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幕間【ビフォア・ジ・エンド・オブ・ザ・ライン】前編

総合目次

S3第4話 ←


「ハァーッハハハハ! そこかァーッ!」雷鳴に乗って、二本角のニンジャの哄笑が届いた。ヤモトはカタナを構え、彼女を……ネザーキョウのシテンノの一人、ヘヴンリイを待ち構えた。「ネザーキョウ。アンタたちも、どこまでも、これが狙いか」ヤモトは懐のニッタ・カタツキに触れ、呟いた。

 これ以上、ヨロシンカンセンとその乗客を巻き込むわけにはいかない。東に走り去るヨロシンカンセンを横目で見送り、彼女はトリイの上で一人、微かな安堵と共に頷いた。だが、垣間見せた柔らかな表情はコンマ1秒で失せた。無慈悲なシの女王はイアイを漲らせ、ヘヴンリイを迎え撃つ……!

「「イィィィィィィィ……」」飛び来るヘヴンリイは両手に帯電するカゼのカラテを込め、一方のヤモトは桜色の炎を首元から上空の空へ高く燃え上がらせた。「「……イヤーッ!」」KRAAAAAAASH! 出会い頭の互いの一撃が、衝突した……!

 ZAP! ZAPZAPZAP! トリイの上で稲妻が弾け飛んだ。拡散する雷光を迎え撃つのは、桜色の蝶型カラテの群れだった。それらはヤモトの首筋でマフラーめいて燃える桜色の炎から生み出されたエネルギーだ。ヤモトは後方を振り返り、カタナを構える。ヘヴンリイは哄笑する。

「ハハァー! 今ので頭フッ飛んでねェんだなァ!?」

 一瞬の衝突ののち電撃敵速度で走り抜けたヘヴンリイは、方向転換とともに、白熱する拳を振り上げる。空気を蹴り、そのままヤモトに再度殴りかかる!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 ヤモトはカタナの鍔で受けた。刃の間合いで対処するには、ヘヴンリイの接近が速すぎた。そのまま二者はトリイ上で足を止め、凄まじいワン・インチ・カラテ応酬を開始した。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 ZAP! ZAPZAPZAP! ヘヴンリイの接近打撃は雷撃の炸裂を伴う! 貴方が平安時代を生きたカラテのタツジンであれば、カゼ・ニンジャのソニックカラテがワン・インチ距離のカラテに適さないという事実もご存知であろう。しかしヘヴンリイはヤモトがイアイ使いである事を瞬時に見抜き、初手からカタナが不利となる最接近カラテ勝負を挑んだ。

 その確信は、彼女が操る雷撃の力にある。ヘヴンリイに憑依融合したアーチニンジャ「ジャキ・ニンジャ」はカゼの一門にしてアラシ・ニンジャの養子。雷雲と戯れ、稲妻にまつわるワザを見出したアラシの力を、ジャキもまた受け継いでいた。雷はフーリンカザンを構成する無数のエレメントの中でも特に畏れ多き力であるとされ、神話時代においても、その力を制するニンジャはゼウス・ニンジャをはじめとするごく僅かな存在に限られたものだ。

 余談はそこそこに、この強大なるニンジャ同士のイクサに注意を戻されたい。ヘヴンリイの激しい打ち込みはもはやソニック・カラテを伴わぬ。だが彼女自身の鍛え上げたカラテと帯電の力とが、ソニック効果の欠落を補って余りあった。ヤモトの必死の応戦は徐々に押され、トリイの縁で防戦一方となってゆく……!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 チョップと刃が交錯した。ヘヴンリイはカタナを抱えるように抑え込んだ。二者は睨み合い、圧縮された時間が泥めいて周囲で渦巻いた。

「やるじゃンか。ダテじゃねえな」ヘヴンリイはヤモトの眼前で舌なめずりした。「ヤモト・コキつッたらよォ……シ・ニンジャの憑依者……そのくせしやがって、一門の連中とやりあってる放浪者だろ? 耳に挟んだ事あるぜ。ウチの国に何の用だよ」

「用があるのはアンタ達じゃないのか?」ヤモトは剣呑な反応を返した。「シンカンセンは軍隊じゃない。よくもあんな大勢の連中で!」

「ああ、クワドリガの脳筋野郎か? ハハハハッ、迷惑かけてンな! だけどオレは奴の部隊じゃねえから、知らね。こんど顔合わせたら言っといてやろうか」ヘヴンリイは悪びれない。「そもそもさァ……文明国の雑魚どもは、すすんで惰弱な生き方してるから雑魚なんだよ……じゃあ踏み潰されても構わねえッて事だろ? そんなクソ虫どもが、いざ殺されるときに文句を言うってのはズリィだろうが」

「それがネザーキョウの奴らの考え方か」

「その通り。弱いから死ぬんなら、死ぬやつが悪りィだろ」ヘヴンリイは言い切った。「……でな、オレ様もクワドリガも、ニッタ・カタツキが目当てだ。そう。お前が持ってる、きッたねえ茶器だ。感じるぜ。持ち逃げすンなよな。タイクーンのオッサンが必要としてるらしいからよ。……よこせ」

「お断りだ」ヤモトは言った。「これはただの茶器じゃない。アンタには、この茶器を軽々しく用いれば何が起こるか、わかってない」

「ああわからないね、当然だろ」ヘヴンリイは言った。「そんなくだらねえ事は、オレにゃどうでもいいんだよ。主君が欲すれば家臣は動く。それだけだ!」

「イヤーッ!」

 ヤモトはせめぎあいを一瞬制し、ヘヴンリイを押し返すと、左右に無数のオリガミ・ミサイルを飛翔させた。桜色に光るツルが空を旋回し、ヘヴンリイに背中側から襲いかかる!

「フンッ!」

 ヘヴンリイはねじれ角から放電! 背後に雷光が拡散し、オリガミからオリガミへと伝搬、そのすべてを焼き焦がしてしまった。ヤモトはイアイ姿勢に入っていた。だがヘヴンリイが……!

「イヤーッ!」ヘヴンリイが、一瞬ハヤイ!「ンアーッ!」

 顔面に頭突きを食らったヤモトはトリイから押し出され、斜めに落下する! ヘヴンリイはトリイの縁を蹴り、それを上回る速度で滑空する! コンマ数秒を空中で気絶していたヤモトであったが、筋肉に残存した殺気が彼女の身体を動かしていた。イアイが、放たれる!

「グワーッ!」

 ヘヴンリイの首に水平の裂傷が走り、血が噴き出す! だがヘヴンリイは目を見開き、ねじれ角を輝かせ、歯を食いしばって、首の筋肉に凄まじい力を込めた。止血……止血、成る! 刃の入りが浅かったのだ。ナムサン! 咄嗟に身を守るヤモトをめがけ、ヘヴンリイは両腕から繰り出す螺旋ソニックカラテの真空打撃を叩きつけた!

「イヤーッ!」「ンアーッ!」

 KRAAASH! KRAAAASH! ……KRAAAAASH! 針葉樹を立て続けに破砕しながら、ヤモトが吹き飛んだ。ヘヴンリイは空中を蹴り、砕け散る枝を蹴り、雷を伴うジグザグの跳躍でヤモトに肉薄した!

「終わり! ダ! ゼェーッ!」

 ZAP! ZAAAAAP! 舞い散る葉と木屑を角からの放電で焼き払いながら、ヘヴンリイはソニック加速! キリモミ回転ソニック・トビゲリで、針葉樹に背中から叩きつけられたヤモトを……貫いた! KRAAAAAASH!

 針葉樹がメキメキと音を立て、斜めに傾く。木の幹に膝まで蹴り足を埋め込んだヘヴンリイは……訝しみ、呻いた。彼女のニンジャ第六感は、いまだ絶えざる殺気を感じていたのだ。

「何……?」

 たった今胴体を貫いて致命傷を与えたヤモトが、爆発四散した。確かに爆発四散したが……それは桜の花弁の爆散だった。絶えざる殺気は、隣の木の枝の上にあった。ヘヴンリイはそちらへ目を動かした。枝の上、霧めいて桜の花が散ると、そこにヤモトが立っていた。

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 イアイド! 凄まじき刃がヘヴンリイの装束を、乳房を、肋骨を断ち、心臓付近に到達する! ヘヴンリイは斬られながら、しゃにむに腕を動かし、強引にヤモトの腕を掴んだ。引きずり込むように引き寄せ、彼女の首を掴んだ。

「……!」「……!」

 KRACK……。針葉樹が砕けた。二人のニンジャは、絡まり合うように、そのまま下へ……森の谷底へ、落ちていった。


◆◆◆


 ホンノウジ・テンプル城、サタの庭! 敷き詰められた白砂の上に正座するのはただ一人。極限まで鍛え上げられた青銅色の肉体の持ち主は、誰あろう、アケチ・シテンノの一人、クワドリガであった。

 ネザーキョウの完全戦士は神妙にうなだれながら、なお、背中から蒸気じみたカラテを立ち上らせている。若く美しいコショウはその凄まじさを見て頬を赤らめ、畏怖しながらも、己を奮い立たせて叫んだ。「オナーリー!」

 キン、キン、キンキンキンキン……打ち鳴らされるヒョウシギ。そして、「エイッ!」ターン! 巨大なフスマが左右に開かれると、偉大なるタイクーン、アケチ・ニンジャが姿を現したのである!

「此度のイクサ……!」

 タイクーンはネザーオヒガンの荒涼を思わせる眼差しを己の武将に向けた。クワドリガは頷いた。

「ニッタ・カタツキ奪取ならず。ひとえに、私めの力不足にござる。申し開きはござらん……ムンッ!」

 スワ! クワドリガは片手を振り上げ、チョップによって自らの腹を貫こうとした! セプクである!

「イヤーッ!」

 タイクーンは叫びとともに四本の腕のひとつを突き出した! クワドリガの決断的なセプクの手は不可視超自然力によって留められた。ギリギリと拮抗する力!

「殿……! 我がケジメを……止めなさるな……!」「エイッ!」「グワーッ!」

 クワドリガは吹き飛ばされ、白砂を爆散させながら仰向けに倒れた。

「貴様が相対せしニンジャ……それはシ・ニンジャの憑依者ヤモト・コキであること間違いなし」タイクーンの目が光った。「かの放浪者が我が領土に近づき、何を企んでおるか。ネザーの匂いに引き寄せられて来たとなれば捨て置けぬ……オヒガンを司るニンジャの力を前にすれば、貴様ほどの戦士といえども形無しか?」

「ナムサン! 滅相もなし!」

 クワドリガは怒声と共にスプリング・ジャンプし、正座姿勢で着地した。膝を押さえる手には怒張した血管が浮かび上がっていた。

「我が戦車の惰弱な車輪が奴のイアイを受けて破砕したがゆえにイクサは中断となり申した。それもまた我が責任! しかし我がカラテには依然、一点の曇りも無し!」

「ならば何故身勝手にもセプクし我が軍の損失を上塗りせんとしたかッ!」

「しかし殿! 負けは負け、失敗は失敗にござります! 先日のルーテナント=サンは任務失敗の責任を取りセプク致しました。ならば我もその責を負わずば示しがつきませぬゆえに!」

「エイッ!」

 タイクーンは突如その場で膝をつくと、床に手を当て、己の左手小指を即座にケジメした! アケチはサタの庭の出席者を見渡し、破鐘めいた声で言った。

「ならば、これが示しだ。これを以てサタ無しとする。惰弱都市バンクーバーとシ・ニンジャのヤモトでは、もとより比ぶべくもなし。なによりシテンノはブレイコ也。我が預けしコクダカの重み、ゆめ忘るるべからず」

「殿……殿……!」

「貴様ら完全戦士は失敗を恐れず戦うべし。それが我が帝国の未来にかなう。……よいな、者共よ。異論はないか? 我のワガママを許せ!」

「「「ハハーッ!」」」

 一同はドゲザした。あまりに決断的な主君の行動は、一貫性などという惰弱な理屈が所詮は弱者の揚げ足取りに過ぎぬことを、カラテそれ自体によって証明したのである。

「貴様のカラテを証明する事が貴様の道であろう。クワドリガ=サン。おもてを上げい」

「殿……お、おお、おおお、おお……!」クワドリガは震えだし、男泣きに泣き始めた。「も、勿体なき……勿体なきお情け……この私ごとき負け犬に、御小指を……!」

「貴様の価値はカラテにあり! 敵を殺し、滅ぼし、蹂躙せよ! シテンノたる貴様には、それだけが唯一許されし贖罪方法也!」

 ゴウランガ! おお……ゴウランガ!

 而して、その時!

「ケケーン!」

 カラテシャウトとともにサタの庭へ飛び来たった猛禽あり! 黒帯を締めたカラテキジである。タイクーンが4つの腕のひとつをかざすと、カラテキジは奥ゆかしくそこへ止り木めいて着地した。

 カラテキジの首には巾着袋が結ばれている。袋にはアケチ・シテンノの一人を示す焼印が捺されていた。タイクーンは眉根を寄せ、それを取り外した。

「ケケーン!」

 カラテキジが高く飛び去った。タイクーンは袋の中の品を取り出した。彼の目が動いた。それは紛れもなく、ニッタ・カタツキである! 一同がどよめいた。だが、タイクーンの目は険しいままであった。

「ヘヴンリイ=サン。何故、貴様自身が持ち来たらぬ。……何か、あったか」

 庭の若木の枝が、音を立てて、ひとりでに裂け落ちた。それは凶兆めいていた。


→ 後編


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