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S4第3話【マスター・オブ・パペッツ】#2

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 入り組んだビルの裏壁と高架と防壁に四方を囲まれた墓地公園は、ネオサイタマの街区の狭間にあり、誰からも忘れ去られていた。錆びた滑り台の裏に建ち並ぶ墓石には「無縁仏」と漢字で書かれており、備えられたマンジュウやダンゴは完全に干からびていた。吹き込む風に揺れる柳の枝は恐ろしい。

 仁王立ちするマスラダは、錆びたブランコに座るフィルギアを前にしていた。「……ストラグル・オブ・カリュドーンの基本ルールの一貫だな」フィルギアはブランコを軽く揺らしながら、マスラダに語った。「積極的に探し回って倒しに行くのもいいが、どちらにしろ、始まっちまえば、お互いの居場所は判るッてこと」

「だから奴らは自分の番が来るまで隠れ潜んでいる、そういう事か?」「ああ、そうだ」フィルギアはブランコを止めた。「このゲームをお前が生き残る為には、まずは全員倒す事だが……」「不十分だ」マスラダの目つきが険しくなった。「後ろでのうのうと見物している連中に思い知らせる必要がある」「まあ……そりゃ……」

 フィルギアは懐からシャボン・ストローを出し、噴いた。墓場の風がシャボン玉を吹き流す。マスラダは尋ねる。「それで? シナリイとは何者だ」「昔の知り合いさ。……お前が作ったオリガミの正体は、奴にもわかっていない」「おれはオリガミを作っていない」「お前がカラテして、生じた。同じさ」

「……」マスラダは俯き、拳を握った。フィルギアは考えをめぐらし、言葉にしていった。「まあ、俺のほうでも調べちゃみるが……とにかく、生じたオリガミは動かせず、壊せず、消えもしないし……次の狩人を倒した時にも、新しいものが出来るんだろうよ」


◆◆◆


「どうしました?」コトブキの言葉に、マークスリーは我に返った。カートンボックスを落としそうになり、タキが慌てる。「オイ!」「アッ……これは、失礼を」片手の力でカートンを支えたマークスリーは、カウンターの裏にそれを運んだ。「本当にお構いなく」コトブキが気遣った。

「こちらこそ、どうか気になさらず」マークスリーは咳払いした。「ただ僕自身がそうしたいから、しているまでです。感謝も不要です。僕はただ、レディに手を差し伸べることを規範として……その」「なんて奥ゆかしいのでしょう。わたし、コトブキといいます」コトブキが笑顔で名乗った。マークスリーは再び動揺しながら、偽名を名乗った。「ア……僕は……ジョンです」

「ジョン=サン? その素敵な身なりは、地方性が豊かですね。グレートブリテン諸地域のミックスでしょうか」「ああ、まあ、色々と……。わかるのですか」「わたし、服装には詳しいのです!」二人のやり取りを、タキは苦虫を噛み潰したような顔で見ている。「旅行者かい!」奥の席から声がした。

「こっちで一杯付き合う気はないかい?そこの……イック! 美少年」黒髪の女がケモビールのジョッキを掲げた。「アタシは……イック! レッドハッグと呼びな……ヒヒヒ!」「あのファッキング・ネエチャンめ」タキは唸った。「中途半端に意識持ち堪えやがって。つぶれて寝ちまえばいいのに」

「やめとけ、やめとけ!」同席の重サイバネ者が……否、金属の外骨格で覆われた人型ロボットが、レッドハッグを窘めた。喋るたび、ロボットの目は音声に合わせて明滅した。「人に絡むな。後でどうせ何にも覚えてねえだろ、このやり取りも」

「そんな事はないよ! 泥酔者の……イック! 言い訳を真に受けちゃいけないよ。酔っ払いが前日の記憶が無いとか言う時はね、ありゃ嘘だ。ごまかしてるだけだ。アタシにゃわかる。アイツもね……ニンジャスレイヤー=サンも」

 マークスリーがツカツカとレッドハッグのもとに向かってゆく。「おう、なんだ、どうした?」同席のロボットが首を動かし、反応した。マークスリーはロボットを見る。椅子に乗っているロボットには、腰から下が無い。「ああ、これか。メンテ中でな。動けねえんだ、今」ロボットは平然と説明する。「俺はノブザメE。凄いAIの持ち主なんだ。凄いだろ……」

「今、何と?」「俺のAIの話か?」「ニンジャスレイヤーと言いましたね」「ああ……違うンだよね。その名前は違う」レッドハッグは首を振った。「アイツ、名前を変えたんだよ。ややこしいッたらありゃしない」ジョッキをドスンと置いて、嘆いた。「噂を頼りにこんな店に来ちまってさあ……」「やはり、この店には噂がついてまわる」マークスリーは呟いた。「しかし、名前を変えた……とは?」

「こんな店とは何だ! 何日も居座りやがって!」タキが抗議した。「そろそろ出禁にするぞ! ニンジャだからってナメやがるとな……」「よいではないですか。長旅と聞きましたし……無銭飲食でもないんですから」コトブキがなだめる。「この店の品格にそぐわねえんだよ」タキはぼやいた。

 レッドハッグとノブザメEは、少し前にこのピザタキをフラリと訪れた二人組だ。流れ者で、ネオサイタマでなにか仕事をし、報酬の受け取り手続きの為に滞在している。レッドハッグは昔の知り合いという「サツバツナイト」が今もネオサイタマに居るのか、知りたがった。

 タキは彼女に情報を売り、国際探偵として方々を行き来する立場を教えた。しかしタキは、サツバツナイトがピザタキの者達と一応の面識がある事は一旦伏せていた。まして、マスラダとの関係は厳かに秘した。今は特にまずいと判断したのだ。

 ストラグル・オブ・カリュドーンに巻き込まれて以来、マスラダが直接ピザタキに立ち寄る事はない。彼はIRCでタキに連絡を時折入れるが、ネオサイタマを転々として、行方を詳しく知らせはしない。マスラダは実際、狩人のニンジャにこの店が攻撃を受けでもすれば、より難儀な事態になると考えていた。

 タキはマスラダの「ニンジャスレイヤー」としての仕事を仲介する立場だが、依頼の経路を複雑化させ、符丁を用いるシステムに変えた。これにより依頼の処理が煩雑化し、迷惑を被っていると彼は考えていた。彼はマスラダに請求する情報処理手数料の増額も検討している……。

「ニンジャスレイヤーをご存知なのですね。お話をうかがいたいのですが」マークスリーはレッドハッグに詰め寄った。「知ってる。知ってる」レッドハッグは恍惚と頷いた。「だけど今は違う名前だよ……本当に美少年だねえ……一杯付き合いな……」突っ伏して、動かなくなった。「ちッ……! 下賤な」マークスリーは呟いた。

「すまんな」ノブザメEは詫びた。「だけど、もう静かになったから。こうなるともうダメだ。これ以上面倒も起こさねえ。よかったぜ」「ジョン=サン、お前よォ。ニンジャスレイヤーとかいう奴を探して、ウチに来たのか?」タキはマークスリーの背中に声をかけた。マークスリーは振り返った。タキはじっと見た。

 マークスリーの冷たい目に感情がよぎった。タキの横で、コトブキもマークスリーを見ている。マークスリーは咳払いし、言葉を発しようとした……。ガガピー! ガガガガピー! その時、店内スピーカーから激しい雑音! ガガガガ!「ファッキング・ディックヘッド!」タキが叫んだ。「直したの先週だぜ!」

「すごい音です!」「畜生め!」タキはエッチポルノ雑誌を投げ捨て、機材に向かった。ガガガガピー! ガガガガガピー! 必死でツマミを操作するタキ! その時である! TVモニタに波形が走り、縞模様のノイズを背景に、奇妙なサングラスをかけた不気味な蝶ネクタイの男が浮かび上がった。「ゴキゲンヨ!」

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