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【デス・オブ・バタフライ】

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この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません(このエピソードは書籍未収録の第1部時系列エピソードです)。第2部のコミカライズが、現在チャンピオンRED誌上で行われています。





【デス・オブ・バタフライ】


 壁には電子ボンボリが四つ。そのうちのひとつ、血染めスリケンの突き刺さった不運な電子ボンボリが、断末魔めいてバチバチと火花を散らしていた。床に転がるのは、三つ子めいたクローンヤクザの死体。

 この殺戮の中心に立つのは、赤黒いニンジャ装束の男。ニンジャスレイヤーである。彼は己の左肩に受けた矢を引き抜き、涌き上がる怒りとともに、右手の握力だけでこれをへし折った。「毒か……!」傷の周囲がしびれ、まるで肩が十倍にも膨れ上がったかのような感覚異常と熱が彼を襲う。

「もはや片腕は言うことをきくまい、ニンジャスレイヤー=サン!」姿見えぬソウカイ・ニンジャ、ナイトシェイドの声が廊下から響く。「あきらめて引き返すがいい!」…だが、ニンジャスレイヤーはフスマを開き、進んだ。毒の痛みはむしろ、彼の怒りを煽り立て、前へ前へと突き進ませるだけだった。

 邪悪なるソウカイ・シックスゲイツのひとり、ナイトシェイドは、料亭「ダルマ」の四階をドージョーとして改造し、自らの棲家としていた。この事実を突き止めたニンジャスレイヤーは、敵がひとり在宅中であることを確認したうえで、息の根を止めるため裏門から侵入したのである。

 ニンジャスレイヤーはSWAT特殊部隊めいた足運びで、薄暗い廊下を進む。額から滝のような汗が流れ、右手で拭う。廊下の土壁には「鮭」「ポテト」「美味しい」「キュウリ」などの単語がショドーされた半紙が貼られ、アサガオの生けられた壷が置かれている。この階が料亭であった頃のなごりだ。

「姿を現せ、ナイトシェイド=サン。オヌシがどれほど小細工を続けようと、私の怒りの炎に油を注ぐだけだ!」ニンジャスレイヤーの声が、廊下にこだました。ナイトシェイドの高笑いだけが帰ってきた。彼はなおも進んだ。廊下は突き当たりへ。ニンジャスレイヤーは右手で、目の前のフスマを開く。

「バカな……行き止まりとは……!」ニンジャスレイヤーが足を踏み入れたのは、タタミ敷きの四角い小部屋であった。それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで、十二枚のタタミから構成されている。四方は壁であり、それぞれにはライオン、バタフライ、ゲイシャ、イカの見事な墨絵が描かれていた。

 もはや先へ進むためのフスマは見当たらない。では、ナイトシェイドはどこへ消えたのか。「姿を現すがいい、ナイトシェイド=サン……!」この謎を解くべく、ニンジャスレイヤーは右手にスリケンを握り、物音ひとつ立てぬ精緻な足運びで、部屋の中心部へと進んでいった。額の汗を右手の甲で拭った。

 ニンジャスレイヤーはついに部屋の中央へと達する。……まさにその時であった。ナイトシェイドが後方のライオン壁中央を音もなく回転させ、姿を現したのは!「イヤーッ!」「グワーッ!」ナイトシェイドはニンジャスレイヤーの背後へと忍び寄り、斜めに斬りつけるようなカラテチョップを浴びせた!

 ニンジャスレイヤーは体勢を立て直すと、背後の敵めがけて死の投擲武器スリケンを放った!「イヤーッ!」だがナイトシェイドの動きは俊敏であり、ライオンの描かれたシークレットドアを回転させ、再び消えてしまったのだ。標的を失ったスリケンは不運なライオンに突き刺さり、虚しくも止まった。

 左肩が鉛めいて重い。ニンジャスレイヤーは苦しげに眉根を寄せる。ここは敵の棲家なのだ。どれほど卑劣なトラップが仕掛けられていてもおかしくはない。……それでも、彼は引き返さなかった。殺意を燃やし、右手にスリケンを握ると、物音ひとつ立てぬ精緻な足運びで、再び部屋の中心部へと進む。

 ニンジャスレイヤーはついに部屋の中央へと達する。……まさにその時であった。ナイトシェイドが後方のゲイシャ壁中央を音もなく回転させ、姿を現したのは!「イヤーッ!」「グワーッ!」ナイトシェイドはニンジャスレイヤーの背後へ忍び寄り、斜めに斬りつけるようなカラテチョップを浴びせた!

 ニンジャスレイヤーは体勢を立て直すと、背後の敵めがけて死の投擲武器スリケンを放った!「イヤーッ!」だがナイトシェイドの動きは俊敏であり、ゲイシャの描かれたシークレットドアを回転させ、再び消えてしまったのだ。標的を失ったスリケンは不運なゲイシャに突き刺さり、虚しくも止まった。

 ナムアミダブツ!敵はライオンの壁に消えたのではなかったのか!?「ヌウーッ……!」ニンジャスレイヤーは四方の壁を順に睨みつけた。ライオン、バタフライ、ゲイシャ、イカ……それぞれに回転式シークレットドア。おそらく内部で繋がっており、次にどこから攻撃を仕掛けてくるか予想できぬ。

 ニンジャスレイヤーはスリケンを捨て、右腕一本でカラテを構えた。左腕はもう感覚が無い。次が最後のチャンスだ。次の攻撃で返り討ちにせねば、妻子の復讐は潰える。「どこだ……ナイトシェイド=サン……!」ニンジャスレイヤーは目を血走らせ、四方を順に睨む。だが敵は物音ひとつ漏らさぬ!

 その時、(((……惑うなかれ。敵の姿見えぬならば、邪悪なるニンジャソウルの存在を感じ取るのだ)))ドラゴン・ゲンドーソーの教えが、フジキドの脳裏に響いた。(((ニンジャスレイヤー=サン、それはお前のうちにも、敵のうちにも在る。ニンジャソウルを感じ取れ……そこに敵は在る)))

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの渾身のカラテチョップ突きが、バタフライの描かれた壁を貫通した!「グワーッ!」壁の向こうで、壮絶な悲鳴!復讐の手刀は、この回転扉に背を密着させて潜んでいたナイトシェイドの胸をも貫通したのである!壊れたジュースサーバーめいて、鮮血が吹き出した!

「アバッ!お、おのれ……ニンジャスレイヤー=サン……!」ナイトシェイドは目を剥き、己の胸の中央から突き出す死神の腕を見た。ニンジャスレイヤーはさらに、チョップ突きの腕を壁に深々とねじり込んだ。ナイトシェイドは呻いた。背後から壁に串刺しにされ、もはや身動き不能の状態であった。

「ドーモ、ナイトシェイド=サン、ニンジャスレイヤーです。洗いざらい話してもらおう……!」壁越しにジゴクめいた声が響く。「話すものか……シックスゲイツを見くびるな…!」血を吐きながらの拒絶。死神は右腕を根元までねじり込んだ。胸がなおも破壊され、ナイトシェイドはたまらず呻いた。

「アバーッ!わ、解った……何を知りたい…!」死を悟ったナイトシェイドは、言葉巧みに時間稼ぎを行いながら、手元のIRC端末を操作した。ラオモト・カンに報告を行うために。だが、無駄だった。「イヤーッ!」胸から生えた死神の右腕が、IRC端末を掴み、握力だけでそれを粉砕したのだ。

「バカ……な……!」「オヌシの小細工は、私の怒りの炎に油を注ぐだけだと言ったであろう」そしてニンジャスレイヤーは壁に向かって、幼い子供でも知る有名な日本のコトワザを言い放った。「バタフライは魂をアノヨへ運ぶという。オヌシの負けだ。観念してハイクを詠め、ナイトシェイド=サン」

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは右腕を勢いよく引き抜き、部屋の中心でザンシンを決めた。大穴の空いたバタフライ壁の向こうで、ひときわ大きな断末魔の悲鳴が響いた。「グワーッ!」シークレットドアが回転し、支えを失ったナイトシェイドは力無く床に倒れて爆発四散した!「サヨナラ!」

 かくして恐るべきシックスゲイツの手練、ナイトシェイドを倒したニンジャスレイヤー。だが敵はラオモトへの強靭なる忠誠心ゆえ、いかなる秘密も漏らすことはなかった。「必ずや、どこかに……!」ニンジャスレイヤーは毒で霞む視界の中、室内をあらため、隠されたマキモノとUNIXを発見する。

 己はハッカーではない。彼はマキモノとUNIXを交互に睨み、マキモノを摑み取った。UNIXには恐るべきウイルスや罠が仕掛けられているやもしれぬ。彼は先刻の戦いを回想した。ドアロックUNIXを拳で破壊した際に、UNIX内に仕込まれていた恐るべき毒矢が射出され、肩に喰らったのだ。

 ニンジャスレイヤーはマキモノを懐に収めると、血みどろの手でフスマを開き、元来た道を引き返した。後ろにニンジャの死体は無く、穴の空いたバタフライ回転壁だけが虚しく軋んでいた。死神はよろめきながら廊下を渡った。いけられたアサガオにぼろぼろのニンジャ装束が擦れ、花がぽとりと落ちた。



【デス・オブ・バタフライ】終




N-FILES(設定資料、原作者コメンタリー)

料亭に潜むシックスゲイツ「ナイトシェイド」を殺すため、ニンジャスレイヤーは独り敵地へと乗り込む。UNIX毒矢などの非人道的トラップによって深手を負ったニンジャスレイヤーを待ち受けるのは、さらに恐るべきトラップであった……。メイン著者はフィリップ・N・モーゼズ

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