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【トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア】

◇総合目次 ◇エピソード一覧
この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードの加筆修正番は、上記リンクから購入できる第2部の物理書籍/電子書籍に収録されています。また、第2部のコミカライズが現在チャンピオンREDで行われています。


【トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア】

1

 ガイオンに響く鐘の音。湿った空気。オレンジ色の月を覆う乱れ雲。不安げにそれを見上げる鶴。夜のキョート城、西の大渡り廊下。その裏側に指先の力だけで張り付き、天地逆さまの姿勢で這い歩く、ひとりのシノビ・ニンジャあり。その装束は夜のしじまのごとき漆黒。彼の名はバンダースナッチ。

 バンダースナッチは木板に裏から耳を当て、渡り廊下の上にいる敵の人数を把握する。幸いにもニンジャはいない。武装したクローンヤクザが数名。殺すのは簡単だが、警報を鳴らされてはまずい。汗が滲む。下にはサンスイめいた小川が走り、彼の焦燥を逆撫でするかのような優雅さで、見事な鯉が泳ぐ。

 あと少し進めば、脱出の糸口が掴める。バンダースナッチが再び渡り廊下の裏を這い進もうとしたその時、川沿いに立つひとつの灯篭の横に、バンダースナッチは異様なニンジャの影を見た!顔にはフルフェイスめいたメンポ!手足は肘と膝の先が四角錐状の刃物に置換され、蜘蛛じみて音もなく歩く!

 ワッチドッグだ。ロードの護衛役にして、キョート城の徘徊者。厄介な狩人に目を付けられてしまった。「ちくしょうめが!」バンダースナッチは鉄棒運動の要領で勢いをつけ、欄干を飛び越すように曲線を描くと、渡り廊下の上へと軽やかに回転着地した。「アッコラー!?」銃を抜くクローンヤクザ!

「イヤーッ!」バンダースナッチは前後へ同時にクナイを投擲!「「アバーッ!」」額に突き刺さり即死!だがまだ二人のクローンヤクザが残っている。「「ザッケンナコラー!」」KBAM!KBAM!チャカガンが火を噴く。城の高みでは最高位のニンジャたちが戦闘音に耳を澄ましながらチャを嗜む。

「イヤーッ!」バンダースナッチは欄干を蹴り、サマーソルト・ジャンプでクローンヤクザの銃弾を回避すると、膝立ち着地と同時に左右にクナイ・ダートを投擲する。「「グワーッ!」」即死!彼はそのまま西の離れに向かって渡り廊下を駆ける!だがワッチドッグが跳躍から着地し、行く手を阻んだ!

 ウカツ!ワッチドッグのこの素早い跳躍は、全くの予想外であった。「ド、ドーモ、バンダースナッチです」ギルドを破門されたばかりのシノビ・ニンジャは、タタミ三枚の距離で隙の無いオジギを決める。「カチカチカチカチ……ドーモ、バンダースナッチ=サン、ワッチドッグです」無表情なアイサツ!

 数時間前までアデプト位階であったニンジャ、バンダースナッチは恐怖した。俺に与えられた罰と、この奇怪な番犬ニンジャに与えられた罰、果たしてどちらが真に恐ろしいものかと。ワッチドッグはかつて、ギルドの禁忌を冒してロードの御尊顔を直視してしまったため、思考能力を破壊されたと聞く。

 だが罰を与えられつつも、ワッチドッグはその能力を買われ生かされたのだ。インペイルメントと同じく。ならば俺はどうか。バンダースナッチはカラテを構え自問する。彼に与えられた罰は死の脱出遊戯。生温い風が吹き、「ナムサンポ」と書かれた川沿いのノボリを揺らす。そして彼はクナイを抜いた!

「イヤーッ!」一直線に投げ放たれる鋭角の鋼鉄!連続で四本!バンダースナッチの動きはとても素早い!「カチカチカチカチ」だがワッチドッグは前脚で頭部を難なくガードする。弾き返されるクナイ!這い歩く人間に対して有効な射撃部位は頭部のみであり、敵がそこを狙うのは解りきった事なのだ。

「カチカチカチカチ……」ワッチドッグが金属の前脚を下ろす。バンダースナッチがいた場所には白い煙が漂い、その気配は消えていた。ワザマエ!シノビニンジャ・クランが用いるギアのひとつ、スモークボムである。彼はワッチドッグと戦う気などハナからなく、逃げることだけを考えていたのだ。

 バンダースナッチは西の脱出ルートを諦め、東のホンマルへ駆け戻っていた。警報を鳴らされたからには、庭園に出られてもケイビインに殺されるのが関の山だ。彼は敢えてホンマルへ向かい、ロードに対して恩赦をジキソする賭けに出た。ワッチドッグが背後にいるならば、警備はわずかに手薄のはず。

 的確な状況判断、かつ大胆な行動力!何故俺はこれをもっと早く発揮できなかったのか。バンダースナッチは悔しさに歯噛みしながら、常人の三倍の脚力とロードの慈悲を信じて駆けた。「ニューワールドオダー」「格差社会」「徹底な」……薄暗い廊下に飾られた訓示ショドーがボンボリに照らされる。

 バンダースナッチは僅かな減速も惜しむように、壁を蹴りながらL字路を曲がる。両脇のショウジ戸から交互に突き出すサスマタ・トラップを回避しながら、速度を落とさずに駆けた。だが長い廊下の先に現れたのは、先回りしてきたワッチドッグの影!「ダミット!」後方を振り返るバンダースナッチ!

「ドーモ、バンダースナッチ=サン、レッドクリーヴァーです」後方のL字路に姿を現したのは、新たな追っ手ニンジャ!大柄な体躯をオーバーオール型ニンジャ装束で包み、大鉈を構えたその姿は、無慈悲な屠殺者を思わせる。逃げ場なし!前門のタイガー後門のバッファローのコトワザじみた状態だ!

 

◆◆◆

 

 小茶室に正座するその女ニンジャは、丸ショウジ窓の彼方から聞こえてくる悲鳴と爆発四散の音に顔をしかめた。直後、キョート城は奥ゆかしいウシミツ・アワーの静寂に包まれ、ホーホーホホウという梟の声と、どこかで奴隷オイランの爪弾く陰鬱なペンタトニック・スケールのオコト音だけが微かに。

「空はこうも晴れているのに、陰湿なものですね」と女ニンジャ。艶のある長い黒髪。けぎよい赤の和服。その胸は豊満であった。彼女の名はユカノ。ドラゴン・ニンジャクランの頭領ドラゴン・ゲンドーソーの孫娘であり、忘れ形見である。そして今はザイバツ・シャドーギルドに囚われの身であった。

「そういった皮肉は、ハイクで表現する」パラゴンが黒いヒシャクを茶釜の中に差し入れ、緑色の液体をユカノの前の陶器に注ぐ「キョートではな」。見事なプロシジャであるが、一抹の無骨さも垣間見える。彼が生来の貴族ではない証拠だ。だがそれを敢えて指摘するシツレイ者はギルド内にはいない。

「先程の爆発は」ユカノが問う。「客人が気に病むことは無い。キョート城の警備を万全にするために定期的に行っている、タイホ訓練だ」パラゴンは鼻でふんと笑った「侵入者に対しても、脱走者に対しても、万全に対応できるようにな」それは即ち、妙な考えを起こさぬようにという牽制でもあった。

「客人?」ユカノが露骨に不愉快な顔を作る。「左様」パラゴンがセンスを胸元から取り出し、チャガマを仰ぎながら答える「ザイバツ・シャドーギルドが理想世界を築き上げるために、貴女の力が必要なのだ。ずっと探していた」「私の気持ちは、どこにあるのですか?」ユカノはチャに手をつけない。

「記憶は戻っていると聞いたが……」とパラゴンは立ち上がる「確認のために、名は?」「ゲンドーソーが孫娘、ドラゴン・ユカノ」彼女は力の宿った瞳でそう答えた。パラゴンは少し思案してから、含み笑いを漏らす。「それは、違う」「……何が違う?……ドラゴン・ニンジャクランを愚弄するか?」

「ついて来るといい。城内を案内しよう」パラゴンは取り合わない。フスマを開き振り返ると、宗教扇動者めいて両手を大仰に広げ、こう言った。「我らが結社の理念を語ろう。きたるべき理想世界を。さすれば、貴女は進んで我がロードへの助力を申し出るはずだ。力を失った哀れな神話級ニンジャよ」

 

◆◆◆

 

 キョートジョウ・キャッスル内に数多く存在する茶室のひとつ、バンブー・レフュージ。竹林を模した室内には小さな庵があり、白石を敷き詰めた庭には翼の腱を切られた愛玩用のオーガニック鶴たちが三羽、長い脚をしとやかに運んで静かに岩の苔を啄む。タタミに座すのは二人のグランドマスター。

 グランドマスターの地位は平等であり、ギルド内に派閥は存在しないことになっている。ニンジャが人類を支配し、ショーグン・オーヴァーロードの末裔たるロード・オブ・ザイバツがその頂点に君臨するニンジャ・ミレニアム実現のために、全てのギルド員は邁進するがゆえ。……くだらぬタテマエだ。

 そのくだらなさを最も良く知るのが、この二人のニンジャ……パーガトリーとスローハンドである。彼らはニンジャとなる以前から貴族であった。ギルド内においてソウル憑依前の階級や出自を詮索することはシツレイにあたるが、血の優等性を信じてやまぬ彼らは、息を吐くように派閥を作り上げる。

「ここへきて改めてイグゾーション=サンの死が悔やまれる」「しかも汚名を着せられた上でのこと」……かつてイグゾーションが存命であった頃、彼らの貴族派閥はギルド内で最大の勢力を誇っていた。しかしダークニンジャとニンジャスレイヤーの出現以降、派閥間の力関係は大きく揺れ始めている。

「果たして、どこから歯車が狂い始めたか……むろん、ロードの絶対性を疑ってはおらぬが、しかし……」スローハンドが思案する風にチャをすする。「……あの蛇めが、毒の舌でロードの御心を乱しているからでは」パーガトリーが鶴を撫でながら答える。導かれた答えであると自分でも気付かぬまま。

「乱れ雲/鶴の羽には/毒の蜘蛛」スローハンドが特殊な作法でチャワンを動かしながら、悠々とハイクを詠む。一見すると、今宵の情景を詠っだけのようにも思える。パーガトリーも同じ作法でチャワンを動かす。蛇、鶴、蜘蛛、そしてこのチャワンの軌跡は、すなわちパラゴンを意味する符牒である。

 暗号を使っているとはいえ、危険な内容である。暗黒メガコーポの幹部連中であれば、南極基地の違法プロキシサーバを介した秘密IRCを利用しただろう。だが、ニンジャソウル憑依者……特に高位のソウルを宿した者は、何故かネット技術に不信感を抱くことが多い。とりわけLAN直結やIRCに。

 加えて、ザイバツは人間に対するニンジャの優越性を礎とするため、サイバネによる能力補完者はさらに評価が低くなる。特に貴族派閥はこれを毛嫌いする。ディセンションの頻発により多様性が増し、サイバネ者も増えたが、IRCコトダマ空間の存在は未だギルド上層部に認知すらされていないのだ。

「イノシシ」「鹿」「バタフライ」「チャが旨い」二人は回りくどいプロシジャを用いながら、パラゴンや他派閥の動きに対して策を講じる。不意にフスマがノックされ、タイホ訓練を終えたケイビインが現れた。二人はケイビインをにこやかに迎え、話題を次期グランドマスター候補の件にすり替えた。

 

◆◆◆

 

「……かようにして、ニンジャに統治された理想世界を作り上げるのが我らの目的」。パラゴンは指先のサイバネ装置から暗号レーザーを照射し、美術品の間のロックを解除した。その縦長の広間には、大英博物館めいて様々な調度品や美術品が所狭しと並べられ、中央には長い赤絨毯が敷かれている。

 パラゴンに促され、ユカノは赤絨毯の上を歩いた。カタナ、ヨロイ、ヌンチャク、グンダン、ショドー、ボンザイなどのありふれた古美術品から、ニンジャ水晶ドクロ、黄金スリケン、ファラオめいた大理石像など、古代ニンジャ文明のオーパーツとでも呼ぶべき宝物まで、様々な物品が収蔵されている。

 美術品の解説を始めるパラゴン。石造りの広間でその声が厳かに反響する。「こんなものを見せて、どうだと言うのです」ユカノが言葉を挟んだ「そもそも何故、ニンジャが人を支配する必要があるのですか」「獅子が鹿を食い殺すのと同じ理屈……」パラゴンが答える「当然のことであり、喜びである」

「加えて、私は真に気高きものが不当な扱いを受けていることが、絶対に許せん」パラゴンは先へ歩みながら続けた「私は完璧主義者だ。世界があるべき姿に戻ることを心から願っている。低俗な人間社会の害毒と科学技術が、ニンジャソウル憑依者となる以前のあの御方を大いに苦しめたのだ……」

 今宵のパラゴンはいささか饒舌になり過ぎていた。ギルド員の前では絶対に語らぬ秘密を、かくも軽々しく仄めかそうとは。だが、無理からぬことだ。長年捜し求めていたパズルの最後の1ピースが、こうして手元に揃ったのだから。「……そして貴女だ。何故、正統な権力を取り戻そうとしないのか?」

「正統な権力?」ユカノは怪訝な顔を作った。「数千年を生きるリアルニンジャとしての地位」パラゴンが言った「ニンジャ・ミレニアムが到来すれば、当然のごとく、ロードに次ぐ地位として崇め奉られように」「またそのくだらぬ話ですか。私はドラゴン・ゲンドーソーの孫娘……」ユカノが遮る。

「父母の名は?」パラゴンがさらに遮る。「物心つく前に死んだ故、聞かされておりません」「貴女の歳は?」「記憶が正しければ、20と少し」「サラマンダー=サンらがドラゴン・ドージョーで修行を積んだのは何年前か?」「十数年前……」「その頃の記憶は?」「幼すぎて覚えが……しかし……」

 パラゴンは指先のレーザーで、絵巻のひとつを指し示す。展示エリアはいつしか、絵画やビヨンボのためのそれに変わっていた。中世……江戸時代だろうか。ダイミョやサムライたちが会議を行う隣の茶室でニンジャたちが座し、捧げられたコーベインを数えている。闇の世界の真実を描いた禁断の絵だ。

「それが一体……」ユカノは途中まで言いかけ、絶句した。十数名のニンジャの中に、赤い和服を着た黒髪の女が混じっている。ユカノに極めて似通った顔立ちと髪型。その胸は豊満であった。「その和服は貴女が自分で選んだものだったな」とパラゴン「何十色もある和服の中から。赤が好きと見える」

「偶然の一致……」ユカノが言いかけると、パラゴンは別のビヨンボを指す。これはさらに古い……おそらくは平安時代のものであろう。ユカノは激しい動悸を覚えながらそれを見た……おお、ナムサン!ニンジャ同士が浜辺で合戦を繰り広げる壮大な絵の中に、やはりユカノめいた女ニンジャの姿!

「高級フートンでよく眠り、自分が何者かを見つめなおすことだ」パラゴンが言った「最終戦争がこの地上を覆う前に。イクサの時は近い。古事記に記されし、ニンジャたちのラグナロックが到来する。その先には輝かしきニンジャ・ミレニアムが待つだろう。この地上は一度ジゴクに変わらねばならぬ」




2

 キョート城敷地内に建つ幽閉塔の一室。オーガニック・タタミが敷き詰められ、虜囚のリラクゼーション効果を高める。床の間、チャブ、掛け軸……物々しい特殊合金製の小窓を除けば、最高級オイラン旅館を思わせる広々とした作り。スシを食し終えたユカノは、安らぎフートンの中に横たわっていた。

 五枚重ねのフートン・マットレスはニルヴァーナの如き優しさで彼女の身体を包み込み、トンボの墨絵と「安らぎ」のショドーが繰り返された最上級フートンが羽のような軽さと温かさで彼女を抱いている。ショウジ戸を挟んだ廊下にはボンボリの柔らかい灯りが揺れ、番のニンジャが巻物を読んでいた。

 ジジジ、と何かが焼け焦げる小さな音。蛾がボンボリの中に飛び込んだのだろうか。一瞬だけ赤さを増した炎がショウジ越しに忍び込み、「不如帰」と書かれたショドーに格子型の影を落とす。ユカノのニューロンに去来するのは、パラゴンに告げられた言葉と、老朽ディスクめいて断片化した自らの記憶。

 (((……マルノウチ抗争の目的のひとつは、他ならぬ貴女だった……)))響くパラゴンの声。ユカノは天井を見上げ、逃げ場の無い迷路を彷徨うかのように、木目の道を目で追った。見事な木目のヒノキ一枚板が右から左へと続き、少しだけパターンの異なった板材が、その上下にループしている。

 (((パラゴンの言葉は毒だ……私を混乱させようとしている……平安時代から生きているなどと……)))ユカノは残響を否定する。記憶を手繰る。記憶のレイヤを下る。シャドー・コン。イッキ・ウチコワシ闘志時代。アワビの森。ドラゴン・ドージョー……秘密を守るために何度かその場所を変えた。

 テツオ……フジキド・ケンジ……サラマンダー……アンサラー……ドラゴン・ゲンドーソー……時系列を遡るたびに脳内映像の粒子は粗くなるが、縁者たちの顔が順にソーマト・リコールする。何の破綻も無い。ユカノは安堵の息をつく。これこそが自分だと。だが次の瞬間には、別の戦慄が彼女を襲った。

 数名の弟子の顔が続き、しばしの空白。若い男の顔。名前すら知らぬ父親だろうか、とユカノは考えた。だが、ニューロンは無慈悲にも電気信号を伝え、その男がゲンドーソー自身であることを告げた。ユカノは記憶の潜行を止める。実際、その先のレイヤには修復不能なほど断片化された暗い闇があった。

 気丈なユカノも心細さを覚えた。何か寄る瀬はないのかと。だがゲンドーソーは死に、サラマンダーは爆発四散した。ならばフジキド・ケンジは……彼はまだ生きているのか?そのはずだ。強大で邪悪なニンジャソウルを憑依させている。容易くは死ぬまい。生き地獄を生きているのだ。その原因は自分に?

 ニューロンは混濁を始める。重圧。途端に、猛烈な眠気が襲う。思考停止の甘い誘惑。朝目覚めた時には、全てが解決されているという得体の知れない確信。不甲斐なさに対する怒りが、辛うじてそれに抗う。何か音はないか、と考えた。こんな時に己を鼓舞する楽はないかと。だが何も思い出せなかった。

 

◆◆◆

 

 キョート城、晩餐の間。奴隷オイランたちが弾くパイプオルガンの荘厳な調べの中、ロード・オブ・ザイバツとパラゴンがたった二人で夕食をとる。オーガニック和牛ステーキを切るナイフの音が静かに響く。卓上ボンボリの照明だけが、闇の中に彼らの姿を浮かび上がらせる。

「ムフォーフォーフォー……」顔を露にしたロードは、銀製のフォークで肉の一枚を口元へ運ぶ。ほとんど歯を噛み合わさずとも、肉は口の中で溶けてしまう。最高級の和牛は、肉の味をいつまでも愉しみたいと願うカチグミ老人たちのためにバイオ品種改良を重ねられ、冒涜的なまでの柔らかさを誇る。

「パラゴンよ、あのユカノとやら……我らが捜し求めていたフィメール・リアルニンジャに相違ないのだな?」「いかにも、マイロード」パラゴンが恭しく答える。彼はギルド内でロードの素顔を知る唯一の下僕である。そしてその事実すらも秘匿されているのだ。「ムフォーフォーフォー、苦しうない」

「ムフォーフォーフォー……絶滅したとばかり思っておったが……結局はアラクニッドの……占いの通りであったか。……記憶はどうか?」「戻っておりませんが、支障はありますまい。いざとなれば、力づくで事を運びますゆえ……」「ムフォーフォーフォー……ムフォーフォーフォーフォー……!」

 

◆◆◆

 

 ユカノは正座し、反省していた。自分が神話級ニンジャであったとしても、ゲンドーソーの孫娘であったとしても、運命に流され不甲斐ない姿を晒していることに変わりはないのだと。「ここは気分が滅入ります、何か音楽を」そう告げると、不夜番をしていた青二才のニンジャは慌てて階下へ向かった。

 ユカノは息をついた。眠っていたならば、目覚めた時には別人のように変わり果てているのではないかという、漠然とした不安があったからだ。その直後、大鴉が小窓の外に舞い降りたのかと、彼女は錯覚した。平安ゴシック様式めいた、刺々しい小窓の外に。だが実際には、虚無僧笠のニンジャだった。

 

◆◆◆

 

 いくつもクナイ・ベルトを巻いたその年若きニンジャ……シャドウウィーヴは、シツレイにならぬよう奥ゆかしい足どりで再び階段を登った。ユカノの見張りは当初ダークニンジャに任せられていたが、ゲンドーソーの仇である彼がいらぬ刺激にならぬようにと、シャドウウィーヴにマルナゲされたのだ。

「奴隷オイランの奏でる曲はお嫌いと申しておりましたので……」シャドウウィーヴはショウジ戸の前で正座しながら言った。そして正しい作法でショウジ戸の端を少しだけ開き、赤漆塗りのオーガニック木籠を差し入れると、すぐに戸を閉じた。「……これは?」「笛と、小さいオコトと、タイコです」

「私に自分で奏でろと?」ユカノは思わず笑った。先程までの思い詰めた悲愴な雰囲気が消え、いくぶん人間らしくなっていた。大鴉はすでに、影も形もなく消えていた。「シ、シツレイだったでしょうか」シャドウウィーヴは焦った。ダークニンジャから与えられた栄誉ある任務に、泥を塗ったのかと。

「普通、貴方が奏でるものでしょう」「私にそのような才能はありません……御座いません故……」シャドウウィーヴは畏まった。「おや、これは……?」ユカノは何か黒い電子機器を見つける。スイッチを捻ると、サイバーテクノが流れ始めた。「レディオも入れておきました」「気が利いていますね」

 ユカノは気晴らしにチューニング・ダイアルを回す。激しいノイズ交じりの音楽やニュース、ペケロッパ・カルトの違法煽情放送などが聞こえた。シャドウウィーヴはこれを手柄と考え、胸を撫で下ろした。そしてこの任務の責任の重さと、己の衝動の間に強い葛藤を覚えた後、堪えきれずにこう聞いた。

「醜いものでしょう、ガイオンは……人間社会は。腐臭を放つ骸です。吐気がするほど汚くおぞましい、一度焼き払われるべき世界なのです。理想世界のために。……どうか、シツレイでなければ教えてください、貴女の眼から夜はどんな色に見えているのか。人間社会は、どれほど下劣に見えるのかを」

 彼が上から聞かされていたのは、ユカノが由緒あるドラゴンニンジャ・クランの血統である、という事だけ。彼女と怨敵ニンジャスレイヤーとの繋がりを、彼は未だ知らない。シャドウウィーヴにとってこのリアルニンジャは崇拝すべき対象であり、夜と死と竜と破壊と不死と支配と暗黒の象徴であった。

 リアルニンジャが見る夜は、さぞや穢れなく暗く深く美しいものであろうと、彼は考えたのだ。むろん、ロードの神々しさや亡き師ブラックドラゴンの語った理想に疑いを抱いてはいない。だが位階を登り始めた彼は、ギルド内に存在する政治的駆け引きに気付き、無意識のうちに嫌悪を始めていたのだ。

「醜いものでしょう、ガイオンは……人間社会は。腐臭を放つ骸です。吐気がするほど汚くおぞましい、一度焼き払われるべき世界なのです。理想世界のために。……どうか、シツレイでなければ教えてください、貴女の眼から夜はどんな色に見えているのか。人間社会は、どれほど下劣に見えるのかを」

 彼が上から聞かされていたのは、ユカノが由緒あるドラゴンニンジャ・クランの血統である、という事だけ。彼女と怨敵ニンジャスレイヤーとの繋がりを、彼は未だ知らない。シャドウウィーヴにとってこのリアルニンジャは崇拝すべき対象であり、夜と死と竜と破壊と不死と支配と暗黒の象徴であった。

 リアルニンジャが見る夜は、さぞや穢れなく暗く深く美しいものであろうと、彼は考えたのだ。むろん、ロードの神々しさや亡き師ブラックドラゴンの語った理想に疑いを抱いてはいない。だが位階を登り始めた彼は、ギルド内に存在する政治的駆け引きに気付き、無意識のうちに嫌悪を始めていたのだ。

「退屈しのぎに話してあげましょう。社会のことは詳しくありません。物心つく前から、人里離れたドージョーでカラテです。今時の歌も知りません。あなたはどうなのです」レディオを弄りつつ返した。「歌など……低俗な人間に紡がれたものなど何ひとつ、尊敬しておりません」とシャドウウィーヴ。

「夜は、貴女にとって夜とは何ですか」とシャドウウィーヴ。「夜はフーリンカザンのひとつ。私はザゼンし、呼吸を整えてそれと一体になり、歩み、駆け、跳躍し、殺すでしょう。……しかし寂しいものでもあります。独りで夜を歩むのは。それがもし際限なく繰り返される夜だとしたら、なおのこと」

「それは……どういった意味を……」彼は緊張しながら問う。「……風情がありませんね」不意にユカノは、にべもなく言った。「た、大変申し訳ありません」「飽きました。もうフートンに入ります。逃げ出さないよう、そこで見張っていなさい」この青二才の前では、そう振舞うのが得策と思われた。

 シャドウウィーヴの扱い方はおおよそ解った。気まぐれな、孤城の姫のようにでも振舞っていればいいのだ。精神的優位に立っておけば、後々何か役に立つだろう。ユカノはフートンに入り、作戦を練った。数時間前のユカノとは、明らかにニンジャ存在感が異なっていた。彼女には目的ができたからだ。

 シャドウウィーヴの名誉のために付け加えるならば、彼はただの豊満さや話術に魅了されたわけでは、断じてない。ニンジャ存在感、アトモスフィアに呑まれたのだ。果たしてこの短時間に何があったのか?幽閉部屋の小窓に舞い降りた大鴉とは何だったのか?……いささか時間を巻き戻らねばなるまい。

 

◆◆◆

 

 暗殺者か?ニンジャソウルの気配を感じ取ると、ユカノは無意識のうちにジュー・ジツを構えて臨戦態勢を取り、小さな格子窓に向き直った。しかしアンブッシュの様子は無い。代わりに、虚無僧笠を被ったその影は、難儀そうな姿勢でアイサツをした。「ドーモ、ユカノ=サン、ジャッジメントです」

「ドーモ、ジャッジメント=サン。ユカノです」油断の無いアイサツが返る。直後に、虚無僧は押し殺した声でこう続けた。「ちょっと待ってくれよ、ユカノ=サン。まだ終わりじゃないぜ。早まるなよ。俺にはいくつも名前がある……ええとな、ジャッジメント、ディテクティヴ、カラスニンジャ……」

 ギュンギュンギュンギュン、とレディオに異常ノイズが混じる。彼の操作する対盗聴装置用違法ジャマーが作動している証拠だ。幸いにも盗聴装置は実際存在しなかったのだが、探偵とはこうしたガジェットに拘りを持つものなのだろう。「……タカギ・ガンドー、そしてニンジャスレイヤーのお友達だ」

 ユカノはこの不恰好な虚無僧ニンジャの振る舞いに、小さく破顔した。そして、カラスニンジャとは……どこかで聞いた覚えがあるが、思い出せない。いや、それより重要なのは……「ニンジャスレイヤー……生きているんですね?」「ああそうだ。時間が無い。手短に話そうぜ。あんたを助け出したい」

「今?」「気が早いな、オヒメサマ。アクション映画のようにはいかねえ。厳重すぎる。策が無い。キョート城を調べ始めたばかりでな。だがあんたの場所は解った。また近いうちに来る。だから早まらないでくれよ。あいつが哀しむだろうぜ」「あの人にこそ、早まらないように伝えてください」

 僅かな時間で、ユカノとディテクティヴは可能な限りの情報交換を行った。「……敵はあまりに強大です。私は大丈夫です。客人として丁重に扱われています。行動を起こす時までは従順な振りをしていましょう」ユカノはいつしか、イクサの顔になっていた。誇り高きドラゴンニンジャ・クランの顔に。

「行動?」ガンドーが聞く。「ザイバツ・シャドーギルドの寝首を掻きましょう」「オイオイオイ、随分物騒なオヒメサマだ。あんたは何もそこまで体を張る必要は……」「あの者どもは、ドラゴンニンジャ・クランの最後の末裔を愚弄しました。理由は十分です。私はドラゴン・ユカノです。戦います」

 暫くして。ガンドーと別れ、シャドウウィーヴをあしらい、再びフートンに入ったユカノの顔は、これまでになく晴れ晴れとしていた。イクサだ。城攻めだ。胸が躍った。自分が何者なのかは、徐々に取り戻せばいい。今はドラゴン・ゲンドーソーの孫娘、ドラゴン・ユカノ。それはシンプルで好ましい。



3

「キョートは素晴らしいですね」「本当ですね」「日本人の心ですね」夜のキョート城外縁。ネオサイタマから来た観光客がリキシャーを一時停止させ、お堀の近くに下りた。奥ゆかしくライトアップされたキョート城を彼方に見上げ、彼らは思わず溜息をつく。「記念写真を撮りましょう」「いいですね」

 二人のサラリマンはオイラン遊びでかなり酔っており、足元がおぼつかない。別の高級オイランクラブに向かう道中、夜風に当たって酔いを醒まそうと、キョート城外縁の柳街道を観光していたのだ。「オットットット!この辺ですか?」「オットットット!もっと右ですよ!キョート城が隠れますよ!」

「この辺りは撮影禁止ですよ。市の観光条例で……」リキシャードライバーが声を潜めて言う。「うるさいな!チップを期待してるんだろう!顔に書いてあるぞ!」カメラを構えていたイタマは万札を取り出して後ろに放り投げる。「キョートの史跡は素晴らしいが、今住んでるのはケチな連中ばかりだ!」

 ネオサイタマの酔漢たちが大声で話すさまは、いかにも風情が無い。「オットット!もっと右……こっちですかねイタマ=サン!?それにしても、さっきのオイランのおっぱいときたら」「ショドーム=サン、そっちは後ろですよ!危ないですよ!」中腰でカメラを構えていたイタマが、慌てて立ち上がる。

「オットットット!アイエッ!?アイエエエエエエエ!?アイエーエエエエエエエエエエエエ!」ショドーム副課長はお堀の端で足を踏み外し、そのまま落下していった。「ショドーム=サン!」イタマが絶叫する。SPLASH!夜のしじまを破る水音。「ブハァーッ!」ショドームが水面から顔を出す。

「……何だ?」イタマは、お堀の水の中をショドームに向かって泳ぐ青白い影を見た。その頭部には蛍光ピンク色の角が二本。観光ガイドブックで見た覚えが。次の瞬間、三匹のバイオリュウグウノツカイが間欠泉めいて勢いよくその姿を表した!空中に放り上げられるショドーム!「アイエエエエエエ!」

 キョート城のお堀を守る恐るべき番人、バイオリュウグウノツカイは、その貪欲な牙と首から生えた不気味なピンク色の触手で新鮮な餌を奪い合った!「アイエエエエエ!」四肢を引き裂かれ、怪物の口の中に放り込まれるショドーム!堀の端にへたりこんだイタマは、血飛沫を浴びながら失禁していた。

 直後、キョート城側から漢字サーチライトが水面に向けて照射される。ハンドライトの灯りが、柳街道の側からもいくつも近づいてくる。彼らは黒いスーツにサングラス、サブマシンガンという出で立ち。全員が同じ背丈で、同じ髪型をしていた。「観光客の方ですか?」その一人がイタマに問う。「ハイ」

「あなたはカメラで撮影しようとしましたか?」「ハイ」「ここは撮影禁止区域ですよ?」「ハイ」イタマはリキシャードライバーに助けを求めようとしたが、彼はもういなかった。「あの、副課長が転落したんですが……」「それはあとで手続きをします。キョートの観光法に従いなさい」「アッハイ」

 キョート城は世界各国から観光客を引き寄せるアイコン的存在であるにもかかわらず、一般市民や観光客の立ち入りは外縁までに限定され、内部は厳重な警備下に置かれている。表向きは文化遺産保護のためだが、その真の理由は、ここが邪悪なニンジャ組織ザイバツ・シャドーギルドの本拠地だからだ。 10

 だがキョート城とザイバツの秘密を守る最も強力な武器は、狡猾に操作された観光法でも、数百人体制のクローンヤクザでも、バイオリュウグウノツカイでも、ケイビイン一派による不断の監視体制でもない。それはキョジツテンカンホー・ジツ……ロード・オブ・ザイバツが使う得体の知れぬ力である。

 そしてその力の全貌を、ニンジャスレイヤーたちは未だ知らない……。

 

◆◆◆

 

「と、外縁部から本丸までには三重のお堀が横たわってやがる。水の中には巨大ウナギだ。顔はカワイイだが、できれば関わり合いになりたくねえ」……ここは暗い秘密作戦室。ガンドーはUNIXチャブの上に投影されたワイヤフレーム映像を指差しながら、フジキドに敵本拠地の防御体制を説明する。

 明らかになっている内部構造は、全体の30%弱。それも正確なデータを入手したわけではなく、ガンドーやモーターチイサイが潜入時に収集した画像データをもとにしたものだ。「ユカノは今どこに?」フジキドが問う。「最初はここだ」ガンドーがLAN直結で情報を転送。幽閉塔の座標が点滅する。

「そして、今はここ」ガンドーが指差す。敷地内日本庭園に建つホウリュウ・テンプルの座標が点滅する。「地下座敷牢に移された。警備をより厳重にするためだろう」ガンドーは部屋の隅に置かれた虚無僧笠に一瞥をくれる。真っ二つに切り裂かれ所々が焼け焦げていた。「割と気に入ってたんだがな」

「中にニンジャはどれだけいる?」「予想もつかねえぜ。グランドマスター級が少なくとも……5人以上」絶望的な数字だ。「空はどうだ? セスナか何かを使って直接……」フジキドが提案する。「キョート・リパブリックの哨戒機編隊をかいくぐれるなら、考えてもいい。だが……俺は遠慮したいね」

 苦しい状況だ。人質を取られているという点では、ソウカイヤを滅ぼした時と似ている。だがあの時は……それまでにシックスゲイツを次々と殺し、ソウカイヤを弱体化させるだけの十分な時間があった。だが今回は……。「やはり私が正面突破でユカノを……」「オイオイオイオイ、結局それかよ……」

 ガンドーが勘弁してくれのジェスチャーを作る。「何のためにこの前の救出作戦を見送ったか思い出せ。……アセるな。気持ちは解る。俺たちがやらにゃならんことは二つ。ザイバツを一撃でツブし、同時にユカノ=サンを救い出す。そのための手掛かりを、ユカノ=サンは体を張って探してるんだろ?」

 ガンドーはポットからマッチャを注いで、お友達の前に置く。「彼女、記憶喪失だって言ってたな?」とガンドー。フジキドはハンチング帽を目深に被り直し、マッチャを啜りながら頷く。「戻ったのか?」「恐らくは……。だが、何と言うか。以前とアトモスフィアが違う。どこか危うさを感じさせる」

「危ういだって?ニンジャスレイヤー=サン、人の事は言えねえだろ」ガンドーは笑った。「ずっとそうだ。俺の探偵事務所にやってきた時から、危ういなんてモンじゃねえ。ミヤモト・マサシのコトワザ……何て言ったっけな……『急ぐと死ぬ』……そんな類のやつだ。急ぎ合ったら、どっちも死ぬぜ」

「すまぬ、その通りだ」フジキドはチャを啜り、逸る気持ちを抑えた。ゼン・マインドが重要だ。ゲンドーソーがいれば、表現は違えど同じ事を言っただろう。「作戦の立て直しだ。前回の通信によると、ユカノ=サンは何らかの儀式のために攫われ、幽閉されている」ガンドーはカレンダーを投影した。

「そしてその儀式が執り行われるのは、次のブツメツ……。それまではユカノは無事、という話だったな」フジキドは内心穏やかならざる気持ちで返した。儀式という言葉の響きが焦燥感を掻き立てる。「ああ、連中の性質上、全ニンジャを琥珀ニンジャ像の間に集めた、盛大なセレモニーになるだろう」

 儀式の詳細は不明。その結果何が起こるのかも、正確には不明……ユカノがパラゴンから聞いた言葉を信ずるならば、この世の地獄が訪れ、キョートは炎によって焼き払われるという。終末教団が使いそうな、陳腐な常套句だ。だがこれがニンジャ秘密結社となると、ありえない話ではないと思えてくる。

 儀式直前までは、ザイバツの弱点を突くべく可能な限り情報収集や下準備を行う。そこまではいい。儀式の日に乗り込むというのも理にかなっている。全体の警備が手薄になるのは道理。だが結局のところ問題は、どこからどうやって乗り込むかだ。このままでは、作戦会議は振り出しに戻ってしまう。

「で、俺とナンシー=サンはここに目を付けた」ガンドーがチャを啜って指差すと、地下に走る荷物搬入口のひとつが点滅した。小さなウィンドウがいくつも開き「明らかな業者用」と補足が入る。「……これは?」「ヨロシサンやオムラの連中が使う搬入路だ。普段は分厚い隔壁でロックされている」

「だが、ここをハッキングで開くのは至難の技…」ガンドーが言いかけた時、チャブの隅に置かれたモーターチイサイが突然浮遊し、「重点!重点!」とユカノからの着信を告げた。セキュリティの都合上、ユカノとの通話時間は限られている。一秒も無駄にはできない。3D通話モードがONになった。

「ヌンヌンヌンヌン……」モーターチイサイから円錐状のホログラフィが投射され、座敷牢に正座するユカノの姿が、フクスケほどの大きさで映し出された。強烈なノイズにより、その肌色はいくらか蒼ざめて見えるが、瞳には確かな力強さがある。「お二人とも、聞こえますか?私は大丈夫です」

 ガンドーとフジキドは、3Dユカノ映像の横にインターレース方式で映し出された「満」という大きな漢字に目をやる。この緑の漢字は、通信を続けるにつれ下から徐々に赤へと変わり、それがそのまま傍受危険度を示す、たいへん優れたUGIなのだ。「いつも通り、手早く行こうぜ」ガンドーが言う。

「私からですね。座敷牢は快適です。少々、鐘の音がうるさいですが」ユカノが冗談めかして言った。「先刻、パラゴンが来ました。儀式の内容について、不安がっている様子を見せたところ、丁重に扱うと念を押されました。儀式後にも、私には重要な役目があると。人身御供などではないようですね」

「よし、次はこっちだな」ガンドーが言葉を繋ぐ。フジキドは3D映像内のユカノの様子を見守る。「作戦案がほぼまとまった。ネオサイタマからヤバイ級ハッカーのナンシー=サンがリモートで応援してくれるぜ。……そうか悪い、ナンシー=サンとは面識が無いのか。とにかく、ハッキングがスゴイ」

「私はハッキングやUNIXには疎いですよ」ユカノが言う。「大丈夫だ。原理は単純。トーストを焼くより簡単だ。そっちのモーターチビにナンシー=サンがウィルスを送る。ここから先が難問だ。モーターチビを連れて城内の電算機室に忍び込む必要がある。するとチビが勝手にウイルスを注入する」

「電算機室に忍び込む?」フジキドが耳を疑った。「ああ、その方策を今から話し合おうと思ってたのさ。最初はな、俺がやろうと思ったんだ」ガンドーがハンズアップする。「大丈夫です、私がやりましょう」とユカノ。「手段を選ばなければ、脱獄くらいできるでしょう。チャンスは一度きりですが」

「気が早いな、ユカノ=サン」ガンドーが言った。「いざ決行となれば、ナンシー=サンが遠隔ハッキングで支援してくれる。キョートに経済攻撃を加えて、電算機室の連中の目を外に向けてくれるんだ。だが、まだ確実に決行が決まったワケじゃねえ。ヨロシサンから暗号プログラムを盗む必要がある」

「だが」とフジキドが言いかけた時、極秘IRC端末が鳴った。このIPを知っているということは、コケシ・サイコウか、ナンシー・リーか、あるいは敵か……ガンドーはフジキドにユカノとの通話を続けるよう促し、自分は端末を持って部屋の外に出た。敵にユカノの声を拾われれば終わりだからだ。

「ディープスロート」ガンドーは低い声で応答する。「……ブッダ!ナンシー=サンかよ。寿命が縮まったぜ。ああ、ニンジャでも縮まるんだ。ハッキングの件で何か進捗が?ああ、五重塔のほうは仕込み済みだ。あとは暗号プログラムと経済攻撃……何だって?もう一度言ってくれ、ナンシー=サン!」

 ……数分前。キョート市内、ガイオン・サウスエアポート。オバンデス航空旅客機のファーストクラスから、サイバーサングラスをかけた金髪の女性が現れた。高級マイコアテンダントがしとやかにオジギする。「お仕事ドスエ?」「ええ、スーパーモデルよ」とその女ハッカーは悪気の無い嘘をついた。

 高いヒールを小気味良く鳴らしてタラップを渡りながら、女はガイオンの空気を吸う。そして胸元から改造IRC端末を取り出した。数々の違法プロキシサーバを経由し、発信先はむろんディープスロート。「予定変更。やっぱり来たわ」ナンシー・リーが言う「その方が何かと、手っ取り早いでしょ?」

 流石に一筋縄ではいかぬ女だ、と考えながらガンドーは言う。「安全を考えて、フライト予定をキャンセルしたとばかり」「あれは嘘よ」「知らせてくれても」「傍受可能性が否定できない。敵を欺くにはまず味方から」ナンシーはさらりと返す。ヒュウ、とガンドーは小さく口笛を吹いた。

「病み上がりだろ?すぐ車を……」「作戦の中で落ち合いましょ」「気が早いな」合流座標を暗号で話し合いながら、ガンドーは部屋に戻る。だが直前でふと思い立ち、ノブにかけた手を離した。思えば、通信路が開かれてから、フジキドとユカノは一度も、二人だけで話す時間を持っていなかったのだ。

 ガンドーは既にナンシーとの通信を終えている。ユカノの記憶喪失とそれに対するフジキドの態度を思い出し、いつかシキベと何らかの形で再会を果たしたとき、自分もあのような違和感を抱くのだろうかとふと考えた。「体があって、記憶が覚束ない……記憶があって、体が覚束ない……難儀な話だぜ」

 一方、ユカノとフジキドは必要事項の話し合いを全て終えていた。未だ「満」メーターには余裕がある。ガンドーが帰る気配は無い。「……ユカノ、記憶はもう完全に戻ったのか?」フジキドがかつてのように問う。「ええ、フジキド。もう大丈夫。思い出しています。ドージョーの事、お爺様の事……」

 フジキドはその丁寧な口調に、また違和感を覚えた。かつての彼女は、祖父ゲンドーソーに対してはむろん礼儀正しく振舞うが、それ以外の者にはもっと気さくで……十八歳の少女らしい自由奔放な態度だったはず。「お爺様の事は知っています」ユカノが言った「何か言い遺してはいませんでしたか?」

 フジキドは記憶を手繰り寄せた。彼女の変化は、単純に成長によるものなのかもしれぬ、と思い直しながら。「……ユカノの事を……頼むと」「それ以外には?」「何も」とフジキド。「そうですか」ユカノはその答えを聞くと、少し嬉しそうだった。「満」メーターが危険水準に達し、警告音が鳴った。

 警告音を聞きつけたガンドーが部屋に入ってくると、すでに回線は切断されていた。数キロ先のホウリュウ・テンプル地下では、ユカノが正座しながら祖父ドラゴン・ゲンドーソーとの日々に思いを馳せていた。そして自分が何者であるかを覚えている者がいる、至極当たり前のことを、幸せに思った。

 儀式の日が迫る。ニンジャスレイヤー、タカギ・ガンドー、ナンシー・リー、ドラゴン・ユカノは、ザイバツ転覆に向け着々と準備を進めた。ソーファー、ソーグッド。彼らの脳裏には、おぼろげな勝利のビジョンさえも生まれ始めていた。ガンドーは妙な胸騒ぎを覚えたが、その理由は見出せなかった。

 そして電算機室侵入計画決行の前夜。その漠然とした不安感は、夢の形をとってドラゴン・ユカノのローカル・コトダマ空間に現れた。燃え落ちたはずのドラゴン・ドージョーの中で、独り正座するユカノ。彼女の前に、異様なほど痩せ衰えた長身長髪のニンジャが現れ、自らをアラクニッドと名乗った。

4

 鈴虫が鳴く夜。キョート城敷地内に建つホウリュウ・テンプル。その地下座敷牢にユカノは囚われていた。作戦決行を明日に控え、彼女は高級フートンに身を横たえて眠りにつく。自分の身がどうなるかも解らぬ状況の中で眠れるというのは、これすなわち、彼女の強靭なニンジャ精神力の賜物である。

 祖父にして師父、ドラゴン・ゲンドーソーはかつて彼女に告げた。自らの精神や感情を御し平常心を保つことの重要性を。ヘイキン・テキと呼ばれる精神修練のひとつである。彼女は祖父ゲンドーソーの教えを反芻しながら眠り、ドラゴン・ドージョーの夢を見た。そしてそこに招かれざる客が現れたのだ。

 夢を見るのは久方ぶりだった。今宵の夢の中で、ユカノはドラゴン・ドージョーに立っていた。懐かしくドージョー内を歩き回る。ニンジャクラン像。壁に貼られたショドーや軍旗。レディオから漏れる遠い街の電波。……全てが数年前のまま。彼女の記憶の中にあるドラゴン・ドージョーのままであった。

「食事を作らないと…・・・」炊事場に向かってユカノはぼんやりと歩き始める。だがドージョーのどこを見ても、ゲンドーソーやニュービーたちはいない。帰ってくる気配も無い。すぐに彼女は、これが夢であることを悟った。すると突然フスマが開き、見覚えの無い男がドージョーに姿を現したのだ。

「ドーモ、アラクニッドです」蜘蛛の巣模様の黒いキナガシを纏った長身痩躯の男が、嗄れた声でアイサツした。ニンジャ覆面と長髪に隠され、その表情は判然としない。「ドーモ、アラクニッド=サン、ドラゴン・ユカノです」ただの夢だと思いながら彼女はアイサツを返す。だがすぐに違和感を覚える。

 (((そのニンジャクランはもはや途絶えて久しいが、他者の夢に忍び込むような奇怪なジツが、遠い昔に存在したのだ……)))かつて彼女にマキモノを読み聞かせた時のゲンドーソーの声が、ローカル・コトダマ空間内に響く。ユカノは静かにジュー・ジツを構えた。「……私を殺しに来たのですか?」

 それだけでアラクニッドの輪郭はぼやけ、苦しみ始める。彼は血咳を吐き、タタミに這いつくばった。「違う。哀れなアラクニッドを虐げるな。敵意の目でアラクニッドを見るな。アラクニッドもまた囚われの身だ。ロード・オブ・ザイバツとその副官パラゴンを殺すために、こうして夢を渡って来たのだ」

「夢を渡る?」ユカノはジュー・ジツを解いた。そうしなければ、この痩せ衰えたニンジャは力尽きて死ぬのではないかとすら思えたからだ。瞬時に視界が切り替わり、二人はトコノマで向かい合ってチャを啜っていた。「そう、ここはあんたの夢の中だ。望むならいつでも、この蜘蛛を蹴りだせるだろう」

「あなたは何者ですか」「アラクニッドは哀れなニンジャだ。COFF!COFF!ギルドから逃走を図り、投獄された。ここからさらに下、地下座敷牢の最も深くて暗い場所で、背中の肉をフックで吊られてる」「まるで他人事のように言いますね」「アラクニッドの精神は壊れた。起きてる間は狂人だ」

 ユカノが小首を傾げる。「では、あなたはアラクニッドではないのですか?」「アラクニッドでは……ないと思う。あんな哀れな化け物では……」それは言った。「埒があきませんね。帰りますか?」ユカノがチャワンを置く。「だが、アラクニッドの話を聞かねば、ニンジャスレイヤーは死ぬだろう」

 ガンドーから聞いた情報によると、正確無比な占いでザイバツの進むべき道を示す、謎めいたニンジャがいたはず……その者の名が、確かアラクニッド。「……もう少し、話を聞きます」ユカノはそう言って、急須を取りにタンスに向かう。壁に貼られた「ヘイキン・テキ」のショドー警句が彼女を諭す。

「ニンジャスレイヤーはロード・オブ・ザイバツに勝てない。殺されるだろう。無残にも。……それでは困る。アラクニッドは逃げられない。永遠に利用され続ける。もう嫌だ。もう嫌だ……」それは懐から花札タロットを取り出し、細い指で弄びながら言った。「その占いは、本当に絶対なのですか?」

「アラクニッドの花札タロットは、マルノウチ抗争の49日前から、ニンジャスレイヤーの誕生を予言していた。ラオモト・カンを殺す者が誕生する、と。アラクニッドの占いは正確だ。これを知っているのは、アラクニッドと、ロードと、パラゴンだけだ。あの二人が目指す理想世界は、歪んでいる」

「ではどうすれば、占いの結果は変わるのです?どうすれば、ニンジャスレイヤーは死なずに済むのです?」ユカノが問う。「キョジツテンカンホー・ジツを破らぬ限り、ロードには絶対に勝てない」「どうやればそれを破れるのです?」「……何故それに気付かなかったのか。それを占おう。今ここで」

 アラクニッドは花札を神秘的な形に並べ、その中心に山札を作る。そして精神を集中し、震える指先でカードを表返し始めた。その時である!ZMZMZMZMZM……突如、床と壁と天井に緑色の格子が走り、その中に不吉な「罪」「罰」の漢字が無数に出現して、目玉めいてギョロギョロと動き始めたのだ!

「何?」さしものユカノも困惑する。ナムサン!隠蔽された真実に近づきすぎたのだ!キョジツテンカンホー・ジツの網だ!ロード・オブ・ザイバツが張り巡らせる超自然の網だ!「コワイ!コワイ!」アラクニッドが花札タロットを表返しながら叫ぶ!「イノシシ!カメ!リリィ!ウェイストランド!」

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ!逆位置のリリィ!逆位置の皇帝!塔!ドラゴン!タナカ!逆位置のライオン!」血咳を吐きながらタロットの札名を叫ぶ!だがその声は無意識と忘却の網にからめ取られてゆく!「罪罰罪逆位罰の罪罰罪罰罪罰!罪罰罪罰罪罰の罪罰罪罰ハングドマン罪罰罪罰」

「罪罰罪罰罪罰の罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……見えた!罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰ロード・オブ・ザイバツの罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰には、罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……銀の鍵罪罰罪罰罪罰罪罰の罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……」夢の中の罪罰罪罰ユカノの視界が罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……

 ……二人はチャを啜り、向かい合ってトコノマに座っていた。「COFF!COFF!」アラクニッドが血咳を吐く。ユカノは周囲を見渡す。何かとても重要なことを忘れてしまった気がする。何かは思い出せない。そもそも、何の話をしていたのか……そうだ「その占いは、本当に絶対なのですか?」

「アラクニッドの花札タロットは、マルノウチ抗争の49日前から、ニンジャスレイヤーの誕生を予言していた。ラオモト・カンを殺す者が誕生する、と。アラクニッドの占いは正確だ。これを知っているのは、アラクニッドと、ロードと、パラゴンだけだ。あの二人が目指す理想世界は、歪んでいる」

「ではどうすれば、占いの結果は変わるのです?どうすれば、ニンジャスレイヤーは死なずに済むのです?」ユカノが問う。「キョジツテンカンホー・ジツを破らぬ限り、ロードには絶対に勝てない」「どうやればそれを破れるのです?」「……何故それに気付かなかったのか。それを占おう。今ここで」

 アラクニッドは花札を神秘的な形に並べ、中心に山札を作る。そして精神を集中し、震える指先でカードを表返し始めた。その時である!ZMZMZMZM……またもや床と壁と天井に緑色の格子が走り、その中に不吉な「罪」「罰」の漢字が無数に出現して、目玉めいてギョロギョロと動き始めたのだ!

「何?」さしものユカノも困惑する。ナムサン!隠蔽された真実に近づきすぎたのだ!キョジツテンカンホー・ジツの網だ!ロード・オブ・ザイバツが張り巡らせる超自然の網だ!「コワイ!コワイ!」アラクニッドが花札タロットを表返しながら叫ぶ!「イノシシ!カメ!リリィ!ウェイストランド!」

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ!逆位置のリリィ!逆位置の皇帝!塔!ドラゴン!タナカ!逆位置のライオン!」血咳を吐きながらタロットの札名を叫ぶ!だがその声は無意識と忘却の網にからめ取られてゆく!「罪罰罪逆位罰の罪罰罪罰罪罰!罪罰罪罰罪罰の罪罰罪罰ハングドマン罪罰罪罰」

「罪罰罪罰罪罰の罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……見えた!罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰ロード・オブ・ザイバツの罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰には、罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……銀の鍵罪罰罪罰罪罰罪罰の罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……」夢の中の罪罰罪罰ユカノの視界が罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……

 ……二人は向かい合ってトコノマに座っていた。いや、アラクニッドはタタミに這いつくばって血咳を吐いている。ユカノは周囲を見渡す。何かとても重要なことを忘れてしまった気がする。何かは思い出せない。そもそも、何の話をしていたのか……そうだ「その占いは、本当に絶対なのですか?」

「COFF!COFF!絶対だ。アラクニッドの引く花札タロットは、常に同じ。運命に石を投じない限り、常に同じ結果が待つ。マルノウチ抗争の49日前から、ニンジャスレイヤーの誕生を予言していた。ラオモト・カンを殺す者が誕生する、と。アラクニッドの占いは正確だ。これを知るのは……」

「ではどうすれば、占いの結果は変わるのです?どうすれば、ニンジャスレイヤーは死なずに済むのです?」ユカノが問う。「キョジツテンカンホー・ジツを破らぬ限り、ロードには絶対に勝てない」「どうやればそれを破れるのです?」「……何故それに気付かなかったのか。それを占おう。今ここで」

 アラクニッドは花札を神秘的な形に並べ、中心に山札を作る。そして精神を集中し、震える指先でカードを表返し始めた。その時である!ZMZMZMZM……みたび床と壁と天井に緑色の格子が走り、その中に不吉な「罪」「罰」の漢字が無数に出現して、目玉めいてギョロギョロと動き始めたのだ!

「何?」さしものユカノも困惑する。ナムサン!隠蔽された真実に近づきすぎたのだ!キョジツテンカンホー・ジツの網だ!ロード・オブ・ザイバツが張り巡らせる超自然の網だ!「コワイ!コワイ!」アラクニッドが花札タロットを表返しながら叫ぶ!「イノシシ!カメ!リリィ!ウェイストランド!」

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ!逆位置のリリィ!逆位置の皇帝!塔!ドラゴン!タナカ!逆位置のライオン!」血咳を吐きながらタロットの札名を叫ぶ!だがその声は無意識と忘却の網にからめ取られてゆく!「罪罰罪逆位罰の罪罰罪罰罪罰!罪罰罪罰罪罰の罪罰罪罰ハングドマン罪罰罪罰」

「罪罰罪罰罪罰の罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……見えた!罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰ロード・オブ・ザイバツの罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰には、罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……銀の鍵罪罰罪罰罪罰罪罰の罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……」夢の中の罪罰罪罰ユカノの視界が罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰……

 ……二人はトコノマに座っていた。いや、アラクニッドは血咳を吐いて横たわり、浜辺に打ち上げられたマグロのように口をぱくぱくとさせていた。ユカノは周囲を見渡す。……何かが起こった。だが思い出せない。そもそも、何の話をしていたのか……そうだ「その占いは、本当に絶対なのですか?」

「COFF!COFF!オゴッ!オゴーッ!COFF!COFF!アラクニッドの花札タロットは、マルノウチ抗争の49日前から、ニンジャスレイヤーの誕生を予言して……」彼は苦しげに身を起こす。その言葉をユカノが制止した。周囲を怪訝な目で見渡しながら「……何か別の話題に変えましょう」

 ……ああ、それでいい。今はまだ。それでも十分だ。よくやった。

 うまくやれよ。

「話題を変える?何故」アラクニッドが問う。「不吉な予感がするのです」ユカノは額から垂れる汗をぬぐいながらタンスへと向かう「それに、ひどく体調が悪そうです。薬を出しましょう。私は薬草の調合術も学びました」「優しい人だ」「自分の夢の中に突然入ってきて死なれては、困りますから」

「リアルニンジャとは、もっと神々しく無慈悲なものだとばかり。アラクニッドなど、人間と同じくゴミ虫か何かに見えているものとばかり」「私には記憶が無いのです。何千年も生きてきたなどと突然言われても困りますね。私はドラゴン・ゲンドーソーの孫娘ドラゴン・ユカノです。それで十分です」

 ユカノが調合した秘薬を飲み干したアラクニッドは、いささか落ち着きを取り戻した。ウラナイ・ジツは体力と精神力を著しく消耗させるのだ。壁には格子も漢字も出現せず、ただクランのシンボルである勇壮なドラゴンの墨絵が射竦めるような目で、あるいは守護者めいた目で、二人を睨めつけていた。

「退屈しのぎに話し相手になりなさい」「ハイ」アラクニッドはいささか拍子抜けしたような調子で答えた。「あなたはどうやって私の夢に入ってきたのです。ジツですね?」「ユメアルク・ジツ。遠く離れて逢えぬ平安時代の貴族ニンジャたちが編み出したというジツだ。周波数を合わせるのが難しい」

「詳しいのですね、歴史に」「哀れなアラクニッド、元は研究者だった。ニンジャ研究家だ。飛行場でニンジャソウルに憑依された。フライトスケジュールの電光掲示板の文字が突然、一部を残して消えた。乗れば死ぬ、と彼にだけ読めた。その通り、アラクニッドが乗るはずだった飛行機は墜落した」

「……そしてアラクニッドは、ザイバツに見つかった。ザイバツは、まだ今ほどの勢力を持ってはいなかった。占いの力を買われて、ロードとパラゴンに仕えた。古事記の予言に従い、ニンジャ・ミレニアムを導くと彼らは言った。哀れなアラクニッドは騙されていたのだ」「騙されていた?」

「江戸時代末期から続く秘密結社?嘘だ。キョジツテンカンホー・ジツで作られた嘘だ。彼らは急いている。時計の針を強引にマッポーへ進めようとしている。紛い物のマッポーカリプスへと!彼らはキョート城の秘密を知った!最終戦争のために建造された、恐るべきニンジャ・オーパーツの秘密を!」

 だが彼はロードやパラゴンの正体については言及できない。忘却しているのだ。「オーパーツ……それが儀式とやらに関連しているのですか?私を使って執り行うという」「儀式!儀式!儀式!アラクニッドが狂っていなければ、その質問に答えられたものを!記憶を破壊されるのはジゴクにも等しい!」

「COFF!COFF!……キンカク・テンプルだ」アラクニッドが懸命に記憶の糸を辿りながら言った。「キョート城はキンカク・テンプルに対抗するために作られた決戦兵器だ……」「キンカク・テンプル……!」ユカノは祖父ドラゴン・ゲンドーソーから聞かされたニンジャ神話の断片を思い出す。

「かつてニンジャたちは、キョートのキンカク・テンプルで一斉ハラキリ・リチュアルを行い、黄金のソウルをヴァルハラに送った……来るべき最終戦争のために」ユカノが祖父の言葉を復唱する。他ならぬこのドージョーで語られた言葉を。「キンカク・テンプルには2つの意味がある」蜘蛛が言った。

「もうひとつとは」ユカノが問う。「カツ・ワンソーのソウルが逃げ込んだ場所。オヒガンに浮かぶ黄金立方体。キョートの物理的なキンカク・テンプルは、それを模倣して、ケゴン・フォールの崖の上に平安時代に築かれたもの……アラクニッドはそれをホウリュウ・テンプルのマキモノから解読した」

 オヒガンとは、サンズ・リヴァーの先にある死後の世界や非物質的世界を表す日本語であり、アノヨとも呼ばれる。神聖なるオーボンの夜にはモータルの世界とオヒガンが繋がるとも言われる。「ゴーン、ゴーン、エヴリワン・ゴーン、エヴリワン・ゴーン・ビヨンド……」蜘蛛はブッダの聖句を呟いた。

「答えなさい、そのキンカク・テンプルとキョート城に、どんな関係があるというのです?」「キョート城は、紛い物のキンカク・テンプルと化す。そして訪れるのは……ヘル・オン・アース……COFF!COFF!オゴーッ!」アラクニッドは再び血咳を吐く。輪郭がぼやけ始める。格子は現れない。

「大丈夫ですか。いま秘薬を……」ユカノが横に座り、その豊満な胸で痩せ衰えた蜘蛛を支える。「かなうならば思考をもっと漠然とさせておくれ、お優しい人……ジツが切れかけているのだ。理論的に考えずに……COFF!COFF!夢が……醒める……」アラクニッドの体は重みを失い、消滅した。

 ユカノは思い出した。これは夢なのだと。ドラゴン・ドージョーの懐かしいタタミの臭いが、指触りが、中国地方の風の音が、チャの味が、消えてゆく……。ニューロンが作り出した束の間の幻影が。しかし夢から完全に醒める直前、彼女はアラクニッドがいた場所に「銀の鍵」と書かれた血文字を見た。



5

「銀の……鍵……!」ユカノは地下座敷牢で目覚めた。額に滲む汗。小さく鋭く息を吐き、目をかっと見開いて即座に覚醒する。壁に掛けられた電子丸窓は穏やかな夜の竹林を映し出し、電子合成された風流な鈴虫の泣き声と共に、外界の時刻が夜であることを告げていた。

 素早くかつ静かに身を起こし、ユカノはモーターチビの通信機能を起動させる。ヌンヌンヌン……正十二面体デヴァイスが浮遊し、ホログラフィ映像を映し出す。その先には、傷だらけのニンジャスレイヤーとディテクティヴ。「こちらの準備は整った」「ナンシー=サンが別の場所にスタンバイしている」

「こちらも動けます」とユカノ。「チビにはウィルスを転送済みだ」とガンドー。「1時間後にナンシー=サンが経済攻撃を開始する」とフジキド。通信猶予時間を示す「満」の漢字が、早々と赤に染まり始める。「不吉な夢を見ました」とユカノ。危険を冒してでもそれを伝えねばならぬ気がしたからだ。

「夢?だが猶予時間がヤバイぜ」とガンドー。それを遮るユカノの声。「地下座敷牢の奥底にいるアラクニッドが私に告げました。ロードのキョジツテンカンホー・ジツを破らぬ限り……」ユカノの心臓が重く鼓動する。フジキドが死ぬ。「……勝ち目は、ないと。打破するための手掛かりは……銀の鍵」

「銀の鍵?」「そうです、それ以上は解りません」ユカノは至極真面目な顔で言う。「オイオイ、クイズ番組か?そりゃ一体、どういう……」包帯で片眼を隠したガンドーが大袈裟なジェスチャーを作る。「銀の鍵」フジキドはその運命的な単語を復唱し、首から下げたオマモリに自然と手を伸ばしていた。

 ザリザリザリ……通信にノイズが混じる。ホログラフィ映像がスライスされたサシミのように左右にぶれる。ユカノの心臓が、また重く鼓動した。次の通信機会は不明。今生の別れやも知れぬ。事実が覚悟を迫る。「フジキド」ユカノは小さく微笑みながら言った。「どうした」ニンジャスレイヤーが返す。

 ユカノはたちの悪いデジャヴを感じ、小さく深呼吸した。これまで何回も、あるいは何十回も、このような別離をループしてきたのではないかという予感。「御爺様のことを覚えていますか」「無論だ」「今度、聞かせてください」「ああ」「私がまた記憶を亡くしたら、私が何者か伝えにきてくださいね」

 フジキドが返そうとした時、モーターチイサイに搭載された物理ファイアウォールが破られて煙を吐き、危険回避プログラムが作動して回線は自動切断された。ユカノは満足そうな顔を作り、作戦決行までしばしの間、地下座敷牢でザゼンを行う。ゲンドーソーの教えと、ブラックヘイズの言葉を反芻する。

 暫くしてユカノは、誇り高きドラゴン・ニンジャクランの最後の末裔として立ち上がった。瀟洒な和服を脱ぎ、タンスから取り出した簡素なニンジャ装束を纏う。それはシンプルで好ましかった。鏡の前に立ち、錆び付いたカラテを取り戻すように手短に準備運動を行う。精神と肉体のゼン平衡を確かめる。

 ユカノは座敷牢の頑丈な鉄格子を挑戦的に見据えた。生憎、それを破壊するほどのカラテは無い。だが、この地下座敷牢がサンシタ侵入不可の聖域であり、常時監視下に置かれているわけではないことが、彼女にとっては不幸中の幸いであった。そして敵はユカノの決断力と実行力を見くびっていたのだ。

 それは幸運な発見でもあった。ユカノはチャブに置かれた横笛を吹く。鼠が一匹現れ、名残惜しそうに鳴いた。ユカノは「不如帰」と書かれたショドーに歩み寄り、横にずらす。土壁に現れたのは、彼女の手で掘り広げられた鼠穴!「着いてきなさい」と、ユカノはどこか楽しげにモーターチビに命じた。

 ナムアミダブツ!カケジクを偽装手段に用いるとは、何と大胆かつ狡猾な作戦!これぞドラゴン・ドージョーの最後の末裔に相応しい、リアルニンジャの知恵であった。かつて江戸時代にも、捕獲され座敷牢に投獄されたリアルニンジャの多くが、この伝統的手段を用いて実際忽然と姿を消したのである。

「悟り」と書かれたスピリチュアル・カケジクがずれ、隣の座敷牢のトコノマへとユカノが姿を現した。江戸時代に放棄されたそこは、ひどく荒廃し、梁からは数百年前の古い蜘蛛の巣が気怠げに垂れ下がっている。ユカノは錆び果てた鉄格子を難なく外し、「立入禁止」と書かれた立札の横を抜けた。

 座敷牢とは、貴族を幽閉するために平安時代に考案された無慈悲かつ風流なプリズンシステムである。トコノマやトイレやシャワーなどを備えた広い高床式タタミ部屋が虜囚にあてがわれ、実際快適ではあるのだが、周囲を頑丈な木や鉄の格子で囲われており、アニマルめいた屈辱感を味わわされるのだ。

 ユカノは薄暗い無人コリドーを進む。「順路」という威圧的なショドーが左向きの矢印とともに貼られ、地上への脱出路を示していた。一方、右を見やればさらなる暗黒。厳重に守られた鉄格子の前に「禁止な」と書かれた札が立ち、木製の柵と赤いロープ。その先にはアラクニッドの階層へと至る階段。

 直にアラクニッドに会えば、さらなる手掛かりを得られるやもしれぬが、作戦決行まで残り時間は少なく、ユカノには鉄格子を破壊する手段もない。物理錠を外すためのニンジャツールも手元に無く、またこの鉄格子は最新のUNIX複合型であり、厄介そうだ。ユカノは中腰姿勢のまま左手に進んだ。

 地下ダンジョンを流れる微かな風を探りながら、ユカノはリアルニンジャの足取りで注意深く前進した。壁には強化樹脂で作られた長大な年表がボルト留められ、さながらピラミッド回廊めいて、キョート城の建造から近代までの歴史を物語っている。モーターチビは不安げに彼女の前後を飛びまわった。

 T字路でユカノは敵の気配に気付いた。先には同様のコリドーが続き、左手に曲がれば地上階へと続くハシゴがある。ハシゴの左右には赤漆塗りの戦闘的ブッダ像が聳え立ち、その前にはマシンガンを構えたクローンヤクザ2体が警備に当たっていた。ユカノはチビを手招きし、秘密のコマンドを送る。

 ヌンヌンヌンヌン……演算を開始したチビが駆動音を立てる。「アッコラー……?」微かな音に気付いたクローンヤクザたちは、T字路の正面突き当たりに銃口を向ける。ユカノの掌に汗が滲む。直後、パラゴンのホログラフィ映像が投影された。「ドーモ」クローンヤクザたちは反射的にオジギを返す。

 ユカノはその隙を見逃さない。T字路の影から音も無く躍り出ると、素早く二発のスリケンを投げ放つ!「イヤーッ!」「「グワーッ!」」それはオジギ完了直後のクローンヤクザ達の喉に突き刺さり、一方をソクシさせた。もう一方のヤクザが銃を撃とうとするも、ユカノは素早くその背後に回り込む。

 ユカノは敵の背後に密着すると、しなやかな腕を鞭のように首に絡ませ、損傷した喉を完全に潰しにかかる。あれは伝説のカラテ技、チョーク・スリーパー!声すら発せぬヤクザ!全力でもがき抗う!ユカノは腰を低く落とし、なおも無慈悲に締め上げる!十秒後、クローンヤクザは生命活動を停止した。

「もういいわ」ユカノがチビに言うと、粗末な静止ホログラフィ映像は01ノイズとなって消失した。薄暗い地下で、しかも相手がクローンヤクザだから騙せたものの、この先はそう簡単には行くまい。ユカノは久方ぶりの殺害感触を反芻しながら、敵の携行していたドスダガーを奪い、ハシゴを登った。

 

◆◆◆

 

 キョート城内、スモークド・シルバーの茶室。壁や柱には上等な黒漆が塗られ、銀色の茶道具や銀箔ビヨンボの放つ高貴なラグジュアリ感を引き立てる。古来日本において銀は死を暗示する厳粛な色であり、古のダイミョたちはしばしば、イクサの前夜にこの茶室でゼンめいた死生観を問い直したという。

 チャガマに向かい合って座るのは、ダークニンジャとニーズヘグ。部屋の隅に置かれた銀メッキのワータヌキの置物が、呆けたような顔で二人を見る。一方のダークニンジャが教則本めいて美しい正座を見せるのに対し、ニーズヘグは黄色のキナガシを武骨に着崩し、膝を立ててサケでも呑むような風情。

 むろん、ニーズヘグのこの姿勢は、正式なチャのプロシジャでは認められていない。他のグランドマスターたちとの茶会では決して見せない、フランクでシツレイな姿勢だ。彼は腹を割って話す準備があることを、暗に示しているのだ。

 (((ロードが執り行う大儀式とは、一体)))ダークニンジャが問う。(((さてな、わしも聞かされておらん)))ニーズヘグが呵呵と笑いながら答える。二人はスローハンドとパーガトリーがそうしていたように、複雑な暗号や符牒やハイクや仕草などを織り交ぜながら会話を行っているのだ。

 (((だがパラゴンは知っている)))(((そうともさ。どうやって取り入ったか知らんが、奴はロードの腹心じゃからな。今頃、貴族派閥の連中もどこかで茶会を持っておろう)))ニーズヘグはオカキをつまんだ。(((興味がないような口ぶりだ)))(((わしは細かいことには拘らん)))

 ニーズヘグはチャを注ぎ、続けた。(((痛快なイクサができりゃあ、トノサマが誰だろうと、構わんのじゃ。ロードはそれをわしに約束した)))(((あんたらしい)))(((オヌシはどうなんじゃ。ダークニンジャ=サンよ。のう、猫を被るのは仕舞いじゃ。何を狙うとる?ロードの首か?)))

 ニーズヘグは核心に迫ってきた。決断を下すまでの時間は限られているからだ。実際彼の言葉に二言は無く、儀式の詳細などに興味は無い。ただ、ザイバツが歴史的転換点を迎えるほどの重要な大儀式であり、その先に大イクサが待つことだけは嗅ぎ取っている。他派閥も不穏な動きを見せ始めている。

 ダークニンジャはチャをひと呑みして碗の底を見つめてから、正座を崩した。(((ロードの首などに興味は無い。さりとて、あんたのような戦闘狂でも無い。俺は忌々しい運命の軛をはめられている。だが、それに唯々諾々と従う気も無い)))(((オヌシの運命とは?)))(((……依代!)))

 

◆◆◆

 

 ホウリュウ・テンプルを脱出したユカノは、ナリコ・トラップや監視装置に注意を払いながら、敷地内の松林を忍び足で歩いていた。チビの立体マップを投射し、進むべき経路を再確認する。彼女の戦闘能力はザイバツで言うならばおよそアデプト級。ニンジャとの戦闘は、可能な限り避けねばならない。

 彼女はテンプルの展示室から奪った弓矢を背負い、腰には四本のドスダガーを携えている。前代未聞の大儀式を間近に控え、キョート城全体が重くサツバツとした空気に包まれているようであった。多くの者がいくつもの茶室を行き来し、政治策謀にかまけている。それがユカノには有利に働いていた。

 キョート城は西から東に進むほど重要度が増し、警備も厳重になる。西から順にビジター区、庭園、踊るモンキーの区、中の城壁、中庭(宝物倉、ホウリュウ・テンプル、ヤグラなどの重要文化財がある)、そしてホンマルだ。ホンマルには天守閣、無数の茶室、琥珀ニンジャ像の間、電算機室等がある。

 すなわち彼女は、警備が厳重な東側へと敢えて向かわねばならない。むろん、作戦遂行後は西から可能な限り脱出を試みようと思っていた。だがその望みは皆無かもしれない。松に登ったユカノは、ジツで動く身長6メートルの青銅製戦闘的ブッダ像が、西の城壁付近を複数闊歩しているのを見たからだ。

 ユカノは東に向かって松林を進む。時折、歩哨としてツーマンセルで立っているクローンヤクザを弓の連射で殺害しながら。一瞬たりとも気を抜けない。たとえ相手がヤクザであっても、警報を鳴らされれば非常に厄介なことになるからだ。彼女は離れの周囲を狡猾に迂回し、西の大渡り廊下に接近した。

 ホンマルは目と鼻の先だ。だが、直接渡り廊下を進むのは危険すぎる。ユカノは下を流れるサンスイめいた小川に目をやった。音も無く跳躍して川沿いの灯篭に身を隠す。クローンヤクザたちは気付いていない。ユカノは「ナムサンポ」と書かれたノボリの陰を歩み、迂回経路でホンマルへと向かった。

 だが、彼女は気付いていなかったのだ。渡り廊下の屋根の上でコマイヌ・ガーゴイルと並び、微動だにせず侵入者の監視を続けていた、この恐るべき番犬に。「カチカチカチカチ」……それは川沿いの薄闇に消えたユカノの方向を向き、鼻を鳴らして臭いを確認すると、大きく跳躍して獲物の後を追った。

 

◆◆◆

 

 (((……依代?そうか、オヌシはハガネ・ニンジャのソウルをその身に宿していたのだったな)))ニーズヘグが返す。(((俺の言う依代とは、ハガネのことではない)))フジオは明かした。(((俺はカツ・ワンソーのニンジャソウルを復活させるための依代、肉の器、導管となるが運命)))

 (((カツ・ワンソーとは、また、突拍子も無い話よな!そもそも、実在したのかどうかすら怪しい。ブッダを蘇らせるようなもんじゃ)))ニーズヘグがまたも呵呵と笑う。その顔には愉しげな表情が刻まれていた。「それこそが、ハガネが俺に遺した呪いだ」ダークニンジャが吐き捨てるように言う。

「だが、唯々諾々と従う気は、さらさら無い。生まれる前に定められた運命など」「ならばどうする?」ニーズヘグは閉じたセンスでダークニンジャを差した。フジオは再び声を潜め、奥ゆかしい暗号で答える。(((……俺が構えるイクサは、ロードが起こすイクサより遥かに邪悪で大きいだろう)))

 数秒置いて、その意味を汲み取ったニーズヘグは、堪えきれぬように小さく笑った。これまでの笑いとは違う、腹の底から湧きあがるような笑いであった。ダークニンジャもまた、ギラギラと輝くニーズヘグの蛇めいた目を見据えながら、小さく笑った。狂人め、と心の中でひとりごちながら。




6

 ホンマル内の迷宮の如き回廊を、ユカノは音も無くしめやかに渡る。所々にサウンド・トラップが仕掛けられた木板の廊下を、こうして無音のまま駆け抜けられるということは、即ち彼女が常人でないことの証左。ユカノはソウル憑依者ではない。彼女はドラゴンニンジャ・クランのリアルニンジャなのだ。

 ワイヤフレームUNIXゲームめいて、薄暗い廊下はL字やT字に小刻みに折れ曲がる。ユカノが速度を落とさぬまま角を曲がると、その先には、不用意な侵入者を惑わせる代わり映えしない回廊が再び出現した。左右には無数のフスマが並ぶが、情報不足のため容易にこれらの部屋には侵入できない。

 ユカノが速度を落とさない理由は、作戦決行までの時間が限られているからだ。あと十分弱で、ナンシー・リーがキョート株式市場と為替市場へのフェイク電脳攻撃を開始する。ユカノはそれと連携し、チビを電算機室に放さなくてはいけない。予定では既に、ユカノは電算機室前に到着している筈だった。

 遅れの理由は、追っ手を撒かねばならぬからだ。ユカノは奇怪な四脚獣のごとき番犬ニンジャが跡をつけてきていることに気付いていた。電算機室が狙いだと気付かれれば、この作戦は失敗する。壁に掲げられたロードの直筆ショドー、「急がば回れ」のコトワザが、彼女を嘲笑っているかのようであった。

 T字路の突き当たりに向かって駆けるユカノ。右か、左か。迷っている時間は無い。「カチカチカチ……」不気味な音が、数十メートル後方でユカノの足取りをぴったりとトレスしてくる。精神を集中する。経路的には左。だが左からは別なニンジャソウルの気配!彼女は直前で素早く右にカーブを切った!

「イヤーッ!」ユカノは回転ジャンプで壁を蹴り、一瞬だけ左手の敵を確認しながら右に曲がる。もう一人の追跡者の影が仄見えた。オーバーオールで体を覆い、鉈を構えた大柄なニンジャ……レッドクリーヴァーである。彼の頭部にはワッチドッグと同様、人間性を廃した不気味なメンポが備わっていた。

 ユカノにとっては幸か不幸か、彼らは自我無き自動殺人者であった。増援を呼ばれる危険性は少ない反面、手加減という言葉を知らぬ。ユカノは焦燥感と苦痛に、いささか顔を歪めた。ホンマルに侵入する直前、ワッチドッグと川沿いで交戦した際に、左腕に傷を負ったのだ。カラテの力量差は歴然である。

 ユカノは非人道兵器マキビシを躊躇無くばら撒きながら、長い廊下を走り抜ける。だが果たして、あの異形ニンジャ相手にどれほどの効果を発揮するものか。「チビ、経路情報を」「ヌンヌンヌン……」ユカノの前方に3Dホログラフィで地図と残時間が表示される。「絶望的な」というナビ情報とともに。

 

◆◆◆

 

 左右の壁に、何十本もの小ロウソクが揺らめく薄暗い小部屋。白いエルゴノミックUNIXチェアに掛け、ザゼンめいた精神集中を試みるのは、黒いキャットスーツの女ハッカー。ナンシー・リーである。カウントダウンを続けていた彼女のサイバーサングラスの液晶面が、00:00:00を表示した。

 ワーオーワーオーワーオー!キョート城電算機室に警告音が鳴り響き、電子ボンボリが回転する!「ダッコラー!?」「ザッケンナコラー!」防寒着を着込んだクローンヤクザたちが、鉄網状のフロアを慌しく駆け回る。「何よこれ?」中央戦略チャブに座る女ニンジャは、原因究明の試みを続けていた。

「どうした、ストーカー=サン、何の騒ぎだ」突如、電算機室の天井が開き、もう一人のニンジャが己の居室から電算機室内にひらりと着地した。彼こそはグランドマスター位階ニンジャ、ヴィジランスである。ストーカーと呼ばれた女ニンジャは安堵の息をつく。「キョート株式市場への経済攻撃です」

 ヴィジランスは眼鏡を掛け直し、戦略チャブ上に映し出された数十個の画面から情報を読み取る。その目の下には深い隈。彼は二十四時間体勢でキョート経済を監視、必要に応じて操作する役目を与えられている。彼はLAN直結者ではなく、故にストーカーのように忠実で有能な助手を必要とするのだ。

「どこまで突破された?」「第七論理ファイアウォールが破られるまで、あと数十秒です」ストーカーが新画面を開きながら返す。そのついでに、先程までプレイしていたゲーム画面を密かに閉じる。ザイバツの秘密に近づきかけた市民をネット上で徹底マークして破滅へと追いやる、悪辣なゲームだ。

「……何故もっと早く手を打たなかった?」ヴィジランスはシリアスな口調で問い、椅子に座ると、ストーカーから戦略チャブのメインタイピング権を奪う。画面だけを見ながら、邪魔そうに手を横に伸ばして助手を立たせた。「一瞬で突破されたんです」「一瞬で?第六論理ファイアウォールまでを?」

 助手の言葉をにわかには信じられなかったが、まさか彼女がそのような見え透いた嘘をつくまいとも考えられた。戦略チャブに備わった4個の物理キーボードと上に投影された緑色ホログラフィ・キーボード2個を高速タイピングし、彼は敵の攻撃履歴を解析する。その結果は「……YCNANだと!?」

「YCNAN!」(((あのクソ女狐…!)))ストーカーは舌打ちし、美しい顔が一瞬だけ憎悪に醜く歪む。YCNANはネオサイタマの伝説的女ハッカーであり、これまでにも数回キョートIRCに侵入を図った。ストーカーは何度も追尾を試みたが、彼女はいつも尻尾を掴ませず逃亡するのだった。

 ヴィジランスは自らの箱庭のごとき市場を調査した。幸い、被害はまだ無い。だがこのまま第七第八の論理防壁が破られれば、制御権を奪われ、市場は大混乱に陥るだろう。「ウィルス迎撃はできないのか?敵のIPは?」「まだです。違法プロキシを何個も経由しています」「やはり只者ではないな!」

「第七防壁陥落ドスエ」電子マイコ音声が鳴り響く!「アババババーッ!」脳改造を施された奴隷ハッカー2人が鼻血を流して倒れた!「これはネオサイタマからの宣戦布告だな」ヴィジランスは眼鏡を直しながら言う。「よかろう。全制御権を私に集約しろ!私のエコノミック・カラテを見せてやる!」

 

◆◆◆

 

 一方その頃、ユカノは未だ電算機室に辿り着いていなかった。迂回経路を選択したが、ワッチドッグに先回りされ、再び逃走を強いられたのである。咄嗟に投擲したドス・ダガーの代わりに、廊下に掛けられたサイを握り、点在するタンスからスリケンやマキビシなどを補給しつつ、休みなく駆け続ける。

 ユカノは移動速度を計算していた。ワッチドッグと彼女の速さはほぼ同等。レッドクリーヴァーはやや遅い。一旦階を移動してワッチドッグだけを限界まで引きつけ、一対一のイクサを挑む。二対一では勝ち目無しだが、ワッチドックだけならばやれるかもしれない。……強引だが、もう時間が無いのだ。

 長廊下を駆けるユカノ。次第にその速度が落ちる。獲物を捕える好機と見たワッチドッグは、楽しげに歯音を鳴らしながら、ギャロップで一気に距離を詰めてくる。コワイ!だがこれはユカノの策略であった。ワッチドッグが大きく跳躍してパウンスしてきた瞬間、彼女は後ろを振り返りサイを投擲する!

「キエーッ!」「グワーッ!?」ワッチドッグの脇腹にサイが突き刺さる。だが浅い!やはりカラテが足りぬのか。パウンス攻撃の勢いは止まらず、そのままユカノの場所めがけて刃物状の前脚が振り下ろされた!アブナイ!ユカノは咄嗟に横のショウジ戸に飛び込み、緊急回避を試みる!「イヤーッ!」

 タタミの匂いがユカノを迎える。幸いにも、そこは無人のトレーニングルーム!壁には様々な武器が掛けられ、使い込まれた木人が何体も並んでいた。ユカノは連続側転を打ち、壁に掛けられたナギナタを握って構える。先程の一撃で左腿に浅い傷を追い、装束を裂かれ、白い腿があらわになっていた。

「カチカチカチ……!」ワッチドッグは狩猟の喜びをあらわにしながら、ユカノ目掛けて迫る!「イヤーッ!」ユカノはナギナタで鋭い突きを繰り出す!「イヤーッ!」ワッチドッグは鋭い四角錐の金属製前脚でこれを弾く!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」一進一退の攻防!

 ユカノは長得物で優位に立ったかと思ったが、それは早計であった。敵の戦闘能力はやはり彼女より遥かに高く、ナギナタ攻撃を軽々といなし、今にも必殺のパウンス攻撃を繰り出そうとしている。サイ投擲のアンブッシュは不発。しかも相手は狂犬めいた自動殺人者……色仕掛けも通用しないだろう。

 ワッチドッグがナギナタの刃背に食い付き、得物を奪おうと勢い良く首を捻る。体勢を崩しつつも抵抗するユカノ。続けざま、左後方の天井から不穏な軋み音!直後、天井が破壊されレッドクリーヴァーが上階からショートカット到着!ナムアミダブツ!城内の構造を知り尽くした敵のフーリンカザンだ!

「ウカツ!」後方を振り返った瞬間、手元のカラテがおろそかになり、彼女はナギナタごと引きずり倒された。無防備体勢のまま、ワッチドッグの奇怪な頭部を下から仰ぎ見る。直後、鋭利な四角錐の先端がユカノの両眼の間めがけて容赦なく振り下ろされる!「イヤーッ!」横に転がって紙一重の回避!

「イヤーッ!」ユカノはブレイクダンスめいた動きで隙を消しながら、ナギナタを床すれすれで振り回して敵の接近を拒み、素早く立ち上がった。肩を使ってナギナタを回し、右脇に柄を構えて、左右の敵を交互に睨む。敵はユカノの立ち位置を軸にじりじりと横歩き旋回し、少しずつ距離を詰めてくる!

 モーターチビが不安そうに上を飛び回る。ユカノは重く短い息を吐く。急がねば、全てが水泡に帰する。いや、もう手遅れかもしれないのだ。思考が曇る。ニンジャスレイヤー達は死に、ドラゴンニンジャ・クランは途絶えるのか。「バァーッ!」沈黙を破り、右側面から斬りかかるレッドクリーヴァー!

 

◆◆◆

 

 スモークド・シルヴァーの茶室。ニーズヘグは既に、他派閥に対して牽制や様子見を行うため、ダークニンジャのもとを去っていた。代わりにダークニンジャと向かい合うのは、シャドウウィーヴ。まったくもって政治慣れしていない彼のチャドー・プロトコルは、完全に未洗練で、歳相応にぎこちない。

「では、ドラゴン・ユカノはニンジャスレイヤーの……!」シャドウウィーヴの声に、慙愧の念がにじむ。彼は今日、初めてユカノの素性を告げられたのだ。(((師の仇の仲間に対して気を許していたとは、何というウカツか。ブラックドラゴン師も、アノヨから俺を見下げ果てている事だろう!)))

 (((女の狡猾さに誑かされたか!)))想像上のマスターの叱責が、レイジの脳内でエコー再生される。ユカノとニンジャスレイヤーと自分自身に対する怒りで両手が震え、チャワンを取り落としそうになる。「ケジメさせて……ください」「やめておけ、非合理的だ」ダークニンジャが冷たく言う。

「しかし」「奴とのイクサに取っておけ。その時は近いぞ。奴はキョート城に必ず殴りこんでくる」ダークニンジャはカタナのような目でシャドウウィーヴを見据えた。「キョート城に正面突破など……正気の沙汰とは」「奴はそういう男、そういう狂人なのだ。そしてその狂気がソウカイヤを滅ぼした」

「…解りました」シャドウウィーヴは仇への純粋な憎悪で様々な想いを塗り潰し、深々とドゲザして退室した。(((弱さを捨てろ、シャドウウィーヴ。全ての人間性を捨てろ……!さもなくば、復讐など果たせぬ。真のニンジャとなれ。慈悲無き影の化身となれ……!)))そう脳内で繰り返しながら。

 暫くしてから、ダークニンジャはチャを置き、丸いショウジ戸を開けて天頂の月を眺めた。鞘に収めたベッピンが静かに啼く。イクサが近い。だがそれは、フジオ・カタクラにとって通過点に過ぎないのだ。そこで死ぬならそれまで……だが彼の眼は、さらに先を見据えている。遥かにフラットな未来を。

 茶室に小さなつむじ風が巻き起こり、シシマイめいた姿のニンジャが姿を現した。マスタークレイン。ベッピンの所持者をカツ・ワンソーの器の運命へと導く、オートマトンの片割れ。「久しぶりだな」ダークニンジャが言った。クレインが返す。「前ほど頻繁には助言を与えられません。というのも…」

「マスタートータスが滅びたからだ」とダークニンジャ。「その通りです。彼は未来を見ました……余り遠くまでは見通せませんが。従って、私ひとりでは荷が重いのです」「ロードとパラゴンは何を企んでいる」「未だ見通せません。ヘル・オン・アースはこれほど早く到来する筈ではなかったのです」

「儀式で何が起こる」ダークニンジャが問う。「今はまだ答えるべき時ではありません。不確実な事は答えられないのです」再びマスタークレインは恭しくオジギし、身体をつむじ風に包み始めた。パープルタコが廊下から茶室のフスマをノックする頃、マスタークレインの姿は忽然と消えていた。

 

◆◆◆

 

「バアーッ!」レッドクリーヴァーが力任せに大鉈を振り下ろす。「イヤーッ!」ユカノは巧みなナギナタさばきでこれを回避するが、背後から連携を仕掛けてくるワッチドッグによって集中を削がれる。「バァーッ!」重い柄の一撃が彼女の頭部を強打!「ンアーッ!」体勢が崩れる!ナムアミダブツ!

 脳震盪を起こしたユカノ。全ての音が聞こえなくなる。巻き添えを食ったのか、モーターチビがフレームを破壊され足元に転がっている。背後から繰り出されるワッチドッグの攻撃を辛うじて回避するも、足腰に力が入らない。目の前にレッドクリーヴァーの重い回し蹴りが近づき、ユカノを弾き飛ばす!

「ンアーッ!」大砲から発射されたサーカス猫の如く、ユカノのたおやかな体は壁に向かって一直線に飛んで行く!サツバツ!歯を食いしばって激痛に耐え、ショック吸収動作を試みるユカノ。だが体が動かない!壁の前に据えられた巨大な鉄製銅鑼に激突する!タダーン!重々しい銅鑼の音が鳴り響く!

 銀行金庫を思わせる大銅鑼に背を預ける形で、腰から落下するユカノ。両手両脚をだらりと弛緩させ、首を傾げて中空を見つめ、壊れたジョルリのごとき姿勢。銅鑼の震動が体を揺らし、脳を揺らす。激痛が全身を駆け巡る。そして作戦失敗の屈辱。さらにはドラゴンニンジャ・クランの血脈も絶えるか。

「ハァーッ、ハァーッ……」息が乱れる。ユカノの瞳は壊れたデジタルカメラのように、重点非重点を繰り返す。揺らぐ視界に映るのは、悠々と歩み寄る二体の異形。その姿は砂漠の蜃気楼に浮かぶ巨人の如く。011100毒を盛られたクレオパトラ11011処刑台に登るジャンヌダルク011011

 0010これは何?01010ユカノのニューロン速度が危険域に達する1010011遠隔ストレージから流入するノイズ0010101111キンカク・テンプルに仕掛けられたバックドア01011101ダークニンジャに殺されたゲンドーソー010101011ネブカドネザルの襲撃01011

 精神の銅鑼を打ち鳴らされたが如く、ユカノは不意に悟った。自分はこれまでに何度も死んでいることを。それは肉体の死ではなく、記憶の死、人格の死であった。それは無限にも近い時を生きるために彼女が選択した自衛の手段。そしてまた、耐え難い絶望が彼女の前に現れ、記憶を消そうとしている。

 間もなく、ゲンドーソーの孫娘ドラゴン・ユカノの記憶と人格は完全に死ぬだろう。次の人格となって目覚めたユカノは、あるいは別の何者かは、そこのショウジ窓を突き破って屋根を転がり、ザイバツニンジャに保護されるのだ。そしてロードに寄り添い、来るべきニンジャミレニアムの支配者となる。

「嫌だ!」ユカノはニューロン内で泣き叫んだ。ドラゴン・ユカノの記憶がソーマト・リコールし揺らぐ。抵抗を試みる。喪失を受け入れられない。「誰だ!」常に冷静な目で記憶と人格を封殺し続けているのは誰だ!ALAS!死刑執行者もまた自分自身とは!「……フジキドーッ!」絶叫が遠ざかる。

 ……「スゥーッ、ハァーッ、スゥーッ、ハァーッ」ユカノの呼吸が変わる。それは暗殺拳チャドーの呼吸。未熟ゆえ、祖父ゲンドーソーからはついに教わることが出来なかったはずの奥義!ニンジャ新陳代謝が加速し、若々しい血流が体内を駆け巡り、浅い傷口を塞いでゆく。そして静かに立ち上がる。

 異形ニンジャたちは顔を見合わせた。仕留めたと思っていた獲物に、まだ動く力が残っている。二者は直ちに向き直り、アニマルめいた唸り声を上げて駆け込む!「スゥーッ、ハァーッ、スゥーッ、ハァーッ」ユカノはジュー・ジツを構えると、敵を誘い挑発するように斜め後ろへと小刻みなステップ!

「バアアアーッ!」ユカノの体を両断せんと、鉈を振り上げるレッドクリーヴァー。「カチカチカチ!」柔肌を喰いちぎらんと、涎を垂らしギャロップするワッチドッグ!もはやこれまでか!?だがその瞬間、ユカノはレッドクリーヴァーの頭部めがけ、ジェットロケットめいた爆発力で鋭角に跳躍した!

 (((龍の巣へ誘い込め。準備動作。タメを作る。龍の眼。狙いを定める。唐突な嵐の如く!跳躍!)))「イイイイヤアアアアーッ!」それはドラゴンニンジャ・クランに継承される伝説の暗黒カラテ技、ドラゴン・トビゲリ!命中!「グワーッ!」レッドクリーヴァーの首が後方に180度回転する!

 敵の背後、タタミ10枚分の位置まで飛び、教え通りの完璧な姿勢で回転着地した彼女は、後方を振り返る。ワッチドッグは只ならぬニンジャ存在感を感じ、唸り声を発して身構えた。ユカノはジュー・ジツを構え直し、ひとすじ涙を流しながら笑ってアイサツした。「ドーモ、ドラゴン・ニンジャです」



7

「!」エルゴノミックUNIXチェアに座るナンシーの頭が、ハンマーで殴られたかのように激しく横に揺れる。コーカソイドの白い肌を、鮮烈な鼻血が垂れ、涎と混じる。投げ出された手足がビクビクと震える。フスマを開け、ガンドーが部屋に入ってくる。「オイオイオイ、ヤバいぜ、チビが壊された」

 ガンドーは無防備なナンシーの物理肉体を見やり、額を手で押さえてマイッタ・ポーズを取る。「オイオイオイ、こっちもヤバイな……」そして直ちにナンシーのUNIXデッキにLAN直結し、メッセージを送る。精神統一によって完全なるトランス状態に入ったナンシーに、彼の声は聞こえないからだ。

#DEEPTHROAT:TAKAGI:ユカノ=サンはまだか?
#DEEPTHROAT:YCNAN:見ての通りよ。
#DEEPTHROAT:TAKAGI:鼻血が出てるぜ。
#DEEPTHROAT:YCNAN:重めのウイルスを喰らっただけ。まだファイアウォールは破られてないわ。

#DEEPTHROAT:TAKAGI:もう8分も続けてる。タイムアップだ。
#DEEPTHROAT:YCNAN:まだやれる。
#DEEPTHROAT:TAKAGI:形勢不利だろ?
#DEEPTHROAT:YCNAN:ネオサイタマの違法プロキシを咬ませているから、重いのよ。

#DEEPTHROAT:TAKAGI:バッドニュースの時間だ、チビが破壊された。
#DEEPTHROAT:YCNAN:完全に?
#DEEPTHROAT:TAKAGI:まだPINGは鼓動してる。 #DEEPTHROAT:YCNAN:なら、あと5分だけやるわ。

#DEEPTHROAT:TAKAGI:4分だ。あんたのPINGがヤバイ。
#DEEPTHROAT:YCNAN:病み上がりのせい。5分頂戴。私で4、彼女の分で1。
#DEEPTHROAT:TAKAGI:強情だ。
#DEEPTHROAT:YCNAN:そろそろとばっちり食うわよ。

「アーウチ!」ガンドーは素早く自分のLANケーブルを引き抜いた。端子からバチバチと火花が散る。銃撃戦の中を走り抜けてきたかのように、ガンドーは無意識のうちに両手で頭を押さえる。ゆっくりと防御を解き、高位ハッカーたちの戦いに溜息をつく。会話はLAN接続からわずか5秒で終わった。

 

◆◆◆

 

 一方その頃、キョート城では。ドラゴン・ニンジャのトビゲリがレッドクリーヴァーの首を180度回転させていた!しかし切り札たるモーターチビは飛行機能を破壊され、床で弱弱しいLED点滅を行う。「飛行不可重点……飛行不可重点……モーターチビが挟まれていないか確認してください今……」

「カチカチカチ……!」ワッチドッグは思考を止め、狩猟動物めいたギャロップで突き進んでくる!ドラゴン・ニンジャは流れるような動きで壁に掛けられたサイを掴み、腕を鞭のようにしならせ投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」鋭いサイがメンポを突き破り、ワッチドッグの左眼に命中する!

 だが敵の動きは止まらない!獲物目掛けて大きくパウンス!(((ドラゴンクロウ・ツメ。これはヤリめいたチョップなり。腕をヤリと化せ)))彼女のニューロンにインストラクションが蘇る(((違う、筋肉を強張らせるな。リーチがワン・インチ縮まる。力を込めるのは敵の肉体を貫く一瞬…)))

「キエーッ!」ドラゴン・ニンジャは素早い前転で敵の懐に潜り込んで前脚攻撃をかわすと、そのままヤリめいたチョップを頭上に突き上げてワッチドッグの心臓を深々と抉った!ドラゴン!「サヨナラ!」爆発四散するワッチドッグ!左前方ではレッドクリーヴァーが首を回し、再び大鉈を構える!

 ドラゴン・ニンジャは片手を前に突き出して手招きし、挑発姿勢を取る!「さっきのアンブッシュは、何点もらえるかしら!?」彼女の顔は未だ、涙を流したまま笑っていた。その声は決然としており、ある種の達観が感じられた。「バアアアアーッ!」荒れ狂ったレッドクリーヴァーが真正面から突撃!

「スゥーッ、ハァーッ!彼女は悠然たるチャドー呼吸を行いながら、斜め後方へと小刻みなバックステップを行う。葉が舞い落ちるかのように、静かに。その直後!「イイイヤアアァーッ!」ジェットロケットめいた爆発的鋭角トビゲリが再び敵の頭部へ一直線!ドラゴン!ドラゴン!首が270度回転!

「サヨナラ!」レッドクリーヴァーは爆発四散!ユカノは敵の背後タタミ10枚の距離へと、理想的な着地を決める。ゲンドーソーの教え通りに。かつて自分が編み出した技を、彼がまた教えてくれたのだ。彼女はゲンドーソーが実の祖父ではないことを……二度目の喪失を受け入れた。そして感謝した。

 ユカノは天井の穴を睨みながら駆けると、チビを素早く抱いて上階へ跳躍した。作戦決行時間はマイナス。それでもまだ彼女はやるつもりだ。アジトから緊急通信は無し。継続中の可能性がある。最悪の可能性はアジトのUNIXがナンシーごと爆発インシデントだが、そのような事態は考えの外だった。

「イヤーッ!」ユカノは左右の壁から突き出すサスマタ・トラップを巧みに回避しながら、電算機室を目指す。ドラゴン・ニンジャとしての自分を受け入れた瞬間、彼女のニューロンにどこからか膨大な記憶が洪水の如く流れ込み、そして多くが流れ去っていった。物理的容量限界を超えたためだろう。

 ゆえに、彼女のカラテは未だ不完全であった。この先には記憶のデフラグめいた危険で難儀な試練が待つのやもしれぬ。だが今はどうでもよかった。(((私はドラゴン・ニンジャだ!そしてドラゴン・ユカノだ!)))彼女は涙を拭って笑った。彼女にとってそれは、未だ十分シンプルで好ましかった。

 ユカノはついに電算機室前に辿り着く。チビをかざす。LANケーブル触手が伸びロックを解除する。内部の冷気が外に漏れ出す。扉の向こうの気配を窺う。絶叫や爆発音が聞こえる。未だ交戦中か。ユカノは扉を静かに引き、オブツダンめいたUNIXメインフレームが並ぶ薄暗い部屋に忍び込んだ。

「アイエエエエ!アイエエエエエエ!ピガーピーガガピー!」拘束エルゴノミクス椅子に座って並行LAN直結させられた奴隷ハッカーたちが、白目を剥いてがくがく震える。その一人は元サラリマンのイタマ。額の手術痕が痛々しい。彼らは完全に自我を破壊され、タイピングマシンと成り果てている。

「見たか!私のエコノミック・カラテを!キョート市場の守りは完璧だ!腕が鳴るな!敵もやる!ゲイトキーパーほどではないが!」ヴィジランスの異常興奮したような叫び声が戦略チャブから聞こえる。クローンヤクザが消火器を持って走り、爆発したUNIXの消火にあたる。この混乱は、好都合だ。

 ユカノはこの混乱に乗じ、部屋の隅にある目当てのUNIXへと音もなく接近する。狂ったように走り回るクローンヤクザをかわし、YCNANに対する罵りの言葉を呟きながら要所要所のUNIXにLAN直結して回るストーカーを巧みに回避しながら。そしてケージの上に飛び乗り、チビを設置する。

「ヌンヌンヌンヌン…」チビは細いLAN触手を伸ばし、ケージの隙間から素早くUNIXに直結を行う。モニタの右下に緑色の小さなバーが現れ、1%からじわじわ数字を増す。潜伏型のウイルスを流し込んでいるのだ。ユカノの役目は終わった。彼女はチビを撫で、脱兎の如く電算機室から逃げ出す。

 モーターチビを電算機室に残し、ユカノはなおも駆けた。この作戦の最終目的地を偽装するためだ。あたかも最初から、電算機室ではなく天守閣へと向かっていたかのように思わせる。ユカノはまっしぐらに階段を駆け上り、回廊を渡り、ザイバツニンジャたちが会合を開いている茶室の横を走り抜けた。

 徐々に、追っ手の気配が増す。姿は見えぬが、グランドマスター級ニンジャソウルの威圧感が重くのしかかってくる。ユカノの額に汗が滲む。自分の力が何処まで通用するか確かめるのも悪くないと思ったが、最終的には天守閣への道のりの半分も至らぬうちに、ユカノは広大な茶室で四方を包囲された。

 茶室の中央を駆けるユカノ。だが四方のフスマが同時に開け放たれ、漢字サーチライトの光と共に2ダース近いニンジャシルエットが現れた。さらに北からはダークニンジャとニーズへグ。南からはケイビイン。東からはパーガトリーとスローハンド。そして西からはパラゴン。万事休すの状態である!

「お目覚めか、リアルニンジャ。儀式の前夜に脱獄とは、まさかまさか」パラゴンが一歩踏み出した。あたかも自分がロードの代弁者であり、全グランドマスターの最高位であることを誇示するかのように。「ロードが未だ一度も私に顔を見せない、そのシツレイに腹が立ちましたので」ユカノが笑った。

「ニンジャ六騎士がひとり、偉大なるソガ・ニンジャのソウルを宿せし我らがロードは、この上なく高貴なる御方ゆえ……」パラゴンは恭しくオジギした。「私はドラゴン・ニンジャ。ニンジャ六騎士がひとり。数千年を生きるリアルニンジャ」ユカノが返す。小さなどよめきが起こる。パラゴンが笑む。

「儀式が始まれば、全てがロード御自らの手でつまびらかにされましょう。それまでは……シツレイを承知の上で、拘束させて頂く」パラゴンがグランドマスター勢に目配せする。「……嫁入り前の心地」ユカノはジュー・ジツを構え、不敵な笑みで抵抗姿勢を取った。「つまり、気が立っているのです」

「お怪我を召しますぞ」パラゴンが嘲笑うほど丁寧に言った「記憶は戻ったかも知れぬが、貴女の力は失われたままだ」「……たとえそうだとしても」ユカノは龍の目で四方に威嚇の眼差しを投げ、宣言した。「私はもう黙って座っていることはない!」直後、幾つかのシルエットが彼女に飛びかかった。

 ……同じ頃、電算機室では。ウイルス注入を完遂したチビが力尽きて爆発し、UNIXメインフレームケージの上で人知れずPINGを絶っていた。戦略チャブ周辺では、YCNANの脅威を撃退したことを祝し、ヴィジランスとストーカーとクローンヤクザたちがバンザイ・チャントを繰り返していた。

 

◆◆◆

 

 数時間後、ディープスロート秘密アジトの作戦会議室にて。

 未だダメージを残しつつも、ニンジャスレイヤー、ディテクティヴ、ナンシー・リーが、突入作戦前の最後の打ち合わせを行っていた。ガンドーが戦略チャブ上のワイヤフレームを閉じ、ブリーフィングを終える。「……以上だ。キンギョ屋との連絡は終わっている。突撃用のUNIXバンを手配済みだ」

「他には?」ナンシーが問う。「ある」ニンジャスレイヤーが言った「ユカノ=サンから送られた謎のメッセージだ。銀の鍵……それは即ち、これを指すのだろう」戦略チャブの上に置かれる、一本の物理鍵。「これから語るのは、にわかには信じ難い話だろうが……」フジキドはその鍵の来歴を語った。

「だが、これをどう使えというのか、皆目検討がつかぬ」「シルバーキー……いえ、ザ・ヴァーティゴだったかしら?彼は今、どこに?」ナンシーが問う。「荒唐無稽な話かも知れぬが……前回、ネオサイタマからポータルを潜った時、IRCコトダマ空間らしき場所を抜けた。そこで、彼とすれ違った」

 IRCコトダマ空間を見た事がないガンドーは、何も答えられなかった。一方で、常人であるナンシーにも、ポータル・ジツなる奇怪なジツとIRCコトダマ空間を理知的に結びつけることは不可能であった。会議室を覆う無言。「……ギリギリまで調べる。だが、儀式はマッタナシだ」ガンドーが言う。

「……解った。少しザゼンさせてくれ」ニンジャスレイヤーは席を立ち、会議室を離れた。「……何かドリンクでも飲むかい?」ガンドーがナンシーに問う。「アイス・マッチャでいいわ」「……なあ、ナンシー=サン、ようやく落ち着いて話せる。俺はずっと以前から、聞きたいことがあったんだ……」

「プロポーズなら間に合ってるわよ」ナンシーが笑った。ガンドーも笑う。「IRCコトダマ空間だ。ハッカー達の伝説、無限の地平……そんなものが本当にあるのか?」「イエス」「ペケロッパの連中は、そこに行けば死者に会えるという。本当か?」「イエス、アンド、ノー。解らないことだらけよ」

「オイオイオイ、そんなワケの解らないものに、あんたは毎日ダイブしてるのか!」ガンドーが感服したように笑った。「そうね。海……」ナンシーが言う「人間なんて未だに、海の底まで知り尽くしたわけじゃないでしょ。そういうものよ」「ハッカーってのは、ゼンモンドーが好きなのかい」

「でも実際それはそこにあって、利用価値がある。だから使う。インターネットやIRCですら、きっと、もう誰にも解らないのよ。根本の原理、なんで動いてるか、なんて事は。Y2Kで全ての基盤が崩れ、電子戦争がとどめを刺した……」「いよいよゼンモンドーめいてきたぜ」ここで通信機が鳴る。

「ディープスロート。ああ、そうだ。了解した。例の場所へ。ピックアップする」ガンドーは受信機を置く。「誰から?」ナンシーが問う。「新しいお友達さ」ガンドーが返す「元ザイバツ・ニンジャだ。名前はディプロマット=サン。俺達の作戦に加わる。あいつが嫌な顔をしなけりゃいいんだが……」

 ……フジキド・ケンジはタタミ二枚の小部屋に座り、東向きの壁に向かって正座していた。チャドー呼吸で精神統一を図る。壁に貼られているのは、その半分以上が焼け焦げ、血が染みつき、破れ、ぼろぼろになった写真。愛する妻フユコ、まだ幼きトチノキ、そしてサラリマン時代のフジキド。

 故郷ネオサイタマと、妻子の墓標たるマルノウチ・スゴイタカイビルから遠く離れ、この異郷の地キョートで戦うフジキドにとっては、この慎ましやかな写真こそが礼拝堂であった。いつか家族で行こうと話していたキョート・リパブリックに、いま自分だけがいる。復讐に燃えるニンジャとなって。

「やり遂げる力を、最後までやり遂げる力を……」彼は眼を閉じ、両手を合わせて悲痛なる祈りを捧げた。銀の鍵、ユカノ、ガンドー、ナンシー……他にも多くの考慮すべき事があったが、ザイバツとの最終決戦を前に、しばしフジキド・ケンジはその心を自らの妻子への想いで満たしたのであった……。


【トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア】終


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N-FILES(設定資料、原作者コメンタリー)

ザイバツ・シャドーギルドによって捕われたドラゴン・ユカノ。果たしてザイバツの陰謀とは? 彼女を救う手だてはあるのか? そしてドラゴン・ゲンドーソーの忘れ形見、ユカノ自身に秘められた秘密とは!? 抗えユカノ! 己が何者かはカラテが教えてくれる! メイン著者はフィリップ・N・モーゼズ。

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