ネオサイタマ・イン・フレイム1:ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト
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ネオサイタマ・イン・フレイム
ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト
1
ピラミッド型に積まれたダルマと列を為すカドマツ、そして荘厳な名付き巨大フラワーアレンジメントが防衛機構めいて飾り立てるは、当然ながら、きたるネオサイタマ知事選挙候補者の事務所だ。
「汚職を憎む」「私は安心」「ありあまる信頼」「ひとり五票入れる価値が実際ある。しかし実際一票なのは惜しい」「利益を約束(法律の範囲内で)」 お決まりの選挙スローガンを書き記したショドーが壁一面に貼り出され、すべてのダルマの左目には黒目が無い。
上空の夜空をものものしいヘリコプター編隊が斜めに横切る。「ネオ利益」と書かれたノレンをかきわけ、事務所の中から夜風のもとへ現れたのは、白いスーツ姿の長身男性だ。
首のあたりまである白髪めいた金髪を後ろへ撫でつけ、浅黒い肌、彫像めいた眉目秀麗なその男は、眉間に深い皺を刻み、年齢を類推しがたい超然とした雰囲気を漂わせている。目を開くとその瞳は灰色で謎めき、胸元から取り出した携帯IRC通話機はオブシディアン一枚板のよう。
「ドーモ、シバタ=サン」事務所へ訪れた支援者が男にオジギした。そのままノレンをかきわけ入っていく。シバタは携帯IRC通話機を指でなぞった。「……ドーモ。ああ、……ああそうだ。問題は起こらない。どう転んでも、長い目で見れば上手くいくようになっている。そう。そのまま進めるように」
シバタは短い通話を終え、携帯IRC通話機を胸にしまった。そして曇天の夜空を見上げた。
「シバタ=サン、センセイは?」さきほどの支援者がノレンの奥から顔を出し、尋ねた。「ええ、もう少ししたら、センセイと映像通話がつながりますよ」シバタはにこやかに答えた。「スシでもお食べになってください」
「スシ!スシですよ!そうそう!アワビチャン!」支援者は緩んだ笑顔で再び中へ入っていった。その背中を一瞥したシバタの視線は恐ろしく虚無的で、それを見たものはそれだけで失禁したことであろう……。
フジキドは電子パルスが流星群めいて無限に流れ続ける空の下にいた。
ゆっくりと回転する金色の四角い立方体の下、青一色の不自然な地面はなんの遮蔽物も無く、まっすぐの地平線を形作る。見渡すかぎり何も無い。フジキド自身と、彼の前に立つ、凶悪な哄笑を張りつかせた邪悪な黒い姿。ただそのふたつ以外は。
「なんと情けない、情けない事よフジキド。わしにまかせておれば、今頃オヌシは敵の首級をその手に握っておったであろう」黒いシルエットは哄笑した。その笑いは音ではなく、ぞっとする寒気めいた感覚となってフジキドのニューロンを逆撫でする。
フジキドはナラク・ニンジャの狂気に耐えた。「力を貸せ」「力を?」ナラク・ニンジャは芝居がかった疑りの声で返した。「力など幾らでも貸してやる!幾らでも!昔からずっとそう言い続けておるぞ?もっと早う言えば、今頃オヌシは敵の首級を……」
「だが意志は渡さぬ。ただ力を貸せ。私のために」「虫のよい話だ!なんたるワガママ!」ナラク・ニンジャは心底あきれ果てた、という様子で激しく笑った。「観念してインガオホーせよ、フジキド!ワシに体を渡せば、なにもかも滅ぼしてやるでな!そこのフートンで寝ておれ!」「ダメだ」
「そんな無法は通らぬぞ、フジキド!」「これからその無法を通すのだ」フジキドは不吉なナラク・ニンジャの影へ向かって躊躇せず歩み寄る。「オヌシ……!」「イヤーッ!」
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フジキドは跳ね起きた。隣室のアガタがフスマを開けた。「大丈夫?よかった、あなた目を覚まし……ヒッ!」アガタは息を呑んだ。メディ・キットによる応急処置が施されたフジキドの体中から血が噴き出した。
噴き出た血は超自然的な力によってフジキドの周囲で渦を巻く。アガタが声も出せず震えて見守る中、血は赤黒のニンジャ装束をあっという間に織り上げ、フジキドの体を包んでいた。アガタはその場にへたり込んだ。「ア……アアア……アイエエ」「私はどれくらい寝ていた?何時間?何日だ?」
「モリタ=サン……?」アガタはフジキドの偽名を呼んだ。フジキドは己の体を見下ろし、「なるほど」無感情に呟く。「アガタ=サン。すまぬ。私だ。時間を知りたい」アガタは震えながら、「バイクに運ばれたあなたは、丸一日、さっきまで……眠っていた……今はウシミツ・アワー……」
「24時間か」フジキドはフートンの横に厳かに置かれていた「忍」「殺」のメンポに気づいた。アガタが取っていてくれたのだ。「では、アガタ=サン、私のこの姿を?」アガタはやや気持ちを落ち着かせ、頷く。「貴方はボロボロだった。それと同じ装束を着て。装束は塵になってしまったけど」「そうか」
フジキドはもうろうとしながらバイクから抱え上げられ処置を受けた記憶を少し思い出した。「感謝の言葉もない、アガタ=さん。本当に助かった」フジキドは短くオジギし、「……おかげでまたこうして戦える」「モリタ=サン」アガタは涙した。「悲しいです」「何がですか?」「……いえ」
ピー!鉄瓶のケトルが鳴る。アガタは隣の台所へ戻って行く。「お湯を沸かしていたの」フジキドはメンポを手に取り、装着した。アガタのいる台所からテレビの音声が聴こえてくる。「エー、こうして、締め切り前日に電撃的に立候補を表明したラオモト・カン候補ですが……」
「知事選」フジキドは呟いた。テレビ音声は続ける。ラオモトの肉声だ。「私は経済界の実際的な視点にもとづき、これまで言わば屋台骨としてネオサイタマの発展に尽力させていただいた。周囲の人々からの政界進出の勧めを断り続けるのも心苦しい。それゆえ立候補を決めた。やるからにはシッカリやる」
フジキドは電撃的速度で台所へ飛び込み、画面を凝視した。ダブルのスーツとニンジャ頭巾をつけた尊大な男が主婦と握手し、子供をにこやかに抱きかかえる。アガタは無言でフジキドの目を見た。そしてアガタは察した。このラオモト・カン候補者が、彼のこの……この恐ろしい何かの、発端であるのだと。
彼の目には極限の殺意と憎悪があった。そして焦りが。「私は何も知らない」アガタは呟いた。「でも、あなたは行くのね?……今すぐに?」「今すぐにだ」彼は即答した。
アガタは台所テーブル上のキーを取り、フジキドに渡した。「バイクのキーです」「ありがとう」「他の品々もここに」アガタはフロシキ包みを取った。「アガタ=サン。すまない」「……謝るなんて。私の方こそ、感謝しなくちゃいけないわ。何もかもを」アガタはつとめて優しく笑った。
「あなたが何者で、何をしに行くのかもしらない私が、こんなことを言っても白々しいだけだけど」アガタは言った。「どうか気をつけて」「……」フジキドは無言でアガタを見た。そして、素早くオジギすると、フロシキつつみを手に取り、ドアを開けて退出した。あっという間に。
アガタは淡々とクズユを作り、飲んだ。それから声を殺して泣き出した。
「ハローワールド。アイアンオトメ=デス。レディーゴー」キーを挿し込むと、無機質な合成音声がニンジャスレイヤーを歓迎した。黒光りする車体はそれ自体が無慈悲で華麗なパンサーめいた肉食獣のようだ。ライトが点灯し、インジケータに「大人女」の漢字が浮かび上がった。
ニンジャスレイヤーは即座にシートにまたがり、キックを入れる。ゴアアアア!ゴアアアアア!地獄の猟犬めいた唸り声がニンジャスレイヤーに応える。かつてこのバイクの主はバジリスクという邪悪なニンジャだった。このバイクは今後、今まで以上に殺戮のただ中を行き、血に塗れてゆくことだろう。
ニンジャスレイヤーはナンシーの身を案じた。生死もわからぬ。あれから24時間以上の経過。事態は刻一刻を争う。それだけではない。ラオモト・カン。選挙が行われれば彼が知事の座を勝ち得るのは自明だ。彼は勝ちイクサのためにどんな手段も取るであろう。……ゆえに、今だ。今しかない。
ニンジャスレイヤーはアイアンオトメを速度の中に解き放った。その走行痕は炎だ。彼は一直線にハイウェイを目指す。目的地はトコロザワ・ピラー。勝算など考えはしない。行く手を阻むもの全てを排除する。ニンジャを殺す。そしてラオモトを、ダークニンジャを葬る。考えるのはそれだけだ。
2
「アイエエエエ!アバババババーッ!」カブーム!検問所の爆発閃光を背後に残し、アイアンオトメにまたがったニンジャスレイヤーはますます速度を上げる!
予想通り、ラオモトはニンジャスレイヤーの再襲撃を警戒し、インフラを私する権力を駆使して防衛網を張り巡らせている。検問所もシンジケートの思うがままだ。検問所でアサルトライフルを持ち警戒するクローンヤクザ数人をニンジャ視力で遠方から確認したニンジャスレイヤーは無慈悲であった。
ウシミツ・アワーの夜空を飛行する24時間マグロツェッペリンは巨大なプロパガンダ掛け軸を垂らし、大衆へラオモト・カンへの投票行為をリコメンドする。赤ん坊を抱き上げた欺瞞的な肖像の上にネオン文字が明滅する。「革新と安心」「まずカネモチが潤えば貧者に大量再配分できてウィン・ウィン関係」
ハイウェイの眼下、ビル屋上に設置されたオーロラビジョンの映像もやはりラオモトだ。普段はオイラン映像や天気予報であるが、それらをカネで押さえる事など、ラオモトにとっては余りにも容易い。「かように、ネオサイタマ市民の安全は日々脅かされております。無能政府!」ラオモトの音声が轟く。
「剛腕を振るってオムラ・インダストリを働かせ、素晴らしく治安強化!市民の安全!」拳が斜めに突き出すイメージ映像、「改革」の二文字。「企業減税断行!しかも財源確保!あるところにはあるので健全化!」拳が斜めに突き出すイメージ映像、「健全化」の文字。
ニンジャスレイヤーはさらにアイアンオトメの速度を加速させる。後方から二台、鬼瓦で武装した装甲車がニンジャスレイヤーと同様に加速。背後に張り付いてくる。瓦屋根天井のハッチが開き、クローンヤクザがミニガンを構えて迫り出した!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはほとんどノールックで背後にスリケンを投擲。一台の掃射ヤクザの脳天にスリケンが突き刺さり即死!「ザッケンナコラー!」残る一台の掃射ヤクザがミニガンの乱射を開始する。マズルフラッシュが夜のハイウェイを激しく照らす!
ニンジャスレイヤーはアイアンオトメをドリフトさせ急ターンをかける。ナムアミダブツ!このままでは装甲車と正面衝突だ!「アッコラー!?スッゾオラー!?」掃射ヤクザは狼狽えながらミニガンでアイアンオトメを破壊しようと試みる。ニンジャスレイヤーは小刻みに蛇行し銃撃を回避!タツジン!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは衝突寸前で車体をウイリーさせ、急ブレーキした装甲車のフロント部を滑走して跳ね上がった。「ザッケ……アバババーッ!?」そのままウイリー姿勢で落下してきたアイアンオトメが掃射ヤクザをミニガンごと押し潰す!さらにそこで車体を旋回!「アバババババーッ!」
隣の装甲車の砲座から死んだ掃射ヤクザが投げ落とされ、ハッチの中から新たな掃射ヤクザが現れた。「ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」すかさずニンジャスレイヤーはミニガンの銃口めがけスリケンを六連射「ザッケ……アバババーッ!」カブーム!砲身にスリケンを押し込まれたミニガンは暴発し爆発!
ニンジャスレイヤーはアイアンオトメをジャンプさせ、再びハイウェイに着地した。二台の装甲車はグリップを失い、相互に側面衝突して追跡を脱落する。「市民病院など過去の遺物!私は納税者の皆さんを守ります。治療を受ける資格のない無産階級者の危険……」ラオモトのスピーチ映像は繰り返される。
プァーン!クラクションが鳴り、前方の箱トラックが徐々に速度を落としてアイアンオトメの前にはりついた。コンテナのシャッターには「度胸」とミンチョ書きされている。シャッターが上へ引き上げられていく。数十人のクローンヤクザがアサルトライフルを構え、ニンジャスレイヤーを狙っている!
「イヤーッ!」ゴウランガ!バイオペンギンを喰らい尽くすバイオクジラのごとく、アイアンオトメは一瞬の躊躇すらなく、コンテナ内へジャンプして飛び込み、アサルトヤクザ隊に上から襲いかかる!「ザ……グワーッ!」「グワーッ!」「アバババババーッ!」「アイエエアバー!」ゴアアア!ゴアアアア!
ナムアミダブツ!なんたる無慈悲!アサルトライフルを撃つ時間すら与えられず、コンテナ内は血に飢えたマシンの質量殺戮の舞台と化した!「アバババババーッ!」「アバ、アババババババババ!」アイアンオトメが跳ね散らかす血反吐とペースト状の肉片でコンテナ内が真っ赤に染まる!
血みどろのコンテナ内でニンジャスレイヤーはアイアンオトメのエンジンを唸らせる。この集団には少なからずクローンヤクザのみならず生身ヤクザも混じっていたのだ。だがニンジャスレイヤーは敵に対してなんの憐れみも抱かぬ。
旋回してコンテナから飛び出すと、おそるべきターンを決めてトラックを一気に追い抜き、運転席で仰天する運転ヤクザへスリケンを投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」サイドガラスを貫通したスリケンに眼球から脳を破壊された運転者は即死!アイアンオトメに抜き去られたトラックは横転し炎上する!
「働かざるもの食うべからず。勤勉な市民の皆さんの努力を、不満ばかり言っている者らの怠慢で台無しにするなど、まこと遺憾なこと。社会保障事業は抜本的に見直し……」ラオモトのスピーチは続く。バラバラバラバラ!上空の爆音は戦闘ヘリだ。ソウカイヤがいよいよニンジャスレイヤーを排除にかかる。
スポスポスポスポ!スポスポスポスポ!上空からのグレネード掃射だ。ニンジャスレイヤーは激しい爆発を意に介さず、スピードを上げて走り抜ける!「イヤーッ!」その前方で突如、白いヘイズ・ネットが展開!ニンジャスレイヤーは車体をほぼ横倒しにスライディングさせてネットをくぐり抜ける!
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン」前方でアイアンオトメに速度を合わせる装甲車の屋根瓦上で仁王立ちするニンジャから、風に乗って名乗り声が届く。深緑のニンジャ装束とそのメンポをフジキドは覚えている。忘れようはずもない。「ブラックヘイズです。ゴキゲンヨ!」
「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーは走行するアイアンオトメ上で一瞬立ち上がり、オジギ動作を行った。「ブラックヘイズ=サン。確かにそんな名前のニンジャがいたようにも思う。情けなくシッポを巻いて逃走したニンジャが」
「手厳しいな」ブラックヘイズは笑った。「俺はプロフェッショナルなんだ。だが、貴様こそよく生き延びたものよ、あの面倒なゾンビーニンジャを相手に。その後も大暴れだな、ええ?……バジリスク=サンを殺ったニュースにも驚いたぞ。そのヘルヒキャクのバイクは奴の遺品よな」
「くだらんお喋りは止めにしたらどうだ」ニンジャスレイヤーは無感情に遮った。ブラックヘイズは肩を揺すって笑い、特殊メンポに葉巻を挿し込み着火する。「ま、そう焦らんでも、ギャランティー分は働かせてもらうさ。始めるとしよう」
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが先手を打った。アイアンオトメ上で立ち、ブラックヘイズへ向けてスリケンを5連射!「イヤーッ!」ブラックヘイズが装甲車の上で腕を振ると、黒いヘイズネットが手首から展開してスリケンをまとめて絡め取る。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそれを無視!
絶え間のないスリケン投擲がブラックヘイズに襲いかかる!「イヤーッ!イヤーッ!」ブラックヘイズのヘイズネットが繰り返しそれを絡め取って行く。膠着状態か!いや違う!
「返してやろう!イヤーッ!」ブラックヘイズがヘイズネットを打ち振ると、絡め取られていたスリケンがニンジャスレイヤーへまとめてクラスター爆弾めいて飛び散った!危険!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはアイアンオトメを急加速、車体をウイリーさせ、それを盾替わりにブラックヘイズの装甲車へ突進する。特殊カーボンナノチューブ製のタイヤはパンク知らずだ!
「そしてこれでチェックメイトだ!イヤーッ!」ブラックヘイズがもう片方の手を突き出す。装甲車へ突っ込むアイアンオトメの前方に黒いヘイズネットが展開!ナムサン、絡め取られてしまうぞ!「イヤーッ!」アイアンオトメが転倒!横倒しの車体が道路を滑る!
「終わりかニンジャスレイヤー=サン……何?」ブラックヘイズは目を見張った。アイアンオトメにニンジャスレイヤーの姿無し。ではどこだ!頭上!「イヤーッ!」「バカな!グワーッ!」ニンジャスレイヤーの跳躍からのクロスチョップを防ぎきれず、ブラックヘイズはニンジャスレイヤーに打ち倒された!
いかなるワザマエか、ニンジャスレイヤーはあえてアイアンオトメを転倒させ、地面を滑るその車体を蹴って自らは高く跳躍、車体はネットの下を潜らせたのである。ブラックヘイズの判断を凌駕するその戦闘センス!
装甲車の屋根瓦上でニンジャスレイヤーはブラックヘイズのマウントポジションを取った。「慈悲は無い。イヤーッ!」右手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!「イヤーッ!」左手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!
「イヤーッ!」右手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!「イヤーッ!」左手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!「イヤーッ!」右手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!「イヤーッ!」左手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!
「イヤーッ!」右手でパウンド!ブラックヘイズのガードが破られる!「グワーッ!」「イヤーッ!」左手でパウンド!ブラックヘイズのガードが破られる!「グワーッ!」「イヤーッ!」右手でパウンド!「グワーッ!」「イヤーッ!」左手でパウンド!「グワーッ!」
「クソッ!振り落とせ!」ブラックヘイズがインカムで装甲車の運転ヤクザへ指示を出す。「イヤーッ!」右手パウンド!「グワーッ!」「イヤーッ!」左手パウンド!「グワーッ!」
ブラックヘイズの指示を受け、装甲車が激しい蛇行運転を開始した。「ウヌッ!?」ニンジャスレイヤーのマウントが緩む。「イヤーッ!」「グワーッ!?」ブラックヘイズは右脚を抜き、ニンジャスレイヤーの胸を蹴りつける。しかしニンジャスレイヤーは離れない。片手でその脚を抱え込む!
「面倒な奴……!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブラックヘイズの脚を抱えたまま、もう片方の手で道路へドウグ社のカギ付きロープを投擲。目標は路上を横倒しで滑るアイアンオトメの車体だ。
ロープのカギはアイアンオトメの装甲に噛みつき、捲き上げ機構で車体を転倒状態から引き上げた。アイアンオトメのエンジンは回転したままである。たちまちアイアンオトメは無人状態で走行を再開!
「イヤーッ!」ブラックヘイズが右脚を振りほどき、両脚のスプリングキックで反撃!「グワーッ!」そのまま立ち上がる。「イヤーッ!」ブラックヘイズはニンジャスレイヤーへチョップを繰り出す。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは手の甲でチョップを弾く。そして顔面を殴りつける!「グワーッ!」
よろけたブラックヘイズの腹部に、ニンジャスレイヤーはショートフックを叩き込む。「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーはドウグ・ロープを瞬時に巻き戻した。そしてその鈎をブラックヘイズの左腕へ素早く巻きつける。「貴様」「ブラックヘイズ=サン。これからジゴク・ドライブの時間だ」
「貴様ッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは装甲車上から下のアイアンオトメへ跳躍し、見事にシートへ着席した。エンジンに活を入れ、一気に加速する。「グワーッ!」引きずられたブラックヘイズが装甲車から転落!ニンジャスレイヤーは自分の腕に巻きつけたロープの片端を決して離さぬ!
「グワーッ!……グワーッ!……グワーッ!」加速するアイアンオトメの10フィート後方で、ロープにつながれたブラックヘイズの体が道路にバウンドし続ける。「グワーッ!……グワーッ!……グワーッ!」
ブラックヘイズは懐中ナイフを取り出し、巻きついたロープに斬りつける。しかしドウグ社のロープは刃を受け付けない!「ダメか、グワーッ!……グワーッ!……グワーッ!」ブラックヘイズの体が道路上をバウンド!
「そのままゆっくり死んでおれ!」ニンジャスレイヤーは後方のブラックヘイズへ叫ぶ。「グワーッ!……グワーッ!……グワーッ!……仕方あるまいグワーッ!」路上をバウンドしながら、血まみれのブラックヘイズは懐中ナイフを肘関節に押し当てる。「面倒な事だ、忌々しい」
無慈悲に高速で引きずられながら、ブラックヘイズは己の左腕の肘から先を、懐中ナイフで……「イイイイ…イヤーッ!」ナムアミダブツ!肘先をまるごとケジメした!ナムアミダブツ!ゴウランガ!あっという間にニンジャスレイヤーの後方へ、ブラックヘイズは置き去りだ!
「この勝負はくれてやるニンジャスレイヤー=サン!」かすかにブラックヘイズの声が届く。殺し損ねたか?だが今更引き返しカイシャクしに行くヒマは無い。ニンジャスレイヤーはロープを巻き上げ、その先端に巻きついたままのブラックヘイズの左腕の肘から先を拘束解除、路上へ振り捨てる。
「健康な人間にとって無駄なので、施設は売却……」ラオモトのスピーチが遠ざかる。前方にアーチ橋が接近。この橋を渡ればトコロザワだ。ブラックヘイズをフレンドリー攻撃しないよう戦線離脱していた戦闘ヘリがしつこく戻ってくる。スポスポスポスポ!スポスポスポスポ!グレネードをばら撒く!
速度を保ったタツジン的蛇行運転で爆発を潜りぬけ、ニンジャスレイヤーはアーチ橋にさしかかる。空中のヘリコプターを睨んだニンジャスレイヤーは、道路からアーチ橋のアーチに乗り上げた。そのまま加速、橋アーチをアイアンオトメで駆け上る!
「イヤーッ!」アーチ橋の頂点付近、十分な高度を稼いだニンジャスレイヤーは、アイアンオトメからジャンプ!ヘリコプターへ飛びついた!「アイエエエエエエ!?」ヘリ操縦ヤクザがコックピット・ガラスに張り付いたニンジャスレイヤーを前にして失禁!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのチョップがコクピット・ガラスを叩き割る!「アイエエエエ!」ヘリ操縦ヤクザが引き続き失禁!「イヤーッ!」「アバーッ!」ガラスを割って侵入したニンジャスレイヤーの水平チョップがヘリ操縦ヤクザの首を切断!
斜めに空を切って墜落するヘリが、アーチ橋を滑り降りてなお直進する無人アイアンオトメと交錯した。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはコクピットから跳躍しアイアンオトメに再び戻り、加速して引き離す。背後でヘリコプターが河川敷に激突、爆発炎上して煙を吹き上げる!
アイアンオトメにまたがり、全ての追跡者と障害を排除してトコロザワの貪婪たる都市風景に滑り降りていくニンジャスレイヤーは、まるで古事記に記されたヨモツ・ニンジャの血の矢の伝説そのものだ。月から地上へ放たれ、障害物全てを無残に破壊してヒルコ・ニンジャを殺した呪いの矢……。
その矢が向かうは、トコロザワ・ピラー。曇天に投げかけられる「制空権」「権力」「財界」の漢字サーチライト。ライトアップされた不吉な天守閣の威容が、今、サツバツたる速度で侵入を試みるニンジャスレイヤーを睨み下ろす!
3
トコロザワ・ピラー前広場はハイウェイにおける激烈な抵抗と打って変わって人っ子一人おらず、しんと静まり返っていた。ニンジャスレイヤーは一年中満開のバイオ桜の中をアイアンオトメで走り抜ける。桜並木が開け、トコロザワ・ピラーの威容が姿をあらわす。
窓は外からだと壁との判別がつかず、滑らかな巨大オベリスクめいている。特殊なガラスなのだ。大仰で広い大理石階段を上がった先にビルの正門がある。まず目を引くのは正門を守るかのように設置された巨大なミヤモト・マサシ像だ。ラオモト・カンが敬愛する哲学者にして戦闘者。
通常の人間の1.5倍の縮尺で作られた鋼の彫像。右手に持ったカタナを天に向け、左手のカタナは地面を指す。そしてゲタを履いた足でディーモンの頭を踏みつけている。ディーモンはしかめ面で涙を流し、この屈辱に耐えている。ディーモンを踏む英雄は江戸時代に好まれたモチーフだ。
ニンジャスレイヤーはアイアンオトメを無造作に停止させ、気休めのステルス機構をアクティブにして捨て置くと、単独で階段を昇りだした。正門は巨大な自動回転式のドアーである。ゴウン、ゴウン、重苦しい稼働音とともに、回転ドアーはウシミツアワーの今も動き続けている。
「……」ニンジャスレイヤーは回転ドアーを睨みつける。ウシミツアワー。この時間にドアーを稼働させている意図は何であろう。当然、社内にはウシミツ残業サラリマンは沢山いるはずだ。しかし通常、規定を超す残業は違法とされる為、形式上はこのビルに労働者が残っていないタテマエにせねばならない。
ゆえに深夜の残業サラリマンは社屋からやや離れた場所の下水道に通じる洞窟めいた専用通路を通り、マンホールをしめやかに出入りするのが常なのだ。フジキドの脳裏にあの陰鬱な日課がよぎる。
平常時動いていないものが動くこの不自然……ニンジャスレイヤーを誘っているのであろうか?彼はしかし、躊躇なく歩みを進める。ゴウン……ゴウン……回転ドアーは重苦しく動き続ける。
これ程の質量が動く中へタイミング良く入り込む?危険はないのか?貴方の疑問は全く正しい。オムラ社製のこの機構は「挟まれ防止センサーが働き安全」と謳っている。実際にはネオサイタマで年100人近くがこの暴力的機構に絡んだ事故で命を落とす。フジキドの同僚にも一人いた。彼にも妻子があった。
ゴウン……ゴウン……人間阻害社会の象徴めいた巨大鋼鉄回転体の懐へ、ニンジャスレイヤーはツカツカと歩みを進める。ゴウン……ゴウン……背後からガラス扉が迫る、アブナイ!「イヤーッ!」
ニンジャスレイヤーは180度背後へ向き直り、真後ろまで迫っていた強化ガラスをチョップで叩き割った!強化ガラスが砕け散る!さらに一枚!「イヤーッ!」強化ガラスが砕け散る!さらに一枚!「イヤーッ!」強化ガラスが砕け散る!さらに一枚!「イヤーッ!」強化ガラスが砕け散る!
すべてのガラスをブチ割ったニンジャスレイヤーは、今度は回転ドアの支柱を激しく殴りつける!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」みるみる歪んで、軋み出すドア機構!さらに殴りつける!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
ギギッ、ギギギ、ギギゴゴゴ!ついに自動回転ドアーは呻きながら停止した。これはラオモト、そしてラオモトに連なるラオモト的価値観全てに向けた、彼なりの宣戦布告だ!ニンジャスレイヤーは無人の受付ロビーへ足を踏み入れる。天井の巨大電子ボンボリに明かりが灯る!
出迎え合図は円形のロビーを囲むように扇状に配置されたエレベーター。立て続けにキョートめいた到着マイコ音声が鳴る。「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」
ニンジャスレイヤーは眉一つ動かさずジュー・ジツの構えをとった。……ポン!電子音が鳴り、一斉にエレベーターのカーボンショウジ戸が開く!そこから一斉に躍り出る数えきれぬ人数のクローンヤクザ!「「「「「「「「「「「「「「ザッケンナコラー!」」」」」」」」」」」」」一斉にチャカを構える!
パン、パン、パン。乾いた拍手が無言のロビー空間にこだまする。「ムッハハハハハ!ムッハハハハハ!」正面エレベーターの方向だ。古事記に記された海割り伝説めいて、チャカを構えたクローンヤクザが左右に退き、声の主とニンジャスレイヤーの視線が結ばれる。
「……」ニンジャスレイヤーは無言だ。ジュー・ジツの構えを維持し、全方向からの攻撃に引き続き備える。「ムッハハハハハ!ムッハハハハハ!よくぞオメオメと現れたなニンジャスレイヤー=サン!あのオイランめいたコーカソイド女によほどご執心と見える!チンチン=カモカモか!ムッハハハハハ!」
声の主、ニンジャスレイヤーと睨み合うのはヒョロリと背の高いニンジャである。オニめいたメンポは通常と逆で、鼻から上を覆うが歪んだ笑みを浮かべた口は隠さない。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン!我輩は『ラオモトの声』である!ムッハハハハハ!」
「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「ドーモ」ニンジャスレイヤーと『ラオモトの声』は同時にオジギした。「道化め」「ムハハハハ!我輩は『ラオモトの声』だ!」
「今宵は天守閣にあらせられる我がボスからありがたきお言葉をことづかっておる。ニンジャスレイヤー=サン、今すぐドゲザし、ソウカイ・シンジケートに忠誠を誓え!さすれば寛大なボスはケジメ無しでお前をシックスゲイツに迎え入れるとの事!ムハハハハハ!」
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを『ラオモトの声』めがけ投げつけた。「アイエッ!やめろ!」『ラオモトの声』は慌ててブリッジしてスリケンを回避!「まったく交渉もクソもない狂犬とはこの事だな!あのナンシーとかいう女にもその調子で犬めいて毎晩サカっておったか!ムハハハ!」
ナンシー?ニンジャスレイヤーの心臓が一瞬鼓動スピードを速めた。彼女の名前は巧妙に隠され続けてきたはず。まだ未熟だったナンシーを補足したコッカトリスはその場でニンジャスレイヤーに殺され、その後ナンシーはハッキングして情報を全て消し去っていた。なぜ彼女の名が再び?理由は自明だ。
「どうした、ニンジャスレイヤー=サン?なぁに案ずる事は無い。あのコーカソイド女の肉体は今頃ラオモト=サンが思う存分ねぶり尽くしておられるに違いない!あの女、よがり狂って自身とお前の秘密を洗いざらいブチまけるだろう!その後は我輩に下げ渡して貰うのだ!ムハハハハハ!」「イヤーッ!」
「アイエッ!」問答無用でニンジャスレイヤーから投ぜられたスリケンを慌ててブリッジ回避し、『ラオモトの声』は喚く。「バカども!奴がスリケンを投げてきたらちゃんと盾にならんか!あとでケジメだ!……ニンジャスレイヤー=サン。ドゲザせんのなら、せいぜい苦しんで死んでもらおう。やれ!」
「「「「「「「「「「「「「ザッケンナコラー!」」」」」」」」」」」」」クローンヤクザが同時に撃鉄を起こす。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはその場でコマめいて高速回転した。「「「「「「「「「「「「「グワーッ!」」」」」」」」」」」」」
ゴウランガ!ニンジャスレイヤーは一度の回転で何枚のスリケンを投げたのか?大量のクローンヤクザ達が首からバイオ血液を吹き出し絶命して倒れる!「ザ、ザッケンナコラー!」「アッコラー!」クローンヤクザ達がうろたえながらニンジャスレイヤーへ発砲しようとした時、既に彼はそこにはおらぬ!
「イヤーッ!」「グワーッ!」クローンヤクザ人混みの一画、間欠泉めいて数人が血を噴きながら空中へ跳ね上げられた。「ええい、そこだ!かかれ!クソッ!」『ラオモトの声』が喚く。
彼のニンジャ注意力は姿勢を低くしてクローンヤクザの中へ紛れ込んだニンジャスレイヤーを捉えているが、クローンヤクザはダメだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」ふたたび間欠泉めいて数人のクローンヤクザが血を噴きながら空中に跳ね上げられた。「そこだ!クソーッ!」
慌ただしくそこかしこを指差しながら『ラオモトの声』は喚き散らした。だが間に合わない!「グワーッ!」「グワーッ!」「ザ、ザッケンナコラー!」「やめろ乱戦下でチャカは……」「グワーッ!」「ザ、ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
統率された指揮系統環境がひとたび乱されるとクローンヤクザは脆い!でたらめな方向に発砲するクローンヤクザのフレンドリー射撃が相次ぎ、ますます乱戦の状況は悪化する。「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」グワーッ!」まただ!三体のクローンヤクザがひときわ高く跳ね上げられた!
「イヤーッ!」見よ!恐るべきニンジャ敏捷性によって、ニンジャスレイヤーは空中に跳ね上げられた三体のクローンヤクザの死体を飛び石めいて蹴りながら天井へ飛び上がる! 「そこだ!撃て!今なら撃てーッ!」「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」発砲の嵐!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは竜巻めいて空中で蹴りを繰り出す。天井から吊り下がる巨大ボンボリの支えが砕けた。これが彼の狙いであった!「「「「「「「ザッケンナコラー!?」」」」」」巨大ボンボリは下のクローンヤクザ集団へ重苦しく落下する!「「「「「「グワーッ!」」」」」」
巻き上がる破片と粉塵の中から、ゆっくりとニンジャスレイヤーが進み出る。「ア……ア……アイエエ……?」『ラオモトの声』は失禁しながら後ずさりした。歩きながらニンジャスレイヤーは無慈悲に言った。「あと何人残っている?かかって来させるがいい」
「アイッアイエエエエエエー!」『ラオモトの声』は背後の中央エレベーターめがけて逃走した。カーボンショウジ戸が開き、『ラオモトの声』は中に駆け込んで「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの全力疾走飛び蹴りがその背中に突き刺さった!
ニンジャスレイヤーはエレベーターの壁に叩きつけられた『ラオモトの声』に続いてエレベーターに乗り込んだ。そして「閉」ボタンを押した。「ドーゾ、お客様、何階か言ってください」「アイエエッ……アバッ……助け」「イヤーッ!」無防備な顎に右ストレートを叩き込む!「グワーッ!」
殴られた『ラオモトの声』の背中がエレベーター内壁に再度打ち付けつけられる。さらに左ストレートが無防備な顎に叩き込まれる!「イヤーッ!」「グワーッ!」
「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!「た、助けてくれ」
「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!「助けて!」
「……。……何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!「言う、言う……天守閣だろう……言う……」
「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!「か、隠し階があるのだ、本当だ、このエレベーターを操作する……」
「……。……何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!
「ナ……ナンシー……ナンシー=サンか?悪かった、我輩は居場所を知らん、本当だ」「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!
「もうゆるしてくれ……本当なんだ、操作盤に秘密がある」「イヤーッ!」「グワーッ!そこを使って一気に15階のトレーニンググラウンドまで上がるんだ、そこから」「イヤーッ!」「グワーッ!そこから別エレベーター……上がシンジケート領域なのだ、少なくともナンシーさんは……そこより上……」
ニンジャスレイヤーは手を止めた。「……やれ」「アイエエ……」壁際から解放された『ラオモトの声』は操作盤に手を延ばし、階数ボタンを順番に押した。8,9,3,8,9,3,8,9,3。マイコ音声がアナウンスする。「直通ドスエ」エレベーターが上昇を開始する……
上昇の重力が急激にかかる。相当な速度なのだ。操作盤は11階までしか無い。 「頼む……」ズルズルと座り込んだ『ラオモトの声』が息も絶え絶えに言う。「我輩……お、俺はただのメッセンジャーに過ぎないのだ……許してくれ……」ニンジャスレイヤーは腕組みして見下ろした。「そうか」
「ここから先は……ニンジャの世界……天守閣に続くフロアーは……シックスゲイツの六人が……」「……」ポーン!マイコ音声がアナウンスする。「トレーニンググラウンドドスエ。成せばなる!」
カーボンショウジ戸が厳かに開く。その先は闇。ニンジャスレイヤーはゆっくりとエレベーターから進み出る……その直前で彼は振り返った。「イヤーッ!」「グワーッ!?」『ラオモトの声』の脳天にチョップを振り下ろし、頭蓋骨と脳を無慈悲に粉砕した。ナムアミダブツ!
「……ニンジャ殺すべし」闇の中へ踏み出すニンジャスレイヤーの背後で、『ラオモトの声』は爆発四散した。「サヨナラ!」闇が一瞬照らされる。ここは……崖、か?
闇はすぐに再び照らし出された。今度は天井の巨大ボンボリによって。ニンジャスレイヤーはトレーニンググラウンドの光景を見渡した。「……よかろう」
4
ニンジャスレイヤーは巨大ボンボリで照らし出された空間を見渡した。今いる場所はごく狭いバルコニーめいた足場となっている。手摺は無く、もしニンジャスレイヤーがニュービーであり暗闇を果敢に飛び出していたら、真っ逆さまに転落していた事であろう。
広大な空間の向こうには同様にバルコニー状の足場があり、ショウジ戸がある。ショウジ戸の 上には額縁入りのショドーで「続き」と書かれている。眼下はトゲが無数に生えた剣呑な床だ。トゲには白骨化した死体が幾つか引っかかったままになっている。
ニンジャスレイヤーはカギつきロープを対岸の額縁に向かって投擲した。ニンジャ腕力で投げられ長距離を飛んだカギは、ガッチリと額縁をくわえ込んだ。数度強く引いて手応えを確かめると、こちらがわのショウジ戸の上にある額縁「初心」に反対側を固定した。これでロープが張り渡された格好になる。
ニンジャスレイヤーは躊躇なくロープにぶらさがり、素早く両手を交互に動かして渡り始めた。あの「続き」のショウジ戸の先がトレーニンググラウンドの本番で、この崖を渡れない者には参加資格無しとでもいう事だろうか?なんとバカバカしい通過儀礼であろう。
半ばまで進んだ時である。滑らかな壁に突然、四角い銃眼が複数開き、ヤリがせり出した。ニンジャスレイヤーは特段、驚く事もなくロープを渡り続ける。このくらいの妨害は当然行われるであろう事はわかっているからだ。
赤いレーザーポインターがニンジャスレイヤーをスキャンした。ドシッ!ドシッ!音を立ててヤリが続けざまに発射される。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはぶら下がりながら蹴りを繰り出し、リズミカルにヤリを弾き飛ばす。右!左!右!左!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
ガシャン!追加の銃眼が開く。ナムアミダブツ!新たにせり出してきたのはミニガンだ!掃射を受ければ無傷では済むまい。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはロープを中心にぐるりと回転し、ロープの上にサーカスめいて直立した。ニンジャ平衡感覚のなせる技だ!ミニガンの容赦ない射撃が開始される!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはロープの上を風のように駆け抜けた。タツジン!銃弾が追随するがニンジャスレイヤーはその一歩先をゆく。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはロープ上から対岸へ向かって回転しながら跳躍、着地と同時に壁のミニガンへスリケンを投げて破壊した。
この程度の妨害はニンジャスレイヤーにとってウォームアップにすらならぬのだ!カギつきロープを外し、ロックを解除すると、向こう岸のカギも巻き取られて彼の手に収まった。ショウジ戸を引き開ける。第二のエレベーターだ。迷いなく中へ進む。
今度のエレベーターは直通ボタンひとつだ。そこに併せてトレーニンググラウンドのガイドとおぼしきウキヨエが設置されていた。この設備は数フロアにまたがるようであるが……「アスレチックフロアドスエ」合成マイコ音声が告げる。ニンジャスレイヤーは踏み出した。
やはりここもバルコニー状の狭い足場で、下はお決まりのスパイクグラウンドだ。「イヤーッ!」エレベーターから降りた瞬間、ニンジャスレイヤーを頭上から何者かが襲う!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは前転しながら飛び出し、頭上からの謎の攻撃を回避した。アブナイ!崖から落ちるぞ!
「イヤーッ!」そのままニンジャスレイヤーは素早くジャンプし、手近の……壁から横向きに生えた円柱状の足場に飛び移った。円柱はかかった重みのままにグルグルと回転しニンジャスレイヤーの安定した着地を拒む。引き続きアブナイ!円柱は前へ前へ、飛び石めいて生えている。飛び移るしかない!
「イヤーッ!」自転する足場から足場へニンジャスレイヤーは壁沿いに飛び移った。対角には安定したバルコニー状の足場がある。そこまで足場が続く。このフロアは広く、対角はまだまだ遠い!「イヤーッ!」背後から飛来する飛び道具を空中のニンジャスレイヤーはチョップで弾き返す。
ニンジャスレイヤーが弾き返したのは小型のマチェーテだ。この武器には見覚えがある!ニンジャスレイヤーを追って足場をジャンプしてくる異様なニンジャの事を、彼は知っている!「イヤーッ!」追ってくる異様なニンジャは再度小型のマチェーテを投擲した。「イヤーッ!」再度弾き返し、足場を蹴る!
ニンジャスレイヤーは難しい立ち回りを強いられていた。防御時にバランスを崩せば足場で滑り、眼下のスパイクグラウンドへ真っ逆さまだ。だが、なぜあのニンジャがここに居る?ジャンプを繰り返しながら、ニンジャスレイヤーは追跡者を一瞥する。円錐形の編笠を被った迷彩ニンジャ装束の男を。
「アイサツも無しか!フォレスト・サワタリ=サン!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げ返した。「イヤーッ!」敵は空中で大振りのマチェーテを振り回し、スリケンを撃ち落とした。「これはアンブッシュの範疇だ、ニンジャスレイヤー=サン。ジャングルでは常に敵に囲まれている!」
「ジャングル?相変わらず様子のおかしい男だ」ニンジャスレイヤーは舌打ちした。「イヤーッ!」次の足場へ飛び移り「なぜオヌシがここに?サヴァイヴァー・ドージョーはどうした。ソウカイヤの犬になりさがったか?」「それはこっちのセリフだぞニンジャスレイヤー=サン!」フォレストが吠える。
「おまえこそ、このトレーニンググラウンド内でサバイバルしているおれを排除しに来たのだろうが!イヤーッ!」「イヤーッ!」スリケンと小型マチェーテがぶつかり合い弾け飛ぶ。ニンジャスレイヤーは次の足場へ飛び移った。もう対岸は近い。さらに跳躍!壁へ向かってだ!「イヤーッ!」
ゴウランガ!ニンジャスレイヤーは垂直の壁を走った!パルクールのタツジンめいた動きはまさにニンジャの本懐である!「イヤーッ!」そのまま彼は壁を蹴ってバルコニーに着地、苦労して足場を飛び移るフォレスト・サワタリへ容赦なくスリケンを連続投擲した!「イヤーッ!イヤーッ!」
「サイゴン!」フォレストはマチェーテ二刀流となり、五連続で投げつけられたスリケンを弾き返した。「ウヌ、グワーッ!」足元がおろそか!円柱状の足場で滑り、落下しかかる!「サイゴン!」彼は咄嗟の機転を効かせて壁にマチェーテを突き立て、ぶら下がった。「よ、よしこれだ!そこで待っておれ!」
フォレストはマチェーテを交互にザクザクと壁に突き刺し、ロッククライミングめいてニンジャスレイヤーのいる足場を目指してくる。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。「イヤーッ!」フォレストは片方のマチェーテでぶら下がりながら、もう片方でスリケンを弾き返す。「やめろ!」
「ソウカイヤの犬でないなら、なぜここにいる。イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。「やめろ!イヤーッ!」フォレストは登りながらマチェーテでスリケンを弾き返す。「フン、宝はやらんぞ。俺はこの戦場で一週間サバイバルした。救援の到着があと一ヶ月延びようと耐える事ができる」
「宝だと?相変わらず盗っ人めいた事をしておるのか。イヤーッ!」スリケン投擲!「やめろ!イヤーッ!」フォレストは登りながらスリケンを弾き返す。「フン、何とでも言うがいい。ソウカイヤは何やらゴタついておったが、お前が原因か。捕虜めいた人間を連れている奴も……んん?となるとあれは」
「イヤーッ!」「やめろ!イヤーッ!……となるとあれは日頃お前とつるんでいるコーカソイド女か?遠目にはわからなかったが……なるほど!これで合点が行く!おれにとっても僥倖だ!」フォレストは倍速で壁を登り出した。コワイ!「宝がポイント倍点だ!あの女はおれのヨメにするのだからな!」
ビーッ!警告音が鳴り響いた。合成マイコ音声が告げる。「中間ポイントに長く休み過ぎています」……ニンジャスレイヤーの足場が壁に収納され始めた!
ニンジャスレイヤーは舌打ちし、次の足場を見た。なるほどこのアスレチック空間は、壁沿いに、いわば四角い螺旋を描いて、壁から生える足場が徐々に上へ続いて行くというわけだ。角に到達するたび、この中間ポイントとやらが設置されている……。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛び移った。
「ジェロニモ!」フォレストがマチェーテの柄の上に飛び乗り、そこから、収納されていく足場へ飛び移った。さらにニンジャスレイヤーを追ってジャンプ!「あの女はおれのものだ!」
新たな足場は狭く長い上り勾配である。先を見ると、何かが複数、転がって来る。スパイクが飛び出した大きな鉄球だ!巻き込まれればネギトロとなる事は確実!そして後ろからはフォレスト・サワタリ。狂ったニンジャではあるがカラテは強い。片手間で相手をして殺せる敵でない事は確かだ。
フォレストがマチェーテを投げながら追いすがる。「このトレーニンググラウンドに潜伏したおれは突入の糸口を掴むその日まで、ハンモックで休み、携帯レーションやサバカレー・カンを一日一度だけ摂取してサヴァイヴしてきた!おまえごときの生半可な覚悟でこの領域を突破できると思うな!」
生半可な覚悟だと?フジキドの冷徹な心に憤怒の火が灯る。しかし、おお、前方に注意せよ!背丈ほどもあるスパイク鉄球がニンジャスレイヤーの前方に迫る!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回転跳躍してそれを飛び越す。ナムサン!さらなる鉄球が複数転がって来る!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回転跳躍してそれを飛び越す。ナムサン!さらなる鉄球が複数転がって来る!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回転跳躍してそれを飛び越す。ナムサン!さらなる鉄球だ!「イヤーッ!」
次々に転がって来る鉄球を飛び越え、時に背後のフォレスト・サワタリと飛び道具で応酬し、ニンジャスレイヤーはあっという間に次の中間ポイントに到達した。今度は何だ?道が無い!
ビーッ!「中間ポイントに長く休み過ぎています」ふたたびマイコ音声だ!「イヤーッ!」フォレストが追いついてきた。「バカめ!ここはこうするのだ!イヤーッ!」フォレストはニンジャスレイヤーを追い抜き、虚空へダイブした。ナムサン!キヨミズ!
フォレストは壁にしがみつき、体を支えた。「どうだ!お先にシツレイ!女はいただくぞ!」ニンジャスレイヤーは収納されていく足場上で壁の状態を注視した。そして読み取った。微かな凹凸が壁面に線状に仕込まれている。これを使って壁伝いに進めと言うのか。ウカツ!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーも足場からジャンプし、壁の微かな切れ込みに指を差し込んだ。フォレストは猿めいたニンジャ握力を駆使してどんどん進んでゆく。ニンジャスレイヤーも負けてはいられない!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」もしも離れた位置に定点カメラがあれば、壁にヤモリめいて張り付いた二人のニンジャが、お互いに蹴りを繰り出して妨害しあいながら徐々に斜め上方向に進んでゆくさまを目撃できることだろう!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」蹴りの応酬!上へ!上へ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」蹴りの応酬!上へ!上へ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」蹴りの応酬!上へ!上へ!やがてバルコニーに差し掛かる。最終地点と見え、そこにはショウジ戸がある。
「おれの勝ちだニンジャスレイヤー=サン!」フォレストは壁の凹みにしがみついた姿勢から斜め上方向にジャンプし、バルコニー状の足場に飛び移った。ショウジ戸を引き開けエレベーターのボタンを押した。「サラバ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが閉まりかけのエレベーターに滑り込む!
エレベーターが急上昇を開始!狭いエレベーター内でニンジャスレイヤーとフォレストは対峙する。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがチョップを繰り出す。「イヤーッ!」フォレストもチョップで反撃!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは立て続けに攻撃、フォレストにマチェーテを抜かせない!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがフォレストのキドニーめがけてフックを繰り出す! 「イヤーッ!」フォレストは裏拳でフックを弾き、ニンジャスレイヤーへ目潰しを繰り出す!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは危うくそれをかわし、ショートアッパーを繰り出す!
「イヤーッ!」フォレストは半身になってアッパーを回避、水平チョップでニンジャスレイヤーの首を狙う!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは身を沈めてそれをかわし、ミゾオチにチョップ突きを繰り出す!「イヤーッ!」フォレストはその手首を打って突きを反らす!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはショートフックで脇腹を狙う!「イヤーッ!」フォレストはそれをガード、ショートフックで脇腹を狙う!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそれをガード、再度フォレストの顎めがけてアッパーを繰り出す!ポーン!「バトルフィールドドスエ!」「グワーッ!」
エレベーターの到着に一瞬の注意を取られたフォレストはニンジャスレイヤーのアッパーを顎に受けてのけぞる。ショウジ戸が開く!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回し蹴りをフォレストの腹部にヒットさせた。「グワーッ!」フォレストはエレベーター外へ蹴り出される!
蹴り出されたフォレストは廊下を滑った。このフロアは先程までと違いオフィスの廊下めいている。フォレストは笑いながら起き上がった。「バカめ!おまえとの戦いなど、おれには二の次、三の次!宝と女はいただくぞ!」踵を返し、フォレストが駆け去る。曲がり角をまがり視界から消えた!
またしてもウカツ!ニンジャスレイヤーは全力疾走でフォレスト・サワタリの後を追う。角を曲がると開け放たれたカーボンフスマだ。躊躇なく入り込む。鏡張りの広大な空間がそこにあった。ここがバトルフィールドとやらか?フォレストはどこに?ニンジャスレイヤーはニンジャ注意力を張り巡らせる。
この広大な空間内には四角いタタミ・リングやドヒョウが複数ある他、鏡張りの壁沿いには打撃戦練習のための木人や、ルームランナー、ケンドー・アーマーが並ぶ。ソウカイ・ニンジャ達がスパーリング訓練を行う場所であろうか。床には洗いきれない血のシミがそこかしこにある。
「ゴジュッポ・ヒャッポ」「成せばなる」「乱打戦」「辞めどきがつかめない」「プロテイン」……それら文言が書かれた壁には沢山のカーボンフスマがある。ここからさらに別のトレーニング施設へ通じているのだろう。厄介な事だ!天井を見上げると禍々しいブッダデーモンのフレスコ画と目が合った。
「スゥーッ!ハァーッ!」ニンジャスレイヤーはやおら中腰姿勢を取り、チャドー呼吸を行った。フォレスト・サワタリが残したニンジャソウル痕跡を読み取ろうとしたのだ。もともと多くのニンジャ達が日頃から利用する空間であったが、ごく新しい、微弱なニンジャソウル痕跡を感知する事に成功した。
フォレストはこのトレーニンググラウンドフロアにおけるサヴァイヴァル行為をしきりに自慢していた。出入りするソウカイ・ニンジャの注意をぬって、野伏めいて潜伏していたわけだ。地形の把握はもとより、あの全力疾走、目指すべきルートになんらかの見通しがあっての事だろう。
この広いバトルフィールド内にカーボンフスマ戸は十以上ある。フォレストの痕跡が続くその中の一つに、ニンジャスレイヤーは迷わず突入した。フォレストは危険なニンジャだ。下手をすればナンシーの身は今以上、最悪以上に最悪な危険にさらされかねない。フスマを引き開けると細い廊下だ。彼は駆ける。
前方にノレン!「上へ業務用エレベータ」とミンチョ書きされている。ニンジャスレイヤーはノレンをくぐった。「グワーッ!」聞こえてきた悲鳴はフォレストのものだ。ニンジャスレイヤーは立ち止まった。これは!
彼は四角い竪穴めいた巨大な吹き抜けを前にしていた。足場は水泳の飛び込み競技めいた心もとない出っ張りだ。彼は下を見た。ゴウランガ!50フィート近く下に水面が見える。この竪穴の底はプールなのだ。水面はライトアップされている。水のプールではない。重油のプールである!
ニンジャスレイヤーは顔を上げた。正方形の金網状の床が宙に浮かんでいる。床の四隅は鎖で吊られ、その鎖は上方の闇に消えている。チャリチャリチャリチャリ。鎖が巻き上げられる音が響き、足場は徐々に上がってゆく。ロウ・ファイなリフト式エレベーターだ。
「グワーッ!」悲鳴が再度聴こえ、金網上のフォレストが吹き飛ばされて転倒するのが見えた。フォレストは首を振りながら立ち上がる。何者かと戦闘中のようだ。下からではそれ以上の状況は確認できない。いや、躊躇の時間は無い!エレベーターはゆっくり上昇していく。取り残されてはならぬ!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは跳躍し、エレベーターの縁にしがみついた。チャリチャリチャリチャリ、鎖で吊られた不安定な足場が身じろぎする。ニンジャスレイヤーはエレベーター上によじ登った。そして対峙する二者を見定める。一人はフォレスト・サワタリ。対するは……この鋼の巨体は!
「チッ、しぶとい奴め!」フォレストは竹槍を構え、乱入してきたニンジャスレイヤーを睨んだ。「見敵、新たなエナミーを発見。アイサツ・モード重点。ドーモ、モータードクロ、デス」ニンジャスレイヤーへ電子音で応えたのは四本の脚を備えた鋼鉄のマシーンだ!
かつてニンジャスレイヤーが戦闘したモータードクロは悪夢めいた八本の腕を持ち、それぞれに神話由来の武器を装備していた。だがこのモータードクロの腕は二本。巨大な腕の先はスパイク付きの鉄球になっており、ゴリラめいた胸板には「秩序」「量産型試験機体」とミンチョ書きされている。
「ニンジャソウル検知!この敵もニンジャ判定ポジティブ!ゼンメツゼンメツゼンメツだ!」ドッシ!ドッシ!四脚で接近、量産型モータードクロがいきなりニンジャスレイヤーに殴りかかる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは鉄球パンチを側転して回避!「キカイにアイサツなど要るまい!」
「ニンジャスレイヤー=サン!」竹槍を構えたフォレストが呼びかける。「今はおまえの相手をしておられぬ。続きはこのソ連の新兵器を片付けてからだ。ここは戦場だぞ!」「よかろう」ニンジャスレイヤーは頷き、カラテを構えた。「ゼンメツ!ゼンメツだ!イヤーッ!」鉄球パンチが襲いかかる!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは鉄球を避けると、振り下ろされたその巨大な腕を蹴ってジャンプ、怪物的意匠の頭を飛び蹴りした。「イヤーッ!」「ピガーッ!」モータードクロがよろめき、四本の脚で踏みとどまる。なんたる安定感!「イヤーッ!」そこへフォレストが竹槍で追撃!
「ピガーッ!」鋼の四倍の強度を誇るバイオバンブーで脇腹を突かれ、モータードクロがよろめいた。黒いオイルが流れ出す。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!「ピガーッ!」モータードクロがよろめく!さらにゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!「ピガーッ!」
「イヤーッ!」「ピガーッ!」「イヤーッ!」「ピガーッ!」ニンジャスレイヤーは繰り返しジャンプパンチを浴びせ、モータードクロをエレベーターの縁へ追い込んでゆく!「ゼンメツゼンメツだ!」胸部プレートが展開、ミニガンが迫り出す!「サイゴン!」ダッシュしたフォレストがヤリを突き出す!
「ピガガガ!ピガガガーッ!」フォレストの追撃によってついにエレベーターから押し出されたモータードクロは、虚空へ銃弾を乱射しながら落下!はるか下方で重油のプールがその鋼鉄のボディを飲み込む音が聴こえた。ドブン……!「よし邪魔者は片付いた、次はおまえがプールを泳ぐ番……」「待て!」
ニンジャスレイヤーは頭上の闇を睨んだ。「イヤーッ!」転がり避けたその地点に、巨体が落下してきた。新手のモータードクロだ!「まだ……何!イヤーッ!」フォレストもまた側転して避ける、そのポイントにさらに一体が落下!新たに現れたるは二体!ナムアミダブツ!なんたる量産型!
「ドーモ、モータードクロです、ニンジャソウル検知!ゼンメツゼンメツゼンメツ」「ゼンメツゼンメツゼンメツだ!」「イヤーッ!」すか さずニンジャスレイヤーがゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!「ピガーッ!」「イヤーッ!」さらにゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!」「ピガーッ!」
「ゼンメツだ!」もう一体がニンジャスレイヤーを横から殴ろうとする。だがフォレストは竹槍を突き出し阻止!「サイゴン!」「ピガーッ!」脇腹にヤリを刺すと、片手で道具袋からボーラ(分銅つき投擲ロープ)を取り出し、ニンジャスレイヤーがジャンプパンチを続けるもう一体の脚めがけて投げつける!
「ピガガガ!ピガガガ!」ナムサン!ボーラはロープ両端の分銅の重みでモータードクロの脚二本をひとまとめにしてしまった。バランスが崩れる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!「ピガーッ!」「イヤーッ!」さらにゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!
「ピガガガ!ゼンメツだ!」フォレストに脇腹を刺された一体の胸板プレートが展開、ミニガンが迫り出す!ニンジャスレイヤーへ向かって銃弾を乱射!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは地面を転がってそれをかわす。射線上に位置したもう一体がフレンドリー射撃を受け、エレベーターを転がり落ちた!
「イヤーッ!」フォレストはマチェーテを取り出し、モータードクロの懐に潜り込んで腹部に突き立てる。「ピガガガ!」機械油やタマゴ、シャリが噴出!「イヤーッ!」さらにマチェーテを取り出し、ミニガンに横から突き立てる。「ピガガガガガ、ガガガ!」ミニガンが暴発!火を吹いた!「ピガガーッ!」
ニンジャスレイヤーはモータードクロへ向かって全速力でダッシュ!「イイイ……イヤーッ!」飛び蹴りが頭部を一撃で粉砕・切断する!「ピガ、ピガガガッ!ガーッ!」モータードクロは頭部を吹き飛ばされ、火花を散らして活動を停止した!
フォレストは破壊されたモータードクロからマチェーテを引き抜き、二刀流を構えてニンジャスレイヤーに向き直った。「さあ、これでソ連の援軍は片付いた!決着をつけてやるぞニンジャスレイヤー=サ……ン?」フォレストは訝しげに自分の胸を見下ろした。「……?」「……!」
血濡れの腕がそこから生えていた。「何……アバッ……?」フォレストがもがいた。彼の背後に立つ影がニンジャスレイヤーを見た。ニンジャスレイヤーは臨戦姿勢だ。一瞬その目が見開かれ、そして憎悪の炎が宿る。「……!」
「こいつ、心臓が左右逆か」新手のニンジャは無感情に言った。「アバッ……何だと……アバッ……」フォレストは前傾姿勢で苦労してその腕から逃れた。鮮血が噴き出す。「バカな……おれがベトコンにここまで接近を許すはずが無い……バカな……アバッ……」
「アバッ……イヤーッ!」フォレストは決死の振り向き攻撃を繰り出した。両手のマチェーテを打ち振る!「イヤーッ!」新手のニンジャは僅かに踏み込んだ。フォレストの体がワイヤーで引っ張られたように吹き飛ぶ!「グワーッ!」
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛び込んだ。ポン・パンチ!「イヤーッ!」新手のニンジャは前方へ高く跳躍、ニンジャスレイヤーを飛び越して背後に着地した。「グワーッ!」吹き飛んだフォレストは金網床でバウンドし、転げ落ちる。右手が床の縁を掴む。
フォレストは必死でエレベーターにぶら下がる。ニンジャ握力は胸の傷から噴き出す血とともに失われてゆく。「ま、待っておれ……アバッ……必ずおれはおまえらにホーチミンの宝を……アバッ……アバッ……、……アバッ」……その手が離れた。
ニンジャスレイヤーは視界の奥で金網床から力無く落下するフォレストを一瞥し、目を細めた。そしてあらためて敵ニンジャにアイサツした。黒いニンジャ装束のその男に。「ドーモ。ダークニンジャ=サン。ニンジャスレイヤーです。ここで会ったが百年目」
ダークニンジャはオジギを返し、ジュー・ジツを構えた。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ゴブサタしています」はるか下で重油がフォレストを呑み込むドブンという音が小さく聴こえた。チャリチャリチャリチャリ。エレベーターを巻き上げる鎖が停止する。
ニンジャスレイヤーはダークニンジャの背後に竪穴の出口の通路を見る。ダークニンジャの手が幻惑的に動く。燃えるような憎悪と殺意がニンジャスレイヤーの視界を染め、全ニューロンを駆け巡る……!
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