見出し画像

【ザ・ドランクン・アンド・ストレイド】


 ネオカブキチョの一角、粋な「雨まい」の漢字平仮名ネオン看板を掲げるバー、レイン・ジルバ、店構えは狭苦しく思えるが、地下に降りれば快適で、それなりの広さがある。

 サクソフォンに更にファズをかけた、抉るような過剰サウンドに乗せ、店の奥ではポールダンス専用にカスタマイズされたオイランドロイド「ヤケナ」が艶かしく脚を振り上げ、ビスチェ姿の上半身を反らす。客の何人かは酩酊した眼差しをヤケナに這わせ、何人かはまどろみ、何人かはグラスを睨む。

 カウンターの左端にはバサついた長い黒髪の女。色褪せたデニム、拍車のついたブーツ、背中に逆さまに「婆」と赤く押されたレザー・ジャケット、腰にはカタナ、要はまともな稼業で無い事は明らか。咥えていた二本のタバコを真鍮の灰皿に押しつけ、ショットグラスを受け取る。

 表面に火を灯すスピリッツで満たされたショットグラスの底をカウンターに叩きつけ、一息に呷る。女の睫毛は長く、不機嫌そうで、両目に涙ぼくろがある。

 ブァーン! ブァァーン! ファズ・サクソフォン音がうねり、曲はたけなわ、オイランドロイドは腰を……「なんでアンタがいる」女は呟き、男を見た。男は女の後ろを無言で通り過ぎようとしていた。女はそれを見咎め、呼び止めたのである。

 ブアアアーン! ファズ・サクソフォン音と、ピンクの蛍光楕円ボンボリライト。「ドーモ」男は微かに顎を動かし、アイサツした。「ニンジャスレイヤーです」

「……」女はアイサツを返さず、隻眼のバーテンダーから追加のショットグラスを受け取ると、スピリッツをなみなみと注いだ。そして、顔を歪めて、トレンチコートにハンチング帽の男を……ニンジャスレイヤーを睨んだ。ニンジャスレイヤーは辞去の為、片手を上げかける。女は構わず、グラスを突き出した。

「……」彼は折れた。ショットグラスを受け取り、口をつける……女は瞬き一つせず睨み続けている……ニンジャスレイヤーは一息にグイと呷った。空のグラスを、殆どゼンめいて、流れるようにカウンターに戻した。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。レッドハッグです」女は漸くアイサツを返した。


【ザ・ドランクン・アンド・ストレイド】

 ブアアーン! サクソフォンが憑かれたように狂騒の度を増すなか、男は……ニンジャスレイヤーは……フジキド・ケンジは、レッドハッグの隣の椅子についた。レッドハッグはショットグラスを再度満たそうとしたが、フジキドが先に動いた。「サイタマ・シュリンプ・ビールは」「ありますよ」とバーテン。

「なんだいそりゃ」レッドハッグは不興そうに顔をしかめた。バーテンが真鍮のジョッキをシュリンプ・ビールで満たし、フジキドの前に置いた。フジキドはレッドハッグを見た。「ビールだが」「何が、ビールだが、だよ。まあいい」レッドハッグは手振りで促した。

 フジキドはジョッキに口をつける……。レッドハッグは瞬き一つせず睨み続けている……フジキドはグイと呷った。喉仏が動き、真鍮の表面を水滴が滑り落ちる。「……」フジキドはグラスをカウンターに戻した。ゼンめいて流麗に、静かに。「なるほど」レッドハッグはタイミングを合わせ、ショットグラスにスピリッツを注ぎ終えた。流麗に。

「……」フジキドはレッドハッグを見た。レッドハッグは眉間に皺寄せ、これを断れば相当な失望と勝利の眼差しをぶつける用意がある事を無言で示した。フジキドは……ショットグラスを取り、一息に呷った。そしてゼンめいて無音でカウンターに戻した……滑らせるように。「悪いが私は……」

「ワカル? 電子の吸血鬼」レッドハッグが三杯目のスピリッツを注ぎながら言った。「電子の……何だと?」「アーケイドだよニンジャスレイヤー=サン。古城に迷い込んだ王子が……なんでもいいさね、そんな事は。重要なのは、王子が3回死ぬとゲームオーバーだ。アンタは少なくともワン・ミスした」「何」

「そんなに死ぬほどビール飲みたかったのかい、エエ?」レッドハッグはフジキドの腕を肘で突いた。「違うのかい。じゃあ始めから付き合えばよかったんだ」「よいか。私はここに」酔いに来たのではないぞ、と言いかけた言葉を呑み込む。電子の吸血鬼の喩えが良くわからず、主導権を得損ねた。

 レッドハッグは挑戦的な微笑を浮かべたまま言葉を待っている。バーに来て、酔いに来たのではないと宣言……なるほど無粋ではある。それはレッドハッグから勝ち誇った侮蔑の笑みと長口上を引き出す事となろう。「水を」フジキドはバーテンに頼み、そのまま一連の動作としてショット三杯目を呷った。

「アイアイ、水」「うむ」フジキドはバーテンに頷き、流麗な動作でショットグラスを戻し、返す手で水のグラスを取り、飲んだ。「チェイサーだ。わかるな」「何を……」「わかるな」フジキドは黙らせ、レッドハッグよりも先にスピリッツの瓶を取ると、レッドハッグのショットグラスを満たした。

「ドーモ」レッドハッグはおどけた礼を言って、ショットを飲み干すと、グラスをカウンターに叩きつけた。既に彼女がある程度消費した後という事もあって、瓶は空っぽだ。「この数週間で行方不明者が頻発している。この界隈でだ」フジキドは切り出した。「よくある、よくある」レッドハッグは頷く。

この続きをみるには

この続き: 13,671文字
この記事が含まれているマガジンを購読する
加筆修正がなされた連載まとめ、人気キャラスピンオフ、設定資料などを豊富に収録。PLUS講読期間中は、このマガジン内の記事が読み放題状態となります。さらに毎月新たな記事が10本以上追加されていきます。 【TRPGプレイヤーの方へ】2019年12月からTRPGサプリのソウルワイヤード・マガジンが独立しました。PLUSでも基本ルールブックと最低限のプラグインにアクセスできます。

サイバーパンクニンジャ小説「ニンジャスレイヤーAoM」の連載まとめ、書下ろしエピソード、コメンタリー、資料集などが読み放題! PLUSは2…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

🍣🍣🍣<キャバァーン!(電子音)
94
「ニンジャスレイヤー」などを連載する、オンライン・パルプノベルマガジンです。

この記事が入っているマガジン

ニンジャスレイヤープラス
ニンジャスレイヤープラス
  • ¥490 / 月

サイバーパンクニンジャ小説「ニンジャスレイヤーAoM」の連載まとめ、書下ろしエピソード、コメンタリー、資料集などが読み放題! PLUSは2010年から無料公開を続けているニンジャスレイヤーTwitter連載を応援するためのドネート窓口でもあります!