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アット・ザ・トリーズナーズ・ヴィル

この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードの加筆修正版は、上記リンクから購入できる物理書籍/電子書籍「ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上2」で読むことができます。

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アット・ザ・トリーズナーズヴィル


 ドルドルドドドドドドドゥクククククカカカカカ!チンチンチンチンチンチン!スタカスタサスタタタタタタタタタタ!

 キャバァーン!「アタリ!」スットコブンブンブブンブーン、ジャラララララララ!「アタリ!四十回転、スゴイ級で予告ヤッタ!」「予告ヤッタ!」「予告ヤッタきました!」「ワー!スゴーイ!」

 キャバァーン!「アタリ!」キャバァーン!キャバァーン!「ゴアイサツ!スゴーイ!スゴーイ!スゴーイ!」キャバァーン!

 キャバァーン!……トゥーン!「ダメ!」「アッバー!アバババババーッ!」

 ブッダの彫像めいた姿勢でストイックに右手の射出制御ハンドルを操作していた男が断末魔の叫びとともにのけぞり、血を吐いた。

 銀色の遊戯台はピンボール台を垂直に立てたような形状をしており、その筐体はじつに一列90台ずつが整列している。一台につき一人が肩をすぼめて背もたれのない椅子に腰掛けたさまは、さながら養鶏施設か工場奴隷の様相だ。

 だが、彼らは自由意志に基づいてこの場へ足を運び、手足も満足に伸ばせない空間へ、すすんで収まるのだ。彼らを駆り立てるのは、やるせない欲望、射幸心……このマッポー的な眺めは、「パーラー」と称されるパチンコ・カジノ施設すべてに共通するものなのだ。

「おい!どかせ!店員さん!とっととこの負け犬をどかせよ!もうすぐこっちがアタリするんだよ!」くたびれたブルゾンを着た中年男性が迷惑そうに大声を出した。先ほど血を吐いた男が彼に寄りかかっているのだ。男は死んでいる。

 死んだ男は1/10260000の確率で発生するボーナスゲームに挑戦中であった。8時間近くかけて積み上げたポイント倍点が、ムザンにも一瞬にして無駄になってしまった。ショック死である。アタリ中年男性の怒声は店内の極大ボリュームのBGMにかきけされ、店員の耳には容易には届かない。

 客の焦燥感を煽り立てる目的で、BGMは400BPM以上のデステクノかファナティック・トランスを流すものと相場が決まっている。このパーラー「過アタリ経営難可能性」においてもそのメソッドは当然に履行している。

 中年男性は激烈なビートに負けじと大声を張り上げ続けた。他の客はまったく注意を払わず、催眠的な様子でハンドルを黙々と動かしている。店員がやってきたのは五分後の事であった。

「エート、どうしたんで?」無表情な青年スタッフが、ずれたメガネを直しながら問いかける。「どうしたじゃないよッ!こいつ見ろよ!死んでるでしょ!はやく持ってけ!」中年男性はショック死した男の死体をゆさぶった。「エート、ワカリマシタ」

 青年は淡々と、小型IRC端末から実体キーボードを引き出し、ノーティスを打ち込んだ。「チンタラやってんなよ!迷惑しすぎてアタリできなくなったわ!」中年男性が口から泡を飛ばして青年の襟元をつかんだ。「弁償しろよ!アタリするはずだったんだよ!」

「エート、デキマセン」青年は無感情に答える。その無機質さが中年男性を一層苛立たせる!「畜生ナメやがって!生活かかってンだよこっちは!遊んでるんじゃないんだよ!」襟首を掴んで、グイグイと揺さぶる。

 そこへ、ノーティスを受けた警備スタッフが小走りにやってきた。「何やってんだこいつは。ハイ!」「アバーッ!」問答無用!スタン・ジュッテを中年男性に押し当てる!中年男性は目と口から煙を吹き出し、床に置かれた死体の上に重なって倒れた!

「まったく面倒くさいったら。一人一人だぞ」「エート、ハイ」戦場の塹壕めいた爆音の下、青年と警備員は倒れた中年男性の頭と爪先を持ち、運び出す。一連のトラブルは他の客からは一瞥もされる事はない、ナムアミダブツ……!

 キャバァーン!ドルドルドドドドドドドゥクククククカカカカカ!チンチンチンチンチンチン!スタカスタサスタタタタタタタタタタ!………………

 ………………ブツン!

 殺人的な音楽が一瞬にして無音になった。同時に、「過アタリ経営難」の広大なフロアが完全な闇に包まれる。「アイエエエ!?」「なんだ?」「アーッ!スーパーリーチが!??アバババババーッ!」

 それまで全くの無反応で筐体に集中していた客たちが、てんでに騒ぎ出す。やがて入り口の方角から強烈なフラッシュライトが照らされた!「アイエエエ!」「なんだ!」「マッポか?ここは合法だぞ!」

 フラッシュライトの逆光に、黒いシルエットが浮かび上がる。そこに立っているのは、ニンジャだ!

「ドーモ、ファシスト的な搾取構造に疑問を持たず、欺瞞的に用意された泡沫的なトランキライザー的遊戯にうつつを抜かす奴隷的存在の皆さん。私は進歩的革命組織イッキ・ウチコワシの戦闘的エージェント、フリックショットです」

 ニンジャは素早くオジギした。店内の電源が予備電源に切り替わり、薄暗いLEDボンボリが鬼火めいて灯る。客たちは恐怖のあまり、自分のパチンコ筐体の陰に、きっちりと整列するかのように等間隔でうずくまっていた。警備員が手に手に暴徒鎮圧銃を構えて前進する。「強盗め!」

「只今より、この敗北主義的施設から物資を決断的に接収し、我らの革命的闘争の血肉的再生の礎へ転用する!」フリックショットはメンポ(金属製フェイスガード)に装着された拡声器から大音声で宣告した。「フザケルナー!」鎮圧銃を構えた警備員が突進する!

「イヤーッ!」フリックショットは両手を前方へ突き出し、親指をパシンと鳴らした。「アバーッ!」「アバーッ!」警備員のうち二人が眉間を割られて即死!仰向けに倒れる!フリックショットの親指から何かが弾丸めいて射出され、警備員の眉間を破壊したのだ。

「ウワアアーッ!」残る二人の警備員が恐慌に陥り、フリックショットめがけて鎮圧弾を発射した。「イヤーッ!」回転ジャンプで易々と鎮圧ゴム弾を回避したフリックショットは、再び親指をパシンと弾く。「アバーッ!」「アバーッ!」残る二人の警備員も、眉間に穴をあけて即死!

 パチンコ客たちは、うずくまったまま息を殺して震えている。フリックショットはツカツカと店内を歩いてゆく。右手を上げて合図すると、スカーフで顔の下半分を隠したイッキ・ウチコワシ戦闘員が十人近く、慌ただしく突入してくる。「接収せよ!」「接収!」「接収!」「革命!」「闘争!」

 戦闘員の一人がベンダー機械へ駆け寄り、小型のハッキングツールを差し込むと、パチンコ玉が排出口から流れ出した。それをボストンバッグへ貪欲に流し込む。「接収!」「革命!」

 フリックショットは腕組みして直立。新手の警備員に警戒しながら、配下の戦闘員が無駄のない接収作業を終えるのを待つ。五分以内に作業を終え、マッポが到着する前に逃走するのだ。無論、マッポが機敏に現場へ到着したのなら、その場でフリックショットが殺す。

 イッキ・ウチコワシは搾取構造に君臨する企業体、その尖兵たるサラリマン、その構造に疑問を抱かぬ人々に対して、何の罪悪感も持たぬ。このようなゲリラ的略奪行為は、ネオサイタマのどこかで折に触れて行われる、チャメシ・インシデントである……!


 同時刻!

 トレンチコートとハンチング帽に身を包んだニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、タタミが敷き詰められた円形のドージョーで、髭面の大男と対峙していた。

 ドージョーの壁に沿って、顔の下半分をスカーフで覆面した者達がぐるりと囲むように正座し、始まらんとする戦いを見守っている。上座に座る者だけが出で立ちを異にしている。ニンジャ装束を着ているのだ。壁には神棚が備え付けられ、額縁には「決断的」というショドーが飾られている。

 髭面の大男はナックルをはめた拳を打ち合わせ、フジキドを威嚇する。上座に座るニンジャが右手を上げて指図した。「……はじめよ!」

「イヤーッ!」

「グワーッ!」大男はきりもみ回転しながら吹き飛び、ドージョーの壁、神棚のすぐ下へ激突した。ニンジャスレイヤーは右手を前に突き出し、腰を沈めた姿勢である。ジュー・ジツの踏み込みながらのパンチ、俗に言うポン・パンチだ。

 試合開始一秒にして、大男は失神かつ失禁し、ズルズルと壁を滑り降りてうつ伏せにうずくまった。決着である。

 壁沿いにぐるりと囲む構成員がどよめく。上座のニンジャは立ち上がり、片手をあげて静まらせた。そしてニンジャスレイヤーへオジギした。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。私はアンサラーです。腕前を確かめさせていただいたご無礼を許してほしい。……イッキ・ウチコワシへようこそ」

「ドーモ」ニンジャスレイヤーはオジギを返した。アンサラーは構成員に向かって宣言する。「諸君。今この時から、ニンジャスレイヤー=サンは我が革命組織のエージェントとなった」「承認!」「革命!」「革命!」口々に、構成員が応答する。

 アンサラーが合図すると、出入り口のショウジ戸を近くの構成員が引き開けた。その奥はそのままエレベーターになっている。アンサラーとニンジャスレイヤーはエレベーターへ乗り込んだ。下降。

「今の場所はトレーニンググラウンドです。まだ未熟な構成員に戦闘訓練を施す場だ」降下するエレベータ内で、アンサラーは気さくに話しかける。「我々ニンジャは戦闘能力に優れるが、所詮、一人の人間である事に代わりは無い。革命は人民によって為されるのだ。同志に優劣は無い」

「なるほど」ニンジャスレイヤーは己の意見を差し挟む事はしなかった。アンサラーは頷く。「なに、コメントは求めない。行き過ぎた思想統一はかえって理想を遠ざける。我々が戦うべきは企業体による支配、人間阻害だ。我々が同様の抑圧体となっては無意味だ。我々は歴史から学びつつ前進する組織だ」

 アンサラーのメンポはレッドスティール製で、クワとハンマーの意匠がレリーフされている。「あの場ではエージェントと称したが、君のことは、言わばゲスト的な立場の闘士と理解している。君が窮屈を感じる必要は無い。君の目覚ましい働きはアムニジア=サンから十分に聞いている」

 アムニジア……。ニンジャスレイヤーの目が細まる。 「アムニジア=サンは今どこに?」「方々を転々としているよ」アンサラーは快活に答えた。「彼女は素晴らしい闘士だ」「あのときの、ラプチャー=サンだったか……残念な事だったな」

 アンサラーは頷いた。「我々は常に覚悟を決めて闘争に臨んでいる。ラプチャー=サンも憐れみは望むまいとも」「そうか」エレベーターは下降を停止した。地下三階。合成オコト音が鳴り、ショウジ戸が開く。

 廊下を案内するアンサラーの背中を見ながら、フジキドは己の内なるニンジャソウルが身じろぎするのを覚える。ドラゴン=センセイの命がけの封印インストラクションをもってしても、この疼き……。ニンジャ殲滅を欲望する魂は滅びておらず、眠ってもいないのだ。

 ニンジャスレイヤー=フジキドがイッキ・ウチコワシの門を叩いたのは、ドラゴン=センセイの忘れ形見であるユカノが理由だった。ダークニンジャの襲撃で離れ離れとなったユカノは、いかにしてかその記憶を失い、イッキ・ウチコワシの戦闘エージェントとなっていたのだ。

 その名を、アムニジア。ニンジャスレイヤーは彼女の所在をつかみ、トットリ村のレジスタンス戦闘に関与。オムラのニンジャ、エクスプロシブを惨たらしく爆殺した。しかしアムニジアはフジキドを拒否したのであった。記憶を失う以前の自分は、永遠に失われた別の人間に過ぎないと……

 フジキドは考える。彼にはセンセイに託された重い使命がある。「ユカノを頼む」と死に際のセンセイは言ったのだ。いまのユカノが所属するこのイッキ・ウチコワシがいかなる組織なのか、彼自身の目で見届けねばならぬ。

「この向こうが中央会議室だ」アンサラーが通路右のカーボンフスマを示す。「重要な議題については皆で意見を出し合い、決める。そこに身分の貴賤は無い」「首領のバスター・テツオはどんな男なのだ?」ニンジャスレイヤーは同うた。アンサラーは足を止めた。

「……偉大な男だよ」アンサラーは歩き出す。「ニンジャなのか?」「いずれわかるだろう」

 二人がたどり着いたのは作戦会議室だった。「武装」「闘争」とミンチョ書きされたカーボンフスマを開けると、壁に大きくネオサイタマ地形図が張り出され、質素なチャブと掘りゴタツが幾つか置かれたエマージェンシー的な部屋である。

 室内には三人の構成員がおり、三人とも、朱塗りされたUNIXパソコンのキーボードをスゴイ級の速度でタイピングし続けていた。アンサラーとフジキドが入室すると、三人は素早く会釈をした。「展開!」「進歩!」「成長!」

「ここで、日々の対企業体闘争に関しての情報収集と戦術の組み立てを行う。このような会議室は全部で四室あり、同時に作戦展開が可能だ。コブチャ精製装置も据え付けてある。コブチャは対ストレス効果があるからな」「テロ計画か」アンサラーの視線が険しくなる。「テロという呼び方は正確ではないな」

「そうか」「うむ。テロルはかなり注意深く扱うべき言葉だ。非難のニュアンスが含まれる。イッキ・ウチコワシは戦闘組織ではあるが、それはやむにやまれぬもので、進歩的闘争、言わば必要悪的暴力だ。闘争を忌避すれば唾棄すべき敗北主義が待つばかり。君にもわかるだろう?ニンジャスレイヤー=サン」

「……そうだな」しばし沈黙した後、フジキドは同意した。彼自身の手もまた、血塗られた暴力の記録そのものだ……。「君のこれまでの闘争行為は実にめざましく、驚くべきものだ」アンサラーが言う「ヨロシサンのバイオプラント破壊は我々の計画下にもあったが、あれほど電撃的に実現させてしまうとは」

 アンサラーの口調が熱を帯びる。「君一人の力が加わるだけで、我が組織の進歩性は二倍にもなるのではなかろうか?一方で我々は、これまでの君の無計画な破壊行為……失礼……に、明確で進歩的な意味を、目的を、付与する事ができるように思う。お互いにとって、こんな素晴らしい事は無いはずだ」

「……」実際そうかも知れぬ、とフジキドは思った。妻子を殺された憎しみを、ニンジャスレイヤーとなったフジキドは、ソウカイヤのニンジャに対して容赦なくぶつけ続けてきた。ニンジャを痛めつけ、殺す。例外は無い。カタキだからだ。だが、それはいつ終わる?その先に何がある?

「そうかも知れぬ」「そうかも知れぬ?実際そうなのだ、ニンジャスレイヤー=サン。共に闘おう。ラオモト=カンを排除する日も、闘争の中で、じきに訪れる」タイピングし続けていた構成員の一人がノーティスを受信した。「受信!同志フリックショット=サンが帰還!」「確認!」「革命!」「進歩!」

 アンサラーはフジキドをじっと見る。「……そして、抜き身のカタナのような闘争的存在である君に今、うってつけの革命的任務が用意されている。どうか力を貸してほしい」カーボンフスマが開き、銀色のニンジャが入室してきた。「ドーモ、アンサラー=サン。そちらは?」

「こちらはニンジャスレイヤー=サンだ、フリックショット=サン」アンサラーが紹介した。フリックショットが身構える。「なんと……?あのニンジャスレイヤー?なんたる革命!信じられぬ!」

 フリックショットは興奮してフジキドに顔を近づけた。「これで我々の革命的努力の邁進速度は爆発的なまでに進歩するぞ!ドーゾヨロシク!」そこへアンサラーが快活に口を挟んだ。「そんな君たち二人を中心とした任務がある!ここで早速ブリーフィングに入るとしよう」



 ネオサイタマ南西郊外、「タンボ平原」時刻0900。

 粘りつくような曇天下、広大な穀倉地帯が青々と稲穂を茂らせる。数キロごとに設置された電子分解サイロや変電施設の他に、視界を遮る建造物は存在しない。

 このタンボ平原で収穫される穀物で、ネオサイタマのおよそ85パーセントの炭水化物が賄われる。上空から俯瞰すれば、この地で栽培される二種類の作物が、青と緑のチェスボードめいた模様を形作っている事に気づくはずだ。すなわち、バイオ米と、バイオネギである。

 バイオ米「トマコマチ」とバイオネギ「万能」は、どちらも重金属を含有した酸性雨に耐え、かえってそれを栄養として強く育つよう繰り返し遺伝子操作された品種である。春と秋の二回、米とネギを交互に植え替える二期二毛作プランテーションの徹底が、ネオサイタマへの安定した食料供給の要なのだ。

 コメ畑の稲穂のあちらこちらから禍々しい戦闘的シルエットを垣間見せるのはオムラの自律走行カカシだ。バイオスズメやバイオイナゴが作物を食い荒らしにかかれば、すぐさまロケットランチャーと電磁カスミ網、熱蒸気散布装置で徹底的に撃退するという寸法である。

 高度に管理された人工的自然風景を貫くように、一直線に敷かれた鉄道レールを走行する車両がある。二両編成の輸送新幹線「ギャラクシー号」である。

 空気を切り裂き、鳴き声めいた音を放ちながら走行する輸送新幹線がわずか二両であるのは、輸送物資の特殊性を暗に物語っている。そしてそれが、戦闘革命組織「イッキ・ウチコワシ」の注意を引く事となったのだ……。

 輸送新幹線の進行方向、数キロ先を確認されたい。線路上に横たわるズダ袋状のそれを。穀物?イタズラ?無論、ちがう。拘束され、バイオゴザでノリマキめいたスマキにされた人間だ。

 高速で走行する輸送新幹線は数秒で、スマキ拘束された人間に達した。この人間は、いったいいかなる経緯で、かように不本意な最期を遂げる事になったのか。その頭部には袋が被せられ、絶望の表情を知る事もできぬ……ナムアミダブツ!鉄の塊が無慈悲に轢殺!

 スマキは圧倒的質量に押し潰されて一瞬にして血煙となり、輸送新幹線は異常を察知、急停止した。すると、どうだ!新幹線周囲のコメ畑の稲穂のあわいから、一つ、また一つとノボリ旗が立ち上がってゆくではないか!

 ノボリ旗にはアバンギャルド書体で様々な革命的な文言がプリントされている。「イッキ・ウチコワシ」「総括」「前進し進歩することは我々の努力です」「暴力は基本的に辞さない」……なんたる意志の強さを感じさせる表現!

 ノボリ旗のたもと、スカーフで鼻から下を覆った複数の戦闘ゲリラが立ち上がり、手に手にクサリガマめいた武器を頭上で振り回し始めた。叫ばれるスローガン。「革命!」「決断!」「行使!」

 クサリガマめいた武器の先端はカギ爪状になっている。「投擲!」「投擲!」「投擲!」ゲリラ戦闘員は輸送新幹線に向かってクサリガマめいた武器を打ち振る。窓の強化ガラスを打ち破り、カギ爪がガッチリと車体をつなぎとめた。ガリバー旅行記めいた拘束の光景である。

 銀色のニンジャが稲穂の間から姿を現し、 線路上に仁王立ちとなった。フリックショットである。「第二陣、行使せよ!」さらに多数のゲリラが輸送新幹線に走り寄り、割れた窓から車内に飛び込んで行く!「突撃!」「革命!」「暴力!」

 車内から聴こえて来る喧騒、スローガン、乗員の悲鳴!「行使!」「アイエエエ!」「革命!」「アイエエエ!」「進歩!」「アイエエエ!」大人達の叫びに混じって、児童の悲鳴が聴こえて来る。「アイエエエ!」「アイエエエ!」「ママー!」「拘束!」「行使!」「ママー!」「アイエエエ!」

 ナムアミダブツ!いったいいかなる地獄的闘争が車内で繰り広げられているのだろうか!そしてニンジャスレイヤーはどこに?……新幹線にほど近い稲穂の陰に、彼はいまだ身をひそめ、その光景を注視しているのだった。

 ……その時である。唐突に車内の喧騒が静まり返った。そしてその二秒後!「イヤーッ!」「アバーッ!」割れ窓から、くの字に体を曲げたゲリラが外へ蹴り出された!

「イヤーッ!」「アバーッ!」さらに一人!「イヤーッ!」「アバーッ!」さらに一人!「イヤーッ!」「アバーッ!」さらに一人!次々にゲリラ達が車外へ蹴り出される。どのゲリラも口から大量に吐血、その打撃が致命傷であることを物語っていた。

 フリックショットが目を細めた。「……出たな」「イヤーッ!」輸送新幹線の天井が爆ぜ割れ、何者かが垂直ジャンプで飛び出す。くるくると回転し運転席の上へ着地したのはダークオレンジ色のニンジャである!

「ドーモ、取るに足らぬ野盗の皆さん。プロミネンスです」ダークオレンジ色のニンジャは新幹線上でオジギした。そして新幹線を取り囲むノボリ旗を見渡し、吐き捨てる。「イッキ ・ウチコワシ?……くだらんアナキストどもがコソ泥行為か。笑わせる!」

「ドーモ、プロミネンス=サン。私は進歩的革命組織イッキ・ウチコワシの戦闘的エージェント、フリックショットです」フリックショットが線路上でオジギした。「この敗北主義的な輸送新幹線は抑圧組織の退廃的資金源であり、同時に、忌むべきブルジョワ的退廃行為の活動機関である!」

「我々は電撃的情報作戦の成果として、この退廃的輸送機関が悪しきソウカイヤ組織によって意のままに操られていることを確認している。政治腐敗的賄賂、そして退廃的麻薬物質!プロミネンス=サン、お前は公共的防衛人員の擬態をしたシックス・ゲイツ構成員に過ぎない!粛清対象である!」

「カッハハハハ!」プロミネンスが笑った。「できるモノならやってみるがいい!フリックショット=サン、オヌシのくだらん悪名は確かにシンジケートにまで轟いておるわ。パチンコ・パーラーを乞食めいて渡り歩く情けない出来損ないのニンジャ・アナキストとな!」

「イヤーッ!」フリックショットが両手を前に突き出し、親指を弾いた。「イヤーッ!」見えないほどの速さでプロミネンスの腕が閃く。その指が掴み取ったのはパチンコ球である。「これがオヌシの飛び道具の正体だ!」

 プロミネンスが指先に力を込めると、金属製の小さな球体は炎に包まれ、一瞬にして、熱された黒い燃えカスとなった。「ウヌ……」フリックショットが呻いた。「同志フリックショット=サン!弾き出された同志たちは全員死亡!体内が焼け焦げています!」負傷者を介抱していた構成員が叫んで報告した。

「カッハハハ!俺の特殊カトン=ジツとオヌシの玉遊び、どちらがニンジャの武器かを決める戦いだ!」プロミネンスは勝ち誇った。フリックショットはしかし、取り乱しはしなかった。「同意しない」「何?」「進歩的革命とは、科学的方法論のもと、常に100%の成功率のもとで行動するのだ!」

「オヌシのくだらんアナキスト言語にはウンザリだ!」プロミネンスは両手を胸の前で交差した。いかなるジツか、その拳が赤熱する。と、その時!「イヤーッ!」斜め下から真っ直ぐに飛んできた影がプロミネンスをアンブッシュした!「グワーッ!?」

 無論その影はニンジャスレイヤーだ!飛び蹴りがプロミネンスの首筋を直撃、そのままギロチンめいた足絡めでコメ畑へもろともに落下、叩き伏せる!

「イヤーッ!」プロミネンスはマウント・ポジションへの移行を妨げ、スプリングキックでニンジャスレイヤーを弾き飛ばす。ニンジャスレイヤーは回転しながら後方へ着地。そのまま稲穂の中で滑らかにオジギした。「ドーモ、プロミネンス=サン。ニンジャスレイヤーです」

「ニンジャスレイヤー?」一瞬アイサツを忘れ、プロミネンスはオウム返しにした。「ドーモ、はじめましてニンジャスレイヤー=サン、プロミネンスです。……シンジケートに仇なすテロリストがコミュニストの犬になりさがったのか?なんと馬鹿馬鹿しい話だ!」

「知る必要は無い。オヌシの生首をラオモト=サンの社長室へ送りつけるだけだ」ニンジャスレイヤーはピシャリと言い放つ。「やってみるがいい!イヤーッ!」プロミネンスが襲いかかる!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの電撃的なサイドキックがプロミネンスを迎撃する。ハヤイ!「グワーッ!」予想外の反応速度で反撃されたプロミネンスはみぞおちに強烈な蹴りを喰らい、嘔吐しながら回転して吹き飛んだ!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは弧を描くように側転しながら跳躍した。遠心力を乗せたジャンピング・ストンプが、這いつくばったプロミネンスの脇腹を地面に縫いつける!「グワーッ!」さらに、踏みつけた踵を力をこめて「イイイ……ヤアーッ!」ねじり込む!「グワーッ!」

 ゴウランガ!これがニンジャのイクサである。いかに特殊なジツや特殊なニンジャ体質を誇っていようと、研ぎ澄ませた強靭なカラテの鍛錬無くば、それは飾りに過ぎないのだ。「ノー・カラテ、ノー・ニンジャ」。いみじくもドラゴン・ゲンドーソーが生前、マキモノにしたためた金言である……!

「グワ……こんなバカな事が……」「観念してハイクを読むがいい」内臓をすりつぶすかのような執拗な踵のねじり込みを無慈悲に行いながら、ニンジャスレイヤーは宣告する。その背後、あらためて新幹線へ押し入ったウチコワシ構成員たちは、続々とその「戦利品」を車外へ運び出してゆく。

 虫の息のプロミネンスを踏みつけながら、ニンジャスレイヤーはその様子を横目で見守る。イッキ・ウチコワシ構成員たちは「円」と書かれた黒い巨大キンチャク袋、金塊、「大トロ」と書かれたタッパーなどを手際良くフリックショットのもとへ運んでゆく。

 まさにそれは、この組織の名前の由来たる、古事記に書かれた最古の農民反逆「イッキ」、江戸時代の武力革命「ウチコワシ」を描いたウキヨエめいた光景であった。

「やはりな!どれもブルジョワ的な堕落物資!」フリックショットが厳しく言い捨てる。「ニンジャスレイヤー=サン、これが企業体の常套手段だ。プロレタリアートの奴隷的行使を容認する規制緩和策を推し進める為の賄賂や合併工作!これらの堕落物資は今この時もネオサイタマを縦横に飛び交うのだ!」

 フリックショットは握った拳をわなわなと震わせる。「そしてソウカイヤこそ、ネオサイタマを私する搾取の尖兵……!ニンジャスレイヤー=サン、その反動分子を今すぐ殺せ!殺すのだ!」

 物資を運び出し終えたウチコワシ構成員は、今度は乗客を外へ降ろし、一列に整列させた。「強制!」「展開!」「行使!」運転者、車掌、添乗員、そして……彼らを見たニンジャスレイヤーの目が細まる。「子供?」

「ママー!」「コワイー!」口々に泣き叫ぶのは幼稚園高学年の幼児たちである。子供らの、金糸の刺繍が競い合うようにふんだんに使われた幼児キモノは、その親の経済的地位を容易に推測させるものであった。

 幼稚園職員と思われる男女数名が気遣わしげに子供たちを見やるが、ウチコワシ構成員はそのたび、手にしたサスマタで無慈悲に前を向かせてしまう。「強制!」「行使!」「排除!」

「ブルジョワ階級の子供らだ」フリックショットは嫌悪もあらわに説明する。「見よ、なんたる退廃的服飾!あのキモノの糸の一本一本が、プロレタリアートの不当搾取の精髄だ!こいつらは輸送新幹線のいわば偽装的用途として、ブルジョワ的な別荘地への集団旅行からの帰途であったのだ!」

「強制!」職員らしき人間の一番の年配者の男性が、サスマタで押しやられ、一歩前へ出た。「どこの退廃的幼稚園だ、貴様らは!」フリックショットは問うた。「ア、アイエエエ……ヤマノテノ幼稚園です」男性は震えながら返答した。フリックショットは舌打ちした。「カネモチ・ディストリクト」

 フリックショットは腕組みしながら、ゆっくりと年配職員の周囲を歩き回る。「……貴様は退廃的幼稚園の管理的職員だな?園長か?名前を言え」祈るように目を閉じ、年配職員が答える。「タイスケ・ダイタ……ふ……副園長です……」フリックショットはツバを地面に吐き捨てた。「体制的存在!」

「どうか子供達は…私はどうなっても構いません!」「ふ、副園長!」職員達が駆け寄ろうとするが、すぐにサスマタで阻まれる。「強制!」「行使!」「資本主義の豚が人間の感情の真似事か?欺瞞!不愉快だ!」フリックショットは親指を副園長の額に向けた。「総括!イヤーッ!」「アイエエエ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!?」

 誰もがその瞬間的交錯を、息を呑み見守った……当の副園長すらも、人ごとの様に、その瞬間に起こった事を傍観者めいて眺めていた。

 フリックショットは横ざまにスピンしながら吹き飛んでいた。ニンジャスレイヤーは飛び蹴りを叩き込んだ反動力で宙返りし、片膝をついて着地した。一瞬後にフリックショットが地面に頭から突っ込み、うつ伏せに倒れた。

「何を!?」素早く起き上がり、フリックショットは困惑しつつも攻撃姿勢を取った。こめかみに強烈な蹴りを受けた為、その右眼からは痛々しく出血している。「狂ったかニンジャスレイヤー=サン!?」

 その場の人間が固唾を飲んで見守る中、ニンジャスレイヤーはゆっくりとジュー・ジツの構えを取る。「イッキ・ウチコワシ。その本質のほど、存分にわかった」厚い雲の切れ目から細い光が差し、メンポに彫られた「忍」「殺」の文字を照らす。「ニンジャ……殺すべし!」

「貴様、裏切るというのか!」フリックショットがニンジャスレイヤーを責める。「まさかこのブルジョワ粛清に感傷的嫌悪でも抱いたというのか?なんと愚かな!」困惑と激昂下にあったフリックショットの声にこもった感情が、すぐにクールダウンする。

「……まさか貴様ほどの闘士が、くだらん敗北主義に染まった惰弱な犬に過ぎなかったとは。失望の限りだ」フリックショットは片手をあげて合図した。「進歩!」「革命!」「行使!」新幹線の乗員乗客を抑制していたウチコワシ構成員がニンジャスレイヤーを包囲するように展開する。一糸乱れぬ動き!

「俺を侮るなよ、ニンジャスレイヤー=サン?」親指を突き出して構え、フリックショットはニンジャスレイヤーを睨む。「俺を侮るという事は、すなわち我らがイッキ・ウチコワシを侮るという事。この場にいる同志全てが最強の戦士。組織皆戦闘員の思想が、我々を常に進歩的勝利へ導くのだからな」

「総括!」「総括!」「総括!」構成員が口々に叫ぶ。「自己批判せよ!イヤーッ!」フリックショットは親指を弾いた!パチンコ玉がショットガンめいた速度で打ち出される!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げ返し反撃!空中でパチンコ玉とスリケンはぶつかり合い、あさっての方向へ弾け飛んだ。「イヤーッ!」ハヤイ!フリックショットはさらにパチンコ玉を弾く。今度は親指で他四本の指先のパチンコ玉を同時に射出していた。計八発が放たれる!

「イヤーッ!」タツジン!ニンジャスレイヤーは流麗なブリッジで、放射状に飛来するパチンコ玉を回避!「まだまだ!イヤーッ!」さらに八発のパチンコ玉が飛来する!なんたる連射技術!

「イヤーッ!」素早い転身でニンジャスレイヤーは追撃をかわす。「まだまだ!イヤーッ!」さらに八発!それすらも回避、いや、おお、見よ!「イヤーッ……グワーッ!?」ニンジャスレイヤーは背中から出血し、体制を崩す。ナムアミダブツ!フリックショットは正面だ。いったいいかなるジツか?

「侮るなと言ったはずだニンジャスレイヤー=サン!これが組織皆戦闘員の思想的戦闘術だ!」秘密はニンジャスレイヤーを包囲する非ニンジャの構成員にあった。見よ、彼らは手に手に「反射」と書かれた威圧的な金属板を盾のように構えているではないか。「跳弾だと」ニンジャスレイヤーは包囲を見渡す。

「マイッタカ!科学的弾道計算、搾取装置たるパチンコ玉を暴力機構として支配かつ行使する図式!俺のパチンコ=ジツこそ、まさに我が組織の反ブルジョワ思想の体現である!自己批判せよ!イヤーッ!」フリックショットがさらにパチンコ玉を射出!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転で回避、しかしそこへ跳弾が襲いくる。「まだまだ!イヤーッ!」さらに追加のパチンコ玉が撃ち出される。さらに跳弾。ナムアミダブツ!なんたる全方位攻撃か!回避が困難な上に反撃も許されない!

「アイエエエエ!」流れ弾を額に受けた新幹線乗員が血を流して倒れた。一列に並べられていた乗客は悲鳴をあげ、新幹線の中へ走って行く。「早く!早く中へ!」「みんな!怖くないですからね!新幹線の中へ早く!」「内輪もめしているうちに早く!」

「貴様があのような堕落的ブルジョワや奴隷的退廃存在に対して抱く感傷は、くだらんぞ!ニンジャスレイヤー=サン!」パチンコ玉を連射しながらフリックショットが吠える。「反動存在は例外なく粉砕し、そのうえで進歩的革命世界観の種を蒔くのだ。それだけが唯一の世界革命手段である!」

「イヤーッ!」回避!跳弾!追撃!「奴等はプロレタリアートの犠牲のうえで惰眠を貪る下等存在だ!」

「イヤーッ!」回避!跳弾!追撃!「奴等に情けをかけ、尻尾を振って擦り寄ったところで、しょせん奴等は、貴様など頭のおかしいテロリストとして認識するのみだ!」

「イヤーッ!」回避!跳弾!追撃!「ニンジャスレイヤー=サン、貴様の破壊活動は思想なき暴力だ!しかも一時の感傷に容易に流される!無意味かつ社会への害悪だ!」

「イヤーッ!」回避!跳弾!追撃!「ゆえにイッキ・ウチコワシは貴様を危険存在としてこの場で粛清する事を、このフリックショットが決議案事後提出の形で宣言し、実行に移す!」

 もはや跳弾につぐ跳弾で、包囲網の内側は危険なパチンコ筐体の内部さながらであった。もし仮にこの包囲網の中へナイーブなバイオスズメが迷い込んだとすれば、0.1秒後には飛び交う跳弾の嵐に巻き込まれてズタズタのネギトロと化すであろう!

 新幹線がネオサイタマへ向けて発車した。先ほどクサリガマめいた武器で足止めをしていた構成員も手に手に「反射」の盾を構えニンジャスレイヤーを包囲していた為、新幹線は遮られる事なく加速、あっという間に見えなくなった。

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」フリックショットの全方向包囲攻撃は苛烈さを増し続ける。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはせわしなくチョップを繰り出し、あるいは転身、あるいはブリッジで跳弾を回避していた。だが完全ではない!既に数カ所、跳弾を受けて出血している。

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」フリックショットの冷酷な攻撃、際限なく投入されるパチンコ玉……これではジリー・プアー(訳注:「ジリ貧」と思われる)だ!ニンジャスレイヤーはこのまま倒れるしかないのか?……否!目を凝らして見ていただきたい。飛び交う銀色の輝きの軌跡を……!

 注意深くそのサツバツ的な玉の流れを観察すれば、ニンジャスレイヤーが弾き飛ばす跳弾が包囲網を構成する一人の方向へ明らかに偏っている事に気づくはずだ。その構成員は他者よりも明らかに多量に殺到するパチンコ玉を盾で受けながら、よろめき始めた。跳弾の勢いに耐えきれなくなってきているのだ。

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」臨界点!構成員の盾がひしゃげる!「アババババババババーッ!」大量のパチンコ玉を一方的に叩き込まれ、構成員は全身から出血して倒れた!「何ーッ!?」フリックショットが呻いた。勝ち誇った演説にかまけ、不自然に気づかずにいた彼のウカツ!

「イヤーッ!」包囲網に開いた穴をニンジャスレイヤーは一瞬で突破、外側へ躍り出る。「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」両手で投げつけた二枚のスリケンが構成員二名の後頭部に深々と突き刺さる。即死!

「き、緊急!」「転回!」「防御グワーッ!」ニンジャスレイヤーへ向き直り盾を構えようとした構成員の一人が額にスリケンを受けて即死!「対応!」「対応グワーッ!」さらに一人が側頭部にスリケンを受けて即死!

「イヤーッ!」フリックショットがニンジャスレイヤーへパチンコ玉を射出!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは素早くそれを弾き返す。「グワーッ!」「グワーッ!」浮き足立った構成員は盾で受けられず、二人が即死!

「か、革命!」盾を構えた構成員は一人しか残っていない。彼は慌てて後退し、盾を向けて防御する、しかし、「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが圧倒的速度で飛び込みながら繰り出した中腰の直突き、いわゆるポン・パンチは盾を易々と破壊し貫通、構成員の下顎を吹き飛ばした!「アババーッ!」

「な……何だと?バカな!バカな!唯物論的に実行不可!」フリックショットが必死にパチンコ玉を連射する。しかしニンジャスレイヤーは地上にいない!「イヤーッ!」高々と跳躍したニンジャスレイヤーの飛び蹴りがフリックショットの顔面を直撃、その首が200度回転した!頸骨の鈍い骨折音!

「グワーッ!」不自然な方向に首がねじれたフリックショットは糸のきれたジョルリ人形めいて全身から力を失い、膝から崩れ落ちた。ニンジャスレイヤーは彼の顎を掴み、その体を吊り上げる。「死ねーッ! ニンジャスレイヤー=サン!」背後から思いがけず叫び声!

「イヤーッ!」片手でフリックショットを吊り上げたまま、ニンジャスレイヤーは後ろ回し蹴りを放つ!虫の息でアンブッシュをこころみたプロミネンスの顔面に蹴りが直撃、その首が200度回転した!頸骨の鈍い骨折音!「グワーッ!」プロミネンスは断末魔を残し爆発四散した!「サヨナラ!」

「グ、グワ……」「イヤーッ!」邪魔者を一瞬で排除すると、ニンジャスレイヤーはフリックショットをさらに力強く吊り上げる!「グワーッ!」「私の戦いは無意味な暴力……そう言ったな」ニンジャスレイヤーは冷たく確認する。「グ……そうだ……」フリックショットのメンポの呼吸孔から血がしたたる。

「思想なき暴力、なんとくだらぬ……その力を進歩的闘争に役立てる機会であったのに貴様はグワーッ!」ニンジャスレイヤーの手に力がこもる!「オヌシらの標榜する闘争は狂信に過ぎぬ。罪なきものの虐殺を美化しただけだ」「テロリストが偉そうにグワーッ!」ニンジャスレイヤーの手に力がこもる!

「説教を垂れる気など、はなから無い。資格も無い」「グワーッ!」「私は利己的な殺戮者に過ぎん。妻子の仇をうち、仇に連なるニンジャを全て殺す。それだけだ」「グワーッ!」「感傷はくだらん……そう言ったな」「グワーッ!」「私はそうは思わん。感傷こそ、人を人たらしめるものだ」「グワーッ!」

「私もオヌシらも、所詮は同じ穴のラクーン。単なる殺戮者だ。私はそれを知る者、オヌシらは知らぬ者。それが……」「グワーッ……!」「違いだ……!」「グワーッ……!」「そして感傷こそが、殺戮者を人たらしめる、最後の……最後の……」「……」「最後の……」「……」

 応答が無くなったが、ニンジャスレイヤーはフリックショットの首を締め続けた。やがてフリックショットの虚ろに見開かれた眼、メンポの通気孔から、青白いエクトプラズムめいた輝き……ニンジャソウルが染み出し、空気に溶けていった。ニンジャスレイヤーはなお暫く、そうしていた。



 翌日。ネオサイタマ・シティ・プレスの三面記事に、小さな事件記録が掲載された。それは各紙が報道した新幹線強盗事件の陰に隠れ、恐らくは誰も気に留めなかったことであろう。

 ごく短い無署名記事の全文は以下の通りである。

「『現代のジロチョーエモン?ネオサイタマ養護施設・孤児院各所に、時期外れのプレゼント』昨日深夜から本日未明にかけて、ネオサイタマのマタタビ児童保護施設、カケタビ養護館、メゾン・キノコ等、全12施設に、匿名の支援者からの物資が寄付された。その内容は現金、金塊、大トロ粉末等であり、」

「サワヤカ養護院の職員は落下してきた物資の上空を旋回する不審なセスナ機を見たと供述しているが、それ以外に有力な情報は得られていない。なお同院所長は『誰だかはわからぬが、この苦しい時期の支援、ほんとうに有り難く感謝する』と謝辞を述べている」

 バスター・テツオはネオサイタマ・シティ・プレスを戦術コタツ上に放り投げた。出入口の側で佇む女性構成員は無言で彼の仕草を目で追っていた。「フン、面白い奴ではある」バスター・テツオは無感情に呟いた。「奴とは?」女性構成員は問う。「君の昔の知り合いだよ、アムニジア=サン。昔のな」

「昔の事など」アムニジアは冷たく言った。「ニンジャスレイヤーへは制裁を加えねばなりますまい。裏切りと、組織に対する侮辱、言葉に尽くせません」「ある程度は想定していた。ある程度はな」「……」アムニジアは出入口のショウジ戸を引き開けた。「通信を確認して参ります」

 バスター・テツオは急須からマグカップにチャを入れ、ゆっくりと飲んだ。そしてゼンめいて、静かに目を閉じた。


【アット・ザ・トリーズナーズヴィル】終わり



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