、ちょっとお話しましょうよ、坊や?」

 男は用心深くSMマイコの首筋にカタナを突きつけ、後ずさる。「話って何だよ!スッゾオラー!俺はどうなってもいいんだよ!エダマメ出せやコラー!」「……エダマメ=サンの事、愛してるのね」ネザークイーンは腕組みして頷いた。「アタシに教えて、アータたちの事。ね?」

「え……」男は不意を突かれ、目をぱちくりさせた。そして言葉を探した。ネザークイーンは彼を慮るように微笑みを浮かべて言葉を待っている。男はやがて言った。「……お、俺……こんな冴えないナリでさ、なにもかも辛くて……でもエダマメは、素敵って言ってくれたんだよ。カッコいいって……」

「そう……」「それなのにさ……お、俺はこんなになって、借金もして、エダマメに全部つぎ込んだよ?毎日、店の前で待ったりさ……なのにエダマメは急に冷たくなってさ、辛くて……俺……」「辛かったわね」ネザークイーンは頷いた。男の目から涙が溢れた。「そ、そうなんだよ……だか」「イヤーッ!」

「グワーッ!」男のカタナが人質の首筋から逸れた瞬間をネザークイーンは逃さなかった。ヤリめいた蹴りが男の顔面を捉える!男は吹き飛び、背後の壁に叩きつけられる!「アイエエエエ!」人質となっていたSMマイコは悲鳴をあげて、ネザークイーンと入れ違いに、部屋の外へ飛び出す!

「手加減したわよ!」ネザークイーンはカタナを蹴飛ばし、床の手錠やムチ、デンデンダイコを足で払いながら、室内を突き進む。「アバッ……」男は床に尻餅を突き、鼻血を流してネザークイーンを見上げた。ネザークイーンはしゃがみ込み、男をまっすぐ見た。

「ね。アータ、あの娘見てご覧なさい、ね」ネザークイーンは戸口を親指で指し示した。人質になっていたSMマイコが、後ろ手の拘束をチョンマゲ従業員に解いてもらっているところだ。さめざめと泣いている。「アータの気持ち、わかるわ。でも、あの娘、怖い思いしたわよね……」「アイエエ……」

「アータの真剣さはアタシに伝わったわ。きっと皆もわかってくれる……でもね、あなたの愛が、愛する人を恐れさせたり、傷つけたりしたら、それはとっても哀しい事よね?」「……」「ミヤモト・マサシも言うじゃない、親しきなかにも……ええと、とにかくアレよ、ね?わかる?」「……ハイ……」

「……よかったわ」ネザークイーンはフッと笑った。「人間、命があれば何度でもやり直せるのよ。ホントよ。アタシなんか、こんなだけど、実際こうして生きてるんだから。ね?だからアータも、自分の罪をしっかり償って、そして優しい男に……エダマメ=サンを怖がらせない男になれるわよ、ね?」

 男は再び泣き出した。「ハイ……」「一緒に行きましょ、ね?」ネザークイーンは男の手を取り、チョンマゲ従業員に続いて個室を出た。「御用!御用!」というマッポの警告音が表の路地に近づいてくる。「じゃ、あとはよしなにお願いね」彼は従業員にウインクし、裏口から闇へ溶けるように去って行った。


◆◆◆


「な……ダメよサケなんて!子供でしょッ!」ザクロは店へ戻るなり言った。「ダメよ!」カウンター席の少女はザクロを振り返った。グラスを揺らして見せる。「生姜ソーダだから」「紛らわしいったら」ザクロは肩を竦めた。「だいたいアータ、ウシミツよ、寝なきゃ美容に悪いわよ。お店も閉めるし」

「目が冴えた……」少女はやや大きめの着流しを着ている。「絵馴染」の昔の従業員が残していった夜着だ。「それ飲んだら寝るのよ、早く飲んでグラスよこしなさい」洗い場に残したグラス類をザブザブとやりながら、ザクロは言った。「ねえ」今度は少女が声をかけた。「なァによ」ザクロは見ずに応えた。

「仕事……何の仕事?」「は?」「ザクロ=サン、いま何をしてきたの?」「何でもいいのよ」「ニンジャじゃない……?」グラスを拭くザクロの手が止まった。少女は繰り返した。「ザクロ=サン。ニンジャじゃない?」

「ニンジャってアータ……」ザクロは笑い飛ばそうとしたが、少女は真顔だった。「……」ザクロの笑顔がゆっくりと凍りつく。そして、無言で凝視した。数日前、ザクロが半ば無理矢理に連れて来た、この宿無しの少女を。

 少女はどこか決然とした表情だった。何らかの確信を持って聞いているのだ。ナムサン。ザクロは肩をすくめた。「……ええ、その通りよ」ゆっくりと言った。少女の表情は変わらなかった。その瞳に桜色の光が浮かび上がり、また沈んだ。「私も」少女は言った。「私もそう」


2

 少女はカウンター席に座ったまま、ザクロにはっきりと告げた。だが彼女は戦闘姿勢を取ろうとはしない。ザクロも同様だ。「疑ゃしないわ、ニンジャちゃん」ザクロはため息を吐いた。「ついでに、アータがザイバツやアマクダリの奴らとも思えない」「うん」少女は頷いた。

「で?どうしたいの、アータは?ん?……なんでいきなりそんな話を。アタシとやり合うってわけでも無いんでしょ」ザクロは自分が飲むサケ・ボムを作り、少女の隣に座った。彼女の名はヤモト・コキ……ザクロが彼女にこのバーの二階の空き部屋を提供したのは数日前のことだ。

 二人が出会ったその日の夜も、ザクロは「仕事」の帰りだった。ヤモトは酸素コフィンやシャワー付きのUNIX喫茶、カニ無しカラオケボックスといったマッポー施設をその日その日で使いながら暮らしていた。彼女がおよそ高校生にふさわしくない通貨素子を所持していたのもザクロには気がかりだった。

 ザクロは、この手の食い詰めたワケありの人間を放っておけない、およそネオサイタマ市民らしからぬ性分の持ち主だった。ニンジャとなってからの「仕事」も、結局のところそうした性分の延長だ。ザクロはニチョームを護る独りの自警団であり、ヨージンボーであり、相談役であり、騎士であった。

 ザクロが相手取るのは今夜のような突発的なフリークアウト者ばかりでは無い。半非合法なこの区域において、闇の勢力とギリギリの綱渡りを行い、侵害されることの無い自由を確立するために、ザクロのニンジャとしての力は今や不可欠な威力だった。

 ザクロはソウカイヤを相手に協定を結び、うまく立ち回ってきた。数ヶ月前、いきなりそれが、キョートから進出してきたというザイバツなる組織に置き換わった。謎だらけの不気味な集団ではあったが、協定は問題なく引き継がれた。

 だがここ最近、頭痛の種が生じつつある。「アマクダリ・セクト」。ソウカイヤの残党組織が何時の間にか力をつけ、そんな名前の旗印を掲げるようになった。表社会の何者かの後ろ盾もあるに違いない。彼らがザイバツと睨み合いを効かせる場面もネオサイタマにおいて散見されるようになった。

 アマクダリがこのニチョームに焦点を合わせれば、協定の行き場はどうなる?ニチョームを舞台にザイバツとアマクダリの抗争が起こるという最悪の事態すらあるのだ。ザクロはサケ・ボムをフジサンウォーターめいて一息に飲んだ。

「その……」ヤモトは言葉を探した。「良くして貰いっぱなしっていうわけにはいかないから」「そりゃそうよ!決まってるでしょ!」ザクロは言った。「アータの食い扶持は探さなきゃいけないわ(でもダメよ夜のお仕事は)、働くにせよ勉強するにせよ……で?ニンジャの話でしょ、今は」

「そう、ニンジャ」ヤモトは言った。「ザクロ=サンの仕事、手伝いたい!」「ハッ!」ザクロは笑い、手をひらひら振って拒否を示した。「子供に助けられるようなヌルい事はしてないのよ!なーに?そういう話?いいから寝なさい!アタシも寝るわ!」「強くなりたい!」ヤモトは身を乗り出した。

「強くなりたいッて……」ザクロはヤモトを見た。ヤモトは真っ直ぐに見返した。ザクロは肩を竦めた。「全く、そもそもアタシってばホントにウカツ。いつ見たの、アタシの『仕事』?尾行したの?」ヤモトは頷いた。「昨晩」「……」ザクロは椅子から立った。ヤモトから少し離れて立ち、促す。

 7フィートの距離を開け、二人は向かい合った。ザクロはレザージャケットに包まれた自分の胸を親指で叩いた。「打ってごらんなさい」ヤモトは要求を理解した。彼女は半身の姿勢を取ったと思うと、瞬時にイナズマめいたパンチを繰り出す!「イヤーッ!」

 ドシッ!衝撃で窓ガラスがビリビリと震えた。ザクロはヤモトの拳を掴み、胸元で止めていた。鼻から一筋、鼻血が流れた。「ホントにニンジャなのね。疑ったわけじゃ無いけど」鼻血を拭いザクロは言った。「いいわ面倒見てやるわ、あの部屋も丁度、住み込みの子が出て行った所…」ザクロはヤモトを見た。

 ヤモトの目から、みるみる涙が溢れ出したのだ。「あれ?……あれ?」ヤモトはうろたえ、涙を拭った。「あれ?……おかしいな……おかしいな……」涙は止まらず、やがて嗚咽が漏れ出した。「おかしい……おかしいな……」

「アタシ、こんな役ばっかりよ、ホントにね」ザクロは嗚咽するヤモトを抱きしめ、背中をさすってやった。「アタシには王子様はいないのかしら?」ヤモトはザクロの胸に顔を擦り付けるようにして号泣した。「ウウーッ!」「あのね、高いのよ、このジャケット……」

 ヤモトの背中を撫でながら、ザクロは考える。無理もない。この年でニンジャ憑依。日も浅い事だろう。宿無しの境遇。ニンジャとなった彼女がここへ至るまで何を経験してきたか、何に耐え続けてきたか、訊かずともわかる。「ホントに高いのよ、ジャケット……」


◆◆◆


「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーのチョップを受け、ベロシティの左腕が複雑骨折!「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーのチョップを受け、ベロシティの右腕が複雑骨折!「バ……バカな、なぜお前が」ベロシティはメンポ内蔵インカムのスイッチを舌でONにしようともがく。

「なぜお前がここアバッ!」わかりきったその行動を許すニンジャスレイヤーではない。両手でベロシティの頭を掴み、一息でその首の骨を捻じり折った。「新手だ、どんどん来るぞ」シルバーキーが雑居ビル群の屋上を指差す。「ザッケンナコラー!」アサルトライフルを手にしたクローンヤクザ達だ!

「覚悟はしていたが」ニンジャスレイヤーはシルバーキーを促し路地をぬって駆ける。銀色のニンジャ装束を来たニンジャ、シルバーキーが詫びた。「すまねぇな、本当に!」「それは言わぬ約束だ」ニンジャスレイヤーは奥ゆかしく退ける。シルバーキーが笑う。「サラリマン風に言えばウィンウィン関係だよな」

「……」ニンジャスレイヤーは廃メトロ・エントランスへ走り込んだ。シルバーキーが追う。その足元で銃弾が跳ねる!「ザッケンナコラー!」「ザッケンナコラー!」クローンヤクザ達が複数の路地から飛び出してくる!

「アイツは殺したが、そろそろあンたがネオサイタマにいる事実が共有されているのを前提にしたほうがいいだろうな」「無論だ」ニンジャスレイヤーは頷いた。「ザッケンナコラー!」「ザッケンナコラー!」前方からもヤクザスラング!包囲されている!

「ヌウウ……」「オイ待て」タツマキ・スリケンの予備動作を取ろうとしたニンジャスレイヤーの肩を叩き、シルバーキーがとどめる。「クローンヤクザ相手なら、おれのジツで一気にやれる。一網打尽だ」「本当か?」「……多分だ」シルバーキーは人差し指と中指を揃えて立てた両手でこめかみを押さえる。

「クローンヤクザってのはその名の通りクローンだから、脳の構造も、思考回路……ニューロンの流れ方……も同じハズなんだ、だから」「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」角を曲がってクローンヤクザの集団が現れる!ナムサン!「オットット!急ぐか!」シルバーキーは眉間にシワを寄せ集中した。

 前後数十人のクローンヤクザが一斉にアサルトライフルを構える!さらに数名はバズーカ砲すらも!シルバーキーの眉間に血管がくっきりと浮かび上がる!「……イヤーッ!」「ザッケ…アババ!?」「アバババババ!?」「アババババババ!?」「アバババババ!?」「アバババババババババ!」

「アババババババババーッ!」「アババババババババーッ!」「アババババババババーッ!」「アババババババババーッ!」「アババババババババーッ!」「アババババババババーッ!」「アババババババババーッ!」「アババババババババーッ!」「アババババババババーッ!」「アババババババババーッ!」

 ゴウランガ!見よ!今にも二人のニンジャを蜂の巣にしようとアサルトライフルの引き金を一斉にひきかけていたクローンヤクザが一斉に泡を噴き、同時にのけぞり、一斉に失禁して、回転しながら一人残らず地面に倒れて痙攣を始めたではないか!なんたる悪魔的殲滅行為!

「ゲホッ!ゲホーッ!」極度の集中を行ったシルバーキーは両膝をつき、激しく咳き込む。「おい」ニンジャスレイヤーが差し伸べた手を取りながら、シルバーキーは荒い息を吐いた。「クソッ……う、上手く行った、先を急ごう」「……」「ニ……ニンジャに対してこれが出来るとは思わないでくれよな」

 再び二者は駆け出した。廃メトロ・エントランスを通り、目指す街区はネオカブキチョ……サイバネ医師のもとへシルバーキーを送り届け、彼の脊椎にインプラントされたIRC自動ログイン装置を切除せねばならない。

 シルバーキーは一風変わったジツの使い手であった。彼が駆使するのはかつてのウォーロックと同様のテレパスで、他者のニューロンへまるでIRCめいて強制ログイン。対象の精神を支配、あるいは破壊する事が可能だ……たった今やってみせたように。しかし、彼の真価は違った場面で発揮される。

 彼に与えられたユニーク・ジツ「ユメミル・ジツ」は、対象の精神のより深い階層へ潜行し、潜在意識から秘密の情報を盗み取るジツだ。その恐るべきスパイ能力がゆえに、キョートでサイコ鍼灸師を営んでいた彼がザイバツ・シャドーギルドに目をつけられたのは必然と言えた。

 シルバーキーを訪れ、その脊椎にバイオIRC自動ログイン装置を無理矢理にインプラントした悪虐ニンジャ、サージョンは、ニンジャスレイヤーによって惨たらしく殺され、既にこの世にいない。しかしそのバイオ装置は生き続け、今もザイバツに彼の位置情報を送信し続けている。

 ニンジャスレイヤーはシルバーキーの精神潜行能力を是非とも必要としていた。情報を盗む為ではない。別の用途があった。説明すれば長くなるが、ともあれニンジャスレイヤーが彼の力を借りるためには、この呪わしい自動ログイン装置を……彼の身体を損傷すること無く……切除せねばならない。

 現在のシルバーキーは、大声で「ここにいます!」と拡声器で絶叫しながら走っているのと同じ、いや、それよりも悪い状態である。彼とニンジャスレイヤーがキョートを離れ、ネオサイタマに到着するや否や、ザイバツ配下のニンジャがクローンヤクザを引き連れ、まるで鬼ごっこめいて捕獲に現れた。

 シルバーキーにカラテ能力はまるで無い。テレパシーだけが頼りだ。それなのに……おそらくザイバツは、遅々として捕獲が達成されない事を訝しんでいることだろう。彼らは、シルバーキーの傍らで恐るべきニンジャ殺しのニンジャが立ち回っている事をまだ知らぬのだ……。


3

「誰だい、その嬢ちゃんは」ザクロと対面で座るキリシマは、油断ない視線を奥のカウンター席に座るヤモトに向けた。ヤモトはワンピースの上にライダースジャケットを着ている。店に残されていた服をザクロが与えたのだ。「いいのよ、あの娘は。アタシが雇った助手!」「助手だァ?」

「最近、腰がしんどいの。肩も凝っていけないわ。温泉に行かなきゃ」ザクロは笑った。「いつまでも一人じゃタフなのよ、この仕事」「タフっておめェ……」キリシマは茶封筒をテーブルに置いた。「いいのか」もう一度ヤモトを見る。ザクロは頷いた。キリシマは封筒から複数枚の写真を取り出し、広げる。

「……」写真を見たザクロの眉間に皺が寄った。ヤモトを手招きする。「アータもいらっしゃい。こちら、キリシマ=サン」ヤモトは頷き、歩いてくるとキリシマにオジギした。「ドーモ、はじめまして。ヤモト・コキです。宜しくお願いします」ザクロに促され、隣の椅子に座る。

 写真を前にしたヤモトを見、キリシマはザクロに何か言いたげにする。「いいのよ」ザクロは言った。「生き方を決めるってこういう事なの」「うん」ヤモトは頷いた。「ま、それに、この娘は慣れてるっちゃ、慣れてンのよ……」ザクロの目がやや翳る。「うん」

 猟奇的なオイラン惨殺体の写真を挟んで、三人は向き合う。「キリシマ=サンはニチョームの自治会長なの。で、こういう問題ゴトを知らせに来るってわけ」ザクロは写真の一枚を手に取った。「この娘たち、ニチョームの娘じゃないわよね?」「いかにも」キリシマは頷く。

「こっちは、やった側だ」「ンマ!」ザクロは口を手で押さえ驚いた。「やった側?ブッダ!そんな事!」「ああ、正確には、容疑をかけられて収監されたって事だ。証拠は何もねえ」「ちょっと……クソマッポのいつものアレ?誰が引っ張られたの」「マジロ=サンだ」「マジロ=サン?ブッダアスホール!」

 ザクロは激昂して腰を浮かせた。「あのウニも割れないベイビーキャットが猟奇殺人!?そんな度胸あるわけないじゃないのよ!」「そう、そうなんだ。当たり前だがアリバイもあるんだ。あいつはその時カブキチョのホテルでボーイフレンドとよろしくやってた……ええと」キリシマはヤモトを見て言い淀む。

「とにかくアレだ、アリバイを認めるどころか、それなら共犯だ、ってよ。カップルごと、二人ひっくるめて逮捕されちまったんだよ」「ザッケンナコラー!」ザクロはテーブルを両手で殴り、バネじかけめいて立ち上がった。ヤモトは口を開けてザクロを見上げる。ザクロは息を吐き、座り直した。

 キリシマはザクロの激怒に慣れているのか、腕組みして思案しながら、「まあ、マッポは現状、そんな有様でよ」「きっと留置場で泣いてるわ、マジロ=サン」「俺たちとしちゃ、潔白を証明する動かぬ証拠ってやつをアホどもに突きつけてやらにゃいかんのだ」

「証拠」ザクロは腕組みして、「要するにその真犯人のクソサイコ野郎を捕まえて、締め上げてやりゃあイイってんでしょ」「ま、そうなるわい」「後はどうクソ野郎を探すかって事だけど……」ザクロは写真をボンボリの明かりにかざしながら、「被害者は、この娘たちで全部?」「そうだ。一週間で十人」

「派手ねぇ」「被害者はみな女だ。路上マイコやマッサージ嬢を路地裏で狙うのさ。で、見ての通り、内臓を引き摺り出して殺す」ザクロは目を細めた。「……このまま大人しくなると思う?」「ありえねぇ」「ありえないわよねぇ」ザクロは椅子に寄りかかった。

「……なァに?」ザクロはヤモトが自分をじっと見ている事に気づいた。「おびき寄せて捕まえればいいよ」ヤモトは言った。「おびき寄せる?」ザクロは瞬きした。「嬢ちゃん、アンタそりゃあ……」ヤモトの言わんとする事を察したキリシマが咎めようとした。ヤモトは力強く頷いた。

「アータね、いくらアータが……」ザクロは言いやめ、頭を掻いた。ヤモトはもう一度頷いてみせた。そして付け加えた。「心配は、その……アタイなんかに犯人が寄って来るのかって事だけど」「ま、被害者を見るに、犯人の趣味はザクロの姐さんよか、嬢ちゃんだろう」「警棒で叩くわよ」


◆◆◆


「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーのダーカイ掌打がライノセラスの胸板の真芯を捉える!硬質化したニンジャ装束が波打ち、衝撃波が装甲内部へ浸透。ライノセラスの心肺に直接ダメージを与える!「ゲ、ゲボーッ!」血と吐瀉物を噴水めいて吐き散らすライノセラス!

「バ、バカなババッアバッゲボーッ!」狭い路地を後ずさるライノセラス。その後退にともなってアスファルトの地面に吐瀉物の筋が出来る。ニンジャスレイヤーはツカツカと歩み寄る。ライノセラス自慢のダイノソー・ホーンは既に根元で折り取られている。「なぜシルバーキーとアバッ……」

「ハイクを詠めライノセラス=サン」「だ、だが既に貴様がネオサイタマ入りしている事は周知となったぞニンジャスレイヤー=サン、シルバーキー=サンもろとも、アバッ……」シルバーキーはニンジャスレイヤーの後ろでテレパス・ジツの構えである。クローンヤクザ達に精神攻撃をかけているのだ。

「イ……イヤーッ!」「「「「「「「「「グワーッ!」」」」」」」」」頭上で悲鳴のハーモニーが聞こえ、まとめてダークスーツのクローンヤクザ達が泡を吹きながら集団自殺めいて落下してくる。次々に地面に頭から落下、トマトめいて連続死!

「ウオ……ウオオオーッ!」ライノセラスは死力を振り絞りニンジャスレイヤーへ掴みかかろうとする!自爆する腹積もりなのだ!「イヤーッ!」だがニンジャスレイヤーは無慈悲な前蹴りをその顔面に叩き込む!「グワーッ!」踏み込み、さらに中腰姿勢からのポン・パンチ!「グワーッ!」

 ライノセラスは回転しながら吹き飛び、2階の高さの「四季報アルヨ」と書かれたネオン看板に突っ込む!バチバチとネオン火花が飛び散り、鎮魂歌めいて鳴り響く。感電したライノセラスの両目から黒煙が噴き上がる!「サ……サヨナラ!」ネオンライトもろともに爆発四散!

「とりあえずこの区画は一掃だ、今のところ」シルバーキーが告げた。相当な消耗が見て取れる。「ニンジャソウルの接近も感じない」「……」ニンジャスレイヤーは行く手を見やった。目的地まであとどのくらいかかるだろう?ライノセラスの死に際の言葉は脅しではあるまい。

 路地を抜け、二人はけたたましい宣伝音楽とネオンライトの渦の中へ飛び込んだ。上空を行き交うマグロツェッペリン、特許カブキ・ホログラフィ看板、「アバタ」「モシモシだ」「お家」「ふかしポテトでも」ネオサイタマ的な巨大ネオン看板の数々、ただし他の地域とは比較にならぬほどに高密度で極彩色。

 編笠をかぶった行商人にサラリマン、サイコビリー、宗教者、パンクス、ペケロッパ、オイラン、ユーレイ・ゴスらが無関心な空気をまとって縦横に行きかい、屋台ではバイオイカがケバブされ、清掃業者が路上の死体をゴザで包んでリアカーに載せていく。

 悲鳴も歓声も、発せられた瞬間に大音量のノイズ音楽やタフガイが背負うラジカセのビートに溶解、下水の一滴めいて沈む……ここが、ネオカブキチョだ。東京が滅び、人工島サイタマが首都機能をなかば呑み込んだ後も、この貪婪の街はかつて以上の猥雑と混沌をたたえ、秒単位で新陳代謝を繰り返す……!

 闇医者「バシダ」の闇クリニックは、このネオカブキチョの奥まった雑居ビルにこっそりと収納されている。二人のニンジャは人ごみを滑るように抜けてゆく。

「早くあンたとオサラバして観光気分に移りたいもんだ。ウズウズするぜ」先程の死闘もどこへやら、シルバーキーは道端の軍服オイランに熱視線だ。「その前に仕事を忘れるな」ニンジャスレイヤーは言った。「近いのだろう、バシダとやらは。案内せよ」「わかってら」シルバーキーはうるさそうに言う。

「もう旅も終わりさ、ここまで来りゃ。これで俺も晴れて自由ってわけで、ちっとは浮かれる気持ちを許してくれよ。この忌々しい脊椎トランスミッタだか何だかを切り取ってだな、クソったれサージョンの墓に参ってノロイ・ボードをピンク色に塗ってやるぜ、ナメやがってあのサディスト野郎……」

「……」もはや返事も返さず、ニンジャスレイヤーは人ごみをすり抜けながら、己のニューロンを研ぎ澄ませた。このままで終わろうはずがない。彼のニンジャ第六感は不吉な予感をピリピリと舌の上に伝えてくる。もう一波乱あるはずだ……。


◆◆◆


「アイエエエエ!」バシダは跳ね起きた。全身、底なし沼で沐浴したかのように不快に汗まみれだ。そしてここはフートンではない!玄関だ。そして自宅でもない。どうやらここは施療院の玄関先である。真っ暗だ。「ナンデ?玄関ナンデ?」壁に手をつき、立ち上がる。激しい頭痛。

 わけがわからぬ。頭痛がひどい。脳幹にタタミ針を突き刺されるようなイメージだ。バシダは壁伝いによろよろ歩き、ボンボリ・ライトのスイッチを探す。今は何時だ?なぜ寝ていた?いや、寝るなどと。昏睡ではないか。アルコール?ノー。ズバリ?ノー。ストレス?……ノーとは言えない……。

 とにかく明かりを……ボンボリ……バシダは手探りでスイッチに触れる。これだ。しかしそこでさらに頭痛!「アイエエエエ!」バシダは床に膝を着く!苦悶して、痛みから逃れるべく額を壁に押し当てる。真っ暗な視界がストロボめいて光る。悲鳴……鮮血……悲鳴……「アアー!アイエエエエー!」

 バシダは嘔吐を堪える。抽象的な脳内映像……闇に閃く……手術の映像記憶だろうか?確かにこのところ飛び込みの仕事が多く、それがこの昏睡や頭痛の原因と考えるのが自然……。なんとか立ち上がり、再度、ボンボリのスイッチに手を触れる。明かりが灯る……「アイエエエエエエ!?」バシダは再度絶叫!

 室内に明かりがもどると、視界に飛び込んできたのは、白い壁にべったりと残された鮮血の跡だ。ヒョットコ族のグラフィティめいた乱雑な筆致で縦横に残された痕跡!バシダはもしやと思い己の手の平を見た。真っ赤だ。血だ。自分を見下ろす。「……え?」全身を濡らすのは汗ではない?「血ィエエエエ!」

 血だ!自分の血ではない!返り血である!ナ、ナムアミダブツ……!よろめくバシダをさらなる頭痛と映像記憶の嵐が襲う。鮮血……悲鳴……鮮血……悲鳴……「アバーッ!」バシダは頭を押さえて仰向けに転倒し、ふたたび昏倒した。


◆◆◆


「聴こえるわね、ドーゾ」ザクロはビル屋上で片膝をつき、メンポのIRCインカムに呟く。今のザクロはシゴト仕様、レザーニンジャ装束に身を包んだ「ネザークイーン」である。深夜なお明るいネオカブキチョの明かりを受けると、微かにニンジャ装束はラメめいて暗い光の粒を輝かせる。

「うん。聴こえるよ」格子シャッター障子が下りた路面店のショーウインドーをぼんやり見ていたヤモトは、チョーカー型IRC通話機を通してザクロの声に答えた。ザクロは言った。「無茶すんじゃないわよ、アータ自身の力を過信しない事。アタシは上からついて来てる……」「うん」

「それと、セクシー!コケットリー!」ザクロは熱っぽく付け加える。「わかる?今回大事なのは色ツヤよ!オトコを呼び寄せてモノにすンの!アータの色ツヤにかかってンの!ホントはアタシが変わってやりたいわ!ホントに変わってやりたい!」「そんな事を言ったって……」「頑張りなさい!」

 ヤモトは武器として携えているのがオリガミとバタフライナイフだけである事を心細く思った。カバンの中だ。しかも上着も無し、「肩を見せるの!二の腕見せるの!今日は雨も降らないわ!」ザクロはそう言ってライダースを店に置いて来させた。囮を名目に、着せ替え人形めいて遊ばれているのではないか?

 ヤモトはニチョームを抜け、ナイトクラブやマイコセンターひしめくグリッターヤードに差し掛かる。途端に空気が変わり、酒臭いノミカイ・サラリマンやオイランドロイド、ヤクザやスカウトが行き交う只中へ投げ出される。「君だいぶカワイイだよね?」「お仕事ダイジョブ?」「前後しない?」

 ボンボリに集まる夏のバイオカナブンめいて手を延ばしてくるスカウトやヨタモノをニンジャ敏捷性でかわしながら、ヤモトは通りを横切り、遊戯バー「おセンス」の脇の路地裏へ入り込む。その頭上、ネザークイーンは建物から建物へ飛び移り、彼女を追う。

「いいわ、ちなみにその路地で二人殺されてる」ネザークイーンがインカムで話しかける。「さっきの大通りからちょっと入っただけなのにね。無残に殺されて……身寄りのあるオイランなんていないのよ、花も備えられずに、骨は無縁墓地で」「……」

「しかもニチョームの子たちまでヒドイ目に遭ってる。マジロ=サン、クマみたいでカワイイのよ、それなのにこんなヒドイ冤罪……あの子、きっとストレスでやつれちゃう」ザクロは冗談めかして言った。ヤモトは微笑んだ。ザクロはヤモトを気遣ってくれているのだ。

 実際、脇道へ入っただけでアトモスフィアは再び一変。サンズ・リバーをすら連想させる不気味なダウンライトボンボリ、会員専用ゲイシャクラブの厳重かつ無関心な鉄扉……淀んだ空気と青い闇の道がヤモトを誘うのであった。「……うん、頑張る」やや遅れてヤモトは返事した。「助けよう」「その意気よ」

 曲がり角の電柱でヤモトは思い立ち、屈んでオリガミを二枚取り出す。オリガミはひとりでにアサガオの形に折りあがった。ヤモトはごく短く合掌し、次の路地へ進む。「今、アタシ達は言わば、犯行現場を巡ってる」ザクロが言う。

「さっきのグリッターヤード。この先の退廃ホテル街(マジロがボーイフレンドと……まあいいわ)。あと、ヨコチョストリート。その三点を結んだ三角形の中で犯行は行われている。とりあえず、当たるならその三角形の……ちょっとどうしたの」「うん。アタイの……アタイの後ろ」

 ヤモトは気づかぬフリをしながら歩き続ける。彼女のニンジャ聴覚は一定の距離をおいて追随するピタピタという足音を、歯の隙間から吐き出される息遣いを、ニンジャ嗅覚は血生臭い体臭を、ニンジャ第六感はひりつくような悪意の気配を感じ取っている。ヤモトの瞳に桜色の光が灯る。

「早速なんてもんじゃないわ」雑居ビル屋上から身を乗り出し、ザクロは囁いた。「引きが強いわ、アータ。とっても強いわ」ヤモトの背後タタミ3枚距離の位置を、フラフラとよろめきながら尾行する人影。手の甲から生えるグロテスクな鉤爪めいた刃。ザクロは……ネザークイーンは跳躍準備姿勢を取った。

「そのまま……そのままよ、気をつけて、そのまま……」屋上から飛び降り、その勢いで頭上からアンブッシュして一撃でこの不審者を無力化する腹積もりであった。敵はヤモトに集中している。まずはひっ捕まえて腕の一本や二本折ってやればおとなしく白状もするはず……人違いなら、それはそれだ。

「イ……何?」ネザークイーンが今まさに跳躍せんとしたその瞬間、人影がぐるりと振り返った。そして頭上を見上げた。ネザークイーンと目があった!爛々と輝く狂的な双眸!耳まで裂けた口が開き、サメめいた牙があらわになる。そして笑った!「バハーッ!バァハーッ!アーハハー!」

 なぜ?なぜネザークイーンのアンブッシュ気配を事前に察知した?敵意を読み取ったからだ。なぜそんな事ができる?それはネザークイーン自身、可能性の一つとして十分に予測していた事でもあった。答えは一つだ。こいつもまたニンジャなのだ!

「こっちだ!」ヤモトが振り返り、叫んだ。瞬時に八つのオリガミが鳥型に折りあがり、ヤモトの周囲に浮かぶ!「イヤーッ!」ネザークイーンもヤモトの攻撃を待ちはしない。跳躍し、上空からの落下攻撃を仕掛けにいく!

「バァハーッ!アバハハハハ!」敵はヤモトを相手にせず、落下するネザークイーンめがけて瞬時に跳躍!ゴウランガ!空中で迎撃しようというのだ!「ちょっと何なのソレ!マジなの?」ネザークイーンが空中で叫ぶ。不気味な鉤爪型武器が閃き、ネザークイーンの拳とぶつかり合う!「「イヤーッ!」」


4

 空中でぶつかりあった打撃が火花を散らす。ネザークイーンはやや体勢を崩しながらもビルの壁を蹴り、空中のニンジャへ追撃をかける!飛び蹴りだ!「イヤーッ!」「バァーハハ!イヤーッ!」空中のニンジャは笑い、踵落としで応戦!ふたたび打撃がぶつかり合う!「行け!」その時だ。下で叫び!ヤモト!

 八つのオリガミがDNA模様めいた螺旋を描いて舞い上がり、上空のニンジャに立て続けに着弾する。花火めいた小爆発!カブーン!カブーン!カブーン!「グワーッ!?」打ち上げられる敵ニンジャ!カブーン!カブーン!カブーン!「グワーッ!?アバッハーッ!?」カブーン!カブーン!

 ネザークイーンはしなやかにヤモトのすぐそばの地面に着地した。「やるじゃないアータ!」「でもまだ…」ヤモトは空を見上げる。攻撃を受けたニンジャはその反動で斜めに跳ね上がり、ビルの屋上へ着地した!「バァーハハー!」逃走する構えだ!ウカツ!ネザークイーンは即座にハイジャンプを繰り出す!

「待てやコラーッ!アイサツしろ!スッゾオラー!」ビルの瓦屋根に飛び乗ったネザークイーンは、走り去ろうとするニンジャへ叫んだ。「ドーモ、ネザークイーンです!」「バァーアハッハ!ドーモ!」咎められたニンジャは素早く振り返り、オジギしてアイサツを返す!「プロセッサーです!」

「アータ、どう見てもここ最近の切り裂き魔……グワーッ!?」ネザークイーンは仰け反った。「バァーハハハハ!」プロセッサーの投げたスモーク弾がネザークイーンの足元で炸裂し、キラキラと輝く煙が包み込んだのだ。意外にも知性的存在!「待て!」さらに上がってきたのはヤモトである。

「ドーモ。ゲホッ!ヤモト・コキです。ゲホッ!」ヤモトは咳き込みながら、煙幕越しにオジギした。「逃がさない!」「バァー?お前もニンジャだと?」プロセッサーが小首をかしげる。「ニンジャ・オイランの内臓はどんな味がするんだァー?」手首に嵌めた無骨な爪をカチカチと鳴らす。

「だが俺はリスクヘッジは慎重なんだよォー!ウデマエのわからぬ相手二人を一度に相手にするほどバカじゃねェー!サラバ!」プロセッサーはいきなり踵を返し、ビルの隙間に躊躇なく飛び降りる!「今ので興奮してもっともっと殺したくなったァー!バァーハハハハ!」

 なんたる捨てゼリフか!二者は憤慨し、後を追って飛び降りる。その路地裏はしかし既に無人……!「どうしよう!」ヤモトがネザークイーンを見る。「こういうときはアレよ。サーペントの暗号だか何だか、ミヤモト・マサシのアレよ!」ネザークイーンはジメジメしたアスファルトに膝をついた。

「こういう時はニンジャソウル痕跡を読み取るのよ。アータまだ出来ないのね?」「……出来ない」「練習すれば出来るようになる……こっち!」ネザークイーンは入り組んだ路地の先を指差す。「まだ生暖かいわ!行くわよ!」


◆◆◆


「どうしたこりゃあ!?」シルバーキーが素っ頓狂な声を上げた。無理もない!バシダ・サイバネ施療院の扉は無用心にも開け放しになっており、待合室の壁紙は鮮血で縦横に汚されていたのである。「頼むぜ!勘弁してくれよ!こんなのって無いぞ!」たまらずシルバーキーは壁を殴りつける。

「死体は無い。少なくとも」素早く中をあらためたニンジャスレイヤーが待合室に戻ってくる。シルバーキーは首を振って悔しがる。「死体は無いったって……キョートからこんな長旅して……セキュリティちゃんとしろよコラー!拉致でもされたのかよオラー!」四つん這いになり床を連続パンチ!

「オヌシのテレパスで探知できんのか」「ブッダファック!そりゃ、出来るならとっくだぜ」シルバーキーは受付カウンターのダルマをつかんで床に投げつけた。「だがダメだ。このクソ人口密度じゃわかりようがねえんだ。バシダ=サンはニンジャでもクローンでもない、特徴の無いただの人間だしな」

 バシダは闇医者だけに、その顧客も多種多様であるはず。日頃から自分の身に危害が及ばぬよう、ナリコや超音波シシオドシ、剛性強化チタンフスマ等の対策がなされていたはずである。この区域自体が私設警備員の警戒区域でもある。自分で中から開けない限り、そう簡単に賊徒の侵入を許す事など無い……。

「行くぞ」「え?」シルバーキーは顔を上げた。ニンジャスレイヤーは壁の血を指でなぞり、「まだ乾いていない。ついさっきまで人がいたのだ。この血を壁につけた者が。バシダ=サンの血で無い事を祈りたいところだが、悩んでも時間の無駄になるだけだ」

「……」そしてニンジャスレイヤーは床を示した。靴底を引きずったような足跡。「……これを辿る」


◆◆◆


 バシダは闇雲に路地裏から路地裏へ走っていた。わけがわからない。どうしてしまったんだ。一体どうなったんだ。意識を失い、気がつけば今度は外、路地裏だ。激しい頭痛がバシダを苛み、再生される女性の悲鳴が繰り返しニューロンを焼く。次第に、仮定したくない仮定がモヤモヤと立ち上る。

 もしや私は人を殺してしまった?悲鳴を上げたのは私の手にかかった犠牲者なのでは?そう考えれば返り血も説明がつく……バシダの心は乱れた。そんな事が私にできるのか?でも、この血は……途切れがちな記憶と時間……記憶……映像……!「いたわ!そこよ!」野太い声が飛んできた。バシダは凍りつく!

 闇の中からバシダめがけて一直線に走って来るのは長身の……ニンジャ!そして若い娘だ。「観念なさい!」長身のニンジャが叫ぶ。そしてますますダッシュ速度を増す。娘のほうも同様だ!その目には殺気!「ア、アイエエエ!?アイエエエエエ!」バシダは悲鳴をあげる!

「イヤーッ!」ニンジャはダッシュの勢いを 乗せ、飛び蹴りを繰り出した!「アイエエエエエ!」


◆◆◆


「グワーッ!」プロセッサーは横面にネザークイーンの蹴りを受け、吹き飛んで狭い道路を転がった!着地するネザークイーンの横をヤモトが駆け抜け、追いうちを仕掛けに行く!「イヤーッ!」プロセッサーは上体だけを起こし、両腕をクロスさせてヤモトのカカト落としをガード!

「アイエエエエエ!」血まみれのコートを着た妙齢の女性が狂ったように悲鳴を上げ、座り込む。ネザークイーンはニンジャ洞察力でコートの血が彼女のものでないことを読み取った。返り血?少なくともこの女性に深刻な負傷は無いのだ。

「アータ節操無さすぎるわ!」ネザークイーンはプロセッサーに叫んだ。「さっき逃げてから五分も経ってないじゃないの!このケダモノ!」そして女性に屈み込む。「ダメよ、こんな時間にウロウロしたら。アタシ達が居合わせなかったらアータ、後ろから狙ってたあのケダモノに……」「アイエエエ!」

 ネザークイーンは目を白黒させて耳を押さえた。「ま、とにかく……」立ち上がり、素早くアイサツした。「ドーモ、ネザークイーンです。安心する事ね。アタシは取って喰ったりしないわ、オンナはね」「ド……ドーモ」女性は震えながら返す。「バシダです……」

 ネザークイーンの視線の先でヤモトと格闘する凶悪なニンジャに気づいた時、バシダは一際強く絶叫した。「アイエエエエ!アイエエエエエ!アイエエエエエ!嫌!嫌ァー!」「ちょっと!」ネザークイーンは膝をつき、バシダを落ち着かせる。「コワイ!コワイ!あいつ!あいつが!あいつなんだ!アーッ!」

 ネザークイーンは推察した。この返り血、どこか上の空だった佇まい。そしてプロセッサーを目撃して、この反応。強烈なストレスにさらされ、ニューロンにトラウマ的なダメージを受けたのだ。犯行の場に居合わせたか、それに近い何か。受け止めきれない事象を前に現実から乖離したようになるケースだ。

「参ったわね……ヤモト=サン!まだやれる?」「やれる!」ヤモトがネザークイーンに叫び返した。彼女は今やプロセッサーのマウントポジションを取っている。「イヤーッ!」「イヤーッ!バァーハハハハ!」ヤモトが繰り出すパウンドをプロセッサーが防御!その応酬!

「いいわ」ネザークイーンは呟き、懐からザゼン・ピルを取り出す。強力な鎮静剤だ。「嫌ァー!嫌ァー!悲鳴が!あいつが殺した!あいつなの!助けて!」叫び続けるバシダにザゼン・ピルを飲ませ、飲み込ませる。すぐにバシダの目はどんよりと曇り、暴れるのをやめた。「ごめんなさいね」

「イヤーッ!」ヤモトのパウンド!「バァーハハハハ!」プロセッサーは防御をやめた。ニンジャソウルを帯びた拳がプロセッサーの鼻面を殴りつける!「グワーッバァーハハハハ!」ヤモトはさらに殴りに行く、だがこれはいけない!あえてプロセッサーはパウンドを受けたのだ、攻撃準備のために!

 シュイーム!プロセッサーのなんらかの操作により、右手首に接続された不気味な鉤爪が回転を始める!ゴウランガ!まるでそれは名が体をあらわすがごとし!フードプロセッサーめいたミキサー回転である!このブレードは危険!「バァーハハハハ!イヤーッ!」

「ンアーッ!?」アブナイ!ヤモトは瞬時にバック転してマウントポジションを解除!そのニンジャ反射神経が至らずば、今ごろプロセッサーの回転ブレードはヤモトのハラワタを切り裂いていたであろう……オイラン犠牲者のように!「バハーッ!」

「イヤーッ!」起き上がったプロセッサーへ、ネザークイーンが電撃的なチョップを繰り出す!「バーハハハ!イヤーッ!」プロセッサーは仰け反ってチョップをかわしつつ、ミキサー回転ブレードで反撃!危険な刃がネザークイーンの鍛え上げた腹筋をかすめる!「グワーッ!」

 隙をついたプロセッサーは左手でフラッシュバンを取り出す。「邪魔ばかり!」地面に叩きつける!「しやがって!」スマック!閃光が迸りネザークイーンとヤモトの目をくらます!「悪いが、せっかく手に入れた力!まだまだオイランを殺すぜ!殺しまくってやるぜ!ニンジャ、イラナイ!オタッシャデー!」

「イヤーッ!」「グワーッ!?」

「イヤーッ!」「何だお前グワーッ!」プロセッサーの悲鳴である!ネザークイーンは目くらましにもがきながら叫ぶ。「ザッケンナコラー!ちょっと!何よ!?何が?」

 ネザークイーンのニンジャ自律神経がすぐに視界をリカバリーしてゆく。まず映ったのはカエルめいてブザマに仰向けで倒れるプロセッサー。そこへツカツカと近づく足先。そして赤黒のニンジャ装束……!

「何だこりゃあ?」その後ろからうるさく喋りながら歩いて来る、もう一人の……これもニンジャ。「ニンジャ、ニンジャ、ニンジャが一杯だ!ネオサイタマってのは、こうなのかい?」「い、いきなり何をしやがる!」プロセッサーは後ずさりしながら言う。赤黒のニンジャはそれを見下ろす。

「状況判断だ」赤黒のニンジャは冷たく言い放った。「オヌシの下劣な独白は路地の角のそのまた角から充分届いておる」そしてコンマ一秒でネザークイーン、ヤモト、バシダ、プロセッサーへ視線を走らせ、アイサツした。「ドーモ皆さん。ニンジャスレイヤーです」

「ドーモ、シルバーキーです」痩せたニンジャが進み出てアイサツした。「そっちの若いお嬢さんもニンジャか」「ドーモ、ヤモト・コキです」ヤモトはアイサツを返す。「ニンジャスレイヤー=サン……!?」

「あの時はドーモ」ニンジャスレイヤーは再オジギした。同時にプロセッサーを殺気で威圧し、挨拶を無視した逃走は許さない。プロセッサーはバック転して壁を背にした位置に立ち、オジギした。「ドーモ。プロセッサーです。ニンジャスレイヤーだと……?」

「ザクロ=サン」ヤモトはネザークイーンに小声で呟き、アイサツを促す。「あのニンジャスレイヤー=サンは多分敵じゃ無い。アタイ、前に色々あって……」「……」ヤモトは訝しく思い、ネザークイーンの横顔を見た。「ザクロ=サン」

 ゴウランガ!ネザークイーンがおかしい。なかば呆然として、アイサツも忘れて直立している。心なしか震えてもいるのだ。ヤモトは眉根を寄せた。因縁でもあるのかと心配した。「ザクロ=サン」「ええ、わかってる。わかってるの」

 ネザークイーンは懐からテヌグイ・チーフを取り出し、素早く額の汗を拭った。テヌグイ・チーフには果物のザクロのウキヨエ刺繍がされている。ネザークイーンはテヌグイ・チーフをしまい、そして重々しく言った。「ドーモ。ネザークイーンです、ニンジャスレイヤー=サン。噂は聞いて……聞いている」

「ニンジャスレイヤー=サン。ネザークイーン=サンはアタイの仲間です」ヤモトが言った。「攻撃しないで……」「イヤーッ!」相互アイサツ牽制アトモスフィアを破ったのはプロセッサーだ!高さにして三階の壁へ斜めにジャンプ!壁を蹴ってニンジャスレイヤーとシルバーキーを飛び越す!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはドウグ社のカギ付きロープを素早く投擲!「グワーッ!?」空中のプロセッサーの右足に剣呑なロープが絡みつき、食い込んで地面に叩きつける!「グワーッ!」「おい!どうするんだ、そいつの事?」シルバーキーが口を挟む。「ザイバツ・ニンジャでも無いだろう?」

「殺さぬ理由が無い」ニンジャスレイヤーは即答した。無慈悲!「バァーハハ!」プロセッサーはミキサー回転ブレードで容易くロープを断ち切る!なんたる切れ味か!「殺す?できるものかよ!逃げるからな!多勢に無勢、リスクヘッジ!ニンジャ・イラナイ!」スマック!またしてもフラッシュバンが炸裂!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!?」ニンジャスレイヤー、ネザークイーン、ヤモトは一斉にプロセッサーを攻撃!スリケンとバタフライナイフがプロセッサーの背中に突き刺さる!

 なぜ閃光が目くらましの役に立たなかったのか?三者は目を閉じたのである!ニンジャスレイヤーは戦闘経験で、ネザークイーンとヤモトはついさっきの手痛い学習で、プロセッサーの行動を察知し対策したのだ!なんたる適応力!これがニンジャである!「グワーッ!グワーッ嘘だ!助けてくれないか!」

 プロセッサーは転倒、背中から血を流してもがく!ニンジャスレイヤーはトドメを刺しに近づく。「拘束し……してくれ」ネザークイーンがニンジャスレイヤーに言う。「殺人鬼なのだ、マッポに突き出さないと」「……そんな事を言っていたな。イヤーッ!」「グワーッ!」プロセッサーの背中を踏みつける!

「野良ニンジャの類か、オヌシは」「グワーッ!」「慈悲はない。マッポへ突き出すにあたり、オヌシの脊椎を破壊する」「アイエエエエ!」プロセッサーが泣き叫ぶ。ネザークイーンはニンジャスレイヤーに近づいた。「感謝する。そいつのせいで大勢死んだのだ。しかもア…私の身内が冤罪に巻き込まれた」

「もう終わったわけだよな!そんな事より、だ!」シルバーキーは口を挟んだ。目を覆ってフラついている。「駄目もとで訊く。人を探してるもんで。バシダ=サンってんだが」「ドーモ……バシダです」鎮静剤で自我を弱らせたバシダは素直に名乗り返す。「私がバシダです……」「ブッダシット!」

 フラッシュバンの影響でよろめきながら、シルバーキーは感極まって叫んだ。「やったぜ!ツイてる!こんな話あるか?なあニンジャスレイヤー=サン!」「……そうだな」プロセッサーを踏みつけたままニンジャスレイヤーは同意する。

「なあバシダ=サン、あのな、仕事を頼みたい。カネはある」シルバーキーはバシダの前まで歩いて行く。「ハイ……エート」鎮静剤が徐々に引いて行く中、バシダはぼんやりと問い返す。「どんな用事で……」「サイバネで埋め込まれた発信器をだな……」シルバーキーは話し始めた。

 ……シルバーキーは、「サイバネIRC発信器からの自由」という褒美を前に、あまりに油断が過ぎたと言うべきだろうか?いや。接近ニンジャソウルをテレパス・ジツで感知し続ける事など、そもそもあまりにも困難なワザマエなのだ。彼がこの時テレパシス警戒を解いていた事を責めるのは酷ではあった。

 ズガッ!ズガッ!その時、彼らのいる路地が漢字サーチライトでいきなり照らし出された!この路地につながる五本の道すべてから漢字サーチライトの照射!サーチライトには「罪罰」「束縛」「埴輪」といった恐るべき文言が書かれ、照らし出されたシルバーキーとバシダは悲鳴を上げた。「アイエエエ!」

「ヌウッ!」プロセッサーを踏みつけたまま、ニンジャスレイヤーは状況把握につとめた。その傍ら、ネザークイーンとヤモトは背中合わせになりカラテを構える。「ザクロ=サン、これって一体……」「いい」ネザークイーンはヤモトに小声で囁く。「考える事など何も無い。共に戦い、脱出する。共に戦い」

「それにザクロ=サン、なんだか話し方が変だよ、さっきから」「いいから気にしないの、だ。生き延びたら話す。そうしたい時ってのがあるのだ。で、この漢字サーチライト。こいつらはザイバツ・シャドーギルドだ。さっきのオリガミを早く展開して」「大丈夫」オリガミは既に路地を旋回している。

 ピガー!拡声器のハウリング音!「アー、ア!ドーモ!シルバーキー=サン!ニンジャスレイヤー=サン!貴様らはネズミ袋の状態である!」自信に満ちた威圧的な声が鳴り響く。「ネオサイタマ入りの理由、貴様らが同行している理由を話す事!そしてザイバツの裁判を受けよ!さもなくばここで処刑する」

「すまぬ」ニンジャスレイヤーはヤモトたちに詫びた。「我々の問題に巻き込んだ形だ。隙を見て逃げるか、うまく……」「勿体無いお言葉!」「?」「いえ、違うの。いや違う。とにかく、アんたにはウチのヤモト=サンが世話になった、だろ?そうなんでしょ?だから力を貸す。ワカル?自然。ワカル?」

「「「「ザッケンナコラー!」」」」路地の角から次々にクローンヤクザが展開する。ロケットランチャー装備者、アンタイニンジャライフル装備者も多数!そして路地の一つ、サーチライトの逆光に四角いシルエットの巨躯のニンジャが浮かび上がる。その右肩がコブのように盛り上がっている……いや違う!

 コブではない!巨躯のニンジャの肩に小柄なニンジャがしがみついているのだ!彼らは同時に拳を各自の顔の前で組み合わせアイサツした。「ドーモ。レッドゴリラです!」巨大シルエットが告げた。そして肩の小柄なニンジャが言う、「ドーモ。アロンダイトです!」レッドゴリラ!ザイバツ・シテンノだ!


5

「キキッ……レッドゴリラ=サン、こりゃあどうした事でしょうねえ?」肩の上でアロンダイトが小首をかしげる。「妙な事になってやしませんかい?」

「実際その通りよな!」レッドゴリラはニンジャスレイヤー達を凝視した。「問題の二人に加え、なんだ?随分おるが……」考えかけて止める。「面倒だ!命令の出ておらんその他大勢は皆殺しにすれば良い。面倒は殺すに限る!」拡声器を通し「二人以外は殺せ!」「ヨロコンデー!」クローンヤクザが和す!

「ザッケンナコラー!」口火を切ったのはロケットランチャーヤクザだ!路地の奥から旋回しながらミサイルが飛来!「物騒な事を!」射線へ飛び出したのはネザークイーン!「言うじゃねぇの!」顔の前で両腕をクロスさせ、中腰になって衝撃に備える。カブーム!

 ゴウランガ!ネザークイーンは爆発に耐え、他の者たちを護った。ニンジャ装束も無事である!レザーニンジャ装束のラメがひときわ激しく輝く。その輝きがネザークイーンの両手に収束して行く。「ヌウウーッ!」

「ス、スッゾオラー!」ロケットランチャーヤクザの脇からアンタイニンジャライフルを構えたヤクザが数名進み出、狙いを定める。「ヌウウーッ!」ネザークイーンは輝く両手を彼らへ向かって突き出した。「イヤーッ!」輝きはスリケン状になり、それぞれの手から撃ち出される!

「ザッケアババーッ!」カブーム!ネザークイーンのスリケンはミサイルめいた激しい爆発を引き起こし、ロケットランチャーヤクザとライフルヤクザがまとめて黒焦げになって死亡!ナムアミダブツ!

「来いやオラー!」ネザークイーンが包囲者を睥睨した。これぞネザークイーンのジツ、変種ムテキ・アティチュードである!身体をニンジャソウルで硬質化して防御。そしてその破壊エネルギーをスリケン化して撃ち出すジツなのだ!

「なんたる厄介げなジツ!」アロンダイトが頭を掻いた。「チッ、あいつは何だ?」レッドゴリラは舌打ちした。彼らはシルバーキーを追って半日後の新幹線でネオサイタマ入りしたばかりである。レッドゴリラは下調べなどしないから、当然、ニチョームを守るネザークイーンの事や協定の事など知らぬのだ。

「攻撃第二波!やれ!」レッドゴリラが拡声器に叫ぶ。ナムサン!路地に面するビルの屋上にも大量のアサルトヤクザだ!「ザッケンナコラー!」銃弾の乱射!「シルバーキー=サン!ジツを使え!」ニンジャスレイヤーが叫ぶが、「アイエエエ!」漢字サーチライトに照らされたシルバーキーは戦闘不能だ!

「アイエエエエエ!」バシダが叫ぶ!「ヌウーッ!」ニンジャスレイヤーはプロセッサーを諦め、バシダへ跳んだ。頭上から乱射される銃弾を嵐の如きチョップで弾き返し、バシダを庇う。非ニンジャのバシダが死ねば何もかもが水の泡である!それにつけてもシルバーキーのブザマ!「アイエエエエエ!」

「バァーハハーッ!ブッダオハギ!」いきなり回転しながら起き上がったのはプロセッサーである!銃弾を素早くかわしながら壁また壁と三角ジャンプを繰り出し昇る!「ザッケンナコラー!」「バァーハハ!イヤーッ!」「アババーッ!?」屋上アサルトヤクザの一角へ突入、ミキサーでミンチ殺!ナムサン!

「このッ!」反応したのはヤモトだ!プロセッサーの後を追い、壁を蹴って屋上へ!「イヤーッ!」「グワーッ!」ジャンプ回し蹴りがアサルトヤクザ数名の首骨を粉砕!銃弾を浴びながら、プロセッサーに続いて屋根から屋根へ飛ぶ!「キキッ!?どうしやす?」「捨て置けい!」レッドゴリラは即答した。

「数が減ればむしろ楽だ!」レッドゴリラは面白くもなさそうに言った。「機銃掃射と漢字サーチライトの照射を続けて、ターゲットを釘付けにせい!そこの妙なニンジャは飛び道具が効かんのか?ならば直々にワシが相手をしてやるわ。どうれ、アロンダイト!」「ヨロコンデー!」

 アロンダイトはレッドゴリラの肩の上で直立し、水泳選手めいて両手を真っ直ぐに頭上へのばした。すると、おお、見よ!なんたる事か!彼もまたムテキ・アティチュードの使い手か?そのメタリックニンジャ装束が鈍く輝き、いかにも硬質げなアトモスフィアをまとう。それだけではない!さらに!

「イヤーッ!」アロンダイトが叫ぶと、身体の両側面、指先から腰にかけて、鋭利な刃が迫り出したではないか!レッドゴリラは肩の上のアロンダイトの足首をむんずと掴み、構える!ゴウランガ!これはさながら人体ブレードの様相だ!「このアロンダイトは何でも真っ二つよ!貴様のムテキで試してやる!」

「ドーモ、ネザークイーンです」ネザークイーンはオジギした。「随分デッカいじゃねえの!エエッ!?」「掃射をニンジャスレイヤー= サンとシルバーキー=サンらに集中しろ!」レッドゴリラは拡声器に叫ぶ。「ワシらにフレンドリーファイアしたら処刑するぞ貴様ら」「ヨ、ヨロコンデー!」

「イヤーッ!」ネザークイーンが仕掛ける!レッドゴリラはネザークイーンよりもなお大きい。その名の通りゴリラめいた巨大なのだ。その頭部めがけネザークイーンはジャンプパンチ!「イヤーッ!」レッドゴリラは半身でそれをかわす。着地するネザークイーンにアロンダイト剣を叩き込む!「イヤーッ!」

「イヤーッ!」ネザークイーンは両腕をクロスしムテキ・アティチュードを発動!咄嗟にアロンダイト剣を受ける!ガキィン!「グワーッ!?」ムテキとムテキがぶつかり合うその結果やいかに!?ナムサン!ダメージを受けたのはネザークイーンである!

「バカめが!」レッドゴリラが勝ち誇る。「貴様のムテキ・アティチュードは純粋のムテキではあるまい!アロンダイトは硬質化に全てをかけておるのだ!」「その通りですぜ!キキッ!」「ス……スッゾオラー!」ネザークイーンは左腕の出血に構わずさらに攻撃を繰り出す。右手パンチ!「イヤーッ!」

「ムゥン!」レッドゴリラの鍛え上げられた腹筋がネザークイーンのパンチを受ける!「痒いわ!真っ二つ!イヤーッ!」レッドゴリラは大上段からアロンダイト剣を振り下ろす!「誰が終わりっつったオラー!」ネザークイーンは右手を引き、踏み込みながら再度突き出す!右拳にラメめいた輝きが流れ込む!

「イヤーッ!」「グワーッ!?」爆発!そしてレッドゴリラの巨体が吹き飛んだ!タツジン!右拳からゼロ距離のエネルギースリケン射出である!ネザークイーンは先ほどの斬撃の衝撃力を溜め込み、パンチとともに返したのだ!「ザッケンナコラー!痛えじゃねえかオラー!」ネザークイーンの怒声!

「グワーッ!」吹き飛んだレッドゴリラは壁に叩きつけられた。雑虚ビルに巨大な亀裂が走り、バラバラとコンクリート破片が降り注ぐ!「ザッケンナコラー!」アンタイニンジャライフルヤクザが進み出、主の起き上がる時間を稼ごうとネザークイーンに射撃!「イヤーッ!」ネザークイーンの瞳が燃える!

 アンタイニンジャライフルの巨大な弾丸とその推進力は、並のニンジャ憑依者の肉体を実際貫通する。しかしネザークイーンのムテキ・アティチュードはそれをすら真っ向に受ける!「イヤーッ!」着弾衝撃で歪曲する空気!

 ラメめいた輝きが肩から腕へ収束!「サーチライトだ!」ニンジャスレイヤーが屋上から乱射される銃弾を弾きながら叫ぶ。「サーチライトをやれ!ネザークイーン=サン!」「ヌウーッ……イヤーッ!」ネザークイーンは言葉に従い、エネルギースリケンを別方向の路地奥へ射出!カブーム!「アバーッ!」

 恐るべき「埴輪」「罪罰」の文字を投げかけていた二台のサーチライトが照射ヤクザを巻き込み、まとめて爆発!「ヌウーッ……!」残るラメめいたエネルギーが左腕に集まる。ネザークイーンはさらにそれを別方向の路地奥へ射出!「イヤーッ!」カブーム!「アバババーッ!?」

 恐るべき「束縛」「吝嗇」の文字を投げかけていた二台のサーチライトが照射ヤクザを巻き込み、まとめて爆発!ゴウランガ!これで漢字サーチライト全滅だ!「何をヨソ見しておるかーッ!」己の身を壁から剥がしたレッドゴリラが、罵りながらネザークイーンに襲いかかる!アロンダイト剣!「イヤーッ!」

「イヤーッ!」ネザークイーンはブリッジしてアロンダイト剣を回避!そこから水面蹴りめいた足払いを……「キキーッ!」ナムサン!?アロンダイトは突然そのムテキ・アティチュードを解除した。そしてレッドゴリラに足首を掴まれた状態のまま、ネザークイーンにスリケンを連続投擲!「グワーッ!?」

 タツジン!なんたる柔軟なモードチェンジ攻撃か!ネザークイーンにムテキ・アティチュードを取る時間は無かった。集中投擲されたスリケンが全身に突き刺さる!「グワーッ!」さらに!「イヤーッ!」レッドゴリラの丸太めいた蹴りがフットボールめいてネザークイーンを蹴り飛ばす!「グワーッ!」

 強烈極まりないゴリラキックをまともに受けたネザークイーンは、もがきながら宙を飛ぶ!内臓破裂級のダメージである。ネザークイーンの安否は!?「死ねーッ!」レッドゴリラがダッシュして接近!再度ブレード化したアロンダイトでネザークイーンを叩き斬ろうというのだ!ナムアミダブツ!

 空中でネザークイーンのニューロンが加速し、ソーマト・リコール現象が起こる……ウカツ……このザイバツ・ニンジャ達は実際強い……そしてヤモト=サンは殺人鬼を捕獲できたのだろうか?あの娘の事が心配だ……そしてマジロ=サン……ニチョーム……悔いは多い、だが本望……。

 なぜなら死ぬ前に、惚れた男を助けられたのだから!彼のアイサツを見た瞬間、ザクロのニューロンは沸騰したのだ、二度と恋をしないと決めていたザクロの、それは稲妻めいた一目惚れだった……!ニンジャスレイヤー=サン!

 吹き飛ぶネザークイーンの体は何かにぶつかり、落下途中で静止した。「……?」ネザークイーンは己の体を受け止めた存在を見上げ、息を呑んだ。その周囲、ビル屋上から次々に落下して来るアサルトヤクザ達。彼らが地面で潰れ、血しぶきをあげる中、ネザークイーンは呻いた。「ブッダ……!」

「イヤーッ!」レッドゴリラが振り下ろすアロンダイト剣をニンジャスレイヤーは滑らかに回避!長身のネザークイーンを抱えながらも見事な立ち回りである。そのままレッドゴリラから飛び離れ、地面に膝を着く。「バカなーッ!?」レッドゴリラはそれどころではない。天を仰ぎ驚愕し叫んだ!

 なおも降って来るアサルトヤクザ達!地上のヤクザも同様に、泡を吹いてのたうちまわっている。全滅!一瞬にしてクローンヤクザ全滅である!「何が起きた!?ふざけるな!」「俺だ!」反対側で颯爽とアイサツする者あり。バシダの傍らで己のこめかみに指を当てている。「ドーモ、シルバーキーです」

 鼻血を流し、片目からも出血しながら、シルバーキーは勝ち誇った。「ネオサイタマに来てから実際ロクな事がねぇ!サーチライトには死ぬかと思ったが、これでアンタ丸裸だ。クローンヤクザどもは使い物にならねえぞ、徹底的にやってやったからな!」

 ニンジャスレイヤーは抱えるネザークイーンを見下ろした。「負傷はどうだ」ネザークイーンは咳き込み、ニンジャスレイヤーを見上げる。その目が細まる。全身のスリケン傷から出血している。「ア……アタシ……幸せよ。ほんの短い間だったけど、燃えたわ……燃えたの」「……」

「ゲホッ……ほ、惚れた男の腕で死ぬのって……素敵なものよ……」ネザークイーンは震えながら目を閉じた。レッドゴリラは怒りと憤慨でアロンダイト剣を地面に叩きつけ、地団駄を踏んだ。「許さんぞ!」ニンジャスレイヤーへ向かって来る!

「ネザークイーン=サン」「……」「ネザークイーン=サン」ニンジャスレイヤーはネザークイーンを揺さぶった。「……アタシ、本名はザクロって言うの。さ、最後にザクロって呼んでくれる?」ニンジャスレイヤーはネザークイーンを脇に放り出した。「ンもう!ヒドイ!」「理解できん!無事なら立て!」

 ネザークイーンは重傷ではあったが、実際致命傷と言うほどでは無い。ニンジャスレイヤーの判断は冷静であった!「こんな役得って滅多に無いの!ホントよ!」ネザークイーンは言い募った。ニンジャスレイヤーは取り合わない。「来るぞ!」「イヤーッ!」レッドゴリラのアロンダイト剣が襲いかかる!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」タケノコマート屋上に、プロセッサーとヤモトはほぼ同時に着地した。「イヤーッ!」間髪いれず、ヤモトが回し蹴りを繰り出す。「イヤーッ!」プロセッサーは左腕を上げてガード。さらに右腕のミキサー回転ブレードを突き出す!「イヤーッ!」

「イヤーッ!」ヤモトは素早くバック転してミキサー刺突を回避!そのまま後方へ飛び、屋上端で看板を支えるクロームシャチホコの上に着地した。「バァハーッ!しつこいアマだ!」プロセッサーは踵を返し、さらに逃走をはかろうして踏みとどまった。「何だ……これは」

 プロセッサーの行く手を阻むのは、等間隔で空中に配置された無数のカザグルマ型のオリガミである。それらが壁めいてタケノコマート屋上を取り囲み、風も無いのに回転している。「それに触れたら爆発する」ヤモトが言った。「もう逃がさない」設置型のオリガミミサイル……否、オリガミ浮遊機雷!

 プロセッサーは笑った。「バァハーッ!で、どうするってんだよ!まさか俺にお前が勝てるとでも?」威嚇的に右手のミキサー回転ブレードを唸らせる。「よく見りゃあ、ガキじゃねえか。これだけ離れりゃあ、他の奴らも来れやしねぇ。お望み通り内臓引きずり出してやるぜ!」

「お前!」ヤモトは言った。「おかしいよね?その武器も。おかしな煙幕も」「何だと?」「アタイ、あんたみたいな奴の事、知ってる。その武器、誰にもらった?」「知った事かよ!」「サイバーツジギリって言うんだ、そうやって武器を使って人殺しをする…ううん、人殺しをさせる!あんたみたいな奴に」

「おッ、俺はニンジャになって自由になったんだ!好きな事をするだけだ!そんなの知ったこっちゃねェー!」プロセッサーは狼狽した。この娘の言っている事が気にかかった。そしてどういう経緯で自分がこのミキサーブレードを入手したか思い出そうとした。だが不思議と記憶がぼやけるのだ。

「し、知ったこっちゃねェーんだよ!イヤーッ!」プロセッサーは疑念を振り捨て、沸き起こる殺人衝動に身を任せる!シャチホコ上のヤモトめがけ跳躍!繰り出されるミキサーブレード!「イヤーッ!」ヤモトはバタフライナイフを展開、刃をミキサーブレードにぶつけにいく。花火めいた火花が散る!

「クウッ」ヤモトは呻き、刃を引いた。バタフライナイフはボロボロに刃こぼれしている。腕ごと引きずりこまれる寸前だ。「バァーハハ!イヤーッ!」プロセッサーはシャチホコの近くへ着地、さらにジャンプ!再攻撃を企む!「イヤーッ!」ヤモトはシャチホコから回転ジャンプしてプロセッサーの背後へ!

「どうだッ!」背後のヤモトへ振り向きながらのミキサー攻撃!ヤモトは危ういところで回避!「どうだッ!」回避!「どうだッ!」回避!ナムサン!既にヤモトは屋上の淵!背後には自ら設置したオリガミ機雷!「バァーハハ!逃げ場無し!ネギトロになりやがれェーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!」

 ヤモトは刃こぼれしたバタフライナイフを突き出す!苦し紛れか!「バァハーッ!バカが!粉砕してそのままネギトロ重点キマッタァー!」耳障りな破砕音!プロセッサーのミキサーブレードは金属製のバタフライナイフすらも粉々に破壊してしまった!だがヤモトは既にナイフから手を離している!

「何!ネギトロどこだ!?」ナイフの持ち主を視界から見失ったプロセッサーは一瞬躊躇する。得物を捨てたヤモトはくるくると回りながらプロセッサーの側面そして背後を取った!「イヤーッ!」「グワーッ!?」背骨めがけヤモトの強烈な膝蹴り!プロセッサーはエビめいて反り返る!

「お前は!弱い!」ヤモトは叫んだ。そして、のけぞったプロセッサーの顎を後ろから両手で掴み、「イヤーッ!」後頭部を瓦屋根に叩きつける!「グワーッ!」プロセッサーはしゃにむにミキサーブレードを振り回す。ヤモトは垂直跳躍!

 ヤモトは仰向けにもがくプロセッサーの上空でくるくると八連続回転!その勢いを載せて垂直降下!「イヤーッ!」両足でプロセッサーの顔面に垂直ストンピング!「グワーッ!?」さらにヤモトはその反動で垂直跳躍!

 さらにヤモトは仰向けにもがくプロセッサーの上空でくるくると八連続回転!その勢いを載せて垂直降下!「イヤーッ!」両足でプロセッサーの腹部に垂直ストンピング!「オゴーッ!」さらにヤモトはその反動で垂直跳躍!

 今度の跳躍は高さが二倍!ヤモトは仰向けにもがくプロセッサーの上空でくるくると16連続回転!その勢いを載せて垂直降下!「イヤーッ!」両足でプロセッサーの胸部に垂直ストンピング!「アババババーッ!!」肋骨全損壊!そしてプロセッサーはたまらず嘔吐!

 ヤモトは反動でくるくると回転しながら跳躍、すぐ側に流麗に着地した。プロセッサーは痙攣しながらもがく。戦闘不能!「オゴーッ!」「命は獲らない!マッポに突き出すんだ」「オゴーッ!」屋上を取り囲んでいたオリガミ機雷が耐久時間を超え、立て続けに爆発する。桃色の火花が夜空を洗う……。


◆◆◆


「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはその場跳躍し、薙ぎ払うアロンダイト剣を飛び越すと、その刀身……いや、アロンダイトの硬質化したボディー……を蹴ってさらに跳躍。レッドゴリラの首に飛び蹴りを叩き込んだ。「ムゥン!」丸太じみたレッドゴリラの首筋肉はニンジャスレイヤーの蹴りに耐える!

「ワシの筋肉の前には貴様もダニ同然!」レッドゴリラがニンジャスレイヤーの脇腹へパンチを繰り出す!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは空中で腕を交差し危険なビッグカラテを防御!だが衝撃を殺す事はできず後方へ吹き飛ばされる!レッドゴリラが追い討ちにかかる。アロンダイト剣!

「イヤーッ!」縦斬りだ!体術で吹き飛ばした空中の敵を追いかけ、アロンダイト剣で追い討ちするのがレッドゴリラの基本セオリーだ。彼はこのコンビネーションで無数のニンジャを殺戮してきた!アブナイ!「イヤーッ!」吹き飛ばされながらニンジャスレイヤーはスリケンを大量に連続投擲!

「ヌッ……、ヌ……ヌ!?」レッドゴリラは ひるんだ。大量のスリケンがアロンダイト剣の一点に集中している。その数、十枚や二十枚ではない。アロンダイトのムテキ・アティチュードは完璧だ。ゆえにスリケンは弾かれるだけだ。しかしその無数のスリケンが刃を押し返している!「振……振れぬ!?」

 投擲は止まらない!秒間何枚のスリケンが飛んでいるのか!?「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「ヌウウウーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「ヌウウウーッ!」

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「ヌ……グワーッ!?」

 スリケン圧についに押し負け、レッドゴリラの体が開いた!「バカなー!?」ニンジャスレイヤーは背中から着地、ゴロゴロと転がりながら起き上がる!「あぶねぇ!」シルバーキーは咄嗟にバシダを抱え横に飛んで避ける!「アイエエエ!」バシダの悲鳴!

 そして横から飛び出したのは手負いのネザークイーンだ!「イヤーッ!」スリケン圧でのけぞったレッドゴリラの胸にヤリめいた飛び蹴りを叩き込む!「スッゾコラー!」「グワーッ!」レッドゴリラが吹き飛び、さきほどのビルに再度叩きつけられる!降り注ぐ瓦礫!ナムサン!朽ちかかりのビルが崩落する!

 飛び蹴りを決めたネザークイーンは膝をついて着地した。「ヌゥーッ!」傷は浅くは無いのだ。意地であった。その横をニンジャスレイヤーが通り過ぎる。崩落したビル瓦礫へ向かう迷いなき歩み!通り過ぎざまに彼はネザークイーンの肩を一度叩く。「休んでおれ」ネザークイーンは無言でしおらしく頷いた。

「ウ、ウオオーッ!」瓦礫を間欠泉めいて跳ね上げ、崩落したビルからレッドゴリラの巨体がが立ち上がった!その手には変わらぬアロンダイト剣!「ニンジャスレイヤーッ!」ニンジャスレイヤーはツカツカと進み出る……「ニンジャ殺すべし」「ウオオーッ!イヤーッ!」恐るべき重圧の斬撃だ!

 斜めから袈裟懸けに迫り来るヒューマン・ブレードをニンジャスレイヤーは横跳びに転がって回避!そしてスリケンをレッドゴリラの顔面めがけて集中投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」十数枚のスリケンの数枚はメンポの隙間のレッドゴリラの顔を実際傷つける!

「チョコマカとくだらん攻撃をーッ!」レッドゴリラは細かい血を飛ばしながら罵った。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーめがけてアロンダイト剣を叩きつける!ニンジャスレイヤーは今度は反対側に転がって回避!アスファルトにむなしく激突するアロンダイト!

「イヤーッ!」転がりながらニンジャスレイヤーはスリケン投擲!「グワーッ!」やはり十数枚中の数枚がメンポをすり抜け、レッドゴリラの顔を実際傷つける!「ダニめ!」レッドゴリラはアロンダイト剣を振り上げ、「イヤーッ!」叩きつける!「イヤーッ!」叩きつける!「イヤーッ!」叩きつける!

 しかしニンジャスレイヤーの回避、見事!その身を捉えれば真っ二つに肉と骨を断ち割るであろう致死的な斬撃を左右に転がってかわしながら、スリケンは容赦なくレッドゴリラの顔面を襲うのだ!「ヌウウーッ!」レッドゴリラが呻く。「コシャク!だがこんな痒いツブテで俺を傷つけられると思うか!」

 血を流しながら罵るレッドゴリラ。強がりめいてはいたが、事実の面もあった。これだけではこのレッドゴリラを倒すことはできない!少なくともニンジャスレイヤーを回避に専念させ続けている斬撃を攻略せぬことには……「アババババーッ!?」

 悲鳴はアロンダイトである!レッドゴリラがアロンダイトを振り下ろすまさにその瞬間であった。見事な両刃剣を形成していたアロンダイトのムテキ・アティチュードが突如解除されたのだ!「ナニーッ!?」レッドゴリラが振り下ろす手を中途で止めるには勢いがつき過ぎている!

 両手と頭を激しくバタつかせ、アロンダイトはレッドゴリラに足首をつかまれたままアスファルトに激しく叩きつけられた!「アバババババーッ!」ナムアミダブツ!レッドゴリラの強靭な肉体の全力で、アロンダイトは地面に力任せに打ちつけられたのだ。その衝撃はいかばかりか!?

「なぜ!なぜムテキを解いた!アロンダイト=サン!」レッドゴリラが叫んだ。だがアロンダイトの耳に届いているだろうか?アスファルトに亀裂を走らせ顔面からめり込んだアロンダイトは、痙攣しながら呻くばかりである。「アバッ…アババッ……」「ウヌーッ!一体これは……」「俺だ!」颯爽たる声!

 ニンジャスレイヤーとレッドゴリラは同時にシルバーキーを見た。シルバーキーは両手指をこめかみに当てながら勝ち誇る。「俺だぜ!ヒューマン・ブレードの旦那、あンた集中しすぎてニューロンがお留守だったな……ちょいと、くすぐらせてもらったぜ……おやおや、もう聴こえちゃいねェか?」

 ゴウランガ!なんたる油断ならぬ男、シルバーキー!レッドゴリラを挑発して回避に専念するニンジャスレイヤーの意志を、シルバーキーはテレパス能力で読み取っていた。ニンジャスレイヤーの指示は単純だった。『アロンダイトをやれ』、ただそれだけだ。

 ムテキ・アティチュードは極度の精神集中を必要とする。アロンダイトほどの硬質化を維持し続けるなど、並大抵の努力では実現できぬ事である。ムテキ・アティチュードに専念するアロンダイトのニューロンは、いわば表門に全てのバリケードを設置して裏門を無防備に開け放った状態であった。

 シルバーキーのジツは開け放たれたニューロンの裏門からまんまと滑りこみ、掻き乱したのである!「ヌオオオーッ!」レッドゴリラが激昂!痙攣するアロンダイトの足首を掴んだまま頭上へ振り上げ、地面に叩きつける!「アバーッ!」叩きつける!「アバーッ!」叩きつける!「アバーッ!」

 叩きつける!「アバーッ!」叩きつける!「アバーッ!」叩きつける!「アバーッ!」「この……役立たずのゴミがーッ!」レッドゴリラはボロ屑めいて血を流すアロンダイトをハンマー投げめいて振り回し、シルバーキーめがけて投げつける!「オオット!あぶねえ!」ブリッジして回避するシルバーキー!

「アー……アバッ!」路地をまっすぐに飛んだアロンダイトは突き当たりのビルの壁にトマトめいて爆ぜ、血肉の染みと化した!ナムアミダブツ!

「もう許さん!今更投降など認めんぞ!」レッドゴリラは激怒のあまりメンポの隙間から鼻血を噴出し、両拳を胸の前で激しく打ち合わせた。「貴様らのザイバツ裁判は俺がこの場で死刑宣告し死刑執行だーッ!」ニンジャスレイヤーは落ち着き払って両脚を開き中腰姿勢を取る。「スゥーッ!ハァーッ!」

「ウォォォー!」その巨体からは想像もつかぬようなスピードでレッドゴリラがニンジャスレイヤーに迫る!「スゥーッ!ハァーッ!」ニンジャスレイヤーはレッドゴリラを冷酷に睨み据えたまま、深くチャドー呼吸し、待ち構える。「スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!」

「ウォォォー!イヤーッ!」レッドゴリラの致死的左フック!トラックの衝突事故めいた勢いで左拳がニンジャスレイヤーを襲う!「……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは襲い来る左拳に己の右拳を叩き込む!「グワーッ!?」ナムサン!レッドゴリラの左拳がひしゃげ、指骨があべこべに飛び出す!

「ウ、ウォォー!イヤーッ!」レッドゴリラの決死の右フック!トラックの衝突事故めいた勢いで右拳がニンジャスレイヤーを襲う!「……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは襲い来る右拳に己の左拳を叩き込む!「グワーッ!?」ナムサン!レッドゴリラの右拳もまたひしゃげ、指骨があべこべに飛び出す!

「グワーッ!?バ、バカなアババーッ!?」破壊された両手から血を流し、レッドゴリラが後ずさる!ゴウランガ!ビッグカラテ敗れたり!己の巨体にまかせ、頭に血をのぼせた雑な打撃が、心身をチャドーしたニンジャスレイヤーの狙い澄ました打撃に打ち克つことなどできようか?否!できるわけがない!

「今宵、死刑宣告し死刑執行するのはこの私だ、レッドゴリラ=サン。ザイバツではない。私の裁判だ」ニンジャスレイヤーは苦しむレッドゴリラのワン・インチ距離まで進み出る。「ハイクを詠むがいい!」

「さ……先に行くぞーッ!パープルタコ=サンーッ!」レッドゴリラは絶叫し、丸太めいた脚で絶望的な蹴りを繰り出す!「イヤーッ!」だが、蹴りによる反撃を予測していたニンジャスレイヤーはレッドゴリラの脚を雑作無く両手で絡め取る!そしてそのままその身体を地面に……「イヤーッ!」叩きつける!

「グワーッ!」脚を持ったまま、振り上げ、反対側の地面に叩きつける!「グワーッ!」叩きつける!「グワーッ!」叩きつける!「アバーッ!」叩きつける!「アバーッ!」……叩きつける!「アババババーッ!」そしてハンマー投げめいて回転!アロンダイトが染みとなった突き当たりめがけ、投げつける!

「イヤーッ!」「サ……サ……」レッドゴリラの巨体が一直線に飛び、ビルの壁に叩きつけられる!「サヨナラ!」その巨体がそのまま爆発四散!降り注ぐ瓦礫!ビルが崩落する……!

 ニンジャスレイヤーはそちらを見もしない。バシダ、シルバーキー、よろけながら立ち上がるネザークイーンと向かい合う。ネザークイーンは気づき、頭上を見上げる。「ヤモト=サン」戻ってきたヤモトが彼らを見下ろす。ズタ袋めいて気を失ったプロセッサを引きずって!「お手柄よ、ヤモト=サン」

「ま、そんなわけで」シルバーキーが切り出した。「俺たちはこのバシダ=サンに用があるんでな。オイトマするぜ」バシダは蒼ざめたまま、呆けたように頷く。無理もない。非ニンジャ、非戦闘者のサイバネ医師がくぐり抜けるにはタフ過ぎるイクサであった。「ええ……ええ」ネザークイーンは同意した。

 ヤモトが屋上からプロセッサーを投げ落とし、自らもヒラリと飛び降りる。ネザークイーンはヤモトを見た。「ご覧のとおりよ」路地はクローンヤクザの死体や血しぶきでジゴクめいた有様である。「アータの初っ端の仕事としちゃ、色々オプションが付き過ぎたわね!」「それ……怪我……!」「痒いわ!」

「ネザークイーン=サン。ヤモト=サン。今回は我々のイクサに巻き込んでしまった事をお詫びする」ニンジャスレイヤーは二人に奥ゆかしくオジギした。ヤモトはネザークイーンを見た。ネザークイーンは肩をすくめ笑う、「いいの!いいのよ別に、ホントよ!アータのこと少し気に入ったわ、だからね!」

「……」「アタシとこの娘は、ニチョームの『絵馴染』にいるわ。何か困った事があったら訪ねてらっしゃい。話ぐらいは聞いたげるから」ヤモトをつつき、「とっとと行くわよ!腐れマッポのところにね!」「え、うん」話の見えぬヤモトは曖昧に頷き、ニンジャスレイヤーを見た。「オタッシャデ」「うむ」

「行こうぜ、早いとこ」足早に去ってゆくネザークイーンとヤモトの後ろ姿を見ながら、シルバーキーが言った。「またこんな大勢でザイバツの連中が来でもしてみろよ」「そうだな」ニンジャスレイヤーはバシダを見た。「申し訳ないが、一刻を争うのだ。出せるのはカネだけだが」「ええ……ハイ……」


◆◆◆


「アータはね、そこがダメ!アータは。そこがダ!メ!」「でもあの人とってもカッコイイし優しいこともあるの」「だーから!そこがダ!メ!優しいこともある、って何よ?こともある、って」「そうだよね……そうなんだけど……」「アーン!モー!」ドスン!彼はバイオバンブー製のカウンターを殴った。

 男……そう、男である、7フィートを超すたくましいボンズ・ヘアの男はエキサイトして、カウンター隣に座る丸々しい男にまくしたてた。「アータ、死神背負ってるわ!アータの我慢は……あらヤダ!前にもこんな事言った気がする!デジャヴ感じちゃう!て事はアータの悩みがそれだけ凡庸なのよ!もう!」

「凡庸!ヒドイ!」丸々しい男は憤慨した。「ザクロ=サンだって、なんだかよくわからないオトコに片思いしちゃって!なにが片思いよ!」「うるさいわね!」ザクロは叫び返した。そして急に芝居がかってウットリと、「アタシはいいの、美しい思い出ひとつあればそれで。もう十分なのよ」「オエーッ!」

「オエーとは何よ!マジロ=サン!アータなんか太って太ってスモトリになっちゃえばいいのよ!」「ヒドイ!……あらヤモト=サン、何よこれ!素敵!」マジロはカウンターに置かれた小皿を見て歓声を上げた。「生姜ムースです」ヤモトは照れたように笑いながら言った。「ザクロ=サンにも」「ンマ!」

「味はこれでいいのか少しわからない……」「あらヤダ!アータやればできるじゃない!お世辞じゃないわよ!……」「ホントよ!ザクロ=サンは甘味の味にはウルサイのよ、味にはね、オカワリほしいわ……」「マジロ=サン、スモトリになるわよ本当に!……」「……」「……」


【ウェイティング・フォー・マイ・ニンジャ】終


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